(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ベース部材は、前記扉の屋内側に配置されて前記サムターン軸に連結されるサムターンの摘み部を取り外した後の前記扉に、前記施錠装置が前記摘み部を着脱自在に固定するために設けた出没自在のピンを利用して着脱自在に固定されている、請求項1ないし4のいずれか一記載の電気錠。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の一形態を
図1ないし
図14に基づいて説明する。
【0015】
図1は、既存の施錠装置11のサムターン12から摘み部13を取り外して本実施の形態の電気錠101(
図3参照)が備えるベース部材111を扉51に固定する様子を示す分解斜視図である。本実施の形態の電気錠101は、既存の施錠装置11を利用して後付けすることができる電気錠101である。電気錠101を後付けするには、まず、扉51に装着されている施錠装置11の化粧カバー14を外す。化粧カバー14は、扉51の端面に二つのネジ15によってねじ止めされているので、ネジ15を緩めて脱落させることで、容易に取り外すことができる。
【0016】
化粧カバー14を取り外すと、扉51の室内側に配置されるサムターン12の摘み部13を固定している二本のピン16が露出する。これらのピン16は、サムターン12が有するサムターン軸17を収納するために扉51に形成された装着孔52内にまで延出し、摘み部13に形成された図示しない固定孔に圧入されている。サムターン12の摘み部13は、それらのピン16の圧入によって抜け止めされ、扉51に固定されている。そこで、それらのピン16を引っ張ると、装着孔52内で摘み部13からピン16が脱落し、摘み部13を取り外すことが可能となる。サムターン12の摘み部13を取り外すと、装着孔52が露出する。
図1に示すように、装着孔52内にはサムターン軸17が覗いている。
【0017】
なお、
図1中、符号18は、サムターン軸17の回動に応じて扉51から出没するデッドボルトである。
【0018】
図2は、ベース部材111を裏面側から示す斜視図である。ベース部材111は、板金をプレスして形成した平板状部材である。ベース部材111は、曲げ加工によって形成された一対の連結片112を上下縁に備え、打ち抜き加工によって形成されたベース部材挿通孔113を下方中央位置に備える(
図1参照)。ベース部材挿通孔113は、後述する駆動部301が有する回転軸124(
図3、
図6、
図11〜
図14参照)を挿通させてサムターン軸17に連結させるための孔である。そして、
図2に示すように、ベース部材111の裏面側、つまり、扉51に装着される側の面には、ピン連結体114が設けられている。このピン連結体114は、ベース部材挿通孔113に連通する連結体挿通孔115を備えると共に、前述したサムターン12のピン16を圧入するためのピン孔116を有している。ピン連結体114は、ベース部材111の表面側から二本のネジ117によってねじ止め固定されている(
図1参照)。
【0019】
次いで、
図1に示すように、扉51からサムターン12の摘み部13を取り外したならば、その位置にベース部材111を装着する。ベース部材111を装着するには、摘み部13を取り外すと露出する装着孔52に、ベース部材111のピン連結体114を挿入する。装着孔52にピン連結体114を挿入すると、いずれ、ベース部材111の裏面が扉51に当接する。この状態で、サムターン軸17はピン連結体114の連結体挿通孔115に嵌合し、ベース部材挿通孔113はサムターン軸17に連絡する。そして、ピン連結体114に形成されたピン孔116は、サムターン12のピン16の位置に位置合わせされている。そこで、サムターン12の摘み部13を取り外すために一旦は引き出したサムターン12のピン16を、再度押し込む。すると、ピン連結体114に形成されたピン孔116にピン16が圧入され、ベース部材111が扉51に確実に固定される。
【0020】
図3は、扉51に取り付けたベース部材111に電気錠構造体121を装着する様子を示す分解斜視図である。電気錠101を扉51に取り付けるには、扉51に取り付けたベース部材111にゴム製のパッキング118を介して電気錠構造体121を装着し、更に、ベース部材111に装着した電気錠構造体121にカバー131を被せる。
【0021】
パッキング118には、ベース部材111の連結片112を通すための通し孔118aが形成されている。電気錠構造体121には、連結片112に位置合わされた取付部122が設けられている。ベース部材111の連結片112にはネジ孔112aが形成され、電気錠構造体121の取付部122には取付孔122aが形成されている。そこで、パッキング118の通し孔118aを通った連結片112が有するネジ孔112aに、取付部122が有する取付孔122aを挿通させたネジ123を螺合させて締め付ける。これにより、ベース部材111に電気錠構造体121が強固に固定される。
【0022】
別の一例として、既設の摘み部13の取り付け構造として、キーシリンダの後部に雌ネジが切ってありサムターン側に突出する棒状の取付部材を設け(いずれも図示せず)、キーシリンダに切られている雌ネジを利用してネジ止めによりキーシリンダの後部と既設の摘み部13を連結する構造のものがある。このような構造を用いて摘み部13を扉51に固定的に取り付ける方式の場合、摘み部13と同様な構造でベース部材111を扉51に固定的に取り付けるようにしても良い。つまり、キーシリンダに切られている雌ネジを利用し、ベース部材111をネジ止めによりキーシリンダの後部と連結する。
【0023】
電気錠構造体121は、駆動部301を内蔵している(
図6〜
図14参照)。駆動部301は、前述したように、回転軸124を有している。
図3中、電気錠構造体121の表面側に回転軸124(
図6に示す124a)が位置付けられていることが分かる。この回転軸124は、
図3には示されないが、電気錠構造体121の背面側にも位置付けられている。そこで、電気錠構造体121の背面側に位置する回転軸124(
図6に示す124b)は、後述するアダプタAP(
図12参照)を介してベース部材111のベース部材挿通孔113に臨んでいるサムターン軸17に形成されている異形孔17aに挿入され、サムターン軸17と連結されている。異形孔17aは、真円以外の形状の孔であり、連結している回転軸124の回転をサムターン軸17に伝達する。パッキング118は、通し孔118bによって回転軸124を通す。
【0024】
電気錠構造体121は、その上部に板バネ125を有している。この板バネ125は、電気錠構造体121の上面よりも僅かに飛び出ている。一方カバー131には、その板バネ125に引っ掛かって止められる突起(図示せず)が内側面に突出形成されている。また、電気錠構造体121の下部とカバー131の内側面下部とには、互いに引っ掛かりあう突起(図示せず)が形成されている。そこで、電気錠構造体121の下部とカバー131の内側面下部とをそれらの突起(図示せず)によって引っ掛け、しかる後にカバー131の上部を電気錠構造体121に押し込む。すると、カバー131の内側面上部に形成されている突起(図示せず)が電気錠構造体121の板バネ125に引っ掛かり、カバー131がしっかりと電気錠構造体121に装着される。
【0025】
カバー131は、サムターン軸17を手動回転させるための摘み部132(
図3、
図14参照)を有している。この摘み部132は、電気錠構造体121の正面側に位置する回転軸124と回り止め連結されており、回転軸124を手動で回転させることができる。回転軸124の回転がサムターン軸17に伝達されると、サムターン軸17が回転する。このようにサムターン軸17を手動回転させるために用いられる摘み部132は、通常、カバー131に着脱自在に取り付けられた透光性を有するキャップ133に覆われている。
【0026】
こうして、扉51に対する電気錠101の取り付け作業が終了する。
【0027】
ここで、電気錠構造体121の詳細について説明する。電気錠構造体121は、大別して、バッテリケース201と、駆動部301と、制御回路401と、バッテリケースカバー501とから成り立っている。以下、これらの各部について説明する。
【0028】
図4は、バッテリケース201、第1の端子部402、電気的接続部材403、及び回路基板404を示す分解斜視図である。バッテリケース201は、一例として樹脂成形品であり、一対のバッテリ収納部202をブリッジ結合したような形状を有している。このため、一対のバッテリ収納部202の間に空間を形成している。この空間は、駆動部収納空間203である。駆動部収納空間203は、駆動部301を収納保持するために用いられる。
【0029】
バッテリ収納部202は、バッテリケース201の両側面を開口し、この開口部分からのバッテリ601の着脱を可能とする。本実施の形態では、バッテリ601として四本の単三電池が用いられる(
図3参照)。うち二本は一方のバッテリ収納部202に収納され、別の二本はもう一方のバッテリ収納部202に収納される。このため、バッテリ収納部202は端子を必要とする。本実施の形態では、第1の端子部402及び電気的接続部材403がそのような端子の役割を果たす。第1の端子部402は、導電性及び復元力を有する金属線材によって形成された部材であり、バッテリ601である単三電池のマイナス側に接触するマイナス端子402aとプラス側に接触するプラス端子402bとを有している。電気的接続部材403は、二分割され、それぞれ一端に第2の端子部405を有して他端に固定接続部406を有している。これらの電気的接続部材403も、導電性及び復元力を有する金属線材によって形成された部材である。一方の電気的接続部材403の一端に形成されている第2の端子部405は、バッテリ601である単三電池のマイナス側に接触するマイナス端子405aを有している。もう一方の電気的接続部材403の一端に形成されている第2の端子部405は、バッテリ601である単三電池のプラス側に接触するプラス端子405bを有している。二つの電気的接続部材403の他端にそれぞれ形成されている固定接続部406は、回路基板404に固定されている。
【0030】
ここで、マイナス端子402a、405aは、渦巻き形状に形成されており、この渦巻き部分にバッテリ601である単三電池のマイナス側が弾性をもって接触する。プラス端子402b、405bは、U字形状に屈曲した形状を有しており、このU字部分にバッテリ601である単三電池のプラス側が接触する。バッテリ収納部202は、マイナス端子402a、405aを装着するための構造として、バッテリ収納部202の側端まで切れ込んだ取付溝204を用意し、プラス端子402b、405bを装着するための構造として、長孔形状の取付長孔205を用意している。そこで、第1の端子部402をバッテリ収納部202に装着するには、マイナス端子402aを取付溝204に横から挿入した後、プラス端子402bを取付長孔205に挿入し、マイナス端子402aとプラス端子402bとがバッテリ収納部202内に配備される。また、電気的接続部材403をバッテリ収納部202に装着するには、一方の電気的接続部材403が有するマイナス端子405aを取付溝204に横から挿入する。そして、もう一方のプラス端子405bを取付長孔205に挿入する。これにより、マイナス端子405aとプラス端子405bとがバッテリ収納部202内に配備される。
【0031】
前述したように、二つの電気的接続部材403の固定接続部406は、回路基板404に固定されている。固定接続部406は、U字形状に屈曲形成されており、回路基板404にはその屈曲形状部分を挿入可能な長孔形状の固定孔407が形成されている。これらの固定孔407は、回路基板404において、プリント配線された給電ライン(図示せず)に接続している。そこで、固定孔407に固定接続部406を挿入した上で給電ラインに半田付けすることで、二つの電気的接続部材403の固定接続部406を回路基板404に固定することができ、かつ、給電ラインに接続することもできる。
【0032】
以上の構成によって、二分割された二つのバッテリ収納部202に収納されたバッテリ601である単三電池は、第1の端子部402によって直列接続される。こうして直列接続された四個のバッテリ601は、電気的接続部材403によって回路基板404の給電ラインに接続される。回路基板404はバッテリケース201と重なるように配置する(
図13、
図14も参照)ため、電気錠101の部品配置スペースを有効活用でき、また後述するようにバッテリ601を横方向から装着するスペースを確保できる。
【0033】
図5は、バッテリケース201の正面図である。バッテリケース201は、一対のバッテリ収納部202の間の駆動部収納空間203を、駆動部301を収納保持するのに適した形状に形成している(
図4も参照のこと)。そして、この駆動部収納空間203をなすバッテリケース201の底部には、前述した駆動部301の回転軸124bを挿通させるための回転軸挿通孔206が形成されている。
【0034】
また、バッテリケース201は、駆動部収納空間203をなす底部に位置させて二つの固定片207を形成し、駆動部収納空間203を外れた位置に一つの固定スタッド208を形成している。固定片207は、駆動部収納空間203に収納した駆動部301をバッテリケースカバー501と共に固定するために用いられ、固定スタッド208は、バッテリケースカバー501を固定するために用いられる。そこで、これらの固定片207及び固定スタッド208には、取付孔207a、208aが形成されている。
【0035】
更に、バッテリケース201は、二つのバッテリ収納部202のそれぞれに、基板用固定スタッド209を形成している(
図4も参照のこと)。基板用固定スタッド209は、制御回路401を搭載する回路基板404をねじ止め固定するために用いられる。そこで、基板用固定スタッド209には、ネジ孔209aが形成されている。また、回路基板404には、それらの基板用固定スタッド209に位置合わせされて取付孔408が形成されている(
図4参照)。
【0036】
図6は、クラッチ機構302を分解して示す正面側から見た駆動部301の斜視図である。駆動部301は、回転軸124が位置する側が変形円筒状に形成され、その反対側が三角形に形成されたハウジング303に各部を収納する。ハウジング303は、一例として、樹脂製品である。このようなハウジング303は、二分割されて内部を開閉可能である。二分割された一方に位置付けられる部材は背面側部材303a、もう一方に位置付けられる部材は表面側部材303bである。背面側部材303aは、変形円筒状の部分に後述する位置検出部304(
図8〜
図10参照)を有している。表面側部材303bは、変形円筒状の部分にクラッチ機構302を有している。そして、ハウジング303は、その左右両側の表裏面に位置させて凹上の嵌合溝306を有し、これらの嵌合溝306に挿通孔306aを有している(
図6、
図8参照)。これらの嵌合溝306は、バッテリケース201に形成されている固定片207を嵌合させ、バッテリケース201内に駆動部301を位置ずれなく保持するために用いられる。そして、それらの嵌合溝306に形成されている挿通孔306aは、固定片207の取付孔207aに位置合わせされて形成され、駆動部301をバッテリケースカバー501と共にバッテリケース201に固定するために用いられる。
【0037】
駆動部301は、変形円筒状の部分に駆動軸307を回転自在に有している。この駆動軸307は、サムターン軸17(
図1、
図3参照)に連結する回転軸124に回転駆動力を付与するためのものであり、ハウジング303に内蔵されたモータ(図示せず)を駆動源として回転する。つまり、ハウジング303にはモータの他に、モータのロータ軸の回転力を最適な減速比に落として駆動軸307に伝達する動力伝達機構を内蔵している(いずれも図示せず)。
【0038】
図7(a)は、クラッチ機構302の縦断正面図である。クラッチ機構302は、モータ(図示せず)によって回転駆動される駆動軸307の回転を所定角度だけ回転軸124に伝達するよう、駆動軸307と回転軸124との間の回転力伝達を断続するための構造である。この場合の所定角度というのは、サムターン12においてデッドボルト18の出没のために必要とするサムターン軸17の回動角度である(
図1参照)。駆動軸307と回転軸124との間の回転力伝達を断続するために、クラッチ機構302は、それらの駆動軸307と回転軸124とをクラッチ板308で連結する。つまり、駆動軸307は、その外面が断面十字形状をしており、その中心に上下に貫通する貫通孔309を有している。クラッチ板308は、駆動軸307の外面形状と同一形状を有してこの駆動軸307を回り止め嵌合させる嵌合孔308aを備えており、この嵌合孔308aに嵌合する駆動軸307の回転に従い回転する。一方の回転軸124は、円筒状をした一面開口の回転体310の表裏両面に設けられている。回転体310の表面側に設けられた回転軸124は、四角柱形状に形成された回転軸124aであり、回転体310の開口面である裏面側に設けられた回転軸124は、円柱形状で先端が略矩形に形成された回転軸124bである。一方の回転軸124aは、前述した摘み部132(
図3参照)に回り止め連結され、この摘み部132の手動による回転操作に応じて回転する。もう一方の回転軸124bは、駆動軸307に形成された貫通孔309に挿入されて貫通し、駆動部301の背面から飛び出す。そして、そのもう一方の回転軸124bは、バッテリケース201に形成された回転軸挿通孔206(
図4、
図5参照)とパッキング118に形成された通し孔118b(
図3参照)とを通って、扉51の装着孔52から覗くサムターン軸17の異形孔17aに嵌合して連結される。回転軸124bの先端部には、サムターン軸17の異形孔17aに嵌合する真円以外の異形形状に形成されたアダプタAPが着脱自在に取り付けられている(
図12参照)。つまり、個々相違するサムターン軸17の異形孔17aに適合するアダプタAPに交換するだけで、回転軸124bを各種のサムターン軸17に連結することができるようになっている。
【0039】
図7(a)に示すように、駆動軸307にクラッチ板308が取り付けられ、駆動軸307の貫通孔309に回転軸124bが挿入されて回転体310が取り付けられた状態では、回転体310が有する側壁310aの内側に隙間を開けてクラッチ板308が配置される。したがって、クラッチ板308と回転体310とは、ここでは非接触状態を維持している。そこで、クラッチ板308の回転を回転体310に伝達するための構造として、クラッチ板308の外周面に設けられた突部311と回転体310の側壁310aに設けられたベアリング312とからなる回転伝達のための機構が設けられている(
図6も参照のこと)。つまり、回転体310は、その軸心を間に挟んで相対面する側壁310aの二箇所に二個一組のベアリング孔313を有しており(合計四個)、これらのベアリング孔313には、回転体310の内周面側からベアリング312が嵌り込んでいる。ベアリング312は、ベアリング孔313よりも僅かに小径に形成されている。その一方で、駆動部301のハウジング303は、回転体310の側壁310aを取り囲む包囲壁314を表面側部材303bに突出形成しており、回転体310の外周面は、その包囲壁314に僅かな隙間を開けて対面している(
図6も参照のこと)。そこで、回転体310のベアリング孔313に嵌り込んだベアリング312は、クラッチ板308の外周面と包囲壁314の内周面との間に、僅かな隙間を開けて配置されており、クラッチ板308の外周面に設けられた突部311がベアリング312を乗り越えないように各部の寸法が定められている。したがって、駆動軸307の回転に従いクラッチ板308が回転すると、その外周面に設けられた突部311がベアリング312を押して回転体310を回転させる。この限りにおいて、駆動軸307の回転が回転体310に伝達され、回転体310が有する回転軸124が回転駆動される。
【0040】
図7(a)を参照してクラッチ機構302の構造及び動作をより詳細に説明する。包囲壁314は、移動規制部315を形成している。移動規制部315は、回転体310の側壁310aを含む円周上に位置付けている。そこで、回転体310の側壁310aの一部は、移動規制部315と干渉しない領域である回動許容切欠310bとなっている。この回動許容切欠310bは、45度の角度範囲で形成されている。これにより、回転体310は、45度の角度範囲でのみ回転自在となり、それ以上の回転は移動規制部315によって移動規制される。こうして回転体310が移動規制部315に移動規制されると、クラッチ板308の突部311はベアリング312を押して回転体310を回転させているので、クラッチ板308の回転も阻止される。すると、ハウジング303に内蔵されたモータ(図示せず)を脱調させることになるし、モータに無理な力を与えることにもなる。そこで、包囲壁314は、移動規制部315の両側に、移動規制部315に向けて回転体310と包囲壁314との間の隙間を徐々に拡大する逃げ空間317を形成している。逃げ空間317は、二個一組のベアリング312のうち、一方のみを位置付け、もう一方のベアリング312を進入させない寸法に形成されている。そこで、
図7(a)に示した状態から、駆動軸307が反時計方向に回転するのであれば、二個一組のベアリング312のうちの一方が逃げ空間317に逃げているので、クラッチ板308の突部311は一方のベアリング312を素通りして乗り越え、さらに回転して逃げ空間317に退避していない方のベアリング312に達すると、クラッチ板308が有する突部311がベアリング312を押す。これにより、その押されたベアリング312が
図7(a)の下方左側に位置する逃げ空間317に達して外方へ逃げるまで、回転体310とこれに一体の回転軸124とが反時計方向に回転駆動される。そして、回転体310は移動規制部315と当接してその回転を停止し、今まで当接していた前述のベアリング312は逃げ空間317に入るため、突部311はベアリング312を乗り越え、少し進んだ位置で停止する。
【0041】
この状態から、今度は駆動軸307が時計方向に逆回転すると、クラッチ板308の突部311は、上述の説明で逃げ空間317に逃げている二個一組のベアリング312のうちの一方を素通りして乗り越え、さらに回転して逃げ空間317に退避していない方のベアリング312に達すると、クラッチ板308が有する突部311がベアリング312を押す。これにより、その押されたベアリング312が
図7(a)の上方左側に位置する逃げ空間317に達して外方へ逃げるまで、回転体310とこれに一体の回転軸124とが時計方向に回転駆動される。そして、回転体310は移動規制部315と当接してその回転を停止し、突部311は前述のベアリング312を乗り越えてから少し進んだ位置で停止する。こうして、モータにより電気錠を駆動させると、駆動軸307に取り付けられるクラッチ板308は180°の角度範囲で反転を繰り返し、クラッチ板308に連動して回転体310は90°の角度範囲で反転を繰り返す。また、前述のようにクラッチ板308の突部311が逃げ空間317にあるベアリング312を乗り越えてから停止するため、回転体310に取り付けられる摘み部132を手動で操作する場合は、クラッチ板308の突部311とベアリング312とは干渉せずに施錠位置から解錠位置、解錠位置から施錠位置への往復動作を繰り返すことが可能となる。こうして、クラッチ機構302は、駆動軸307と回転軸124との間の回転力伝達を断続する。
【0042】
図7(b)は、クラッチ板308が不適当な位置で止まった異常状態である場合のクラッチ機構302の縦断正面図である。ここで、
図7(b)に示す位置でクラッチ板308が止まって動かなくなった場合の作動について説明する。このような場合でも、手動で摘み部132の操作ができるよう、クラッチ板308は、その回転中心に向けて突部311を移動自在とし、移動自在な突部311を付勢部材316で外周方向に向けて付勢するようにしている。
図7(b)の状態から、摘み部132と連結している回転体310を反時計方向に回転すると、回転体310と共に移動するベアリング312の一方がクラッチ板308の突部311と当接するが、この状態からさらに摘み部132を反時計方向に操作すると、クラッチ板308が有する突部311は、クラッチ板308の中心部に向けて引っ込み、そのベアリング312を乗り越える。このように、クラッチ板308がその回転途中の位置で止まってしまった場合でも、ベアリング312が突部311を乗り越えるため、摘み部132の回動操作を行うことができる構造となっている。
【0043】
図8は、現在、摘み部132の位置が施錠位置か解錠位置かを検出する位置検出部304を分解して示す背面側から見た駆動部301の斜視図である。位置検出部304は、ハウジング303をなす一方の背面側部材303aに取り付けられている。背面側部材303aは、変形円筒状の部分に一段低くなった段部318を有し、この段部318に、検出回路板319と接点板320とを内蔵させて蓋部321を開閉自在に取り付けている。段部318は、三つのスタッド322を三点支持位置に形成している。こうして形成されたスタッド322には、検出回路板319が嵌め込み状態で位置固定され、蓋部321がネジ323によって締め込み固定されている。
【0044】
段部318には、駆動軸307が露出している。この駆動軸307に形成された貫通孔309からは、回転体310に固定された回転軸124bが飛び出る(
図6、
図12参照)。そこで、このような124bを通すために、検出回路板319には基板孔319aが形成され、蓋部321には蓋孔321aが形成されている。また、接点板320は、検出回路板319に形成された基板孔319aを挿通して段部318に露出する駆動軸307を嵌合させる嵌合筒324を有しており(
図10参照)、この嵌合筒324には、貫通孔309から飛び出た回転軸124bが回り止め連結される(
図6、
図12参照)。
【0045】
図9は、駆動部301の位置検出部304が有する検出回路板319にプリントされた配線パターン325を示す正面図である。検出回路板319は、基板孔319aの周囲を取り囲むようにプリントされた配線パターン325と、三本のリード線326を半田付けによって配線パターン325に接続させる接続部327とを有している。これらの三本のリード線326は、リード線326R1、リード線326R2、及びリード線326Bであり、全て位置検出用コネクタC1に接続されている(
図8参照)。この位置検出用コネクタC1は、回路基板404に設けられた位置検出信号取り込み用のコネクタ(図示せず)に連結され(
図4、
図13、
図14参照)、三本のリード線326を回路基板404に搭載された制御回路401に接続させる。
【0046】
配線パターン325は、一端が接続部327に接続されて他端が基板孔319aの周囲を取り囲むように形成されて終端で途切れている内周パターン328と、一端が接続部327に接続されて時計回りで内周パターン328の外周側に回り込む第1の外周パターン329と、一端が接続部327に接続されて反時計回りで内周パターン328の外周側に回り込む第2の外周パターン330とを有している。接続部327においては、リード線326Bが内周パターン328に接続され、リード線326R1は第1の外周パターン329に接続され、リード線326R2は第2の外周パターン330に接続されている。
【0047】
内周パターン328と第1の外周パターン329と第2の外周パターン330とには、接点板320が有している後述する接点331(
図10参照)の摺動を許容する内周摺接板328aと第1の外周摺接板329aと第2の外周摺接板330aとがそれぞれ積層配置されている。これらの内周摺接板328a、第1の外周摺接板329a、及び第2の外周摺接板330aは、全体的に導電性を有する部材によって形成されている。また、第1の外周摺接板329aと第2の外周摺接板330aとの間には、絶縁体による絶縁板332が配置されている。これらの内周摺接板328aの配置範囲及び第1の外周摺接板329aと第2の外周摺接板330aとを結ぶ範囲は、前述したクラッチ機構302によって定められる回転軸124の回動範囲に相当する。
【0048】
図10は、駆動部301の位置検出部304が有する接点板320を示す斜視図である。接点板320は、前述の接点331を有している。接点331は、内周摺接板328aと第1の外周摺接板329a及び第2の外周摺接板330aとを跨る幅に形成されている。したがって、接点331は、回転軸124と共に回動する接点板320の位置に応じて、内周摺接板328aと第1の外周摺接板329aとを導通接続させる位置(
図9中、aとして示す)と、内周摺接板328aと第2の外周摺接板330aとを導通接続させる位置(
図9中、bとして示す)とに、択一的に位置付けられる。そこで、回路基板404に搭載された制御回路401(
図4、
図13、
図14参照)は、内周摺接板328aと第1の外周摺接板329aとが導通接続しているのか、内周摺接板328aと第2の外周摺接板330aとが導通接続しているのかを検出することで、回転軸124の回動位置を検出することが可能となる。そして、回転軸124の回動位置が分かれば、この回転軸124に連結されるサムターン軸17の回動位置も分かり、サムターン12が施錠状態であるか解錠状態であるかを認識することができる。このように、駆動部301のクラッチ機構302の裏側にサムターン12の位置検知手段を設けため、別途、位置検知手段を設けるためのスペースを確保する必要がなく、電気錠101を小型にすることができる。
【0049】
図11は、バッテリケース201の駆動部収納空間203に駆動部301を収納して組み付けた状態を示す斜視図である。
図12は、その側面図である。
図11及び
図12に示すように、駆動部301は、バッテリケース201に形成されている駆動部収納空間203にきっちりと収まる。バッテリケース201は、駆動部収納空間203に収納した駆動部301を三点で押さえる三つの爪部210を有しており、これらの爪部210によって駆動部301を保持する。爪部210は、駆動部301の挿入側が傾斜面となり、駆動部収納空間203に入れられる駆動部301に押されて弾性変形する。そして、爪部210は、駆動部301が駆動部収納空間203に収納されたら復元し、駆動部301を駆動部収納空間203に確実に保持する。この際、駆動部301のハウジング303は、バッテリケース201に形成されている固定片207を前述した嵌合溝306に嵌合させる(
図4、
図5、
図8参照)。これにより、駆動部301はハウジング303に対して位置ずれなく保持されている。
【0050】
図11及び
図12に示すように、バッテリケース201に装着された駆動部301からは、前述したリード線326及び位置検出用コネクタC1が引き出され、また、給電用の給電コネクタC2を先端に接続する給電線PLも引き出される。
【0051】
駆動部301に形成されている挿通孔306aは、バッテリケース201に形成されている固定片207が有する取付孔207a(
図4参照)と位置合わせされ、固定スタッド208の取付孔208aは、駆動部301に覆われることなく露出している。
【0052】
図13は、駆動部301と回路基板404とを組み付けたバッテリケース201を示す正面図である。
図13に示すように、駆動部301が装着されたバッテリケース201には、回路基板404が固定される。回路基板404は、基板用固定スタッド209が有するネジ孔209a(
図4参照)にネジSを利用してねじ止めされる。また、回路基板404をバッテリケース201に取り付けるに際しては、回路基板404から引き出されている位置検出用コネクタC1と給電コネクタC2とを予め回路基板404に接続しておく。これらの位置検出用コネクタC1及び給電コネクタC2を接続すべき回路基板404上のコネクタ(図示せず)は、回路基板404の裏面側に配置されている。
【0053】
ここで、回路基板404には、一方の固定片207を露出させてその取付孔207aを開放するために、露出孔409が形成されている(
図4も参照のこと)。そして、回路基板404は、もう一方の固定片207と固定スタッド208とを覆うことなく取り付けられている。
【0054】
図13に示すように、回路基板404は、その表面側に、ディップスイッチDSWとプッシュスイッチPSWとを搭載している(
図4も参照のこと)。ディップスイッチDSWは、各種モード設定をするために切り替え操作され、プッシュスイッチPSWは、施錠信号と解錠信号とを無線出力するリモコン(図示せず)を登録するためにプッシュ操作される。また、回路基板404は、無線通信ユニット(図示せず)も搭載している。無線通信ユニットは、リモコンから無線送信された施錠信号及び解錠信号を受信し、これを制御回路401に出力する。
【0055】
図14は、駆動部301と回路基板404とを組み付けたバッテリケース201にバッテリケースカバー501を装着する様子を示す分解斜視図である。バッテリケースカバー501は、一例として樹脂成形品であり、駆動部301と回路基板404とを組み付けたバッテリケース201に取り付けられた後、バッテリケース201の裏面側から三箇所でねじ止めされる。この場合に使用される二本のネジ(図示せず)は、バッテリケース201に形成されている二つの固定片207の取付孔207aと、これらに位置合わせして駆動部301に形成されている二つの挿通孔306aとを挿通してバッテリケースカバー501に螺合し、締め付けられる。また、もう一本のネジ(図示せず)は、バッテリケース201に形成されている固定スタッド208の取付孔208aを挿通してバッテリケースカバー501に螺合し、締め付けられる。そこで、バッテリケースカバー501には、それらのネジ(図示せず)を螺合させるネジ孔(図示せず)が形成されている。
【0056】
バッテリケースカバー501は、バッテリ収納部202の入口を開口させるための切欠部502と、回転軸124を露出させるための回転軸孔503と、ディップスイッチDSW及びプッシュスイッチPSWを露出させるためのスイッチ孔504とを備えている。更に、バッテリケースカバー501の表面には、バッテリ収納部202に対応する位置に、バッテリ601の収納向きをユーザに知らせるための親切表示505が示されている。よって、電気錠101のバッテリ601を交換する際に、カバー131(
図3参照)を外すだけで容易に交換することができる。
【0057】
このような構成において、リモコンから施錠信号又は解錠信号を無線送信すると、回路基板404が搭載する無線通信ユニット(図示せず)がその信号を受信し、制御回路401に出力する。制御回路401は、受信した信号に応じて駆動部301のモータ(図示せず)を駆動制御し、回転軸124を回転させる。すると、回転軸124は、クラッチ機構302によってその回動範囲が定められ、サムターン軸17の回動に必要な限度のみ回動する。これによって、回転軸124からサムターン軸17に回転駆動力が付与され、サムターン12が施錠又は解錠動作する。
【0058】
このように動作する本実施の形態の電気錠101は、
図1ないし
図3に基づいて説明したように、サムターン12の摘み部13を固定していたピン16を利用してベース部材111を扉51に固定することができる。これにより、後付け方式の電気錠101であっても、扉51に一切の加工を施すことが不要となるばかりか、扉51に装着跡すら残さないようにすることができる。
【0059】
また、本実施の形態の電気錠101は、バッテリケース201と駆動部301とをサムターン軸17の軸方向と直交する方向に並列配置している。これにより、電気錠101が扉51から出っ張る高さを抑制することができ、後付け方式の電気錠101であっても、扉51の開閉に支障を来たさないようにすることができる。
【0060】
また、本実施の形態の電気錠101は、駆動部301を収納する駆動部収納空間203を開けて二箇所のバッテリ収納部202を左右に離間配置し、これらのバッテリ収納部202に互いの長手方向が対面する向きでバッテリ601を収納する。これにより、電気錠101の左右方向寸法を小さくすることができ、後付け方式の電気錠101であっても、扉51の開閉に支障を来たさないようにすることができる。
【0061】
しかも、このようなレイアウトは重量バランスを左右均等にするので、扉51に固定されたベース部材111に無理な力がかからず、扉51に対して電気錠101を安定的に取り付けることができる。
【0062】
これに加えて、駆動部301の回転軸124はバッテリケース201の中央位置に配置されているので、扉51の開閉方向が左右いずれであっても、電気錠101の端部から扉51の端面までの距離を同一にすることができる。これにより、左右いずれに開閉する扉51に使用しても、扉51の開閉に支障を来たさないようにすることができる。
【0063】
更に、本実施の形態では、第1の端子部402という簡単な構造物によって、離間配置されたバッテリ601を容易に直接接続することができる。しかも、第1の端子部402は、バッテリ収納部202に形成された取付溝204及び取付長孔205を利用して簡単にバッテリケース201に取り付けることができるので、組立作業の作業性を良好にすることができる。この作用効果は、第2の端子部405を有する一対の電気的接続部材403が回路基板404に固定されていることによっても、それらの電気的接続部材403をバッテリ収納部202に形成された取付溝204及び取付長孔205を利用して簡単にバッテリケース201に取り付けることができることによっても、同様に奏される。なお、本実施の形態の電気錠101を扉51に取り付けると、回路基板404は駆動部301より垂直方向の上方に位置することになるため、例えば駆動部301の回転軸124周辺から万一ゴミや水が入り込んだとしても、回路基板404に到達するおそれがない。