【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、プラスチック製の光学基材の少なくとも一方の面にハ−ドコ−ト層を形成し、同ハ−ドコ−ト層に対して金属酸化物微粒子を揮発性溶媒に分散させた第1の塗布液を湿式法によって塗布し前記揮発性溶媒を揮発させて第1の高屈折率層を形成させ、形成された前記第1の高屈折率層上に前記金属酸化物微粒子の平均粒径よりも小さくない平均粒径の中空シリカ微粒子を分散させた有機ケイ素化合物を主成分とする第2の塗布液をスピンコ−ト法にて塗布し
、前記中空シリカ微粒子を前記金属酸化物微粒子の上に残しながら前記第2の塗布液の有機ケイ素化合物を主成分とするバインダー成分を前記金属酸化物微粒子の隙間に浸透させ、次いで加熱処理をすることで
前記バインダー成分によって固定された前記第1の高屈折率層
と前記中空シリカ微粒子からなる低屈折率層を
一体的に形成し、形成された前記低屈折率層上に有機ケイ素化合物を主成分とした第3の塗布液を湿式法によって塗布し加熱処理をすることで前記低屈折率層よりも屈折率の高い第2の高屈折率層を形成し、表面ピーク反射率が7%以上のミラーコート層を形成させることをその要旨とする。
請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明において、前記第3の塗布液中には中空シリカ微粒子が分散されていることをその要旨とする。
請求項3に記載の発明では請求項1又は2に記載の発明において、前記第2の塗布液と前記第3の塗布液とは同一成分の塗布液であることをその要旨とする。
請求項4に記載の発明では請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記第1の高屈折率層はスピンコート法によって成膜させるようにしたことをその要旨とする。
請求項5に記載の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記第2の高屈折率層はスピンコート法によって成膜させるようにしたことをその要旨とする。
請求項6に記載の発明では請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記金属酸化物微粒子は酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウムを主成分とする複合酸化物微粒子から選ばれる少なくとも1つであることをその要旨とする。
請求項7に記載の発明では請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記第1の塗布液には前記第1の高屈折率層を構成する成分として導電性金属酸化物微粒子が含有されていることをその要旨とする。
請求項8に記載の発明では請求項7に記載の発明において、前記導電性金属酸化物微粒子は酸化亜鉛と五酸化アンチモンの複合酸化物微粒子(以下亜鉛・アンチモン酸化物微粒子と記す)であることをその要旨とする。
請求項9に記載の発明では請求項8に記載の発明において、前記第1の高屈折率層において前記亜鉛・アンチモン酸化物微粒子と前記金属酸化物微粒子を総量とする際に前記亜鉛・アンチモン酸化物微粒子の配合比率は重量比で30〜80重量%であることをその要旨とする。
請求項10に記載の発明では請求項1〜9のいずれかに記載の発明において、前記金属酸化物微粒
子の平均粒径は5〜15nmであり、前記中空シリカ微粒子の平均粒径は40〜80nmであることをその要旨とする。
請求項11に記載の発明では請求項1〜10のいずれかに記載の発明において、前記第2の高屈折率層の屈折率は前記低屈折率層の屈折率よりも0.04以上大きいことをその要旨とする。
請求項12に記載の発明では請求項1〜11のいずれかの方法で製造され前記
第1の高屈折率層とその上層の前記低屈折率層が前記第2の塗布液が固化したバインダーによって一体的に硬化されていることをその要旨とする。
【0006】
上記のような構成では、まず
図1に示すようにハ−ドコート層の上に第1の塗布液を塗布し揮発性溶媒を揮発させることで金属酸化物微粒子からなる第1の高屈折率層が形成される。そしてその第1の高屈折率層の上にスピンコート法にて第2の塗布液を塗布すると、
図2のように有機ケイ素化合物を主成分とするバインダー成分が金属酸化物微粒子の隙間にも浸透することとなる。一方、中空シリカ微粒子は金属酸化物微粒子の隙間には進入できないため、第1の高屈折率層の上層に滞留するバインダー成分中の中空シリカ微粒子の濃度は塗布前の第2の塗布液の状態よりも上昇する。そして、加熱処理をすることで塗布前の第2の塗布液の状態よりも中空シリカ微粒子の濃度が高くなった第2の塗布液由来の低屈折率層が第1の高屈折率層の上に一体的に形成されることとなる。次いで、
図3のように第3の塗布液を湿式法によって塗布し加熱処理をすることで第2の高屈折率層を形成し、表面ピーク反射率が7%以上のミラーコート層を形成させることができる。
【0007】
本発明のミラーコート層は3層の膜層構造を成している。下層が金属酸化物微粒子からなる第1の高屈折率層であり、中層が中空シリカ微粒子からなる低屈折率層であり、上層が第2の高屈折率層である。
第3の塗布液は低屈折率層に対して相対的に大きな屈折率となる第2の高屈折率層が成膜されるのであれば、第2の塗布液の主成分とは異なる有機ケイ素化合物を主成分としてもよく、同じ有機ケイ素化合物を主成分としてもよい。また、屈折率を向上させるための物質として金属酸化物微粒子を分散させるようにしてもよい。金属酸化物微粒子としてはジルコニウム,アルミニウム,タンタル,チタン、スズ、インジウム等から選ばれる1種類以上の金属酸化物微粒子が使用可能であるが、特に酸化ジルコニウムが好ましく、酸化チタンは比較的好ましくない。酸化チタンは光触媒作用があるため膜の硬度の劣化を助長してしまうからである。
また、第3の塗布液には中空シリカ微粒子を分散させてもよい。上記のように第2の塗布液は塗布されることで中空シリカ微粒子の濃度が高くなるわけであるため、第3の塗布液を第2の塗布液と同一成分としても結果的に異なる屈折率の機能膜層が形成できることとなる。
図4は第2の塗布液と同一成分の第3の塗布液を塗布してミラーコート層を形成させるイメージ図である。第2の塗布液(第3の塗布液)はバインダー成分が下層に流下せず低屈折率層上に堆積するため(揮発成分が含有されていなければ)微粒子濃度は塗布前後で変わることはない。第3の塗布液と第2の塗布液が同一成分であれば、低屈折率層と第2の高屈折率層とを1種類の塗布液のみで形成することができるため、塗布装置の簡略化や塗布液の保存や効率的使用の点で有利である。特に本発明では下層に第1の高屈折率層を配置しているため、低屈折率層と第2の高屈折率層との屈折率差を大きくすることが可能となっている。尚、同一成分とは同じロットの場合も、異なるロットの場合もどちらも含む意味である。
【0008】
第1の高屈折率層の素材としての金属酸化物微粒子は、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウムを主成分とする複合酸化物微粒子から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。特に、酸化スズは形成されたミラーコート層の強度の点で優れている。
また、第1の高屈折率層の素材として金属酸化物微粒子に加えて導電性金属酸化物微粒子を使用することが好ましい。プラスチック製の光学物品、例えば眼鏡レンズでは摩擦等によって静電気が発生しやすく、レンズが帯電することによって埃を呼び込んでレンズ表面が汚れてしまう。そのため、第1の高屈折率層に導電性を与えることで光学物品に帯電防止性を付与することができるからである。また、導電性金属酸化物微粒子は中空シリカ微粒子よりも高屈折率なので導電性金属酸化物微粒子は導電性と同時に高屈折率の発現にも寄与することとなる。
導電性金属酸化物微粒子としては半導体性金属の金属酸化物を使用する。より具体的には例えば、亜鉛・アンチモン酸化物(ZnO・Sb
2O
5)、インジウム含有酸化スズ(ITO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)等が挙げられる。最も好ましいのは亜鉛・アンチモン酸化物であり、十分な帯電防止性を発現するためには酸化スズ微粒子に対して30重量%以上の配合割合であることが好ましい。但し、多すぎれば第2の塗布液のバインダー成分との相性が悪くなり白濁が生じるため、80重量%を超えることは好ましくない。
【0009】
中空シリカ微粒子とは内部に中空状に密閉された空洞を有していたり、粒子全体が多孔質で構成されるシリカ(SiO
2)粒子の総称である。中空シリカは通常のシリカに比べて屈折率が低く、反射防止膜の素材として好適である。導電性金属酸化物微粒子及び酸化スズ系複合微粒子は中空シリカ微粒子よりも屈折率が高いことが必要条件となる。
更に、本発明の目的から中空シリカ微粒子の平均粒径は金属酸化物微粒子(及び導電性金属酸化物微粒子)の平均粒径よりも小さくないことが必要である。中空シリカ微粒子が金属酸化物微粒子(及び導電性金属酸化物微粒子)よりも小さいとそれらの隙間から中空シリカ微粒子が下層に流下してしまったり、隙間に挟まったりし、界面が明確にできずに反射防止効果が十分得られなくなってしまう可能性があるからである。
中空シリカ微粒子の平均粒径は一般に10〜100nm程度であるが、本発明では40〜80nmであることが好ましい。これよりも小径であると空隙率が低くなり、十分な低屈折率を得られないからである。また、これよりも大径であると乱反射による粒子の白化が生じ膜素材として好ましくなくなるからである。
また、金属酸化物微粒子(及び導電性金属酸化物微粒子)の平均粒径は一般に1〜100nm程度であるが、本発明では5〜15nmであることが好ましい。基本的に中空シリカ微粒子の平均粒径以下である必要があり、これよりも大径であると光の散乱が生じて透過性能が劣化するためである。
【0010】
第1の塗布液の成分である揮発性溶媒としては揮発性溶媒を気化させて、金属酸化物微粒子(及び導電性金属酸化物微粒子)のみからなる第1の高屈折率層を形成することを目的とするため、ここではできるだけ揮発性が高くこれら微粒子と反応しない溶媒が求められる。そのため、揮発性溶媒としては低級アルコールを主体とすることが好ましい。低級アルコールとしては、炭素数1〜4程度のアルコールであって、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。尚、低級アルコールに一部水や高級アルコール、ヘキサン、アセトン等の揮発性溶媒が含まれることを排除するものではない。
尚、第1の塗布液中の金属酸化物微粒子(及び導電性金属酸化物微粒子)は固形分として1.5〜2.5%程度が塗布しやすく好ましい。
【0011】
第2及び第3の塗布液の主成分である有機ケイ素化合物、つまり硬化した際のバインダー主成分としての有機ケイ素化合物としては、次式で表される有機ケイ素化合物が用いられる。
R
1aR
2bSiX
4-(a+b)
(ここで、R
1は、炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基からなる群から選ばれる有機基を有する炭素数1〜6のアルキル基であり、R
2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基であり、Xはハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基である。また、a=0または1、b=0,1または2である)。
上記式で表される有機ケイ素化合物としては、具体的には、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、α-グリシドキシメチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキキシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキキシラン等を挙げることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用することも可能である。
また、次式で示される含フッ素有機ケイ素化合物を用いることもできる。含フッ素有機ケイ素化合物を使用することにより低屈折率で耐久性のよいバインダーが得られる。
F(CF
2)n C
2H
4Si−R
33−cXc
XcR
33−cSi−C
2H
4(CF
2)mC
2H
4−SiR
33−cXc
(ここで、R
3は炭素数1〜6のアルキル基、Xはハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、nは4、6、8、10、12、mは4、6、cは2、3である。)
【0012】
本発明においては、第1及び第2の高屈折率層は湿式法で形成される。ここで湿式法とはディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の公知の方法で各層用に調整された処理液を塗布し、乾燥させることで被膜層を形成する方式である。但し、この中では均一な膜厚が得られ乾燥の速いスピンコート法が最も好ましい。乾燥は無加熱でも加熱してもどちらでも構わない。
一方、低屈折率層はスピンコート法で形成される。第1の高屈折率層がバインダーで固定されていないため、第1の高屈折率層にダメージをなるべく与えずに、なおかつ均一な膜厚でかつ中空シリカ微粒子が均質に分散した膜を形成するためである。
本発明のミラーコート層は低屈折率層が形成された段階及び第2の高屈折率層が形成された段階でそれぞれ加熱される。加熱方法としては熱風、赤外線などで行うことが可能である。加熱温度は適用される光学基材及び使用されるコーティング組成物によって決定されるが、通常は室温から250℃、より好ましくは60℃から150℃が使用される。常温よりも低温では硬化又は乾燥が不十分であり、またこれより高温になると基材や膜の黄変などの問題点を生ずる。
本発明のミラーコート層では低屈折率層の屈折率は、1.30〜1.50が好ましく、1.35〜1.45がさらに好ましい。第1の高屈折率層の屈折率は、1.63〜1.75であると好ましく、1.68〜1.75であるとさらに好ましい。
第1の高屈折率層の膜厚は5〜130nmであり、特に40〜100nmの範囲が好ましい。低屈折率層の膜厚は50〜200nmが好ましく、特に60〜130nmの範囲が好ましい。第2の高屈折率層の膜厚は50〜200nmであり、特に80〜150nmの範囲が好ましい。また、第2の高屈折率層の屈折率は低屈折率層に対して0.04以上大きいことが表面ピーク反射率が7%以上の発現のためには好ましい。
また、第1の高屈折率層および第2の高屈折率層の形成前にはハードコート層および低屈折率層に表面活性処理としてコロナ処理やプラズマ処理をすることが好ましい。
【0013】
また、本発明に使用されるプラスチック基材としては例えばポリメチルメタクリレート及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR−39)、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン、その他硫黄含有樹脂等が一例として挙げられる。光学基材の用途例としては代表的には眼鏡用のプラスチックレンズが挙げられる。
【0014】
ハードコート層は公知のハードコート層であれば、特に限定されないが、特に耐候性が要求される場合、ハードコート層用の組成物としては下記A〜E成分を含有することが好ましい。
A.有機ケイ素化合物の加水分解物
B.酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子
C.ジシアンジアミド
D.有機多価カルボン酸
E.Co(II)化合物
【0015】
ここに、A.の有機ケイ素化合物の加水分解物とは、一般式として、
R
4R
5nSiX
3-n( n=0 or 1) (1)
で表される有機ケイ素化合物。
(式中、R
4は重合可能な反応基を有する有機基、R
5は炭素数1〜6の炭化水素基、Xは加水分解基)
で表される物質である。
ここに、R
4の具体例として重合可能な反応基の具体例としては、例えばビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。ここでR
4としてはエポキシ基が最も好ましい。エポキシ基が存在することでシラン化合物の加水分解物は開環重合し、耐擦傷性、耐候性、耐薬品性が向上するためである。
また。R
5の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。
また、Xは加水分解可能な官能基であり、その具体例として、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。Xとしてはアルコキシ基が最も好ましい。
上記有機ケイ素化合物の具体例としては、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン等が挙げられる。なお、一般式(1)の有機ケイ素化合物のほかにテトラアルコキシシランやメチルトリアルコキシシラン等を併用して硬度等の物性を調節することも可能である。
【0016】
B.の酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子としては酸化チタン以外の微粒子はシリコン、アルミニウム、スズ、ジルコニウム、鉄、アンチモン、ニオブ、タンタル、タングステン等から選ばれる1種以上の酸化物であればよい。更に、最表面がアンチモン酸化物で被覆されていることが好ましい。更に、特に酸化ジルコニウム、及び酸化シリコンが酸化チタンに対して一体的結合され、これらからなる複合金属酸化物微粒子の最表面がアンチモン酸化物で被覆されていることがより好ましい。
複合金属酸化物微粒子は通常1〜100nm程度の平均粒径とされ、好ましくは3〜50nm程度、より好ましくは5〜15nm程度の平均粒径とされる。複合金属酸化物による微粒子化は酸化チタン単独の場合による光触媒作用を緩和するために行われるものであり、あまり平均粒径が小さいと屈折率の向上が望めず耐擦傷性も悪くなる。一方、平均粒径があまり大きすぎると光の散乱が生じてしまうため上記粒径が望ましい。
尚、酸化チタンは無定形であっても結晶型(アナタース型、ルチル型、ブルッカイト型等)であっても構わない。アンチモン酸化物の被覆層の厚さには特に制限はないが通常上記複合金属酸化物微粒子の径の1/200〜1/5の範囲にあることが好ましい。
【0017】
C.のジシアンジアミドは単独で使用するのではなく、有機多価カルボン酸と同時に使用することが耐候性の点で特に好ましい。ジシアンジアミドは有機多価カルボン酸の存在下での耐候性の発現が顕著である。
D.の有機多価カルボン酸としての具体例はマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。ジシアンジアミドと有機多価カルボン酸とを同時に使用する場合の相乗効果では特にイタコン酸を使用することが耐候性の点で最も好ましい。
E.のCo(II)(2価のコバルト)化合物は酸化チタンと同時に存在することで光触媒反応の進行を遅延させその結果ハードコート層成分である高分子物質の分解が抑えられ、ハードコート層の劣化を防止することができる。Co(II)化合物としては、酸化チタンを含有するハードコート組成剤用の溶媒、例えば、アルコールやプロピレングリコールエーテルに溶解し、かつ上記A成分との相溶性がありその物性を阻害しないものが好ましい。より具体的には、Co(II)イオンのキレート化合物が好ましい。
Co(II)のキレ−ト剤としては特に脂肪族の配位子を有するものが好ましい。脂肪族酸の配位子としては、例えばアセチルアセトン、ジ−n−ブトキシド−モノ−エチルアセテート、ジ−n−ブトキシド−モノ−メチルアセテート、メチルエチルケトオキシム、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオンおよびアセトオキシム等が好ましく用いられる。特に2価のコバルトアセチルアセトネ−トの金属錯体を構成するアセチルアセトンを使用することが耐候性の点で最も好ましく、更にCo(II)化合物とジシアンジアミド及び有機多価カルボン酸(特にイタコン酸)の三者が存在することによって耐候性が極めて顕著に向上する。
【0018】
上記ハードコート層を形成するA〜Eの成分は次のような配合割合とすることが好ましい。
(1)A及びB(有機ケイ素化合物の加水分解物と酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子)については固形分比でA:B=8:2〜3:7
(2)C.ジシアンジアミドについてはA+Bの固形分に対し3〜15%
(3)D.有機多価カルボン酸についてはA+Bの固形分に対し5〜25%
(4)E.Co(II)化合物についてはA+B+C+Dの固形分に対し0.1〜5.0%
A成分に比較してB成分が多いほど形成されるハードコート層の屈折率が向上するものの、膜層がもろくなってクラックが生じやすくなる。そのためB成分はA成分との関係から上記の割合が最も好ましい。C成分は少ないと耐候(密着)性が低下するものの多すぎるとA+B成分とのバランスが悪くなり光学性能が低下してしまう。そのため、上記の割合が最も好ましい。また、D成分は少ないと耐候(耐クラック)性が低下し、多すぎると硬度が低下してしまう。そのため、上記の割合が最も好ましい。E成分は少ないと耐候(密着及びクラック)性の向上の効果がないため、C、D成分と同時に存在することが必要である。また、E成分が多すぎると着色してしまうため、結局上記の割合が最も好ましい。
【0019】
上記ハードコート組成物には、塗膜の各性能をより改善するために、種々の添加剤を配合することが望ましい。例えば、光学基材との密着性、染色性を向上させるための添加剤としては、硬化剤やエポキシ樹脂、被塗布物に紫外線が到達するのを阻止するための紫外線吸収剤を使用してもよい。また、硬化を促進するための硬化触媒を配合することも可能である。
ハードコート組成物を溶媒に溶解又は分散させ、更に必要に応じて希釈溶剤によって希釈させることでハードコート液を作製することができる。希釈溶剤はアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類等を挙げることができる。
ディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の公知の方法でハードコート液を基材に塗布し、乾燥させ、必要に応じて加熱させることで被膜層を形成する。その膜厚は、通常、約0.5〜10.0μmとすることが好ましい。膜厚が薄すぎると、実用的な耐擦傷性を得難く、また、厚すぎると面精度の低下やクラック等の外観的な問題が生じやすくなるためである。
【0020】
また、基材は通常塗布前に前処理を行う。前処理は基材表面の酸-アルカリによる脱脂処理、プラズマ処理、超音波洗浄等が挙げられる。これら前処理によって基材表面の層の密着性に影響のある汚れが除去される。
また、光学基材とハードコート層との間にはプライマー層を介在させる、つまりハードコート層をプライマー層の上に形成するようにしてもよい。つまり、光学基材の表面にプライマー層が形成されている場合にはプライマー層を光学基材の表面と解釈するものとする。ここにプライマー層はハードコート層とレンズ基材との密着性の向上のためこの位置に配置される連結層であって、例えばウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂等から構成される。プライマー液は水又はアルコール系の溶媒にこれらから選択された樹脂材料と必要に応じて無機酸化物微粒子ゾルを混合させた液である。プライマー層は一般にレンズ基材をプライマー液に浸漬させて成膜させる。ディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の湿式法を用いることも自由である。
また、ミラーコート層の上面に更に滑性処理を行うことは自由である。滑性処理とは例えば反応性シリコ−ン化合物や含フッ素有機シラン化合物などを塗布し極薄い(10nm以下)の厚みの滑性層を形成するものである。
このようなミラーコート光学物品は少なくとも一方の面にミラーコート層が配置されるが、両面にミラーコート層を配置するようにしてもよい。眼鏡レンズに応用する場合には物体側の面に配置することとなる。また、一方の面のみにミラーコート層を配置した場合に他方の面側には何もコート層を形成しなくとも、ハードコート層のみを形成するようにしても、他の機能性膜層(例えば反射防止膜)等を形成させるようにしてもよい。