(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5651468
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】MRI造影能を有する重合体−金属錯体複合体、並びにそれを用いたMRI造影用及び/又は抗腫瘍用組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 81/00 20060101AFI20141218BHJP
A61K 33/24 20060101ALI20141218BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20141218BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20141218BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20141218BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20141218BHJP
A61K 47/42 20060101ALI20141218BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20141218BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20141218BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20141218BHJP
A61K 33/32 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
C08G81/00
A61K33/24
A61K47/34
A61K9/107
A61K49/00 C
A61P35/00
A61K47/42
A61K47/32
A61K33/34
A61K33/26
A61K33/32
【請求項の数】14
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2010-518083(P2010-518083)
(86)(22)【出願日】2009年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2009061772
(87)【国際公開番号】WO2009157561
(87)【国際公開日】20091230
【審査請求日】2011年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2008-167823(P2008-167823)
(32)【優先日】2008年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
(72)【発明者】
【氏名】貝田 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】カブラル オラシオ
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 康顕
(72)【発明者】
【氏名】関野 正樹
【審査官】
阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】
特許第3955992(JP,B2)
【文献】
国際公開第2006/003731(WO,A1)
【文献】
国際公開第2002/026241(WO,A1)
【文献】
国際公開第2003/017923(WO,A1)
【文献】
特開平06−271593(JP,A)
【文献】
特開平06−329692(JP,A)
【文献】
特開2008−222804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 81/00
A61K 9/00
A61K 33/00
A61K 47/00
A61K 49/00
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a):
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (a)
〔式(a)中、ポリ(hph)は非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを表し、ポリ(carbo)は側鎖にカルボキシル基を有するポリマー鎖セグメントを表す。〕
で示されるブロック共重合体中のポリ(carbo)のカルボキシルアニオンの少なくとも一部と、下記一般式(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)及び(18):
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
〔式(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)及び(18)中、
Mは白金、銅、金又は鉄の金属原子を表し、M
1はガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅の金属原子を表す。〕で示される基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基とが結合した構造を含むものである、
重合体−金属錯体複合体。
【請求項2】
ポリ(hph)が、ポリエチレングリコール、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる親水性ポリマーに由来するものである、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
ポリ(carbo)が、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものである、請求項1又は2記載の複合体。
【請求項4】
下記一般式(1)又は(2)で示されるものである、請求項1記載の複合体。
【化9】
〔式(1)及び(2)中、R
1は水素原子又は未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC
1-12アルキル基を表し、L
1及びL
2は連結基を表し、R
2はそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R
3はそれぞれ独立して水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R
4はヒドロキシル基又は開始剤残基を表し、R
5はそれぞれ独立して水素原子、アルカリ金属のイオン、又は下記一般式(3)若しくは(4):
【化10】
(式(3)及び(4)中、R
6は
、それぞれ独立して、下記一般式(5)又は(6):
【化11】
〔式(5)及び(6)中、Mは白金、銅、金又は鉄の金属原子を表す。〕
で示される基を表し、R
7は
、それぞれ独立して、下記一般式(7)、(8)、(9)又は(10):
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
〔式(7)、(8)、(9)及び(10)中、M1はガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅の金属原子を表す。〕
で示される基を表す。)
で示される基を表し(但し、R
5は前記一般式(3)で示される基を少なくとも一部に含む。)、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、xは0〜5,000の整数(但し、x≦n)である。〕
【請求項5】
下記一般式(1-a)又は(2-a)で示されるものである、請求項
4記載の複合体。
【化16】
〔式(1-a)及び(2-a)中、
R1、R2、R3、R4、R5、L1、L2、m及びnは
いずれも前記一般式(1)又は(2)と同様である。〕
【請求項6】
R
6が、それぞれ独立して、下記式(5-a)又は(6-a)で示される基である、請求項
4又は5記載の複合体。
【化17】
【請求項7】
R
7が、それぞれ独立して、下記式(7-a)、(8-a)、(9-a)又は(10-a)で示される基である、請求項
4〜
6のいずれか1項に記載の複合体。
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【請求項8】
前記一般式(3)で示される基が、それぞれ独立して、下記一般式(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)又は(18)で示される基である、請求項4又は5記載の複合体。
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
〔式(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)及び(18)中、
Mは白金、銅、金又は鉄の金属原子を表し、M
1はガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅の金属原子を表す。〕
【請求項9】
前記一般式(3)で示される基が、それぞれ独立して、下記式(11-a)、(12-a)、(13-a)、(14-a)、(15-a)、(16-a)、(17-a)又は(18-a)で示される基である、請求項
4又は
5記載の複合体。
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【請求項10】
前記ポリ(hph)及び前記ポリ(carbo)のセグメントをそれぞれシェル部分及びコア部分として形成されたミセル状粒子の形態である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項11】
水性媒体中における動的光散乱法により測定した平均分散粒子径が10nm〜1μmである、請求項10記載の複合体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用及び/又は抗腫瘍用組成物。
【請求項13】
被験動物の体内に請求項1〜11のいずれか1項に記載の複合体を投与することを特徴とする、腫瘍検出用MRI造影方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用及び/又は抗腫瘍用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック共重合体とMRI造影能を有する金属錯体との複合体、並びに該複合体を含むMRI造影用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の累積罹患率、死亡率が増加の一途をたどる中、あらゆる部位において癌の早期発見は命題といえる。早期発見によって治療時の侵襲も低くなるほか、完治も期待できる。それぞれの癌によって早期治療のプロトコールは確立されており、簡便かつ診断能の高い技術が必要とされている。また、既に進行癌の診断が下された患者に対しては、遠隔転移の有無を的確に診断することは病期(ステージ)の決定、その後の治療方針の決定に非常に重要である。癌の治療には外科治療、放射線療法、化学療法が挙げられるが、外科治療に際しては転移病巣の的確な切除、あるいは焼灼を行うことで癌の根治が期待できる。また放射線療法でも腫瘍の部位を正確に判定し、重点的に照射を行うことで健常部位への照射を防ぎ、副作用を軽減することができる。これらの意味でもあらゆるステージでの癌患者にとって、癌の正確な部位診断を行うことは非常に大きなメリットがある。
【0003】
悪性腫瘍の画像診断法の代表例としては、X線CT、超音波、核磁気共鳴映像法(MRI)が挙げられる。これらの検査は普及率が高く、各々、利点と欠点を併せ持つ。中でも、MRIは、放射線被爆がなく、客観性及び再現性が高いという利点を有する方法である。しかしながら、MRIは、そのハードウェアのみでは小さな腫瘍の同定が困難であった。
このような欠点を補うために、腫瘍組織とその周囲組織とのコントラストを高めるための様々な造影剤が開発され、実用化されている。代表的な造影剤としては、Gd-DTPA(ガドリニウム−ジエチレントリアミン五酢酸)等の金属錯体が挙げられるが、Gd-DTPAはキレート化してその副作用はフリーのGdよりも軽減されてはいるものの、肝毒性や腎毒性等の副作用が存在する。さらにGd-DTPAは部位特異性に欠け、経静脈投与により、速やかに各臓器及び筋肉内に拡散するため、投与から撮影までの時間に制限が生じるほか、腫瘍とそれ以外の組織とのコントラストを明確にするために多量の造影剤を投与する必要があった。
【0004】
そのため、腫瘍に特異的に集積し、少ない使用量でコントラストが高く、しかも副作用が少なく安全でかつ長期間の血中滞留性を有する造影剤の開発が望まれている。
腫瘍組織においては、正常組織に比べて新生血管の増生と血管壁の著しい透過性亢進がみられること、またリンパ系が未発達であるということ等の特性により、高分子量の物質でも血中から組織に移行させることができ、かつ移行後は当該組織から排出されにくい。そのため、結果的に、高分子化合物やナノサイズの粒子が腫瘍組織内に集積しやすいという、いわゆるEPR効果により、抗癌剤等の各種を内包したリポソームや高分子ミセルのようなナノサイズの粒子が、腫瘍組織に集積することが知られている(特許文献1参照)。
ところで、コア部分にGd錯体を内包する高分子ミセルは、これまでにも開発されている(特許文献2参照)。しかしながら、当該ミセルにおいては、Gd錯体がミセルを構成するブロック共重合体と直接結合して固定されているため、Gdの緩和能(造影剤の感度)が抑制され、また腫瘍組織から排出されにくく肝毒性や腎毒性等の副作用の問題が懸念されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3955992号公報
【特許文献2】国際公開第2006-003731号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、高分子ミセルの構成成分となり得るブロック共重合体と、MRI造影能を有する金属錯体とを含んでなる、重合体−金属錯体複合体であって、腫瘍特異的に集積し、少ない使用量で造影コントラストが高く、しかも副作用が低減され且つ長期間の血中滞留性を有する複合体を提供することにある。
さらに、当該複合体を含むMRI造影用(及び/又は抗腫瘍用)組成物及びキット、並びに、当該複合体を用いる腫瘍検出用MRI造影方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、高分子ミセルの構成成分となり得るブロック共重合体と、MRI造影能を有する金属錯体との結合を、他の金属錯体又は金属原子を介して行えば、前述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。しかも、上記他の金属錯体として、例えば抗腫瘍活性を有する金属錯体を用いれば、MRI造影用の組成物として使用できるだけでなく、同時に抗腫瘍用組成物(医薬組成物)としても使用することができる。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)下記一般式(a):
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (a)
〔式(a)中、ポリ(hph)は非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを表し、ポリ(carbo)は側鎖にカルボキシル基を有するポリマー鎖セグメントを表す。〕
で示されるブロック共重合体(A)と、MRI造影能を有する金属錯体(B)とを含んでなる重合体−金属錯体複合体であって、
共重合体(A)中のポリ(carbo)のカルボキシルアニオンと、金属錯体(B)とが、金属原子(M)を介して結合した構造を含むものである、
前記複合体。
【0009】
上記(1)の複合体は、例えば、共重合体(A)中のポリ(carbo)のカルボキシルアニオンに金属原子(M)が結合し、かつ該金属原子(M)に金属錯体(B)が結合した構造を含むものが挙げられる。
上記(1)の複合体は、ポリ(hph)が、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる親水性ポリマーに由来するものや、また、ポリ(carbo)が、例えば、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものが挙げられる。
【0010】
上記(1)の複合体は、金属原子(M)が、例えば、金属錯体の中心金属原子であるものが挙げられ、金属錯体としては、例えば、抗腫瘍活性を有する金属錯体(C)が挙げられる。ここで、金属錯体(C)は、例えば、ブロック共重合体(A)に固定化されたものであってもよい。
【0011】
上記(1)の複合体としては、具体的には、例えば、下記一般式(1)又は(2)で示されるものが挙げられる。
【化1】
〔式(1)及び(2)中、R
1は水素原子又は未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC
1-12アルキル基を表し、L
1及びL
2は連結基を表し、R
2はそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R
3はそれぞれ独立して水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R
4はヒドロキシル基又は開始剤残基を表し、R
5はそれぞれ独立して水素原子、アルカリ金属のイオン、又は下記一般式(3)若しくは(4):
【化2】
(式(3)及び(4)中、R
6は金属原子又は金属錯体由来の基を表し、R
7はMRI造影能を有する金属錯体由来の基を表す。)
で示される基を表し(但し、R
5は前記一般式(3)で示される基を少なくとも一部に含む。)、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、xは0〜5,000の整数(但し、x≦n)である。〕
【0012】
また、上記(1)の複合体の別の具体的としては、例えば、下記一般式(1-a)又は(2-a)で示されるものが挙げられる。
【化3】
〔式(1-a)及び(2-a)中、R
1は水素原子又は未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC
1-12アルキル基を表し、L
1及びL
2は連結基を表し、R
2はそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R
3はそれぞれ独立して水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R
4はヒドロキシル基又は開始剤残基を表し、R
5はそれぞれ独立して水素原子、アルカリ金属のイオン、又は下記一般式(3)若しくは(4):
【化4】
(式(3)及び(4)中、R
6は金属原子又は金属錯体由来の基を表し、R
7はMRI造影能を有する金属錯体由来の基を表す。)
で示される基を表し(但し、R
5は前記一般式(3)で示される基を少なくとも一部に含む。)、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数である。〕
【0013】
ここで、上記一般式(1)、(2)、(1-a)及び(2-a)においては、例えば、R
6が、それぞれ独立して、白金、銅、金又は鉄の金属原子であってもよいし、それぞれ独立して、白金、銅、金又は鉄を中心金属原子とする金属錯体由来の基であってもよい。後者の場合、R
6としては、例えば、下記一般式(5)又は(6)で示される基が挙げられる。
【化5】
〔式(5)及び(6)中、Mは白金、銅、金又は鉄の金属原子を表す。〕
【0014】
また、R
6としては、例えば、抗腫瘍活性を有する金属錯体由来の基が挙げられ、具体的には、下記式(5-a)又は(6-a)で示される基が例示できる。
【化6】
【0015】
また、上記一般式(1)、(2)、(1-a)及び(2-a)においては、例えば、R
7が、それぞれ独立して、ガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅を中心金属原子とする金属錯体由来の基であってもよい。ここで、当該金属錯体としては、例えば、多座配位子との金属錯体が挙げられ、多座配位子としては、例えば、アミノカルボン酸系若しくはリン酸系化合物、ポルフィリン系化合物、又はデフェリオックスアミンBが挙げられる。さらに、これらの中でも、アミノカルボン酸系又はリン酸系化合物としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ビスメチルアミド、トリエチレンテトラミン六酢酸、ベンジロキシプロピオニック五酢酸、エチレングリコールテトラミン四酢酸、テトラアザシクロドデカン四酢酸、テトラアザシクロドデカン三酢酸、ジヒドロキシヒドロキシメチルプロピルテトラアザシクロドデカン三酢酸、ヒドロキシプロピルテトラアザシクロドデカン三酢酸、又はテトラアザシクロドデカン四リン酸が挙げられる。
【0016】
上記R
7としては、具体的には、例えば、下記一般式(7)、(8)、(9)又は(10)で示される基
が挙げられ、さらに具体的には、下記式(7-a)、(8-a)、(9-a)又は(10-a)で示される基が挙げられる。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
〔式(7)、(8)、(9)及び(10)中、M
1はガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅の金属原子を表す。〕
【0017】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0018】
さらに、上記一般式(1)、(2)、(1-a)及び(2-a)においては、例えば、前述の一般式(3)で示される基が、それぞれ独立して、下記一般式(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)又は(18)で示される基であってもよく、より具体的には、下記式(11-a)、(12-a)、(13-a)、(14-a)、(15-a)、(16-a)、(17-a)又は(18-a)で示される基が挙げられる。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0019】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
〔式(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)及び(18)中、
Mは白金、銅、金又は鉄の金属原子を表し、M
1はガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅の金属原子を表す。〕
【0020】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【0021】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【0022】
上記(1)の複合体としては、例えば、前記ポリ(hph)及び前記ポリ(carbo)のセグメントをそれぞれシェル部分及びコア部分として形成されたミセル状粒子に、MRI造影能を有する金属錯体が内包された形態にあるものが挙げられ、さらに、抗腫瘍活性を有する金属錯体が内包された形態にあるものも挙げられる。当該形態のものとは、いわゆる高分子ミセルを形成するように、上記(1)の複合体が複数凝集したものであり、例えば、水性媒体中における動的光散乱法により測定した平均分散粒子径が10nm〜1μmであるものが挙げられる。
(2)上記(1)の複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用及び/又は抗腫瘍用組成物。
(3)被験動物の体内に上記(1)の複合体を投与することを特徴とする、腫瘍検出用MRI造影方法。
(4)上記(1)の複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用及び/又は抗腫瘍用キット。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高分子ミセルの構成成分となり得るブロック共重合体と、MRI造影能を有する金属錯体とを含んでなる、重合体−金属錯体複合体であって、腫瘍特異的に集積し、少ない使用量で造影コントラストが高く、しかも副作用が低減され且つ長期間の血中滞留性を有する複合体を提供することができる。さらに、当該複合体を含むMRI造影用(及び/又は抗腫瘍用)組成物及びキット、並びに、当該複合体を用いる腫瘍検出用MRI造影方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の重合体−金属錯体複合体の一実施例の合成スキームを示す概略図である。
【
図2】ミセルに内包されたGdのポリマーあたりの比率を示すグラフである。 合成時に加えたGd-DTPA量(mM)に対する最終的にミセルに内包されたポリマーあたりのGd量を表す。CDDPを用いた群(黄色)では押し並べてGd含有量が低いのに対し、DACHPtを用いた群(青色)では合成時に加えたGd量が多いほどその含有量も多くなっていた。
【
図3】ミセルに内包されたGd及びPt濃度を示すグラフである。 PEG-P(Glu)12-20とPEG-P(Glu)12-40とでのPt及びGd濃度を示す。Gd濃度はややPEG-P(Glu)12-40の方が含有量が多いものの、有意差は認められなかった。
【0025】
【
図4】ミセルに内包されたGdのPtに対する比率を示すグラフである。 PEG-P(Glu)12-20及びPEG-P(Glu)12-40ミセルのそれぞれのGd/Pt比を示す。初めに加えたGd量が4mM及び5mMの場合において、ややPEG-P(Glu)12-40の方がGd/Pt比が高かった。
【
図5】ミセルのサイズ(DLSデータ)を示すチャートである。 すべてのサンプルに関して、粒径34〜43nmの単分散の粒子が得られ、またPolydispersityIndex (PdI)は、いずれも0.1以下であった。
【
図6】ミセルの安定性を示すグラフである。 いずれのミセルでもほぼ同様のintensity(散乱光強度(I/I0);グラフ縦軸)の経時的減少が見られた。ミセルは徐々に崩壊するものの、血中でも投与後15時間で50%のミセルが滞留し得ることが分かった。
【0026】
【
図7】ミセルからの薬剤の放出を示すグラフである。 Gd-DTPA/DACHPt内包ミセルからのGd及びPtそれぞれの放出を示した。Ptは緩徐に放出されるのに対し、Gdは20時間で50%が放出された。
【
図8】ミセルの緩和能を示すグラフである。 Gd-DTPA/DACHPt内包ミセルは、Gd-DTPAと比較して、20倍以上の緩和能を有するものであった。なお、緩和能は、以下で定義される。 1/T
1= 1/T
10+R
1[Gd] 1/T
2= 1/T
20+R
2[Gd] (R
1 :[mM
-1・S
-1] ; R
2 :[mM
-1・S
-1])
【
図9】Gd-DTPA/DACHPt内包ミセル注入後、1、4、22時間後の血漿中及び腫瘍中の、Pt及びGd量(%dose)を示すグラフである。
【0027】
注入後22時間で約20%のGdの腫瘍内への集積が見られ、血漿中には22時間後でGd及びPtとも10%認められたため、血中滞留性は高いことが示された。
【
図10】in vivo MRI実験の結果を示す図(MRI像)である。 腫瘍の中心を通る2スライスを示した。ミセル投与後30分で陽性の造影効果の出現を認め、180分、240分後に最も顕著となった。
【
図11】Tumor内におけるFree Gd-DTPAとGd-DTPA/DACHPt内包ミセルとの造影効果の比較結果を示すグラフである。 グラフ縦軸のI/I0は、ミセル投与前の腫瘍内の信号強度に対するミセル投与後の信号強度の増加率(%)を意味する。Gd-DTPAと比較して、ミセルの方が造影効果が高く、また少なくとも6時間は造影効果が持続することが分かった。
【
図12】Gd-DTPA/DACHPt内包ミセル及びフリーのOxaliplatin、又は当該ミセル及びフリーのGd-DTPAを、それぞれ、注射後1, 4, 8, 24時間後に採血し、血漿中の薬剤の残存率(%)を測定した結果を示すグラフである。 ミセルの場合、24時間後まで薬剤が留まっているのに対し、Oxaliplatin及びGd-DTPAは速やかに血漿中より消失していた。この結果から、ミセルは両薬剤の血中滞留性を大幅に増加させることがわかった。
【0028】
【
図13】難治性癌の一つであるヒト膵臓癌(BxPC3)に対する、Gd-DTPA/DACHPt内包ミセル(Pt濃度: 3mg/ml)及びOxaliplatin(Pt濃度: 8mg/ml)の投与後の、非治療群の腫瘍の大きさ(左図)及び体重(右図)の推移を示すグラフである。なお、当該グラフ中、Gd-DTPA/DACHPt内包ミセルを投与した場合は、「DACHPt/m」と表記した。 Oxaliplatinはミセルの倍以上の薬剤濃度でもほとんど治療効果がないのに対し、ミセルは投与量を減少させても十分な制癌効果を示した。また、体重減少もなかったことより、強い副作用もないことが示唆された。
【
図14】in vivo MRI 実験の結果を示す図(MRI像)である。 難治性ヒト膵癌(BxPC3)の同所移植モデルでの、Gd-DTPA/DACHPt内包ミセル(左)及びGd-DTPA(右)の投与後の、MRI造影効果を確認した。ミセルはGd-DTPAに比べ強く持続的な造影効果を認め、この結果、他臓器と腫瘍との間に明確なintensityの差が認められたのに対し、Gd-DTPAではほとんど造影効果が認められなかった。
【
図15】in vivo MRI 実験での、各部位におけるintensityの平均値の経時的推移を示すグラフである。 Gd-DTPA投与後の腫瘍(Tumor (free Gd-DTPA))では、ほとんどintensityの上昇はなかったが、Gd-DTPA/DACHPt内包ミセル注射後の腫瘍(Tumor)では、intensityが顕著に上昇し且つ持続した。他臓器(Liver, Kidneys, Spleen)では、ややintensityの上昇がみられたが、wash outされるため、持続的な上昇は認められなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2008−167823号明細書(2008年6月26日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての先行技術文献、並びに公開公報、特許公報及びその他の特許文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0030】
1.重合体−金属錯体複合体
本発明は、高い血中滞留性と腫瘍組織選択性を有する高分子ミセルによるドラッグデリバリーシステムに着目し、当該高分子ミセル内にMRI造影能を有する金属錯体を内包させるための、ブロック共重合体−金属錯体複合体を提供するものである。
本発明の重合体−金属錯体複合体は、下記一般式(a):
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (a)
〔式(a)中、ポリ(hph)は非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを表し、ポリ(carbo)は側鎖にカルボキシル基を有するポリマー鎖セグメントを表す。なお、本発明においては、便宜上、ポリ(hph)やポリ(carbo)等と称しているが、「ポリ」の語には、いわゆる「オリゴ」の範疇に入るものも包合されるものとする。〕
で示されるブロック共重合体(A)と、MRI造影能を有する金属錯体(B)とを含んでなる重合体−金属錯体複合体であって、該共重合体(A)中のポリ(carbo)のカルボキシルアニオンと、該金属錯体(B)とが、金属原子(M)を介して結合した構造を含むものである。
【0031】
ここで、共重合体(A)中のポリ(carbo)のカルボキシルアニオンと、金属錯体(B)とが、金属原子(M)を介して結合した構造とは、具体的には、共重合体(A)中のポリ(carbo)のカルボキシルアニオンに金属原子(M)が結合し、かつ該金属原子(M)に金属錯体(B)が結合した構造であることが好ましい。また、共重合体(A)と金属錯体(B)とのリンカー的な役割を果たす金属原子(M)は、金属原子のみであってもよいし、金属原子含有化合物中の金属原子であってもよく、限定はされず、後者の例示としては、金属錯体の中心金属原子であることが好ましい。金属錯体の中心金属原子としては、限定はされないが、例えば、抗腫瘍活性を有する金属錯体(C)の中心金属原子であることが好ましく、この場合、MRI造影能のみならず抗腫瘍活性をも発揮させることができる。なお、金属錯体(C)は、限定はされないが、本発明の複合体が高い血中安定性を発揮できるよう、ブロック共重合体(A)に固定化されたものであることが好ましい。
【0032】
共重合体(A)中、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントであるポリ(hph)としては、限定はされないが、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる親水性ポリマーに由来するものが好ましく挙げられ、中でも、ポリエチレングリコールに由来するものがより好ましい。
【0033】
また、共重合体(A)中、側鎖にカルボキシル基を有するポリマー鎖セグメントであるポリ(carbo)としては、限定はされないが、例えば、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来するものが好ましく挙げられ、中でも、ポリ(グルタミン酸)及びポリ(アスパラギン酸)に由来するものがより好ましい。
本発明の重合体−金属錯体複合体としては、具体的には、下記一般式(1)又は(2)で示されるもの複合体が例示できる。
【化31】
【0034】
また、本発明の重合体−金属錯体複合体の、他の好ましい具体例としては、下記一般式(1-a)又は(2-a)で示される複合体が挙げられる。
【化32】
【0035】
上記式(1)、(2)、(1-a)及び(2-a)中、R
1は水素原子又は未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC
1-12アルキル基を表し、L
1及びL
2は連結基を表し、R
2はそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R
3はそれぞれ独立して水素原子、アミノ基の保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R
4はヒドロキシル基又は開始剤残基を表し、
R
5はそれぞれ独立して水素原子、アルカリ金属のイオン、又は下記一般式(3)若しくは(4):
【化33】
(式(3)及び(4)中、R
6は金属原子又は金属錯体由来の基を表し、R
7はMRI造影能を有する金属錯体由来の基を表す。)
で示される基を表す。ここで、一般式(4)で示される基は、結合の手を2つ有しているが、これは2つのR
5部分を連結する基(すなわち、2つのカルボキシルアニオンと結合する基)であることを意味する。また、mは5〜20,000(好ましくは10〜5,000、より好ましくは40〜500)の整数であり、nは2〜5,000(好ましくは5〜1,000、より好ましくは10〜200)の整数である。さらに、上記式(1)及び(2)においては、xは0〜5,000(好ましくは0〜1,000、より好ましくは0〜200)の整数(但し、x≦n)である。なお、上記式(1)及び(2)において、n-x個の繰り返し単位とx個の繰り返し単位とは、ランダムに混在して分布していてもよいし、ブロック状に分布していてもよく、限定はされない。
【0036】
上記式(1)、(2)、(1-a)及び(2-a)中の、m個の繰り返し単位の部分が、前記式(a)におけるポリ(hph)のセグメントに相当する。また、上記式(1)及び(2)中の、n-x個とx個の繰り返し単位の部分、及び上記式(1-a)及び(2-a)中の、n個の繰り返し単位の部分が、前記式(a)におけるポリ(carbo)のセグメントに相当する。
【0037】
R
1について、前述した未置換若しくは置換された直鎖若しくは分枝のC
1-12アルキル基としては、限定はされないが、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、デシル、ウンデシル等が挙げられ、置換された場合の置換基としては、例えば、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C
1-6アルコキシカルボニル基、C
2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ-C
1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基またはシリルアミノ基が挙げられる。置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(-CHO:またはアルデヒド基)に転化できる。このようなホルミル基、または上記カルボキシル基もしくはアミノ基は、例えば、本発明の複合体を生成した後に、対応する保護された形態の基または部分から脱保護もしくは転換して生じさせることができ、次いで必要に応じ、適当な抗体もしくはその特異結合性を有する断片(F(ab')
2、F(ab)、または葉酸など)を共有結合し、そして該複合体に標的指向性を付与するために利用できる。このような官能基を片末端に有するポリ(hph)セグメント(非荷電性親水性のポリマー鎖セグメント)は、例えば、WO 96/32434、WO 96/33233、WO 97/06202に記載のブロック共重合体のPEGセグメント部の製造法に準じて形成することができる。このように形成されるポリ(hph)セグメントと、ポリ(carbo)セグメントとは、前述した各ブロック共重合体の製造方法に応じて、どのような連結様式をとることもでき、どのような連結基で結合されていてもよい。該製造方法は、特に限定はされないが、末端にアミノ基を有するポリ(hph)誘導体を用いて、そのアミノ末端から、例えば、β-ベンジル-L-アスパルテート及び/又はγ-ベンジル-L-グルタメートのN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロック共重合体を合成し、その後、側鎖ベンジル基を他のエステル基に変換するか、または部分もしくは完全加水分解することにより目的のブロック共重合体を得る方法が挙げられる。この場合、得られた共重合体の構造は、一般式(1)または(1-a)の複合体を構成する共重合体の構造となり、連結基L
1は、用いたポリ(hph)セグメントの末端構造に由来する構造となり、好ましくは-(CH
2)
p-NH-である(ここで、pは1〜5の整数である。)。また、ポリ(carbo)セグメント又はポリ(carbo)誘導体を合成してから、予め用意したポリ(hph)セグメントと結合させる方法でも、共重合体は製造可能である。この場合、結果的に上記の方法で製造したものと同一の構造となることもあるが、一般式(2)または(2-a)の複合体を構成する共重合体の構造となることもあり、連結基L
2は、限定はされないが、好ましくは-(CH
2)
q-CO-である(ここで、qは1〜5の整数である。)。
【0038】
R
3について、前述したアミノ基の保護基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、t-ブチルオキシカルボニル基、アセチル基及びトリフルオロアセチル基等が挙げられる。また、疎水性基としては、例えば、ベンジルカルボニル基及びベンズヒドリルカルボニル基等が挙げられる。さらに、重合性基としては、例えば、アクリロイル及びメタクリルロイル基等が挙げられる。
R
4について、前述した開始剤残基としては、例えば、NCA重合の開始剤となり得る脂肪族または芳香族の1級アミン化合物残基(-NH-アルキル)等が挙げられる。
R
5について、前述したアルカリ金属のイオンとしては、例えば、ナトリウム(Na)イオン、リチウム(Li)イオン及びカリウム(K)イオン等が挙げられる。
【0039】
また、一般式(3)及び(4)で示される基におけるR
6としては、例えば、白金(Pt)、銅(Cu)、金(Au)及び鉄(Fe)の金属原子、並びに白金、銅、金又は鉄を中心金属原子とする金属錯体由来の基が挙げられる。ここで、当該金属錯体由来の基としては、限定はされないが、例えば、下記一般式(5)及び(6)で示される基が例示できる。なお、一般式(6)で示される基については、シス型及びトランス型のいずれの構造のものも含まれる。
【化34】
〔式(5)及び(6)中、Mは白金、銅、金又は鉄の金属原子を表す。〕
【0040】
また、R
6としての、当該金属錯体由来の基としては、例えば、抗腫瘍活性を有する金属錯体由来の基であることが好ましく、具体的には、例えば、下記式(5-a)及び(6-a)で示される基が挙げられる。ここで、式(5-a)で示される基は、ジアミノシクロヘキサン白金(II)錯体(ダハプラチン(DACH Platin: DACHPt))由来の基であり、式(6-a)で示される基は、シスプラチン(cisplatin: CDDP)由来の基である。なお、式(6-a)で示される基としては、トランスプラチン由来の基も含み得るが、抗腫瘍活性を有する金属錯体由来の基としては、シスプラチン由来の基が選択される。
【化35】
【0041】
次いで、一般式(3)で示される基におけるR
7としては、MRI造影能を有する金属錯体由来の基であればよく、特に限定はされないが、例えば、ガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅を中心金属原子とする金属錯体由来の基が好ましく挙げられる。当該金属錯体としては、多座配位子との金属錯体であることが好ましく、また、当該多座配位子が、アミノカルボン酸系若しくはリン酸系化合物、ポルフィリン系化合物、又はデフェリオックスアミンBであることがより好ましい。さらに、多座配位子としてのアミノカルボン酸系若しくはリン酸系化合物としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ビスメチルアミド、トリエチレンテトラミン六酢酸、ベンジロキシプロピオニック五酢酸、エチレングリコールテトラミン四酢酸、テトラアザシクロドデカン四酢酸、テトラアザシクロドデカン三酢酸、ジヒドロキシヒドロキシメチルプロピルテトラアザシクロドデカン三酢酸、ヒドロキシプロピルテトラアザシクロドデカン三酢酸、及びテトラアザシクロドデカン四リン酸等が好ましく挙げられ、中でも、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ビスメチルアミド、テトラアザシクロドデカン四酢酸、及びヒドロキシプロピルテトラアザシクロドデカン三酢酸がより好ましい。
【0042】
ここで、R
7としての上記金属錯体由来の基としては、具体的には、例えば、下記一般式(7)、(8)、(9)及び(10)で示される基が挙げられる。
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
〔式(7)、(8)、(9)及び(10)中、M
1はガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅の金属原子を表す。〕
【0043】
また、R
7としての上記金属錯体由来の基としては、より具体的には、例えば、下記式(7-a)、(8-a)、(9-a)及び(10-a)で示される基が挙げられる。
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【0044】
さらに、R
5としての、一般式(3)で示される基としては、上述したR
6とR
7とを組み合わせた基が挙げられるが、具体的には、下記一般式(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)及び(18)で示される基を例示することができ、より具体的には、下記式(11-a)、(12-a)、(13-a)、(14-a)、(15-a)、(16-a)、(17-a)及び(18-a)で示される基が挙げられる。
【化44】
【化45】
【化46】
【化47】
【0045】
【化48】
【化49】
【化50】
【化51】
〔式(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)及び(18)中、
Mは白金、銅、金又は鉄の金属原子を表し、M
1はガドリニウム、ユーロピウム、マンガン、鉄又は銅の金属原子を表す。〕
【0046】
【化52】
【化53】
【化54】
【化55】
【0047】
【化56】
【化57】
【化58】
【化59】
【0048】
前記一般式(1)、(2)、(1-a)及び(2-a)で示される本発明の複合体は、R
5として、上述した一般式(3)で示される基を少なくとも一部に含むものである。一般式(3)で示される基の割合は、限定はされないが、例えば、前記式(1)、(2)、(1-a)及び(2-a)で示される本発明の複合体に含まれる合計n個のR
5中、一般式(3)で示される基が0.01%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは1%以上である。
【0049】
本発明の重合体−金属錯体複合体の製造方法としては、限定はされないが、前述したブロック共重合体(A)と、MRI造影能を有する金属錯体(B)とを、金属原子(M)(抗腫瘍活性を有する金属錯体(C)などの金属錯体も含む)の存在下、水性媒体中にて反応させる方法が好ましい。反応条件としては、目的の重合体−金属錯体複合体が得られる限り、いかなる条件を設定してもよく、例えば、前述した一般式(1)、(2)、(1-a)及び(2-a)に示した複合体の構成となるように、共重合体(A)、金属錯体(B)及び金属原子(M)の使用量等を、適宜設定することができる。なお、金属原子(M)として上記金属錯体(C)を使用する場合は、例えば、ダハプラチンやシスプラチンと、共重合体(A)中のカルボキシル基との当量比(金属錯体(C)/共重合体(A)中のカルボキシル基)が、1/10000以上、好ましくは1/1000以上、さらに好ましくは1/100以上となるように、使用量を設定することが好ましい。また、反応温度は、限定はされないが、例えば5〜60℃であることが好ましい。さらに、反応溶媒となる水性媒体としては、水(特に、脱イオン水)または各種無機もしくは有機緩衝剤、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、エタノール等の水混和有機溶媒を、本発明の複合体の形成反応に悪影響を及ぼさない範囲で含んでいてもよい。
【0050】
本発明の複合体の形態としては、例えば、ポリ(hph)のセグメント及びポリ(carbo)のセグメントをそれぞれシェル部分及びコア部分として形成されたミセル状粒子に、MRI造影能を有する金属錯体が内包された形態にあるものが好ましく挙げられ、さらに抗腫瘍活性を有する金属錯体が内包された形態にあるものがより好ましい。通常、水性媒体(水性溶媒)中においては、本発明の複合体は、凝集して、可溶化した高分子ミセル状の形態を形成し得る。ポリ(hph)のセグメントは、親水性ポリマー鎖のセグメントであるため、ミセル粒子の表面側のシェル部分を構成し、ポリ(carbo)のセグメントは疎水性ポリマー鎖のセグメントであるため、ミセル粒子の内部側のコア部分を構成する。ポリ(carbo)のセグメントに結合しているMRI造影能を有する金属錯体や、抗腫瘍活性を有する金属錯体は、コア部分を構成するポリ(carbo)のセグメントとともに、ミセル粒子の内部に内包された状態となる。このような、本発明の複合体により構成される高分子ミセル粒子は、水性媒体中における平均分散粒子径(動的光散乱法により測定)が、例えば、10nm〜1μmであることが好ましく、より好ましくは10nm〜200nmであり、さらに好ましくは20nm〜50nmである。高分子ミセル粒子の単離及び精製は、常法により、水性媒体中から回収することができる。典型的な方法としては、限外濾過法、ダイアフィルトレーション、透析方法が挙げられる。
【0051】
2.MRI造影用及び/又は抗腫瘍用組成物
本発明においては、前述した重合体−金属錯体複合体を含むことを特徴とする、MRI造影用組成物及び/又は抗腫瘍用組成物(医薬組成物)が提供される。本発明の組成物は、MRI造影による癌(悪性腫瘍)の検出・診断手段、及び/又は癌(悪性腫瘍)の治療手段として使用することができる。腫瘍の種類は、限定はされず、公知の各種癌種を挙げることができる。
本発明の組成物において、前述した重合体−金属錯体複合体の含有割合は、限定はされず、MRI造影の効果や抗腫瘍効果を勘案して適宜設定することができる。
【0052】
本発明の組成物は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ等の各種動物に適用することができ、限定はされない。被験動物への投与方法は、通常、点滴静注などの非経口用法が採用され、投与量、投与回数及び投与期間などの各条件は、被験動物の種類及び状態のほか、組成物の使用目的に応じて、適宜設定することができる。例えば、抗腫瘍用効果を得ることを目的として、ヒトに静脈内投与をする場合の用量は、実験動物またはボランティアによる小実験を行い、それらの結果を考慮して、さらには患者の状態を考慮して専門医が決定するのが好ましく、限定はされないが、一般には、1日1回、1.0〜1,000 mg/m
2(患者の体表面積)とすることができ、また、10〜200 mg/m
2(患者の体表面積)を1日1回、数日間連続投与し、一定期間休薬するか、あるいは、50〜500 mg/m
2(患者の体表面積)を1日1回投与した後、数日間休薬する等、投与スケジュールにより、適当な用量を選択することができる。
【0053】
本発明の組成物は、MRI造影用及び/又は抗腫瘍用といった用途を勘案し、薬剤製造上一般に用いられる賦形材、充填材、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤及び等張化剤等を適宜選択して使用することができる。
本発明においては、被験動物の体内に本発明の重合体−金属錯体複合体、又は上記本発明の組成物を投与することを特徴とする、腫瘍検出用MRI造影方法を提供することができる。また同様に、本発明においては、被験動物の体内に本発明の重合体−金属錯体複合体、又は上記本発明の組成物を投与することを特徴とする、癌の治療方法を提供することができる。
【0054】
3.MRI造影用及び/又は抗腫瘍用キット
本発明のMRI造影用及び/又は抗腫瘍用キットは、前述した重合体−金属錯体複合体を含むことを特徴とする。当該キットは、腫瘍検出用MRI造影方法や、癌の治療方法等に好ましく用いることができる。
当該キットにおいて、本発明の重合体−金属錯体複合体(高分子ミセル粒子状の形態ものもの含む)の保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して、溶液状又は粉末状等の状態を選択できる。
本発明のキットは、前記重合体−金属錯体複合体以外に他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、限定はされないが、例えば、各種バッファー、防腐剤、分散剤、安定化剤、及び使用説明書(使用マニュアル)等を挙げることができる。
【0055】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
ポリエチレングリコール(以下、PEGという)−ポリアミノ酸共重合体に、金属錯体を結合させ、さらに当該金属錯体のカルボキシル末端にGd(ガドリニウム)錯体を結合させて得られた、重合体−金属錯体複合体が形成するミセルを調製した(
図1)。
具体的には、Pt錯体として、1-5 mMのcis-diamminedichloroplatinum(II) Cl
2(以下、CDDPという)、又は1-5 mM dichloro(1,2-diaminocyclohexane)platinum(II) (NO
3)
2(以下、DACHPtという)溶液をまず1〜5 mMのDACHPt(NO
3)
2、または1〜5 mM CDDPCl
2を70℃の蒸留水にて溶解し、その後1〜20 mM gadolinium diethylene triamine pentaacetic acid (以下、Gd-DTPAという)または5 mM Gadolinium [5,8-bis(carboxymethyl)-11-[2-(methylamino)-2-oxoethyl]-3-oxo-2,5,8,11-tetraazatridecan-13-oato(3-)] (以下、Gadodiamideという)を加えて、暗所にて37℃、24時間震盪させ、Gd-DTPA/DACHPt、CDDP/Gd-DTPA、DACHPt/GadodiamideまたはCDDP/Gadodiamide複合体を作製した。次に、PEG-ポリグルタミン酸共重合体、またはPEG-ポリアスパラギン酸共重合体を、カルボン酸濃度で2.5-5 mMにして加え、暗所にて37℃で5日間震盪させた。その後、余剰のGd錯体、Pt錯体、ポリマーを除去するため、Molecular weight cut off(以下、MWCOという)2,000の透析膜を使用し、24時間透析を行った。さらに、MWCO 30,000のろ過装置を用いて限外濾過(3,000rpm、15min、5回)をかけ、0.22μmのフィルターを用いて粗大な凝集体を除去し、目的とする高分子ミセルを得た。
【0057】
ミセルに内包されたGd錯体の内包量を評価した。具体的には、まず5 mM DACHPt溶液、または5 mM CDDP溶液を使用し、加えるGd-DTPAの濃度を変化させてミセルを作製し、最も効率的にGdを含有する濃度を探索した。使用したブロック共重合体は、PEG-ポリグルタミン酸(PEGの分子量:12,000、グルタミン酸ユニット:20)である。ミセルに内包されるGd及びPtの量は、ミセルを2%硝酸に溶かし、10000〜100000倍希釈した後、イオンカップリングプラズママススペクトル(以下、ICP-MSという)(Hewlett Packard 4500)にて測定した。その結果、DACHPt内包ミセルの方がCDDP内包ミセルよりもポリマーあたりのGd含有量が多く、かつGd-DTPAを高濃度加えた方がミセルに内包されるGd量が多かった(
図2)。
Gd-DTPA量は1〜20mMまで施行し、5mM以上にGd-DTPAの濃度を上げても、ミセルに内包されるGd-DTPA量は増加しなかった。
【0058】
PEG-ポリグルタミン酸共重合体(PEG-PGlu)のグルタミン酸ユニット数によって、ミセルのGd内包量が変化するかどうかを検討した。ブロック共重合体は、PEGの分子量が12,000で、かつポリグルタミン酸のユニット数が20及び40のものを使用した(それぞれ、PEG-PGlu(12-40)及びPEG-PGlu(12-20)という。ここで、当該表記中、「12」はPEGの分子量の12,000を意味し、「20」及び「40」は、ポリカルボン酸(ここではポリグルタミン酸)のユニット数を意味する。)。ミセルの作製は、まず1〜5 mM Gd-DTPA溶液と5mM DACHPt溶液とを混和して、37℃で24時間、暗所で震盪し、その後、カルボン酸ベースで5mM PEG-PGlu溶液を混ぜて、37℃で5日間、震盪して行った。前述の方法と同様に、透析、限外濾過、0.22μmのフィルターで余分な分子や構造体を除去し、目的とする高分子ミセルを得た。その後ミセルに内包されるGd及びPtの量は、ミセルを2%硝酸に溶かし、10000〜100000倍希釈した後、ICP-MSにて測定した。その結果、PEG-PGlu(12-40)はPEG-PGlu(12-20)よりもGd/Pt比はやや高かったものの有意差は認められなかった(
図3,4)。
【0059】
PEG-PGluのグルタミン酸ユニット数、及びGd-DTPAの仕込みの濃度によって、ミセルの粒径が変化するかどうかを検討した。作製したミセルの流体力学半径を、動的光散乱(DLS)測定(Zetasizer Nano ZS, Malvern Instruments)により測定した。その結果、ミセルの平均粒径は、いずれのポリマーを用いたミセルでも34〜40nmであり、Polydispersity Index(PdI)は、いずれも0.2以下で、単分散であった(
図5)。
また、他の実施例として、以下の高分子ミセルも作製し、上記と同様に平均粒径及びPdIを測定した。すなわち、5mM Gadodiamideと5mM DACHPtとを反応させ、5mM PEG-P(Glu)12-30を加えて、Gadodiamide/DACHPt内包ミセルを作製した。当該ミセルの平均粒径は42nmであり、PdIは0.174であった。また、5mM Gd-DTPAと5mM CuCl
2とを反応させ、5mM PEG-P(Glu)12-30を加えて、Gd-DTPA/銅内包ミセルを作製した。当該ミセルの平均粒径は32.2nmであり、PdIは0.158であった。さらに、5mM Iron acetylacetonateを50% DMFにて溶解し、5mM Gd-DTPAと混合し、すぐに5mM PEG-P(Glu)12-20を加えて反応させ、Gd-DTPA/鉄内包ミセルを作製した。当該ミセルの平均粒径は、23〜110nmであり、PdIは0.399であった。
【実施例2】
【0060】
実施例1で作製した各々のミセルの血中安定性を、生理環境下でのミセルの散乱光強度を測定することで評価した。一定量のミセルにpH7.4、10mMPBS+150mM NaClを加え、経時的に散乱光強度(Zetasizer Nano ZS, Malvern Instruments)を測定した(
図6)。同時に動的光散乱測定(Zetasizer Nano ZS, Malvern Instruments)により、ミセルの平均粒径も経時的に測定した。その結果、散乱光強度(I/I0)は、どのミセルでもほぼ同じ程度の経時的減少を認めたものの、15時間後でほぼ50%の散乱光強度を保っていた。これは薬剤投与後15時間でも血中に50%のミセルが滞留し得ることを示すものであった。
これらの結果から、以下の実験例及び実施例において使用するミセルは、すべて、ポリマーを、カルボン酸ベースの濃度5 mMの PEG-P(Glu)12-40とし、5mMのGd-DTPAと5mMのDACHPtとを加えることにより作製した(Gd-DTPA/DACHPt内包ミセル)。
【0061】
Gd-DTPA/DACHPt内包ミセルからの薬剤(Gd-DTPA、DACHPt)のリリース挙動を測定した。具体的には、20mM,pH7.4 PBS+300mM NaCl溶液1mlと、2mg/ml高分子ミセル溶液1mlとを混合し、MWCO 6,000の透析膜に封入した。これを10mM,pH7.4 PBS+150mM NaCl溶液99ml内に入れ、透析膜の外側の溶液を経時的にサンプリングして含有するGd及びPtの量をICP-MSにて測定した。その結果、GdはPtよりも早い速度で放出されていることが分かった。Gdは20時間で50%が放出されるのに対し、Ptは70時間で40%が徐々に放出された(
図7)。
【0062】
MRI用造影剤の感度を示す緩和能(造影剤の感度)R
1, R
2を評価した。緩和能が高い程高感度であることを示す。まず、Gdベースの濃度で0.1〜0.5 mMの濃度範囲になるよう、測定したいサンプルを蒸留水で希釈して1mlの溶液として用意した。そして、それぞれのサンプルについてT
1及びT
2を、それぞれInversion Recovery法及びCarr-Purcell-Meiboom-Gill法にて測定した(JNM-MU25A, JEOL,Inc, 0.58T)。最後に解析として、Gd濃度をx軸、T
1及びT
2それぞれの逆数をy軸としたグラフを作成し、その傾きから緩和能R
1, R
2を求めた。その結果、高分子ミセルはGd-DTPAに比べて20倍以上の高値を示した(
図8)。このことはGd-DTPA/DACHPt内包ミセルのMRI造影剤としての能力が同Gd濃度のGd-DTPAよりも20倍以上高いことを意味する。
【実施例3】
【0063】
Gd-DTPA/DACHPt内包ミセルの体内動態を調べることを目的として、in vivo実験を行った。C-26大腸癌細胞を皮下移植したCDF1マウス(雌、6週齢)に、Gd-DTPA/DACHPt内包ミセルを尾静脈投与して1時間後、4時間後、22時間後にそれぞれ腫瘍を摘出し、下大静脈より0.1mlの血液を採取した。これらの組織内に含まれるGd、Pt濃度を測定するため、90% HNO
3にてこれらの組織を溶解した後、加熱乾燥させ、蒸留水にて溶解及び希釈後、その溶液内のGd及びPtの含有量をICP-MSにより測定した。
図9に、Gd-DTPA/DACHPt内包ミセル注入後1、4、22時間後の、血漿中及び腫瘍中のPt、Gd量(%dose)を示した。その結果、注入後22時間で、約20%のGdの腫瘍内への集積が見られ、血漿中には22時間後にGd、Ptとも10%程度認められ、従来のミセル(特許第3955992号)と同様に、高い血中滞留性を有していた。
【実施例4】
【0064】
Gd-DTPA/DACHPt内包ミセルを用いてin vivo MRI実験を行った。C-26大腸癌細胞を皮下移植したCDF1マウス(雌、6週齢)を用いて撮像した。MRIは、4.7Tesla Superconductive Magnet Unit(Varian, Palo Alto, CA)VXR-MRI Consoleを用いて撮像した。撮像条件は、repetition time(TR): 500ms、echo time(TE): 15ms、field of view(FOV): 32mm x 32mm、matrix size: 128 x 128、slice thickness: 2mmで行い、Spin Echo T1wイメージを撮像した。マウスは5%イソフルレンによる吸入麻酔にて導入を行い、撮像中は1.2%イソフルレンにて維持麻酔をかけた。0.2mlのGd-DTPA/DACHPt内包ミセル(Gd濃度:500μM)を尾静注し、マウスをコンソール内に固定した。ファントムコントロールとして蒸留水入りの1mlシリンジを同時に撮像した。撮像は尾静注後の最初の1時間は5分おきに行い、その後は15分おきに4〜5時間行った。また、コントロールとしてフリーのGd-DTPAを同量尾静注し、同様の方法で撮像を行った。
【0065】
得られた画像はMathematica(Wolfram Research Inc.)及びExcel(Microsoft, Inc.)によって解析を行った。
以上の結果、Gd-DTPAに比べて明らかに腫瘍内の造影効果が高く、尾静注後30分で腫瘍の信号強度が30%増加し、陽性の造影効果を得た。またその造影効果は少なくとも4時間持続した(
図10,11)。
【実施例5】
【0066】
C-26大腸癌細胞を皮下移植したCDF1マウス(雌、6週令)に、Gd-DTPA/DACHPt内包ミセル及びOxaliplatin(Free Ox)をそれぞれ0.2ml尾静脈投与し、その1、4、8、24時間後に下大静脈より0.1ml採血した。同様に、上記マウスに、当該ミセル及びGd-DTPA(Free Gd-DTPA)をそれぞれ0.2ml尾静脈投与し、その1、4、8、24時間後に下大静脈より0.1ml採血した。採血後は速やかにヘパリンと混和して凝血を防いだ後、遠心して血漿のみを採取した。これに90%HNO
3を混ぜて加熱、乾燥させ、5N HClにて溶解後、適当な倍数に希釈し、ICP-MSによりGd及びPtの含有量を測定した。得られた測定値を、最初に投与した薬剤の分量で割って% doseを導き、グラフに示した(
図12)。この結果、ミセルはフリーの両薬剤と比較し、血中滞留性が上昇した。
【実施例6】
【0067】
ヒト膵臓癌細胞(BxPC3)を皮下移植したヌードマウス(雌6週令)に、Gd-DTPA/DACHPt内包ミセル(Pt量: 3mg/ml)及びOxaliplatin(Pt量: 8mg/ml)をそれぞれ0.2mlずつ、day0, day2, day4と3回静注し、day0から2日毎に腫瘍の大きさ(長軸=a cm, 短軸=b cm;a×b
2=腫瘍体積の近似値)と体重とを測定し、コントロール群と比較した(n=6)。
Gd-DTPA/DACHPt内包ミセルの腫瘍抑制効果は、Pt量が3mg/mlでも十分認められたのに対し、Oxaliplatinは、Pt量が8mg/mlでもほぼcontrolと同じ経過であったことから、当該ミセルの制癌効果が膵臓癌でも証明された(
図13,左)。また、体重減少もほとんどなく、深刻な副作用は認められなかった(
図13,右)。
【実施例7】
【0068】
ヌードマウス(雌6週令)を吸入麻酔下に開腹し、膵臓の漿膜下にヒト膵臓癌細胞(BxPC3)を0.1ml注射し、1ヶ月待ち、同所移植モデルを作製した。MRIは、4.7Tesla Superconductive Magnet Unit(Varian, Palo Alto, CA)VXR-MRI Consoleを用いて撮像した。撮像条件は、repetition time(TR): 500ms、echo time(TE): 15ms、field of view(FOV): 32mm x 32mm、matrix size: 256 x 256、slice thickness: 2mmで行い、Spin Echo T1wイメージを撮像した。マウスは5%イソフルレンによる吸入麻酔にて導入を行い、撮像中は1.2%イソフルレンにて維持麻酔をかけた。0.2mlのGd-DTPA/DACHPt内包ミセル(Gd濃度: 500μM)を尾静注し、マウスをコンソール内に固定した。撮像は尾静注後の最初の1時間は5分おきに行い、その後は15分おきに4時間行った。また、コントロールとしてフリーのGd-DTPAを同量尾静注し、同様の方法で撮像を行った。
得られた画像はMathematica(Wolfram Research Inc.)及びExcel(Microsoft, Inc.)によって解析を行った。
【0069】
以上の結果、Gd-DTPA/DACHPt内包ミセルは、Gd-DTPAに比べて明らかに腫瘍内の造影効果が高く、intensityの増加も200%までになり、さらに造影効果が少なくとも4時間持続した。これに対し、他の臓器(肝臓、腎臓、脾臓)では、少しintensityの増加が認められたがwash outされ、結果的に腫瘍の造影効果のみが残存する形となった(
図14,15)。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、高分子ミセルの構成成分となり得るブロック共重合体と、MRI造影能を有する金属錯体とを含んでなる、重合体−金属錯体複合体であって、腫瘍特異的に集積し、少ない使用量で造影コントラストが高く、しかも副作用が低減され且つ長期間の血中滞留性を有する複合体を提供することができる。さらに、当該複合体を含むMRI造影用(及び/又は抗腫瘍用)組成物及びキット、並びに、当該複合体を用いる腫瘍検出用MRI造影方法を提供することができる。