【文献】
1:Hiromasa Goto、”Asymmetric Electrochemical Polymerization: Preparation of Polybithiophene in a Chiral Nematic Liquid Crystal Field and Optically Active Electrochromism”、Macromolecules、Vol. 38、pp. 1091−1098、2005年1月25日
【文献】
2:Hiromasa Goto、”Electrochiroptical Effect of an Optically Active Polybithiophene Prepared by Electrochemical Polymerization in a Cholesteric Electrolyte”、Journal of The Electrochemical Society、Vol. 154、No. 4、pp. E63−E67、2007年2月16日
【文献】
3:Hiroyuki Yoneyama、”Preparation of Optically Active Pyridine−Based Conduction Polymer Films Using a Liquid Crystal Electrolyte Containing a Cholesterol Derivative”、Macromolecules、Vol. 40、pp. 5279−5283、2007年6月23日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自然には多くの真珠のような選択反射光をもつ生物が存在する。たとえば孔雀の羽毛、貝殻の内表面、およびモルフォ蝶の羽などにこれが見られる。
【0003】
モルフォ蝶の特徴的色彩は、その羽上にナノメータサイズの櫛状構造をもつリン片が配置されていることに由来し、それらは回折格子として作用する。コガネムシもまた、外骨格の積層構造により真珠光を発揮し、それは、コレステリック液晶(CLC)秩序を有する多層から構成されている。このような天然の回折格子は、潜在的に、新しいタイプのセンサーの開発のためのモデルとしておよび人工的生体模倣技術において有用である。
【0004】
回折格子の作成にトップダウン方法が日常的に使用されてきており、外部から制御されかつ高い技術のミクロプロセシング方法を必要としている。一方、化学的分子セルフアセンブリまたは分子認識のようなボトムアップ手法は、もし適切な方法を確立できれば、簡易であるという利点を有している。秩序だった強い凝集と液状流動性を有する液晶(LC)に基づくボトムアップ技術は、新しい機能的材料を得るための将来性のある手法である。
【0005】
CLCはキラルLC相であり、コレステリック相のディレクター(長い分子軸の時間的かつ空間的平均)が前記分子類の長軸に垂直に配向した螺旋軸の周りで連続的にねじれている。コレステリック類の周期的構造は回折格子として作用し、その結果、光の選択的反射が起こり、CLC物質の周期性は、一次元ホトン性結晶の機能性を有している。化学反応で溶媒として適用すると、CLCは、適切な条件下でキラル反応場を提供する。このようなCLC反応場は、ポリマー安定化CLC物質の重合のために使用され、成果をあげてきた。
【0006】
CLCまたはスメクチックA(SmA)マトリックスを用い合成したポリマー類の表面構造がLC除去後観察されており、電気化学的方法によるCLC中における螺旋ポリアセチレンの重合およびミセルリオトロピックLC中におけるポリアニリンおよびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)の重合の結果、分子インプリンティングが起こることがわかっている。光学活性PEDOTは、デオキシリボ核酸(DNA)のLC溶液を用いて合成されており、PEDOT/シゾフィランのナノハイブリッド類が、テンプレート重合により作製されている。
【0007】
光学活性ポリチオフェン類はまた、CLC溶媒中における重縮合により非キラルモノマー類から合成されている〔非特許文献1〕。LC物質類は、従って、化学および物理で、超分子次元のポリマー類合成に分子テンプレートとして広く使用されている。我々のグループは、先の研究で、CLCに基づく電気化学的方法を適用し、非光学活性モノマー類から光学活性ポリマーフィルムを製造した〔非特許文献2〕。
【0008】
このようにして調製した光学活性ポリマー類が高い光学活性を有し、このような整調性の最初の実証として電気化学的に制御可能な円二色性と光学旋光性を有していることが見出された〔非特許文献3〕。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H. Goto, F. Togashi, A. Tsujimoto, R. Ohta, K. Kawabata. Liq. Cryst., 2008, 35, 847-856.
【非特許文献2】H. Yoneyama, K. Kawabata, A. Tsujimoto, H. Goto, Electrochem. Commun. 2008, 10, 965-969.
【非特許文献3】H. Goto, Phys. Rev. Lett. 2007, 98, 253901.
【非特許文献4】H. Goto, K. Akagi, Jpn Patent 2003306531 (2002, 362979); Chem. Abstr. 2003, 139, 344169.
【非特許文献5】H. Goto, K. Akagi, Book of Abstracts of the International Conference of Science and Technology of Synthetic Metals; Research Center for Theoretical Physics, Fudan University: Shanghai, China, 2002, p 17.
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を下記の実施例により説明する。しかし、本発明の範囲がこの実施例に限定されないことを理解されたい。
合成
ネマチック液晶(NLC)にCLC誘導剤として少量の光学活性分子を添加すると、メゾスコーピック螺旋構造を有するCLCの形成を誘導できることが一般的に知られている。本研究では、溶媒LCとしての4-シアノ-4’-ヘキシルビフェニル(6CB)とともにCLC誘導剤としてコレステリルペラルゴネートを用いた。前記CLC電解質溶液は、コレステリルペラルゴネート0.02g(0.038mmol)を0.5g(1.9mmol)の6CBに添加することによって、反応溶媒として調製した。次に、支持塩として過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP;2mg、5.8×10
-6mmol)を添加した。熱互変性LCである6CBは流動性を有する反応溶媒と見なすことができ、6CBに対して支持塩を添加すると、イオン伝導性が付与される。本研究で用いたCLC電解質システムの構成成分を、スキーム1に示した。
【0024】
液晶性は、前記モノマー(2,2’-ビチオフェン、40mg、0.047mmol)添加後も維持されていることが確認された。前記コレステリック電解質溶液は、偏光光学顕微鏡法(POM)で室温において指紋テクスチャを示し、それは、コレステリック相に典型的である(
図1)。光学テクスチャにおけるストライプ間の距離は、CLCの螺旋ピッチの半分(P/2)に対応している。CLC電解質溶液の相転移は、示差走査熱量計法(DSC)およびPOMにより下記のように決定した:結晶2.1℃(-0.6℃)コレステリック20℃(16℃)等方性(カッコ内の温度は、冷却時の転移温度を示している)。
【0025】
CLCは、ここで、等方性溶液中に支持塩を含む従来のシステムの代わりに電解重合用電解質溶液として用いる。重合に先立ち、支持塩、モノマー、およびキラル誘導剤を6CB LC溶媒中に完全に溶解させるため、前記電解質溶液をアルゴン雰囲気中においてバイアル中で40℃まで加温した。次に、等方性状態の混合物を、テフロン(登録商標)シート(厚さ約0.2mm)をスペーサーとして用いてサンドイッチしたスズインジウムオキサイド(ITO)被覆ガラス電極(9Ω/cm
2、厚み約12nm)間に注入することによって、電解重合を実施した。狭いギャップで分離した電極2個を用いることで、LC電解質の低イオン脱伝導性が原因の溶液IR低下(オーム過電圧)を補償する。反応セルを40℃まで加温し、次にゆっくりと14.5℃まで冷却し、指紋テクスチャが十分に形成されたフィルムを得た。電圧4.0Vを次にセルを横断して適用し、定電位の電解重合を誘発させた。この電圧は、0.2kV/cmの電位に対応し、それは、螺旋超構造を保持しながら基板平面に螺旋軸を配向させるために十分である。これらの条件下でCLCの螺旋軸は、ITOガラスに平行に配列され、セル中で螺旋軸の周りにそれぞれのCLC分子は回転している(CLCホメオトロピック境界条件)。この配向により、重合セル中でCLCに高度の指紋パターンが形成される。重合温度は、前記モノマーを含有する電解質溶液のCLC相を保存するため、ペルチェ素子を有するオーダーメードの温度制御ステージを用いて14.5℃に維持した。30分後、ITO電極のアノード側を被覆する不溶性でかつ不融性のポリチオフェン(PT
*)薄膜が得られた。ITO上の上記フィルムを次に、メタノール、水、アセトニトリル、メタノール、水およびアセトンの順序で洗浄し、減圧で乾燥させキラル光学特性(キロプティカル)ポリチオフェンフィルム(PT
*)を得た。電解重合時に現在のプロフィールをモニタリングした。重合セルに2Vを負荷し重合時に極めて低い電流を得たが、フィルムは全く得られず、一方、4Vにおける重合は、安定フィルムを生じた。3Vにおける重合は極めて薄いフィルムを生じ、5Vにおける処理により脆弱なフィルムが得られた。4Vにおける重合中、電流は最初の100秒で突然低下し、その後もゆっくりと低下した。この挙動は、基底層の最初の形成に関連付けられるのかもしれない。これらの結果で、4Vが本重合法にとって適切な電位であることを確認した。
結果と考察
PT
*フィルムのPOM像を、
図2(A)(中間酸化レベル)に示した。直交ニコル観察(透過偏光、偏光DIM)による示差干渉顕微鏡法(DIM)は、
図2(B)に示したように(色を除いて)元来のCLCシステムのそれに類似した多色指紋テクスチャを明らかにした。これは、CLC物質類について通常観察できる典型的指紋パターンであるが、ただし、本ポリマーの分子構造は、CLCのそれとは顕著に異なっていることに注目すべきである。
【0026】
本研究におけるPT
*フィルムは、偏光DIMで複屈折を示し、PT
*の光学テクスチャがCLCマトリックスのそれぞれの分子秩序に由来することおよびPT
*の螺旋構造が電解重合時におけるCLCの3D螺旋構造からの構造転写によって得られることを示唆している。
【0027】
PT
*フィルムの走査電子顕微鏡法(SEM)観察は、特徴的表面パターンを明らかにせず、PT
*フィルムの表面は、基本的に平坦で平滑のようであった。POMによって観察できる連続的螺旋構造は、従って、PT
*を含む分子類の光学的偏光螺旋構造に帰するとすることができる。このことは、それぞれの2,2’-ビチオフェン分子類がCLC電解質溶液中でCLCの螺旋ディレクターに従うというモデルと一致し、それによって、3D螺旋構造を転写して電解重合時に螺旋ポリチオフェンが得られる。本モノマーの高い重合活性と剛性、ならびに生成したポリマー中におけるπスタッキングの形成により、電気化学的成長時に連続的フィルムを生成するポリマー凝集様式を生み出す。CLC電解質溶液の場合のように、指紋ストライプ間の距離は、PT
*構造の螺旋ハーフピッチに対応している。最終ポリマー中にCLC誘導剤および6CBがないことは、赤外(IR)吸収分光分析法で確認した(コレステリルペラルゴネート、υ
C=O、エステル官能基、1737cm
-1;6CB、υ
CN、末端CN基、2227cm
-1)。最終ポリマー中における前記キラル誘導剤およびLCマトリックスは、このように洗浄処理で完全に除去され、CLC分子間の相分離が成長プロセス時に起こることを示唆している。
【0028】
PT
*フィルムのサイクリックボルタンメトリ測定(対Fc/Fc
+)を、モノマーを含まない0.1M TBAP/アセトニトリル溶液中でさまざまなスキャン速度で実行した。酸化プロセスでは、+0.54V(10mV/s)の酸化シグナルが観察され、一方、+0.4Vと+0.1Vにおいて還元シグナルが観察された。モノマーを含まない電解質溶液中におけるこの酸化還元転換は、明確でかつ擬可逆性の酸化還元プロセスを示唆している。PT
*は、電気的に活性でかつITO電極によく固着した。
【0029】
図3は、モノマーを含まない0.1M TBAP/アセトニトリル溶液中においてさまざまな電圧対Fc/Fc
+においてPT
*フィルムについてのその場光学吸収スペクトルを示している。測定セルは、対電極としての白金ワイヤ、Ag/Ag
+標準電極およびITOに付着したPT
*からなる。モノマーを含まないアセトニトリル溶液中において電圧を負荷するとPT
*酸化を起こし、主鎖上でのラジカルカチオンの発生により主鎖のπ-π
*遷移(500nm)強度が弱くなるとともに756nmにおける吸収強度が大きくなった。また、PT
*の色も酸化により赤色から暗青色に変化し、そのことは、主鎖上でのジカチオン類の生成による近IR(NIR)域における広い吸収バンドの出現に反映されている。このラジカルカチオン類とジカチオン類は、それぞれ、ポーラロン類およびバイポーラロン類と称される。PT
*フィルムの色は、電気化学酸化/還元サイクルで暗赤色から暗青色に可逆的に変化した。この酸化還元(ドーピング/脱ドーピング)挙動は、電気活性伝導性ポリマー類に典型的である。
【0030】
PT
*フィルムのその場円二色性(CD)スペクトルが、モノマーを含まない0.1M TBAP/アセトニトリル溶液中さまざまな電気化学的条件下で得られた。
図4に示したように、PT
*は、短波長で主鎖のπ-π
*遷移に関連したコットン効果を示す。前記PT
*フィルムのCDスペクトルは、酸化状態で、短波長において低下を示す。酸化状態では、PT
*フィルムのCDスペクトルは、強度の低下と600nmにおける正のコットン効果を示す。CLC誘導剤(コレステリルペラルゴネート)の弱いコットン効果は240-340nm範囲の波長でのみ観察されるので、このCDシグナルを重合に用いたCLC誘導剤に起因するとすることはできない。
【0031】
この結果は、前記PT
*がキラル環境にあることを示唆している。顕著となったCDの変化は、PT
*の電子状態の変化により酸化還元過程で前記ポリマーの超分子配向が変化することを示唆している。-0.1Vを次に負荷し酸化ポリマーの還元を誘導すると、これらのスペクトルが最初に観察されたスペクトルに回帰する。POM観察で、PT
*の光学テクスチャとハーフピッチ長が、酸化還元過程で変化しないことが確認される。この結果は、光学テクスチャまたは表面構造を認知できるほど変化させることなく電気化学的酸化還元プロセス条件を調整することによって、PT
*の光学活性を変化させることができることを示唆している。
【0032】
還元(脱ドーピング)PT
*のCDスペクトルが、スプリットタイプのコットン効果を明らかにしている。このことは、励起子カップリングのようなスルースペース効果に帰属される。このようなバンドの観察は、凝集物形成時に分子間プロセスが存在することを示唆している。この場合、CDスペクトルにおけるビシグネート(2分割)カップレットが、PT
*鎖の片手方向の螺旋充填を示唆し、負のカップレットを0.1-0.4Vにおいて有している。この結果で、PT
*が電気的に光学活性であることおよびCDを電気化学プロセスにより“電気化学的に駆動されたキラル光学活性効果”として制御できることが確認される。
【0033】
光の回折は、フィルム表面に垂直なレーザーセットでITO電極上のPT
*フィルムを照射することおよびスクリーン上で透過パターンを視覚化することによって、観察できる。円回折パターンはフーリエ変換イメージとして産生され、それは、
図5(A)に示したように本ポリマーの無作為な回折機能による。レーザー光の3種の波長(赤、緑、青)を試験し、それぞれは、特徴的半径の回折円を産生した。円直径の大きさは、レーザー波長の大きさにより増加する(青<緑<赤)。格子周期は、PT
*フィルムの隣接するストライプ特性の距離に対応している。さらに、青波長における照射において、PT
*は、m=1および2(m:干渉屈折の大きさ)回折を示し、PT
*が透過格子機能を有している(
図5(B))ことを確認した。回折は、格子式mλ=2dsinθ(式中、d=P/2)により表すことができる。従って、正常入射光は、円錐の屈折反射パターンをトレースする。PT
*の表面は平坦であるが、主鎖の周期的螺旋配置により、平均屈折率(平行および垂直係数の平均で得られる)における連続的な周期的変化をもたらし、そのことは、POMで指紋テクスチャとして視覚化される。回折は、ピッチ約5μmの空間的かつ周期的な変動性を有する屈折率プロフィールに由来する。
【0034】
PT
*フィルムは、白色光照射で虹色の真珠光反射(構造色)を示し、反射波長は、入射角度および入射光ビームの波長組成により変動する。
図5(C)は、ITOガラス基板上でのPT
*フィルムの自然のままの外観を示し、
図5(D)は、斜め入射白色光によるPT
*フィルムの真珠光を示している。この真珠光反射は、PT
*表面のnにおける周期的変化に由来する。
【0035】
この回折機能を付与するPT
*表面の推定構造を、
図6に示した。PT
*表面の拡大イメージを、
図6(A)に示した。PT
*フィルムの内部構造は、CLC電解質溶液の3D構造転写により生じたホメオトロピック境界条件下におけるそれぞれの主鎖の螺旋配置から構成されると考えられる(
図6(B)および(C))。この螺旋配置に基づくPT
*フィルムの周期的構造の結果、屈折率のなめらかな変化が起こり、螺旋回転における各分子のゆるやかなねじれを伴っている。CLC中に調製した前記ポリマーの連続的螺旋構造を示す都合上、
図6(C)に擬層構造を示したことに注意されたい。CLC中で調製したPT
*は、CLCマトリックスが全く層構造を有していないので、このような擬層構造を有していないかもしれない。
【0036】
図7は、600nm、530nm、および460nmにおけるフィルムの正常入射照射において検出角度の関数としてポリマーの透過強度をプロットしたものである。+0.5Vの負荷電圧において、透過最大は、-18°(600nm)、-16°(530nm)および-13°(460nm)で起こる。前記3種の波長における透過強度は、およそ同じである。しかし、+0.9Vにおいて、460nmビームの透過強度は、他の2種の波長におけるよりもはるかに大きく、最大-13°にも達する。
【0037】
この結果は、前記ポリマーの透過色が酸化還元状態により整調できることを示唆している。
図7(C)は、検出角度に関して、+0.9Vにおける前記ポリマーの透過強度をプロットしたものである。低検出角度における透過強度は短波長において最大となり、高検出角度(例 18-24°)における透過強度は、長波長で最大になる。この結果は、レーザー回折パターンの波長の大きさと一致している。
【0038】
S-およびP-偏光光について+0.9VにおいてPT
*の透過スペクトルから計算したCommission Internationale de L’Eclairage(CIE)色度図における透過色を、検討した。検出角度(θ)を13°から18°にスキャンするに伴い、PT
*フィルムは青から赤に変化する。この角度依存性の色プロフィールは、PT
*の回折性に基づく選択的光透過を実証し、偏光光を適切に調整することによってPT
*の透過色を変化させることができる。+0.9VにおけるS-偏光光の透過色は、各検出角度において、+0.4VにおけるS-偏光光のそれに比較して連続的に青色にシフトし、そのことは、PT
*の透過色を、負荷電圧によって調整できることを示唆している。
【0039】
正常入射S-およびP-偏光光により0.4VにおいてPT
*の反射スペクトルから計算した反射CIE色度図も、同様に、検討する。反射光の色は検出角度(13-18°)により変化し、本ポリマーの分子秩序が反射格子として作用することを示唆している。反射光の色は、検出角度の増大に伴い赤波長に向けて移動し、検出角度による透過色の変化と一致している。S-偏光反射光の色は、各検出角度において、P-偏光光のそれに比較して青に向けて移動する。検出角度(25-39°、赤領域)に関して、正常入射非偏光光の下での反射光の色の変化を、
図8に示した。-0.1Vにおいて、有意な角度依存性は全く明らかではなく、一方、+0.9Vにおいて、PT
*フィルムは、角度依存性光反射に典型的な特徴である半ループ状の色変化プロフィールを示す。
【0040】
+0.9Vにおける非偏光光の反射色は、各検出角度において、-0.1Vにおける非偏光光のそれに比較して一貫して赤に向けて移動している。これらの結果は、PT
*フィルムが電気化学的に駆動された酸化状態に依存し光を反射することを示唆している。
【0041】
上記の特性解析に基づき、PT
*フィルムを、CLC様分子構造により定義される周期性を有する一次元誘電材料としてみなすことができる。前記周期性(a)は、2a=mλ/nにより記載され、ここでa=P/2である。PT
*フィルムのPOMおよびDIM観察は、PT
*フィルムの周期性が、電気化学的酸化還元状態により変化しないことを示唆している。aの値は従って一定であり、一方、波長(λ)は、負荷電圧により変化する。楕円偏光測定法による測定値は、正電圧増大に伴い全ポリマー表面の平均屈折率が短波長(<650nm)で減少し、長波長で増加することを明らかにした(
図9)。これは、“電気化学的に駆動される屈折変調”の一形態とみなすことができる。実験結果は、屈折率が所定の検出角度における回折波長の変化を決定することを示唆している。
【0042】
PT
*フィルムの光学吸収係数を用いてこの挙動を研究でき、それは、N=n-jk(nは平均屈折率であり、kは、消滅係数である)により得られる屈折の複合係数(N)から計算できる。波長の関数としての消滅係数変化は光学吸収変化に類似し、その理由は、両方のパラメータが同一の物理的意味を有してからである。従って、PT
*フィルムのn値は、電気化学的酸化(ドーピング)により調整され、消滅係数(ゲイン−ロスに対応)は、電気化学的還元/酸化による吸収変化により調整される。具体的には、酸化は、短波長(<650nm)でnの減少と長波長におけるkの増加をもたらす。従って、Nは、酸化還元状態によって変化する。
【0043】
PT
*の光学的機能性は、Nの螺旋性駆動周期性に由来し、それは、酸化還元状態によるnと光学吸収の変化により変化する。酸化状態では、短波長におけるnは減少し、長波長における光学吸収強度が増加し、干渉色変化という結果になる。
【0044】
電気化学的酸化還元サイクリング(ドーピング−脱ドーピング)に応じて色変化は可逆性であり、そのことは、伝導性ポリマーの酸化還元状態によって修飾される構造的干渉エレクトロクロミズムのメカニズムを示している。
【0045】
酸化還元サイクリング時における本ポリマーの表面色の変化を、
図10に示した(-0.1Vから+0.9Vまで)。斜め入射白色光のもとで、前記ポリマーの自然色が酸化状態に従い暗赤色から暗青色まで変化し、一方、構造色は、淡青色から橙色まで変化する。-0.1Vから+0.9Vまで電圧をスキャンすると前記ポリマーのCD強度(楕円率)および光学吸収は、可逆的ならびに対称的変化を受ける(
図S10およびS11、裏づけ情報)。光学吸収およびCDにおける電気化学的酸化還元状態誘発変化は、主鎖の電気化学的酸化/還元によると合理的に説明でき、可逆的なキラル光学活性なエレクトロクロミズムを実証する。酸化還元サイクリングによる前記光学的性質の可逆性と再現性は、一連の同様の実験により確認した。
結論
キラル光学性を有するPT
*は、モノマーとしての非キラルビチオフェンからCLC電解質溶液中で電気化学的に合成した。この方法による電気化学的重合で、指紋構造を有するPT
*が得られ、それぞれの主鎖は、CLC中におけるエピタクシャル電解重合時に片手方向の螺旋マトリックスとして構造的キラル性のトポロジーインプリンティングにより配列されていることを示唆している。このPT
*は、キラル光学的電気的クロミズムと回折を発揮することが確認された。本ポリマーの回折機能とともに調整可能な屈折率と光学吸収性が、ある形態の光干渉電気的クロミズムを示す。本研究で用いた合成方法と生成したポリマーの光変調機能性が、伝導性ポリマー類、液晶および光化学の開発のための新しい手法となる。
実験
吸収スペクトルは、Hitachi U-2000分光光度計を用いて得られ、CD測定は、Jasco J-720分光計により行った。その場光学測定において、前記ポリマーフィルムの光学スペクトルは、所定電位においてすぐに記録し、測定中一定に維持した。CD測定値についての光学データ取得の時間は、およそ40秒であり(スキャン速度1000nm/分)、光学吸収測定値についてのそれは、およそ60秒であった(スキャン速度800nm/分)。DSC測定は、Seiko EXTRA6000をスキャン速度10℃/分で用いて行った。ポリマー類の電気化学的測定は、電気化学的分析計(PGSTAT12、Autolab、オランダ)を用いて行い、光学テクスチャは、Nikon ECLIPS LV100高分解能偏光顕微鏡を、Nikon LU Plan Fluorおよび油浸を行わない倍率1000倍および500倍のNikon CFIUWレンズとともに用いて、観察した。PT
*フィルムの平均屈折率は、Jasco M-200楕円偏光測定器を用いて得て、さらに、反射および透過スペクトル15種は、Jasco自動絶対光反射測定システムを用いて測定した。
【0046】
2,2’-ビチオフェン、TBAPおよびコレステリルペラルゴネートは、東京化成(TCI)日本から得た。6CBは、Merck、USAから購入した。