【実施例】
【0059】
<実施例1>
以下の説明において、詳細なプロトコルが提供されていないすべての分子生物学の実験は、標準的プロトコルに従って実施される。
【0060】
概要
背景および目的:β-カテニン/Tcf-4転写複合体の異常な活性化は、結腸クリプトにおける分化から増殖へバランス移動する結腸直腸発癌に関する初期事象となる。ここで、本発明者らは、この複合体の標的遺伝子にコードされる内因性プロガストリンが、次いで、APC変異細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4活性を調節できるかどうかを評価し、インビボで腸の腫瘍増殖に及ぼす局所のプロガストリン欠失の影響を分析した。
【0061】
方法:
プロガストリンを過剰発現するが、アミド化またはグリシン伸長ガストリンは過剰発現しないヒト腫瘍細胞およびヘテロ接合Apc変異(APCΔ14)を有するマウスにおいて、GAST遺伝子の安定なまたは一時的なRNAサイレンシングを導入した。
【0062】
結果:
内因性プロガストリン産生の欠失は、腫瘍細胞において、構成的β-カテニン/Tcf-4活性の著しい阻害により、インビボでの腸の腫瘍増殖を大きく低下させる。この作用は、プロガストリン欠失細胞におけるインテグリン結合キナーゼ(ILK)の下方制御に起因するβ-カテニンおよびTcf-4の阻害物質(ICAT)のデノボ発現により媒介された。したがって、ICATの下方制御は、ヒト結腸直腸腫瘍におけるプロガストリンの過剰発現およびTcf-4標的遺伝子の活性化に関連しており、ICAT抑制は、腫瘍傾向性のプロガストリン過剰発現マウスの結腸上皮に検出された。APCΔ14マウスにおいて、siRNAに媒介されたプロガストリン欠失により、腸腫瘍のサイズおよび数が減少しただけでなく、残留腺腫におけるゴブレット系分化および細胞アポトーシスが増加した。
【0063】
結論:
したがって、内因性プロガストリンの欠失は、ICAT発現を促進し、それによってTcf-4活性に対抗することにより、インビボでAPC変異CRC細胞の腫瘍形成を阻害する。プロガストリン標的化方法は、結腸直腸癌の分化療法に関して、大いに有望な見通しを提供するはずである。
【0064】
序論
腫瘍細胞の分化誘導によって腫瘍の発達を減少させることを目指す種々の方法が近年開発されており、動物モデルおよびヒト患者においてきわめて有望な結果を提供している。特に、全トランスレチン酸の使用は、急性前骨髄球性白血病の治療にきわめて有用であることが実証されており(Lallemand-Breitenbachら、2005年;WangおよびChen、2000年)、進行した甲状腺癌において腫瘍分化させる有望な方法と考えられている(Coelhoら、2005年)。腸においては、細胞の増殖と分化の制御に関与する2つの主要な経路、すなわち、NotchカスケードおよびWnt/β-カテニン/Tcf-4経路を調節する薬剤に対して、大きな希望が寄せられている(RadtkeおよびClevers、2005年;van EsおよびClevers、2005年)。
【0065】
しかし、NotchとWntの活性化の間の微調整された相互作用は、腸のクリプトのホメオスターシスにとって重要であるため、結腸腫瘍におけるこれらのシグナル伝達経路の直接的な標的化を目指すアプローチは、腸全体の生理に対して有害な作用を及ぼす可能性が高い。腫瘍細胞において選択的に活性化されているか、または強く刺激されている一方、周囲の組織には存在しないか、または非活性である標的を特定する能力から、このような方法が大きな利益を得ることが理想的である。腸の腫瘍細胞において特に活性化された標的の中で、グリシン伸長ガストリンおよびプロガストリンなどの部分的に処理されたガストリン遺伝子(GAST)産物は、腫瘍増殖の選択的標的化にとって興味深い見通しを提供する。実際、GAST遺伝子それ自体が、結腸直腸癌において活性化され相乗的に作用することの多い2つの経路(Janssenら、2006年)、Tcf-4およびK-Ras双方の標的であり(Chakladarら、2005年;Kohら、2000年)、これらのGAST由来のペプチドは、腫瘍細胞上のオートクリン/パラクリンループを介して増殖を刺激すると考えられる(Hollandeら、1997年;Hollandeら、2003年)。Gglyの増殖効果は、この数年の間に発見され(Sevaら、1994年)、より最近では、プロガストリンが増殖を刺激し(Ottewellら、2005年;Singhら、2000年)、上皮の細胞/細胞接着および移動を調節すること(Hollandeら、2003年;Hollandeら、2005年)が示された。また、GAST遺伝子の欠失標的化された動物を用いた実験からは矛盾した結果が出ている。実際、この欠失により、化学的発癌物質、アゾキシメタンにより誘導された腫瘍形成が強く増強され(Cobbら、2002年)、他方、APC
+/minマウスの遺伝子背景におけるポリープ数の減少がもたらされた(Kohら、2000年)。しかし彼らは、これらのペプチドの機能を欠損させて、予め存在している腫瘍の増殖を緩徐化または反転させる治療の可能性についての知見はほとんど提供していない。プロガストリンが、ヒト結腸直腸腫瘍および腫瘍細胞系のほぼ80%でかなりの量が産生され分泌されている一方、生理学的条件下では、その分泌がほとんど検出レベル未満に低下することは重要である(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)。したがって、Wntシグナル伝達経路の構成的活性化が、散発性CRC、ならびに腺腫性ポリープ症の遺伝性病態の特徴を表している(Foddeら、2001年)ため、また、GAST遺伝子がそれ自体、Tcf-4の標的であるため、本発明者らは、プロガストリンが次に、APC変異に駆動された腫瘍形成を調節することが可能かどうか、および標的プロガストリンが腸の腫瘍増殖を減少させる関連方法となり得るかどうかを調べた。
【0066】
本発明者らは、RNA干渉媒介プロガストリン欠失が、インビボで、APC遺伝子の変異に誘導された腫瘍増殖を抑制できたことを示す。次いで本発明者らは、この抑制が、腫瘍細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4転写活性のレベルを、APC変異によって引き起こされたその構成的活性化にかかわらず調節するプロガストリンの能力を反映したことを実証する。β-カテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のデノボ発現は、β-カテニン/Tcf-4転写経路の阻害およびプロガストリン欠失腫瘍細胞における腫瘍形成の減少に役立っており、一方、ICATの抑制は、プロガストリン過剰発現マウス結腸粘膜、ならびにヒトおよびマウスの腸腫瘍において検出された。最後に、GAST特異的siRNAによる治療は、インビトロで、ヒトCRC細胞のみならず、Apc遺伝子のヘテロ接合変異を有するマウスのプロガストリン分泌腸腺腫のゴブレット細胞系への最終分化を誘導した。
【0067】
結果
プロガストリン欠失は、インビボで、APC変異により誘導された腫瘍増殖を反転させる。
既存腫瘍における内因性プロガストリンの選択的標的化を目指す方法が、インビボで、Tcf-4に促進された腫瘍増殖に拮抗することができるかどうかを評価するために、結腸直腸細胞系SW480からのBalbc/ヌードマウス異種移植(Morinら、1997年)、ならびに自然発生腸腫瘍形成のマウスモデル、APCΔ14(Colnotら、2004年)を用いた。大多数のヒト結腸直腸腫瘍に見られる(Korinekら、1997年)のと同様に、これら2種の実験モデルは、APCの変異を有し、その結果、β-カテニン/Tcf-4経路の構成的活性化を示す。
【0068】
対照のSW480/βgal
(-)およびDLD-1/VO細胞は、高プロガストリンレベルを発現するが、ガストリンのアミド化およびグリシン伸長形態はほとんど発現しないことが示された(表1)。Balbc/ヌードマウスにおける皮下注射7週間以内に、これらの細胞は、大型の腫瘍を生じた(
図1B)。対照的に、GAST遺伝子に特異的な短ヘアピンRNA(shRNA)の安定な発現によってプロガストリンの分泌が下方制御された場合、同じタイムスパン内で腫瘍を形成する能力は大きく低下した(SW480/GAST
(-)細胞、
図1A〜1B)。以前に特徴づけされた(Hollandeら、2003年)、アンチセンスGAST遺伝子cDNAを発現するDLD-1結腸直腸癌細胞の注入後、同様な結果が得られた(
図1B)。
【0069】
【表1】
【0070】
次に本発明者らは、APCΔ14マウスを用い、より病理学的に関連した文脈で、プロガストリン阻害が既存の腸腫瘍の増殖を減少させることを実証した。これらの動物は、ヒトの家族性腺腫性ポリープ症および散発性結腸直腸癌患者に見られるものと同様の、Apc遺伝子の切断変異を有する。これらの動物はまた、回腸に自然発生の腫瘍を発現させるが、APCmin
+/-モデルより多くの結腸腫瘍もまた発現させるため(Colnotら、2004年)、これらの患者に見られる腸上皮表現型を部分的に再利用する。3カ月齢のAPCΔ14マウスは、回腸および結腸に常に複数の腺腫を示し(データは示していない)、これらの腺腫において、プロガストリン濃度が上昇しているのが見られるが、アミド化またはグリシン伸長ガストリンでは見られない(
図S1)。したがって、これらの動物は、Tcf-4に促進された腫瘍増殖に対するプロガストリン調節の役割を具体的に試験するための理想的なインビボモデルを本発明者らに提供した。
【0071】
以前、マウスの細胞に有効であることが示された(
図S1)マウスGAST遺伝子に特異的なsiRNA(APCΔ14/GAST
(-))による毎日2週間の処理により、ルシフェラーゼに特異的なsiRNA(APCΔ14/Luc
(-))による処理後に見られたものと比較して、腸腺腫におけるGAST遺伝子およびプロガストリン発現の減少が誘導された(
図1C〜1D、およびS1)。APCΔ14/GAST
(-)動物の腸において、GAST発現の減少に関連し、対照に比較して、腫瘍サイズの有意な減少が検出された(カイ平方、p<0.0001、1群当たりn=9)。この減少は特に回腸で著しかった(
図1C)が、結腸でも、この領域に位置した腫瘍数が少なかったために有意には達しなかったものの同様の傾向を見ることができた(フィッシャーの精密検定、p=0.228)(
図1D)。また、対照動物に比較して、APCΔ14/GAST
(-)マウス全体で、腸の腫瘍総数の20%の減少が検出された。特に、この減少は、APCΔ14/GAST
(-)群の2匹の動物で激しく、回腸または結腸に腫瘍が無かった。対照的に、GAST特異的なsiRNA処理では、同一群の1匹のマウスにおけるGAST遺伝子レベルを下方制御することはできず、この動物は対照に見られるのと同様な腫瘍数および腫瘍サイズを示した(
図1C)。したがって、プロガストリン産生のsiRNA媒介下方制御の効率はAPCΔ14/GAST
(-)動物の間で変わるが、腫瘍のサイズおよび数は、プロガストリン濃度の低下を示すマウスでは一貫して減少した。
【0072】
以上をまとめると、これらの結果は、プロガストリンの分泌が、APC変異ヒトCRC細胞の腫瘍形成にとって必須であり、インビボでプロガストリン産生を阻害する処理により、腺腫性ポリープ症の早期およびヒト結腸直腸腫瘍形成を反復するマウスモデルにおける腫瘍増殖が大きく減少したことを示している。
【0073】
プロガストリンは、APC変異腸腫瘍細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4転写活性のレベルを調節する。
プロガストリン標的化により、2つの異なるAPC変異腸腫瘍モデルにおける腫瘍増殖が抑制されたことを示したので、この効果が、APC変異によって構成的に活性化されることが知られているβ-カテニン/Tcf-4転写複合体の活性レベルを調節するプロガストリンの能力によるものであったと本発明者らは仮定した。ルシフェラーゼレポーター遺伝子の転写によって定量化されたこの活性(TOP/FOP)(Korinekら、1997年)は、対照細胞(SW480/βgal
(-))において実際に上昇したが、プロガストリン欠失クローン(
図2A)においては、β-カテニンまたはTcf-4レベルの検出可能な調節なしで(
図S2)、有意に阻害された。同様な結果が以前に確立された(Hollandeら、2003年)アンチセンスGAST cDNAを発現するDLD-1細胞において得られた(
図S2)。5nMの組換えプロガストリン、また、SW480/GAST
(-)クローンにおけるコドン最適化したshRNA非感受性プレプロガストリン構築体の発現によって産生された内因性プロガストリンによる処理によって、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の高レベルの転写回復が見られ、プロガストリンがこの転写経路を刺激する能力があることが確認された(
図2A)。また、SW480/GAST
(-)細胞におけるTcf-4および脱リン酸化β-カテニンの核量の顕著な減少および5nMの組換えプロガストリンによるこれらの細胞の処理に関連したβ-カテニン/Tcf-4活性の減少によって、β-カテニンおよびTcf-4の核区画化が部分的に回復することが、免疫蛍光染色により示された(
図2B)。同様に、いくつかのTcf-4標的遺伝子(c-myc、サイクリンD1、Sox-9およびクローディン-1)(Blacheら、2004年;van de Weteringら、2002年)の発現が、プロガストリン欠失後に強く下方制御され、プロガストリンの再発現または組換えペプチドによる処理により有意に刺激された(
図2CおよびS3)。対照的に、アミド化またはグリシン伸長ガストリン17またはアミド化ガストリン(CCK-B)受容体アンタゴニストL365、260による処理は、これらの細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4活性に影響を与えることはなく(
図S2)、ガストリンの短い処理形態は、これらの細胞におけるプロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4活性の調節を模することができないことが示されている。
【0074】
SW480 CRC細胞によって産生されたプロガストリンが、β-カテニン/Tcf-4複合体の活性を刺激することが、上記のデータにより明らかに実証される。上記のデータはまた、プロガストリン産生のブロックにより、APC変異細胞における構成的活性化にかかわらずこの転写経路の強力な阻害がもたらされることを示している。
【0075】
β-カテニンおよびTcf-4の阻害物質(ICAT)は、プロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4活性の調節を媒介する分子スイッチである。
使用されるCRC細胞におけるAPC遺伝子の変異状態から考えて、また、Tcf-4およびβ-カテニンの核区画化がプロガストリン欠失細胞において有意に変化すること(
図2A)から、β-カテニン/Tcf-4活性の減少は、β-カテニンとそのもう一方のパートナーとの相互作用の増加に起因し得ると本発明者らは仮定した。これらのパートナーの1つ、ICAT(β-カテニンおよびTcf-4の阻害物質)は、これら2種のタンパク質間結合の直接的阻害物質として最近同定され(Tagoら、2000年)、DLD-1細胞およびSW480細胞において過剰発現された場合、増殖減少および細胞死増加の原因である(Sekiyaら、2002年)。プロガストリンの欠失により、SW480/GAST
(-)細胞におけるICATのmRNAおよびタンパク質の強力な発現が誘導された(
図3AおよびB)が、β-カテニンのもう一方の結合パートナーであるE-カドヘリンの発現は影響を受けなかった(データは示していない)。shRNA非感受性プレプロガストリンcDNAの再発現(
図3AおよびB)により、ならびに5nMの組換えプロガストリンによる処理後(データは示していない)、ICATのデノボ抑制が誘導された。
【0076】
また、ヒトプロガストリンの組織特異的腸過剰発現を示す遺伝子導入マウス(Tg/Tg)の結腸上皮におけるICAT発現(Cobbら、2004年)は、それらの野生型同腹仔に検出されるものよりはるかに弱い(
図3C)。これらのマウスにより発現したプロガストリンは、変異しており、したがって、処理酵素に非感受性であるため(Cobbら、2004年)、この結果は、完全長プロガストリンもまた、インビボでICAT発現を下方制御できることを示している。
【0077】
このように、内因性プロガストリンは、インビトロおよびインビボでICAT発現を抑制することができ、CRC細胞におけるプロガストリン欠失は、この阻害物質の強力なデノボ発現を誘導するには不十分である。
【0078】
したがって、本発明者らは、CRC細胞において、ICATが実際にプロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4の調節に関与する分子標的であるかどうかを調べた。共免疫沈降を用い、プロガストリン欠失SW480/GAST
(-)細胞において、脱リン酸化β-カテニンとICATの細胞質同時局在化の出現(
図4B)と並行したこれら2種のタンパク質間結合の有意な増加を検出した(
図4A)。対照的に、脱リン酸化β-カテニンとTcf-4との共免疫沈降の量は、SW480/β-gal
(-)に比較して有意に減少した(
図4A)。次に、組換えプロガストリンによるSW480/GAST
(-)細胞の処理後、β-カテニンは再びTcf-4に優先的に結合し、一方、ICATに対する結合およびこれら2種のタンパク質の同時局在化は減少した(
図4A〜4B)。
【0079】
プロガストリン欠失細胞におけるICATの再発現が、機能的にβ-カテニン/Tcf-4転写活性阻害の原因であったことを確認するために、レトロウイルスに駆動されたshRNA発現を用いて、SW480/GAST
(-)細胞におけるICATのmRNAおよびタンパク質のデノボ発現を実験的に阻止した(
図S4)。得られたSW480/GAST
(-)/ICAT
(-)細胞において、β-カテニン/Tcf-4転写複合体の活性化回復が見られ(
図4C)、それはまた、Tcf-4標的遺伝子の発現増加も示していた(
図4D)。次に、SW480/GAST
(-)/ICAT
(-)細胞におけるICAT cDNAのコドン最適化型の過剰発現により、この増加が阻止され(
図4C、4DおよびS4)、この過程におけるICATの特異性が示された。
【0080】
これらの結果により、ICAT発現レベルの調節が、プロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4活性調節の基礎をなす主要な分子事象であることが示される。
【0081】
インビボで、APCΔ14動物のプロガストリン過剰発現腸腫瘍において、低ICATレベル(
図5Aおよび5C)およびTcf-4標的遺伝子の高い発現(
図5B〜5C、および
図S5)が検出された。対照的に、GAST
(-)特異的siRNAによって処理されたマウスから採取された腺腫において、Tcf-4標的遺伝子の強力な抑制と同時に、ICAT発現が有意に増加した(
図5A〜5C)。興味深いことに、APCΔ14/Luc
(-)マウスの肉眼的に健常な上皮におけるサイクリンD1、c-MycおよびCD44の発現が、GAST
(-)動物に比較して増加するのが見られ、単一Apc対立遺伝子の変異が、APCΔ14腸における標的遺伝子の発現を部分的に増加させる上で十分であること、およびこの前癌設定では、プロガストリン欠失がTcf-4活性の減少にすでに有効であることが示唆された(
図5Bおよび
図S5)。
【0082】
また、CRCを有する23名の患者から得られた、顕微切開されたヒト結腸腫瘍およびマッチする健常サンプルにおけるGAST mRNAのレベル(
図S6)は、被験患者の78%の腫瘍(18/23)において、種々の程度で増加しており(
図5D、上のグラフ)、一方、対応する腫瘍サンプルにおいてICAT発現が下方制御された(
図5D、下のグラフ)。GAST遺伝子発現増加とICAT抑制との間には全体的に統計的に有意な相関が見られ(スピアマンの相関係数:r=-0.46、p=0.027)、インビボでのICATのプロガストリン誘導抑制の関連性を実証していた(
図5D、挿入図)。低(例えば、患者22)または高(例えば、患者4)プロガストリン発現を有する患者からのサンプルに対する免疫組織化学により、この関連性が確認され、高プロガストリンレベルを発現する腫瘍においてはICATが抑制されており、Tcf-4標的遺伝子に対する免疫反応性が強いことが示された一方、これらの発現パターンは、低プロガストリンを有する腫瘍において反転した(
図5E)。免疫組織化学により試験された11名の患者すべてからのCRCサンプルについて同様の結果が得られ、この相関は、インビトロで見られたICATレベルとβ-カテニン/Tcf-4活性との間の相関反転とよく似ている。
【0083】
APC変異細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4複合体の構成的活性化にかかわらず、この経路の活性は、インビボおよびインビトロで、阻害物質ICATの再発現を介したプロガストリン欠失により阻害され得ることを、これらの結果は全体として実証している。本発明者らの知見では、これらの結果はまた、以前腫瘍サプレッサーとして記載された(DanielsおよびWeis、2002年)Tcf-4に対するβ-カテニン結合の小型阻害物質であるICAT(Tagoら、2000年)のホルモン性調節の最初の実証も提供する。
【0084】
CRC細胞におけるICAT発現の回復は、プロガストリン欠失により誘導された腫瘍形成減少の原因である。
結腸の腫瘍形成におけるβ-カテニン/Tcf-4転写活性の構成的活性化によって果たされる必須の役割から考えて、また、プロガストリン欠失腫瘍細胞において、ICATの再発現がTcf-4媒介転写減少の原因であることを本発明者らの結果が示したことから、本発明者らはさらに、プロガストリンの腫瘍促進活性の必須要素としてのICAT抑制の役割を、インビトロおよびインビボで調べた。
【0085】
インビトロで、SW480/GAST
(-)/ICAT
(-)細胞におけるICAT再発現の阻害により、軟寒天増殖アッセイにおいて、アンカー非依存性増殖に関するそれらの能力が、SW480/β-Gal
(-)細胞に見られるのと同様のレベルまで増強するのが見られた(
図6A)。インビボでは、SW480/GAST
(-)/ICAT
(-)細胞が腫瘍を形成する能力は、BALB/cヌードマウスにおける注入後、SW480/GAST
(-)/Luc
(-)細胞の能力よりはるかに高く(
図6B)、SW480/β-Gal
(-)細胞と同様であった(
図1Bを参照)。
【0086】
全体として、CRC細胞における内因性プロガストリンによるICATの抑制がこのプロホルモンの腫瘍促進活性に役立つことが、これらの結果により明らかに実証されている。重大なことに、これらの結果はまた、プロガストリン欠失により誘導されたICATのデノボ発現が、β-カテニン/Tcf-4活性の有意な阻害を誘導し、したがって、インビトロおよびインビボで、腫瘍増殖を減少させる上で十分に強いことを示している。
【0087】
ホスファチジルイノシトール3-キナーゼに媒介されたインテグリン結合キナーゼの活性化は、ICAT抑制およびプロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4経路の調節の原因である。
プロガストリンは最近、腸細胞におけるホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3k)経路を活性化することがインビトロで(Hollandeら、2003年)、およびインビボで(Ferrandら、2005年)示されているため、この酵素の活性化が、SW480細胞におけるプロガストリンに誘導されたICAT抑制およびβ-カテニン/Tcf-4活性の刺激にとって必要であるかどうかを本発明者らは判定した。まず、選択的PI3k阻害物質LY294002とSW480/β-Gal
(-)細胞のインキュベーションが、ICATの発現誘導に(
図7A)、およびβ-カテニン/Tcf-4転写活性の減少に(
図S7)十分であること(
図7A)を本発明者らは見出し、これら2つの経路間の以前不明であった関連性を解明した。対照的に、10μMのPP2または1μMのPD98059をそれぞれ用いた、Src経路またはERK1/2経路の薬理学的阻害によって、ICAT発現またはβ-カテニン/Tcf-4活性は影響を受けなかった(データは示していない)。また、LY294002は、組換えプロガストリンによるSW480/GAST
(-)クローンの処理によって誘導されたICATの下方制御を無効にし(
図7A)、PI3kの活性化がプロガストリンによるICATの抑制にとって必須であることを示した。したがって、PI3kの下流標的であるAkt/PKBのセリン473-リン酸化は、プロガストリン欠失SW480/GAST
(-)細胞において著しく減少したが、5nMの組換えプロガストリンとのインキュベーション後に復活した(
図7A)。
【0088】
Akt/PKBのSer473は、インテグリンに結合したキナーゼ(ILK)の直接的なリン酸化標的であることが知られている(Delcommenneら、1998年)。ILKの活性化が、プロガストリンとICAT抑制との間のミッシング分子リンクであるかどうかを判定するために、本発明者らはまず、SW480細胞において、ILKの発現および/または活性がプロガストリンによって調節されたかどうかを評価した。SW480/GAST
(-)細胞において、ILKの発現と活性の双方が有意に減少し、この阻害は、5nMの組換えプロガストリンによる処理後に部分的に反転した(
図7B)。これらの結果は、SW480/GAST
(-)クローンにおいて、ILKの下流標的であるインテグリンβ1(Mulrooneyら、2000年)のセリンリン酸化における大きな減少を示すデータによって実証された(
図7B)。
【0089】
また、Akt/PKBリン酸化を抑制することが確認されているドミナントネガティブILK(DN-ILK)の一時的発現が、SW480/β-Gal
(-)細胞におけるICAT発現を誘導でき(
図7C)、この酵素が、ICAT遺伝子の発現を制御しているシグナル伝達経路に関与していることを示していることを見出した。これらのSW480/β-gal
(-)/DN-ILK細胞におけるPI3kの薬理学的阻害によってICAT発現がさらに増加することはなく、これら2つの酵素は、ICAT遺伝子発現の調節における同じ経路に、または重複した経路に関与していることを示した(データは示していない)。
【0090】
さらに、組換えプロガストリンによるプロガストリン欠失SW480/GAST
(-)細胞の処理によって誘導されたICATのmRNAおよびタンパク質の抑制およびAkt/PKBのリン酸化増加は、ILKのドミナントネガティブ媒介阻害によって阻止された(
図7C)。対照的に、SW480/GAST
(-)細胞におけるICATのshRNA媒介抑制(
図S4に示されたような)はILKの発現または活性を変化させず(データは示していない)、ICATがプロガストリン媒介シグナル伝達におけるILKの下流に位置していることが確認された。
【0091】
これらの結果は、PI3kおよびILKの活性化が、CRC細胞におけるICATのプロガストリン媒介抑制に役立つことを明らかに実証している。
【0092】
インビトロおよびインビボでのプロガストリン欠失は、粘液産生ゴブレット細胞系で腸腫瘍細胞の最終分化を誘導する。
Wnt/β-カテニン/Tcf-4経路は腸クリプト下部における細胞の幹/前駆表現型の維持にとって重要であると考えられ、また、細胞の増殖と分化との間の分子スイッチとして広く認められている(RadtkeおよびClevers、2005年;van de Weteringら、2002年)ため、次に本発明者らは、プロガストリン欠失CRC細胞におけるその下方制御が、これらの細胞を分化へと駆動できたかどうかを判定した。
【0093】
細胞分化の初期プロモーターとしての最近記載された役割(ChungおよびEng、2005年)を考え、本発明者らはまず、安定なSW480/GAST
(-)クローンにおけるPTEN(染色体10から欠失させたホスファターゼおよびテンシン相同体)の局在化を分析した。SW480/β-Gal
(-)細胞における細胞質優勢の局在化とはきわめて対照的に、PTENは主として、SW480/GAST
(-)クローンの核内に見られ(
図8A)、局在化は、細胞分化におけるその役割に関係していると考えられた(LianおよびDi Cristofano、2005年)。
【0094】
安定なプロガストリン欠失クローンを発生させる過程により、最も分化していない非アポトーシス細胞が選択されることが予想されるため、GASTまたはβ-ガラクトシダーゼ遺伝子に特異的なローダミンタグ付きsiRNAオリゴヌクレオチドの一時的トランスフェクション後に、SW480細胞において、最終分化した腸細胞系に関係した遺伝子の発現を定量化した。クロモグラニンA(腸内分泌細胞において発現)または腸細胞特異的アルカリホスファターゼをコードする遺伝子の検出可能な変化なしに、ゴブレット細胞特異的遺伝子Muc-2の発現における有意な誘導が、SW480/GAST
(-)において検出されたが、SW480/β-Gal
(-)細胞では検出されなかった(
図8B)。最後に、GAST
(-)細胞におけるカスパーゼ3の活性の検出、および活性化カスパーゼ3に陽性の細胞はMuc2陽性でもあるとの発見(
図8C)により、プロガストリン欠失は、インビトロでCRC細胞のアポトーシス促進の前に、CRC細胞を分泌系へと分化できたことが示された。組換えプロガストリンによる48時間の処理により、これらの表現型は反転した(
図8C)が、アミド化およびグリシン伸長ガストリンは無効であった(データは示していない)。GAST特異的siRNAオリゴヌクレオチドをトランスフェクトしたDLD-1細胞で同様な結果が得られた(データは示していない)。このように、プロガストリン欠失は、CRC細胞をインビトロで最終分化およびアポトーシスへと駆動することができた。
【0095】
また本発明者らは、インビボでもプロガストリンレベルの減少が、β-カテニン/Tcf-4経路の構成的活性化によって誘導された腸腫瘍の分化誘導にとって十分である実証を試みた。ルシフェラーゼまたはGAST特異的siRNAによって処理したAPCΔ14マウスから採取したサンプルに対する免疫組織化学(
図1を参照)により、APCΔ14/GAST
(-)動物の小腸および結腸の残留腺腫が、対照に比較して、Muc-2およびアルシアンブルー陽性細胞の数の大きな増加を示し(
図8D)、同じサンプルにおけるICATの発現増加およびc-Mycの発現減少(
図5A〜5Cを参照)と合っていた。最後に、活性化カスパーゼ3に関して染色している細胞は、対照動物にはきわめてわずかであったが、APCΔ14/GAST
(-)動物からの腺腫では、それらの数の大きな上昇が見られた(
図8D)。これらの結果は、GAST遺伝子のsiRNA媒介下方制御が、腫瘍細胞をインビボで最終分化およびアポトーシスへと駆動できることを実証している。APCΔ14マウスにより発現した腸腺腫は、ガストリンのグリシン伸長形態またはアミド化形態を発現しない。組換えプロガストリンに対して増加させたポリクローナル抗体を用いた免疫ブロット法により、高分子量の工程中間体が検出されなかったため、また、完全長組換えプロガストリンが、インビトロでCRC細胞の分化を調節することが示されたため、GAST特異的siRNA処理後の腫瘍細胞の分化および腫瘍増殖の減少は、主に完全長プロガストリンの濃度減少によるものであると本発明者らは結論づけた。
【0096】
考察
本研究から、プロガストリン産生のブロックにより、ヒトCRC細胞における「構成的」ベータカテニン/Tcf-4転写活性が有意に阻害され、インビトロでのそれらのアンカー非依存性増殖ならびにヌードマウスにおけるそれらの腫瘍形成能力が減少し、それらの分化およびアポトーシスが促進されることが実証される。プロガストリンの欠失により、元はアフリカツメガエルにおいて同定され、ベータカテニンとTcf-4との相互作用を阻害することが示されていた小型ペプチドである「ベータカテニンおよびTcf-4の阻害物質」(ICAT)の再発現がもたらされた(GottardiおよびGumbiner、2004年;Tagoら、2000年)。また、組換えプロガストリンによる処理により、GAS遺伝子発現のスイッチが先に切られていた細胞において、ICATが下方制御され、ベータカテニン/Tcf-4活性が増加したことから、慢性的なプロガストリン分泌が、CRC細胞系におけるこの経路に関する高い活性化レベルの維持に関与していることが確認された。慢性的なプロガストリン分泌とICAT抑制との間の本明細書において解明された関連の生理学的関係性が、CRCを有する16名の患者群における結腸直腸腫瘍内のこれら2つの事象間の緊密な関連性を示す結果により、また、腫瘍になりやすいプロガストリン過剰発現マウスの結腸上皮においてICAT発現が下方制御された実証(Cobbら、2004年)により、インビボで強調された。
【0097】
このデータは、プロガストリンが結腸直腸腫瘍の発現を促進するという以前の観察結果と矛盾せず、ガストリン欠損APCmin
+/-マウスにおいて見られた腺腫の数およびサイズの大きな減少(Kohら、2000年)に対する分子的説明を提供する。さらに、同様のバックグラウンドの野生型マウスと比較した、GAS遺伝子にヌル変異を有するマウスの胃壁細胞における標的遺伝子の発現プロファイルから、発現に差がある遺伝子の20%がWntおよびMycの標的遺伝子であることも知られていることが示され、これらのシグナル伝達経路間の関連性が強調された(Jainら、2006年)。
【0098】
CRCにおけるプロガストリン発現の増加が十分に文書化されている(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)。一方、本研究において記載されたICATの抑制は、この分野に関する唯一の先行報告(Koyamaら、2002年)と矛盾することに留意されたい。この矛盾は、Koyamaらによって報告されたICATの発現増加が、非顕微切開組織に対する半定量的RT-PCRを用いて測定された事実による可能性がある。健常な粘膜および腫瘍が上皮源である細胞によるICAT発現の直接的な比較が可能である本発明者らの結果は、腫瘍サプレッサーとしてのICATの記載された役割により一致すると思われる。実際、プロガストリン欠失CRC細胞において新たに合成されたICATは、ベータカテニンに対する結合に関してTcf-4と競合し、Tcf-4の転写活性の減少および腫瘍形成の減少をもたらすことが示されていて、このペプチドに関する先行報告データ(Sekiyaら、2002年)と一致しているため、プロガストリン媒介ICAT抑制は、腫瘍増殖にとって必須であると考えられる。
【0099】
不完全であるにもかかわらず、外因性プロガストリンを用いる処理によるICATの抑制およびベータカテニン/Tcf-4経路の活性化を回復させる能力は、膜受容体によって媒介されるオートクリン/パラクリンループの存在に有利な証拠となる。プロガストリンによるベータカテニン/Tcf-4活性のICAT媒介調節に関与するシグナル伝達事象の分析により、本発明者らは、CRC細胞におけるベータカテニン/Tcf-4経路とPI3キナーゼ/ILK経路との間の新規な関連性を確認することができた。実際、PI3kの薬理学的阻害およびILKシグナル伝達のドミナントネガティブ誘導阻害により、ICAT発現が増加し、このペプチドのプロガストリン媒介抑制が阻止された。Tanらによる以前の結果(Tanら、2001年)は、マキガイの抑制を通したILKの阻害により、ベータカテニン-Tcf/Lef依存性転写が抑制され、それによって、APC変異ヒト結腸癌細胞の膜におけるEカドヘリンの発現およびベータカテニンの動員が増加したことを実証している。本研究からの結果は、ベータカテニンの膜動員が低い非集密細胞においても、プロガストリン媒介ILKシグナル伝達が、ICAT発現の制御を介してベータカテニン/Tcf-4活性を調節することができることを示している。
【0100】
最後に、本発明者らの結果はまた、プロガストリンの機能に拮抗する薬剤が、結腸直腸癌における現在の外科手術的アプローチを支える新規治療オプションを提供することも示す。本明細書に提示された結果は、プロガストリンシグナル伝達の阻害が、結腸癌管理に関する特定の代替治療法を提供することを示す。プロガストリンは、腫瘍によってのみ分泌され、健常な上皮によっては分泌されないと考えられるため、そのような戦略は、頻繁なAPC変異の効果に対抗し、ベータカテニン/Tcf-4シグナル伝達の活性化を生理学的レベル近くまで低下させ、それによって、正常なクリプトの完全性の保持を助けるはずである。
【0101】
方法
細胞および細胞培養条件
結腸直腸癌細胞系DLD1およびSW480を、10%のウシ胎仔血清(Eurobio、フランス国、Les Ulis)、1%のL-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)中、37℃で維持した。
【0102】
材料
以下の一次抗体を用いた:マウス抗脱リン酸化ベータカテニン(クローン8E4;AG.Scientific)、マウス抗ベータカテニンおよび抗Eカドヘリン(Transduction Laboratories)、ヤギ抗Tcf-4(Santa Cruz Biotechnology)、ウサギ抗ICAT(C.Gottardi博士より恵与;(GottardiおよびGumbiner、2004年))、ポリクローナル抗PTEN(Upstate)、ウサギ抗ホスホセリン(Zymed)、ウェスタンブロット用(Cell Signaling)および免疫沈降用(Upstate)ウサギ抗ILK、マウス抗インテグリンβ1(Chemicon)、ウサギ抗Akt、抗Ser473リン酸化Akt、抗活性化カスパーゼ3(Cell Signaling)、抗Muc2モノクローナル抗体(Neomarkers)。
【0103】
ヒト組織採取
フランス政府の法令および地域委員会の指針に従って切除後、16名の患者からの結腸腫瘍および組織学的に正常な上皮(該腫瘍から有意な距離において採取)の検体を、病理学者から得られた。患者全員からインフォームドコンセントを得た。組織サンプルは、さらなる使用まで液体窒素中に保存した。
【0104】
組織切片、顕微切開およびRNA調製
液体窒素凍結腫瘍サンプルから組織切片を調製し、ヘマトキシリン/エオシン染色を行って、それらの品質、組織内の方向、および上皮含量を評価した。ベータカテニン、Tcf-4、c-mycおよびICATの免疫蛍光検出を、顕微切開に用いた切片に隣接した切片に対して実施した。Arcturus(Alphelys、フランス国、Plaisir)のPixCell(登録商標)IIe顕微切開器を用いて、1サンプル当たり、4切片から6切片に対して、レーザー捕捉顕微切開(LCM)を実施した。以下のレーザービーム設定を用いた:265mV、45mWh、直径15μm、18ms。次いで、顕微切開した組織を直接RNA溶解緩衝液中に採取し、RNAeasy Microkit(Qiagen、フランス国、Courtaboeuf)を用い、製造元の使用説明書に従ってRNAを調製した。回収したRNAの品質および量をRNA pico Labchips(Agilent Technologies、カリフォルニア州、パロアルト)を用いて評価した。
【0105】
安定トランスフェクション
DLD1細胞系へのガストリン遺伝子アンチセンスおよび対照cDNAのトランスフェクションは、(Hollandeら、2003年)に記載されている。プロガストリンshRNAを作出するために、以下のオリゴヌクレオチドをpサイレンサーベクター(Ambion)内にクローン化し、SW480細胞にトランスフェクトした:センス:5'-GAAGAAGCCTATGGATGGATTCAAGAGAAGGTAGGTATCCGAAGAAGTTTTTT-3'(配列番号1)およびアンチセンス:5'-AATTAAAAAACTTCTTCGGATACCTACCTTCTCTTGAATCCATCCATAGGCTTCTTCGGCC3'(配列番号2)。対照shRNAの作出に用いられたβガラクトシダーゼオリゴヌクレオチドは:センス:5'GATCCCAAGGCCAGACGCGAATTATTTTTCAAGAGAAAATAATTCGCGTCTGGCCTTTTTTTGGAAA3'(配列番号3);アンチセンス:5'AGCTTTTCCAAAAAAAGGCCAGACGCCAATTATTTTCTCTTGAAAAATAATTCGCGTCTGGCCTTGG3'(配列番号4)。5×10
4細胞/ウェルを接種し、24時間後、500ngのpサイレンサー/プロガストリン-shRNAまたはpサイレンサー/βガラクトシダーゼ-shRNA、50ngのpCDNA-3、および5μl/ウェルのExgen500(Euromedex)をトランスフェクトした。選択はネオマイシン(500ng/μl)により行った。SW480/GAS
(-)細胞におけるICATまたはルシフェラーゼshRNAのレトロウイルス媒介トランスフェクション。ICATに関するshRNAオリゴヌクレオチド(センス5'GATCCGGATGGGATCAAACCTGACATTTTCAAGAGAAATGTCAGGTTTGATCCCATCTTTTTTG3'(配列番号5)およびアンチセンス5'AATTCAAAAAAGATGGGATCAAACCTGACATTTCTCTTGAAAATGTCAGGTTTGATCCCATCCG3'(配列番号6)およびルシフェラーゼ(センス5'GATCCGACATTAAGAAGGGCCCAGCTTTTCAAGAGAGCTGGGCCTTAATCTTTTTT3'(配列番号7)、およびアンチセンス5'AATTGATTAAGGCCCAGCTCTCTTGAAAAGCTGGGCCCTTCTTAATGTCG3'(配列番号8)を、pSIREN-retroQ(Clontech)にクローン化した。アンホトロピックパッケージング細胞系(ΦNX;Garry Nolan博士、スタンフォード大学、カリフォルニア州、スタンフォード)に、Pearらによって記載されたとおり(Pesrら、1993年)トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、ウイルス含有培地を取り出し、1500rpmで5分間遠心分離し、細胞デブリをペレット化した。ウイルスを含有する2mlの遠心分離培地を、ポリブレン(8μg/ml)の存在下、標的細胞(6ウェルプレートにおける2.10
5/ウェル)に感染させた。陽性クローンを選択するために、感染細胞をプロマイシン(5μg/ml)で処理した。
【0106】
一時的トランスフェクション
トランスフェクションの前日、SW480細胞を24ウェルプレートに接種した(5×10
4細胞/ウェル)。製造元の使用説明書に従って、細胞に、100pモルのローダミンタグ付きGAS特異的またはβガラクトシダーゼ特異的shRNA、および5μl/ウェルのExgen500(Euromedex)をトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間または72時間後、細胞を溶解させる(免疫ブロットおよびPCRのため)か、または免疫染色のために1%のパラホルムアルデヒドに固定した。
【0107】
アルシアンブルー染色
トランスフェクションの72時間後、カバーグラス上の細胞をPBSで洗浄し、アルシアンブルー(3%の酢酸中10g/l)と共に30分間インキュベートした。水中で細胞をすすぎ、カバーグラスをモウイオール(mowiol)中のガラススライド上に乗せ、使用するまで4℃で保存した。
【0108】
RT-定量的PCR
2.5μgの総RNAをDNアーゼRQ1(Promega)と共に、37℃で30分間予備処理し、M-MLV逆転写酵素(Invitrogen)による逆転写に用いた。LightCycler FastStart DNA MasterPlus SYBR Green Iキット(Roche Diagnostics、フランス国、Meylan)を用い、以下の条件下で定量的PCRを実施した。アクチン:95℃で10分間変性、増幅50サイクル:95℃で10秒、58℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線:95℃で0秒、68℃で30秒、95℃で0秒および40℃で2分間の冷却。c-myc、ILK、クロモグラニンAおよびGAPDH増幅:95℃で10分間の変性、50サイクルの増幅:70℃で10秒、58℃で6秒、72℃で13秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、95℃で0秒および冷却は40℃で2分間。プロガストリン、Muc-2、ALPおよびICAT増幅:95℃で10分間変性、50サイクルの増幅:70℃で10秒、95℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、70℃で0秒および冷却は40℃で2分間。選択された遺伝子増幅に用いるプライマーは以下のものであった。GAPDH-センス:5'GGTGGTCTCCTCTGACTTCAACA3'(配列番号9)アンチセンス:5'GTTGCTGTAGCCAAATTCGTTGT3'(配列番号10);アクチン-センス:5'CGGGAATCTGCGTGACAT3'(配列番号11);アンチセンス:5'AAGGAAGGCTGGAAGAGTGC3'(配列番号12);ILK-センス:5'ATGACTGCCCGAATTAGCATG3'(配列番号13);アンチセンス:5'GCTACCCAGGCAGGTGCATA3'(配列番号14);ICAT-センス:5'GCTCTGGTGCTTTAGTTAGG3'(配列番号15);アンチセンス:5'GCACTTGGTTTCTTTCTTTTC3'(配列番号16);c-myc-センス:5'CGTCTCCACACATCAGAGCACAA3'(配列番号17);アンチセンス:5'TCTTGGCAGCAGGATAGTCCTT3'(配列番号18);ヒトプロガストリン-センス:5'AGAGGATCCAAATGCAGCGACTATGTGTGTATG3'(配列番号19);アンチセンス:5'GGCGAATTCCTAGGATTGTTAGTTCTCATCCTCAG3'(配列番号20);Muc-2-センス:5'TGGGTGTCCCTCGTCTCCTACA3'(配列番号21);アンチセンス:5'TGTTGCCAAACCGGTGGTA3'(配列番号22);アルカリホスファターゼ-センス:5'CTCCAACATGGACATTGACG3'(配列番号23);アンチセンス:5'CAGTGCGGTTCCACACATAC3'(配列番号24);クロモグラニンA-センス:5'ATCACCGCCACTGCCACCACCA3'(配列番号25);アンチセンス:5'CACCTTAGTGTCCCCTTTTGTCATAGGGCT3'(配列番号26)。
【0109】
軟寒天コロニー形成アッセイ
10%のウシ胎仔血清、1%のグルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM-F12中、0.2%の寒天に1×10
5細胞を再懸濁し、固化下層を含有する(増殖培地中0.5%の寒天)6cmのペトリ皿に播いた。播いてから8日後、細胞を0.02%のクリスタルバイオレット中で染色し、コロニーのサイズおよび数を顕微鏡下で定量化した。クローンはすべて三重に接種し、各々について10の視野をカウントした。
【0110】
インビトロ試験
実験動物試験に関するフランス国の指針(Direction des Services Veterinaires、Ministere de l'Agriculture、Agreement NoB34-172-27)に従い、実験的腫瘍形成における動物の福祉に関するUKCCCR指針を満たして、インビボ実験を実施した。2×10
6細胞を6週齢の無胸腺BALB/c-nu/nu(ヌード)マウスに皮下注射した。以後、腫瘍増殖を定期的に追跡した(予測腫瘍容積=(長さ×幅×厚さ)/2)。
【0111】
APCΔ14マウスを通常の条件で収容し、2つの群に無作為化した。第1の群(n=9)は、マウスGAST mRNAに対し、250μg/kgのsiRNAの腹腔内投与により、1日1回処理した。対照マウス(n=9)は、ルシフェラーゼに対し、siRNAの同様な用量で処理した。(
図S7オンラインのsiRNA配列)。siRNAの設計には、炎症誘発性応答およびインビボでの分解を最小化するために、3'オーバーハングを組み込み、5'UGUGU3'の配列を含めなかった(Judgeら、2005年;Marquesら、2006年)。処理10日後、マウスを殺処分し、それらの血液を採取し、それらの腸を切開して取り出した。腸および結腸における腺腫のスコアリングは、(Colnotら、2004年)に記載されている。健常な腸粘膜サンプル、ならびに腸および結腸の腺腫サンプルを、ウェスタンブロット、IHCまたはRNA抽出のために、4%のPFAに固定してパラフィン埋め込みを行うか、または液体窒素中に凍結させた。血漿を調製し、FACSarrayシステム(Becton Dickinson)を用いて、IL-6およびTNFαに関してアッセイした。
【0112】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ
TCF/LEF-1の転写活性測定に用いられるプロトコルは以前に記載されている(Morinら、1997年)。簡単に述べると、細胞に、500ngのTCF/LEF-1レポーター(pTOP-FLASH)、または対照ベクター(pFOP-FLASH)、および25ngのpCMV-Renillaをトランスフェクトした。二重ルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)を用いて、ルシフェラーゼ活性を定量化し、Renillaの活性に対して正規化した。
【0113】
免疫蛍光染色
以前記載された(Hollandeら、2003年)とおりに免疫蛍光染色を実施した。次いで、×40油浸レンズを有するレーザー走査LEICA sp2共焦点顕微鏡を用いて、スライドを観察した。
【0114】
パラフィン組織切片に対する免疫化学
ヒトGAS遺伝子に関して遺伝子導入(Tg/Tg)したFVB/Nマウスまたは野生型同腹仔から、パラフィン組織切片を調製した(Cobbら、2004年)。脱蝋および水和の後、切片を、室温で20分間、ペルオキシダーゼにより予備処理した。サンプルを、10mMのトリス-1mMのEDTA、pH9中、20分間煮沸することにより抗原を回収した。スライドを室温まで放冷し、PBS +0.05%のBSA中、抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。すべての場合で、第2の試薬として、Envision+キット(DAKO)を用いた。DAB(Sigma)を用いて染色を展開し、ヘマトキシリンまたはヌクレアファーストレッド(Nuclear Fast Red)により、スライドを対比染色しマウントした。
【0115】
タンパク質ライセート、免疫沈降、SDS-PAGEおよびウェスタン免疫ブロット
以前記載された(Hollandeら、2003年)とおり、タンパク質ライセート、免疫沈降および免疫ブロットを実施した。ECL Plus(Amersham Biosciences)を用いてタンパク質を可視化し、ImageJ 1.32J(NIH、メリーランド州、ベセスダ)を用いるデンシトメトリーにより、バンドを定量化した。
【0116】
免疫複合体キナーゼアッセイ
1チューブ当たり、0.5μgのATP(250mMのATP、1μCi[γ-
32P]ATP)と共に、25μlのキナーゼ緩衝液(50mMのHepes pH7.0、1mMのMnCl
2、1mMのオルトバナジン酸Na、2mMのNaF、5μgのミエリン塩基性タンパク質(Myelin Basic Protein)(Sigma))を加えることにより、該反応を開始させ、30℃で20分間インキュベートした。10μlの4×サンプル緩衝液の添加により該反応を終了させた。該チューブを、10,000gで1分間遠心分離し、該タンパク質を14%のSDS-pageゲル上で分離した。該基質のリン酸化を、オートラジオグラフィーにより可視化した(Marottaら、2003年)。
【0117】
放射免疫アッセイ
以前記載された(Hollandeら、1997年)とおり、細胞上清中のGAS遺伝子産物プロガストリン、グリシン伸長ガストリン(G-gly)およびアミド化ガストリン(G-NH2)を、放射免疫アッセイによって定量化した。
【0118】
統計解析
統計解析はすべて、Windows(Cary、米国、ノースカロライナ州)に関するSAS版9.1を用いて実施した。組換えプロガストリンによる処理の有無で、対照細胞とプロガストリン欠失細胞との間の差異の統計的有意性を判定するために、スチューデントのt検定を用いた。ヒト腫瘍におけるGASとICAT遺伝子発現との間の関連性を判定するために、ピアソンの相関係数(r)を判定する前に、変数を、それらの自然対数値を用いて正規化した。
【0119】
<実施例2>
プロガストリンに対する選択的抗体は、ICAT発現に対するプロガストリン抑制を反転し、c-myc発現の減少を誘導する。
【0120】
序論
本実施例は、プロガストリンに対する独立して作出された2つのポリクローナル抗体の特徴を記載し、それらが、完全長プロガストリン(1〜80)ペプチドを選択的に認識するが、アミド化ガストリン、グリシン伸長ガストリン、および6つのアミノ酸C末端フランキングペプチド(CFTP)など、ヒト血中に存在する可能性のある処理ペプチドは認識しないことを実証することを目的としている。この特徴づけは、ELISAアッセイを用いインビトロで実施した。
【0121】
本明細書下記の第2の工程は、ICATの発現およびベータカテニン/Tcf-4活性に及ぼすプロガストリンの作用は、選択的抗体によってブロックできるというコンセプト実証の検証であった。プロガストリン抗体のこのいわゆる中和活性を実証するために、apc遺伝子に変異を有し、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性による内因性プロガストリンの分泌を示すヒトSW480結腸直腸腫瘍細胞を用いた。多量のプロガストリンおよびきわめて低レベルのアミド化ガストリンおよびグリシン伸長ガストリンを分泌するこれらの細胞の能力は表1に記載されている。
【0122】
これらの細胞を、1つはプロガストリンのN末端配列に特異的であり、他方はC末端配列に特異的である2つの異なるポリクローナル抗体によって独立して処理した。
該N末端配列は:SWKPRSQQPDAPLGT(配列番号32)であった。
該C末端配列は:FGRRSAEDEN(配列番号31)であった。
【0123】
結果
−抗体選択性:抗体の選択性を、方法の節で記載されたELISA試験によって評価した。結果(
図10)は、双方のポリクローナル抗体とも、プロガストリンならびにそれらの産生に関する免疫原として用いられたそれぞれのペプチドを選択的に認識することを示している。それらは、グリシン伸長ガストリン、アミド化ガストリン、またはプロガストリンの成熟過程に由来し、ヒト血清中に検出される他のペプチドであるC末端フランキングペプチド(CTFP)(配列:SAEDEN)(Smith KA、Gastroenterology、2006年)には結合しない。
−プロガストリン抗体の中和活性:プロガストリンによるICATの抑制を阻害し、その結果、ベータカテニン/Tcf-4複合体の転写活性減少を誘導するプロガストリン抗体の能力を、SW480結腸直腸癌細胞において扱った。双方とも1/5000希釈の、プロガストリン(1〜80)のN末端対象物またはC末端対象物に特異的なウサギポリクローナル抗体の存在下で、細胞を30時間インキュベートした場合、ICAT mRNAの発現は大きく増加したが、c-MycおよびサイクリンD1のものは、同一濃度の非特異的ウサギポリクローナル抗体によって処理された細胞に比較して、著しく減少した。C-mycおよびサイクリンD1は、ベータカテニン/Tcf-4転写活性の認められた標的であり、それらの発現減少は、ベータカテニン/Tcf-4活性の減少の結果であると考えられる(
図11)。
【0124】
結論
ICAT発現のプロガストリン阻害は選択的抗体に対するその結合によって反転させることができ、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性の阻害がもたらされることを、これらの結果はインビトロで実証している。したがって本発明は、ICATおよびベータカテニン/Tcf-4活性を介して生じるプロガストリンの腫瘍形成促進作用をブロックするためにプロガストリン抗体を用いることができるというコンセプトの証明を初めて提供している。
【0125】
方法
ELISA
抗原をPBS中、指示された濃度に希釈し、その抗原100μlでマルチソルブ96ウェルプレートを4℃で一晩被覆した。翌日、ウェルを200μlのPBS/1% Tweenにより3回洗浄し、100μlのブロッキング溶液(PBS/1% Tween/0.1%BSA)を22℃で2時間加えた。PBS/1% Tweenによりさらに3回洗浄後、一次抗体をブロッキング溶液中で希釈し、100μlを22℃で2時間、該ウェルに加えた。抗体濃度は図に示されている。二次抗体を同じブロッキング緩衝液に希釈し、3回洗浄後、100μlを22℃で2時間、該ウェルに加えた。最後に、ウェルを、PBS/1% Tweenによって再度洗浄し、100μlのOPD溶液基質を22℃で20分間加えた。4NのH
2SO
4 50μlによって反応を停止させ、492nmにおいて読取りを行った。
【0126】
細胞培養およびプロガストリン選択的抗体による処理
10%のウシ胎仔血清(Eurobio、フランス国、Les Ulis)、1%のL-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)中、CRC細胞系SW480を37℃で維持した。SW480細胞を10%のFBS、1%の抗生物質および1%のグルタミンを含有するDMEM中、6ウェルプレートに播き(200,000細胞/ウェル)、37℃、5%CO
2で一晩増殖させ、次いで、24時間血清不足にした。翌朝、該培地を、1/5,000希釈の対照またはプロガストリン選択的ポリクローナル抗体を含有しFBSなしのDMEMと置換し、引き続き、37℃、5%CO
2でインキュベーションを行った。抗体を含有する培地は12時間後に取り替えた。30時間後、細胞をPBSで洗浄し、RNA抽出キット細胞溶解緩衝液によって細胞溶解させた。
【0127】
RNA調製およびRT-定量的PCR
RNeasy Protect Minikit(Qiagen France SA、フランス国、91974 Courtaboeuf)を用いて、SW480細胞からRNAを調製した。回収したRNAの品質および量を、RNA pico Labchips(Agilent Technologies、カリフォルニア州、パロアルト)を用いて評価した。逆転写には、各サンプルから2.5μgの総RNAをDNアーゼRQ1(Promega)により、37℃で30分間予備処理し、M-MLV(InVitrogen)と共にインキュベートした。LightCycler FastStart DNA MasterPlus SYBR Green Iキット(Roche Diagnostics)を用いて、1サンプル当たり2μlのcDNAから定量的PCRを実施した。GAPDH mRNAの発現を用いて、RNAローディングを検量した。
【0128】
定量的PCRのためのサイクル条件
−c-mycおよびGAPDH増幅に関して:95℃で10分間の変性、50サイクルの増幅:95℃で10秒、58℃で6秒、72℃で13秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、95℃で0秒、冷却は、40℃で2分。
−ICAT増幅に関して:95℃で10分間の変性、50サイクルの増幅:95℃で10秒、60℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、70℃で0秒、冷却は、40℃で2分。
−サイクリンD1増幅:95℃で10分間、50サイクルの増幅:95℃で10秒、70℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、95℃で0秒、冷却は、40℃で2分。
【0129】
ヒト配列に対する定量的PCR用プライマー
GAPDH-センス:5'GGTGGTCTCCTCTGACTTCAACA3'(配列番号33)
GAPDH-アンチセンス:5'GTTGCTGTAGCCAAATTCGTTGT3'(配列番号34)
ICAT-センス:5'GCTCTGGTGCTTTAGTTAGG3'(配列番号35)
ICAT-アンチセンス:5'GCACTTGGTTTCTTTCTTTTC3'(配列番号36)
c-Myc-センス:5'CGTCTCCACACATCAGAGCACAA3'(配列番号37)
c-Myc-アンチセンス;5'TCTTGGCAGCAGGATAGTCCTT3'(配列番号38)
サイクリンD1-センス:5'-CCGTCCATGGGGAAGATC-3'(配列番号39)
サイクリンD1-アンチセンス:5'-ATGGCCAGCGGGAAGAC-3'(配列番号40)
【0130】
実施例1および実施例2についての全般的結論
ヒト結腸直腸腫瘍細胞のプロガストリン欠失により、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性を有する細胞の分化およびアポトーシスが誘導されるため、ヒト結腸直腸腫瘍細胞のプロガストリン欠失により腫瘍形成が反転することを実証する十分かつ必要なデータが初めて提供される。これらの作用はプロガストリンに特異的である。これは、インビトロで2つの細胞系(DLD-1およびSW480)ならびにインビボでヌードマウスに移植した同じこれらの細胞系において、およびヒト腫瘍形成を再利用するマウスモデルにおいて示されている。実際、このマウスモデル(APCΔ14)において、apc遺伝子は、ベータカテニン/Tcf-4経路の活性化を導く変異を有し、マウスは自然に腺腫および腺癌を発現する。プレプロガストリンのmRNAを標的にするsiRNAにより、これらのマウスをインビボで処理した。これによって、腫瘍形成の反転がもたらされ、分化およびアポトーシスにより腫瘍の縮退に至った。この処理により、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性が著しく阻害されることが示されている。したがって、apc遺伝子の変異によって開始された腫瘍形成の反転が示されるのはこれがまさに初めてである。プロガストリンの欠失はベータカテニン/Tcf-4転写活性の内因性阻害物質であるICATの再発現を誘導するため、プロガストリン欠失が抗腫瘍作用を有することが分子レベルで示されている。
【0131】
ヒト結腸直腸癌における、ベータカテニン/Tcf-4経路の活性化過剰と高レベルのガストリン遺伝子発現および低レベルのICAT発現との間の関連性事象を、本発明者らは初めて実証している。また、プロガストリン自体の過剰発現が、Tcf-4標的遺伝子レベルが上昇している腫瘍サンプルに示された。APCΔ14マウスの自然に生じる腸腺腫に、本発明者らはまた、高レベルのプロガストリン(グリシン伸長ガストリンおよびアミド化ガストリンではなく)およびICATの低発現を検出した。これらのパラメーターは、ガストリン遺伝子選択的siRNAによる処理後に反転した。
【0132】
最後に、プロガストリンに特異的であり、グリシン伸長ガストリンまたはガストリンには結合できない抗体によっても、プロガストリン作用のブロックを達成できることを実証するデータが提供されている。このように、ICATの発現を誘導し、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性に関連した結腸腫瘍形成をブロックし反転させるための、siRNA、shRNAまたはプロガストリンを標的にする抗体のいずれかの使用に関するコンセプトの証明および十分な科学的データが提供されている。
【0133】
本出願を通して、種々の文献が、本発明に関連する先端技術を記述している。これらの文献の開示は、参照として本開示に援用されている。
(参考文献)