(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
注入を下方向及び横方向外側へ向けて行って実質的に全てのスラグ相を撹拌し、スラグ相全体に硫化銅マットを実質的に均一に分散させる、請求項1〜5いずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のプロセスは十分な深さのスラグを用いて行う。十分な深さとは、注入ガスの流れや噴流をスラグ相の下面まで通過させることなく、ランス先端を所要の位置に保ちながらスラグ相内への先端サブマージ注入によってスラグ相を撹拌することが可能な深さである。スラグの実際の深さは多くの因子によって変わり得るが、その例として、炉や反応器のサイズや形状、また、用いるランスの数が1を超える場合には、ランスの数やランス間の空間が挙げられる。スラグの深さは、最小で約500mmから最大で約2mまでの範囲をとり得るが、好ましくは、約700mm〜約1.7mである。
【0008】
本発明における先端サブマージ注入に対する要件及びスラグ相の深さによって、多くの実益がもたらされる。第1の利益は、ブリスター銅相が最初に十分量存在している必要がなく、或いは全く存在していなくてもよいという点で、プロセスの開始が容易なことである。対照的に、エドワーズらのプロセスでは最初にブリスター銅相を必要とするが、これは、ブリスター銅相へ接触させるガスが炉の耐火性ライニングに作用するのを防ぐため、或いは十分な深さのブリスター銅が生成されるまで変更操作モードを用いるためである。
【0009】
先端サブマージ注入に対する本発明の要件の更なる利益は、スラグ相下面上方の十分な高さで注入を行うことができるということである。これによって、サブマージ注入をスラグ相下面に向けて行う必要がなく、下方向及び横方向外側へ向けて行うことができる。従って、スラグ相の中間領域で注入を行うことができ、また、注入が比較的浅く、ランス先端から横方向外側へ向けられている場合には、スラグ相の頂部付近で注入を行うことができる。注入ガスは、ランス先端周囲に角度を成して設けられた複数の流れによって下方向及び横方向外側へ向けることができる。こうして、注入ガスによってスラグ相全体をより容易に撹拌し、スラグ相全体に硫化銅マットを容易に均一に分散することができる。これによってスラグ相を反応媒体として十分に最大限利用することができ、スラグ相内では硫化銅マットを酸化することができるため、プロセスの全体的な操作効率が高まる。従って、本発明のプロセスは、下方向及び外方向への複数の流れを提供するための複数の適切な配向出口(oriented outlets)が設けられた排出口先端を有するランスを用いて行うことができる。しかし、より好ましくは、ランスを通過して注入されるガスの流れをらせん流にする羽根や旋回翼をランスに設けて、ガスとスラグ相との混合、及びスラグ相内での乱流を最大にする。いずれの場合においても、ランスの形状は、注入ガスが放射状注入成分となり、スラグ相内へのガスの分散を促進し、金属相内へのガスの浸透を回避するような形状である。
【0010】
スラグは硫化銅マットをブリスター銅に転化するための反応媒体であるため、スラグ相の量はブリスター銅の生成速度に寄与する因子である。上述の先端サブマージ注入に対する要件によって、所定の反応器で比較的大量のスラグを用いることができるため、ブリスター銅の生成速度は比較的高くなる。対照的に、エドワーズらのプロセスで必要な注入モードにおいては、有効スラグ相量を利用可能なスラグ相量の低い範囲に制限する傾向にある。確かに、エドワーズらのプロセスにおいて、スラグ相の深さは十分ではあるが、スラグ相の上部領域は、ブリスター銅の効率的な生成に対して全体量の内では効果の低い部分となる傾向にあり、上部領域の量はスラグ相の深さが増すにつれて増加する。また、スラグ相の深さが増すと、注入ガスの速度や質量流量の上昇による炉の振動によって生じる問題のリスクが高くなる。
【0011】
先端サブマージ注入に対する本発明の要件の更なる利益は、競争反応の減少である。エドワーズらの提案に反し、連続ブリスター銅相内で銅の酸化を回避することは好ましく、本発明ではこの回避を容易にする。
【0012】
概して、本発明とエドワーズらのプロセスとではスラグ相に関して大きく異なる。エドワーズらは深いスラグ層を用いることを教示しているが、それは、(a)硫化銅マットや銅コンセントレートが溶融しスラグと反応する時間を見越すため、(b)該マットを分散させておくため(但し、該マットとスラグとの反応を最大限にしつつ、該マットとブリスター銅との反応は最小限にすべきである)、そして(c)注入ガスによるスラグの十分な撹拌を確実にしながら、維持された深いスラグ相内で、深く沈められたランスによって注入酸素の十分量(substantial portion)をブリスター銅へ注入するためである。
【0013】
ブリスター銅に十分量の酸素を注入することによって、スラグ相の下部領域にブリスター銅が分散するようになる。しかし、(スラグ内の)マットと(スラグ下部領域に分散する)ブリスター銅との反応は最小限にすべきである。従って、マットがスラグ相の下部領域に到達する前に、実質的に全てのマット或いは十分量のマットが反応してブリスター銅を生成する必要があることは明らかである。しかし、マットをブリスター銅に転化するプロセスにおいては、同時にブリスター銅をブリスター銅相の層からスラグ内のマットが分散する領域へ分散させなければ、マットとブリスター銅との反応を最小限にすることは全く困難である。
【0014】
対照的に、本発明は同様の深さのスラグ相への対応が可能ではあるが、このようなスラグ相を必要としない。また、スラグ相の深さとは関係無く、本発明は、組成の層や勾配が形成されているスラグ相よりも、マットが比較的均一或いは均質に分散しているスラグ相から利益を得ることができる。更に、本発明ではブリスター銅相へ注入する必要がなく、該相を、本発明のプロセスで生成されるブリスター銅を回収することが可能な比較的静かな相として維持することができる。こうして、マットを連続的に転化することによって、本発明のプロセスでは先端サブマージ注入を中断する必要がなく、連続的に或いは間隔を置いてブリスター銅の出湯をかなり容易に行うことができる。
【0015】
上述のように、エドワーズらの提案は、カルシウムフェライトスラグを参照して説明されている。カルシウムフェライトスラグは、好ましくは高度に酸化されており、その主成分として酸化銅、酸化カルシウム、酸化第二鉄及び酸化第一鉄を有し、更にシリカを多少有する。カルシウムフェライトスラグの使用は、最近推奨され認められたものであり、例えば、三菱プロセスの転化段階でのカルシウムフェライトスラグの使用によって説明されている。しかし、銅の転化においてカルシウムフェライトスラグを用いることはかなり困難である。その結果、最近ではケイ酸第一鉄カルシウムスラグの使用が検討されている。
【0016】
カルシウムフェライトスラグは三菱プロセスの転化段階で用いられる。これは、三菱プロセスの最初の溶融段階でケイ酸鉄スラグが用いられ、更にはピアス−スミス転化全体でもケイ酸鉄スラグが用いられているのとは対照的である。カルシウムフェライトスラグは酸化鉄と混合すると、広い均質な液状部分(liquid area)を呈する。これによって、カルシウムフェライトスラグは、転化時に生成する酸化鉄を吸収することができる。こうして、カルシウムフェライトスラグは厄介なマグネタイト析出を防ぐことができるため、マグネタイト析出がケイ酸鉄スラグと共にもたらし得るスラグが泡立つリスクを回避することができる。しかし、カルシウムフェライトスラグはそれ自身の問題を有する。カルシウムフェライトスラグの主な一問題は、その高流動性/低粘性に起因する。また、カルシウムフェライトスラグは過度の耐火物損傷をもたらし、その鉛除去比は低い。更に、ケイ酸カルシウムスラグは相当量の酸化銅を保持しているが、これは、銅回収用の従来のスラグクリーニング炉における浮遊選鉱や還元による後処理に適していない。これによって、得られるスラグの処理が溶融段階への固体としての再生処理(recycling)に制限される。更に、カルシウムフェライトスラグは、供給材料に内在するか或いは汚染によって不注意に導入されたために供給流に存在し、不純物としてプロセスに侵入し得るシリカに対する耐性(tolerance)が低い。カルシウムフェライトスラグに伴う問題の程度は、ケイ酸第一鉄カルシウムスラグへの移行によって反映されるが、これらについては商業的規模での相対試験は行われていない。
【0017】
本発明の重要な形態において、スラグ相は鉄系ケイ酸塩スラグであるが、他のスラグを用いることもできる。鉄系ケイ酸塩スラグは、ケイ酸鉄(ファヤライト)スラグ、石灰変性ケイ酸鉄スラグ或いはケイ酸第一鉄カルシウム(オリビン)スラグであることができる。他のコンテクストでは、鉄系ケイ酸塩スラグシステムの問題が知られている。本発明者らは、このような問題が本発明の使用によって克服或いは回避できることを見出した。また、本発明者らは、鉄系ケイ酸塩スラグの知られた利益が本発明の使用によって維持できることも見出した。従って、本発明のプロセスは当該産業界でよく知られたスラグ相に基づくことができる。また、硫化銅マットの転化においては、本発明のプロセスを該マットを生成する既存の溶融プラントと組み合わせることが可能であり、本発明のプロセスで得られたスラグを再生処理、浮遊選鉱或いは還元によって容易に処理して含有銅を回収することができる。更に、ブリスター銅製品を所要の商業用品質(例えば、低硫黄含量に関して)のものとすることができる。
【0018】
本発明においてスラグ相に用いる好ましい鉄系ケイ酸塩スラグの組成は、エドワーズらによって教示されたカルシウムフェライトスラグとは大きく異なる。これについては、次の表1に示した鉄系スラグの特に好ましい組成範囲を参照して説明する。
【0019】
【表1】
【0020】
本発明をより読み易く理解できるようにするため、添付図面に沿って説明する。
図1は、本発明で好ましく用いられる鉄系ケイ酸塩スラグに関する相平衡図を示す。
図2は、本発明に係る連続転化を可能にする形態を説明するフローシートである。
図3は、本発明に係る先端サブマージ注入ランス反応器の部分切欠斜視図である。
【0021】
本発明の鉄系ケイ酸塩スラグの組成とカルシウムフェライトスラグとの違いを
図1によって更に説明する。
図1には、簡略化したCaO−”FeO
x”−SiO
2酸化物系相平衡図を示す。各スラグ系においてFe
2+及びFe
3+両方のレベルが変わるため、この相平衡図は、Fe
2+及びFe
3+を含む四成分系の二次元三成分投影(two dimensional ternary projection)であることを理解されたい。
【0022】
図1においては、相平衡図の3領域がハイライトされている。第1の領域Aは、エドワーズらのカルシウムフェライトスラグが含まれる領域である。領域Bには本発明で用いる好ましい鉄系ケイ酸塩スラグが含まれ、領域B内の領域Cには本発明で用いる特に好ましい鉄系ケイ酸塩スラグが含まれる。
【0023】
図1に示すように、領域Aは、CaO/SiO
2=5とCaO/SiO
2=10のライン及びCaO/Fe=0.15とCaO/Fe=0.7のラインによって制約されている。領域B及びCの正確な境界は完全には表わされていないが、現在、領域CはFe/SiO
2=1.14とFe/SiO
2=2.11のライン(例えば、1.14〜1.55)によって境界が形成されることが示されている。概して、領域Cは表2に示す組成によって説明される。
【0024】
【表2】
【0025】
このように、本発明で用いることのできる鉄系ケイ酸塩スラグは様々な組成をとり得る。これによって、現地で入手可能なフラックスと共に用いるのに最適なスラグ組成に基づいて、或いは、転化プロセスを実施する装置へ供給するマット中の不純物レベルに合わせて特定の転化操作を行うことができる。
【0026】
上述のように、カルシウムフェライトスラグへの移行(例えば、三菱プロセスやその後のエドワーズらの提案)は、マグネタイト析出によるスラグの泡立ちリスクをある程度回避するためのものであった。カルシウムフェライトスラグはマグネタイトに対する溶解限度(solubility limit)が比較的高いため、カルシウムフェライトスラグによって泡立ち発生の傾向を抑制することができる。一方、鉄系ケイ酸塩スラグはマグネタイトに対する溶解度は低いが、本発明のプロセスで用いての泡立ちリスクを低下させることができる。これは、主に先端サブマージ注入に対する本発明の要件に起因すると考えられる。即ち、先端サブマージ注入によって、撹拌やスラグ相内でのマットの分散に関してより均一或いは均質なスラグ相がもたらされる。また、ブリスター銅相へガスを注入しないことによって、本発明では、スラグ/金属エマルジョンから成る第3の相が生成するリスクが低下すると共に、この相がスラグ泡立ちを引き起こすリスクも低下する。
【0027】
マグネタイト形成を抑制或いは防止するよう機能する適切な還元剤を添加することによって、本発明のプロセスにおいて泡立ちのリスクを更に低下させることができることが見出された。塊炭(lump coal)は、サブマージ注入による撹拌下でスラグが塊炭に対し回転運動することができるようにスラグ表面に浮遊する傾向がある点で適切な還元剤である。塊炭の添加はエドワーズらによって提案されている。しかし、この添加は、ブリスター銅中の所定の硫黄含量に対してスラグの銅含量を低下させるために行っており、マグネタイト形成を防止して泡立ちのリスクを低下させるためのものではなく、エドワーズらはスラグの選択によってこのリスクを回避している。
【0028】
連続転化を可能にする形態で本発明を説明するフローシートを
図2に示す。このフローシートには、11で示すように銅供給物(copper feed)を受け入れる溶融/沈降炉10が示されている。本発明に従って作動可能な転化炉12も示されている。溶融/沈降炉10は、硫化銅コンセントレートを含む銅供給物を溶融し、銅マット生成物及びスラグを生成するのに適切なものである限り如何なるタイプであってもよい。炉10で生成されたスラグは14で示すように廃棄することができ、又は更なる処理にも適している。溶融後、マットとスラグを沈降させ、スラグを廃棄し、マットを16で示すように転化炉12へ通過させることができる。溶融/沈降炉10は適切なものである限り如何なるタイプでもよいが、転化段階用の炉12としては先端サブマージランス反応器を用いる。
【0029】
炉10で生成され炉12に移されたマットは、転化によってブリスター銅を生成するのに適切である限り如何なるグレードであってもよい。通常、銅は30%〜70%の範囲であり、FeやSのレベルは様々である。炉12における転化段階のための供給物は、炉10における初期の溶融/沈降操作で生成されたものが好ましく、炉10内においては、十分な時間に亘って連続転化が可能なように十分量のマットが生成される。こうして、十分量に達するまでマットを貯蔵することができる。しかし、他の源から更なるマットを得てもよい。
【0030】
転化用のマット供給材料は、炉12を有する先端サブマージ反応器の頂部に設けられた投入口を経由させて炉12に供給してもよく、専用のランス或いは特殊なランスを経由させて供給してもよい。供給材料に必要とされるのは選択された供給手段によって搬送可能な適切なサイズのみであり、供給材料を乾燥する必要はない。マット供給材料は、例えば、コンセントレート溶融後に溶融/沈降炉10で得られた生成物として造粒されているのが好ましい。しかし、マット供給材料の少なくとも一部は熱溶融状態で溶融/沈降炉10から供給されてもよい。
【0031】
更に、他の銅含有材料(例えば、リバート(reverts)やスクラップ)を炉12に投入して含有銅を効率的に回収することもできる。このような操作を用いてプロセス温度を制御することもできる。しかし、プロセス温度は、少量の燃料の添加をサブマージランス経由の注入或いはスラグへの投入によって行うことにより追加的に又は選択的に(additionally or alternatively)制御してもよい。
【0032】
炉12でマットを転化するプロセスにおいては、18で示すように炉12からブリスター銅生成物を得るために、マット内に存在するFeやSを次のような酸素を用いた反応によって除去する。
2FeS+3O
2 → FeO+2SO
2 ・・・(1)
3FeS+5O
2 → Fe
3O
4+3SO
2 ・・・(2)
Cu
2S+O
2 → 2Cu+SO
2 ・・・(3)
Cu
2S+2O
2 → 2Cu
2O+SO
2 ・・・(4)
こうして、鉄はスラグ内で酸化鉄となり(reports as)、Sは転化炉オフガス流内でSO
2となる。
【0033】
転化操作時の重要な2因子は、(i)スラグ化学(slag chemistry)及びスラグへの銅のロスと(ii)ブリスター銅の最終品質である。
【0034】
スラグ化学に関しては、ピアス−スミス転炉における通常の転化操作ではシリカを添加して溶融ケイ酸鉄(ファヤライト)スラグの形成を促進している。マットから酸化された鉄がこのスラグに取り込まれ、固体マグネタイト相の形成を抑制する。固体マグネタイト相の量が多いとこのスラグが機能しなくなり、その結果、スラグへの物理的な銅の取り込み及び銅の溶解性に起因して銅のロスが多くなるおそれがある。
【0035】
本明細書に記載のように、本発明では、炉12を有する反応器における転化時には先端サブマージ注入モードを用いており、これによって、ケイ酸鉄スラグを敬遠する動きに少なくとも一部寄与していた該スラグに認められる問題が回避或いは克服される。従って、本発明では鉄系ケイ酸塩スラグ(例えば、ファヤライトやオリビン組成物)を用いるのが好ましい。上で詳述したように、このようなスラグは大きな利益をもたらす。
【0036】
本発明者らの試験によって、十分に制御された鉄系ケイ酸塩スラグ(例えば、ファヤライト型スラグ)であれば、スラグ中の銅のレベルを許容し得る程度にすることが可能であることが分かった。これは特に、実線20で示すように炉12から炉10へスラグを再利用する場合に可能である。再利用されるスラグ中の銅の実際のレベルとは関係なく、銅を含むスラグは、本明細書で後述するように更なる処理によって容易に回収することができる。また、上で詳述したように、本発明者らの試験によって、スラグの泡立ちを防止或いは少なくとも制御できることも分かった。
【0037】
上述したように、製品としてのブリスター銅の品質は重要である。処理後のブリスター銅内に残存する硫黄のレベルは重要であり、そのレベルが非常に高い場合には、硫黄除去のために下流で更なる処理が必要となる。ブリスター銅中のSのレベルとスラグ中の銅のレベル(the level of copper reporting to slag)との間には重要な関係がある。これらのレベルは、硫黄を所望のレベルまで除去するのに必要な酸素ポテンシャルに関連すると共に、上で詳述した反応(4)によって銅の一部を過剰酸化してCu
2Oとしてのスラグとする作用にも関連する。本発明に従ってパイロットプラント運転を行って得られた結果から、表3に示すように、ブリスター銅中のSのレベルが良好になると共に、スラグ中のCuのレベルを低くすることができることが分かった。表3の各実施例においては、表2に示す、対応する各実施例番号のスラグ組成を用いてパイロットプラント運転を行った。
【0038】
【表3】
【0039】
エドワーズらのプロセスは、ブリスター銅中の硫黄のレベルがランス先端位置によって影響されることを特徴とする。このプロセスでは、ランス先端をスラグ相とブリスター銅相との界面にできるだけ近づける必要がある。本発明においては、上で詳述したようにランス先端の位置は重要ではあるが、ブリスター銅製品の品質を良好にする上での大きな因子ではない。
【0040】
上述したように、炉12から得たスラグを炉10へ再循環させることによってスラグの銅成分を回収することができる。しかし、
図2に示す他の配置においては、破線22で示すように炉12から得たスラグを濃縮装置24へ通すことができる。装置24においては、炉12から受け取ったスラグをスラグ清浄段階、粉砕段階及び浮遊選鉱段階で処理して銅コンセントレートを生成することができ、更に銅コンセントレートを還元溶融して26で示す銅製品と28で示す廃棄可能スラグとを生成することができる。
【0041】
図3は、
図2の炉12を有する反応器として用いるのに適した先端サブマージランス反応器30を示す。反応器30は、鋼製の外殻32と内部耐火性ライニング34とを有する直立円筒状本体から成る。反応器12は更に、オフテイク煙道38につながる非対称テーパー状上部36を有する。
【0042】
反応器30はテーパー状上部36の上面領域(upwardly facing region)に投入口40を有し、そこから供給材料を反応器の内部42に投入することができる。投入口40には、材料を反応器30に投入しながら内部42から投入口40を経由する反応器ガスのロスを最小限に抑えることのできる調節可能な供給手段(図示せず)を設けるのが好ましい。反応器30は投入口40付近に筒状ハウジング44を有し、そこには長尺の先端サブマージ注入ランス46が挿入されている。また、反応器30はその底部付近に出湯口48を有する。
【0043】
反応器30を用いる際には、反応器30内に含まれる溶融スラグ50にランス46の下部排出端を沈める。ランス46を通して酸素含有ガスを供給し、スラグ50内に酸化性ガスの噴流52を発生させ、スラグを撹拌する。硫化銅マットは投入口40を経由させて或いはランス46で注入するガスに取り込んで反応器に投入するか、又はこれら2種類の投入方式を組み合わせて投入する。いずれの場合においても、硫化銅マットは塊や顆粒54として撹拌スラグ50全体に分散する。こうして、マット54は注入ガスの酸素成分に曝露されて反応し、ブリスター銅滴を形成する。ブリスター銅滴はスラグ50を通って落下し、スラグ下方で連続ブリスター銅相56として集められる。
【0044】
硫化銅マット54をブリスター銅56に転化する際には、ランス46の垂直位置を制御する必要がある。上述のように、ランス46の下端は撹拌スラグ相に沈んでいる。従って、ランス46の下部排出端からの噴流52はスラグ相内に注入される。図示した装置において、ランス46はその排出端に角度を成して配置された複数の出口ノズルを有し、各出口から噴流52が排出される。この装置では、噴流52が互いに下方向及び横方向外側へ分岐するようになっている。他の装置においては、噴流52は分岐する必要はなく、下方向だけに向かうものでもよく、下方向或いは横方向と下方向とに向かう単一の噴流であってもよい。いずれの場合においても、このような装置では、スラグ50が撹拌され、マット54がスラグ50全体に分散し、注入ガスの酸素成分がマット54と反応してブリスター銅滴が生成されるようにすべきである。しかし、スラグ相内のランス46の排出端は、十分量の注入ガスが連続ブリスター銅相52と接触しないようにすべきである。
【0045】
本発明の要件である、十分量の注入ガスが連続ブリスター銅相52と接触しないようにすることとは、注入ガスの流れが連続ブリスター銅相に浸透しないようにすることである。従って、少量の注入ガスが連続ブリスター銅相の表面上を通り抜けてもよいが、注入ガスの噴流をスラグ相と連続ブリスター銅相との界面を超えて通すべきではない。注入ガスの噴流がこの界面に直接接触或いは衝突するのを完全に防止するようにランス先端の位置が定められていることが好ましい。
【0046】
スラグ相を適切な深さに維持し、転化反応時にスラグ酸化物比を維持すると共に、スラグの定期的な出湯を可能にするため、反応器30にフラックスを投入する必要があることは理解されるであろう。フラックスは、硫化銅マットの供給と共に或いはこれとは別に、投入口40及び/又はランス46を経由させて投入することができる。
【0047】
本発明において、スラグ相50は鉄系ケイ酸塩スラグ(例えば、ファヤライトスラグやオリビンスラグ)から成るのが好ましい。このスラグは、例えば、表2に記載の実施例のいずれか1種と同様の組成を有することができる。このようなスラグを用いて泡立ちのリスクを低下させることができるが、石炭を投入口40経由で反応器30に添加することによって泡立ちのリスクを更に低下させることができる。石炭はスラグ相50上に浮遊可能な塊として供給するのが好ましい。ランス46経由の注入によるスラグの撹拌によって、スラグが浮遊塊炭に対して十分に回転し、その結果、石炭の還元作用によってスラグ相50内でのマグネタイトの形成が抑制或いは防止される。
【0048】
最後に、本発明の精神や範囲を逸脱することなく、上述の部品の構成や配置に対して様々な変更、修正及び/又は追加を導入することができることは理解されるであろう。