(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5651711
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】カーテンエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/232 20110101AFI20141218BHJP
B60R 21/2338 20110101ALI20141218BHJP
B60R 21/237 20060101ALI20141218BHJP
B60R 21/213 20110101ALI20141218BHJP
【FI】
B60R21/231 100
B60R21/231 300
B60R21/237
B60R21/213
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-550786(P2012-550786)
(86)(22)【出願日】2011年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2011077633
(87)【国際公開番号】WO2012090637
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年3月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-291762(P2010-291762)
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100098143
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】中村 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
【審査官】
粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−202187(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/039938(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の側面窓付近でカーテン状に展開することで乗員を保護するカーテンエアバッグ装置において、
膨張展開可能なエアバッグと;
前記エアバッグと車体とを連結するストラップとを備え、
前記エアバッグは、棒状に圧縮するに際して、平面的に広げた状態から前端部を後方に向かって折り畳むことで第1の折り目を形成し、折り返された前記前端部の中心付近を更に前方に向かって折り返すことで第2の折り目を形成し、その後、下端部から上方に向かってロール状又はジグザグ状に圧縮し、
前記ストラップの一端が、前記エアバッグの車両側面方向の外側において前記第1の折り目よりも後方に連結され、
圧縮された前記エアバッグは、Aピラー部分には配備されないことを特徴とするカーテンエアバッグ装置。
【請求項2】
前記ストラップの他端がAピラー部分に連結されることを特徴とする請求項1に記載のカーテンエアバッグ装置。
【請求項3】
車室内の側面窓付近でカーテン状に展開することで乗員を保護するカーテンエアバッグ装置において、
膨張展開可能なエアバッグと;
前記エアバッグと車体とを連結するストラップとを備え、
前記エアバッグは、棒状に圧縮するに際して、平面的に広げた状態から後端部を前方に向かって折り畳むことで第1の折り目を形成し、折り返された前記前端部の中心付近を更に後方に向かって折り返すことで第2の折り目を形成し、
その後、下端部から上方に向かってロール状又はジグザグ状に圧縮し、
前記ストラップの一端が、前記エアバッグの車両側面方向の外側において前記第1の折り目よりも前方に連結され、
圧縮された前記エアバッグは、後方ピラー部分には配備されないことを特徴とするカーテンエアバッグ装置。
【請求項4】
前記ストラップの他端が後方ピラー部分に連結されることを特徴とする請求項3に記載のカーテンエアバッグ装置。
【請求項5】
前記エアバッグはメインチャンバーと、車両進行方向の前端に設けられたディレイチャンバーとを含み、
前記ストラップの一端は、前記ディレイチャンバーの後方において当該エアバッグに連結されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のカーテンエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内側部に取り付けられたエアバッグが車両衝突時に、車体側壁と乗員の間に展開して乗員を保護する所謂カーテンエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置には、ステアリングホイール内部に収容される運転席用エアバッグ装置や、窓枠の上縁部に沿って配置されるカーテンエアバッグ装置や、インストルメントパネル(インパネ)の内部に配置される助手席用エアバッグ装置等、種々のタイプがある。
【0003】
一般にカーテンエアバッグ装置は、膨張ガスを発生するガス発生器と;収容状態において長尺状に折り畳まれ、ガス発生器から供給されるガスによって展開するエアバッグ(クッション)とを備えている。
【0004】
カーテンエアバッグの問題として、圧縮して棒状に成形されたエアバッグをAピラー部分に配備する分だけAピラーが太くなることが挙げられる。また、Aピラーには硬質プラスチック製のガーニッシュが設けられているため、Aピラーに配備されたエアバッグはルーフ部分に比べて車室内に展開し難くなるという問題があった。
【0005】
これに対して、エアバッグの設置位置を後方にずらすこと等によってAピラーにエアバッグを配備しない構造を採用することが考えられる。しかしながら、Aピラー付近にもエアバッグを配備しないと、車両の前方付近における乗員の保護が不十分になるという、エアバッグとしての基本的な機能を阻害することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、乗員保護というカーテンエアバッグ本来の機能を損なうことなく、ピラーを細く設計可能なカーテンエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るカーテンエアバッグ装置は、膨張展開可能なエアバッグと;前記エアバッグと車体とを連結するストラップとを備える。ここで、前記エアバッグは、棒状に圧縮するに際して、平面的に広げた状態から前端部をZ状に折り畳み、その後、下端部から上方に向かってロール状又はジグザグ状に圧縮する。そして、前記ストラップの一端が、前記エアバッグの車両側面方向の外側において前記Z状の折り畳み部分の最も前方の折り目よりも後方に連結される。その後、圧縮された前記エアバッグは、Aピラー部分には配備されないことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の態様に係るカーテンエアバッグ装置は、膨張展開可能なエアバッグと;前記エアバッグと車体とを連結するストラップとを備える。ここで、前記エアバッグは、棒状に圧縮するに際して、平面的に広げた状態から前端部をZ状に折り畳み、その後、下端部から上方に向かってロール状又はジグザグ状に圧縮する。そして、前記ストラップの一端が、前記エアバッグの車両側面方向の外側において前記Z状の折り畳み部分の最も前方の折り目よりも後方に連結される。その後、圧縮された前記エアバッグは、後方ピラー部分には配備されないことを特徴とする。
【0009】
なお、明細書及び特許請求の範囲において、「前方」及び「後方」とは、原則として車両の進行方向に対して前側及び後側を示すものとする。また、「上方」及び「下方」とは、概ね垂直方向の上側及び下側を示すものとする。
【0010】
また、「ジグザグ状」とは、エアバッグの短手方向に下から又は上から交互に折り畳んで、断面がジグザグとなる形状を示し、蛇腹状という場合もある。ここで、下から折り畳む場合には「折り上げる」感じとなり、上から折り畳む場合には、「たくし上げる」感じとなる。
【発明の効果】
【0011】
上記のような構成の本発明によれば、側面衝突などの異常事態が発生すると、最初にエアバッグのロールが解かれて窓に沿って下方に展開を開始し、その後、前端部側のZ字状の折り畳み部分が展開することになる。ここで、少なくとも1つのピラー部分にエアバッグを配備しない構造としているため、当該ピラー部分を細くすることができ、視認性が向上する等の効果がある。また、折り畳まれたエアバッグの前端部が展開することにより、当該ピラー付近にもエアバッグが広がり、ピラー部分においても乗員を十分に保護することが可能となる。
【0012】
さらに、エアバッグの前端部の折り畳みにより、意図的な展開遅れを発生させることができ、ディレイチャンバーを含めたチャンバーの設計自由度が増すというメリットもある。
【0013】
また、ストラップの連結端部をエアバッグと窓との間、すなわち、エアバッグの車両側面方向の外側としているため、連結端部をエアバッグの車室の内側とする場合に比べて、エアバッグが乗員側に向かって展開しやすくなり、乗員を速やかに拘束することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係るカーテンエアバッグ装置の構造を示す平面図であり、展開状態を示す。
【
図2】
図2(A)−(C)は、本発明に係るカーテンエアバッグ装置に使用されるエアバッグの圧縮工程を示す概略説明図である。
【
図3】
図3(A)、(B)は、本発明に係るカーテンエアバッグ装置に使用されるエアバッグの圧縮工程を示す概略説明図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るカーテンエアバッグ装置の取り付け状態を示す概略説明図である。
【
図5】
図5は、本発明に係るカーテンエアバッグ装置の取り付け状態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1〜
図4を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明に係るカーテンエアバッグ装置の10構造を示す平面図であり、展開状態を示す。エアバッグ装置10は、非作動状態においては、長尺状に畳まれ、車両の窓上縁に配置されたヘッドライニング(図示せず)に覆われた状態で収容される。そして、作動時にヘッドライニングとインナーパネル(図示せず)との隙間から下方に向かって膨張展開することで車両内の乗員を保護するようになっている。
【0016】
本発明の実施例に係るカーテンエアバッグ装置10は、膨張展開可能なエアバッグ20と;エアバッグ20と車体とを連結する前方のストラップ32とを備えている。エアバッグ20とストラップ32とは同一のファブリック(素材)で成形することができる。なお、エアバッグ20はAピラー部分50(
図4)には配備されない構造となっている。
【0017】
エアバッグ20は、インフレータ14に連結されたガス導入部22と、ガス導入部22と連結されたダクト部24と、エアバッグ20の大半の領域を占めるメインチャンバー26と、車両進行方向の前端に設けられたディレイチャンバー28とを備えている。ディレイチャンバー28は、文字通り、メインチャンバー26から遅れて展開するように設計されたチャンバーである。エアバッグ12は、複数枚(例えば、2枚又は3枚)のシートを重ね合わせて縫合、接着又は溶着により袋状にしたもの、または、一枚織りで袋部が形成されたものを採用することができる。
【0018】
ストラップ32の後端34はエアバッグ20の下端部付近に連結され、前端はAピラー50に固定される。ここで、前方のストラップ32の一端34の位置(後方連結部34)は、ディレイチャンバー28の後方であり、エアバッグ20の高さ方向の中間よりも下側となっている。ストラップ32の連結部34をエアバッグ20と窓との間、すなわち、エアバッグ20の車両側面方向の外側とする。
【0019】
次に、
図2、
図3を参照して、本実施例に係るエアバッグ20の圧縮方法について説明する。なお、
図2、
図3では、説明の便宜上エアバッグ20を簡略化して示している。まず、
図2(A)に示すように、ストラップ32が連結されたエアバッグ20を用意する。次に、
図2(B)に示すように、エアバッグ20の前端部を後方に向かって折り畳む。このとき、折り目36はストラップ32の連結部34に近接した前方に設ける。折り返された部分を領域20aとする。
【0020】
次に、
図2(C)に示すように、折り返されたエアバッグ20の前端部の中心付近の折り目38からZ字状となるように、前方に向かって折り返す。ここで、折り返された部分を領域20bとする。
【0021】
続いて、
図3(A)に示すように、エアバッグ20の下端から上に向かってロール状に巻き上げていく。最終的には
図3(B)のように、エアバッグ20は棒状に圧縮される。なお、エアバッグ20はロール状に巻き上げるのに換えて、ジグザグ状に折り上げて棒状に圧縮することもできる。
【0022】
図4に示すように、圧縮されたエアバッグ20を車両に搭載する時には、ストラップ32の前端部をAピラー50に連結するとともに、エアバッグ20の上端に設けられたタブを窓枠の上部に連結する。その後、Aピラーにはガーニッシュが設けられる。なお、
図4において、展開時の状態を破線で示す。
【0023】
車両走行中に、ロールオーバー、側面衝突、横転等の非常事態が発生すると、車両に備えられたセンサがその異常な振動をキャッチして、その信号を基に発火信号をインフレータ14に送る。インフレータ14内部には、センサからの発火信号を受けてインフレータ14を駆動させるプロペラント(図示せず)が備えられている。インフレータ14の作動によって、ガス導入部22を介してエアバッグ20のダクト24に膨張ガスが流れ込む。ダクト24を通過したガスは、先ずメインチャンバー26に供給される。これにより、最初にエアバッグ20のロールが解かれて窓に沿って下方に展開を開始し、その後、前端部側のZ字状の折り畳み部分が展開することになる。
【0024】
本発明においては、Aピラー50にエアバッグ20を配備しない構造としているため、Aピラー50を細くすることができ、車両における視認性が向上する等の効果がある。このとき、折り畳まれたエアバッグ20の前端部が展開することにより、車両前方付近においても乗員を十分に保護することが可能となる。なお、エアバッグ20をAピラーに全く配備しない構造の他、エアバッグ20の前端をAピラーの上部の一部分にのみ配備する構造とすることもできる。
【0025】
本実施例においては、エアバッグ20の前端部の折り畳みにより、意図的な展開遅れを発生させることができ、ディレイチャンバー28を含めたチャンバーの設計自由度が増すというメリットもある。
【0026】
本発明においては、ストラップ32の連結部34をエアバッグ20と窓との間、すなわち、エアバッグ20の車両側面方向の外側としているため、連結端部34をエアバッグ20の車室の内側とする場合に比べて、エアバッグ20が乗員側に向かって展開しやすくなり、乗員を速やかに拘束することが可能となる。
【0027】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想を逸脱しない範囲で種々の設計変更等が可能である。例えば、上述した実施例においてはエアバッグ20の前端部をZ字状に2回折り畳んでいるが、
図2(B)に示すように1回の折り畳みで完結させることもできる。ただし、エアバッグ20の前端部の折り畳みを「Z字状」にすることにより、1回折りの場合に比べて、展開時に前端部が大きく乗員側に向かって展開し、乗員に傷害を与える可能性を低減することができる。
【0028】
なお、上記実施例ではAピラー部分エアバッグを配置しない構造としたが、
図5に示すように、Cピラー(後方ピラー)にエアバッグを配置しない構造とすることもできる。
【0029】
図5において、ストラップ42の前端44はエアバッグ20の下端部付近に連結され、後端はCピラー60に固定される。ここで、ストラップ42の一端44の位置(前方連結部44)は、エアバッグ20の高さ方向の中間よりも下側となっている。ストラップ42の連結部44をエアバッグ20と窓との間、すなわち、エアバッグ20の車両側面方向の外側とする。
【0030】
圧縮されたエアバッグ20を車両に搭載する時には、ストラップ42の後端部をCピラー60に連結するとともに、エアバッグ20の上端に設けられたタブを窓枠の上部に連結する。その後、Cピラー60にはガーニッシュが設けられる。なお、
図5において、展開時の状態を破線で示す。
【0031】
図5の例の場合も
図4の例の場合と同様に、当該ピラー(Cピラー)を細く設計でき、後方の視認性が向上する他に、後方の窓面積を広げることができる等の設計自由度が増というメリットがある。なお、「後方ピラー」とは必ずしも車両の最後部のピラーを示すものではない。カーテンエアバッグとしての保護エリアが存在する領域よりも後方側にあるピラーは、ここで言う「後方ピラー」となり得る。
【符号の説明】
【0032】
10:カーテンエアバッグ装置
20:エアバッグ
20a,20b:折返し部
14:インフレータ
32:前方のストラップ
34:前方のストラップの後方連結部
50:Aピラー