特許第5651607号(P5651607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5651607ドリルチップおよびドリルチップを有する穴あけ工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5651607
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】ドリルチップおよびドリルチップを有する穴あけ工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20141218BHJP
【FI】
   B23B51/00 T
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-553302(P2011-553302)
(86)(22)【出願日】2010年2月12日
(65)【公表番号】特表2012-519602(P2012-519602A)
(43)【公表日】2012年8月30日
(86)【国際出願番号】EP2010000877
(87)【国際公開番号】WO2010102705
(87)【国際公開日】20100916
【審査請求日】2013年2月8日
(31)【優先権主張番号】102009012725.9
(32)【優先日】2009年3月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399031078
【氏名又は名称】ケンナメタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100085279
【弁理士】
【氏名又は名称】西元 勝一
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェーゲルル、ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】カウパー、ヘルベルト、ルドルフ
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−510103(JP,A)
【文献】 特開2004−276134(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/097474(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り屑溝(22A,B)が設けられ、回転軸線(8)に沿って軸方向に延在し、その外側前端部に切削コーナ(16A,B)に向かって半径方向外側に延びる少なくとも2つの主切れ刃(14A,B)が設けられる基体(6)を含む、ドリルチップ(2)であって、前記基体(6)は、横断面図に見られるように、前記切削コーナ(16A,B)の高さにおいて前記回転軸線(8)を中心とする回転に対して非対称に実現され、
前記基体(6)は、前記切削コーナ(16A,B)から軸方向の一定距離に、対称な構成を有するドリルチップ(2)において、
前記切り屑溝(22A,B)は前記切削コーナ(16A,B)の高さにおいて互いに等しい空間の断面積を有することを特徴とする、ドリルチップ(2)。
【請求項2】
切り屑溝(22A,B)が設けられ、回転軸線(8)に沿って軸方向に延在し、その外側前端部に切削コーナ(16A,B)に向かって半径方向外側に延びる少なくとも2つの主切れ刃(14A,B)が設けられる基体(6)を含む、ドリルチップ(2)であって、前記基体(6)は、横断面図に見られるように、前記切削コーナ(16A,B)の高さにおいて前記回転軸線(8)を中心とする回転に対して非対称に実現され
前記基体(6)は、前記切削コーナ(16A,B)から軸方向の一定距離に、対称な構成を有するドリルチップ(2)において、
前記主切れ刃(14A,B)に隣接して、後端部(20A,B)を含む主逃げ面(19A,B)があり、前記後端部(20A,B)は互いに対して等しい角距離を有することを特徴とする、ドリルチップ(2)。
【請求項3】
軸方向に延びる第2切れ刃は前記それぞれの切削コーナ(16A,B)から始まる請求項2に記載のドリルチップ(2)において、
前記切削コーナ(16A,B)は周縁部の周囲に均等に配分されず、前記切削コーナ(16A,B)から軸方向の一定距離において、前記第2切れ刃(18A,B)は均等な配分で配置されることを特徴とする、請求項2に記載のドリルチップ(2)。
【請求項4】
前記対称から前記非対称な構成への移行領域(32)内において、前記第2切れ刃(18A,B)は前記回転軸線(8)に対して様々な傾斜角をとることを特徴とする、請求項3に記載のドリルチップ(2)。
【請求項5】
前記切削コーナ(16A,B)の高さにおいて、前記切り屑溝(22A,B)は互いに対して非対称に実現され、前記切削コーナ(16A,B)から軸方向の一定距離において、それらは互いに対して対称に実現されることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載のドリルチップ(2)。
【請求項6】
前記非対称の構成は、連続的に、および、滑らかな状態で前記対称な構成へと移行していくことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のドリルチップ(2)。
【請求項7】
モジュラ式穴あけ工具(5)のドリル基体(4)内に挿入される交換可能なモジュラ部品として実現されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のドリルチップ(2)。
【請求項8】
後部外側面(27)を有し、前記後部外側面(27)の高さに前記対称な構造があることを特徴とする、請求項7に記載のドリルチップ(2)。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載のドリルチップ(2)を有する穴あけ工具(5)。
【請求項10】
ドリル基体(4)と、その中、外側端部に、交換可能に挿入されうる前記ドリルチップ(2)と、を有する、モジュラ式穴あけ工具(5)として実現される、請求項9に記載の穴あけ工具(5)。
【請求項11】
前記ドリルチップ(2)のための前記ドリル基体(4)のレシーバの領域が対称に実現される、請求項10に記載の穴あけ工具(5)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載のドリルチップおよびそのようなドリルチップを有する穴あけ工具に関する。
【背景技術】
【0002】
請求項1の前提部に記載のドリルチップは、例えば、独国特許出願公開第10 2006 025 294 A1号明細書により開示されている。その中に記載されているのは特殊な非対称な構成の穴あけ工具である。この穴あけ工具のドリルチップは2つの主切れ刃を有し、対称な構成とは異なり、穴あけ工具の回転軸線を中心にした180°回転に対して非回転対称な状態で配置される。主切れ刃はいずれの場合においても切り屑溝に沿う第2切れ刃に隣接する切削コーナまで延びる。周縁部において、いわゆるドリルヒール上でガイドランドが第2切れ刃それぞれに隣接する。加えて、ドリルヒール上において2つのチゼルエッジの1つのみにさらなる支持ランドを実現することが規定される。支持ランドにより、穴あけ工具はあけられた穴の壁で支持される。
【0003】
ドリルのこの非対称な構成により、ドリルの本意ではない動き、すなわちいわゆる「びびり」が防止されるか、または少なくとも低減される。この理由は、対称なドリルの場合、この対称のために穴あけ操作時に穴あけ工具の振動が増加し、穴あけ工具の振動のために「びびりマーク」とも呼ばれる不規則性が、あけられた穴の壁内に生成されるようにいわば「蓄積」するためである。ドリル穴の長さが増すにつれてこの問題は増す。
【0004】
全般的に、非対称な構成のおかげでびびりは少なくとも低減される。しかしながら、製造工学の点においては、対称な構成と比較すると、非対称な構成では製造資源についての要求がより厳しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製造が容易であり、それを用いることでびびりをできるだけ防止する穴あけ工具を可能にするという目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による目的は、請求項1に記載の特徴を有するドリルチップにより、およびそのようなドリルチップを有する穴あけ工具により達成される。
【0007】
ドリルチップは、切り屑溝が設けられ、回転軸線に沿って軸方向に延びる基体を含む。基体はその上に少なくとも2つの主切れ刃が設けられる外側前端部を有する。主切れ刃は切削コーナに向かって半径方向外側に延びる。びびりをできるだけ防ぐために、ドリルチップは切れ刃領域内において、したがって特に切削コーナの高さにおける断面内においても非対称に実現される。同時に、この非対称な構成は軸方向において対称な構成へと移行していき、好ましくは穴あけ工具の残りの軸方向長さにおいても対称なままであることが規定される。
【0008】
この場合、回転軸線を中心とする回転に対して非対称な構成とは、ドリルチップが回転対称から逸脱することを意味する。したがって、2つの主切れ刃の場合、ドリルチップは180°回転対称から逸脱し、3つの主切れ刃を有する構成の場合は120°回転対称から逸脱する等となる。ドリルチップはこの場合、複数の非対称な特徴によって非対称に実現されうる。すべての非対称な特徴が対称な構成へと移行していくことが好ましいが、必須というわけではない。したがって対称な構成への移行は、一般に、少なくとも1つの非対称な特徴に関連する。
【0009】
ドリルチップの主切れ刃は、通常、いわゆるチゼル(chisel)エッジを介して互いに接合され、回転軸線上でドリルチップの最も先端のチップを実現する。この場合における主切れ刃は半径方向外側に延びる。半径方向外側とは、一般に、主切れ刃がドリル中心またはチゼルエッジから基体の外周縁部に向かって延びることを意味する。通常、主切れ刃は直線に沿わず、むしろ湾曲した状態で実現される。いずれの場合においても主切れ刃に隣接するのは、切り屑溝へと移行していく主逃げ面である。主逃げ面は、通常、錐面という形態で実現され、ドリルチップは全体として円錐という形態で実現される。
【0010】
外側端部の非対称性から対称な構成へと、外側端部から軸方向の一定距離において移行する特殊な構成の特別な利点は、非対称性が穴あけ工具全体の中の可能な限り短い領域のみに限定され、すなわち非対称な領域に隣接して、穴あけ工具が対称に実現されることである。その結果、対称性の実現から逸脱する非対称性を生成する必要があるのは、ドリルチップの領域においてのみとなる。したがって、ドリル本体の残りについては、穴あけ工具の製造のために通常の対称加工法が使用されうる。軸方向後方領域における対称性もまた、均一な切り屑の排出を保証する。これは特に長くあけられた穴の場合に有利である。最後に、例えば、冷却水路を作製することは、対称な構成の場合、ドリル本体内に作製された冷却水路の切り屑溝それぞれに対する許容距離がすべての冷却水路において同一であるため、非対称な構成の場合に比べて要求が厳しくない。
【0011】
加えて、特に、交換可能なモジュラ部品としてドリル基体内の外側端部にドリルチップが挿入されうる、いわゆるモジュラ式の穴あけ工具の場合には重大な利点が得られる。したがって、そのようなモジュラ式穴あけ工具の場合、今では、対称および非対称に構成されるドリルチップの両方を、必要とする断面によりモジュラ構造の原理の様式において、標準のドリル基体で同等に使用することができる。
【0012】
そのような穴あけ工具は工業生産において高精度のドリル穴を生成するために使用される。この目的のため、それらは例えば所望の回転速度および所望の送り量に関してプログラムすることができ、穴あけ操作を自動的に実施する工作機械のレシーバ内にシャンクによってクランプされる。
【0013】
非対称性を実現するために種々の非対称な特徴が設けられうる。好ましい非対称な特徴には、回転軸線に関して、回転の方向に通ずる切削コーナに関して、または先行する主切れ刃に関して、切削コーナの角距離または半径距離が画定されている場合の主切れ刃の角距離が、後続する切削コーナまたは後続する切れ刃に関する角距離とは異なることに見られる。すなわち切削コーナは周縁部の周囲に均等な配分で配置されない。さらに好都合なことに、切削コーナから移行領域を経て隣接する第2切れ刃は周縁部の周囲に均等な配分であり、したがって回転対称な状態に配置されることが規定される。したがって、切削コーナからの画定された軸方向距離の後、隣接する第2切れ刃はいずれの場合においても互いから等しい角距離を有する。
【0014】
ドリルチップの外側端部領域内に非対称性を構成する目的で、適切な変更によれば、第2切れ刃は対称から非対称な構成への移行領域において、様々な傾斜角を有することが規定される。したがって、これらの様々な傾斜角のため。第2切れ刃の互いに対する角距離は異なる。この場合における第2切れ刃の傾斜角とは、軸方向に延び、かつ穴あけ工具の外周縁上に位置する直線に対する、第2切れ刃に含まれる角度を意味する。第2切れ刃は同時に回転の方向に対する切り屑溝の後縁端を含むため、切り屑溝のねじれ角は同時に第2切れ刃により決定される。その結果、切り屑溝のねじれ角はしたがって移行領域内でも変化する。好都合なことに、この場合において、非対称な領域から開始し、1つの第2切れ刃のみが非対称な領域内のそれとは異なる傾斜角を有し、他方の第2切れ刃は対称な領域内と同様の傾斜角のまま継続することが規定される。
【0015】
切削コーナの高さにおける切り屑溝はまた、そこで対称な構成へと軸方向に移行していく非対称な構成を有することが好ましい。それによって交換可能なドリルチップ部分の切り屑溝が、特に、同一高の状態でドリル基体の切り屑溝へと移行していくことが保証され、すなわち妨げとなるエッジ等が実現されないため、これは特にモジュラ式穴あけ工具の場合に、特に有利である。
【0016】
好適な構成によると、切り屑溝はまた、非対称な領域内に等しい断面積を有する、すなわち切り屑を取り去るために利用できる空間は、両切り屑溝内において少なくとも実質的に同一であるということがさらに規定される。したがって、非対称な領域内における断面積の非対称性のため、例えば、1つの切り屑溝の幅が大きくなると、深さをより浅くすることによって補償される。
【0017】
好適な発展によると、主逃げ面の後端部が互いに対して等しい角距離を有する限り、すなわち均等な配分で配置される限り、それぞれの主切れ刃に隣接する主逃げ面はそれらの後端部において互いに対して対称に実現される。この場合の後端部とは、割当てられた主切れ刃の逆を向き、そこで主逃げ面が割当てられた切り屑溝へと移行していく主逃げ面の端部を意味する。したがって、切削コーナまたは主切れ刃のみが不均等な配分で配置されることが好ましい。その結果、特に交換可能なモジュラ部品として構成されているドリルチップの場合、ドリルチップを固定するためのレシーバは対称に実現されうる。
【0018】
好都合なことに、非対称な構成は、均等におよび特に滑らかに、すなわち曲がり(kinks)及びかど(エッジ)なく対称な構成へと移行していくことが規定される。この滑らかなコースは、特に、信頼性の高い切り屑排出を保証する。同時に、生産工学の点においてこれは比較的容易に実現されうる。
【0019】
好都合なことに、ドリルチップは、モジュラ式穴あけ工具のドリル基体内に挿入される交換可能なモジュラ部品として実現される。特に、この場合、対称な構成は、交換可能なモジュラ部品の軸方向後端、特にその後部外側面において達成されることが規定される。それによって前外側端部において非対称に実現されるドリルチップが、対称に実現されるドリル基体内に挿入されうることが保証される。
【0020】
交換可能なチップ部分の場合、その中で対称な構成が非対称な構成へと移行していく移行領域の軸方向長さは、交換可能なドリルチップ部分の機能的な軸方向長さ以下であることが好ましい。この場合、機能的な軸方向長さとは、特に、切り屑排出のために有効なドリルチップの切り屑溝の機能的な表面がドリル基体の切り屑溝の割当てられた表面へと移行していくまでの長さ、またはドリルチップの第2切れ刃がドリル基体の割当てられた第2切れ刃へと移行していくまでの長さを意味する。ドリルチップの実際の軸方向の範囲は例えば、固定ピン等のためにこの機能的な軸方向長さを超える場合がある。
【0021】
ソリッドドリル、例えば、超硬ソリッドドリルがモジュラ式穴あけ工具の代わりに使用される場合、移行領域の軸方向長さはソリッド工具の呼び径の0.5〜5倍であることが好ましい。
【0022】
交換可能なドリルチップが使用される場合、移行領域の軸方向長さは、通常、穴あけ工具の呼び径の約0.5〜1倍である。
【0023】
本発明の例示的な実施形態は図面を参照して以下の文により詳細に説明される。以下はそれぞれの場合における代表的な図である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】交換可能なモジュラ部品として実現されるドリルチップの外側面前部の頂面図を示す。
図2図1によるドリルチップの裏、外側後端部の頂面図を示す。
図3図1および図2によるドリルチップの側面図を示す。
図4A図3の断面線A−Aによる、図1図3のドリルチップの断面図を示す。
図4B図3の断面線B−Bによる、図1図3のドリルチップの断面図を示す。
図4C図3の断面線C−Cによる、図1図3のドリルチップの断面図を示す。
図5】ドリル基体を有し、および外側端部においてドリル基体内に挿入された図1図3によるドリルチップを有するモジュラ式穴あけ工具の部分斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図中、同じ機能を有する部品は同じ参照符号により示される。
【0026】
図5に示されるように、図1図3によるドリルチップ2はドリル基体4内に挿入されうる交換可能なモジュラ部品として実現され、後者と共に穴あけ工具5を構成する。例示的な実施形態において、ドリルチップ2は単一部品として実現され、特殊形状の基体6を有する。したがってそれはこの基体6により構成される。ドリルチップ2は、動作時、同時に、それを中心に穴あけ工具5全体が回転方向10に回転する回転軸である回転軸線8を有する。
【0027】
その外側前端部において、ドリルチップ2は、回転軸線8と交差し、いずれの場合においても半径方向外側に延びて切削コーナ16A,Bで終了する主切れ刃14A,Bへと移行していくチゼル(chisel)エッジ12を有する。切削コーナ16A,Bそれぞれから開始し、第2切れ刃18A,Bそれぞれは、ドリルヒール17A,Bに沿う。例示的な実施形態において、チゼルエッジ12はほぼS形状で実現され、主切れ刃14A,Bはまた、湾曲したコースをとる。加えて、主切れ刃14A,Bは、ドリルチップ2の外側面が全般的に円錐の状態で実現されるように切削コーナ16A,Bの方へ軸方向下方に傾斜する。いずれの場合においても主切れ刃14A,Bに隣接するのは、いずれの場合においてもそれはそこで切り屑溝22A,Bへと移行していく、後端部20A,Bまで延びる主逃げ面19A,Bである。例示的な実施形態において、切り屑溝22A,Bは螺旋状態で実現される。主逃げ面19A,B内、外周縁部に埋め込まれているのは、ドリルチップ2をドリル基体4内に挿入するか、またはそれをドリル基体4から除去するための組立工具のための作用表面としての役割を果たすノッチ24である。
【0028】
その後端部において、ドリルチップ2は段付き形状を有し、固定ピン25と、固定ピン25と比べて小さい径を有するセンタリングピン26と、を含む。切り屑溝22A,Bは、前外側面を含む上部から、横断面図で見られるように、固定ピンが切り屑溝22A,Bを構成する樋のような凹部を有する円の形態で実現されるように固定ピン25まで及ぶ。上部の下面に実現されるのは固定ピン25上に半径方向に突出する後部外側面27として示される支持面である。例示的な実施形態において、この後部外側面27は回転軸線8に対して垂直に延びる。図5からわかるように、この外側面27によって取り付けられた状態にある場合、ドリルチップ2はドリル基体4の対応する支持面上にある。
【0029】
ドリルチップ2のドリル基体4内への固定は押し込んで回す動きを通じて実施される。固定領域の特殊構成およびその外側端部レシーブ領域を有するドリル基体4の特殊構成は、その参照が本明細書中でなされる国際公開03/070408 A1号パンフレットにより得られる。
【0030】
極めて重要なのは、ドリルチップ2の特殊な構成であって、ドリルチップ2がその外側前端部の領域において回転軸線8を中心とする180°回転に対して非対称な構成であり、同時にさらに軸方向に沿って対称な構成であるということである。非対称な特徴をさらに良く説明する目的のため、図1、2ならびに4A−4Cに補助破線が引かれている。これらから、2つの切削コーナ16A,Bは周縁部上に不均等な配分で配置され、それらはしたがってそれらの互いの角距離において異なることが即座にわかる。ここで、例えば、角距離の差は約20°の範囲内、すなわち2つの切削コーナ16A,B間の角距離は、一方で約190°であり、その一方で約170°である。この結果、同時に、切り屑溝22A,Bはまた非対称に実現される。
【0031】
加えて、ドリルチップ2はさらなる非対称な特徴を有する。ドリル穴内における穴あけ工具5の良好な同心性および信頼性の高い案内のため、一方では、ドリルヒール17A,B上、すなわち基体6の外周縁部上に延び、いずれの場合においても第2切れ刃18A,Bそれぞれに隣接するガイドランド28が設けられる。他方では、ドリルヒール17A上に、ガイドランド28に加えて支持ランド30が設けられるが、この支持ランドは第2の主切れ刃14Bに割当てられたドリルヒール17B上では実現されない。支持ランド30はガイドランド28と同一または事実上同一の外径を有する。穴あけ時、ドリルチップ2はあけられた穴の壁において支持ランド30により付加的に支持される。第2のドリルヒール17Bの場合は、対照的に、支持ランド30の代わりにクリアランスが実現される。特に図1から、しかしまた図5からもわかるように、そのようなクリアランスはまた、ガイドランド28と支持ランド30との間で実現される。この特殊な非対称な構成は独国特許出願公開第10 2006 025 294 A1号明細書に記載されており、その全体が本明細書中で参照される。
【0032】
さらに図1に引かれた第2の補助線からわかるように、主逃げ面19A,Bの後端部20A,Bは、特に外周縁において、後端部20A,Bが互いに対して等しい角距離を有する程度に、互いに対して回転対称になるように実現される。2つの切り屑溝22A,Bの挟角、すなわち切削コーナ16A,Bそれぞれと、外周縁部上に配置された割当てられた後端部20A,Bそれぞれとの間の角距離は、結果として異なる。
【0033】
切削コーナ16A,Bおよび切り屑溝22A,Bの位置に関する非対称性は、移行領域32内で対称な構成に戻る。移行領域32が図3に示され、切削コーナ16A,Bそれぞれから後部外側面27まで軸方向に延びる。この場合、この移行領域32の長さはドリルチップ2(図1を参照のこと)の呼び径Dの約20〜40%の間の範囲である。特に、図2による背面図および図4Bからもわかるように、対称な構成は移行領域32の端部において既に得られている。
【0034】
この時点で、第2切れ刃18A,Bも、互いに対して回転対称な状態(180°で)で既に配置されている。切り屑溝22A,Bの断面形状もまた対称に実現される。
【0035】
その一方で、特に図5に示されるように、支持ランド30は後部外側面27まで、すなわちドリルチップ2の端部まで存在したままである。したがって、移行領域32内では、非対称な特徴のいくつかのみが連続的な状態で戻り、例示的な実施形態において、これは特に、切り屑溝22A,Bの構成および第2切れ刃18A,Bの互いに対する角距離である。移行領域32の端部、すなわちドリル基体4の起端において完全対称が実現される。したがって、支持ランド30は滑らかな状態ではなく、急激にドリル基体4へと移行していく。
【0036】
モジュラ式穴あけ工具5は図5に組み立てられた状態で示される。これからわかるように、ドリルチップ2は軸方向に延びる2つの対向するリム34の間にクランプされる。リム34は斜めの傾斜で実現される支持面36を有する。図5からわかるように、リム34は、いわば主逃げ面19A,Bそれぞれに係合し、したがってドリルチップ2はリム34を被覆しない。したがって、リム34の外側面は主逃げ面19A,Bの延長部を含む。したがって、この特殊な構成の場合、対称な構成が主逃げ面19A,Bの後端部20A,Bの領域内のドリルチップ2の外側面に元からあることが、特に有利である。ドリル基体4は完全に回転対称になるように実現される。
【0037】
ドリルチップ2の第2切れ刃18A,Bは、同一高にある状態でドリル基体4の対応する第2切れ刃40A(1つのみが示される)へと移行していくことが好ましい。同様のことがドリル基体4の切り屑溝42Aへと移行していく切り屑溝22A,Bにもあてはまる。例示的な実施形態において、ドリル基体の切り屑溝42Aは螺旋状態で実現される。あるいは、それらはまた真直ともなりうる。
【0038】
さらに、冷却水路44はドリル基体4内に埋め込まれていることが図5からわかる。これらの冷却水路はこの場合ドリル基体4のそれぞれの切り屑溝42A内においてドリルチップ2からいくらかの距離で延びる。この場合、それぞれの切り屑溝42A内の冷却水路44の開口部は、軸方向における概念上の図の場合、それは部分的に被覆され、特に、割当てられた主切れ刃14A,Bにより半分が被覆されるような方式で向く。したがって、冷却水路44の流出開口部はこれらの主切れ刃14A,Bに揃えられる。
【0039】
穴あけ工具5は、あけられた穴の壁の最適な表面性状を有する高精度のドリル穴を生成する役割を果たす。非対称な特徴のために、深いドリル穴の場合であっても穴あけには可能な限りびびりがない。ドリルチップは、例えば、超硬合金からまたは焼結材料から実現される。ドリル基体4は例えば、高速度鋼から作製される。
図1
図2
図3
図4a-4c】
図5