(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放水口を塞ぐ弁体と、該弁体を支持するシリンダ及びピストンからなる感熱分解部と、該シリンダ内に収容され、ピストンによって押圧される感熱体とを備えたスプリンクラヘッドにおいて、
前記感熱体がフタル酸ジフェニルを圧縮成型してなる圧縮成型体からなり、
前記圧縮成型体は、当該圧縮成型体に荷重を加えていき、当該圧縮成型体が崩れるときの荷重のピーク値が1.4kg以上であることを特徴とするスプリンクラヘッド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
感熱体の材料として半田に代えて無機化合物又は有機化合物を用いたとしても、半田と同等以上の応答性が要求されるのは言うまでもない。具体的には、目標温度に対して±3%以内の温度範囲でスプリンクラヘッドが作動する必要がある。
また、スプリンクラヘッドは長期間にわたって建物等に設置されるため、材料自体の安定性も要求される。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1においては、新たに適用した感熱体の材料について上記のような観点からなんらの検討もされていない。したがって、感熱体として有機化合物等を用いた場合において、目標温度に対して感度よく作動するようにするにはいかにするべきかという課題が残されていた。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、半田に代わる環境に悪影響を与えることのない材料を感熱体に用いると共に感度に優れたスプリンクラヘッドを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1では、例えば有機化合物を感熱体に用いた場合に、その融点がスプリンクラヘッドの作動温度範囲にあることしか述べられていない。
スプリンクラヘッドの感熱体には、長期間応力が作用した状態を保持しつつ、火災の熱によって感熱体が所定の温度になったときには一気に溶融するという性質が要求される。
発明者は、感熱体の材料として有機化合物を用いた場合について鋭意検討したところ、上記の要求を満たすためには、特許文献1に述べられているように、単に融点が目標とする温度範囲内にあるのみでは足りないことを見出した。
発明者の検討したところ、上記の要求を満たすためには、有機化合物の微粉末を圧縮成型して偏平な円柱状、円柱状又は中央に貫通穴が形成されたドーナツ状等のペレットにし、かつその硬度が所定値以上であることが必要であるとの知見を得た。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0009】
(1)本発明に係るスプリンクラヘッドは、放水口を塞ぐ弁体と、該弁体を支持するシリンダ及びピストンからなる感熱分解部と、該シリンダ内に収容され、ピストンによって押圧される感熱体とを備えたスプリンクラヘッドにおいて、
前記感熱体が
フタル酸ジフェニルを圧縮成型してなる
圧縮成型体からなり、
前記圧縮成型体は、当該圧縮成型体に荷重を加えていき、当該圧縮成型体が崩れるときの荷重のピーク値が1.4kg以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、感熱体として
フタル酸ジフェニルを圧縮成型してなる
圧縮成型体からなり、前記圧縮成型体は、当該圧縮成型体に荷重を加えていき、当該圧縮成型体が崩れるときの荷重のピーク値が1.4kg以上であるものを用いたことにより、環境に悪影響を与えることがなく、かつ感度に優れたスプリンクラヘッドを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施の形態に係るスプリンクラヘッドは、感熱体が、60〜150度の温度範囲の融点を持つ有機化合物の微粉末を硬度1.4kg以上に圧縮成型してなることを特徴とするものである。
感熱体の特徴はスプリンクラヘッドの構造と密接に関連するので、以下においてはまずスプリンクラヘッドの構造を説明し、その後で感熱体について説明する。
【0014】
<スプリンクラヘッドの構造>
図1は本実施の形態のスプリンクラヘッドの縦断面図、
図2(a)はフレームの正面図、
図2(b)はフレームの底面図、
図3は感熱分解部の斜視図である。
図において、1は本体で、外周にはねじ部4が設けられ、中心部には放水口5が設けられている。そして、放水口5の下端周縁には弁座7が設けられて、銅の如き金属材料からなるパッキン22によって上部を覆われた弁体20により放水口5は塞がれている。
【0015】
10は有底円筒状のフレームで、内壁の上部には本体1のねじ部4に螺合されるめねじ11が設けられ、めねじ11の下方にはフランジ部12が形成されている。15は散水口で、フランジ部12と底部14との間に放射状かつ等間隔に形成され、周壁13と底部14の周縁部とに開口する。16はフレーム10の底面に設けた開口部である。
【0016】
30はアームガイドで、断面がほぼコ字状に形成され、弁体20の下部をカシメて、弁体20と一体に結合されている。35は板状のバランサで、スプリンクラヘッドが組立てられた際、弁体20へ加わる所定の組立荷重を感熱分解部40のアーム41a,41bに均等にかけるものである。
【0017】
40は一対のアーム41a,41b、アーム支持板46、リンク押え坂55等からなる感熱分解部で、弁体20を支持するものである。61は感熱板を兼ねた保護カバーである。
【0018】
次に
図3を用いて感熱分解部40について少し詳しく説明する。
図3において、アーム41a,41bはほぼ逆J字状に形成されており、第1の係止穴44と第2の係止穴45が設けられている。アーム支持板46は、ほぼ四角形状に形成され、中心部に貫通穴48を有する本体47と、係止片49a,49bとからなり、アーム41a,41bの間に配設されて係止片49a,49bがアーム41a,41bの第1の係止穴44に係止される。
【0019】
50は金属製のシリンダで、外壁にはつば部51が設けられている。シリンダ50はアーム支持板46の貫通穴48に挿入され、つば部51によってアーム支持板46上に載置される。53はシリンダ50内に収容された感熱体である。
感熱体53は、60〜150度の温度範囲の融点を持つ有機化合物の微粉末を硬度1.4kg以上に圧縮成型してなるものである。このような感熱体53を用いた作用効果は後述する。
【0020】
54はシリンダ50内に摺動可能に収容され、感熱体53を押圧する第1のピストンである。55はリンク押え板で、中心部にねじ穴57を有する本体56と、その両側に突設された嵌合片58a,58bからなり、アーム41a,41bの間に配設されて嵌合片58a,58bがアーム41a,41bの第2の係止穴45に遊嵌する。59は一端に設けたねじ部60がリンク押え板55のねじ穴57に螺入され、他端が第1のピストン54に当接する第2のピストンである。
【0021】
図1に戻って、感熱分解部40のアーム41a,41bの先端部は、フレーム10の内壁に設けたフランジ部12に係止し、フレーム10の螺入によりその頭部がバランサ35によって圧下されている。この時、アーム41a,41bはフランジ部12への係止部を支点として外方に開く方向(シリンダ50から離れる方向)の回転力が寸与され、この回転力はアーム41a,41bに係止したアーム支持板46により規制されている。
【0022】
次に、上記のように構成されたスプリンクラヘッドの動作について説明する。
火災が発生して感熱板兼保護カバー61が加熱され、その熱及び周辺からの熱気流により感熱体53が加熱されると、感熱体53は軟化するため、第1のピストン54が感熱体53を押し潰して下方に下がる。更に、感熱体53が溶融し始めると、溶融した感熱体53の一部がシリンダ50と第1のピストン54の間に入り込み、シリンダ50及びこれに固定されたアーム支持板46が上昇し、両アーム41a,41bが、フレーム10のフランジ部12との係止部を支点として外方に回動する。この結果、アーム41a,41bの係止穴44と、アーム支持板46の係止片49a,49bとの係合が外れ、感熱分解部40は分解する。これにより、保護カバー61を含む感熱分解部40及びバランサ35は、フレーム10の底部14に設けた開口部16から外部に落下する。
【0023】
同時に弁体20と一体化されたアームガイド30は、自重と消火水の圧力によりフレーム10の開口部16の両端部に沿って下降し、弁体20のフランジ部がフレーム10の底部14に着座し、開口部16を閉塞する。これにより、放水口5が開口され、消火水はフレーム10内を通って散水□15から散水される。
次に、本発明の特徴である感熱体53について説明する。
【0024】
<感熱体について>
感熱体53は、60〜150度の温度範囲の融点を持つ有機化合物の微粉末を硬度1.4kg以上に圧縮成型してなるものである。
なお、有機化合物の微粉末を圧縮成型するに際して、事前に有機化合物の微粉末を篩にかけて微粉末の粒子径をそろえておくのが好ましい。これによって、圧縮成型したときの硬度を安定させることができる。
【0025】
感熱体53は、上方から第1ピストン54と第2ピストン59に押圧され、50〜100kgf程度の組立荷重が加えられている。そのため、長期間経過すると、感熱体53は変形する(この変形を「クリープ」という)ことになるが、この変形が大きい場合にはスプリンクラヘッドが火災でないのに作動してしまうことになるため、クリープを所定の範囲内にする必要がある。本実施の形態の感熱体53のクリープを確認するため、クリープ試験を行ったので、以下に説明する。
【0026】
クリープ試験は実験設備により実際のリンク荷重の1/13程度の一定荷重Wを加えて或る時間経過したときを初期状態として、その後の試料の高さを測定し、荷重によって試料が押し潰されて減じた高さhの経時変化を測定することによって行う。
試料として、本発明の実施形態にかかる有機化合物(フタル酸ジフェニル:(融点73℃))の微粉末を硬度1.4kgに圧縮成型してなるもの(ペレット)1種類と、従来用いられている半田(融点72℃)2種類の合計3種類について行った。
試験条件として、試験温度は20℃、リンク荷重はスプリンクラヘッドの検定細則によって定められた数kgfとした。
なお、圧縮成型体(ペレット)の硬度とは、圧縮成型されたペレットに荷重を加え、その荷重を徐々に大きくしてペレットが崩れるときの荷重のピーク値で表したものである。
試験結果が
図4に示されている。
【0027】
図4において、縦軸が累積変位量(mm)、横軸が経過日数(日)である。
図4のグラフに示されるように、半田を用いた試料は、最初の1日が経過するまで累積変位量が急増して約0.2〜0.23mm程度になり、その後も微量ではあるが漸増して、10日経過時点で累積変位量は約0.33mm程度になっている。また、10日経過後についても、グラフが右上がりの傾向を示している。
これに対して、本実施の形態のものは、最初の1日経過時点で累積変位量は0.025mm程度であり、その後若干の増加があるが、10日経過時点で累積変位量は0.05mmを少し超える程度である。しかも、7日経過以降は漸増の兆候もない。
有機化合物の微粉末を所定の硬度に圧縮成型するにあたっては、このクリープ試験において、10日経過時点での累積変位量が0.1mm以下、好ましくは0.07mm以下となるように、その硬度を設定することが望ましい。
【0028】
上記の試験結果から、本実施の形態の有機化合物(フタル酸ジフェニル)の微粉末を硬度1.4kgに圧縮成型して感熱体53に用いることにより、クリープが半田の1/6以下になることが分かる。
クリープではスプリンクラヘッドが作動しないようにしておく必要があるので、クリープの変形量を加味してスプリンクラヘッドにおける感熱分解部40の作動条件を決める必要がある。そのため、クリープが大きいということはその分だけ感熱分解部40の作動条件に余裕を持たせる必要があり、その結果、感度が悪くなる。
他方、クリープが少ないということは、クリープによる変形を考慮する割合が少なくなるのでその分だけ感度を良くすることができる。
つまり、有機化合物(フタル酸ジフェニル)の微粉末を硬度1.4kgに圧縮成型して感熱体53に用いることにより、感熱体53のクリープを小さくでき、高感度のスプリンクラヘッドを実現できる。
【0029】
また、感熱体53はクリープによる変形量を考慮して厚みを設定する必要がある。したがって、クリープが大きいということは、それだけ感熱体53の厚みを厚くする必要がある。感熱体53の厚みを厚くすると、熱容量が大きくなり、感熱体53が溶融するまでの時間が長くなるので、感度が悪くなる。
他方、クリープが少ないということは、それだけ感熱体53を薄くできるので、熱容量が小さくなり、この意味でも感度がよくなる。
したがって、有機化合物(フタル酸ジフェニル)の微粉末を硬度1.4kgに圧縮成型して感熱体53に用いることにより、感熱体53の厚みを薄く設定することができ、こうすることで高感度のスプリンクラヘッドが実現できる。
【0030】
次に感熱体53として有機化合物(フタル酸ジフェニル)の微粉末を圧縮成型したものを用いた場合の感度について、圧縮成型後のペレットの硬度の影響を調べる実験を行ったので、この点について説明する。
この実験では、感熱体53として有機化合物(フタル酸ジフェニル)を用い、一つの試料は硬度2.5kgとし、他の試料は硬度1.2kgとして両者の比較を行った。
実験は、スプリンクラヘッド内にそれぞれの試料をセットして、そのスプリンクラヘッドを熱気流雰囲気下に設置して、どの程度の時間(温度)で動作するかを比較した。
試験結果が
図5に示されている。
図5において、縦軸は変位量(μm)であり、横軸が感熱体53の温度(℃)を示している。なお、
図5においては、温度が70℃近傍以降の状態を示している。
【0031】
図5に示されるように、温度が70.6℃近傍以降において2つの試料の差異が見られる。硬度1.2kgのものに比較して、硬度2.5kgのものはグラフの傾斜角度が急になっている。このことは、感熱体53の溶融が開始すると、硬度2.5kgの試料の方が同じ変位を行うのに温度範囲が狭いことを意味している。つまり、硬度2.5kgの試料の方が溶融を開始すると一気に溶融することを意味しており、スプリンクラヘッドとしての感度が良いことを意味している。
このように、有機化合物(フタル酸ジフェニル)の微粉末を圧縮成型して感熱体53に用いる場合には、硬度を高くすることで、より感度が良くなることが確認された。
また硬度を低くすると、感熱体は大きな温度幅の中でゆっくりと溶けることになるので、スプリンクラヘッドに使用すると感度が悪いものとなってしまう。硬度が低いと感度が悪くなるだけでなく、搬送時に感熱体がこわれてしまうという不具合もある。
図5においては、グラフの傾斜角度が急激、つまり、特定の温度において、変位量がほぼ垂直に落ちるような傾斜角度が90度となるグラフになるのが一番理想であるが、少なくとも、スプリンクラヘッドに使用する感熱体としては、72度で溶融する半田よりも傾斜角度が急激になることが望ましい。
【0032】
以上のように、有機化合物(フタル酸ジフェニル)の微粉末を硬度1.4kg以上の硬度になるように圧縮成型した感熱体53に用いることにより、クリープを小さくして感度を高くできる。
また、有機化合物(フタル酸ジフェニル)の微粉末を圧縮成型して感熱体53に用いる場合には、感熱体53の硬度が高い方が感度を高くできることも確認された。
以上の2つの実験結果から、有機化合物(フタル酸ジフェニル)の微粉末を圧縮成型して感熱体53に用いる際の硬度としては、硬度1.4kg以上が好ましく、より好ましくは2.5kg以上であることが確認された。
なお、微粉末を圧縮成型した場合の硬度は高いほど好ましいが、あまりに硬度を高くすると、圧縮成型する際に用いる金型等が破損してしまう虞があることから、硬度の上限値としては、そのような金型等が破損しない程度の値に設定され、例えば、硬度は、1.4〜4.0kgfに設定される。
【0033】
なお、本実施形態では、有機化合物として、フタル酸ジフェニルを例示したが、60〜150度の温度範囲に融点を持つ有機化合物であって、その有機化合物の微粉末を硬度1.4kg以上に圧縮成型したときに、上述したクリープ試験の累積変位量が半田よりも小さく、かつ、
図5で示した温度に対する変位量の曲線の傾斜角度が所定の角度内に収まるような、狭い温度範囲内において急激に溶融するものであれば、他の有機化合物を使用してもよい。このような条件を満たす有機化合物としては、フタル酸ジシクロヘキシル、無水コハク酸、などがある。