特許第5650975号(P5650975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5650975
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】接着性改良樹脂及びシート
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20141211BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20141211BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20141211BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20141211BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   C08J7/00 302
   C08J7/04 F
   C08L23/00
   C08K5/544
   C09K3/10 Z
   C09K3/10 R
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-231002(P2010-231002)
(22)【出願日】2010年10月13日
(65)【公開番号】特開2012-82355(P2012-82355A)
(43)【公開日】2012年4月26日
【審査請求日】2013年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒井 亨
(72)【発明者】
【氏名】見山 彰
【審査官】 中尾 奈穂子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−336525(JP,A)
【文献】 特開2002−235049(JP,A)
【文献】 特開2011−077360(JP,A)
【文献】 特開2010−222541(JP,A)
【文献】 特開平08−283696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00− 7/18
B32B 1/00− 43/00
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンとαオレフィンの共重合体であるポリオレフィン系樹脂にアミノ基を有するカップリング剤を添加または塗布し、さらにエネルギー線を照射することを特徴とする、無機材料との接着性を有するポリオレフィン系樹脂またはそのシート。
【請求項2】
エネルギー線が電子線であることを特徴とする請求項1記載の樹脂またはそのシート。
【請求項3】
無機材料がガラス板であることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂またはそのシート。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂からなるシ−トにカップリング剤を塗布し、さらにエネルギー線を照射することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項記載のシート。
【請求項5】
エネルギー線が電子線であり、その加速電圧が10〜150keVの範囲であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項記載のシート。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項記載の樹脂またはそのシートを用いた封止材。
【請求項7】
請求項記載の封止材を構成要素として含む太陽光発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料、例えばガラス板、ガラス繊維や無機フィラ−との接着性、充填性に優れるポリオレフィン系樹脂及びそのシートである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂またはそのシ−トは、無機材料、例えばガラス板との接着性が乏しく、効率的な接着性向上法が求められてきた。
【0003】
従来、EVA系樹脂やポリオレフィン系樹脂にシラン系カップリング剤を添加し混練及び架橋を行ってシラン変性する方法(特許文献1〜4)が提案されている。本手法により例えばガラスとの接着性が向上するが、カップリング剤を樹脂に練り込み、ラジカル架橋する方法は、シ−ト成形加工時に架橋を抑制し、封止時に確実に架橋させるため、そのプロセスウインドウが狭く、時に成型加工上の問題や封止時の架橋不良を与える場合があった。また練り込みであるためコストアップであり、また残留する架橋材、架橋助剤等の物性に対する悪影響も考えられ、より効率的かつ安定な接着性向上方法が求められている。
特許文献5、6、7、8には、シランカップリング剤や架橋剤を配合したEVAやポリオレフィン等の樹脂に電子線を照射してなる太陽光発電装置の封止材が記載されているが、上記過酸化物架橋の欠点を代替するための電子線架橋であったり、電子線による架橋度の制御による成形加工性の調整がその主目的である。また用いられているカップリング剤はビニル基、メタクリロキシ基、エポキシ基を有するシランカップリング剤である。
特許文献9、10には、封止材の接着性向上、劣化抑制を目的とし、エチレン系樹脂に対し、不飽和カルボン酸誘導体やエポキシ化合物を共重合し、あるいはこれらで変性し、さらにシランカップリング剤をコーティングする方法が記載されている。しかし、オレフィン系樹脂にこれらカルボン酸誘導体やエポキシ化合物等の極性モノマーを共重合したり、変成することは技術的難易度が高く、他の物性を犠牲にする可能性が高い。
ポリオレフィン系樹脂に無機材料、例えばガラスとの接着性を付与する方法、特にアミノ基を含有するカップリング剤を添加または塗布した後にエネルギー線を照射する方法に関しての記述はない。
【0004】
【特許文献1】特公昭62−14111号公報
【特許文献2】特開2004−214641号公報
【特許文献3】特開2006−36875号公報
【特許文献4】特開2007−318008号公報
【特許文献5】特開平6−334207号公報
【特許文献6】特開2001−119047号公報
【特許文献7】特開平8−283696号公報
【特許文献8】特開2009−249556号公報
【特許文献9】特開2002−235047
【特許文献10】特開2002−235049
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂またはそのシ−トと無機物、例えばガラス板等との効率的で安定な接着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ポリオレフィン系樹脂に特定のカップリング剤を添加または塗布し、さらにエネルギー線を照射することで得られる無機材料との接着性に優れた樹脂またはそのシートである。
【発明の効果】
【0007】
ポリオレフィン系樹脂にアミノ基を有するカップリング剤を添加または塗布しさらにエネルギー線を照射することで、無機材料、特にガラスとの接着性に優れた樹脂またはそのシートを得ることができ、例えば太陽光発電装置の封止材や液晶、EL表示部材、EL発光装置の封止、接着用樹脂として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂にアミノ基を有するカップリング剤を添加または塗布し、さらにエネルギー線を照射することを特徴とする、無機材料との接着性に優れた樹脂またはそのシートである。本発明におけるシ−トはフィルムの概念を包含し、その厚さに特に制限はなく、一般的には1μmから3mmの範囲である。
【0009】
本発明においてポリオレフィン系樹脂とは、オレフィンモノマーを重合して得られる樹脂であって、これらオレフィンモノマーから誘導されるユニットの含量が実質的に100%を占める樹脂である。本ポリオレフィン系樹脂の製造方法は任意である。この様なポリオレフィン系樹脂製造に用いられるオレフィンモノマーは、炭素と水素から構成され、エチレン、炭素数3〜20のα−オレフィン、すなわちプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。本発明においてはオレフィンモノマーの範疇に炭素数5〜20の環状オレフィンも含まれ、該環状オレフィンの例としては、ビニルシクロヘキサンやシクロペンテン、ノルボルネン等が挙げられる。好ましくは、エチレンまたはエチレンとα−オレフィンの共重合体が用いられる。この様なポリオレフィン系樹脂としては、最も好ましい例として高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンが挙げられ、好ましい例としてアイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、ポリ1−ヘキセン、各種ポリノルボルネン、エチレン−ノルボルネン共重合体等が示される。本共重合体の密度は0.850〜0.980g/cmの範囲内が一般的であり、用途に応じて密度とそれにより規定できる軟質性、透明性を選択することが出来る。
【0011】
本発明においては特定のシランカップリング剤を用いる。一般にシランカップリング剤とは分子内に官能基と加水分解縮合性基を有するシラン化合物である。本発明において用いる特定のシランカップリング剤とは、官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤である。アミノ基は単数でも複数でもよく、また他の官能基を有してもよい。加水分解縮合性基としてはメトキシ基、エトキシ基、イソプロピキシ基等のアルコキシ基やアセトキシ基が例示できる。官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルエチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)アミン、N−(n−ブチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのカップリング剤は1種または2種以上を用いることができる。
このようなシランカップリング剤は信越化学工業株式会社やダウコーニング社、エボニック社から入手することができる。
【0012】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂にアミノ基を有するカップリング剤を添加または塗布することを特徴とする。さらにこれにエネルギー線を照射することにより接着強度を大きく向上させることを特徴とする。ポリオレフィン系樹脂にカップリング剤を添加、混練する方法は通常樹脂に添加剤を添加するための公知の方法を用いることができる。工業的には例えば二軸押し出し機やバンバリ式の混合機、ロール成形機等を用いることが出来る。好ましくは、本発明はポリオレフィン系樹脂からなるシ−トにカップリング剤を塗布しさらにエネルギー線を照射することを特徴とする。カップリング剤を添加、混練する方法と比較し、塗布による方法はカップリング剤の使用量を減じることができ、経済的により優れている。シ−トへのカップリング剤塗布の方法は任意の公知の方法を用いることが出来る。塗布方法として例えばグラビアコーティング法、ロールコーティング法あるいはディップコーティング法、噴霧法等公知の方法が例示できる。この際、カップリング剤は適当な溶媒に希釈して用いても、希釈せずに用いても良い。
カップリング剤の使用量に特に制限はないが、樹脂に混練等で添加する場合、一般的には樹脂に対し0.05質量%〜10質量%の範囲で用いられる。塗布する場合、一般的に0.1g/m〜20g/mの範囲で用いられる。
【0013】
本発明に用いられるエネルギー線としては、電子線、ガンマ線、X線、紫外線、中性子線、α線、赤外線、可視光線等が挙げられる。これらのエネルギー線は、公知の装置を用いて照射することができる。本発明には好ましくは電子線が用いられる。電子線の加速電圧としては一般的には10keV〜5000keVの範囲が用いられ、照射線量は一般的には1kGy〜500kGyの範囲である。
本加速電圧は、シ−トの厚さ等により適切に制御する。
本発明において、電子線処理による樹脂表面近傍の樹脂とカップリング剤間の相互作用強化による接着性付与を目的とする場合には、電子線の加速電圧は低い方が好ましく、好ましくは10keV〜250keV、さらに好ましくは10keV〜150keVである。本発明においては少なくともシ−ト中心部または電子線照射面の反対面は実質的に架橋されず、熱可塑性であることが、特に後述する太陽光発電装置用封止樹脂シ−トのためには好ましい。また、ここで言う相互作用強化とは、例えば表面近傍の樹脂やカップリング剤間のグラフト、架橋、化学反応、分子鎖の絡み合い等、接着性強化に繋がる化学的あるいは物理的相互作用の強化を示す。エネルギー線の照射は、シ−トへのカップリング剤を添加する場合、塗布する場合共に同様に行われるが、樹脂方面近傍のみの相互作用強化が目的である場合、カップリング剤の利用効率の高さという観点からは、カップリング剤の塗布が好ましい。
【0014】
本発明においては、必要に応じて架橋助剤をさらに添加または塗布することができる。使用できる架橋助剤は公知の架橋助剤であり、例えばトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、N,N’−フェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの架橋助剤は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。架橋助剤を配合する場合、その含有量に特に制限はないが、通常、合計質量に対して0.01〜5質量%の範囲であるのが好ましい。
【0015】
本発明の樹脂またはそのシートは、無機材料、特にガラスとの接着性が良好であるため、液晶、EL表示部材、EL発光装置の封止、接着用樹脂として有用である。本樹脂またはそのシートの密度は0.850〜0.980g/cmの範囲内が一般的であり、用途に応じて密度とそれにより規定できる軟質性、透明性を選択することが出来る。以下、本発明の樹脂またはそのシートの好ましい用途である太陽光発電装置(太陽電池)の各種封止用部材について詳細に説明する。
【0016】
本発明の樹脂シートを太陽光発電装置(太陽電池)の各種封止用部材、特に封止用シートとして用いる場合、その好ましい物性は、A硬度50以上95以下、さらに好ましくはA硬度50以上90以下であり、全光線透過率は厚さ1mmのシートにおいて75%以上である。本条件を満足するための好ましいポリオレフィン系樹脂は、エチレン−αオレフィン共重合体であり、その密度は概ね0.86〜0.92g/cmの範囲である。封止材として用いる場合、原料樹脂のMFR値(200℃、加重98N)は特に規定されることはないが、一般的に0.1g/10分以上300g/10分以下である。これより低いと封止の際、充填不良による空隙が発生しやすく、これより高いと耐熱性の不足、すなわち環境下における太陽電池セルや配線のクリ−プ現象が懸念される。本MFR値は、用いる樹脂の公知文献から当業者らは容易に推定することが可能で、また少量のオイルや可塑剤を添加することで調整することも出来る。
本発明の樹脂シートを太陽光発電装置(太陽電池)の各種封止用部材、特に封止用シートとして用いる場合、信頼性確保の点から特にガラスとの接着性が重要である。浮動ローラー法剥離試験による90°剥離試験において、25N/25mm以上の剥離強度(接着強度)を示すことが好ましい。
【0017】
太陽光発電装置(太陽電池)の封止用シートとして用いる場合、シート本体は実質的に熱可塑性であることが封止のためには好ましく、そのため、電子線照射による架橋その他影響は、無機材料、例えばガラスとの接着が必要となるシ−ト表面近傍に限定されるのが好ましい。そのためには、一般には電子線の加速電圧を変更することによる電子の到達深さを制御することや、接着が必要となる面のみの照射が好ましい。シ−ト中心部または電子線照射面の反対面は実質的に電子線照射されず、熱可塑性であることが太陽光発電装置用封止樹脂シ−トのためには好ましい。好ましい例である表面近傍のみの相互作用強化の場合、シ−ト全体に対する架橋度は実質的に低く、シ−ト全体に対するゲル分での評価では一般的には50%以下、特に好ましくは30%以下である。本ゲル分は、ASTM D−2765−84により求められる。本発明の樹脂またはそのシートは、配線用金属やシリコン、あるいはガラス等の無機材料との接着性が優れるため、太陽光発電装置(太陽電池)の封止材として好適に用いることが出来る。
本発明の樹脂シートを太陽光発電装置(太陽電池)の封止材として用いる場合、光エネルギーを無害な熱エネルギーに変換する紫外線吸収剤と光酸化で生成するラジカルを捕捉するヒンダードアミン系光安定剤から構成される耐光剤を配合する。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、蓚酸アニリド系、あるいはマロン酸エステル系が例示できる。紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量比は1:100〜100:1の範囲で、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量の合計量を耐光剤質量とし、その使用量は、樹脂質量100質量部に対し、0.05〜5質量部の範囲である。以上のような耐光剤は、例えば株式会社ADEKAよりアデカスタブLAシリーズとして、あるいは住化ケムテックス社よりスミソーブシリーズとして、入手することが出来る。
【0018】
本発明の樹脂あるいはそのシートを熱可塑性の太陽光発電装置用封止材として用いるには、封止材としての特性向上を目的として、必要に応じて下記「可塑剤」や「老化防止剤」を加える事ができる。
【0019】
<可塑剤>
本発明の樹脂あるいはそのシートには従来塩ビや他の樹脂に用いられる公知の任意の可塑剤を配合することが出来る。好ましく用いられる可塑剤はオイルまたは含酸素または含窒素系可塑剤であり、好ましくは、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、エ−テル系可塑剤、またはアミド系可塑剤から選ばれる可塑剤である。
【0020】
可塑剤の配合量は、本発明の樹脂またはそのシート100質量部に対して、可塑剤1質量部以上20質量部以下、好ましくは1質量部以上10質量部以下である。1質量部未満では上記効果が不足し、20質量部より高いとブリ−ドや、過度の軟化、それによる過度のべたつきの発現等の原因となる場合がある。また可塑剤を配合することで、封止材の流動性を向上させることができる。特に用いられる樹脂のMFR値が低い場合、上記の範囲で可塑剤を添加することにより封止材として適当なMFR値に調整することが可能となる。
【0021】
<老化防止剤>
適当な老化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤、イオウ系熱安定剤等が挙げられる。その使用量は、樹脂組成物100質量部に対して3量部以下である。
【0022】
<フィルム、シ−ト>
本発明の樹脂からなるシ−トを太陽光発電装置の封止材用シ−トとして用いる場合、その厚みに特に制限はないが、一般に30μm〜1mm、好ましくは100μm〜0.5mmである。本発明の樹脂シ−トを製造するには、インフレーション成形、押し出し成形、Tダイ成形、カレンダ−成形、ロ−ル成形などの公知の成形法を採用することができる。
【0023】
<架橋>
本発明の樹脂シートからなる封止材は、封止工程の簡略化と太陽光発電装置のリサイクル性を考慮すると架橋処理をおこなうのはカップリング剤と樹脂シ−トの結合を強化するためのシート表面近傍のみが好ましい。この場合、シ−トの大部分を占める中心部分やガラスとの接着面の反対面は実質的な架橋をせずに熱可塑性であることが封止材として用いる上で好ましい。しかしシ−ト自身へのより高度な耐熱性を要求される場合や封止後にはこれ以上の架橋処理を行うことも可能である。架橋処理は、一般には本熱可塑性封止材に架橋材、架橋助剤を添加し、架橋温度以下の条件でフィルム、シートを成形し、太陽電池セルの封止後に所定の架橋条件にて架橋を行う。本発明の熱可塑性封止材の熱可塑性は封止工程で溶融、流動により太陽電池セルを封止する工程で重要である。その後の架橋条件は、用いられる架橋材、架橋助剤により任意に決定される。本熱可塑性封止材に使用可能な架橋材、架橋助剤は、通常ポリオレフィン系樹脂、特にエチレン系樹脂に用いられるものであり公知である。このような架橋処理を行った本発明の封止材はリサイクル性という使用のメリットは無くなるが、高い水蒸気バリア性(低い水蒸気透過率)、高い体積抵抗率、及び酢酸等の腐食性物質を遊離しない点は、太陽電池の信頼性向上の面から有利である。
【0024】
本封止材を用いた太陽電池としては、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、化合物系、有機系の各形式の太陽電池が挙げられる。薄膜太陽電池等、太陽電池セルが表面ガラスに密着し、封止材に透明性が求められない形式においても、高い水蒸気バリア性(低い水蒸気透過率)、高い体積抵抗率、及び酢酸等の腐食性物質を遊離しない点は、太陽電池の信頼性向上の面から有利である。
本発明の樹脂あるいはその樹脂からなるシートには、他に、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、通常の樹脂に用いられる添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤、着色剤、滑剤、防曇剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤等を添加しても良い。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により、本発明を説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0026】
<原料樹脂>
実施例、比較例に用いた原料樹脂は以下の通りである。
LLDPE(直鎖低密度ポリエチレン)
・ダウケミカル社製AFFINITY PL1880 密度0.902g/cm
・ダウケミカル社製ENGAGE 8100 密度0.870g/cm
【0027】
<引張試験>
JIS K−6251に準拠し、得られたフィルムを2号1/2号型テストピース形状にカットし、島津製作所AGS−100D型引張試験機を用い、引張速度500mm/minにて初期引張弾性率、破断点伸び、破断強度を測定した。
【0028】
【表1】


【0029】
<シランカップリング剤>
以下の信越化学工業社製シランカップリング剤を用いた。
3−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE−903)
N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM−602)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403)
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KMB−503)
ビニルトリメトキシシラン(KBM−1003)
さらに、以下のエボニック社製シランカップリング剤を用いた。
ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン
【0030】
<混練法>
ブラベンダ−プラスチコ−ダ−(ブラベンダ−社製PL2000型)を使用し、樹脂と添加物の合計約45gを180℃、100rpm、5分間混練し樹脂組成物を作製した。
【0031】
<シート作成>
サンプルシートは加熱プレス法(温度180℃、時間3分間、圧力50kg/cm)により成形した厚さ0.4mmのシ−トを用いた。
【0032】
<塗布法>
シランカップリング剤、酢酸をシクロヘキサン溶液に溶解し、カップリング剤2質量%、酢酸2質量%の溶液を調整した。バーコーターを用い、45ミクロン厚さでシクロヘキサン溶液をシ−ト上に塗布
した。その後、一昼夜自然乾燥させた。
【0033】
<電子線照射>
岩崎電気EB装置TYPE:CB250/15/180Lを用い、加速電圧125kVで所定の照射線量(kGy)の照射を1回実施した。加速電圧125kVでの電子線進入深さは実質的に樹脂表面から0.1〜0.2mmである。塗布法によるシ−トの場合、塗布面に照射を実施した。
【0034】
<ガラスとの圧着>
幅25mm、長さ60mmのガラス板の表面をアセトンで洗浄し、よく乾燥させた。
シ−トを幅25mm、長さ60mmにカットし、気泡が入らないようにガラス板上に密着させた。その後、加熱オーブン内で0.03MPaの荷重をかけ、160℃、15分間圧着させた。
【0035】
<接着強度測定>
島津製作所AGS−100D型引張試験機を用い、浮動ローラー法にて90°剥離条件下、引張速度100mm/minにて測定した。
【0036】
<実施例1>
LLDPE(AFFINITY PL1880)に対し、株式会社ADEKA製耐候剤LA−52、LA−36各0.2質量部、酸化防止剤としてチバ・ジャパン社製イルガノックス1076を0.1質量部添加し、上記のようにブラベンダーを用いて混練を行った。得られた樹脂混練物を上記加熱プレス法にて0.4mm厚さのシ−トを作製した。
シクロヘキサンに対し、シランカップリング剤:3−アミノプロピルトリエトキシシランを2質量%、酢酸2質量%の濃度で溶解し、塗布用の溶液を調整した。樹脂シ−トに、バーコーターを用い上記シクロヘキサン溶液を開口厚さ45ミクロンで塗布した。その後ドラフト中で一昼夜乾燥した。この様にして得られたシ−トのカップリング剤塗布面に対し、加速電圧125kVで50kGyの電子線照射を1回行った。照射から3日後、上記にしたがってガラスとの圧着をおこなった。翌日、接着強度測定を行ったところ、接着強度が高くシ−トの材料破壊となった。材破に至る際に測定された接着強度は35N/25mm以上であった。
【0037】
<実施例2〜5>
実施例1と同様に、但し、シ−トの樹脂、シランカップリング剤、電子線照射条件を変えて試験を行った。試験条件及び結果を表2に示す。
<実施例6、7>
実施例1と同様に、ただしシランカップリング剤にエボニック社製ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミンを用いた。また、シクロヘキサンに対し、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミンを1質量%の濃度で、ただし酢酸は用いずに溶解し、塗布用の溶液を調整し、他は同様に実施した。
<ゲル分測定>
ASTM D−2765−84に従い、以下のようにして求めた。すなわち、精秤した1.0gの樹脂シ−ト(カップリング剤塗布済み、電子線照射済み)を、2mm四方に裁断し100メッシュのステンレス製網袋に包み、精秤した。これを沸騰キシレン中で約5時間抽出したのちに網袋を回収し、真空中90℃で10時間以上乾燥した。十分に冷却後、網袋を精秤し、以下の式により、ポリマー中のゲル量を算出した。
ゲル量=網袋に残留したポリマーの質量/はじめのポリマー質量×100
実施例1〜7で得られた樹脂シ−ト(カップリング剤塗布済み、電子線照射済み)のゲル分はいずれも10質量%以下であった。
【0038】
<比較例1〜4>
実施例と同様に、ただしシ−トに電子線を照射せずにガラスとの接着試験を行った。
【0039】
<比較例5〜7>
実施例と同様に、ただし本発明の範囲外のカップリング剤、すなわち官能基としてアミノ基を含まないカップリング剤を使用し、電子線を照射した後にガラスとの接着試験を行った。
【0040】
<比較例8、9>
実施例と同様に、ただしカップリング剤を使用せず、電子線を照射した後にガラスとの接着試験を行った。
【0041】
<比較例10、11>
実施例と同様に、ただしカップリング剤も電子線も用いずにガラスとの接着試験を行った。
【0042】
【表2】

【0043】
以上の結果より、ポリオレフィン系樹脂にアミノ基を有するシランカップリング剤を添加し、さらに電子線照射を行うことにより、ガラスとの接着性が著しく増加する。