【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに今回、式(2)の鉄錯体およびマンガン錯体の溶液が、ジオールまたはポリオール、それらのモノエーテル類、またはこれらの物質の混合物において、特にプロピレングリコールにおいてin situで、式(1)で表される配位子がこれらの溶剤に実質的に不溶性であるにもかかわらずに製造できることが、見出された。さらに、選択された条件下で、カルボニル基がジヒドロキシケタール(水和物)として存在する式(2)の錯体を形成させられることは、ケタール化反応に酸性反応条件下で同様に参加できる溶剤の存在下で操作されるので、当業者にとって明らかではなかった。
【0010】
従って、本発明は、一般式(2):
[M
aL
xX
n]Y
m (2)
[式中、
Mは、Mn(II)、Mn(III)、Mn(IV)、Fe(II)、Fe(III)またはFe(IV)の群からの金属であり、
Xは、単一、二重もしくは三重荷電アニオンまたは非荷電分子から選択され、金属に単座、二座もしくは三座配位できる配位化合物、好ましくは、OH
−、NO
3−、NO、S
2−、R
aS
−、PO
43−、H
2O、CO
32−、R
bOH、Cl
−、Br
−、CN
−、ClO
4−、R
aCOO
−またはSO
42−であり(式中、R
aはHまたはC
1〜C
4アルキルであり、そしてR
bはC
1〜C
4 アルキルである)、特に好ましくはCl
−またはSO
42−、そして殊に好ましくはCl
−であり、
Yは、錯体の荷電平衡を保証する、非配位性対イオン、好ましくはR
cSO
4−、SO
42−、NO
3−、Cl
−、Br
−、I
−、ClO
4−、BF
4−、PF
6−またはR
cSO
3−(式中、R
cはHまたはC
1〜C
4アルキルである)、特に好ましくはCl
−またはSO
42−、そして殊に好ましくはCl
−を表し、
aは1〜2の数であり、
xは1〜2の数であり、
nは0〜4の数であり、
mは0〜8の数であり、そして
Lは、一般式(1)の配位子、またはそのプロトン化もしくは脱プロトン化 体を表し、
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、
Rは水素、ヒドロキシルまたはC
1〜C
4アルキルであり;
R
1はC
1〜C
4アルキル、C
6〜C
10アリール、ピリジニル−C
1−C
4−アルキルまたは(CH
2)
kN(C
1〜C
4−アルキル)
2であり、
R
2はC
1〜C
20アルキル、C
6〜C
10アリールまたはピリジニル−C
1−C
4−アルキルであり、
R
3はC
1〜C
4アルキルであり、
zはC=OまたはC(OH)
2であり、そして
kは1〜6の数を意味する)]
で表される1種またはそれ以上の金属錯体を、ジオール類もしくはポリオール類、これらのモノエーテル類、またはこれらの物質の混合物中に含有する均一溶液の製造方法であって、式(1)で表される1種またはそれ以上の配位子を、不均一反応において鉄もしくはマンガン塩と、ジオールもしくはポリオール、これらの物質のモノエーテル類または混合物中において反応させることを特徴とする、製造方法に関する。
【0013】
特に好ましくは、本発明の方法を用いて、式[FeLCl]Cl、[FeL(SO
4)]、[MnLCl]Clまたは[MnL(SO
4)]の1種またはそれ以上の錯体を含有する溶液が製造され、Lは特に以下からなる群から選択される:
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o)、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−(ピリジン−2−イルメチル)−7−メチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3u)、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジエチル−ジカルボキシレート、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ビス−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py4)、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py2)、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジエチル−ジカルボキシレート、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(N,N´−ジメチルエチルアミン)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート、および
対応のジヒドロキシケタール類。
【0014】
本発明の同様に好ましい実施形態においては、本発明の方法を用いて、式[FeLCl]Clまたは[MnLCl]Clで表される1種またはそれ以上の錯体を含有する溶液、特に好ましくは式[FeLCl]Clで表される1種またはそれ以上の錯体を含有する溶液が製造される。
【0015】
本発明の方法において使用されるジ−またはポリオール類は、好ましくは2〜6個の炭素原子および2〜4個のOH基を有し、これらのジ−またはポリオール類のモノエーテル類は、好ましくは、1〜4個の炭素原子を有するモノアルコール、特に好ましくは1〜4個の炭素原子を有する飽和モノアルコールに由来するアルコール単位を含有する。
【0016】
本発明の方法は、好ましくは、ジ−またはポリオール類において、またはそれらの混合物において実施される。ジ−またはポリオール類としては、好ましくは、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセロールまたは1,4−ブタンジオールが使用され、1,2−プロピレングリコールが特に好ましい。
【0017】
本発明の方法によって製造される溶液は、好ましくは、0.01〜30重量%、特に好ましくは0.1〜15重量%、殊に好ましくは0.5〜8重量%の式(2)の錯体を含有する。
【0018】
本発明の方法はさらに、錯化反応が好ましくは5〜80℃、特に10〜70℃、特に好ましくは15〜55℃の温度範囲で行われることを特徴とする。
【0019】
以下、本発明の方法において使用される鉄またはマンガン塩を、簡単に「金属塩」とも呼ぶ。
【0020】
式(1)の配位子:金属塩のモル比は、好ましくは0.90:1〜1.10:1、特に好ましくは0.95:1〜1.05:1である。
【0021】
大規模スケールでの配位子の製造は、独国特許第60120781号または国際公開第2006/133869号における記載に従って、以下の反応スキームによって行うことができる。
【0022】
【化3】
【0023】
ジカルボン酸ジエステルから出発して、C
1〜C
4−アルコール、例えば、エタノール、プロパノールまたはブタノールにおいて、2つのマンニッヒ縮合工程を 脱水を伴って行う。脱水の終了後に冷却し、生成物をろ過して洗浄する。錯化反応には、配位子をその後、溶剤で湿らした形態で、または乾燥形態で使用することができる。製造に応じて、配位子が大なり小なり結晶の形態で生じる。錯化反応にはできる限り小さい結晶を不均一錯化反応において使用することが有利であるが、細かく粉砕することは反応を成功裏に実施するために必ずしも必要ではない。
【0024】
本発明方法のさらに好ましい実施形態において、一般式(1)の配位子は、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py3o)、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py2)および対応のジヒドロキシケタール類からなる群から選択される。
【0025】
錯化反応の実施のために、まず式(1)で表される1種またはそれ以上の配位子を、ジ−またはポリオール、それらのモノエーテル類またはこれらの物質の混合物に加えることにより、好ましくは0.5〜60、特に好ましくは1〜60、さらに好ましくは3〜50、極めて好ましくは5〜30重量%の配位子を含む懸濁液を製造する。引き続き、固体もしくは溶解形態の金属塩を、好ましくは5〜80℃、特に好ましくは10〜70℃、殊に好ましくは15〜55℃の温度範囲で添加する。
【0026】
金属塩としては、式(1)の配位子と安定な金属錯体を形成する全ての鉄塩またはマンガン塩が使用される。好ましくは硫酸塩および塩化物が使用され、特に好ましくは塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、塩化マンガン(II)または硫酸マンガン(II)が使用される。本発明の特に好ましい実施形態において、これらの金属塩は金属塩水和物として使用される。その中でも、四水和物Fe(II)Cl
2・4H
2OおよびMn(II)Cl
2・4H
2Oが好ましい。
【0027】
本発明の方法は、場合により、水の存在下で行われ、そしてzがC(OH)
2の意味を有する一般式(2)の金属錯体を製造する場合には、好ましくは水の存在下で行われる。好ましくは、水は、金属塩水和物の使用により、特に好ましくはFe(II)Cl
2・4H
2OまたはMn(II)Cl
2・4H
2Oとして、本発明の方法に供給される。場合により、前記金属塩は、金属塩の濃厚水溶液またはスラリーの形態で投入することもできる。ここで、最終生成物における水含有量をできるだけ低く保つために、20〜80重量%溶液またはスラリーが好ましい。
【0028】
本発明の方法において使用される一般式(1)の配位子は、上記方法により錯化され、従って、製造された一般式(2)の金属錯体において見い出される。ただしそれは、一般式(1)の出発配位子に含まれるケトン−もしくはカルボニル基z(z = C=O)が、必要に応じて存在する水により、本発明の方法の間に水和形態に変わるように、一般式(2)の金属錯体において修飾されて存在することができる。これは、前記配位子が、本発明の方法においてケトンの形態で使用された場合であっても、水が存在する場合に、一般式(2)の金属錯体においてジヒドロキシケタール類として存在できることを意味する。
【0029】
一般式(2)の特に好ましい錯体(ケト基(zがC=O)が水和物形態(zがC(OH)
2)で存在する)を得るために、さらに好ましくは、反応混合物において式(1)の配位子1分子あたり少なくとも1分子の水が存在する。このことは特に、式(1)の配位子として、zがC=Oであるものが本発明方法において使用される場合に当てはまる。
【0030】
式(1)の配位子は水にほとんど不溶性なので、特に、zがC(OH)
2である式(2)の錯体を当該方法において使用されるzがC=Oである式(1)の配位子から製造する場合に、1モルの配位子あたり少なくとも1モルの水が存在する限り、反応の間に存在する水量は、反応速度に影響を及ぼさない。
【0031】
ジヒドロキシケタール(z=C(OH)
2)として錯化形態にある配位子の存在は、例えば、X線構造解析により示すことができる(例えば「Inorg. Chimica Acta, 337 (2002) 407− 419」参照)。
【0032】
本発明の方法の特に好ましい実施態様において、1,2−プロピレングリコールにおける1種またはそれ以上の式[MnLCl]Clまたは[FeLCl]Clの錯体を含有する均一溶液が製造され、式中、Lは2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o)、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py2)または対応のジヒドロキシケタール類(z=C(OH)
2)を意味する。ここで、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート, 2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1] ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレートまたは対応のジヒドロキシケタール類またはこれらの物質の混合物を塩化マンガン(II)または塩化鉄(II)と1,2−プロピレングリコールにおいて反応させる。その場合に塩化マンガン(II)または塩化鉄(II)は好ましくは、固体の塩の形態で、それらの水和物、特に四水和物の形態で、または固体の塩の濃厚溶液もしくはスラリー、または水おける水和物(好ましくは20〜80重量%)もしくは1,2−プロピレングリコールにおける水和物の形態で使用される。従って、前記方法は、場合により水の存在下で行われる。同様にさらに好ましい本発明方法の実施態様において、1種またはそれ以上の式[MnLCl]Cl(Lは2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1] ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py2)または対応のジヒドロキシケタールを意味する)の錯体を含有する均一溶液が製造され、そしてその際、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py2)または対応するジヒドロキシケタールまたはそれらの混合物を塩化マンガン(II)と1,2−プロピレングリコール中で反応させる。さらなる好ましい本発明方法の実施態様において、1種またはそれ以上の式[FeLCl]Cl(Lは2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o)または対応のジヒドロキシケタールを意味する)の錯体を含有する溶液が製造され、そしてその際、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o) または対応のジヒドロキシケタールまたはそれらの混合物を塩化鉄(II)と1,2−プロピレングリコール中で反応させる。ここで挙げた本発明の方法の特に好ましい実施態様において、特に系に水が供給されるべき場合には、金属塩水和物、好ましくは四水和物が、固体形態で、または水または1,2−プロピレングリコール、好ましくは1,2−プロピレングリコールにおける溶液もしくはスラリーとして、使用される。しかしながら、水和物の形態で存在しない金属塩を、水における溶液もしくはスラリーとして使用することもできる。
【0033】
透明な均一溶液が形成するまで撹拌する。従って、本発明の方法により、ジ−もしくはポリオール類、それらのモノエーテル類またはこれらの物質の混合物における、一般式(2)の金属錯体の均一溶液を直接得ることができる。しかしながら、溶液の形成後、さらなるジ−もしくはポリオール、それらのモノエーテル類、またはこれらの物質の混合物の添加により、溶液の濃度をさらに希釈することもできる。
【0034】
一般式(2)の金属錯体の配位化合物Xは、好ましくは、本発明の方法において使用される鉄もしくはマンガン塩に由来する。
【0035】
また、非配位性対イオンYは好ましくは、例えばYがXと同一の意味を有する場合には、本発明の方法において使用される鉄もしくはマンガン塩に由来することができる。
【0036】
本発明の1つの好ましい実施態様において、XおよびYは同一の意味を有する。
【0037】
本発明のさらなる好ましい実施態様において、XおよびYは異なる意味を有する。この場合に、例えば、第一に、XおよびYにおいて同一の意味を有し、特に好ましくはクロリドを意味する一般式(2)の金属錯体を製造することができ、その後、非配位性対イオンYを交換することができる。この方法では、Yの交換のために好ましくは、新しい非配位性対イオンYを含有するアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を使用する。例えば、まずX=Y=Cl
−を有する金属錯体を製造し、引き続き非配位性対イオンCl
−をKPF
6により新しい非配位性対イオンPF
6−と交換することにより、Y=PF
6−(ヘキサフルオロホスフェート)を有する一般式(2)の金属錯体を得ることができる。このような交換反応は、当業者にとって公知である。
【0038】
本発明の方法のさらなる好ましい実施態様において、配位子Lはケトン(z = C=O)の形態で前記方法において使用される。
【0039】
本発明の方法のさらなる好ましい実施態様において、1種またはそれ以上の一般式(2)の金属錯体を含む溶液が製造され、ここで錯化された配位子Lはジヒドロキシケタール類(z = C(OH)
2)の形態で存在する。
【0040】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。