特許第5651018号(P5651018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5651018
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】潤滑組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 177/00 20060101AFI20141211BHJP
   C10M 133/40 20060101ALI20141211BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20141211BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20141211BHJP
   C10N 70/00 20060101ALN20141211BHJP
【FI】
   C10M177/00
   C10M133/40
   C10N30:10
   C10N50:10
   C10N70:00
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-542635(P2010-542635)
(86)(22)【出願日】2009年1月16日
(65)【公表番号】特表2011-514912(P2011-514912A)
(43)【公表日】2011年5月12日
(86)【国際出願番号】EP2009050483
(87)【国際公開番号】WO2009090238
(87)【国際公開日】20090723
【審査請求日】2011年12月2日
(31)【優先権主張番号】08100550.6
(32)【優先日】2008年1月16日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100094008
【弁理士】
【氏名又は名称】沖本 一暁
(72)【発明者】
【氏名】アラン・リチャード・ウィートリー
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−222597(JP,A)
【文献】 特開2002−309250(JP,A)
【文献】 特開昭56−049800(JP,A)
【文献】 特開2006−249376(JP,A)
【文献】 米国特許第02908646(US,A)
【文献】 英国特許第00808596(GB,B)
【文献】 特開昭58−037092(JP,A)
【文献】 特開昭57−115493(JP,A)
【文献】 特開昭63−162791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基油組成物を供給する工程、
(b)ポリアルキレングリコールを含む溶媒中に1種以上のアルキル置換キノリン又はそのオリゴマー誘導体の溶液を供給する工程、及び
(c)工程(b)の溶液を150℃未満の温度で工程(a)の基油組成物に添加する工程、
を少なくとも含むグリースの製造方法。
【請求項2】
工程(c)において、工程(b)の溶液が120℃未満の範囲の温度で添加される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)において、工程(b)の溶液が10〜110℃の範囲の温度で添加される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)において、工程(b)の溶液が15〜100℃の範囲の温度で添加される請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記1種以上のアルキル置換キノリンがアルキル置換1,2−ジヒドロキノリンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルキル置換1,2−ジヒドロキノリンが一般式(I)
【化1】
(但し、R〜Rは、独立に水素又は炭素原子数1〜8のアルキル基から選択され、nは0、1、2又は3である)
を有する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
〜Rが、独立に水素又は炭素原子数1〜4のアルキル基から選択される請求項に記載の方法。
【請求項8】
〜Rが、独立に水素又は炭素原子数1又は2のアルキル基から選択される請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
〜Rが水素である請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記1種以上のアルキル置換1,2−ジヒドロキノリンのnの平均値が1.0〜2.0である請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記1種以上のアルキル置換1,2−ジヒドロキノリンのnの平均値が1.3〜1.6である請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶液に供給される1種以上のアルキル置換キノリンの溶解度が、ASTM D893で測定して0.1%未満である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑組成物、特にグリースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキル置換キノリン及びその重合化誘導体は、潤滑組成物への用途を含む各種用途に極めて効果的で安価な酸化防止剤として知られている。
【0003】
一例として、国際公開第94/24235号は、モーター油、トランスミッション油、ギア油、金属高搾油、作動油、グリース等にアルキル置換1,2−ジヒドロキノリン(モノマー、その二量体、三量体及び四量体を含む)に使用することを開示している。これらアルキル置換1,2−ジヒドロキノリンの具体例は、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、2−メチル−2,4−ジエチル−1,2−ジヒドロキノリン、2,2,4,6−テトラメチル−1,2−ジヒドロキノリン、2,2,4,7−テトラメチル−1,2−ジヒドロキノリン、6,6’−ビス(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)等である。
【0004】
更に米国特許第5246606号は、光誘導的、熱的及び/又は酸化的分解に対する有機材料の安定化にテトラヒドロキノリンの二量化、三量化及び四量化誘導体が好適であると開示している。米国特許第5246606号は、潤滑油及び作動油のような機能的流体に各種化合物の中でもこれらの化合物を使用することを提案している。
【0005】
2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(“TMQ”、“TMDQ”及び“TMHQ”とも言われている)のようなアルキル置換キノリン及びそのオリゴマー(即ち、二量体、三量体及び四量体)は広く使用されているが、これらは多くの欠点を有する。
【0006】
一例として、TMQは室温で脆い固体で、通常はモノマーとオリゴマーとの混合物の状態なので、十分限定された融点を持たない。この化合物は温度の上昇に従って軟化するが、通常の添加剤の添加温度である約80〜100℃では、依然として非常に粘稠で粘ついた材料である。
【0007】
TMQをこのような通常80〜100℃の範囲の温度でグリースのような潤滑組成物に加えると、グリース中に好適に分散せず、例えばグリース配送システム中でフィルターの目詰まりが生じる。たとえこのようなグリース配送システムのフィルター装入量が直ぐに詰まるほど十分でなくても、この酸化防止剤の若干量はグリース中から取出され、その結果、寿命が短くなる。
【0008】
以上の観点から、通常、アルキル置換キノリンは、グリースが該基油中に増粘剤系を定着(establish)させてから、臨界的冷却相を完了した後、150℃を超える温度、通常、150〜160℃でグリースに添加されている。
【0009】
しかし、この公知の方法の関連した問題は、アルキル置換キノリンをグリース中に適切に分散させる必要がある場合、添加する機会が通常、狭いことである。アルキル置換キノリンを例えば10分後に添加すれば、グリースは極めて多量に冷却されている可能性があるので、遅すぎたかも知れない。
【0010】
アルキル置換キノリンを比較的高温でグリースに添加する公知の方法の別の問題は、例えば製造容器が開放すべき必要がある場合、高温グリースの危険性及び煙霧の危険性に関連して、一層厳密に健康及び安全の問題を考慮しなければならないことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は以上の問題を回避することである。
他の目的は、潤滑組成物、特にグリースの代りの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の又は他の目的の1つ以上は、
(a)任意に1種以上の添加剤を含有する基油組成物を供給する(provide)工程、
(b)1種以上のアルキル置換キノリン又はそのオリゴマー誘導体の溶剤溶液を供給する工程、及び
(c)工程(b)の溶液を150℃未満の温度で工程(a)の基油組成物に添加する工程、
を少なくとも含む潤滑組成物、特にグリースの製造方法を提供することにより得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従って、前記アルキル置換キノリン(又はそのオリゴマー誘導体)を溶剤中で該基油組成物に添加すると、アルキル置換キノリンを基油組成物中に適切に分散しながら、これを低温で添加できることが意外にも見出された。
【0014】
本発明の重要な利点は、アルキル置換キノリン(又はそのオリゴマー誘導体)を低温で添加でき、その結果、厳しい安全要件が緩和されることである。またアルキル置換キノリン(又はそのオリゴマー誘導体)を添加するための特定の温度は溶剤を使用しない場合よりも臨界的ではないので、これを添加する時点に一層柔軟性がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
工程(c)では工程(b)の溶液は120℃未満、好ましくは10〜110℃の範囲、更に好ましくは15〜100℃の範囲の温度で添加される。
【0016】
本発明の特に好ましい実施態様では、1種以上のアルキル置換キノリンはアルキル置換1,2−ジヒドロキノリン(又はそのオリゴマー誘導体)である。好ましくはアルキル置換1,2−ジヒドロキノリンは一般式(I)
【化1】

(但し、R〜Rは、独立に水素又は炭素原子数1〜8のアルキル基から選択され、nは0、1、2又は3である)
を有する。
【0017】
好ましくはR〜Rは、独立に水素又は炭素原子数1〜4、好ましくは1又は2のアルキル基から選択される。好ましくはRは水素である。R〜Rは全て水素であることが更に好ましい。またR〜Rは全てメチル基であることが好ましい。
【0018】
1種以上のアルキル置換1,2−ジヒドロキノリンのnの平均値は1.0〜2.0、好ましくは1.3〜1.6であることが好ましい。
また前記溶液に供給される1種以上のアルキル置換キノリンの溶解度は、ASTM D893で測定して0.1%未満であることが好ましい。
【0019】
本発明で使用される前記アルキル置換キノリン化合物(又はそのオリゴマー誘導体)は、市販品として得られ、或いは当該技術分野に公知の各種反応により製造できる。製造法の例は、前述の国際公開第94/24235号及び米国特許第5246606号並びにこれらの文献に引用された文献に示されている(これら文献の教示もここに援用する)。
【0020】
TMQ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)を製造するための特定の一例は、W.R.Vaughan,“Organic Synthesis(有機合成)”,Collective Volume(集合巻)III,pp329−30,(1955)に示されている。
本発明方法に使用される溶剤に関しては特別の制限はなく、各種の慣用の溶媒が都合良く使用できる。
【0021】
溶剤としては、好ましくはポリグリコール、更に好ましくはポリアルキレングリコールが含まれる。ポリグリコールは当該技術分野では周知であり、ここでは更に検討しない。
一例として、ポリアルキレングリコール(PAG)は、モノマー単位として、炭素原子数が1〜6のアルキレンオキシド単位(−R−O−)を表すことができる。
【0022】
ポリアルキレングリコールは、水素末端基、アルキル、アリール、アルキルアリール、アリールオキシ、アルコキシ、アルキルアリールオキシ及び/又はヒドロキシ末端基を表すことができる。アルキルアリールオキシ基は、アリールアルキル(エン)オキシ基も意味し、またアルキルアリール基は、アリールアルキル(エン)基(例えばアリールCHCH−)も意味すると理解すべきである。アルコキシ型を含むアルキル型の末端基、或いはアルキルアリール型、アリールオキシ型及びアルキルアリールオキシ型を含むアリール型の末端基は、アリール型を基準にして、好ましくは6〜24、特に好ましくは6〜18の炭素原子を表し、またアルキル型を基準にして、好ましくは1〜12の炭素原子を表す。
【0023】
本発明のポリアルキレングリコールは、均質重合体、即ち、ポリプロピレングリコール(及び/又はポリプロピレンオキシド)、或いは共重合体、三元共重合体等であってよい。後者の場合、モノマー単位は、ランダム分布又はブロック構造を表してよい。ポリアルキレングリコールが均質重合体でなければ、全モノマー単位の20%以上、好ましくは40%以上は、ポリプロピレンオキシド(PO)から製造できるし、またこれらポリアルキレングリコールの全モノマー単位の好ましくは20%以上はエチレンオキシド(EO)を用いて製造できる(PO/EO共重合体)。他の実施態様では、全モノマー単位の好ましくは20%以上、好ましくは40%以上は、ブチレンオキシド(BO)から得られ、更にこれらポリアルキレングリコールの全モノマー単位の好ましくは20%以上は、エチレンオキシドを用いて得られる(BO/EO共重合体)。
【0024】
(ポリ)アルコールを用いた場合、出発化合物は重合体中に取込まれ、本発明の意味では、重合体鎖の末端基とも言われる。好適な出発基は、例えばn−ブタノール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ペンタエリスリトールのようなネオペンチルグリコール、エチレンジアミン、フェノール、クレゾール又はその他の(C1〜C16(モノ、ジ又はトリ)アルキル)芳香族、(ヒドロキシ)アルキル芳香族、ヒドロキノン、アミノエタノールアミン、トリエチレンテトラミン、ポリアミン、ソルビトール又はその他の糖類のような活性水素含有化合物からなる。カルボン酸又はカルボン酸無水物のような他のC−H酸性化合物も出発化合物として使用できる。
【0025】
ポリアルキレングリコールは、例えば側基又は末端基として重合体鎖中に挿入されたアリール基又は相当するヘテロ芳香族基を含むことが好ましい。これらの基は、必要ならば、直鎖又は分岐のアルキル基又はアルキレン基と置換してよい。ここでアルキル基又はアルキレン基は、全体として、好ましくは1〜18の炭素原子を表す。
【0026】
ヒドロキシフルフリル又はヒドロキシテトラヒドロフランのような環状エーテルアルコール、窒素ヘテロ環式化合物又は硫黄含有へテロ環式化合物も出発基として使用できる。このようなポリアルキレングリコールは、国際公開第01/57164号に開示されている(その教示はここに援用する)。
【0027】
本発明ポリアルキレングリコールの平均分子量(数平均)は、好ましくは200〜3000g/モル、更に好ましくは400〜2000g/モルである。ポリアルキレングリコールの動粘度は、DIN 51562に従って40℃で測定して好ましくは10〜400mm/s(cSt)である。
【0028】
本発明で使用されるポリアルキレングリコールは、出発化合物として、ポリアルコールを含むアルコールを、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及び/又はブチレンオキシドのようなオキシランと反応させて製造できる。反応後、ポリアルキレングリコールは末端基として、遊離ヒドロキシ基を1つだけ有する。ヒドロキシ基を1つだけ有するポリアルキレングリコールは、2つの遊離ヒドロキシ基を有するものよりも好ましい。例えば更にエーテル化後、もはや遊離のヒドロキシ基を含有しないポリエチレングリコールは、安定性、吸湿性及び相溶性に関して特に好ましい。末端ヒドロキシル基をアルキル化すると、熱安定性が向上する。こうして、本発明の好ましい実施態様では、PAG基油は、末端キャップした、即ち、遊離のヒドロキシル基が存在しないPAGを含む。
【0029】
前述のポリアルキレングリコールの代りに、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール及びトリメチロールプロパンのようなネオペンチルポリオールの、直鎖又は分岐のC〜C12モノカルボン酸、例えば相当するジカルボン酸の付加によるエステルは、好適なネオペンチルポリオールエステルである。通常、ペンタエリスリトールは、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールの混合物である工業銘柄のペンタエリスリトールとして得られる。しかし、ジペンタエリスリトール及び/又はトリペンタエリスリトールのような、それらの縮合生成物もアルコール成分として好適である。
【0030】
ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトール及び/又はトリペンタエリスリトールとの混合物、好ましくはジペンタエリスリトールを主成分として含む混合物は特に好適である。
複合エステルは、多価アルコールと、1価酸及びC〜C12ジカルボン酸のような2価酸との比例(proportional)エステル化により製造できる。この方法では二量体及び三量体が形成される。アルコール基としてネオペンチルグリコール及び/又はトリメチロールプロパンを用いる場合の複合エステルが好ましい。
【0031】
本発明方法で使用される基油組成物に関しては特別の制限はなく、各種慣用の鉱油及び合成油が都合良く使用できる。この説明の目的で、用語“基油”とは、グリース基材を含むことも意味する。
【0032】
本発明に使用される基油組成物は、1種以上の鉱油及び/又は1種以上の合成油の混合物を含有することが好都合かも知れない。
鉱油としては、液体石油、及び溶剤処理又は酸処理した、パラフィン性、ナフテン性又はパラフィン性/ナフテン性混合型の鉱物性潤滑油(更に水素化仕上げ法及び/又は脱蝋により更に精製してよい)が含まれる。
【0033】
本発明の潤滑油組成物に使用するのに好適な基油は、グループI、グループII又はグループIIIの基油、ポリα−オレフィン、フィッシャー・トロプシュ誘導基油及びそれらの混合物である。
本発明において“グループI”基油、“グループII”基油及び“グループIII”基油とは、米国石油協会(API)基準I、II及びIIIの定義による潤滑油基油を意味する。このようなAPI基準は、APIパブリケーション1509、第15版、付録E、2002年4月に定義されている。
【0034】
本発明の潤滑油組成物に都合良く使用できる好適なフィッシャー・トロプシュ誘導基油は、例えばEP 0776959、EP 0668342、WO 97/21788、WO 00/15736、WO 00/14188、WO 00/14187、WO 00/14183、WO 00/14179、WO 00/08115、WO 99/41332、EP 1029029、WO 01/18156及びWO 01/57166に開示されたものである。
【0035】
合成油としては、オレフィンオリゴマー(PAO)のような炭化水素油、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、及び脱蝋蝋状ラフィネートが含まれる。シェルグループから“XHVI”(商品名)の名称で販売されている合成炭化水素基油が都合良く使用できる。
【0036】
本発明の潤滑組成物に取込まれる基油の合計量は、潤滑組成物の合計重量に対し、好ましくは60〜92重量%、更に好ましくは75〜90重量%、最も好ましくは75〜88重量%の範囲で存在する。
【0037】
所望ならば、最終の潤滑組成物は更に酸化防止剤、耐摩耗剤、分散剤、洗浄剤、摩擦改良剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、粘着付与剤、腐食防止剤、解乳化剤、消泡剤及びシール固定又はシール適合剤のような1種以上の添加剤を含有してよい。
【0038】
当業者ならば上記及び他の添加剤について熟知しているので、ここでは更に説明しない。これらの添加剤は、工程(c)で1種以上のアルキル置換キノリンを添加する前又は添加後、基油組成物に添加してよい。また適切ならば、添加剤は1種以上のアルキル置換キノリンと同時に添加してもよい。
【0039】
前記添加剤は、潤滑組成物の合計重量に対し、通常、0.01〜12.5重量%、好ましくは0.05〜10.0重量%、更に好ましくは1.0〜9.0重量%、最も好ましくは2.0〜5.0重量%の範囲の量で存在する。
【0040】
潤滑組成物はグリースの形態であってよい(好ましくはグリースの形態である)ので、潤滑組成物に含まれる基油は、金属石鹸、有機物質又は無機物質、例えばリチウム石鹸、リチウム錯体石鹸、テレフタル酸ナトリウム、尿素/ウレタン化合物及び粘土のような1種以上の増粘剤を含有又は配合してよい。
【0041】
潤滑組成物の100℃での動粘度は、好ましくは2〜80mm/s、更に好ましくは3〜70mm/s、最も好ましくは4〜50mm/sの範囲である。
【0042】
本発明の潤滑組成物は、1種以上の基油、及び任意に、潤滑組成物中に通常存在する例えば前述のような添加剤を、鉱物基油及び/又は合成基油と混合すれば、都合良く製造できる。当該技術分野では慣例であるが、1種以上のアルキル置換キノリン化合物(又はそのオリゴマー誘導体)は潤滑組成物に容易に分散させるため、十分小さい粒度(例えば50μm未満、好ましくは20μm未満)を有することが好ましい。
【0043】
他の一局面では本発明は、本発明方法で得られる潤滑組成物、特にグリースを提供する。
以下に本発明を下記実施例を参照して説明するが、これらの実施例は本発明の範囲をいかなる方法でも限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0044】
アルキル置換キノリンの溶液
溶液A:
2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマー(固体;Rhein Chemie Rheinau GmbHから“Additin RC7010”の商品名で得られる)を添加する前にポリアルキレングリコール(The Dow Chemical Company,米国から“Oxilube 504”の商品名で得られる)を100℃に加熱して、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマーの50%m/mポリアルキレングリコール溶液500mlを製造した。2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマーを約2分間に亘ってゆっくり添加し、更にこれを添加する前に液体中に分散させた。こうして得られた混合物を100℃で更に30分間撹拌した。安定な均質溶液が形成された。
【0045】
溶液B:
溶液Aと同様に、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマーの50%m/mポリグリコール(The Dow Chemical Company,米国から“Synalox 50−50B”の商品名で得られる)溶液500mlを製造した。安定な均質溶液が形成された。
【0046】
実施例1
前記溶液A(50ml)及び従来のグリース基材(4950g)を用いてグリースを製造した。
従来のグリース基材は、リチウム錯体増粘剤 約10%m/mと、SN 500及びブライトストック(ASTM D445による40℃での粘度=180mm/g)をブレンドしたパラフィン性鉱物基油約90%m/mとを含有する。また従来のグリース基材は、耐摩耗剤(ジアルキルジチオ燐酸亜鉛)、極圧添加剤(硫化エステル)及び錆防止剤(ナフテン酸亜鉛)も含有する。
【0047】
このグリース基材及び溶液Aを混合前に予め80℃に加熱した後、実験室用櫂形撹拌機を用いて30分間混合した。
得られたグリースは、視覚検査で明確な欠陥は見られなかった。塊も形成されなかった。また12カ月の保存後、グリースからの2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマーの分離は起こらなかった。
得られたグリースの他の特性を下記表Iに示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表Iの結果は、機械的安定性、油保留性及び意外にも水安定性のようなグリースの所望特性が実施例1のグリースでは依然として存在し、また2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマーの溶解に使用した溶剤(ポリアルキレングリコール)の存在によっても影響を受けないことを示す。
【0050】
実施例2
実施例1と同様に、溶液Bを用いてグリースを製造した。
得られたグリースは、視覚検査で明確な欠陥は見られなかった。塊も形成されなかった。また12カ月の保存後、グリースからの2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマー 2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの分離は起こらなかった。実施例1と同様、実施例2のグリースも機械的安定性、油保留性及び水安定性の所望特性を示した。
【0051】
比較例1
2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマー(溶剤なし)及び実施例1、2の同じグリース基材を用いてグリースを製造した。
グリース基材を約160℃に加熱した。次いで、この固体2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマーの一部を加熱グリース基材に加え、この温度で約10分間放置した。この混合物が約60℃の温度に達するまで、実験室用櫂形撹拌機を用いて混合を行った。
【0052】
次いで、混合物を約160℃に再加熱し、この温度で約30分間放置した。続いて全ての2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマーが添加、混合されるまで、添加及び混合工程を繰り返した。
得られたグリースは、視覚検査で明確な欠陥は見られなかった。塊も形成されなかった。
【0053】
比較例2
加熱を(約160℃の代りに)約60℃とした他は、比較例1と同様に、グリースを製造した。
固体2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンオリゴマーをグリース基材中に分散できず、比較例2のグリースを例えばグリース分配システムに使用した場合は、厳しいフィルター目詰まりが起こる。
【0054】
討議:
実施例から判るように、本発明は、アルキル置換キノリン又はそのオリゴマー誘導体をかなり低温で添加しても、なお所望特性を有する判定なグリースを得ることができる。これが健康及び安全の観点からも、また実際の製造上の観点からも非常に望ましいことは言うまでもない。
これに関連して、アルキル置換キノリン又はそのオリゴマー誘導体を添加中、溶剤を使用しない(比較例2参照)と、安定なグリースが得られないことが注目される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【特許文献1】国際公開第94/24235号
【特許文献2】米国特許第5246606号
【特許文献3】国際公開第01/57164号
【非特許文献】
【0056】
【非特許文献1】W.R.Vaughan,“Organic Synthesis(有機合成)”,Collective Volume(集合巻)III,pp329−30,(1955)