(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヘリカルギヤを採用した特許文献2のようなスタータでは、前述のように、ピニオンギヤやリングギヤにスラスト力が作用する。このため、特許文献1のように、ピニオンギヤをオーバーランニングクラッチのインナ部材とは別体に形成し、インナ部材に取り付けたピニオンストッパ(Cリング)によって、ピニオンギヤの軸方向への移動を規制する構成のスタータでは、先のスラスト力によってCリングにダメージが発生するという問題があった。また、リングギヤが通常とは逆方向に回転すると、ピニオンギヤをリングギヤ側に引き込む衝撃力が働く場合があり、その際、ピニオンストッパ(Cリング)を変形させてしまうおそれがあるという問題もあった。
【0006】
本発明の目的は、ヘリカルギヤにて形成したピニオンギヤに発生するスラスト力を減殺し、このスラスト力によってCリングが受けるダメージを低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスタータは、電動モータによって回転駆動される出力軸と、前記出力軸に取り付けられ、前記出力軸上を軸方向に移動可能なオーバーランニングクラッチと、前記オーバーランニングクラッチを介して前記出力軸に接続され、前記出力軸の回転に伴って一方向に回転し、前記オーバーランニングクラッチと共に軸方向に移動するピニオンギヤと、を備え、前記ピニオンギヤを軸方向に移動させ、該ピニオンギヤをエンジンのリングギヤに噛合させることにより、前記エンジンを始動させるスタータであって、前記ピニオンギヤと前記リングギヤは、共にヘリカルギヤにて形成され、
該ヘリカルギヤは、前記ピニオンギヤと前記リングギヤの噛合によって、前記ピニオンギヤを前記リングギヤ側に引き寄せる方向に働くスラスト力Ftxが生じるように設けられ、前記オーバーランニングクラッチは、前記出力軸上に取り付けられ軸方向に移動可能なクラッチアウタと、該クラッチアウタとローラを介して接続され前記クラッチアウタと共に軸方向に移動するクラッチインナと、を備え、前記ピニオンギヤは、ヘリカルギヤにて形成されたギヤ部を介して前記クラッチインナに取り付けられ、該ギヤ部は、前記クラッチインナに形成された第1ギヤ部と、前記ピニオンギヤに形成され前記第1ギヤ部と噛合する第2ギヤ部とからなり、前記ピニオンギヤと前記リングギヤの噛合によって生じる
前記スラスト力
Ftxとは反対方向のスラスト力
Ftyを発生させるように、前記第1ギヤ部は前記ピニオンギヤのねじれ方向と同一のねじれの
ヘリカルギヤ、前記第2ギヤ部は前記リングギヤのねじれ方向と同一のねじれの
ヘリカルギヤに形成
されてなることを特徴とする。
【0008】
本発明にあっては、従来一体化されていたオーバーランニングクラッチのクラッチインナとピニオンギヤを分割構造とし、クラッチインナとピニオンギヤとの間にヘリカルギヤにて形成したギヤ部を設け、このギヤ部にて、共にヘリカルギヤにて形成されたピニオンギヤとリングギヤの噛合によって生じるスラスト力とは反対方向のスラスト力を発生させる。これにより、ピニオンギヤに生じるスラスト力が、ギヤ部のスラスト力により減殺され、ピニオンギヤとリングギヤの噛み合いによって生じるスラスト荷重が低減される。
【0009】
前記スタータにおいて、前記第1ギヤ部を、前記クラッチインナに形成された軸方向に延びる円筒状のボス部外周に形成し、前記第2ギヤ部を、前記ピニオンギヤに形成され前記ボス部が挿通可能な軸孔の内周部に形成し、前記ピニオンギヤを、前記ボス部の端部に取り付けられたピニオンストッパによって軸方向に抜け止めするようにしても良い
。
【0010】
前記ギヤ部に生じる前記スラスト力が、前記エンジン始動時に、前記ピニオンギヤと前記リングギヤの噛合によって生じるスラスト力よりも小さくなるように設定しても良い。
この場合、前記ギヤ部に生じる前記スラスト力Ftyが、前記ピニオンギヤを前記電動モータ側に引き戻そうとする方向に作用し、前記エンジン始動時に、前記ピニオンギヤと前記リングギヤの噛合によって生じるスラスト力Ftxよりも小さく設定され、該スラスト力Ftxは、前記スラスト力Ftyによって減殺されるようにしても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスタータによれば、ピニオンギヤとリングギヤを共にヘリカルギヤにて形成したスタータにて、オーバーランニングクラッチのクラッチインナとピニオンギヤとを別体とし、クラッチインナとピニオンギヤとの間に、ピニオンギヤとリングギヤの噛合によって生じるスラスト力とは反対方向のスラスト力を発生させるギヤ部を設けたので、ピニオンギヤとリングギヤとの間に生じるスラスト力を、ギヤ部のスラスト力により減殺することが可能となる。このため、ピニオンギヤとリングギヤの噛み合いによってピニオンギヤとリングギヤの噛み合い部に生じるスラスト荷重が低減され、スラスト力発生に伴うCリングへのダメージを抑えることができ、スタータの耐久性向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるエンジン始動装置の構成を示す断面図であり、中心線より上側は静止状態を、下側は通電状態を示している。
図1のスタータ1は、自動車用エンジンの起動に使用され、駆動源として、電動モータ(以下、モータと略記する)2を備えている。モータ2は減速装置3と接続されており、モータ2の回転は減速装置3を介してドライブシャフト4に伝達される。ドライブシャフト(出力軸)4上には、オーバーランニングクラッチ5とピニオンギヤ6が軸方向に移動自在に設けられている。
【0014】
スタータ1は、マグネットスイッチ7がドライブシャフト4と同軸状に配置された1軸タイプのスタータとなっており、ピニオンギヤ6は、マグネットスイッチ7の作用によって、オーバーランニングクラッチ5と共に軸方向に移動し、エンジンのリングギヤ8と噛合する。ピニオンギヤ6とリングギヤ8はヘリカルギヤに形成されており、静かで滑らかな噛み合い状態となっている。
【0015】
モータ2は、円筒形状のモータハウジング21内にアーマチュア22を回転自在に配置した構成となっている。モータハウジング21はモータ2のヨークを兼ねており、鉄等の磁性体金属によって形成されている。モータハウジング21の右端部には、金属製のエンドカバー23が取り付けられる。一方、モータハウジング21の左端部は、ピニオンギヤ6が収容されるギヤカバー24に取り付けられる。エンドカバー23はセットボルト25によってギヤカバー24に固定され、モータハウジング21はエンドカバー23とギヤカバー24との間に固定される。
【0016】
モータハウジング21の内周面には、周方向に複数個のマグネット26が固定されており、マグネット26の内側にはアーマチュア22が配置される。アーマチュア22は、モータシャフト27に固定されたアーマチュアコア28と、アーマチュアコア28に巻装されたアーマチュアコイル29とから構成されている。モータシャフト27の右端部は、エンドカバー23に取り付けられたメタル軸受31によって回転自在に支持されている。一方、モータシャフト27の左端部は、ピニオンギヤ6等が取り付けられたドライブシャフト4の端部に回転自在に支持されている。ドライブシャフト4の右端部には軸受部32が凹設されており、モータシャフト27はそこに取り付けられたメタル軸受33によって回転自在に支持される。これにより、ドライブシャフト4は、モータ2のモータシャフト27と同軸状に配置される。
【0017】
アーマチュアコア28の一端側には、モータシャフト27に外嵌固定されたコンミテータ34が隣接配置されている。コンミテータ34の外周面には、導電材にて形成されたコンミテータ片35が複数個取り付けられており、各コンミテータ片35にはアーマチュアコイル29の端部が固定されている。モータハウジング21の左端部には、ブラシホルダ36が取り付けられている。ブラシホルダ36には、周方向に間隔をあけて、ブラシ収容部37が複数個配置されている。各ブラシ収容部37にはそれぞれブラシ38が出没自在に内装されている。ブラシ38の突出先端部(内径側先端部)は、コンミテータ34の外周面に摺接している。
【0018】
ブラシ38の後端側には図示しないピグテールが取り付けられており、ブラシホルダ36に設けられた導電プレート41の第1プレート41aと電気的に接続されている。導電プレート41は、この第1プレート41aと、電源ターミナル44と電気的に接続された第2プレート41bとから構成されており、両プレート41a,41bの間には両者間を絶縁する絶縁部41cが設けられている(以下、第1及び第2プレート41a,41bは、それぞれ、プレート41a,プレート41bと略記する)。絶縁部41cには、スイッチプレート43が対向配置されており、導電プレート41(プレート41a,41b)とスイッチプレート43の両電気接点によってスイッチ部42が形成されている。
【0019】
スイッチプレート43はスイッチシャフト45に取り付けられており、エンジンのイグニッションスイッチがONされてマグネットスイッチ7が通電されると、スイッチシャフト45が左方に移動する。スイッチプレート43がプレート41a,41bに接触すると、絶縁部41cが導通しスイッチ部42がON状態となる。これにより、図示しない給電ケーブルが取り付けられた電源ターミナル44とブラシ38との間が電気的に接続され、バッテリからコンミテータ34に電源が供給される。これに対し、イグニッションスイッチがOFFのときは、絶縁部41cが開放されてスイッチ部42がOFF状態となり、導電プレート41とスイッチプレート43の間には空隙が形成され、モータ2への給電が停止する。
【0020】
減速装置3の遊星歯車機構11には、インターナルギヤユニット46とドライブプレートユニット47が設けられている。インターナルギヤユニット46は、ギヤカバー24の右端部に固定されており、その内周側には内歯リングギヤ48が形成されている。インターナルギヤユニット46の中央にはメタル軸受49が内装されており、ドライブシャフト4の右端側が回転自在に支持されている。ドライブプレートユニット47は、ドライブシャフト4の右端部に固定されており、プラネタリギヤ51が3個等分間隔で取り付けられている。プラネタリギヤ51は、ベースプレート52に固定された支持ピン53に、メタル軸受54を介して回転自在に支持されている。プラネタリギヤ51は内歯リングギヤ48と噛合している。
【0021】
モータシャフト27の左端部には、サンギヤ55が形成されている。サンギヤ55はプラネタリギヤ51と噛合しており、プラネタリギヤ51は、サンギヤ55と内歯リングギヤ48との間で、自転しつつ公転する。モータ2が作動すると、モータシャフト27と共にサンギヤ55が回転し、サンギヤ55の回転に伴い、プラネタリギヤ51が内歯リングギヤ48と噛み合いながらサンギヤ55の周りを公転する。これにより、ドライブシャフト4に固定されたベースプレート52が回転し、モータシャフト27の回転が減速されてドライブシャフト4に伝達される。
【0022】
オーバーランニングクラッチ5は、遊星歯車機構11によって減速された回転をピニオンギヤ6に対し一回転方向に伝達する。オーバーランニングクラッチ5は、クラッチアウタ56とクラッチインナ57との間に、ローラ58とクラッチスプリング(図示せず)を配した構成となっている。クラッチアウタ56は、ボス部56aとクラッチ部56bとからなり、ボス部56aは、ドライブシャフト4のヘリカルスプライン部61に取り付けられている。ボス部56aの内周側には、ヘリカルスプライン部61と噛み合うスプライン部62が形成されている。これにより、クラッチアウタ56は、ドライブシャフト4上をヘリカルスプライン部61に沿って軸方向に移動可能となっている。
【0023】
ドライブシャフト4にはストッパ63が取り付けられている。ストッパ63は、ドライブシャフト4に装着されたサークリップ64によって軸方向の移動が規制されている。ストッパ63には、ギヤリターンスプリング65の一端側が取り付けられている。ギヤリターンスプリング65の他端側は、ボス部56aの内端壁66に当接している。クラッチアウタ56は、このギヤリターンスプリング65によって右方向に付勢されており、通常時(非通電時)には、クラッチアウタ56はギヤカバー24に固定されたクラッチストッパ67に当接した位置で保持される。
【0024】
クラッチアウタ56のクラッチ部56b内周には、クラッチインナ57が配置されている。クラッチインナ57は、冷間鍛造によって形成された鋼製部材であり、クロム鋼(例えば、SCr 420H)に浸炭処理を施したものが使用される。クラッチインナ57の内径側にはシャフト孔71が形成されており、シャフト孔71にはメタル軸受72が取り付けられている。クラッチインナ57は、このメタル軸受72を介してドライブシャフト4に回転自在に支持される。一方、クラッチインナ57の内径側にはスプリング収容部73が形成されており、そこには、ストッパ63やギヤリターンスプリング65が収容されている。
【0025】
クラッチインナ57の左端側には、クラッチインナ57と同様の材料・製造方法にて形成されたピニオンギヤ6が取り付けられている。
図2は、ピニオンギヤ6の取付構造を示す説明図であり、本発明のスタータ1では、ピニオンギヤ6とクラッチインナ57が別部材にて分割形成されている。
図2に示すように、クラッチインナ57の左端側には、円筒状のボス部91が軸方向に沿って延設されており、ピニオンギヤ6は、このボス部91の外側に装着される。ボス部91の外周には、ヘリカルギヤにて形成されたギヤ部92(第1ギヤ部)が設けられている。これに対し、ピニオンギヤ6にも、軸孔97の内周部には、ヘリカルギヤにて形成されたギヤ部93(第2ギヤ部)が設けられており、ピニオンギヤ6は、ギヤ部92,93を噛み合わせた状態でクラッチインナ57に取り付けられている。
【0026】
ピニオンギヤ6の内部には、スプリング収容部94が形成されている。スプリング収容部94は円筒状の空洞となっており、その内部には、圧縮コイルばねを用いたピニオンスプリング95が取り付けられている。ピニオンギヤ6は、ボス部91の左端に取り付けられたCリング96によって軸方向に抜け止めされつつ、ピニオンスプリング95によって軸方向に付勢された状態で、クラッチインナ57に取り付けられる。
【0027】
クラッチアウタ56とクラッチインナ57の間には、ローラ58及びクラッチスプリングが複数組配置されている。また、クラッチ部56bの外周にはクラッチカバー68が外装されており、クラッチ部56bの左端面とクラッチカバー68との間には、クラッチワッシャ69が取り付けられている。このクラッチワッシャ69によって、ローラ58及びクラッチスプリングは、クラッチ部56bの内周側に、軸方向の移動を規制された状態で収容される。
【0028】
クラッチ部56bの内周壁はカム面となっており、楔状斜面部と曲面部が形成されている。ローラ58は、通常、クラッチスプリングによって曲面部側に押されている。クラッチアウタ56が回転し、クラッチスプリングの付勢力に抗して、ローラ58が楔状斜面部とクラッチインナ57の外周面との間に挟持されると、クラッチインナ57はローラ58を介してクラッチアウタ56と一体に回転する。これにより、モータ2が作動しドライブシャフト4が回転すると、その回転はクラッチアウタ56からローラ58を介してクラッチインナ57に伝達される。クラッチインナ57の回転は、ギヤ部92,93を介して、ピニオンギヤ6に伝達され、ピニオンギヤ6が回転する。
【0029】
これに対し、エンジンが始動し、ピニオンギヤ6とクラッチインナ57がクラッチアウタ56よりも早く回転すると、ローラ58は曲面部側に移動し、クラッチインナ57はクラッチアウタ56に対し空転状態となる。すなわち、クラッチインナ57がオーバーラン状態となると、ローラ58が楔状斜面部とクラッチインナ外周面との間には挟持されず、クラッチインナ57の回転はクラッチアウタ56には伝達されない。従って、エンジン始動後、エンジン側からより高い回転数でクラッチインナ57が回されても、その回転はオーバーランニングクラッチ5にて遮断され、モータ2側には伝達されない。
【0030】
マグネットスイッチ7は、遊星歯車機構11の左方にドライブシャフト4と同軸状に配置されており、モータ2や遊星歯車機構11とも同心状となっている。マグネットスイッチ7は、ギヤカバー24に固定された鋼製の固定部74と、ボビン78に沿って左右方向に移動自在、すなわち、ボビン78に対し相対移動可能に配置された可動部75とからなる。固定部74には、ギヤカバー24に固定されたケース76と、ケース76内に収容されたコイル77及びケース76の内周側に取り付けられたボビン78が設けられている。コイル77は、図示しないイグニッションスイッチと電気的に接続されている。可動部75には、スイッチシャフト45が取り付けられた可動鉄心79が設けられ、可動鉄心79の内周側にはギヤプランジャ81が取り付けられている。可動鉄心79の外周側(図中下端側)には、スイッチリターンスプリング86が取り付けられている。スイッチリターンスプリング86の他端側はギヤカバー24に当接しており、可動鉄心79は右方に付勢されている。
【0031】
可動鉄心79の内周にはさらに、ブラケットプレート82が固定されている。ブラケットプレート82には、プランジャスプリング83の一端がカシメ固定されている。プランジャスプリング83の他端側は、イグニッションキースイッチがOFFのとき(
図1の上半分の状態のとき)は、ギヤプランジャ81に当接しており、ギヤプランジャ81はプランジャスプリング83によって左方に付勢されている。ギヤプランジャ81はドライブシャフト4に軸方向に移動可能取り付けられており、可動鉄心79の内周面との間には摺動鉄心84が介設されている。
【0032】
ギヤカバー24はアルミダイカストにて形成されており、ギヤカバー24の左端部には、メタル軸受85を介してドライブシャフト4の左端側が回転自在に支持されている。ギヤカバー24内には、合成樹脂製(例えば、ガラス繊維強化ポリアミド)のクラッチストッパ67やケース76等が固定されている。また、ギヤカバー24の右端面側には、モータハウジング21やエンドカバー23がセットボルト25によって固定されている。
【0033】
次に、このようなスタータ1を用いたエンジン始動動作について説明する。まず、自動車のイグニッションキースイッチがOFFされているときは、
図1の上半分のように、ギヤリターンスプリング65の付勢力によって、クラッチアウタ56はクラッチストッパ67に当接した状態にある。このとき、スイッチプレート43は導電プレート41から離れており、モータ2への給電は行われない。また、ピニオンギヤ6は、右方の離脱位置にあり、リングギヤ8とは噛み合っていない状態にある。
【0034】
これに対し、イグニッションキースイッチをONすると、まず、コイル77に電流が流れ、マグネットスイッチ7に吸引力が発生する。コイル77が励磁されると、ケース76及びボビン78を通る磁路が形成され、可動鉄心79が左方に吸引される。可動鉄心79が左方に吸引されると、ブラケットプレート82が左方へ移動し、プランジャスプリング83が押し縮められる。このときのプランジャスプリング83の反発力は、ギヤリターンスプリング65の反発力よりも大きくなるように設定されており、ギヤプランジャ81は、摺動鉄心84に加わる吸引力と、プランジャスプリング83によって左方に押される。これにより、クラッチアウタ56がヘリカルスプライン部61上を軸方向に沿って移動し、それと共にピニオンギヤ6もまた左方へ移動する。
【0035】
一方、可動鉄心79がスイッチリターンスプリング86の付勢力に抗して左方に移動すると、スイッチシャフト45も左方へ移動し、スイッチプレート43が導電プレート41に接触して接点が閉じる。これにより、電源ターミナル44とブラシ38との間が電気的に接続され、コンミテータ34に電源が供給されてモータ2が作動しアーマチュア22が回転する。モータ2が作動し、アーマチュア22が回転すると、遊星歯車機構11を介してドライブシャフト4が回転する。
【0036】
ドライブシャフト4の回転に伴い、ヘリカルスプライン部61に取り付けられたクラッチアウタ56もまた回転する。ヘリカルスプライン部61は、ドライブシャフト4の回転方向を考慮してねじり方向が設定されており、クラッチアウタ56の回転数が増大すると、その慣性マスによって、クラッチアウタ56がヘリカルスプライン部61に沿って左方に移動する。モータ2の回転に伴ってクラッチアウタ56が左方へ飛び出すと、クラッチインナ57とピニオンギヤ6がクラッチアウタ56と共に左方に移動し、ピニオンギヤ6はリングギヤ8と噛合する。
【0037】
すなわち、イグニッションキースイッチONに伴い、ピニオンギヤ6は、まず、ギヤプランジャ81によって左方に押され、その後、モータ2の作動と共に一気に左方に飛び出し、リングギヤ8と噛み合う。これにより、ピニオンギヤ6は、
図1の下半分の状態のような作動位置に移動し、モータ2の回転がリングギヤ8に伝達され、リングギヤ8が回転する。リングギヤ8はエンジンのクランク軸に接続されており、リングギヤ8の回転に伴ってクランク軸が回転し、エンジンが起動する。
【0038】
なお、クラッチアウタ56が左方に移動すると、ギヤリターンスプリング65もクラッチアウタ56に押されて縮められる。また、プランジャスプリング83は、ギヤプランジャ81を左方に押し出し、ピニオンギヤ6とリングギヤ8が完全に噛み合った状態となると解放され、自然長状態となる。このため、クラッチアウタ56に当接した状態のギヤプランジャ81とプランジャスプリング83との間には、
図1の下半分の状態のように、若干の隙間が生じる。
【0039】
一方、ピニオンギヤ6とリングギヤ8はヘリカルギヤに形成されているため、両ギヤにはスラスト力が発生する。スタータ1では、エンジン始動時(ピニオンギヤ6が駆動側,リングギヤ8が被動側)に、
図2の矢示Xの方向、つまり、ピニオンギヤ6がリングギヤ8に引き寄せられる方向にスラスト力(Ftx)が生じるようにヘリカルギヤが形成されている。従って、スタータ1では、エンジン始動の際には、両ギヤに対しX方向にスラスト力(Ftx)が加わる。前述のように、このようなスラスト力は、Cリングにダメージを与えるおそれがあり、スタータの耐久性上好ましくない。
【0040】
これに対し、本発明によるスタータ1は、ヘリカルギヤからなるギヤ部92,93を介して、ピニオンギヤ6がクラッチインナ57に取り付けられている。そして、ギヤ部92,93を形成するヘリカルギヤのねじれ方向が、前述のスラスト力(Ftx)を減殺する方向にスラスト力が生じるように設定されている。すなわち、ピニオンギヤ6(
図2左方側から見てCW回転)とリングギヤ8は、エンジン始動時にX方向へのスラスト力(Ftx)が生じるように、ピニオンギヤ6が左ねじれ、リングギヤ8が右ねじれに形成されている。一方、ギヤ部92,93は、エンジン始動の際、X方向とは逆方向にスラスト力(Fty)が生じるように、クラッチインナ57側のギヤ部92は左ねじれ、ピニオンギヤ6側のギヤ部93は右ねじれ(ピニオンギヤ6とは逆方向)に形成されている。
【0041】
エンジン始動時にピニオンギヤ6がリングギヤ8に噛み合うと、ピニオンギヤ6はリングギヤ8を回転させ、その際、ピニオンギヤ6にはリングギヤ8の回転負荷が加わる。また、ピニオンギヤ6には、前述のスラスト力(Ftx)も作用する。ここで、ピニオンギヤ6は、ヘリカルギヤからなるギヤ部92,93を介してクラッチインナ57に取り付けられており、ピニオンギヤ6にリングギヤ8の負荷が加わり、その状態でクラッチインナ57が回転すると、ヘリカルギヤの作用により、クラッチインナ57が前方方向へ進もうとする。つまり、ピニオンギヤ6の回転が押さえられた状態でクラッチインナ57が回転しようとすると、ギヤ部92,93の噛み合いにより、クラッチインナ57が前進しようとする。
【0042】
このように、ピニオンギヤ6に対してクラッチインナ57が前進しようとすると、その力の反力がピニオンギヤ6に加わり、ピニオンギヤ6をモータ側に引き戻そうとする力が働く。すなわち、ギヤ部92,93の作用により、前述のX方向のスラスト力(Ftx)とは逆方向の力(Y方向:Fty)がピニオンギヤ6に加わる。このため、ピニオンギヤ6とリングギヤ8の噛合に伴うスラスト力(Ftx)が、ギヤ部92,93のスラスト力(Fty)によって減殺される。従って、スラスト力発生に伴うCリングへのダメージを抑えることができ、スタータの耐久性向上を図ることが可能となる。特に、アイドルストップ機能を備えた自動車では、エンジン始動回数が従来よりも大幅に増加するため、スタータの耐久性向上に資する本発明のような構成は非常に有用である。
【0043】
また、リングギヤが通常とは逆方向に回転し、ピニオンギヤ6をリングギヤ8側に引き込む衝撃力が働いた場合も、ギヤ部92,93には、その衝撃力を打ち消す方向にスラスト力が発生する。つまり、スタータ1では、ピニオンギヤ6とクラッチインナ57という1つの構造体の中で、スラスト力が適宜釣り合って減少するようになっている。従って、この様な場合も、スタータ1内に生じるスラスト荷重は、ピニオンギヤ6及びクラッチインナ57の中で低減され、スラスト力によるCリングへのダメージが抑えられる。
【0044】
なお、スタータ1では、ギヤ部92,93に生じるY方向の逆スラスト力(Fty)は、X方向のスラスト力(Ftx)よりも小さくなるように設定されている(Fty<Ftx)。ヘリカルギヤの噛み合いに伴うスラスト力は、ギヤの周速やねじれ角β(tanβ)が大きくなると増大する傾向があり、ギヤ部92,93は、ピニオンギヤ6に比してギヤ径が小さく、その周速も小さくなることから、通常、FtyはFtxよりも小さくなる。また、ヘリカルギヤのねじれ角βを小さくするとスラスト力が小さくなることから、Fty<Ftxとなるよう、適宜各ギヤのねじれ角βを設定しても良い。このように、FtyをFtxより小さくすることにより、エンジン始動時にピニオンギヤ6が後退し、リングギヤ8から抜け出てしまうことを防止できる。
【0045】
エンジンが始動するとピニオンギヤ6は高回転で回転され、オーバーランニングクラッチ5は空転方向に回転される。すなわち、エンジンが起動すると、リングギヤ8によってピニオンギヤ6は高回転で回転されるが、オーバーランニングクラッチ5の作用によりその回転はモータ2側には伝達されない。オーバーランニングクラッチ5が空転方向に回されるとクラッチ内に空転トルクが生じ、クラッチアウタ56には切れトルクと呼ばれる回転力が働く。この回転力により、クラッチアウタ56にはヘリカルスプライン部61を介して右方へのスラスト力が生じ、クラッチアウタ56が右方へ移動しピニオンギヤ6がリングギヤ8から離脱するおそれがある。そこで、スタータ1では、摺動鉄心84に加わる電磁吸引力によって、ギヤプランジャ81を移動左端位置(
図1の下半分参照)にて保持し、クラッチアウタ56の移動を規制する。これにより、ピニオンギヤ6の右方への移動が規制され、ピニオンギヤ6の離脱が抑えられる。
【0046】
一方、エンジンが始動しイグニッションキースイッチがOFFされると、マグネットスイッチ7への通電も停止され、その吸引力も消滅する。すると、スイッチリターンスプリング86の付勢力によってブラケットプレート82が右方に押され、それまでボビン78による吸引力にて左方に保持されていた可動鉄心79が右方に移動する。可動鉄心79が右方に移動すると、スイッチシャフト45も右方へ移動し、スイッチプレート43が導電プレート41から離れ接点が開く。これにより、モータ2に対する給電が遮断され、ドライブシャフト4の回転が停止し、クラッチアウタ56の回転も停止する。
【0047】
クラッチアウタ56の回転が停まると、その慣性マスによる軸方向への移動力も消滅する。このため、押し縮められていたギヤリターンスプリング65の付勢力によって、クラッチアウタ56は、ヘリカルスプライン部61に沿って作動位置から静止位置へと右方へ移動する。このとき、ギヤプランジャ81もクラッチアウタ56に押されて
図1の上半分の状態となる。なお、ギヤリターンスプリング65の付勢力は、この時点におけるプランジャスプリング83の付勢力よりも大きくなるように設定されている。クラッチアウタ56が右方に移動すると、ピニオンギヤ6もまた右方に移動してリングギヤ8から離脱し、
図1の上半分の状態へと戻る。
【0048】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。