特許第5651885号(P5651885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5651885イオン交換樹脂の減容処理システムおよびイオン交換樹脂の減容処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5651885
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】イオン交換樹脂の減容処理システムおよびイオン交換樹脂の減容処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/14 20060101AFI20141218BHJP
   F23G 5/027 20060101ALI20141218BHJP
   G21F 9/30 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   C08J11/14ZAB
   F23G5/027 Z
   G21F9/30 571F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-73965(P2011-73965)
(22)【出願日】2011年3月30日
(65)【公開番号】特開2012-207134(P2012-207134A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2013年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(74)【代理人】
【識別番号】100161403
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 静夫
(72)【発明者】
【氏名】部田 勝敏
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−521701(JP,A)
【文献】 特開昭61−038499(JP,A)
【文献】 特開平03−082999(JP,A)
【文献】 特開昭62−187298(JP,A)
【文献】 特開平05−087984(JP,A)
【文献】 特開2000−266896(JP,A)
【文献】 特開昭59−107300(JP,A)
【文献】 米国特許第04636335(US,A)
【文献】 特開昭63−171400(JP,A)
【文献】 特開昭60−122400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/14
F23G 5/027
G21F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済イオン交換樹脂の樹脂受入タンクと、該樹脂受入タンクに貯蔵された高含水率のスラリーを脱水する脱水機と、脱水後のスラリーを無機化減容処理するボール型乾留炉と、該ボール型乾留炉の後段に配置された排ガス処理手段とからなるイオン交換樹脂の減容処理システムであって、
該ボール型乾留炉は、金属製の密閉式反応容器と、該容器の下部に配置された粉体貯留部からなり、該密閉式反応容器は、外部加熱手段と、該容器内に充填されたセラミック製または金属製のボールと、該ボールを機械的に撹拌できる撹拌翼と、該容器の上部から該ボール上へ、室温のイオン交換樹脂を供給するイオン交換樹脂供給ノズルと、該容器の上部から該ボール上へ過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気供給ノズルを備え、該粉体貯留部は、貯留部内温度を維持する外部電気式ヒータを備え、
該脱水機の後段には、脱水された脱水液を過熱水蒸気化し、該ボール型乾留炉の過熱水蒸気供給ノズルへと供給する過熱水蒸気供給手段を備えることを特徴とするイオン交換樹脂の減容処理システム。
【請求項2】
請求項1記載のイオン交換樹脂の減容処理システムを使用するイオン交換樹脂の減容処理方法であって、
樹脂受入タンクに貯蔵されたイオン交換樹脂の5〜15%スラリーを、脱水機での脱水により40〜60%スラリーとし、脱水液を過熱水蒸気化した過熱水蒸気および該40〜60%スラリーを金属製の密閉式反応容器に供給して、イオン交換樹脂を400℃以上の過熱水蒸気と接触させる過熱水蒸気接触工程と、該過熱水蒸気接触工程を経たイオン交換樹脂を、更に、460℃以上の雰囲気温度下で処理する追加熱処理工程からなることを特徴とするイオン交換樹脂の減容処理方法。
【請求項3】
イオン交換樹脂が原子力発電所で発生する使用済のイオン交換樹脂であることを特徴とする請求項2記載のイオン交換樹脂の減容処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂の減容処理システムおよびイオン交換樹脂の減容処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所では、機器の腐食防止のため、系統水の浄化や系統に注入する水の浄化に大量のイオン交換樹脂が使用されている。これらのイオン交換樹脂は性能が経年劣化するため、所定期間使用した後、廃棄物となる。従来、原子力発電所で発生する使用済のイオン交換樹脂は、放射能レベルにより分別され、それぞれ貯蔵タンクに水とともに貯留されていた。
【0003】
イオン交換樹脂は自然状態では安定で難分解性であるという特性を有するが、有機物質であるため長期的には変質する可能性もある。したがって、使用済のイオン交換樹脂を廃棄物として処分する際には、無機化し安定化することが必要となる。
【0004】
これらの、原子力発電所で発生する使用済のイオン交換樹脂の処理方法として、焼却処理、熱分解処理、酸化分解処理など様々な無機化減容技術が開発されており、現在、一部の原子力発電所では、放射能レベルが低いものについて、800℃以上の高温焼却処理が行われている。一方、放射能レベルが比較的高いものについては、高温焼却処理時に使用される処理炉を構成する耐火物の処理問題や、高温焼却に伴うCsの飛散の問題などがあり、高温焼却処理の採用は困難であり、そのまま水とともに貯蔵タンクに貯留されているのが現状である。
【0005】
これらの問題に対し、本願出願人は、ボール型乾留炉を使用して、耐火物を使用することなく、金属製の閉鎖系反応容器内で使用済イオン交換樹脂を無機化減容処理する技術を開示している(特許文献1)。
【0006】
しかし、原子力発電所で発生する使用済のイオン交換樹脂には、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とがあり、従来のボール型乾留炉を使用して減容処理を行った場合、陰イオン交換樹脂は良好な減容率(1/20程度)で処理されるが、陽イオン交換樹脂の減容率は1/2程度に留まり、通常これらが1:1の割合で混合された廃樹脂の減容率は1/4程度に留まり、近年の減容率向上の需要に十分には対応できていない問題があった。
【0007】
そこで、本願出願人は、ボール型乾留炉を利用した減容処理に際し、乾留炉内に過熱蒸気を供給しながらイオン交換樹脂の減容処理を行う技術を開発し、特願2010−269887号として出願済である。
【0008】
一方、使用済イオン交換樹脂は貯蔵タンクより通常5〜15%程度のスラリーで樹脂受入タンクに移送、一時貯留され、このように水分含有率の高いイオン交換樹脂を、そのまま特許文献1記載のボール型乾留炉に供給する場合、多量の水分の蒸発のためにボール型乾留炉のボール充填部を大型化し、更に、ボール型乾留炉の後段に配置される排ガス処理系も大型化することが必要となり、減容処理施設のコンパクト化の観点からは好ましくないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−171400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は前記を解決し、ボール型乾留炉内に過熱蒸気を供給しながら減容処理を行うイオン交換樹脂の減容処理システムにおいて、ボール型乾留炉の小型化およびボール型乾留炉の前段や後段に配置される設備の小型化による減容処理施設のコンパクト化を実現する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明のイオン交換樹脂の減容処理システムは、使用済イオン交換樹脂の樹脂受入タンクと、該樹脂受入タンクに貯蔵された高含水率のスラリーを脱水する脱水機と、脱水後のスラリーを無機化減容処理するボール型乾留炉と、該ボール型乾留炉の後段に配置された排ガス処理手段とからなるイオン交換樹脂の減容処理システムであって、該ボール型乾留炉は、金属製の密閉式反応容器と、該容器の下部に配置された粉体貯留部からなり、該密閉式反応容器は、外部加熱手段と、該容器内に充填されたセラミック製または金属製のボールと、該ボールを機械的に撹拌できる撹拌翼と、該容器の上部から該ボール上へ、室温のイオン交換樹脂を供給するイオン交換樹脂供給ノズルと、該容器の上部から該ボール上へ過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気供給ノズルを備え、該粉体貯留部は、貯留部内温度を維持する外部電気式ヒータを備え、該脱水機の後段には、脱水された脱水液を過熱水蒸気化し、該ボール型乾留炉の過熱水蒸気供給ノズルへと供給する過熱水蒸気供給手段を備えることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のイオン交換樹脂の減容処理システムを使用するイオン交換樹脂の減容処理方法であって、樹脂受入タンクに貯蔵されたイオン交換樹脂の5〜15%スラリーを、脱水機での脱水により40〜60%スラリーとし、脱水液を過熱水蒸気化した過熱水蒸気および該40〜60%スラリーを金属製の密閉式反応容器に供給して、イオン交換樹脂を400℃以上の過熱水蒸気と接触させる過熱水蒸気接触工程と、該過熱水蒸気接触工程を経たイオン交換樹脂を、更に、460℃以上の雰囲気温度下で処理する追加熱処理工程からなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のイオン交換樹脂の減容処理方法において、イオン交換樹脂が原子力発電所で発生する使用済のイオン交換樹脂であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のイオン交換樹脂の減容処理システムでは、ボール型乾留炉内に過熱蒸気を供給しながら減容処理を行うイオン交換樹脂の減容処理システムにおいて、ボール型乾留炉の前段に脱水機を配置し、脱水後のスラリーをボール型乾留炉内に投入する構成により、従来、多量の水分の蒸発のために大型化していたボール型乾留炉のボール充填部、および、ボール型乾留炉の後段に配置される排ガス処理系の小型化が実現可能となる。更に、脱水液を過熱蒸気として利用する構成により、別途脱水液の専用処理施設を別途設ける必要がなく、前記ボール充填部、および、排ガス処理系の小型化と合わせて、減容処理施設のコンパクト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のイオン交換樹脂の減容処理システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1において、1は原子力発電所で発生する使用済のイオン交換樹脂を一時貯蔵する樹脂受入タンク、2は該樹脂受入タンクに貯蔵された高含水率のスラリーを脱水する脱水機、3は脱水後のスラリーを無機化減容処理するボール型乾留炉、4は脱水機で脱水された脱水液を過熱水蒸気化し、該ボール型乾留炉内へ供給する過熱水蒸気供給手段、5は排ガス処理系を構成する排ガス処理手段である。
【0017】
樹脂受入タンク1には、使用済のイオン交換樹脂が5〜15%スラリー(樹脂5〜15%、水分85〜95%)として貯留されている。
【0018】
該5〜15%スラリーは、樹脂供給ポンプ6により、脱水機2に供給され、ここで40〜60%スラリー(樹脂40〜60%、水分60〜40%)にまで脱水される。脱水機の種類は特に限定されず、例えば、スクリュー式脱水機や遠心脱水機を採用することができる。
【0019】
脱水機2から排出される脱水液は、一旦、脱水液受入れタンク7に受け入れた後、脱水液供給ポンプ8により蒸気発生器9に送られ、蒸気発生器9及び蒸気過熱器10により過熱蒸気化される。一方、脱水後の40〜60%スラリーは、ボール型乾留炉3へと供給される。
【0020】
ボール型乾留炉3は、ボール充填部である金属製の密閉式反応容器11、該容器の内部温度を反応時に400〜700℃にまで上昇する外部ヒータ12、該容器の内部に充填されたセラミック製または金属製のボール13、該ボールを機械的に撹拌できる撹拌翼(図示略)、該容器の上部から該ボール上へイオン交換樹脂を供給するイオン交換樹脂供給ノズル14、該容器の上部から該ボール13上へ400〜700℃の過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気供給ノズル15から構成されている。
【0021】
密閉式反応容器11は、径が例えば400mmで長さが500mmである金属製の円筒体を立設して構成され、反応容器内の圧力を−0.5〜−10kPaに維持する圧力制御手段と、該容器1の内部温度を反応時に400〜700℃にまで上昇する外部電気式ヒータ12を備えている。
【0022】
この円筒体の軸心部には、密閉式反応容器11の上部に設置された駆動モータによって低速(約0.1〜2rpm)で回転される回転軸が設けられている。この回転軸の周部には、外縁が前記円筒体の内周面に近接位置されるように、また内縁が回転軸との間に空間を形成するようにして螺旋翼である撹拌翼が取り付けられている。
【0023】
密閉式反応容器11内のボール13は、耐蝕性のあるセラミックボールあるいは、高ニッケル系合金であるハステロイ又はインコネル製であって、10〜25mmの粒径を有し、該撹拌翼4により撹拌されながら密閉式反応容器1内の周縁部を上昇し、これに伴って形成される空間部に、密閉式反応容器1内の上部に位置しているボールが順次下降していく。
【0024】
イオン交換樹脂を密閉式反応容器11内へ供給するイオン交換樹脂供給ノズル14の前段にはスクリューフィーダ式の供給手段19を備えてイオン交換樹脂を均等に供給することが好ましい。
【0025】
イオン交換樹脂供給ノズル14から密閉式反応容器11内に供給されたイオン交換樹脂は初期には40〜60%スラリーの含水状態であり、基本的にはボール13の表面に付着して、炉内を移動する。このためイオン交換樹脂の密閉式反応容器11での滞留時間はボールの下降時間と同じである。ボールの下降時間は、撹拌翼の寸法、回転数、ボールの寸法、充填層高さで自由に調節可能であるが、ボールの下降時間(すなわち、イオン交換樹脂の密閉式反応容器1での滞留時間)は減容率向上には長い程好ましい。具体的には、ボールの径を小さくする、回転軸の回転数を小さくする、ボールが充填される層の長さを長くする方法を採用することができる。
【0026】
密閉式反応容器11の上部に備えた過熱水蒸気供給ノズル15からは、ボール13の表面に付着したイオン交換樹脂へ400〜700℃の過熱水蒸気を供給する。イオン交換樹脂は室温で供給されるため、密閉式反応容器11の上層部では、200〜300℃の低温領域をイオン交換樹脂は通過する。
【0027】
イオン交換基の分離が生じる温度領域(200〜300℃における第2段階)を通過する際に、過熱水蒸気を流速0.1m/s以上で供給しつつボールを撹拌し、イオン交換樹脂と過熱水蒸気を効率よく接触させている。これにより、従来に比較して、イオン交換樹脂全体の減容率を顕著に改善可能としている。具体的には、例えば、従来の乾留法では減容率が1/2程度であったものにつき、当該イオン交換樹脂と過熱水蒸気を効率よく接触させながら処理する方法を採用することにより、1/4程度にまで改善することができる。
【0028】
密閉式反応容器11内での分解によって発生した残渣(主に酸化鉄)は、粉体貯留部16に排出され、密閉式反応容器11内に堆積する残渣処理に伴う各種問題も効果的に回避可能な構造となっている。該粉体貯留部16の温度を、ポリスチレンの分解温度以上の460℃以上、好ましくは500℃以上に管理することにより、更に、減容率を1/20にまで大幅に向上させることができる。温度を維持するための手段は、粉体貯留部外部電気式ヒータ(図示略)、粉体貯留部過熱水蒸気ノズル(図示略)、またはその組み合わせで実施することができる。
【0029】
密閉式反応容器11内での分解によって発生した分解ガス(CO、CxHy)及び、硫酸ガス、亜硫酸ガスなどは、焼結金属フィルタ17を経て排ガス出口18から排出され、後段の二次燃焼器、洗浄塔などの排ガス処理系で処理されるため、原子力発電所で発生する使用済のイオン交換樹脂を、放射能による環境汚染の危険を伴わず安全に減容処理することができる。焼結金属フィルタ17をセラミックフィルタとすることも可能である。
【0030】
本発明では、上記構成により、従来、多量の水分の蒸発のために大型化していたボール型乾留炉のボール充填部、および、ボール型乾留炉の後段に配置される排ガス処理系の小型化が実現可能となる。更に、脱水液を過熱蒸気として利用する構成により、別途脱水液の専用処理施設を別途設ける必要がなく、前記ボール充填部、および、排ガス処理系の小型化と合わせて、減容処理施設のコンパクト化を実現することができる。具体的には、10%スラリーイオン交換樹脂(50wet・kg/h)をボール型乾留炉に供給する場合に比べ、10wet・kg/hにまで脱水後のイオン交換樹脂をボール型乾留炉に供給することにより、ボールが充填されるボール充填層の高さが1/5にまで金属製の密閉式反応容器11を小型化することができ、更に、排ガス量も1/2以下に低減することができるため、排ガス処理手段5も小型化することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 樹脂受入タンク
2 脱水機
3 ボール型乾留炉
4 過熱水蒸気供給手段
5 排ガス処理手段
6 樹脂供給ポンプ
7 脱水液受入れタンク
8 脱水液供給ポンプ
9 蒸気発生器
10 蒸気過熱器
11 金属製の密閉式反応容器
12 外部電気式ヒータ
13 ボール
14 イオン交換樹脂供給ノズル
15 過熱水蒸気供給ノズル
16 粉体貯留部
17 焼結金属フィルタ
18 排ガス出口
図1