(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程を含む方法。
患者から得られた試料における前記マーカーの発現レベルが高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
抗IL-31RA中和抗体が、配列番号:9に記載のCDR1、配列番号:10に記載のCDR2、および配列番号:11に記載のCDR3を含むH鎖可変領域、ならびに配列番号:12に記載のCDR1、配列番号:13に記載のCDR2、および配列番号:14に記載のCDR3を含むL鎖可変領域を含む抗IL-31RA抗体である、請求項8に記載の方法。
抗IL-31RA中和抗体が、配列番号:15に記載のH鎖可変領域、および配列番号:16に記載のL鎖可変領域を含む抗IL-31RA抗体である、請求項9に記載の方法。
患者から得られた試料における前記マーカーの発現レベルが高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断することを記載した指示書をさらに含む、請求項13に記載のキット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法を提供することにある。また、IL-31アンタゴニストを有効成分として含み、IL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断された患者に投与されることを特徴とするそう痒を伴う疾患の治療剤、IL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断された患者にIL-31アンタゴニストを投与する工程を含む、そう痒を伴う疾患に罹患した患者を治療する方法、そう痒を伴う疾患に罹患した患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であるか否かを選別する方法、および、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測するためのキットを提供することも目的とする。さらに、ある患者がそう痒を伴う疾患に罹患しているか否かを診断する方法、および、そう痒を伴う疾患を診断するためのキットを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法について鋭意研究を行った結果、そう痒を伴う疾患に罹患した患者の中に、IL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者と非応答者が存在すること、患者から得られた試料における (1) SERPINB3および/またはSERPINB4、(2) S100A9、(3) CXCL1、(4) SFTPD、(5) TCHH、ならびに(6) CXCL6からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定することによって、その患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者か非応答者かを極めて簡便かつ効率よく予測できることを見出した。また、その過程において、患者から得られた試料におけるTCHHの発現レベルを測定することによって、その患者がそう痒を伴う疾患に罹患しているか否かを診断できることを見出した。
【0014】
本発明は、このような知見に基づくものであり、具体的には以下の発明に関する。
〔1〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程を含む方法。
〔2〕患者から得られた試料における前記マーカーの発現レベルが高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断する工程をさらに含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 前記マーカーをポリペプチドとして測定する、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕 試料が血液試料である、〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の方法。
〔5〕 そう痒がIL-31により引き起こされるそう痒である、〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕 そう痒を伴う疾患がアトピー性皮膚炎である、〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の方法。
〔7〕 IL-31アンタゴニストが、IL-31シグナルを阻害する抗体である、〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の方法。
〔8〕 IL-31シグナルを阻害する抗体が、抗IL-31中和抗体または抗IL-31RA中和抗体である、〔7〕に記載の方法。
〔9〕 抗IL-31RA中和抗体が、配列番号:9に記載のCDR1、配列番号:10に記載のCDR2、および配列番号:11に記載のCDR3を含むH鎖可変領域、ならびに配列番号:12に記載のCDR1、配列番号:13に記載のCDR2、および配列番号:14に記載のCDR3を含むL鎖可変領域を含む抗IL-31RA抗体である、〔8〕に記載の方法。
〔10〕 抗IL-31RA中和抗体が、配列番号:15に記載のH鎖可変領域、および配列番号:16に記載のL鎖可変領域を含む抗IL-31RA抗体である、〔9〕に記載の方法。
〔11〕 抗IL-31RA中和抗体が、配列番号:17に記載のH鎖、および配列番号:18に記載のL鎖を含む抗IL-31RA抗体である、〔10〕に記載の方法。
〔12〕 そう痒を伴う疾患の治療剤であって、IL-31アンタゴニストを有効成分として含み、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高い患者に投与されることを特徴とする治療剤。
〔13〕 そう痒を伴う疾患の治療剤であって、IL-31アンタゴニストを有効成分として含み、〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の方法によりIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断された患者に投与されることを特徴とする治療剤。
〔14〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者を治療する方法であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高い患者にIL-31アンタゴニストを投与する工程を含む方法。
〔15〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者を治療する方法であって、〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の方法によりIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断された患者にIL-31アンタゴニストを投与する工程を含む方法。
〔16〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者を選別する方法であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断する工程を含む方法。
〔17〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測するためのキットであって、
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定するための試薬を含むことを特徴とするキット。
〔18〕患者から得られた試料における前記マーカーの発現レベルが高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断することを記載した指示書をさらに含む、〔17〕に記載のキット。
〔19〕 そう痒を伴う疾患を診断する方法であって、ある患者から得られた試料におけるTCHHの発現レベルが高い患者を、そう痒を伴う疾患に罹患していると判断する工程を含む方法。
〔20〕 そう痒を伴う疾患を診断するためのキットであって、TCHHの発現レベルを測定するための試薬を含むことを特徴とするキット。
〔21〕 患者から得られた試料におけるTCHHの発現レベルが高い患者を、そう痒を伴う疾患に罹患していると判断することを記載した指示書をさらに含む、〔20〕に記載のキット。
【0015】
本発明は、さらに、以下の発明に関する。
〔A−1〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答の予測において使用するための
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーを検出する試薬。
〔A−2〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答の予測剤の製造における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーを検出する試薬の使用。
〔A−3〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答の予測における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーを検出する試薬の使用。
〔A−4〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答の予測用マーカーを検出する方法であって、当該患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程を含む方法。
〔A−5〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を評価する方法であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程を含む方法。
〔A−6〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を評価するための中間結果を得る方法であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程を含む方法。
【0016】
本発明は、さらに、以下の発明に関する。
〔B−1〕 そう痒を伴う疾患の治療において使用するためのIL-31アンタゴニストであって、当該治療を受ける患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高いことを特徴とする、IL-31アンタゴニスト。
〔B−2〕 そう痒を伴う疾患の治療剤の製造におけるIL-31アンタゴニストの使用であって、当該治療剤を投与される患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高いことを特徴とする、IL-31アンタゴニストの使用。
〔B−3〕 そう痒を伴う疾患の治療におけるIL-31アンタゴニストの使用であって、当該治療を受ける患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高いことを特徴とする、IL-31アンタゴニストの使用。
〔B−4〕IL-31アンタゴニストを有効成分として含む、そう痒を伴う疾患の治療剤の製造方法であって、当該治療剤を投与される患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高いことを特徴とする、方法。
【0017】
本発明は、さらに、以下の発明に関する。
〔C−1〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者の選別において使用するための
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーを検出する試薬であって、当該マーカーの発現レベルが高い患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断される、試薬。
〔C−2〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者の選別剤の製造における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーを検出する試薬の使用であって、当該マーカーの発現レベルが高い患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断される、使用。
〔C−3〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者の選別における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーを検出する試薬の使用であって、当該マーカーの発現レベルが高い患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断される、使用。
〔C−4〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者の選別用マーカーを検出する方法であって、当該患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程、および当該マーカーの発現レベルが高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断する工程を含む方法。
〔C−5〕 そう痒を伴う疾患に罹患した患者の選別のための中間結果を得る方法であって、当該患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程、および測定した発現レベルの結果を他の情報と組み合わせることによって、当該マーカーの発現レベルが高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断する工程を含む方法。
【0018】
本発明は、さらに、以下の発明に関する。
〔D−1〕 TCHHの発現レベルを測定する工程を含む、そう痒を伴う疾患を診断する方法。
〔D−2〕 TCHHの発現レベルを測定する工程を含む、そう痒を伴う疾患をインビトロで診断する方法。
〔D−3〕 TCHHの発現レベルを測定する工程を含む、そう痒を伴う疾患のマーカーを検出する方法。
〔D−4〕そう痒を伴う疾患の診断において使用するための、TCHH検出試薬。
〔D−5〕そう痒を伴う疾患の診断剤の製造における、TCHH検出試薬の使用。
〔D−6〕そう痒を伴う疾患の診断における、TCHH検出試薬の使用。
〔D−7〕 TCHHの発現レベルを測定する工程を含む、そう痒を伴う疾患の診断のための中間結果を得る方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程を含む方法に関する。
【0021】
本発明においては、患者から得られた試料におけるマーカーの発現レベルが高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断し、発現レベルが低い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する非応答者であると判断するので、本発明の方法にそのような工程を含めてもよい。本発明において、マーカーの発現レベルが高いとは、マーカーの測定値がそのマーカーに対して設定された所定の値より高いことを意味し、マーカーの発現レベルが低いとは、そのマーカーに対して設定された所定の値以下であることを意味する。したがって、本発明の方法において、患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルが当該マーカーに対して設定された所定の値より高いことにより、当該患者はIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であることが示される。一態様において、本発明の方法は、患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルを、当該マーカーに対して設定された所定の値と比較する工程、および、当該測定された発現レベルが当該所定の値より高い場合に当該患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断する工程を含んでもよい。
【0022】
本発明におけるマーカーとは、バイオマーカーと言い換えることもでき、正常な生物学的過程、発病過程、又は治療に対する薬理学的な応答性の指標として客観的に測定され評価され得る特定の生体内化学物質を指す。マーカーは、疾患の有無、進行状態、もしくは罹患のしやすさの評価、あるいは薬剤の効果、至適用量、もしくは安全性の評価もしくは予測、あるいは予後の予測などに有用である。本発明におけるマーカーは遺伝子名で特定されており、マーカーとなる遺伝子をポリペプチドまたはポリヌクレオチドとして測定することが好ましく、ポリペプチドとして測定することが特に好ましい。
【0023】
マーカーの発現レベルの測定は、マーカーの形態あるいはマーカーの発現レベルを測定しようとする試料の種類に応じて適切な方法を選択して実施することができる。マーカーの形態がポリペプチドの場合は、当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を用いた免疫学的手法により測定を行うことが好ましく、そのような手法として例えば、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法(LIA)、電気化学発光(ECL)法、ウエスタンブロッティング法、表面プラズモン共鳴法、抗体アレイを用いた方法、免疫組織染色法、蛍光活性化細胞選別(FACS)法、イムノクロマトグラフィー法、免疫沈降法、免疫比濁法、ラテックス凝集法などを挙げることができる。マーカーの形態がポリヌクレオチドの場合は、当該ポリヌクレオチドに特異的に結合するオリゴヌクレオチドを用いた遺伝子工学的手法により測定を行うことが好ましく、そのような手法として例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、逆転写PCR(RT-PCR)法、リアルタイム定量PCR(Q-PCR)法、ノーザンブロッティング法、ハイブリダイゼーション法(DNAマイクロアレイなどのオリゴヌクレオチドアレイを用いた方法も含む)などを挙げることができる。
【0024】
本発明における試料は、生体試料と言い換えることもでき、生体内に含まれる器官、組織、細胞、体液、あるいはそれらの混合物を指す。具体的な例としては、皮膚、気道、腸管、尿生殖路、神経、腫瘍、骨髄、血球、血液(全血、血漿、血清)、リンパ液、脳脊髄液、腹腔内液、滑液、肺内液、唾液、喀痰、尿などを挙げることができる。また、これらを洗浄して得られるもの、あるいは生体外で培養して得られるものも本発明における試料に含まれる。本発明における好ましい試料は血液であり、特に好ましい試料は血漿または血清である。
【0025】
本発明において、患者などから得られた試料は、マーカーの発現レベルの測定に供される前に、濃縮、精製、抽出、単離、あるいは物理的/化学的処理などの方法により加工されてもよい。例えば、血液試料から血球あるいは血漿成分を分離してもよいし、また、組織/細胞試料からDNAやRNAを抽出してもよい。あるいは加熱や化学試薬により不要成分を変性/除去してもよい。このような加工は、主にマーカーの発現レベルを測定する感度や特異性を向上させる目的で行われる。
【0026】
本発明における所定の値とは、何らかの科学的根拠に基づいて予め決定された値を意味するが、その値を基準にして、そう痒を伴う疾患に罹患した患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であるか非応答者であるかを判断することができれば、どのような値であっても構わない。本発明における所定の値は、後述するようにマーカーごとに設定されていてもよい。
【0027】
本発明における所定の値は、例えば健康成人から得られた試料(対照試料)におけるマーカーの測定値から設定することができる。本発明のマーカーの測定値は、健康成人と比較して、そう痒を伴う疾患に罹患した患者で増大していることが本研究の結果すでに判明しているため、一つの取り得る手段として、複数の健康成人から得られた試料におけるマーカーの測定値の平均値をそのまま所定の値としてもよいし、また、別の取り得る手段として、測定値の平均値に標準偏差の1.0倍、1.5倍、2.0倍、2.5倍、または3.0倍の値を加えた値を所定の値としてもよい。したがって、本発明の一態様において、健康成人から得られた試料(対照試料)において測定されたマーカーの発現レベルと比較して、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルが高いことにより、当該患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であることが示される。
【0028】
また、本発明における所定の値は、臨床試験などそう痒を伴う疾患に罹患した複数の患者に対してIL-31アンタゴニストによる治療を行った際の結果に基づいて設定することもできる。ある基準値に対して、マーカーの測定値がそれより高い患者群とそれ以下の患者群とで、IL-31アンタゴニストによる治療の効果に差が見られる場合、その基準値を本発明における所定の値とすることができる。その際、両群の治療効果には統計学的な有意差が見られることが望ましい。例えば、本発明の一態様において、IL-31アンタゴニストによる治療効果が低い、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルと比較して、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルが高いことにより、当該患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であることが示される。
【0029】
本発明におけるマーカーの測定値や所定の値は、マーカーの発現レベルの測定結果を何らかの方法で数値化したものを意味するが、数値としては測定の結果得られる値(例えば発色強度など)をそのまま用いてもよいし、また、含まれるマーカーの量が既知の陽性対照試料を別途用意して、それとの比較で測定結果を換算した値(例えば濃度など)を用いてもよい。あるいは、上記のようにして得られた値を一定の範囲で区切るなどしてスコア化した値(例えばグレード1、2、3など)を用いてもよい。
【0030】
本発明において試料を得る患者は、そう痒を伴う疾患に罹患した患者であればどのような患者であってもよい。そう痒を伴う疾患の治療をまだ受けていない患者であってもよいし、治療をすでに受けている患者であってもよい。IL-31アンタゴニストによる治療をすでに受けている患者の場合、本発明は、IL-31アンタゴニストによる治療に対する当該患者の応答性をモニタリングする方法、または当該患者に対してIL-31アンタゴニストによる治療を継続するべきか否かを判断する方法を提供する。
【0031】
IL-31(Interleukin-31)は、新たに発見されたT細胞サイトカインであり、IL-31を過剰発現させたトランスジェニック・マウスでは、アトピー性皮膚炎に類似する皮膚炎様症状が発症し持続的な引っ掻き行動が見られるなど、そう痒に関与することが知られている。
【0032】
ヒトIL-31の核酸配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:1(RefSeq登録番号NM_001014336)および配列番号:2(RefSeq登録番号NP_001014358)に記載されている。
【0033】
IL-31の受容体は、IL-31受容体A(IL-31RA)とオンコスタチンM受容体(OSMR)のヘテロダイマーから形成される(Nat Immunol (2004) 5, 752-60)。IL-31RAはNR10とも呼ばれ、複数のスプライシングバリアントがあることが知られている(WO00/075314参照)。スプライシングバリアントには、NR10.1(652アミノ酸)、NR10.2(252アミノ酸)、NR10.3(662アミノ酸、IL-31RAv4とも呼ばれる)、IL-31RAv3(764アミノ酸)などが知られているが、好ましいIL-31RAとしてはNR10.3(IL-31RAv4)およびIL-31RAv3を挙げることができる。ヒトIL-31RA(IL-31RAv4)の核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:3(RefSeq登録番号NM_001242638)および配列番号:4(RefSeq登録番号NP_001229567)に、ヒトIL-31RA (IL-31RAv3)の核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:5(RefSeq登録番号NM_139017)および配列番号:6(RefSeq登録番号NP_620586)に示す。また、ヒトOSMRの核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:7(RefSeq登録番号NM_003999)および配列番号:8(RefSeq登録番号NP_003990)に示す。
【0034】
本発明におけるIL-31アンタゴニストとは、IL-31によって引き起こされる細胞内シグナル伝達を抑制あるいは遮断する化合物を意味し、これはIL-31シグナルを阻害する化合物と言い換えることもできる。そのような化合物は天然に存在する化合物であってもよいし、人工的に合成された化合物であってもよい。また、低分子化合物であってもよいし、タンパク質のような高分子化合物であってもよい。
【0035】
細胞外に存在するIL-31は、細胞表面に存在するIL-31受容体(IL-31RAとOSMRのヘテロダイマー)を介して細胞内シグナル伝達を引き起こすことが知られている(Nat Immunol (2004) 5, 752-760)。IL-31受容体の細胞外ドメインにIL-31結合ドメインが含まれており、そこにIL-31が結合すると、IL-31受容体の立体構造に変化が起こり、その結果としてIL-31受容体の細胞内ドメインから細胞内シグナル伝達が開始される。よって、ある化合物がIL-31シグナルを阻害するかどうかは、ある一つの方法として、その化合物がIL-31とIL-31受容体との結合を阻害するかどうかを調べることにより確認することができる。そのような測定を行うための方法として、ELISAやフローサイトメトリーを利用したアッセイ、表面プラズモン共鳴を利用したアッセイなどを挙げることができる。例えばELISAの場合、プレート上にIL-31受容体(またはIL-31RA)タンパク質を固相化して、そこに結合するIL-31タンパク質の量を、酵素標識された抗IL-31抗体などの二次抗体で検出するような系を用意して、そこに化合物を添加した場合に、検出されるIL-31タンパク質の量が減少するかどうかを測定することによって、当該化合物がIL-31とIL-31受容体との結合を阻害したかどうかを評価することができる。
【0036】
また、別の方法として、ある化合物がIL-31シグナルを阻害するかどうかは、IL-31が細胞に作用することによって引き起こされる生理活性がその化合物により阻害されるかどうかを調べることによっても確認することができる。ここでの生理活性は、何らかの方法により定量的あるいは定性的に測定できる活性であれば特に限定されないが、細胞増殖活性やタンパク質リン酸化活性、遺伝子/タンパク質発現誘導活性などを挙げることができる。例えば、表面にIL-31受容体を発現し、外部からのIL-31刺激に応じて増殖活性が誘導されるような細胞を用意して、そこに化合物を添加した場合に、IL-31により誘導される細胞増殖活性が低下するかどうかを測定することによって、当該化合物がIL-31シグナルを阻害したかどうかを評価することができる。そのような細胞としては、生来的にIL-31受容体を発現している天然の細胞を用いてもよいし、人工的にIL-31受容体を発現させた遺伝子組換え細胞を用いてもよい。遺伝子組換え細胞の好適な例として、IL-31受容体を発現させたBa/F3細胞を挙げることができる。また、他の方法として、Dillonらの文献(Nat Immunol (2004) 5, 752-760)に記載の方法を用いることもできる。
【0037】
本発明において、IL-31アンタゴニストがIL-31シグナルを阻害する程度は特に限定されないが、少なくとも10%以上、好ましくは20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に好ましくは90%以上、95%以上、98%以上阻害する。
【0038】
本発明において、IL-31シグナルを阻害する化合物の好ましい態様としては、IL-31シグナルを阻害するタンパク質を挙げることができる。ここでのタンパク質は、IL-31またはIL-31受容体に特異的に結合する性質を有するタンパク質であれば特に限定されないが、好ましい例としては抗体や抗体様分子(Curr Opin Biotechnol (2006) 17, 653-658、Curr Opin Struct Biol (1997) 7, 463-469、Protein Sci (2006) 15, 14-27)を挙げることができる。抗体には、モノクローナル抗体(例えばIgG、IgM、IgE、IgA、IgDなど)、ポリクローナル抗体、改変抗体(例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、糖鎖改変抗体(WO99/54342、WO00/61739)など)、抗体断片(例えばFab、F(ab')2、Fv、CDRなど)、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体など)、コンジュゲート抗体(例えばポリエチレングリコール(PEG)、放射性同位体、薬物などが付加された抗体)などいかなる抗体も含まれる。一方、抗体様分子の例としては、DARPin(WO2002/020565)、Affibody(WO1995/001937)、Avimer(WO2004/044011)、Adnectin(WO2002/032925)などを挙げることができる。より好ましいのはIL-31シグナルを阻害する抗体である。また、IL-31シグナルを阻害するタンパク質の別の好ましい例として、IL-31RAの細胞外ドメインを含むタンパク質、あるいはIL-31受容体(IL-31RAとOSMRのヘテロダイマー)の各細胞外ドメインを含むタンパク質を挙げることができる。
【0039】
さらに本発明において、IL-31シグナルを阻害する抗体の好ましい態様としては、IL-31に結合することによってIL-31シグナルを阻害する抗体(抗IL-31中和抗体)、あるいはIL-31受容体に結合することによってIL-31シグナルを阻害する抗体(抗IL-31受容体中和抗体)を挙げることができる。抗IL-31受容体中和抗体には、IL-31RAに結合することによってIL-31シグナルを阻害する抗体(抗IL-31RA中和抗体)、OSMRに結合することによってIL-31シグナルを阻害する抗体(抗OSMR中和抗体)、あるいはIL-31RAとOSMRのヘテロダイマーに結合することによってIL-31シグナルを阻害する抗体(抗IL-31RA/OSMRヘテロダイマー中和抗体)などが含まれるが、好ましくは抗IL-31RA中和抗体あるいは抗IL-31RA/OSMRヘテロダイマー中和抗体であり、より好ましくは抗IL-31RA中和抗体である。
【0040】
抗体を作製する方法は当業者によく知られているが、例えばハイブリドーマ法(Nature (1975) 256, 495)やファージ抗体ライブラリー法(Nature (1991) 352, 624-628、J Mol Biol (1991) 222, 581-597)により作製することができる。IL-31タンパク質やIL-31受容体タンパク質を免疫原として用いれば、これらの方法により抗IL-31抗体や抗IL-31受容体抗体を多数取得することができ、さらに、これらの抗体の中から、上記のIL-31シグナルを阻害する化合物を検出する方法を用いてスクリーニングを行えば、抗IL-31中和抗体や抗IL-31受容体中和抗体を取得することができる。IL-31やIL-31受容体などのタンパク質は当業者に公知の遺伝子工学的手法により調製することができる。具体的には、所望のタンパク質をコードする遺伝子を発現ベクターに挿入して、それを適当な宿主細胞に導入した後、その宿主細胞中あるいはその宿主細胞の培養上清中に発現した目的のタンパク質を精製することにより調製することができる。
【0041】
抗IL-31中和抗体の好ましい例としては、WO2006/122079に記載の抗IL-31抗体や、WO2008/028192に記載の抗IL-31抗体を挙げることができる。
【0042】
抗IL-31RA中和抗体の好ましい例としては、WO2007/142325に記載の抗IL-31RA(NR10)抗体、WO2009/072604に記載の抗IL-31RA(NR10)抗体、WO2010/064697に記載の抗IL-31RA(NR10)抗体などを挙げることができる。 また、別の好ましい例として、ヒトIL-31RAのドメイン1を認識する抗IL-31RA抗体を挙げることができる。ここでヒトIL-31RAのドメイン1とは、配列番号:6に記載のアミノ酸配列における53番目のアミノ酸から152番目のアミノ酸までの領域(LPAKP〜LENIA)を指す。それらの中でもより好ましくは、配列番号:9に記載のCDR1、配列番号:10に記載のCDR2、および配列番号:11に記載のCDR3を含むH鎖可変領域、ならびに配列番号:12に記載のCDR1、配列番号:13に記載のCDR2、および配列番号:14に記載のCDR3を含むL鎖可変領域を含む抗IL-31RA抗体であり、さらに好ましくは、配列番号:15に記載のH鎖可変領域、および配列番号:16に記載のL鎖可変領域を含む抗IL-31RA抗体であり、特に好ましくは、配列番号:17に記載のH鎖、および配列番号:18に記載のL鎖を含む抗IL-31RA抗体である。
【0043】
また、CDRの定義の方法としては、Kabatらの方法(Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed (1991), Bethesda, MD)、Chothiaらの方法(Science (1986) 233, 755-758)、抗原−抗体の接触(Contact)領域に基づく方法(J Mol Biol (1996) 262, 732-745)などが知られている。具体的には、各方法によるCDRは以下のように定義される。
CDR Kabat Chothia Contact
L1 L24-L34 L24-L34 L30-L36
L2 L50-L56 L50-L56 L46-L55
L3 L89-L97 L89-L97 L89-L96
H1 H31-H35B H26-H32/34 H30-H35B (Kabatナンバリング)
H1 H31-H35 H26-H32 H30-H35 (Chothiaナンバリング)
H2 H50-H65 H52-H56 H47-H58
H3 H95-H102 H95-H102 H93-H101
【0044】
従って、本発明における抗IL-31RA中和抗体の好ましい例としては、配列番号:15に記載のH鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号:16に記載のL鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2、およびCDR3を、それぞれH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにL鎖CDR1、CDR2、およびCDR3として含む抗IL-31RA抗体を挙げることができる。そのような抗体におけるCDRの定義の方法は、Kabatらの方法、Chothiaらの方法、抗原−抗体の接触(Contact)領域に基づく方法のいずれに従ってもよく、またそれらを組み合わせた方法に従ってもよい。
【0045】
上記のH鎖およびL鎖各CDRの配列、H鎖およびL鎖可変領域の配列、ならびにH鎖およびL鎖全長の配列で特定された抗IL-31RA抗体と同じエピトープに結合する抗IL-31RA抗体も抗IL-31RA中和抗体として同様に好ましい。エピトープとは、抗体が認識して結合する抗原の特定の構造単位のことであり、抗原がポリペプチドの場合は、通常6〜10個程度のアミノ酸
からなる。エピトープの同定は、抗原を断片化したペプチドを合成する方法、部位特異的突然変異を抗原に導入する方法(例えばアルギニン/グルタミン酸スキャニング、J Biol Chem (1995) 270, 21619-21625、J Biol Chem (2006) 281, 20464-20473)、抗原−抗体複合体の結晶化を行う方法など、当業者に公知の方法により行うことができる(Using Antibodies: A Laboratory Manual (1999), Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)。本発明において、「同じエピトープに結合する」とは、2種類の抗体が結合するエピトープが少なくとも一部重複することを意味する。重複する程度は特に限定されないが、少なくとも10%以上、好ましくは20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは100%重複する。
【0046】
また、IL-31RAへの結合が上記のH鎖およびL鎖各CDRの配列、H鎖およびL鎖可変領域の配列、ならびにH鎖およびL鎖全長の配列で特定された抗IL-31RA抗体と競合する抗IL-31RA抗体も抗IL-31RA中和抗体として同様に好ましい。2種類の抗体が互いに競合するかどうかは、ELISAなどを利用した競合結合アッセイにより評価することができる。具体的には、2種類ある抗体のうち、一方の抗体を蛍光などで予め標識して、その抗体(標識抗体)の抗原への結合を検出する系を用意し、そこにもう一方の標識されていない抗体(被検抗体)を共存させた場合と共存させなかった場合とを比較して、被検抗体が共存した場合に標識抗体の抗原への結合量が低下していれば、被検抗体と標識抗体は互いに競合すると判断することができる。本発明において、競合する程度は特に限定されないが、少なくとも10%以上、好ましくは20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に好ましくは90%以上、95%以上、98%以上競合する(すなわち、他方の抗体の結合量を低下させる)。
【0047】
本発明におけるそう痒は、どのような原因によって引き起こされるそう痒であってもよいが、好ましくはIL-31によって引き起こされるそう痒である。
【0048】
本発明におけるそう痒を伴う疾患は、その疾患に罹患した結果としてそう痒が引き起こされる疾患であればどのような疾患であってもよいが、具体的な例としては、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、神経性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、自家感作性皮膚炎、毛虫皮膚炎、シラミ寄生症、虫さされ、皮脂欠乏症、老人性皮膚そう痒症、結節性痒疹、帯状疱疹、蕁麻疹、膿痂疹、湿疹、汗疹、疱疹状皮膚炎、類天疱瘡、酒さ性ざ瘡、尋常性ざ瘡、白癬、乾癬、苔癬、疥癬、白斑、乾皮症、円形脱毛症、光線過敏症、胆道閉塞、原発性胆汁性肝硬変、ウィルス性肝炎、尿毒症、慢性腎不全、血液透析、痛風、皮膚T細胞リンパ腫、白血病、真性一次性赤血球増加症、甲状腺機能亢進症、糖尿病、内臓癌、妊娠、薬物アレルギーなどを挙げることができる。
【0049】
また、本発明は、そう痒を伴う疾患の治療剤であって、IL-31アンタゴニストを有効成分として含み、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高い患者に投与されることを特徴とする治療剤に関する。
【0050】
上述のように、本発明によって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法が提供されたので、本発明は、そう痒を伴う疾患の治療剤であって、IL-31アンタゴニストを有効成分として含み、当該方法によりIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断された患者に投与されることを特徴とする治療剤も提供する。
【0051】
また、本発明は、そう痒を伴う疾患に罹患した患者を治療する方法であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高い患者にIL-31アンタゴニストを投与する工程を含む方法に関する。
【0052】
上述のように、本発明によって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法が提供されたので、本発明は、そう痒を伴う疾患に罹患した患者を治療する方法であって、当該方法によりIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断された患者にIL-31アンタゴニストを投与する工程を含む方法も提供する。
【0053】
より具体的には、本発明におけるそう痒を伴う疾患に罹患した患者を治療する方法には、
(a) そう痒を伴う疾患に罹患した患者から試料を得る工程、
(b) 前記試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程、
(c) 患者から得られた試料におけるマーカーの測定値とそのマーカーに対して設定された所定の値とを比較する工程、ならびに
(d) マーカーの測定値が所定の値より高い患者にIL-31アンタゴニストを投与する工程、
などの工程を含むことができる。
【0054】
また、本発明は、そう痒を伴う疾患の治療において使用するためのIL-31アンタゴニストであって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高い患者に投与されることを特徴とするIL-31アンタゴニストに関する。
【0055】
上述のように、本発明によって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法が提供されたので、本発明は、そう痒を伴う疾患の治療に使用されるIL-31アンタゴニストであって、当該方法によりIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断された患者に投与されることを特徴とするIL-31アンタゴニストに関する。
【0056】
また、本発明は、そう痒を伴う疾患の治療剤の製造におけるIL-31アンタゴニストの使用であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高い患者に当該治療剤が投与されることを特徴とするIL-31アンタゴニストの使用に関する。
【0057】
上述のように、本発明によって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法が提供されたので、本発明は、そう痒を伴う疾患の治療剤の製造におけるIL-31アンタゴニストの使用であって、当該方法によりIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断された患者に当該治療剤が投与されることを特徴とするIL-31アンタゴニストの使用に関する。
【0058】
また、本発明は、そう痒を伴う疾患に罹患した患者を選別する方法であって、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルが高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断する工程を含む方法に関する。
【0059】
より具体的には、本発明におけるそう痒を伴う疾患に罹患した患者を選別する方法には、
(a) そう痒を伴う疾患に罹患した患者から試料を得る工程、
(b) 前記試料における
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定する工程、
(c) 患者から得られた試料におけるマーカーの測定値とそのマーカーに対して設定された所定の値とを比較する工程、ならびに
(d) マーカーの測定値が所定の値より高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断する工程、
などの工程を含むことができる。
【0060】
また、本発明は、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測するためのキットであって、
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
(2) S100A9
(3) CXCL1
(4) SFTPD
(5) TCHH、ならびに
(6) CXCL6
からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定するための試薬を含むことを特徴とするキットに関する。
【0061】
前記キットは、さらに当該キットの使用方法を記載した指示書を含んでいてもよい。そのような使用方法の中には、マーカーの発現レベルを測定した結果を判断するための方法が記載されていることが望ましい。具体的には、患者から得られた試料におけるマーカーの測定値とそのマーカーに対して設定された所定の値とを比較して、所定の値より高い患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であると判断し、所定の値以下の患者をIL-31アンタゴニストによる治療に対する非応答者であると判断することを記載した指示書を好ましい例として挙げることができる。
【0062】
本発明のキットに含まれる試薬は、マーカーの発現レベルを測定可能であれば特に限定されないが、マーカーの形態に応じた試薬を適宜選択することができる。マーカーの形態がポリペプチドの場合は、当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む試薬が好ましく、また、マーカーの形態がポリヌクレオチドの場合は、当該ポリヌクレオチドに特異的に結合するオリゴヌクレオチドを含む試薬が好ましい。
【0063】
また、本発明のキットは、マーカーの発現レベルを測定する際の基準となる陽性対照試料を含むことが好ましい。陽性対照試料は、そこに含まれるマーカーの量が予め特定されている試料であれば特に限定されないが、当該キットで測定されるマーカーの形態に応じて適宜調製することができる。例えば、マーカーの形態がポリペプチドの場合、当該マーカーと同じポリペプチドを単離精製して定量したものを含む試料が陽性対照試料として好ましい。
【0064】
本発明における、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測する方法とは、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する有効性を評価する方法と言い換えることができる。また、そう痒を伴う疾患に罹患した患者の中からIL-31アンタゴニストによる治療に適した患者を選別する方法と言い換えることもできる。あるいは、そう痒を伴う疾患に罹患した患者における、IL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を予測するためのマーカー、当該治療に対する有効性を評価するためのマーカー、または当該治療に適した患者を選別するためのマーカーを検出する方法と言い換えることもできる。これらの方法は、患者から得られた試料を用いて、インビトロで行うことができる。
【0065】
一態様において、本発明は、そう痒を伴う疾患に罹患した患者のIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答を評価するための中間結果を得る方法を提供することができる。別の態様において、本発明は、そう痒を伴う疾患に罹患した患者の選別のための中間結果を得る方法を提供することができる。さらに別の態様において、本発明は、そう痒を伴う疾患の診断のための中間結果を得る方法を提供することができる。そのような中間結果をさらなる情報と組み合わせることによって、対象がそう痒を伴う疾患に罹患していること、または、そう痒を伴う疾患に罹患した患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であることを、医師、看護師、又はその他の医療従事者が判定することを補助することができる。
【0066】
本発明において、そう痒を伴う疾患に罹患した患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者であるとは、IL-31アンタゴニストによる治療が当該患者におけるそう痒を軽減することを意味し、非応答者であるとは、IL-31アンタゴニストによる治療が当該患者におけるそう痒を軽減しないことを意味する。そう痒を伴う疾患がアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の場合、応答者に対しては、そう痒を軽減する効果に加えて、その基礎疾患である皮膚疾患を治療する効果が伴われていてもよい。そう痒が軽減されたかどうかは、当業者に公知の方法により評価することが可能である。例えば、視覚的アナログ尺度(Visual Analogue Scale、VAS)や白取の重症度基準を用いて患者が感じる痒みの程度をスコア化することが可能であるし、また、腕の動きの加速度により引っ掻き行動を計測するデバイス、微速度赤外線写真撮影やビデオ撮影によって患者の夜間における掻破回数を計測することが可能である。
【0067】
本発明におけるマーカーとしては、以下のものを挙げることができる。
(1) SERPINB3および/またはSERPINB4
SERPINB3(serpin peptidase inhibitor, clade B, member 3)およびSERPINB4(serpin peptidase inhibitor, clade B, member 4)は、分子量約45000のタンパク質で、Serpinファミリーに属するセリンプロテアーゼインヒビターである。SERPINB3およびSERPINB4は、ともに扁平上皮細胞癌関連抗原(Squamous Cell Carcinoma Antigen; SCCA)の一種で、別名SCCA1およびSCCA2とも呼ばれており、子宮頸癌、食道癌、肺癌、皮膚癌などの患者において高い血中濃度を示し、癌の診断にも利用されている。一方で、SERPINB3(SCCA1)およびSERPINB4(SCCA2)は、アトピー性皮膚炎の患者の特に皮膚において、遺伝子、タンパク質ともに発現レベルが上昇していることが知られており、アトピー性皮膚炎のマーカーとなる可能性が示されている(Clin Exp Allergy (2005) 35, 1327-1333)。また、SERPINB3およびSERPINB4は、IL-31で刺激されたケラチノサイト細胞において、mRNAの発現レベルがわずかに上昇することが報告されている(J Allergy Clin Immunol (2012) 129, 426-433)。
【0068】
ヒトSERPINB3の核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:19(RefSeq登録番号NM_006919)および配列番号:20(RefSeq登録番号NP_008850)に示す。ヒトSERPINB4の核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:21(RefSeq登録番号NM_002974)および配列番号:22(RefSeq登録番号NP_002965)に示す。
【0069】
SERPINB3とSERPINB4の核酸配列およびアミノ酸配列の同一性は、それぞれ95%、91%と非常に高く、両者を区別して特異的に測定することは必ずしも容易ではないので、本技術分野においては両者を区別せず同時に測定することも多い。例えば、両者の核酸配列で共通する部分に遺伝子増幅用のプライマーや遺伝子検出用のプローブを設定して検出を行うことによって、両者を同時に測定することが可能であるし、また、両者のアミノ酸配列で共通する部分に結合する抗体を作製してELISA等の抗原−抗体反応を利用した検出を行うことによっても、両者を同時に測定することが可能である。
【0070】
本発明においては、SERPINB3またはSERPINB4を単独でマーカーとして用いてもよいし、両者を組み合わせてマーカーとして用いてもよい。両者をマーカーとする場合には、SERPINB3およびSERPINB4をそれぞれ単独で測定した後にそれらの結果を組み合わせてもよいし、あるいは上記のような方法でSERPINB3およびSERPINB4を同時に測定してもよい。本明細書における「SERPINB3/B4」の表記は、両者を区別しない方法で測定した場合のSERPINB3およびSERPINB4を表わす。
【0071】
SERPINB3および/またはSERPINB4の発現レベルの測定は、本発明に記載の測定方法を用いて行うこともできるし、市販されている測定試薬(例えば、アーキテクト・SCC(登録商標)(アボットジャパン株式会社))を用いて行うこともできる。本明細書中に記載されているSERPINB3および/またはSERPINB4の具体的な測定値や所定の値は、前記測定試薬を用いて測定された値として解釈することができる。
【0072】
SERPINB3および/またはSERPINB4に対して設定された所定の値は、SERPINB3および/またはSERPINB4の発現レベルを測定しようとする患者の試料の種類によっても変動し得るが、例えば、0.1から100 ng/mLの範囲から設定することができる。あるいは、0.2から90 ng/mL、0.3から80 ng/mL、0.4から70 ng/mL、0.5から60 ng/mL、1.0から50 ng/mL、1.5から40 ng/mL、2.0から30 ng/mL、2.5から20 ng/mL、3.0から10 ng/mLなどの範囲から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0073】
また、SERPINB3および/またはSERPINB4に対して設定された所定の値は、0.1 ng/mL、0.2 ng/mL、0.3 ng/mL、0.4 ng/mL、0.5 ng/mL、0.6 ng/mL、0.7 ng/mL、0.8 ng/mL、0.9 ng/mL、1.0 ng/mL、1.5 ng/mL、2.0 ng/mL、2.5 ng/mL、3.0 ng/mL、3.5 ng/mL、4.0 ng/mL、4.5 ng/mL、5.0 ng/mL、5.5 ng/mL、6.0 ng/mL、6.5 ng/mL、7.0 ng/mL、7.5 ng/mL、8.0 ng/mL、8.5 ng/mL、9.0 ng/mL、9.5 ng/mL、10 ng/mL、15 ng/mL、20 ng/mL、25 ng/mL、30 ng/mL、35 ng/mL、40 ng/mL、45 ng/mL、50 ng/mL、60 ng/mL、70 ng/mL、80 ng/mL、90 ng/mL、100 ng/mLなどの値から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0074】
(2) S100A9
S100A9(S100 calcium binding protein A9)は、分子量約14000のタンパク質で、EF-ハンドカルシウム結合S100タンパク質ファミリーに属する。S100A9は、別名カルグラニュリンBやMRP14(migration inhibitory factor-related protein 14)とも呼ばれており、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、および結合組織疾患などの炎症性疾患の患者において高い血清レベルを示すことが知られている。一方で、S100A9は、アトピー性皮膚炎患者の皮膚において遺伝子の発現レベルが上昇していることが知られている(Exp Dermatol (2012) 21, 184-188)。また、S100A9は、IL-31で刺激されたケラチノサイト細胞においてmRNAの発現が誘導されることが報告されている(WO2006/063865)。
【0075】
ヒトS100A9の核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:23(RefSeq登録番号NM_002965)および配列番号:24(RefSeq登録番号NP_002956)に示す。
【0076】
S100A9の発現レベルの測定は、本発明に記載の測定方法を用いて行うこともできるし、市販されている測定試薬(例えば、CircuLex S100A9/MRP14 ELISA Kit(Circulex))を用いて行うこともできる。本明細書中に記載されているS100A9の具体的な測定値や所定の値は、前記測定試薬を用いて測定された値として解釈することができる。
【0077】
S100A9に対して設定された所定の値は、S100A9の発現レベルを測定しようとする患者の試料の種類によっても変動し得るが、例えば、0.1から100 ng/mLの範囲から設定することができる。あるいは、0.5から90 ng/mL、1.0から85 ng/mL、1.5から80 ng/mL、2.0から75 ng/mL、2.5から70 ng/mL、3.0から65 ng/mL、4.0から60 ng/mL、5.0から55 ng/mL、10から50 ng/mLなどの範囲から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0078】
また、S100A9に対して設定された所定の値は、0.1 ng/mL、0.5 ng/mL、1.0 ng/mL、1.5 ng/mL、2.0 ng/mL、2.5 ng/mL、3.0 ng/mL、3.5 ng/mL、4.0 ng/mL、4.5 ng/mL、5.0 ng/mL、5.5 ng/mL、6.0 ng/mL、6.5 ng/mL、7.0 ng/mL、7.5 ng/mL、8.0 ng/mL、8.5 ng/mL、9.0 ng/mL、9.5 ng/mL、10 ng/mL、15 ng/mL、20 ng/mL、25 ng/mL、30 ng/mL、35 ng/mL、40 ng/mL、45 ng/mL、50 ng/mL、55 ng/mL、60 ng/mL、65 ng/mL、70 ng/mL、75 ng/mL、80 ng/mL、85 ng/mL、90 ng/mL、95 ng/mL、100 ng/mLなどの値から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0079】
(3) CXCL1
CXCL1(chemokine (C-X-C motif) ligand 1)は、分子量約7800のタンパク質で、CXCファミリーに属するケモカインの一種であり、別名GRO-α(growth regulated oncogene-α)とも呼ばれている。CXCL1は、大腸癌や、卵巣癌、悪性黒色腫などの悪性腫瘍の患者の組織や血中において、遺伝子レベルやタンパク質レベルで発現が変動することが報告されている。一方で、CXCL1は、アトピー性皮膚炎患者の皮膚においてタンパク質の発現レベルが上昇していることが知られている(Methods (2012) 56, 198-203)。また、CXCL1は、好酸球とケラチノサイト細胞あるいは線維芽細胞を共培養した状態でIL-31刺激を加えることによって発現が誘導されることが報告されている(Int Immunol (2010) 22, 453-467、PLoS One (2012) 7, e29815)。
【0080】
ヒトCXCL1の核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:25(RefSeq登録番号NM_001511)および配列番号:26(RefSeq登録番号NP_001502)に示す。
【0081】
CXCL1の発現レベルの測定は、本発明に記載の測定方法を用いて行うこともできるし、市販されている測定試薬(例えば、Human CXCL1/GRO alpha Quantikine ELISA Kit(R&D Systems))を用いて行うこともできる。本明細書中に記載されているCXCL1の具体的な測定値や所定の値は、前記測定試薬を用いて測定された値として解釈することができる。
【0082】
CXCL1に対して設定された所定の値は、CXCL1の発現レベルを測定しようとする患者の試料の種類によっても変動し得るが、例えば、40から800 pg/mLの範囲から設定することができる。あるいは、50から780 pg/mL、60から760 pg/mL、70から740 pg/mL、80から720 pg/mL、90から700 pg/mL、100から680 pg/mL、110から660 pg/mL、120から640 pg/mL、130から620 pg/mLなどの範囲から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0083】
また、CXCL1に対して設定された所定の値は、40 pg/mL、50 pg/mL、60 pg/mL、70 pg/mL、 80 pg/mL、90 pg/mL、100 pg/mL、110 pg/mL、120 pg/mL、130 pg/mL、140 pg/mL、150 pg/mL、160 pg/mL、170 pg/mL、180 pg/mL、190 pg/mL、200 pg/mL、210 pg/mL、220 pg/mL、230 pg/mL、240 pg/mL、250 pg/mL、260 pg/mL、270 pg/mL、280 pg/mL、290 pg/mL、300 pg/mL、310 pg/mL、320 pg/mL、 330 pg/mL、 340 pg/mL、350 pg/mL、360 pg/mL、370 pg/mL、380 pg/mL、390 pg/mL、400 pg/mL、410 pg/mL、420 pg/mL、430 pg/mL、440 pg/mL、450 pg/mL、460 pg/mL、 470 pg/mL、480 pg/mL、490 pg/mL、500 pg/mL、510 pg/mL、520 pg/mL、530 pg/mL、540 pg/mL、550 pg/mL、560 pg/mL、570 pg/mL、580 pg/mL、590 pg/mL、600 pg/mL、610 pg/mL、620 pg/mL、630 pg/mL、640 pg/mL、650 pg/mL、660 pg/mL、670 pg/mL、680 pg/mL、690 pg/mL、700 pg/mL、710 pg/mL、720 pg/mL、730 pg/mL、740 pg/mL、750 pg/mL、760 pg/mL、770 pg/mL、780 pg/mL、790 pg/mL、800 pg/mLなどの値から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0084】
(4) SFTPD
SFTPD(surfactant protein D)は、分子量約43000のタンパク質で、コレクチンと呼ばれるタンパク質の一種である。SFTPDは、肺サーファクタントの構成成分であり、肺胞に分泌されて円滑な呼吸の維持に寄与すると同時に、自然免疫の因子として生体防御にも関与することが知られている。アトピー性皮膚炎患者と健康成人の皮膚を比較した場合、SFTPDは、アトピー性皮膚炎患者の表皮有棘層においてタンパク質の発現レベルが上昇しているが、SFTPDの血清中濃度を比較した場合、アトピー性皮膚炎患者と健康成人で差は見られないことが報告されている(Exp Dermatol (2006) 15, 168-174)。
【0085】
ヒトSFTPDの核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:27(RefSeq登録番号NM_003019)および配列番号:28(RefSeq登録番号NP_003010)に示す。
【0086】
SFTPDの発現レベルの測定は、本発明に記載の測定方法を用いて行うこともできるし、市販されている測定試薬(例えば、SP-Dキット「ヤマサ」EIAII(ヤマサ醤油株式会社))を用いて行うこともできる。本明細書中に記載されているSFTPDの具体的な測定値や所定の値は、前記測定試薬を用いて測定された値として解釈することができる。
【0087】
SFTPDに対して設定された所定の値は、SFTPDの発現レベルを測定しようとする患者の試料の種類によっても変動し得るが、例えば、1.0から400 ng/mLの範囲から設定することができる。あるいは、5.0から350 ng/mL、10から300 ng/mL、20から250 ng/mL、25から200 ng/mL、30から190 ng/mL、35から180 ng/mL、40から170 ng/mL、45から160 ng/mL、50から150 ng/mLなどの範囲から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0088】
また、SFTPDに対して設定された所定の値は、1.0 ng/mL、2.0 ng/mL、5.0 ng/mL、10 ng/mL、15 ng/mL、20 ng/mL、25 ng/mL、30 ng/mL、35 ng/mL、40 ng/mL、45 ng/mL、50 ng/mL、55 ng/mL、60 ng/mL、65 ng/mL、70 ng/mL、75 ng/mL、80 ng/mL、85 ng/mL、90 ng/mL、95 ng/mL、100 ng/mL、110 ng/mL、120 ng/mL、130 ng/mL、140 ng/mL、150 ng/mL、160 ng/mL、170 ng/mL、180 ng/mL、190 ng/mL、200 ng/mL、210 ng/mL、220 ng/mL、230 ng/mL、240 ng/mL、250 ng/mL、300 ng/mL、350 ng/mL、400 ng/mLなどの値から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0089】
(5) TCHH
TCHH(trichohyalin)は、分子量約220000のタンパク質である。毛髪を生じる器官である毛包の内毛根鞘と呼ばれる部位に特異的に発現して、そこでケラチンフィラメントに結合してフィラメント同士を連結することにより、細胞の角化に関与すると考えられている。アトピー性皮膚炎等のそう痒を伴う疾患との関連は、これまでのところ特に報告されていない。
【0090】
ヒトTCHHの核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:29(RefSeq登録番号NM_007113)および配列番号:30(RefSeq登録番号NP_009044)に示す。
【0091】
TCHHの発現レベルの測定は、本発明に記載の測定方法を用いて行うこともできるし、市販されている測定試薬(例えば、ELISA Kit for Trichohyalin (TCHH)(USCN))を用いて行うこともできる。本明細書中に記載されているTCHHの具体的な測定値や所定の値は、前記測定試薬を用いて測定された値として解釈することができる。
【0092】
TCHHに対して設定された所定の値は、TCHHの発現レベルを測定しようとする患者の試料の種類によっても変動し得るが、例えば、10から400 ng/mLの範囲から設定することができる。あるいは、20から380 ng/mL、30から350 ng/mL、40から320 ng/mL、50から300 ng/mL、60から280 ng/mL、70から260 ng/mL、80から240 ng/mL、90から220 ng/mL、100から200 ng/mLなどの範囲から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0093】
また、TCHHに対して設定された所定の値は、10 ng/mL、15 ng/mL、20 ng/mL、25 ng/mL、30 ng/mL、35 ng/mL、40 ng/mL、45 ng/mL、50 ng/mL、55 ng/mL、60 ng/mL、65 ng/mL、70 ng/mL、75 ng/mL、80 ng/mL、85 ng/mL、90 ng/mL、95 ng/mL、100 ng/mL、105 ng/mL、110 ng/mL、115 ng/mL、120 ng/mL、125 ng/mL、130 ng/mL、135 ng/mL、140 ng/mL、145 ng/mL、150 ng/mL、155 ng/mL、160 ng/mL、165 ng/mL、170 ng/mL、175 ng/mL、180 ng/mL、185 ng/mL、190 ng/mL、195 ng/mL、200 ng/mL、205 ng/mL、210 ng/mL、215 ng/mL、220 ng/mL、225 ng/mL、230 ng/mL、235 ng/mL、240 ng/mL、245 ng/mL、250 ng/mL、255 ng/mL、260 ng/mL、265 ng/mL、270 ng/mL、275 ng/mL、280 ng/mL、285 ng/mL、290 ng/mL、 295 ng/mL、300 ng/mL、305 ng/mL、310 ng/mL、315 ng/mL、320 ng/mL、325 ng/mL、330 ng/mL、335 ng/mL、340 ng/mL、345 ng/mL、350 ng/mL、355 ng/mL、360 ng/mL、365 ng/mL、370 ng/mL、 375 ng/mL、380 ng/mL、385 ng/mL、390 ng/mL、 395 ng/mL、400 ng/mLなどの値から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0094】
(6) CXCL6
CXCL6(chemokine (C-X-C motif) ligand 6)は、分子量約12000のタンパク質で、CXCファミリーに属するケモカインの一種であり、別名GCP2(granulocyte chemotactic protein 2)やSCYB6(small-inducible cytokine B6)とも呼ばれている。CXCL6は、IL-4で刺激されたケラチノサイト細胞において遺伝子発現の上昇が報告されており、アトピー性皮膚炎の発症との関係が示唆されている(Cytokine (2013) 61, 419-425)。
【0095】
ヒトCXCL6の核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:31(RefSeq登録番号NM_002993)および配列番号:32(RefSeq登録番号NP_002984)に示す。
【0096】
CXCL6の発現レベルの測定は、本発明に記載の測定方法を用いて行うこともできるし、市販されている測定試薬(例えば、Human CXCL6/GCP-2 Quantikine ELISA Kit(R&D Systems))を用いて行うこともできる。本明細書中に記載されているCXCL6の具体的な測定値や所定の値は、前記測定試薬を用いて測定された値として解釈することができる。
【0097】
CXCL6に対して設定された所定の値は、CXCL6の発現レベルを測定しようとする患者の試料の種類によっても変動し得るが、例えば、10から400 pg/mLの範囲から設定することができる。あるいは、20から390 pg/mL、30から380 pg/mL、40から370 pg/mL、50から360 pg/mL、60から350 pg/mL、70から340 pg/mL、80から330 pg/mL、90から320 pg/mL、100から310 pg/mLなどの範囲から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0098】
また、CXCL6に対して設定された所定の値は、10 pg/mL、20 pg/mL、30 pg/mL、40 pg/mL、50 pg/mL、60 pg/mL、70 pg/mL、 80 pg/mL、90 pg/mL、100 pg/mL、105 pg/mL、110 pg/mL、115 pg/mL、120 pg/mL、125 pg/mL、130 pg/mL、135 pg/mL、140 pg/mL、145 pg/mL、150 pg/mL、155 pg/mL、160 pg/mL、165 pg/mL、170 pg/mL、175 pg/mL、180 pg/mL、185 pg/mL、190 pg/mL、195 pg/mL、200 pg/mL、205 pg/mL、210 pg/mL、215 pg/mL、220 pg/mL、225 pg/mL、230 pg/mL、235 pg/mL、240 pg/mL、245 pg/mL、250 pg/mL、255 pg/mL、260 pg/mL、265 pg/mL、270 pg/mL、275 pg/mL、280 pg/mL、285 pg/mL、290 pg/mL、295 pg/mL、300 pg/mL、310 pg/mL、320 pg/mL、 330 pg/mL、 340 pg/mL、350 pg/mL、360 pg/mL、370 pg/mL、380 pg/mL、390 pg/mL、400 pg/mLなどの値から設定することもできるが、これらに限定されない。
【0099】
本発明におけるマーカーとしては、上記のもの以外にIL-31やIL-31RAを挙げることもできる。IL-31やIL-31RAの発現レベルの測定は、本発明に記載の測定方法を用いて行うこともできるし、市販されている測定試薬を用いて行うこともできる。
【0100】
また、本発明におけるマーカーは、本明細書内で挙げられたマーカーの中から一つを選択して用いてもよいし、二つ以上を選択しそれらを組み合わせて用いてもよい。
【0101】
本発明は、そう痒を伴う疾患を診断する方法であって、ある患者から得られた試料におけるTCHHの発現レベルが高い患者をそう痒を伴う疾患に罹患していると判断する工程を含む方法に関する。
【0102】
より具体的には、本発明におけるそう痒を伴う疾患を診断する方法には、
(a) ある患者から試料を得る工程、
(b) 前記試料におけるTCHHの発現レベルを測定する工程、
(c) 患者から得られた試料におけるTCHHの測定値と所定の値とを比較する工程、および
(d) TCHHの測定値が所定の値より高い患者をそう痒を伴う疾患に罹患していると判断する工程、
などの工程を含むことができる。
【0103】
また、本発明は、そう痒を伴う疾患を診断するためのキットであって、TCHHの発現レベルを測定するための試薬を含むことを特徴とするキットに関する。
【0104】
前記キットは、さらに当該キットの使用方法を記載した指示書を含んでいてもよい。そのような使用方法の中には、TCHHの発現レベルを測定した結果を判断するための方法が記載されていることが望ましい。具体的には、患者から得られた試料におけるTCHHの測定値と所定の値とを比較して、所定の値より高い患者をそう痒を伴う疾患に罹患していると判断することが記載された指示書を好ましい例として挙げることができる。
【0105】
本発明の対象となる動物は特に限定されないが、好ましくは哺乳動物、特に好ましくはヒトである。対象となる動物に合わせて、本発明のIL-31アンタゴニストやマーカーを適宜選択することができる。すなわち、そう痒を伴う疾患に罹患した患者がヒトの患者である場合は、ヒトのIL-31アンタゴニストによる治療の応答を予測するために、ヒトのマーカーを測定すればよい。
【0106】
本発明における治療剤は、有効成分であるIL-31アンタゴニストと医薬的に許容し得る担体を組み合わせて、それらを公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、IL-31アンタゴニストに、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などを適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。担体の例としては、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などを挙げることができる。これら製剤における有効成分の量は、指示された用量の範囲内で適宜設定することが可能である。
【0107】
また、本発明の治療剤の投与量や投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で、あるいは患者あたり0.001から100000 mg/bodyの範囲で選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与方法としては、経口投与または非経口投与を選択することが可能である。一般的に、有効成分が低分子化合物の場合は経口投与が好ましく、高分子化合物の場合は非経口投与が好ましい。非経口投与の例としては、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられ、さらに注射の例としては、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。これらの投与方法により、本発明の治療剤を全身または局所に投与することができる。
【0108】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0109】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、下記の実施例に限定されるものではない。
【0110】
〔実施例1〕NHEK細胞を用いたバイオマーカー候補の探索
(1−1)細胞及びサンプルの取得
ヒト正常角化細胞の初代細胞であるNHEKはLonza Walkersville Inc. (Product code: C2507A)から取得した。当該細胞を、KGM-Gold SingleQuots(Lonza)を培地として使用し、5%CO
2を含む大気下でインキュベーター中37℃にて培養した。マイクロアレイに用いるサンプルは、IFNγ刺激条件下で、IL-31刺激有りと無しの2群、N数を3とした。IFNγはIL-31の受容体であるIL-31RAを誘導するために用いた。サンプルの調製時には24ウェルプレート(Corning)に2×10
4個/ウェルの細胞を播種し、3日間培養した後に10 ng/mLのHuman IFNγ(Peprotech)を含む培地、及び含まない培地にそれぞれのウェルの培地を置換した。さらに1日培養した後に最終濃度が500 ng/mLとなるようにHuman IL-31(R&D)を添加した。その他のサンプルに対しては同量の培地を添加し、再び培養した。そして、Human IL-31による刺激開始1、3、6、24時間後に培地を除き、RLT buffer(RNeasy plus 96 kit, Qiagen)を200μL添加し、サンプルを回収した。Total RNAの抽出はRNeasy plus 96 kit(Qiagen)を用いて行った。
【0111】
(1−2)NHEK細胞のmRNAマイクロアレイ実験
抽出したTotal RNAの量はNanoDrop 1000(Thermo Scientific)で測定し、その品質は、RNA 6000 Pico Kit(Agilent Technologies)を用いAgilent 2100 Bioanalyzer (Agilent Technologies)で確認した。Total RNAからのcRNAの合成及びビオチンラベル化、フラグメンテーションは、GeneChip(登録商標) 3' IVT Express Kit (Affymetrix)を用い、メーカー推奨の方法で行った。なおフラグメンテーション前に合成されたラベル化cRNAの量はNanoDropで測定し、その品質は、RNA 6000 Pico Kit(Agilent Technologies)を用いBioanalyzerで確認した。マイクロアレイは、GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Array(Affymetrix)を使用し、アレイとフラグメント化cRNAのハイブリダイゼーション及びアレイの洗浄、染色は、GeneChip(登録商標) Hybridization, Wash, and Stain Kit(Affymetrix)を用い、メーカー推奨の方法で行った。アレイデータのスキャンニングは、GeneChip(登録商標) Scanner 3000 7G upgrade(Affymetrix)で行った。
【0112】
(1−3)NHEK細胞のmRNAマイクロアレイ解析
マイクロアレイデータの統計解析は、統計プログラミング環境R及びマイクロソフトエクセルを用いた。ハイブリダイゼーションシグナル及び検出コールは、RでBioConductorパッケージのgcrma, affyライブラリを使用して計算、出力を行った。各種刺激後、IL-31刺激有りと無しの各群3サンプルの発現量の差を同時間で比較し、いずれかの時間で1.5倍以上の差があり、かつ統計的に有意なプローブ(ウェルチのt検定でp<0.05)となる151プローブ、141遺伝子を同定した。
【0113】
(1−4)バイオマーカー候補因子の絞り込み
マイクロアレイ解析で同定された141遺伝子の中から、血清、血漿において測定可能と考えられる因子で、かつIL-31刺激により最も強く誘導される因子としてSERPINB3、SERPINB4が見出された。SERPINB3およびSERPINB4のマイクロアレイ解析の結果を
図1に示す。これらの因子はIFNγ単独の刺激では誘導が見られず、IL-31に対して選択性を有していることが示唆された。これらの結果より、SERPINB3、SERPINB4をバイオマーカー候補因子として選択した。
【0114】
〔実施例2〕HaCaT細胞を用いたバイオマーカー候補の探索
(2−1)細胞及びサンプルの取得
ヒト正常角化細胞の細胞株であるHaCaTはDeutsches Krebsforschungszentrumから取得した。当該細胞を、10%ウシ胎仔血清(MOREGATE)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO)を補充したDMEM(GIBCO)を培地として使用し、5%CO
2を含む大気下でインキュベーター中37℃にて培養した。マイクロアレイに用いるサンプルは、(1)IL-31刺激有り、IFNγ刺激有り、(2)IL-31刺激無し、IFNγ刺激有り、の2群、N数を3とした。IFNγはIL-31の受容体であるIL-31RAを誘導するために用いた。サンプルの調製時には24ウェルプレート(Corning)に5×10
4個/ウェル播種し、培養した。そして、1日後に培地を除き、100 ng/mLとなるようにHuman IFNγ(Peprotech)を加えたDMEMに置換した。さらに1日培養した後に、DMEMに希釈したHuman IL-31を最終濃度が375 ng/mLとなるように添加した。また、IL-31刺激無しの群に対しては同量のDMEMを添加し、再び培養した。Human IL-31による刺激開始1、3、6、24時間後に培地を除き、RLT buffer(RNeasy plus 96 kit, Qiagen)を200μL添加し、サンプルを回収した。Total RNAの抽出はRNeasy plus 96 kit(Qiagen)を用いて行った。
【0115】
(2−2)HaCaT細胞のmRNAマイクロアレイ実験
抽出したTotal RNAの量はNanoDrop 1000(Thermo Scientific)で測定し、その品質は、RNA 6000 Pico Kit(Agilent Technologies)を用いAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)で確認した。Total RNAからのcRNAの合成及びビオチンラベル化、フラグメンテーションは、GeneChip(登録商標) 3' IVT Express Kit (Affymetrix)を用い、メーカー推奨の方法で行った。なおフラグメンテーション前に合成されたラベル化cRNAの量はNanoDropで測定し、その品質は、RNA 6000 Pico Kit(Agilent Technologies)を用いBioanalyzerで確認した。マイクロアレイは、GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Array(Affymetrix)を使用し、アレイとフラグメント化cRNAのハイブリダイゼーション及びアレイの洗浄、染色は、GeneChip(登録商標) Hybridization, Wash, and Stain Kit(Affymetrix)を用い、メーカー推奨の方法で行った。アレイデータのスキャンニングは、GeneChip(登録商標) Scanner 3000 7G upgrade(Affymetrix)で行った。
【0116】
(2−3)HaCaT細胞のmRNAマイクロアレイ解析
マイクロアレイデータの統計解析は、Perl、統計プログラミング環境R及びマイクロソフトエクセルを用いた。ハイブリダイゼーションシグナルは、RのBioConductorパッケージのgcrmaライブラリを使用して計算・出力を行った。各種刺激後、IL-31刺激有りと無しの各群3サンプルの発現量の差を同時間で比較し、いずれかの時間で1.5倍以上の差があり、かつ統計的に有意なプローブ(ウェルチのt検定でp<0.05)となる361プローブ、252遺伝子を同定した。検出限界値は16に設定した。
【0117】
(2−4)ELISAによる血清中での候補因子の測定
マイクロアレイ解析で同定された252遺伝子の中から、IL-31刺激により発現誘導され、かつ血中で測定可能と考えられる因子としてSERPINB3、SERPINB4、CXCL1、CXCL6、TCHHが見出された。SERPINB3およびSERPINB4のマイクロアレイ解析の結果を
図2−1に、CXCL1のマイクロアレイ解析の結果を
図2−2に、CXCL6のマイクロアレイ解析の結果を
図2−3に、TCHHのマイクロアレイ解析の結果を
図2−4に示す。次にPROTEOGENEX社より購入した18例のアトピー性皮膚炎患者の血清サンプルと健康成人より取得した血清サンプルを用いて、CXCL1、CXCL6、TCHHの血清中での発現量についてELISA法により測定した。CXCL1のELISAキットはR&D Systems (Cat.No. DGR00)を、CXCL6のELISAキットはR&D Systems (Cat.No. DGC00)のELISAキットを、TCHHはUscn Life Science Inc. (Cat.No. E96480Hu)のELISAキットを用いて測定を行った。CXCL1、CXCL6、TCHHの測定結果をそれぞれ
図3−1、
図3−2、
図3−3に示す。統計解析には対応の無いスチューデントのt検定を用いて両側検定を実施した。
【0118】
(2−5)バイオマーカー候補因子の絞り込み
CXCL1、CXCL6、TCHHを測定した結果、それぞれの因子がアトピー性皮膚炎患者の血清において健康成人に比べ有意に高い発現が認められた。これらの結果から、CXCL1、CXCL6、TCHHをバイオマーカー候補因子として選択した。
【0119】
〔実施例3〕カニクイザル皮膚を用いたバイオマーカー候補の探索
(3−1)組織及びサンプルの取得
ベトナム産カニクイザルはハムリー株式会社から取得した。カニクイザルの腹部皮膚を採取し、安全キャビネット内で70% エタノールに浸けた後、リン酸緩衝生理食塩水 (Phosphate buffered saline : PBS) 中で皮下脂肪を除去した。マイクロアレイに用いるサンプルは、IL-31刺激の有無と黄色ブドウ球菌腸毒素B (staphylococcal enterotoxin B : SEB)刺激の有無の組み合わせによる4種の条件の比較検討とした。マイクロアレイに用いるサンプルは、採取した皮膚組織に注射針を用いて50μLの刺激剤を注入し、注入部位を中心にΦ4mm径の生検トレパン (貝印株式会社) で採取後に刺激剤中に浮かべ、5%CO
2を含む大気下でインキュベーター中37℃にて培養することにより得た。各種刺激を行った皮膚組織は各群5サンプルずつ作製し、培養後は速やかに液体窒素で凍結させ、RNeasy plus kit (Qiagen)を用いてTotal RNAを抽出した。
【0120】
(3−2)カニクイザル皮膚のmRNAマイクロアレイ実験
抽出したTotal RNAの量はNanoDrop 1000(Thermo Scientific)で測定し、その品質は、RNA 6000 Pico Kit(Agilent Technologies)を用いAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)で確認した。Total RNAからのcDNAの合成は、cDNA Synthesis System(Roche Diagnostics)を用い、オプションとしてT4 DNA polymerase処理、RNase I処理、Proteinase K処理を加えたメーカー推奨の方法で行った。合成したcDNAは、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche Diagnostics)でカラム精製した。cDNAの量は、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit (Life Technologies)で測定し、その品質は、RNA 6000 Pico Kit(Agilent Technologies)を用いBioanalyzerで確認した。cDNAのラベル化は、NimbleGen One-Color DNA Labeling Kit(Roche NimbleGen)を用い、メーカー推奨の方法で行った。ラベル化されたcDNAの量はNanoDropで測定した。マイクロアレイは、NimbleGen 12-plex Gene Expression Array for Cynomolgus monkey (135K)を使用した(参考文献1中のversion II microarray)。ラベル化されたcDNAとアレイのハイブリダイゼーションおよび洗浄は、NimbleGen Hybridization Kit(Roche NimbleGen)、NimbleGen Sample Tracking Control Kit(Roche NimbleGen)、NimbleGen Wash Buffer Kit(Roche NimbleGen)を用いてメーカー推奨の方法で行った。マイクロアレイのデータは、Roche NimbleGen MS200 Microarray Scanner(Roche NimbleGen)でアレイのスキャンニングを行い取得した。
【0121】
参考文献
1: Genome-based analysis of the nonhuman primate Macaca fascicularis as a model for drug safety assessment. Genome Res. 2011 Oct;21(10):1746-56
【0122】
(3−3)カニクイザル皮膚のmRNAマイクロアレイ解析
マイクロアレイデータの解析は、Perl、統計プログラミングシステムR及びマイクロソフトエクセルを用いて行われた。NimbleGenアレイのスキャンニングデータからのアレイ搭載プローブシグナルの数値化、及びRMA(Robust Multichip Average)ノーマライゼーションは、NimbleGen MS 200 Microarray Scanner付属のNimbleScanソフトウェアを用いた。データ解析では遺伝子単位のシグナル値データであるRMA.callsファイルを用いた。各種刺激後、IL-31刺激無しかつSEB刺激有りの群と、IL-31刺激有りかつSEB刺激有りの群、各群5サンプルの発現量の差を同時間で比較し、IL-31添加群が検出限界値としたRandomプローブの95 percentileより大きく、2倍以上の差があり、かつ統計的に有意な遺伝子(ウェルチのt検定でp<0.05)を併せて274個同定した。
【0123】
(3−4)ELISAによる血清中での候補因子の測定
IL-31刺激により発現誘導される274遺伝子について、分泌タンパクであること、IL-31選択的に誘導される因子であること、アトピー性皮膚炎患者由来の血清中で健康成人由来のものよりも高値を示すことを基準とし、S100A9とSFTPDのIL-31誘導性タンパクを選抜した。S100A9のマイクロアレイ解析の結果を
図4−1に、SFTPDのマイクロアレイ解析の結果を
図4−2に示す。アトピー性皮膚炎患者由来の血清はPROTEOGENEX社より購入した18例のものを、健康成人由来のものと比較測定することによって検討した。S100A9の測定はELISAキット(Circulex, Cat.No. CY-8062) を、SFTPDの測定は体外診断用医薬品 (協和メデックス株式会社, Cat.No. 54772-3) を用いて測定した。S100A9、SFTPDの測定結果をそれぞれ
図5−1、
図5−2に示す。統計解析は対応の無いスチューデントのt検定を用いて両側検定で実施した。
【0124】
(3−5)バイオマーカー候補因子の絞り込み
S100A9、SFTPDを測定した結果、それぞれの因子がアトピー性皮膚炎患者の血清において健康成人に比べ有意に高い発現が認められた。これらの結果から、S100A9、SFTPDをバイオマーカー候補因子として選択した。
【0125】
〔実施例4〕アトピー性皮膚炎患者におけるバイオマーカーの検討(SERPINB3/B4)
(4−1)試料採取
抗ヒトIL-31受容体A抗体(H鎖配列番号:17、L鎖配列番号:18)の第I相単回投与試験に参加した健康成人及びアトピー性皮膚炎患者より、バイオマーカー検討のための同意を得て血清サンプルを採取し評価した。
血清サンプルの提供者は、プラセボ、または抗ヒトIL-31受容体A抗体0.3 mg/kg、1 mg/kgもしくは3 mg/kgの単回皮下投与を受け、投与当日の投与前に血清サンプルを採取した。例数はそれぞれ、健康成人24例、アトピー性皮膚炎患者のプラセボ投与群6例、抗ヒトIL-31受容体A抗体0.3 mg/kg投与群5例、1 mg/kg投与群6例、3 mg/kg投与群7例であった。採取された血清サンプルは測定時まで-70℃で保管された。
【0126】
(4−2)血清中SERPINB3/B4の測定
測定施設において、血清を解凍後、生理食塩水を用いて10倍希釈し、その後、臨床検査として「アーキテクト・SCC(登録商標)」(アボットジャパン株式会社,製品番号8D18-26/8D18-36)を用いて血清中SERPINB3/B4濃度を測定した。
【0127】
(4−3)結果の解析
上記第I相単回投与試験では、アトピー性皮膚炎患者において治験薬投与1週間前より治験期間中毎日、起床後及び就寝時にそう痒の強さを評価した。そう痒の強さの評価は、Visual Analog Scale (VAS)により行なった。VASは100 mmの直線で、0 mmを痒みなし、100 mmを考えうる最大の痒みとした場合に、測定時のかゆみの強さを患者自身が0から100 mmの間で示すものである。その結果、抗ヒトIL-31受容体A抗体の投与後にそう痒VASの低下が顕著に認められた被験者と、顕著な低下が認められなかったあるいは低下が認められなかった被験者が存在した。そこで、本試験においては、投与2週目のそう痒VASの週平均(起床後及び就寝時それぞれのそう痒VASの週平均の平均値)の値が投与前の1週間の週平均と比較して50%以上低下している被験者を抗ヒトIL-31受容体A抗体に対する応答性の高い被験者(応答者)、50%未満の低下であった被験者を抗ヒトIL-31受容体A抗体に対する応答性の低い被験者(非応答者)と定義した。
血清中SERPINB3/B4濃度は、血清中SERPINB3/B4濃度が5 ng/mLより高い被験者(SERPINB3/B4 High群)と、5 ng/mL以下の被験者(SERPINB3/B4 Low群)に分けた。
以上のように分けたSERPINB3/B4 High群とSERPINB3/B4 Low群別に、応答者と非応答者の割合を算出し、また、SERPINB3/B4 High群とSERPINB3/B4 Low群との間でこの割合に差があるかをFisherの正確検定に基づくp値を算出し、検討した。
【0128】
(4−4)結果
本試験で測定した、全被験者の血清中SERPINB3/B4濃度を
図6に示した。また、抗ヒトIL-31受容体A抗体の投与を受けたアトピー性皮膚炎患者の、SERPINB3/B4 High群とSERPINB3/B4 Low群別の、応答者と非応答者の割合を表1に示した。
【0129】
【表1】
【0130】
SERPINB3/B4 High群では応答者の割合が80%(5例中4例)と高く、一方でSERPINB3/B4 Low群では応答者の割合は23.08%(13例中3例)と低かった。また、SERPINB3/B4 High群とSERPINB3/B4 Low群との、応答者と非応答者の割合の差についてFisherの正確検定に基づくp値を算出したところ、両側p値は0.0474であった。
【0131】
以上から、血清中SERPINB3/B4濃度が高い患者では、抗ヒトIL-31受容体A抗体への応答性が高い患者が多く、一方で血清中SERPINB3/B4濃度が低い患者では、抗ヒトIL-31受容体A抗体への応答性が高い患者は少ない傾向にあり、血清中SERPINB3/B4濃度は、抗ヒトIL-31受容体A抗体のそう痒抑制効果を予測するバイオマーカーとなり得ることが示された。
【0132】
〔実施例5〕アトピー性皮膚炎患者におけるバイオマーカーの検討(S100A9, TCHH)
(5−1)試料採取
抗ヒトIL-31受容体A抗体(H鎖配列番号:17、L鎖配列番号:18)の第I相単回投与試験に参加したアトピー性皮膚炎患者より、バイオマーカー検討のための同意を得て血清サンプルを採取し評価した。
血清サンプルの提供者は、抗ヒトIL-31受容体A抗体0.3 mg/kg、1 mg/kgもしくは3 mg/kgの単回皮下投与を受け、投与当日の投与前に血清サンプルを採取した。各投与群の例数は、抗ヒトIL-31受容体A抗体0.3 mg/kg投与群5例、1 mg/kg投与群6例、3 mg/kg投与群7例であった。採取された血清サンプルは測定時まで-70℃で保管された。
【0133】
(5−2)血清中S100A9及び血清中TCHHの測定
測定施設において、血清を解凍後、血清中S100A9濃度測定用血清はCircuLex S100A9 / MRP14 ELISA Kit(株式会社サイクレックス,製品番号CY-8062)に付属のSample Dilution Bufferで40倍希釈した後、同Kitを用いて血清中S100A9濃度を測定した。なお、検量線の希釈にはSample Dilution Bufferを用いた。
血清中TCHH濃度測定用血清はELISA Kit For Trichohyalin (TCHH)(ユーエスシーエヌライフサイエンス,製品番号E96480Hu)に付属のStandard Diluentを用いて1000倍希釈した後、同Kitを用いて血清中TCHH濃度を測定した。
【0134】
(5−3)結果の解析
上記第I相単回投与試験では、アトピー性皮膚炎患者において治験薬投与1週間前より治験期間中毎日、起床後及び就寝時にそう痒の強さを評価した。そう痒の強さの評価は、Visual Analog Scale (VAS)により行なった。VASは100 mmの直線で、0 mmを痒みなし、100 mmを考えうる最大の痒みとした場合に、測定時のかゆみの強さを患者自身が0から100 mmの間で示すものである。その結果、抗ヒトIL-31受容体A抗体の投与後にそう痒VASの低下が顕著に認められた被験者と、顕著な低下が認められなかったあるいは低下が認められなかった被験者が存在した。そこで、本試験においては、投与2週目のそう痒VASの週平均(起床後及び就寝時それぞれのそう痒VASの週平均の平均値)の値が投与前の1週間の週平均と比較して50%以上低下している被験者を抗ヒトIL-31受容体A抗体に対する応答性の高い被験者(応答者)、50%未満の低下であった被験者を抗ヒトIL-31受容体A抗体に対する応答性の低い被験者(非応答者)と定義した。
血清中S100A9濃度及び血清中TCHH濃度は、応答者と非応答者との間で濃度の平均値に差があるかを対応の無いスチューデントのt検定に基づくp値を算出し、検討した。
【0135】
(5−4)結果
本試験で測定した、アトピー性皮膚炎患者の血清中S100A9濃度を
図7に,血清中TCHH濃度を
図8に示した。
抗ヒトIL-31受容体A抗体の投与を受けたアトピー性皮膚炎患者の血清中S100A9濃度及び血清中TCHH濃度は、いずれも応答者で非応答者より高く、t検定の結果、血清中S100A9濃度の両側p値は0.0200、血清中TCHH濃度の両側p値は0.0296であった。
【0136】
以上から、血清中S100A9濃度、あるいは血清中TCHH濃度が高い患者では、抗ヒトIL-31受容体A抗体への応答性が高い患者が多く、一方で血清中S100A9濃度、血清中TCHH濃度が低い患者では、抗ヒトIL-31受容体A抗体への応答性が高い患者は少ない傾向にあり、血清中S100A9濃度、血清中TCHH濃度は、抗ヒトIL-31受容体A抗体のそう痒抑制効果を予測するバイオマーカーとなり得ることが示された。
本発明者らは、そう痒を伴う疾患に罹患した患者から得られた試料における (1) SERPINB3および/またはSERPINB4、(2) S100A9、(3) CXCL1、(4) SFTPD、(5) TCHH、ならびに(6) CXCL6からなるグループから選択される少なくとも一つのマーカーの発現レベルを測定することによって、その患者がIL-31アンタゴニストによる治療に対する応答者か非応答者かを極めて簡便にかつ効率よく予測できることを見出した。また、患者から得られた試料におけるTCHHの発現レベルを測定することによって、その患者がそう痒を伴う疾患に罹患しているか否かを診断できることを見出した。