【実施例】
【0033】
本発明の複層ガラス窓は、
図1に示すように、建物の躯体1の開口部に組付けられた合成樹脂製の窓枠2と、この窓枠2に装着される複層ガラス3とより構成されている。
窓枠2は、建物の躯体1に取り付けられる中空構造を有する枠本体2Aと、この枠本体2Aに取り付けた押縁2Bとより構成されている。
前記窓枠2は、たとえば特開平9−137675号公報に開示されているように、塩化ビニル樹脂に、木材の粉砕物から調製したセルロース系微粉末を配合した樹脂組成物をもって成形した枠部材を、正面視矩形状に枠組みすることにより形成されている。
【0034】
枠本体2Aには、
図2に示すように、その内部空間4内に鉄等の断面ほぼ矩形の中空チャンネル部材からなる金属製補強材5が配置されているとともに、この金属製補強材5を、前記内部空間4内に位置決め固定することにより補強されている。
【0035】
枠本体2Aにおける室内側Aの外周には、建物の躯体1に、ビス6等をもって固定される取付片部7が形成されているとともに、その内周には、前記複層ガラス3における室内側Aの外周端3aを支持するガラス支持部8が形成され、かつその室外側Bの内周にも、嵌合溝9が形成されている。
この嵌合溝9には、押縁2Bが取外し可能に取付られるとともに、この押縁2Bと前記枠本体2Aのガラス支持部8とより、窓枠2の内周には、複層ガラス3の外周端が嵌殺し状態をもって装着される内周溝部10が形成されている。
【0036】
複層ガラス3は、たとえば室内側Aに位置する網入りガラス11と室外側Bに位置するフロートガラス12とよりなるとともに、それらの板ガラスの外周端間に非焼失性スペーサ部材13を介在させることにより、密閉空間14が形成されるように接合してなる構成を有する。
非焼失性スペーサ部材13は、火災時において燃焼しても完全に焼失せずに、酸化物などの無機成分が相当量残存し、ある程度の形状を保持できるものであり、たとえばアルミニウム製、ステンレス製、鋼製等の金属製スペーサ部材または塩化ビニル樹脂やガラス繊維入りアクリルニトリル系樹脂等の樹脂製スペーサ部材からなるスペーサ部材13Aと、このスペーサ部材13Aの外側に配置した、たとえばシリコーン系、無機物を充填したゴムなどの非消失性のゴム又はエラストマーからなるシール材13Bとより形成されているものなどが適宜使用される。
なお、ここでスペーサ部材13Aの「外側」とは、周方向に外側であることのみを意味するものではなく、スペーサ部材13Aの側面に対する外側も含む概念である。たとえばスペーサ部材13Aが内部に乾燥剤が充填されたアルミニウム製角パイプからなる場合、シール材13Bは、該角パイプの周方向外側の空間及び該角パイプとその両脇に位置する各ガラスとの間の空間を同時に埋めるように、断面コの字状に配置されていてもよく、要するに、シール材13Bがスペーサ部材13Aいずれの外側に配置されればよい。また、シール材13Bは、非焼失性を損なわない範囲で、その一部がシール性の高いブチルゴムやポリサルファイドで構成されていてもよい。
複層ガラス3を構成する室内外両側の板ガラス11,12は、準遮炎性能(室内側Aのみの遮炎)の場合、たとえば室内側(非加熱側)Aを網入りガラスとし、室外側Bはフロートガラス、Low−Eガラス、強化ガラス、耐熱ガラス、合わせガラス等とする形態が挙げられる。また、遮炎性能(室内外双方の遮炎)の場合、たとえば室内側Aを耐熱ガラスまたは強化ガラス、室外側Bを網入りガラスとする形態が挙げられるとともに、両者を網入りガラスまたは耐熱ガラスとするなどが適宜に用いられる。
【0037】
複層ガラス3における室内外側A,Bの外周両端3a,3bは、前記窓枠2の内周溝部10に、それぞれパッキン15,16を介して、水密的に挟持されているとともに、押縁2Bの先端に設けたパッキン16をもって、複層ガラス3における室外側Bの外周端、すなわちフロートガラス12の室外側Bの外周端3bを、室内側Aに向けて弾性的に押込むように付勢している。
【0038】
窓枠2の内周溝部10には、金属製アングル材17が、必要に応じて、ガラス支持部8の左右長手方向に沿って連続して設けられている。
この金属製アングル材17は、たとえばステンレススチールからなるとともに、前記内周溝部10における複層ガラス3の外周端面3cが上下に対向する支持面10aの左右長手方向に沿ってビス等をもって固定される取付片17aと、この取付片17aにおける前後方向の室内側Aの一端から前記ガラス支持部8の室外側Bを向く外面に沿って対向するように下方に向けて直角に折曲させて係止片17bとをもって断面L字形に形成されており、この係止片17bの室内側Aを向く内面は、前記ガラス支持部8の外面に当接させて組み付けられるようになっている。
【0039】
窓枠2における内周溝部10の支持面10a、すなわち複層ガラス3の外周端面3cが対向する、金属製アングル材17の取付片17aにおける左右方向を向く面上には、たとえば発泡性黒鉛を主成分とするテープ状の遮炎材18が、金属製アングル材17の内面に沿って長手方向に直接または間接的に配設して介在されている。
この遮炎材18は、火災時の加熱により燃焼して発泡し、前記内周溝部10内における複層ガラス3の外周端の周囲を、発泡(膨張)した黒鉛によって埋め、発泡した遮炎材18と金属製アングル材17とによって遮炎するとともに、窓枠2における内周溝部10の支持面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間に生じた間隙を閉塞し、室内外間の酸素の流通を遮断し、防火機能を向上させる作用をなす。
【0040】
枠本体2Aの内部空間4内には、断面コ字状をなす金属製補強材5が設けられているとともに、前記内部空間4内において、金属製補強材5と枠本体2Aとの間の縦方向または横方向の間隙内に、発泡性黒鉛を主成分とする遮炎材19,20を介在させてある。
これらの遮炎材19,20は、前記内周溝部10における支持面10a上の遮炎材18と同様に、火災時の加熱により燃焼して発泡し、この発泡(膨張)した黒鉛によって、前記内部空間4内における金属製補強材5と枠本体2Aとの間の間隙を埋めて閉塞することにより、室内外間の酸素の流通を遮断し、窓枠2としての防火性能を向上させる作用をなす。
なお、金属製補強材5としては、コ字状の断面形状の他に、たとえばL字状、矩形状またはパイプ状等のものが適宜用いられる。
【0041】
図3に示すように、複層ガラス3の外周端には、金属製カバー21が被着されている。
この金属製カバー21は、好ましくはステンレス製の断面コ字形のチャンネル部材22からなり、このチャンネル部材22における複層ガラス3の外周端面3cに対向する面22aに、長手方向に部分的に複数の通水孔23が穿設されている。
これらの通水孔23は、複層ガラス3の外周端面3cと金属製カバー21との間のガラス廻りに滞留する雨水等を速やかに排出するようにして、湿気によるガラス廻りに配置されるシール材等の劣化を防止する作用をなす。
この金属製カバー21は、通常、複層ガラス3における外周端の上辺部及び左右両辺部の三方に被着される。
【0042】
図4は、
図1のIV−IV線におけるガラス外れ止めが配置された部位の拡大縦断面図、
図5は、ガラス外れ止めによる窓枠への複層ガラスの組付状態を示す要部拡大縦断面図、
図6は、ガラス外れ止めの分解斜視図である。
【0043】
窓枠2における内周溝部10の支持面10a上には、
図1に示すように、複層ガラス3における外周端の上下左右両辺部に相当する位置に、複数の耐熱性ガラス外れ止め24が長手方向に沿って少なくとも部分的に設置されている。
この耐熱性ガラス外れ止め24は、たとえば金属製のものからなっており、
図4及び
図5に示すように、室内側ガラス外れ止め24Aと、この室内側ガラス外れ止め24Aに係脱可能に組み付けられる室外側ガラス外れ止め24Bとから構成されている。
これら室内外両ガラス外れ止め24A,24Bが互いに室内外方向に対向するように設置されて対をなすとともに、それらの間に複層ガラス3の外周端を位置させて、複層ガラス3の外周端を直接または間接に挾持して保持しうるようになっている。
【0044】
室内外両金属製ガラス外れ止め24A,24Bは、
図6に示すように、それぞれステンレス板等の金属板を、レーザー加工やプレス加工等により所定形状に切断した後、折り曲げ加工して形成されている。
室内側ガラス外れ止め24Aは、窓枠2における内周溝部10の支持面10a上にビス等により金属製アングル材17と共締め状態で相互に連結して固定される取付片部25と、この取付片部25の室内側端から直角に起立させた外れ止め片部26とよりなり、側面視逆L字状をなす。
取付片部25は、係合孔27を開口させた1対の抱持片部28,28と、これらの抱持片部28間の中央部に切起し形成された係合溝部29とを有する。
【0045】
一方、室外側ガラス外れ止め24Bは、室内側ガラス外れ止め24Aにおける取付片部25の各抱持片部28に向けて室外側Bから差し込まれる差込片部30と、この差込片部30の室外側端から直角に折曲した外れ止め片部31とよりなり、側面視逆L字状をなす。
前記差込片部30には、前記係合孔27に係止される、逆止爪状に切起し形成した1対の係止片部32,32と、これら係止片部32間の中央部に形成した、前記室外側ガラス外れ止め24Bの係合溝部29に係合される係止片33とが設けられている。
また、差込片部30の両側の縁部は、係止片34が室内側Aに向けて直角に折り曲げて形成されており、これらの係止片34は、外れ止め片部31を室外側Bに折り曲げようとしたときに、複層ガラス3の外周端面3cに係止して、その折り曲げを防止する作用をなす。
【0046】
この場合、
図2に示すように、耐熱性ガラス外れ止め24が設けられていない部分において、複層ガラス3の外周端面3cに被着した金属製カバー21と窓枠2の内周溝部10の支持面10a上との間に直接または間接的に設けたテープ状の遮炎材18は、前記内周溝部10の長手方向に延設されるとともに、耐熱性ガラス外れ止め24が設けられている部分においては、
図4及び
図5に示すように、耐熱性ガラス外れ止め24における室内側ガラス外れ止め24Aと金属製カバー21との間に介在されるようになっている。
これにより、遮炎材18は、火災時の加熱により燃焼して発泡し、この発泡(膨張)した黒鉛によって、前記内周溝部10の支持面10aと金属製カバー21との間の間隙を埋めて閉塞することにより、室内外間の酸素の流通を遮断し、窓枠2としての防火性能を向上させる作用をなすようにしている。
【0047】
次に、窓枠2の内周溝部10内への複層ガラス3の装着手順を説明する。
まず、
図3に示すように、複層ガラス3における上辺部及び左右両辺部の三方を、
図3に示すようなステンレス等の断面コ字形からなる厚さ約0.3〜2.0mmのチャンネル部材22で被う。
【0048】
次いで、
図5に示すように、押縁2Bを未だ取り付けていない状態の枠本体2Aの内周面における内周溝部10内に、複層ガラス3を室外側Bから嵌合して、複層ガラス3の外周端面3cを前記内周溝部10における支持面10aの内面に対向させるとともに、複層ガラス3の室内側外周端3aを、前記内周溝部10における支持面10aに金属製アングル材17と共締めにより固定された一対の耐熱性ガラス外れ止め24における室内側ガラス外れ止め24Aの外れ止め部26の外面に当接させて組み付ける。
【0049】
その後、枠本体2Aの室外側Bから、耐熱性ガラス外れ止め24における他方の室外側ガラス外れ止め24Bを、複層ガラス3の外周端面3cと枠本体2Aの内周面との間の間隙内に向けて挿入して、室外側ガラス外れ止め24Bの差込片部30を、室内側ガラス外れ止め24Aにおける抱持片部28に差込むとともに、この抱持片部28に開口させた係合孔27に、前記差込片部30の係止片32を挿入して係止させることにより、室内側ガラス外れ止め24Aの外れ止め片部26と室外側ガラス外れ止め24Bの外れ止め片部31とにより、複層ガラス3における室内外側A,Bの外周端3a,3bを挾持状態で保持する。
【0050】
なお、枠本体2Aにおける上下左右の内周溝部10の支持面10aには、複層ガラス3の外周端面3cが当接されるように支持する駒形のガラス受台(図示せず)が、長手方向に部分的に設けられており、このガラス受台は、火災時に、高温加熱により欠損した場合に、複層ガラス3の外周端面3cの周囲に介在された遮炎材18が発泡して埋入され、その欠損部分を閉塞することができるようになっている。
【0051】
次いで、枠本体2Aの室外側Bの内周に形成した嵌合溝9内に押縁2Bを嵌着し、その先端に設けたパッキン16をもって、複層ガラス3の室外側Bの外周端3bを水密的に被覆する。
これにより、枠本体2Aと押縁2Bとより形成される窓枠2の内周溝部10内に複層ガラス3を装着する。
【0052】
本実施形態では、上述したように、複層ガラス3の外周端に介在されるスペーサ部材13が、たとえばアルミニウム製、ステンレス製、鋼製等の金属製スペーサ部材、または塩化ビニル樹脂やガラス繊維入りアクリルニトリル系樹脂等の樹脂製スペーサ部材からなるスペーサ部材13Aとシリコーン系のシーラント等のように、加熱後においてもなお非焼失であり、かつある程度の形状を保持しうるシーラントからなるシール材13Bとの内外二重構造とする乾式工法を採用しているため、特許文献2に記載のように、窓枠と防火ガラス板の周端部との嵌合部分の隙間に、防火性シーラントと共にセラミック繊維や熱膨張性充填材を充填しなければならない湿式工法による防火構造と比べて簡単に施工できる。
また、複層ガラス3は、押縁2Bからの適度な力によって押付けられて固定されるため、ガラスががたついてしまったりすることがなく、長期間安定に使用することができる。
【0053】
上記した構成によれば、火災時に、複層ガラス窓が室外側Bから加熱されたときに、フロートガラス12が2〜3分程度の間に崩落し、非焼失性スペーサ部材13における内側の金属製または樹脂製のスペーサ部材13Aが20分内に脱落しても、外側のシリコーン系のシール材13Bが加熱後においても非焼失であって、ある程度の形状が保持され、このシール材13Bと金属製カバー21との両者でもってが網入りガラス11を挾持し、少なくとも20分間以上に亘って網入りガラスの崩落を防止することができる。
【0054】
窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間隙を通して、室内側Aに向けて火炎抜けが発生しようとする場合には、金属製アングル材17によって遮炎することができる。
【0055】
一方、複層ガラス窓が室内側Aから加熱されたときにも、シール材13Bが燃焼した状態においてもなお非焼失であり、かつある程度の形状を保持しているため、金属製カバー21によって網入りガラス11を挾持し、少なくとも20分間以上に亘って網入りガラス11の崩落を防止することができるとともに、網入りガラス11が熱を遮ることによって、室外側このフロートガラス12の加熱を抑制して、フロートガラス12の破損を防止し、更に、室内側Aの火炎を、金属製アングル材17と遮炎材18によって遮炎することができる。
【0056】
なお、上記の実施形態においては、金属製アングル材17を、窓枠2を構成する枠本体2Aの長手方向に沿って連続して設けたが、金属製アングル材17と金属製ガラス外れ止め24とを、枠本体2Aの長手方向に、交互に配設してもよい。