(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
最近、コネクタ等の被めっき体にReel to Reelによってニッケルめっきを施す場合、高耐食性および生産性向上が非常に強く望まれている。
【0003】
高耐食性のニッケルめっきを施すためには、ザラ、ピットやピンホールなどの欠陥の無いニッケルめっきを施すことが重要となる。このためには脱脂、エッチング、活性化等の前処理を十分行わねばならない。これに加え十分管理されたニッケルめっき液でめっきを行うことが必要である。このめっき液の管理の中で不溶性微粒子の管理が重要となる。なぜなら、不溶性微粒子はプラスに帯電(荷電)しているため、陰極に引き付けられやすい。この結果、陰極(ワーク)に付着し腐食の原因となるザラ、ピットやピンホールなどのめっき欠陥の発生を誘引する。
【0004】
この不溶性微粒子混入を引き起こすものが陽極のニッケル・アノードである。ニッケル・アノードは通電によって溶解し、めっき液中にニッケルを補充する役割を担っている。陽極の形状としては、板状の物を用いても良いが、一般的には小片にした物をチタン製のバスケットに入れて用いることが多い。
【0005】
しかし、溶解が完全に行われるわけでなく、アノード金属の不純物などによって陽極は電解によりスライムと呼ばれる溶解残渣を生じる。特にReel to Reelのニッケルめっきでよく使用されるめっき液はスルファミン酸ニッケル浴が多い。この場合の陽極には通常、硫黄が0.01〜0.03重量%程度含有されている。この硫黄はニッケル溶解時に不溶性の硫化ニッケルを生成する。これら生成した不溶解残渣が液中に懸濁すると前述のザラ、ピットやピンホールなどの原因になる。
【0006】
これら不溶解残渣のめっき液中への混入防止のため、通常アノード・バックと称されるポリプロピレンなどの布で作られた袋をアノードにかぶせ、不溶解残渣のめっき液中への混入を防止している。
【0007】
しかしニッケルめっきでは一般に陰極(ワーク)界面へのニッケル・イオンの補給を十分行うためエア撹拌、液流動(噴流)、カソード・ロッキングなどによる撹拌が行われている。この撹拌によってアノード・バックが揺らされ、アノード・バック内の不溶解残渣の微粒子がアノードバッグの目を通してめっき液中に混入してくる。
【0008】
これを阻止するために、特許文献1のように、アノードの周囲を、アノード・バックで覆い、強制的にアノード・バック内の液をポンプで吸引することによってアノード側からめっき液中に、不溶性微粒子が混入しないようにする技術が適用されている。
【0009】
アノード・バックは、不溶性微粒子を含むアノード・スライムの、カソード室中のめっき液への混入を阻止するために、通常、できるだけ細かな目の布で作成されている。アノード・バックの適用により、カソード室とアノード室とが隔離され、めっき液の対流が抑制されるので、めっきに必要で十分な電流を確保するためには、アノード・バックが適用されない場合に比べて、電圧をより上昇させねばならなくなる。このため、高電流を使用する高速度めっきには不利となる。
【0010】
このようなアノード・バックを適用した場合であっても、アノード・バックの揺れや、アノード・バックの破損などの原因により、アノード・スライムの不溶性微粒子が、めっき液中に混入し、めっき液中において不溶性微粒子の蓄積が生じることがある。
【0011】
一方、生産性向上に関しては、コネクタめっきの単価下落により、ライン稼働をできるだけ継続し、生産性を向上することが望まれることは言うまでもない。しかしながら、前述のとおり稼働(電解)により必然的にアノード・バック内にアノード・スライムが蓄積されてくる。
【0012】
アノード・スライムが蓄積されると、めっき液中への微粒子混入が起こりやすくなり、その結果ピット、ピンホールなどのめっき欠陥の発生の危険性が高くなる。また、陽極の有効面積の低下をもたらす。これによって、通電容量が低下するので、めっきに必要な十分な電流を確保するために、電圧をさらに上昇させねばならなくなる。さもなければ、めっき厚み分布が変化し、品質の低下を招いてしまう。
【0013】
このために、定期的にライン稼働を停止し、以下のようなメンテナンス作業がなされている。
【0014】
まず、アノード・バックを装着させたままアノードがアノード・ケースと共にめっき槽から取り出される。さらには、このアノード・ケースに収容されているアノードが全量取り出される。 そして、このようにして取り出されたアノード・バックおよびアノードに対して洗浄が行われる。劣化が激しいアノード・バック並びに小片化したアノードは交換されまた、小片となったアノードならびにNiは再利用される場合が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このようなメンテナンス作業には、以下のような問題がある。
【0017】
すなわち、メンテナンス作業を行うためには、ライン稼働の停止が必要になるので、当然ながら、生産性の低下をもたらす。
【0018】
また、アノード・バックは、布のような脆弱な材料から構成されているので、取り出し時に破損しやすい。破損した場合、新規のアノード・バックに交換する必要がある。
【0019】
新規のアノード・バックには、紡織の際の静電気防止剤などの有機物が付着している可能性があるため、新規のアノード・バックに交換した場合、使用前の洗浄などの作業が必要となり、手間と時間とを要する。
【0020】
なお、品質上問題がなければ、洗浄後のアノード・バックを再びめっき槽内に配置し、再利用することも可能である。しかしながら、このように再使用する場合であっても、先の使用中で生じた目詰まりを解消するため、再使用の前に酸洗などを行っての調整が必要になる。このためやはり手間と時間とを要する。
【0021】
また、メンテナンス作業では、アノードの取り出し作業によってめっき液の損失が起こる。また、アノード・バックの洗浄に伴い、アノード・スライムが回収されるが、回収されなかった微粉のアノード・スライムを含む廃液処理の負荷が大きい。例えば、特許文献1では、同文献の
図1に示されているように、めっき時にアノードから発生するスラッジ(前述したアノード・スライムに相当)をアノード・ケースに沈降させ、沈降させたスラッジを電鋳液とともに吸引ポンプで吸引している。しかしながら、このように、スラッジを含む電鋳液を吸引すれば、吸引ポンプの劣化が加速され、耐用寿命が短縮される。
【0022】
さらに、メンテナンス作業では、必要に応じて陽極の補充や、アノードの交換等も行われる。このような陽極の補充や、アノードの交換等が行われた場合も、再稼働する際に、陽極調整のための空電解を行う必要があり、やはり、手間と時間とを要する。
【0023】
以上説明したように、ニッケルめっき槽にアノード・バックを適用した場合、定期的にライン稼働を停止し、メンテナンス作業を行う必要がある。これによって、生産性が低下するのみならず、メンテナンス作業自体にも多大な手間と時間とを要するという問題がある。
【0024】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、アノード・バックを適用することなく、めっき液への不溶性微粒子の混入を阻止することにより、前述したようなメンテナンス作業を不要とし、もって、十分なニッケルめっき品質を維持しながら、ニッケルめっき作業の生産性の向上を図ることが可能な
めっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0026】
すなわち、請求項1の発明は、
めっき槽を用いて、被めっき体にニッケルめっきを施す
ためのめっき
装置であ
る。めっき槽は、ニッケルを含むめっき液に浸漬させたアノードを含むアノード室と、めっき液に浸漬させた、カソードとなる被めっき体を含むカソード室と、アノード室とカソード室とを区分けする、めっき液が通過可能な整流のための第1の隔膜とを備える。そして、めっき液を、槽外からカソード室へ供給し、アノード室から槽外へ排出することによって、めっき液が、アノード室からカソード室への移動を防止し、カソード室側からアノード室側へ移動するようにしている。
めっき装置はさらに、アノード室から槽外へ排出されためっき液から、めっき液に含まれる不純物を分離して除去する分離手段と、分離手段によって不純物が除去されためっき液を、めっき槽のカソード室へ供給する供給手段とを備えている。そして、アノード室から槽外へ排出されためっき液は、重力落下によって分離手段に移動する。
【0027】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のめっき
装置において、カソード室におけるめっき液の液面を、アノード室におけるめっき液の液面よりも高く保つ。
さらに、請求項3の発明は、請求項2に記載のめっき装置において、カソード室およびアノード室に備えられた液面計によって測定されたカソード室の液面およびアノード室の液面を監視しながら、供給手段によって供給されるめっき液の流量を調節することによって、カソード室におけるめっき液の液面を、アノード室におけるめっき液の液面よりも高く保つ。
【0028】
さらに、請求項
4の発明は、請求項1
乃至3のうちの何れか1項に記載のめっき
装置において、カソードとアノードとの間の電流分布を制御するための電流分布制御部材を、カソード室に備える。
【0030】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のうち何れか1項に記載のめっき
装置において、槽外からカソード室に供給されるめっき液は、カソード室の下側から上側に向けて、カソード室内のめっき液を撹拌しながら導入される。
【0031】
請求項6の発明は、請求項1乃至5のうち何れか1項に記載のめっき
装置において、アノード室から槽外へ排出されるめっき液は、アノードよりも下側から排出される。
【0034】
請求項
7の発明は、請求項
1乃至6のうちの何れか1項に記載のめっき装置において、分離手段は、沈降分離や遠心分離および濾過のような固液分離法うちの少なくとも何れかまたは組み合わせによって、
不純物を分離して除去する。
【0035】
請求項
8の発明は、請求項
1乃至
7のうち何れか1項に記載のめっき装置において、分離手段によってアノード・スライムが除去されためっき液に対して、紫外線照射し、めっき液におけるバクテリアを防止する紫外線照射手段、をさらに備える。
【0036】
請求項
9の発明は、請求項
1乃至
8のうち何れか1項に記載のめっき装置において、供給手段を、分離手段とめっき槽との間に設ける。
【発明の効果】
【0038】
本発明の
めっき装置によれば、アノード・バックを適用することなく、めっき液への不溶性微粒子の混入を阻止することができる。
【0039】
以上により、前述したようなメンテナンス作業を不要とすることが可能となり、もって、十分なニッケルめっき品質を維持しながら、ニッケルめっき作業の生産性の向上を図ることが可能な
めっき装置を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0042】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0043】
図1Aは、本発明の第1の実施の形態に係るめっき装置に適用されるめっき槽の一例を示す概念図である。
【0044】
すなわち、このめっき槽10は、アノード室12と、カソード室14とを、隔膜16によって区分けし、めっき液Aの流れが、常に、カソード室14側からアノード室12側へ向かうようにすることにより、アノード18で発生するスラッジが、カソード14室に逆流しないように制御している。
【0045】
アノード18は、例えば、板状、コイン状、球状などのS含有Niを適用する。
【0046】
カソード室14内では、陰極26に接続されたワークWが、めっき液Aに浸漬されている。また、カソード室14内には、遮蔽板30を適宜設けている。遮蔽板30は、カソード室14内での電流分布を改善するための電流分布制御板であり、多く設けるほど、陽極28と陰極26との間の距離が長くなるので、電流線が平行になり、電流分布の改善効果も高くなるので、好ましい。
【0047】
一方、アノード室12は、電流分布に影響の出ない範囲で、容量をできるだけ小さくするのが好ましい。
【0048】
したがって、カソード室14の容量、アノード室12の容量、遮蔽板30の量は、ワークWのサイズ、要求されるめっき速度等に応じて、適宜、適切に選択されるべきである。
【0049】
カソード室14からアノード室12へのめっき液Aの流れ制御は、以下によって実現する。
【0050】
(1)めっき槽10からのめっき液Aの排出を、常に、アノード室12から行う。一例として、
図1Aでは、アノード室12の下端開口部20から、めっき液Aを排出している。この排出液量が高いほど、カソード室14側からアノード室12側へのめっき液Aの流れが促進される。このように、めっき液Aを、アノード室12から排出することによって、スラッジは、アノード室12側からカソード室14側へは流れないようになる。
【0051】
(2)めっき槽10へのめっき液Aの供給を、常にカソード室14から行なう。一例として、
図1Aでは、めっき液Aを、カソード室14の下端開口部22から、めっき槽10内に供給している。カソード室14内は、下端開口部22の上側に、噴流生成部23を備えている。そして、下端開口部22から導入されためっき液Aは、噴流生成部23を通過すると、噴流となってカソード室14内に導入されるようにしている。なお、カソード室14の下端開口部22から、めっき槽10内に供給されるめっき液Aは、アノード室12の下端開口部20から排出されためっき液Aから、スラッジが除去された後に、ポンプ駆動によって、カソード室14へと循環供給されるものである。この循環供給の構成については、
図2を用いて、後述する。
【0052】
(3)カソード室14におけるめっき液Aの液面L1を、アノード室12におけるめっき液Aの液面L2よりも常に高く保つ。この液面差ΔL(=L1−L2)により生じる液圧によって、めっき液Aの流れは、カソード室14側からアノード室12側になるので、スラッジは、アノード室12側からカソード室14側へ流れないようになる。
【0053】
隔膜16は、カソード室14側からアノード室12側へのめっき液Aの流れを均一にするためのものであり、例えば、めっき液Aの流れを阻害しないように、粗い目の布を適用する。前述した(1)乃至(3)によって、めっき液Aの流れは、常にカソード室14側からアノード室12側になるので、アノード18で発生したスラッジは、隔膜16に付着する可能性は低い。
【0054】
また、アノード室12におけるアノード18の配置方法について説明する。
【0055】
図1Aには、この配置方法の一例が示されており、アノード室12の、下部開口部20の上側に、チタン網24を配置し、その上に、アノード18を配置する。アノード18は、陽極28に電気的に接続される。チタン網24は、めっき液Aの流れを阻害せず、かつ、アノード18を落下しないように保持する必要がある。チタン網24の目が大きい場合はアノード、アノード・スライムが落ちやすくなり、目が小さい場合はアノード、アノードスライムが詰まりやすくなるため、適切な目の大きさのチタン網24を使用することが望ましい。
【0056】
また、別の配置方法としては、[背景技術]で説明したように、従来技術で適用されているチタン・ケース25のようなアノード・ケース内にアノード18を収納し、このチタン・ケース25を、アノード室12内に吊り下げることによってアノード18をアノード室12内に配置しても良い。
図1Bには、この配置方法の一例が示されている。チタン・ケース25は従来、側面が網状となっているが、本実施形態では、底面もチタン網24が配置されることによって網状となっており、これによって、めっき液Aの流れを阻害せず、かつ、アノード18を落下しないように保持する。ただし、チタン・ケース25を適用した場合、側面が網状となっているものの、アノード18で発生したスラッジがチタン・ケースの側面に付着する可能性も否めないので、この付着したスラッジを洗浄する機構を備えるようにしても良い。また、図示していないが、チタン・ケース25には、アノード室12内への着脱を容易にするための構造を適宜付加することが望ましい。
【0057】
なお、前述した何れの配置方法においても、オプションとして、アノード室12内におけるアノード18の上側に、隔膜17を配置してもよい。隔膜17もまた、隔膜16と同様に、めっき液Aの流れを阻害しないように、粗い目の布を適用する。この隔膜17によって、アノード室12側からカソード室14側へのスラッジの流れは、さらに確実に阻止されるようになる。
【0058】
図2は、
図1Aおよび
図1Bに示すような構成のめっき槽が適用されるめっき装置の一例を示す系統構成図である。
【0059】
すなわち、本発明の第1の実施の形態に係るめっき装置は、めっき槽10に加えて、スラッジ分離槽40と、滞留槽42と、濾過装置44と、めっき貯留槽46とを備えている。これら槽類は、アノード室12の下端開口部20から排出されためっき液Aから、スラッジ、粒径の小さいアノード、アノード・スライム等を除去し、このめっき液Aを、再びめっき槽10に供給することによって、めっき液Aの再利用を図るためのものである。
【0060】
(1)で説明したように、アノード室12の下端開口部20から排出されためっき液Aは、配管P1を介してスラッジ分離槽40に移動する。この移動は、ポンプ等の動的機器によってではなく、重力落下等による静的な移動によってなされるようにしている。配管P1には、流量計56が設けられており、この流量計56は、めっき槽10から排出されるめっき液Aの流量を測定する。配管P1にはさらに、流量調整バルブ48が設けられており、必要に応じて、めっき槽10から排出されるめっき液Aの流量を調節できるようにしている。
【0061】
スラッジ分離槽40は、アノード室12の下端開口部20から排出されためっき液Aから、例えば、比重の差異や、遠心分離を利用することによって、スラッジ、粒径の小さいアノード、アノード・スライム等の不純物を除去する。このように分離により不純物が除去されためっき液Aは、例えばオーバフロー等により滞留槽42へ移送され、いったん滞留槽42に滞留された後に、濾過装置44に移送され、濾過装置44において、濾過処理されることにより、さらに不純物が除去された後にめっき貯留槽46に移送されるようにしている。なお、滞留槽42から濾過装置44への移送に際しては、例えば、液面レベル計61を滞留槽42に備え、液面レベル計61によって計測された液面が、あるレベル以上になった場合に、ポンプ59を駆動することによって行う。
【0062】
めっき貯留槽46では、貯留されためっき液Aに対して、紫外線照射が行われるようにしている。これは、めっき液Aでのバクテリアの発生を防止するためである。めっき貯留槽46に貯留されためっき液Aは、紫外線照射が行われた後に、ポンプ50の駆動力によって、配管P2を介して、カソード室14の下端開口部22から、めっき槽10に供給されためっき液Aは、噴流生成部23を通過すると、噴流となってカソード室14内に入る。このように、カソード室14の下方から、めっき液Aを、噴流を伴ってめっき槽10に導入することにより、カソード室14内のめっき液Aに対する撹拌効果が高まり、この撹拌効果により、使用電流密度も高まる。
【0063】
配管P2には、流量計54が設けられており、この流量計54は、めっき貯留槽46からめっき槽10へ供給されるめっき液Aの流量を測定する。流量計54によって測定される流量と、流量計56によって測定される流量とが一致するように、バルブ48およびポンプ50を調整することにより、めっき槽10におけるめっき液Aの供給および排出のバランスを保つようにしている。これらの制御は、コンピュータを用いて、自動的になされるようにすることも可能である。
【0064】
なお、カソード室14に供給されるめっき液Aの量が、アノード室12から排出されるめっき液Aの量よりも多くなり、前述したバランスが崩れてしまった場合のための緊急措置対応用として、カソード室14からめっき液Aを排出させる流路を設けるようにしても良い。
【0065】
めっき槽10におけるめっき液Aの供給および排出のバランスを保つことは、めっき槽10におけるめっき液Aの液面を管理し、一定のめっき品質を達成するという観点から重要である。なぜなら、めっき液Aの液面が変化すると、電流分布が変化し、これによって、ワークWに施されるニッケルめっきの厚み分布が変化してしまうからである。さらには、この電流分布の変化を補償するために、電圧を調整する必要があるからである。
【0066】
一方、めっき貯留槽46には、配管P2の他に配管P3にも接続されており、めっき貯留槽46に貯留されためっき液Aは、ポンプ52の駆動力によって、配管P3を介して、めっき槽10に、上方から供給されるようにもなっている。めっき貯留槽46から配管P3を介してめっき槽10にめっき液Aを供給するこの系統は、アノード室12またはカソード室14の液面調整のために、必要に応じて使用されるものである。
【0067】
すなわち、アノード室12においては、アノード18が浸漬し、カソード室14においては、ワークWが浸漬する程度に、十分にめっき液Aが存在している必要がある。このため、アノード室12およびカソード室14には液面計53a,53b,53cが設けられている。そして、アノード室12の液面が、所定の最低液面まで低下した場合には、液面計53aまたは液面計53bがこれを検知する。この検知に応じてポンプ52を駆動することにより、めっき貯留槽46からめっき液Aを、アノード室12に、上方から供給する。一方、カソード室14の液面が、所定の最低液面まで低下した場合には、液面計53cがこれを検知し、この検知に応じてポンプ52を駆動することにより、めっき貯留槽46からめっき液Aを、カソード室14に、上方から供給する。このように、必要に応じて、アノード室12またはカソード室14の何れかにめっき液Aを供給できるように、配管P3の終端部に、図示しない切換機構を設けている。
【0068】
なお、このように配管P3を介してめっき液Aを、アノード室12またはカソード室14に供給する場合であっても、前述した(3)のように、カソード室14におけるめっき液Aの液面L1を、アノード室12におけるめっき液Aの液面L2よりも常に高く保つ必要があることは言うまでもない。このような液面差ΔLの維持もまた、液面計53a,53b,53cを用いることによって達成される。このような液面計53a,53b,53cによる計測結果に基づく液面差ΔLの管理もまた、コンピュータを用いて、自動的になされるようにすることが可能である。
【0069】
このような構成をなす本発明の第1の実施の形態に係るめっき装置では、めっき貯留槽46よりも下流側にしかポンプ50,52が配置されていない。このような配置によって、ポンプ50,52が移送する液は、不純物が除去された後のめっき液Aとなる。したがって、ポンプ50,52に無用な負荷をかけずに済むので、ポンプ50,52の耐用寿命が短縮されることはない。
【0070】
なお、ポンプ50,52への不純物の混入を極力回避するために、必要に応じて、例えば、めっき貯留槽46とポンプ50,52との間にフィルタ55,57を設けても良い。
【0071】
次に、以上のように構成した本発明の第1の実施の形態に係るめっき装置の動作について説明する。
【0072】
すなわち、本発明の第1の実施の形態に係るめっき装置は、
図2の系統構成図に示すように、めっき槽10と、スラッジ分離槽40と、滞留槽42と、濾過装置44と、めっき貯留槽46とを備えて構成される。
【0073】
そして、めっき槽10は、
図1Aおよび
図1Bの概念図に示すように、アノード室12と、カソード室14とが、隔膜16によって区分けされている。
【0074】
アノード室12には、アノード18が配置される。例えば、
図1Aに示すように、アノード室12の、下部開口部20の上側に、チタン網24が配置され、その上に、多数のアノード18が積載されることにより配置される。アノード18は、例えば、板状、コイン状、球状のS含有Niが適用される。そして、アノード18は、陽極28に電気的に接続される。
【0075】
チタン網24は、アノード18が落下しない限り、できるだけ目の粗いものが用いられる。したがって、めっき液Aの流れは阻害されず、かつ、アノード18は確実に保持される。
【0076】
また、別の配置方法としては、[背景技術]で説明したように、従来技術で適用されているチタン・ケース25のようなアノード・ケース内にアノード18を収納し、このチタン・ケース25を、アノード室12内に吊り下げることによってアノード室12内にアノード18を配置するようにしても良い。チタン・ケース25は従来、側面が網状となっているが、本実施形態では、底面もチタン網24が配置されることによって網状となっており、これによって、めっき液Aの流れは、阻害されず、かつ、アノード18は確実に保持される。ただし、チタン・ケース25を適用した場合、側面が網状となっているものの、アノード18で発生したスラッジがチタン・ケースの側面に付着する可能性も否めないので、スラッジを洗浄する機構を備えるようにしても良い。また、チタン・ケース25には、アノード室への着脱を容易にするための構造も適宜付加されているので、これによって、アノード18の交換作業が容易となる。
【0077】
カソード室14内では、陰極26に接続されたワークWが、めっき液Aに浸漬されている。また、カソード室14内には、遮蔽板30が適宜設けられている。遮蔽板30は、カソード室14内での電流分布を改善するために設けられる電流分布制御板であり、多く設けるほど、陽極28と陰極26との間の距離が長くなるので、電流線が平行になり、電流分布の改善効果も高くなる。
【0078】
一方、アノード室12は、電流分布に影響の出ない範囲で、容量をできるだけ小さくするのが好ましい。
【0079】
したがって、カソード室14の容量、アノード室12の容量、遮蔽板30の量は、ワークWのサイズ、要求されるめっき速度等に応じて、適宜、適切に選択される。
【0080】
隔膜16は、カソード室14側からアノード室12側へのめっき液Aの流れを均一にするためのものであり、例えば、粗い目の布が適用される。
【0081】
そして、後述する(1)乃至(3)に記載されているように、めっき液Aの流れが、常に、カソード室14側からアノード室12側へ向かうように制御されているので、アノード18で発生するスラッジは、カソード14室側に逆流しないように制御されている。
【0082】
(1)めっき槽10からのめっき液Aの排出が、常に、アノード室12から行われる。例えば、
図1Aおよび
図1Bには、アノード室12の下端開口部20から、めっき液Aが排出されている。そして、この排出液量が高いほど、カソード室14側からアノード室12側への流れが促進される。このように、めっき液Aを、アノード室12から排出することによって、スラッジは、アノード室12側からカソード室14側へ流れない。
【0083】
(2)めっき槽10へのめっき液Aの供給は、常にカソード室14から行なわれる。例えば、
図1Aおよび
図1Bには、めっき液Aが、カソード室14の下端開口部22から、めっき槽10内へ供給されている。なお、カソード室14の下端開口部22から、めっき槽10内に供給されるめっき液Aは、アノード室12の下端開口部20から排出されためっき液Aから、スラッジが除去された後に、ポンプ駆動によって、カソード室14へと循環供給される。
【0084】
(3)カソード室14におけるめっき液Aの液面L1が、アノード室12におけるめっき液Aの液面L2よりも常に高く保たれる。この液面差ΔL(=L1−L2)により生じる液圧によって、めっき液Aの流れは、カソード室14側からアノード室12側になるので、スラッジは、アノード室12側からカソード室14側へ流れない。
【0085】
このように、めっき槽10では、めっき液Aの流れが、常にカソード室14側からアノード室12側になるように制御されるので、アノード18で発生したスラッジが、隔膜16に付着する可能性は低くなる。
【0086】
なお、前述した何れの配置方法においても、アノード室12内におけるアノード18の上側に、隔膜17を配置してもよい。この隔膜17によって、アノード室12側からカソード室14側へのスラッジの流れは、さらに確実に阻止される。
【0087】
次に、
図3のフローチャートを用いて、アノード室12の下端開口部20から排出されためっき液Aから、スラッジ、粒径の小さくなったアノード、アノード・スライム等が除去され、このめっき液Aが、再びめっき槽10へ供給される、めっき液Aの再利用処理の流れを説明する。
【0088】
めっき槽10のアノード室12の下端開口部20から排出されためっき液Aは、配管P1を介してスラッジ分離槽40へ移動する(ステップ1)。この移動は、ポンプ等の動的機器によってではなく、重力落下等による静的な移動によってなされる。また、配管P1には、流量計56が設けられており、めっき槽10から排出されるめっき液Aの流量が、流量計56によって測定される。配管P1にはさらに、流量調整バルブ48が設けられており、必要に応じて、めっき槽10から排出されるめっき液Aの流量が調節される。
【0089】
スラッジ分離槽40では、例えば、比重の差異や、遠心分離を利用することによって、アノード室12の下端開口部20から排出されためっき液Aから、スラッジ、粒径の小さいアノード、アノード・スライム等といた不純物が除去される(ステップ2)。
【0090】
このように分離により不純物が除去されためっき液Aは、例えばオーバフロー等により滞留槽42へ移送され、滞留槽42でいったん滞留される(ステップ3)。
【0091】
その後、めっき液Aは、滞留槽42から濾過装置44に移送され、濾過装置44において、濾過処理されることにより、さらに不純物が除去される(ステップ4)。なお、滞留槽42から濾過装置44への移送に際しては、例えば、液面レベル計61を滞留槽42に備え、液面レベル計61によって計測された液面が、あるレベル以上になった場合に、ポンプ59を駆動することによって、行われる。
【0092】
その後、めっき液Aは、濾過装置44からめっき貯留槽46に移送され、めっき貯留槽46において、貯留されためっき液Aに対して、紫外線照射が行われる(ステップ5)。これによって、めっき液Aでのバクテリアの発生が防止される。
【0093】
このように紫外線照射が行われためっき液Aは、ポンプ50の駆動力によって、配管P2を介して、カソード室14の下端開口部22から、めっき槽10に、噴流を伴って再び供給される(ステップ6)。この噴流効果により、カソード室14内のめっき液Aに対する撹拌効果が高められ、この撹拌効果により、使用電流密度も高められる。
【0094】
ところで、配管P2には、流量計54が設けられており、めっき貯留槽46からめっき槽10へ供給されるめっき液Aの流量が、この流量計54によって測定される。したがって、流量計54によって測定される流量と、流量計56によって測定される流量とが一致するように、バルブ48およびポンプ50を調整することにより、めっき槽10におけるめっき液Aの供給および排出のバランスが保たれる。これらの制御は、コンピュータを用いて、自動制御によって実施することも可能である。
【0095】
また、アノード室12およびカソード室14には液面計53a,53b,53cが設けられている。よって、アノード室12の液面が、所定の最低液面まで低下した場合には、それが液面計53aまたは液面計53bによって検知される。アノード室12においては、アノード18が浸漬し、カソード室14においては、ワークWが浸漬する程度に、十分にめっき液Aが存在している必要がある。万が一、最低液面が検知された場合には、この検知に応じてポンプ52を駆動することにより、めっき貯留槽46からのめっき液Aが、配管P3を介してアノード室12に、上方から供給される。
【0096】
配管P3の終端部には、めっき液Aの供給先を、アノード室12にするかカソード室14にするかを切り換える切換機構(図示せず)が設けられている。したがって、カソード室14の液面が、所定の最低液面まで低下した場合には、それが液面計53cによって検知され、この検知に応じてポンプ52が駆動され、めっき貯留槽46からめっき液Aが、配管P3を介してカソード室14に、上方から供給される。
【0097】
なお、このように配管P3を介してめっき液Aを、アノード室12またはカソード室14に供給する場合であっても、カソード室14におけるめっき液Aの液面L1を、アノード室12におけるめっき液Aの液面L2よりも常に高く保った状態でなされることは言うまでもない。このような液面差ΔLの維持もまた、液面計53a,53b,53cを用いることによって達成される。このような制御もまた、コンピュータを用いて、自動制御することが可能である。
【0098】
このように、本実施の形態に係るめっき装置では、カソード室14またはアノード室12において液面が低下した場合であっても、柔軟に、かつ確実に液面管理が実施される。
【0099】
なお、
図2に示すような構成のめっき装置では、めっき貯留槽46よりも下流側にしかポンプ50,52が配置されていない。このような配置によって、ポンプ50,52が移送する液は、不純物が除去された後のめっき液Aとなる。したがって、ポンプ50,52に無用な負荷をかけずに済むので、ポンプ50,52の耐用寿命が短縮されることはない。
【0100】
上述したように、本発明の第1の実施の形態に係るめっき槽においては、前述したように、アノード・バックを適用することなく、カソード室14側への不溶性微粒子の混入を阻止することができる。また、このようなめっき槽10を備えた、本発明の第1の実施の形態に係るめっき装置によれば、めっき槽10で使用された使用済みのめっき液Aを精製し、めっき槽10に戻すことによって、めっき液Aを連続的に再利用することができる。
【0101】
以上により、第1の実施の形態に係る発明によれば、アノード・バックを適用するめっき槽で必須であったメンテナンス作業を不要とすることが可能となり、もって、十分なニッケルめっき品質を維持しながら、ニッケルめっき作業の生産性の向上を図ることが可能なめっき槽およびめっき装置を実現することが可能となる。
【0102】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態で説明したような構成のめっき装置によれば、アノード室12側からカソード室14側へのスラッジ等の不溶性微粒子の混入が阻止される。
【0103】
しかしながら、アノード18でのスラッジの発生自体が阻止される訳ではないので、例えば、カソード室14側からアノード室12側へのめっき液Aの流量が低い場合には、アノード18で発生したスラッジの一部が、めっき槽10の外に排出されずに、アノード18に付着したままになる恐れも否定できない。
【0104】
スラッジは、アノード18が溶解することによって発生する。そして、アノード18の溶解は、アノード18の上面で起こるので、スラッジは、積み上げたアノード18の上層面に付着する傾向にある。したがって、スラッジが、適切に除去されない場合には、アノード18の上層面にスラッジが積層し、アノード18の能力が低下する恐れがある。
【0105】
そこで、本実施の形態では、このような状況に対応するために、第1の実施の形態に係るめっき装置に対して、以下のような機構を付加する。
【0106】
すなわち、本実施の形態に係るめっき装置は、アノード18に振動を与える機構(図示せず)を備える。例えば、この機構は、層状に配置されたアノード18に対して、側面方向から横棒を挿入し、この横棒を上下運動させることによって、アノード18に振動を与え、アノード18の上層面に付着したスラッジを落とす。
【0107】
別の機構は、アノード18に、めっき液Aを噴射する機構(図示せず)である。この機構は、アノード室12に配置されたアノード18に対して、例えばホースやノズルから、めっき液Aを噴射することによって、アノード18の上層面に付着したスラッジを落とす。この場合、落ちたスラッジを、めっき液Aとともにめっき槽10から効率良く排出するために、めっき液Aを、アノード室12の下部開口部20から排出するのみならず、アノード室12の側面に排出口(図示せず)を開け、この排出口から排出するようにしても良い。
【0108】
上述したように、第2の実施の形態に係るめっき装置は、第1の実施の形態に係るめっき装置に対して、前述したような機構が付加されていることにより、アノード18の上層面に付着したスラッジがより効率的に除去される。これらの機構は、適宜組み合わせて用いても良い。
【0109】
以上により、本実施の形態に係るめっき装置によれば、第1の実施の形態に係るめっき装置によって奏される作用に加えて、アノード18の上層面に付着したスラッジをより効率的に除去することが可能となる。
【0110】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。