【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に従いより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0057】
実施例1:人工皮膚の製造方法
1.細胞培養
新生児由来ヒト真皮線維芽細胞(Lonza Walkersville, Walkersville, MD)を用い、10% FBS (Invitrogen, Carlsbad, CA) 添加D-MEM(Lonza Walkersville, Walkersville, MD)を培養液として培養フラスコ内で継代培養して8継代したものを実験に使用した。新生児由来ヒト表皮角化細胞(Lonza Walkersville, Walkersville, MD)はKGM-2 (Lonza Walkersville, Walkersville, MD)を培養液として培養フラスコ内で継代培養して5継代したものを実験に使用した。詳しい材料、試薬、試料を表1にまとめた。
【0058】
【表1】
【0059】
2.標本作製
培養真皮の担体(Scaffold)として配列番号1のアミノ酸配列のペプチドを有する、1 %ペプチドハイドロゲルRADA16 (50%)水溶液(PuraMatrix(
図1:登録商標) : 3D Matrix Japan, Japan)と、RADA16にラミニン中のYIGSR接着ペプチド(Y: チロシン, I: イソロイシン, G: グリシン, S: セリン, R: アルギニン)を付加した、配列番号7のアミノ酸配列のペプチドを有するペプチドハイドロゲル SDP (50%) 水溶液(PuraMatrix(
図2:登録商標) : 3D Matrix Japan, Japan)を混合したものを担体に使用した。また、1 %ペプチドハイドロゲルRADA16 (50%)水溶液のみからなる担体を用いた実験も行った。
【0060】
標本1個あたりヒト線維芽細胞1×10
6個を10%スクロース液150μlに懸濁し、同量の上記の混合ペプチドハイドロゲル水溶液と混合した後、直ちに細胞培養インサートに分注した。インサートを12 well plate 内に静置して、その周囲にDMEM培養液を満たして線維芽細胞とペプチドハイドロゲルの混合液を固化させて真皮層を作成した。(培養真皮)この状態で2〜3日ごとに培養液を交換しながら37℃、7.5%CO
2条件下のインキュベータにて培養した。培養真皮作成3週間後に新生児由来皮膚角化細胞1×10
6個をKGM-2培養液150μlに懸濁しインサート内の培養真皮上に分注して表皮層を作成した。(培養皮膚)培養皮膚作製後は培養液を10% FBS添加DMEMとKGM-2の等量混合液に替えて培養した。
培養真皮は作成後5週間、培養皮膚は培養皮膚作成後1週間(培養真皮作成後4週間)培養を続けた。(
図3)
3.組織免疫化学染色
1週間ごとに培養した標本を中性20 %ホルマリンで固定したのち脱水処理を行い低温パラフィンにて包埋した。6μm の厚みで組織標本を作製してHE染色、免疫染色を行い顕微鏡下で観察を行った。
【0061】
培養真皮内における線維芽細胞の機能発現の指標としてヒトI型コラーゲン染色を行った。ベンタナI-VIEW DAB ユニバーサルキットを使用し、培養した標本を、脱パラフィン、水洗した後プロテアーゼにより賦活した。一次抗体として抗ヒトI型コラーゲン抗体(MP Biomedicals, Solon, OH) にて標識し、ヘマトキシリンにて核染色を行った。
【0062】
同様の方法で培養皮膚内における基底膜形成の指標として抗ラミニン染色(Chemicon international, Temecula, CA)、抗ファイブロネクチン染色(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)、抗ヒトIV型コラーゲン染色(American Research Products, Belmont, MA)を、表皮角化細胞の分化の指標として抗Nuclear transcription factor p63抗体(Santa Cruz Biotechnology)を行った。
【0063】
4.MTSアッセイ (細胞数の計測)
培養真皮の1週間ごとに培養した標本の線維芽細胞数を計測した。測定にはCellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay (Promega Corp., Madison, WI) 用いた。
【0064】
破砕した標本を1個あたり5μlとり95μlのD-MEMを入れ懸濁させ100μlずつ96 well plateに分注して検体とした。説明書に基づき反応液を各wellに20μlずつ分注した後2時間インキュベータの中で反応させた。吸光度の計測はプレートリーダーを用いて490 nmの測定波長にて行った。週ごとに6個の標本を計測した。Student’s t-検定にて有意差を検定した。
【0065】
5.コラーゲンアッセイ(コラーゲン量の計測)
培養真皮の1週間ごとに培養した標本中とその培養液中のコラーゲン定量を行った。測定にはHuman type I collagen ELISA detection kit (AC Biotechnologies, Japan) を用いた。
破砕した標本にペプシン液を加え4℃にて一晩振盪したのちペプシンを中和したものを標本由来の試料とした。
【0066】
同様に培養液にペプシン液を加え4℃にて一晩振盪したのちペプシンを中和したものを培養液由来の試料とした。
【0067】
試料とビオチン標識コラーゲン抗体溶液との混合液を、コラーゲンを固相化したマイクロタイタープレートに50μlずつ分注して室温にて1時間反応させた。プレートを洗浄した後HRP標識アビジン溶液を50μlずつ分注してさらに室温にて1時間反応させた。洗浄後TMB substrateを50μlずつ分注してさらに室温にて15分間反応させた。吸光度の計測はプレートリーダーを用いて450 nmの測定波長にて行った。週ごとに3個の標本を計測した。Student’s t-検定にて有意差を検定した。
【0068】
実施例2:人工皮膚の移植
実施例1と同様の方法を用いて、体重250−300gのオスHairless rat 背部より皮膚を採取して線維芽細胞と表皮角化細胞を採取して増殖させハイブリッド型人工皮膚材料を作製する。4週間後に同じ固体の背部の別な部位に長径1cmの皮膚全層切開層を作製してハイブリッド型人工皮膚材料を移植する。その後1、2、3、4週間後に移植部のバイオプシーを行い、病理組織学的に評価を行う。
【0069】
結果
1.組織標本のHE染色(
図4)
RADA16のみでは荒い泡沫状の真皮層の隔壁内に線維芽細胞が存在しており、真皮上層に線維芽細胞の密度が高い部分があり(Fibroblast rich upper layer :FRUL), その上に表面の角化を伴った重層角化細胞による表皮層が存在していた。
【0070】
SDPを混合したものでは真皮層は細かな泡沫状の隔壁内に多数の線維芽細胞が存在しておりFRULは厚かったが、表皮層はほぼ単層の角化細胞よりなっていた。
【0071】
2.免疫組織化学
免疫組織化学染色では、隔壁内の細胞周囲に抗ヒトI型コラーゲン抗体による陽性所見を認めヒト線維芽細胞から分泌されたI型コラーゲン存在を確認できた。特にSDPを混合したものでは、隔壁内の多数の線維芽細胞と厚いFRULに一致してRADA16のみを用いた結果よりも強い発現を認めた。(
図5)
RADA16のみを用いた人工皮膚では基底膜形成の指標となる蛋白のうちファイブロネクチンとヒトIV型コラーゲンは発現を認めラミニンは陰性であった。
【0072】
SDPを混合したものではファイブロネクチンは陰性で、ヒトIV型コラーゲンは表皮真皮境界部より下方に強い発現を認めると共に真皮層内の線維芽細胞周囲にも発現を認めた。ラミニンは表皮真皮境界部に発現を認めた。(
図6)
表皮層の角化細胞はほぼ1層で細胞Nuclear transcription factor p63で陽性を示し未分化で分裂能の高い基底細胞が主体であった。(
図7)
3.細胞数計測
細胞数は1週目まではRADA16のみを用いた方が多い(p<0.01)が、2週目に急速にSDPを混合した方が多くなりそれ以降はSDPを混合した方が多く、2週目(p<0.05)と5週目(p<0.01)で有意差を認めた。(
図8)
4.コラーゲン定量
培養真皮内コラーゲン量は培養期間中SDPを混合した方が多くすべての週で有意差を認めた。(p<0.01)。(
図9)
培養液中コラーゲン濃度は4週目まではSDPを混合した方が多いが5週目でほぼ同じになり、1〜4週で有意差を認めた。(0,2週目(p<0.01)、1,3週目(p<0.05))(
図10)
RADA16のみを用いた方では真皮層内にコラーゲンを保持できず培養液中に流出させているが(
図11)、SDPを混合した方では真皮層内にコラーゲンを保持してさらになお培養液中にもRADA16のみを用いた方と同程度流出させており、より多くのコラーゲンを真皮内において線維芽細胞が合成していることが推察される。(
図12)