特許第5652008号(P5652008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5652008
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】o−トリジンスルホンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 333/76 20060101AFI20141218BHJP
【FI】
   C07D333/76
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-131780(P2010-131780)
(22)【出願日】2010年6月9日
(65)【公開番号】特開2011-16796(P2011-16796A)
(43)【公開日】2011年1月27日
【審査請求日】2013年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2009-138549(P2009-138549)
(32)【優先日】2009年6月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 和徳
(72)【発明者】
【氏名】大森 潔
(72)【発明者】
【氏名】福田 康法
(72)【発明者】
【氏名】久森 弘樹
【審査官】 江間 正起
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭57−034367(JP,B1)
【文献】 特開2011−016797(JP,A)
【文献】 有機化合物結晶作製ハンドブック−原理とノウハウ−,丸善株式会社,2008年 7月25日,第2−3、21−23頁
【文献】 化学便覧 応用化学編 第6版,丸善株式会社,2003年 1月30日,第176−178頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 333/76
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
(工程1)o−トリジンの含水物と発煙硫酸とを反応させる工程、
(工程2)反応混合液を水と混合し、析出したo−トリジンスルホンの硫酸塩を分離する工程、
(工程3)o−トリジンスルホンの硫酸塩を水に溶解又は懸濁した状態でアルカリ性にして処理してo−トリジンスルホンとし、粗o−トリジンスルホンとして分離する工程、
(工程4)粗o−トリジンスルホンを水に懸濁した状態で酸性にして処理し、次いでpHを調整することで精製する工程、
を含んで構成されたことを特徴とするo−トリジンスルホンの製造方法。
【請求項2】
工程1において、o−トリジン1モルに対して、反応する三酸化硫黄が4モル以上になるように発煙硫酸を用いて反応させることを特徴とする請求項1に記載のo−トリジンスルホンの製造方法。
【請求項3】
工程2において、反応混合液に混合する水の量は、o−トリジンスルホンの硫酸塩を分離した、残りの混合液中の硫酸濃度が15〜35質量%になるような量にすることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のo−トリジンスルホンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド、ポリイミドなどの原料として好適に用いることができる高純度o−トリジンスルホンの製造方法に関する。この製造方法によれば、o−トリジンスルホンを安全で効率よく経済的に得ることができる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、o−トリジンスルホンをコポリアミド繊維のジアミン成分として使用することが記載されている。この文献には、使用するo−トリジンスルホンについて、o−トリジンを硫酸塩にしたのち、発煙硫酸中でスルホン化することによってo−トリジンスルホンを合成することができる旨記載があり、参考例でo−トリジン硫酸塩を発煙硫酸中で80〜85℃に加温してスルホン化したことが記載されている。そして、参考例では、スルホン化した反応混合液を氷水中に注ぎ、析出した沈殿物を濾取し、この沈殿物を水に加えてアルカリ性にして処理した後で沈殿物を濾取し、更にこの沈殿物を水に加え濃塩酸を加えた後で60〜70℃に加温して溶解させ、その溶液に活性炭とハイドロサルファイトを加えて攪拌処理した後で活性炭を濾過で分離し、その濾液を水酸化ナトリウムで弱アルカリ性にして沈殿物としてo−トリジンスルホンを分離することによって、o−トリジンスルホンを得ている。
【0003】
前記参考例の方法は、反応に発煙硫酸を使用し、後処理では多量の水や酸やアルカリなどを用いて煩雑な操作を行っているが、その製造方法の詳細について検討されていなかった。この為、高純度のo−トリジンスルホンをより安全で効率よく経済的に得ることができる製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭57−34367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、o−トリジンと発煙硫酸とを反応させて、高純度のo−トリジンスルホンをより安全で効率よく経済的に得ることができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の各項に関する。
1. 少なくとも、
(工程1)o−トリジンと発煙硫酸とを反応させる工程、
(工程2)反応混合液を水と混合し、析出したo−トリジンスルホンの硫酸塩を分離する工程、
(工程3)o−トリジンスルホンの硫酸塩を水に溶解又は懸濁した状態でアルカリ性にして処理してo−トリジンスルホンとし、粗o−トリジンスルホンとして分離する工程、
(工程4)粗o−トリジンスルホンを水に懸濁した状態で酸性にして処理し、次いでpHを調整することで精製する工程、
を含んで構成されたことを特徴とするo−トリジンスルホンの製造方法。
【0007】
2. 工程1のo−トリジンとして含水物を用いることを特徴とする前記項1に記載のo−トリジンスルホンの製造方法。
【0008】
3. 工程1において、o−トリジン1モルに対して、反応する三酸化硫黄(SO)が4モル以上になるように発煙硫酸を用いて反応させることを特徴とする前記項1〜2のいずれかに記載のo−トリジンスルホンの製造方法。
【0009】
4. 工程2において、反応混合液に混合する水の量は、o−トリジンスルホンの硫酸塩を分離した、残りの混合液(濾液)中の硫酸濃度が15〜35質量%になるような量にすることを特徴とする前記項1〜3のいずれかに記載のo−トリジンスルホンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、o−トリジンと発煙硫酸とを反応させて高純度のo−トリジンスルホンをより安全で効率よく経済的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のo−トリジンスルホンの製造方法は、少なくとも、
(工程1)o−トリジンと発煙硫酸とを反応させる工程、
(工程2)反応混合液を水と混合し、析出したo−トリジンスルホンの硫酸塩を分離する工程、
(工程3)o−トリジンスルホンの硫酸塩を水に溶解又は懸濁した状態でアルカリ性にして処理してo−トリジンスルホンとし、粗o−トリジンスルホンとして分離する工程、
(工程4)粗o−トリジンスルホンを水に懸濁した状態で酸性にして処理し、次いでpHを調整することで精製する工程、
を含んで構成されたことを特徴とする。
【0012】
本発明の製造方法で用いる原料のo−トリジン類は、下記化学式(1)で表されるようなジメチルベンジジン骨格を有する化合物である。
【0013】
【化1】
【0014】
原料のo−トリジン類は、発がん性の疑いがあり慎重な取り扱いが要求される。このため、無水物を用いてもよいが、含水物を用いるのが好ましい。o−トリジンの含水物は10〜30質量%程度の水を含有しており、粉末になって飛散し難いので比較的安全に取り扱うことができる。また、原料のo−トリジン類として、o−トリジンの硫酸塩などの塩を用いても構わない。
【0015】
発煙硫酸は、硫酸に三酸化硫黄(SO)を溶解させたものであり、硫酸に三酸化硫黄が付加した化合物である。発煙硫酸中の三酸化硫黄は、遊離の三酸化硫黄として反応する。本発明において、発煙硫酸は三酸化硫黄を10〜50質量%、好ましくは20〜30質量%含有するものを好適に用いることができる。
三酸化硫黄は水と反応して直ちに硫酸になる。
【0016】
本発明のo−トリジンスルホンの製造方法では、先ずo−トリジンと発煙硫酸とを反応する工程(工程1)を行う。この反応においては、o−トリジン1モルに対して三酸化硫黄1モルが反応してo−トリジンのベンゼン環に1個のスルホキシル基が導入され、もう1モルの三酸化硫黄により脱水されて環状スルホンが形成されるので、理論的にはo−トリジン類1モルに対して2モルの三酸化硫黄があれば、o−トリジンスルホンを製造することができる。
【0017】
しかしながら、本発明においては、o−トリジン1モルに対して、三酸化硫黄が4モル以上、好ましくは5モル以上、更に好ましくは5.5モル以上になるように発煙硫酸を用いて反応させるのが好適である。三酸化硫黄が4モル未満では環状スルホン化反応が効率的に行われず、得られるo−トリジンスルホンの収率が低くなりやすい。
なお、原料としてo−トリジンの含水物を用いる場合には、それに含有される水1モルと三酸化硫黄1モルとは直ちに反応して硫酸になるため、o−トリジン類に含まれる水と反応して消費される三酸化硫黄の量(水と等モル量)を除いた三酸化硫黄が、o−トリジン類1モルに対して、4モル以上、好ましくは5モル以上、更に好ましくは5.5モル以上になるように発煙硫酸を用いて反応させるのが好適である。
【0018】
また、発煙硫酸を大過剰に用いると、反応後の後処理が困難になるので、o−トリジン1モルに対して、三酸化硫黄が、好ましくは10モル以下、より好ましくは8モル以下、更に好ましくは6.5モル以下、特に好ましくは6.1モル以下になるような量の発煙硫酸を用いて反応させるのが好適である。
【0019】
o−トリジンと発煙硫酸との反応は、好適には次の工程で行うことができる。
まず、所定量の発煙硫酸中に所定量のo−トリジンを加えて均一に溶解する。この時に発熱が起こるので、高温にならないように必要なら冷却しながら攪拌下に少量ずつo−トリジンを加え、50℃以下、好ましくは10〜30℃程度で、0.5〜20時間、好ましくは1〜10時間程度攪拌して均一に溶解させるのが好ましい。
次いで、この溶液を徐々に昇温し、最高温度を100℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは65℃以下、更に好ましくは60℃以下の温度で、0.1〜20時間、好ましくは1〜10時間程度反応を行う。ここでは反応混合物の温度管理が重要である。最高温度が高くなると、発煙硫酸によるスルホン化が更に進行してスルホン酸化合物(o−トリジンスルホンスルホン酸)が副生し易くなるので好ましくない。通常、最高温度は10℃以上、好ましくは30℃以上である。
【0020】
この反応では、前述のとおり発煙硫酸によってスルホン化が更に進行してベンゼン環の水素の位置がスルホン酸に置換したスルホン酸化合物(o−トリジンスルホンスルホン酸)が、目的物のo−トリジンスルホンと共に副生する。この副生成物のスルホン酸化合物は、化学的性質が目的物のo−トリジンスルホンと非常に類似しているために分離除去することが容易ではない。さらに、このスルホン酸化合物(o−トリジンスルホンスルホン酸)は、後工程で使用するアルカリに起因するアルカリ金属やアルカリ土類金属などの金属成分と容易に塩を形成してスルホン酸化合物(o−トリジンスルホンスルホン酸)の塩になる。スルホン酸化合物(o−トリジンスルホンスルホン酸)の塩も容易に分離除去することはできない。これらが残存すると、得られたo−トリジンスルホンの純度が下がり、不純物として金属成分が含有されることになる。
【0021】
o−トリジンスルホンに、副生成物のスルホン酸化合物(o−トリジンスルホンスルホン酸)やその金属塩が残存すると、ポリアミドやポリイミドを得るための重合反応に影響が及ぶことがあり好ましくない。
【0022】
反応終了後の後処理は、次の工程2〜4によって好適に行うことができる。
先ず、反応混合液を水と混合し、析出したo−トリジンスルホンの硫酸塩を分離する工程(工程2)を行う。具体的には、反応混合液を好ましくは40℃程度以下の温度まで冷却する。反応混合液には三酸化硫黄が残存しているので、反応混合液を大量の水(好ましくは氷水)に投入して三酸化硫黄を水と反応させて硫酸にする。この結果、目的物であるo−トリジンスルホンは、硫酸塩になって析出する。
析出したo−トリジンスルホンの硫酸塩を濾取する。この操作によって、溶解成分である硫酸などの溶解性の不純物を除くことができる。
【0023】
ここで使用する水の量は、大量であるほど濾液の硫酸濃度が薄くなり、取り扱いは容易になるかも知れないが、本発明では比較的多くの発煙硫酸を用いているため極めて大きな装置が必要になり、目的物の量に比べて過大な装置が必要になるから実際的ではない。この工程で使用する水の量は、結果として、濾液の硫酸の濃度が15〜35質量%、好ましくは20〜26質量%程度になるように決めるのが、反応工程や精製工程も含めた工程全体の装置の大きさのバランスや濾液の後処理の容易性を勘案すると好適である。濾液の硫酸濃度が35質量%以上の場合は安全性の面で取り扱いが難しく、15質量%以下では取り扱う全体の液量が過大になって装置の大型化や生産性の悪化を招くので好ましくない。
すなわち、使用する水の量は、前記条件を満たすように決めるのが好ましい。原料のo−トリジンの量、発煙硫酸の濃度や量などに依存するので一義的に決められないが、通常用いる水の量は、原料のo−トリジン100質量部当たり3000〜4500質量部、好ましくは3000〜4000質量部、より好ましくは3000〜3500質量部程度が好適である。
【0024】
次いで、o−トリジンスルホンの硫酸塩を水に溶解又は懸濁した状態でアルカリ性にして処理してo−トリジンスルホンとし、粗o−トリジンスルホンとして分離する工程(工程3)を行う。すなわち、濾取したo−トリジンスルホンの硫酸塩からなるウエット結晶は、特に乾燥する必要はなく、再び水に加えて懸濁させ、これに水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリを加えて液をアルカリ性にし、遊離のo−トリジンスルホンとする。水の量は、限定するものではないがo−トリジンスルホンの硫酸塩100質量部に対して通常1000〜3000質量部好ましくは2000〜3000質量部程度であり、アルカリを加えることによってpHが7〜10程度のアルカリ性にするのが好適である。この操作は、液を懸濁状態のままで好適に行うことができる。アルカリは、o−トリジンスルホンの硫酸塩をアルカリ性の環境にするのが目的であるから、特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウムなどの強アルカリがよく、それらは水溶液にして加えるのが好ましい。
この懸濁液を濾過して粗o−トリジンスルホンを得ることができる。
【0025】
この濾取した粗o−トリジンスルホン中には、加えたアルカリ成分に起因した例えば硫酸ナトリウムのような塩が多量に残存している。
また、反応混合液には副生成物であるスルホン酸化合物類(o−トリジンスルホンスルホン酸)の硫酸塩が含まれ、前記処理によっても分離除去できず残存しているので、この副生成物もスルホン酸化合物(o−トリジンスルホンスルホン酸)のナトリウム塩のような塩になって、粗o−トリジンスルホン中に残存している。
【0026】
このため、粗o−トリジンスルホンはさらに精製する必要があり、粗o−トリジンスルホンを水に懸濁した状態で酸性にして処理し、次いでpHを調整することで精製する工程(工程4)を行う。
すなわち、粗o−トリジンスルホン類の精製は、酸性水溶液で処理して、前工程で加えたアルカリと反応して生じた塩を取り除く方法によって好適に行われる。
具体的には、特許文献1に記載されているように、大量の水と塩酸でo−トリジンスルホンを塩酸塩にして溶解し、更に活性炭やハイドロサルファイトで不純物を除去した後で、水酸化ナトリウム水溶液を加えて弱アルカリ性にpH調整することによってo−トリジンスルホンを沈殿させ、濾過して回収する方法でも可能かも知れない。しかし、この方法では、o−トリジンスルホンの塩酸塩は水への溶解度が非常に低いために液量が多くなるので、非常に大きな装置が必要になり、生産性も良くない。
本発明のo−トリジンスルホンの製造方法においては、粗o−トリジンスルホンを塩酸塩として完全に溶解させず、酸性水溶液中で懸濁させた状態のままで処理し、その後水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ成分を加えてpHを調製することによって、必要な品質のo−トリジンスルホンを得る。この方法によれば、取り扱う液量が比較的少なくて済み、従って過大な装置を必要とせず、生産性は良好である。
【0027】
酸性水溶液中で懸濁させた状態のままで処理する方法において、洗浄の効果・効率を考えた場合、酸性にするために用いる酸は比較的溶解性が高い塩酸を用いるのが好ましい。硫酸や燐酸などの他の酸でも構わないが、洗浄の効果・効率が悪くなる。
【0028】
また、得られるo−トリジンスルホンに含有されるナトリウムなどの金属成分の量を減少させるためには、粗o−トリジンスルホンを酸性水溶液で処理した後のアルカリ成分によるpH調整において、特許文献1に記載のような弱アルカリ性に調整するのではなく、pHを好ましくは7以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下、特に好ましくは4以下、更に好ましくは3以下、特に好ましくは2.5以下であって、1.5以上の酸性領域に調整することが好適である。このような調整によって、濾過に要する期間を大幅に短縮できるので生産効率を改善することができる。また、ナトリウムなどの金属成分の含有量を好ましくは150ppm以下好ましくは100ppm以下より好ましくは80ppm以下に抑制することができる。
【0029】
前記精製後、濾過によって得られたo−トリジンスルホンは、好ましくはエタノールなどで洗浄した後で、好ましくは減圧下、130℃以下、特に100〜120℃程度の温度範囲で加熱することによって好適に乾燥することができる。
【0030】
本発明において得られるo−トリジンスルホンは、下記化学式(2)(3)(4)で表される異性体の混合物である。
【0031】
【化2】
【0032】
【化3】
【0033】
【化4】
【0034】
なお、本発明における副生成物のo−トリジンスルホンスルホン酸は、下記化学式(5)で表される化合物である。
【0035】
【化5】
【0036】
本発明によれば、副生成物のo−トリジンスルホンスルホン酸の含有量が少ない高純度のo−トリジンスルホンをより安全で効率よく経済的に得ることができる。このような高純度のo−トリジンスルホンは、ポリアミドやポリイミドなどのポリマーのジアミン成分として好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0038】
以下の例で用いた測定方法は次のとおりである。
[HPLC分析]
HPLC分析条件は以下のとおり。
測定装置:高速液体クロマトグラフ L−7000シリーズ 日立製作所製
カラム:ODS−80Ts 250mm×4.6mm
カラム温度:40℃
溶離液:MeOH/H
流量:1ml/min
グラジエント:5/95(0−10min)→50/50(19−45min)
検出器:紫外吸光検出器
検出波長:254nm
この分析条件で、リテンションタイム5〜45分のピークをカウントした。例えばリテンションタイムが22〜24分付近にo−トリジンスルホンスルホン酸の異性体の複数のピーク、24〜28分付近にo−トリジンスルホンの異性体の複数のピークが得られた。
【0039】
[純度の算出]
o−トリジンスルホンの純度(%)とo−トリジンスルホンスルホン酸の含有量(%)は、HPLC分析結果(ピーク面積)から下式に従って計算した。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
[硫酸塩からなるウエット結晶のHPLC測定から収率(%)の算出]
前記の純度算出で純度が確認された高純度のo−トリジンスルホンを標準品として用い、標準品とo−トリジンスルホン硫酸塩のサンプルを、それぞれHPLC測定を行い、得られる両者のo−トリジンスルホンのピーク面積から、下式に従ってo−トリジンスルホン硫酸塩サンプルのo−トリジンスルホン純度を求めた。
【0043】
【数3】
算出したo−トリジンスルホン硫酸塩のo−トリジンスルホン純度とo−トリジンスルホン硫酸塩の質量より、o−トリジンスルホン硫酸塩として得られたo−トリジンスルホンのモル数を求め、下記算出式に従って収率(%)を算出した。
【0044】
【数4】
【0045】
[収率の算出]
収率(%)は下式に従って算出した。
【0046】
【数5】
【0047】
[金属の含有量]
金属成分の含有量(ppm)は、試料を硫酸と硝酸で加熱分解後、超純水で定容して検液とし、ICP−AES法により下記の測定装置を用いて分析を行った。単位は(μg/g)=(ppm)である。
測定装置:ICP−AES・エスアイアイ・ナノテクノロジー社製SPS5100型
【0048】
〔実施例1〕
(工程1)温度計、還流冷却器、撹拌機を付けた内容量500mlの四つ口フラスコに、30質量%発煙硫酸350g(三酸化硫黄として1.31mоl)を入れ、内温を30℃から40℃に保ちながら、20質量%含水o−トリジン38.7g(o−トリジンとして31.0g、0.146mol)を発熱に注意しながら少しずつ添加した。水で分解する分を除いた三酸化硫黄とo−トリジンとのモル比(三酸化硫黄/o−トリジン)は6.0であった。その後、内温30℃で30分撹拌し、更に30分掛けて60℃に昇温し、同温度で1時間撹拌、更に30分掛けて80℃に昇温し、同温度で1.5時間撹拌した。
(工程2)この反応液を40℃まで冷却した後、約1000mlの氷水に注ぎ、析出したo−トリジンスルホン硫酸塩の薄い褐色の結晶を濾過してウエット結晶169.9gを得た。この硫酸塩結晶からなるウエット結晶をHPLCで分析したところo−トリジンスルホンの量は38.4g(0.140mol)であり、これは収率95.9%に相当した。また、このときの濾液の硫酸濃度は25.9質量%であった。
(工程3)得られた硫酸塩結晶からなるウエット結晶を水750mlに加え、更に40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9にし、90℃に加温し、生じた遊離のo−トリジンスルホンの粗結晶を濾取した。
(工程4)この粗o−トリジンスルホンを水600mlに投入し、36質量%塩酸水溶液95gを加えて懸濁した状態で酸性にして加温し80℃で2時間撹拌した。この液を冷却し、室温で40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを2に調整し析出した黄色結晶を濾取した。
(後処理)結晶を水及びエタノールで洗浄した後、減圧下110℃で乾燥して、o−トリジンスルホンの黄色結晶37.9g(0.138mоl)を収率94.5%で得た。得られた結晶のo−トリジンスルホン純度はHPLC分析で98.7%(三種類の異性体合計)であり、不純物o−トリジンスルホンスルホン酸の含有量は1.22%、ナトリウム含有量は82ppmで品質上問題はなかった。
前記一連の操作において、操作容量が大きいのは、反応液を氷水に注いだ工程2で約1300mlであり、粗o−トリジンスルホンを水に懸濁した状態で酸性にして処理し、次いでpHを調整することで精製する工程4で約900mlであった。
【0049】
〔比較例1〕
特許文献1の参考例に準じてo−トリジンスルホンの製造を試みた。
(工程1)温度計、還流冷却器、撹拌機を付けた内容量500mlの四つ口フラスコに、30質量%発煙硫酸356g(三酸化硫黄として1.33mоl)を入れ、内温を30℃から40℃に保ちながら、20質量%含水o−トリジン38.7g(o−トリジンとして31.0g、0.146mol)を発熱に注意しながら少しずつ添加した。水で分解する分を除いた三酸化硫黄とo−トリジンのモル比(三酸化硫黄/o−トリジン)は6.2であった。その後、内温30℃で30分撹拌し、更に30分掛けて60℃に昇温し、同温度で1時間撹拌、更に30分掛けて80℃に昇温し、同温度で1.5時間撹拌した。
(工程2)この反応液を40℃まで冷却した後、約1800mlの氷水に注ぎ、析出したo−トリジンスルホン硫酸塩の薄い褐色の結晶を濾過してウェット結晶を得た。濾液の硫酸濃度は16.4質量%だった。
(工程3)得られた硫酸塩結晶を水750mlに加え、更に40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてアルカリ性にし、90℃に加温し、生じた遊離のo−トリジンスルホンの粗結晶を濾取した。
(工程4)この粗結晶を水1800mlに投入し、36質量%塩酸水溶液360gを加えて加温して80℃とし、塩酸塩として溶解させ2時間撹拌した。この液の不溶物を濾別後、液を冷却し、室温で40%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9に調整し析出した黄色結晶を濾取した。
(後処理)結晶を水及びエタノールで洗浄した後、減圧下110℃で乾燥して、o−トリジンスルホンの黄色結晶34.4g(0.125mоl)を収率85.6%で得た。得られた結晶のo−トリジンスルホン純度はHPLC分析で98.2%(三種類の異性体合計)であり、品質上問題なかった。
前記一連の操作において、操作容量が大きいのは、反応液を氷水に注いだ工程2で約2000mlであり、粗o−トリジンスルホンを水に懸濁した状態で酸性にして処理し、次いでpHを調整することで精製する工程4で約2600mlであったので、非常に大きな装置が必要になった。
【0050】
〔実施例2〕
(工程1)温度計、還流冷却器、撹拌機を付けた内容量100mlの四つ口フラスコに、30質量%発煙硫酸70g(三酸化硫黄として0.26mоl)を入れ、内温を30℃から40℃に保ちながら、36質量%含水o−トリジン8.71g(o−トリジンとして5.57g、0.0262mol)を発熱に注意しながら少しずつ添加した。水で分解する分を除いた三酸化硫黄とo−トリジンとのモル比(三酸化硫黄/o−トリジン)は3.3であった。その後、内温30℃で30分撹拌し、更に30分掛けて60℃に昇温し、同温度で1時間撹拌、更に30分掛けて80℃に昇温し、同温度で1.5時間撹拌した。
(工程2)この反応液を40℃まで冷却した後、約185mlの氷水に注ぎ、析出したo−トリジンスルホン硫酸塩の薄い褐色の結晶を濾過してウエット結晶を得た。このウエット結晶をHPLCで分析したところo−トリジンスルホンの量は5.77g(0.0210mol)であり、これは収率80.2%に相当した。また、このときの濾液の硫酸濃度は26.9質量%であった。
(工程3〜後処理)得られた硫酸塩結晶からなるウエット結晶を水150mlに加え、更に40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9にし、90℃に加温し、生じた遊離のo−トリジンスルホンの粗結晶を濾取した。この粗o−トリジンスルホンを水120mlに投入し、36質量%塩酸水溶液19gを加えて懸濁した状態で酸性にして加温し80℃で2時間撹拌した。この液を冷却し、室温で40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを2に調整し析出した黄色結晶を濾取した。結晶を水及びエタノールで洗浄した後、減圧下110℃で乾燥して、o−トリジンスルホンの黄色結晶5.70g(0.0208mоl)を収率79.1%で得た。
【0051】
〔実施例3〕
(工程1)温度計、還流冷却器、撹拌機を付けた内容量100mlの四つ口フラスコに、30質量%発煙硫酸78g(三酸化硫黄として0.29mоl)を入れ、内温を30℃から40℃に保ちながら、36質量%含水o−トリジン8.74g(o−トリジンとして5.59g、0.0263mol)を発熱に注意しながら少しずつ添加した。水で分解する分を除いた三酸化硫黄とo−トリジンとのモル比(三酸化硫黄/o−トリジン)は4.5であった。その後、内温30℃で30分撹拌し、更に30分掛けて60℃に昇温し、同温度で1時間撹拌、更に30分掛けて80℃に昇温し、同温度で1.5時間撹拌した。
(工程2)この反応液を40℃まで冷却した後、約210mlの氷水に注ぎ、析出したo−トリジンスルホン硫酸塩の薄い褐色の結晶を濾過してウエット結晶を得た。このウエット結晶をHPLCで分析したところo−トリジンスルホンの量は6.49g(0.0236mol)であり、これは収率89.7%に相当した。また、このときの濾液の硫酸濃度は26.6質量%であった。
(工程3〜後処理)得られた硫酸塩結晶からなるウエット結晶を水150mlに加え、更に40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9にし、90℃に加温し、生じた遊離のo−トリジンスルホンの粗結晶を濾取した。この粗o−トリジンスルホンを水120mlに投入し、36質量%塩酸水溶液19gを加えて懸濁した状態で酸性にして加温し80℃で2時間撹拌した。この液を冷却し、室温で40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを2に調整し析出した黄色結晶を濾取した。結晶を水及びエタノールで洗浄した後、減圧下110℃で乾燥して、o−トリジンスルホンの黄色結晶6.42g(0.0234mоl)を収率88.8%で得た。
【0052】
〔実施例4〕
(工程1)温度計、還流冷却器、撹拌機を付けた内容量100mlの四つ口フラスコに、30質量%発煙硫酸85g(三酸化硫黄として0.32mоl)を入れ、内温を30℃から40℃に保ちながら、36質量%含水o−トリジン8.73g(o−トリジンとして5.59g、0.0263mol)を発熱に注意しながら少しずつ添加した。水で分解する分を除いた三酸化硫黄とo−トリジンとのモル比(三酸化硫黄/o−トリジン)は5.5であった。その後、内温30℃で30分撹拌し、更に30分掛けて60℃に昇温し、同温度で1時間撹拌、更に30分掛けて80℃に昇温し、同温度で1.5時間撹拌した。
(工程2)この反応液を40℃まで冷却した後、約220mlの氷水に注ぎ、析出したo−トリジンスルホン硫酸塩の薄い褐色の結晶を濾過してウエット結晶を得た。このウエット結晶をHPLCで分析したところo−トリジンスルホンの量は6.82g(0.0249mol)であり、これは収率94.7%に相当した。また、このときの濾液の硫酸濃度は27.4質量%であった。
(工程3〜後処理)得られた硫酸塩結晶からなるウエット結晶を水150mlに加え、更に40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9にし、90℃に加温し、生じた遊離のo−トリジンスルホンの粗結晶を濾取した。この粗o−トリジンスルホンを水120mlに投入し、36質量%塩酸水溶液19gを加えて懸濁した状態で酸性にして加温し80℃で2時間撹拌した。この液を冷却し、室温で40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを2に調整し析出した黄色結晶を濾取した。結晶を水及びエタノールで洗浄した後、減圧下110℃で乾燥して、o−トリジンスルホンの黄色結晶6.73g(0.0245mоl)を収率93.2%で得た。
【0053】
〔実施例5〕
(工程1)温度計、還流冷却器、撹拌機を付けた内容量100mlの四つ口フラスコに、30質量%発煙硫酸103g(三酸化硫黄として0.39mоl)を入れ、内温を30℃から40℃に保ちながら、36質量%含水o−トリジン8.78g(o−トリジンとして5.62g、0.0265mol)を発熱に注意しながら少しずつ添加した。水で分解する分を除いた三酸化硫黄とo−トリジンとのモル比(三酸化硫黄/o−トリジン)は8.0であった。その後、内温30℃で30分撹拌し、更に30分掛けて60℃に昇温し、同温度で1時間撹拌、更に30分掛けて80℃に昇温し、同温度で1.5時間撹拌した。
(工程2)この反応液を40℃まで冷却した後、約300mlの氷水に注ぎ、析出したo−トリジンスルホン硫酸塩の薄い褐色の結晶を濾過してウエット結晶を得た。このウエット結晶をHPLCで分析したところo−トリジンスルホンの量は7.09g(0.0258mol)であり、これは収率97.4%に相当した。また、このときの濾液の硫酸濃度は25.2質量%であった。
(工程3〜後処理)得られた硫酸塩結晶からなるウエット結晶を水150mlに加え、更に40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9にし、90℃に加温し、生じた遊離のo−トリジンスルホンの粗結晶を濾取した。この粗o−トリジンスルホンを水120mlに投入し、36質量%塩酸水溶液19gを加えて懸濁した状態で酸性にして加温し80℃で2時間撹拌した。この液を冷却し、室温で40質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを2に調整し析出した黄色結晶を濾取した。結晶を水及びエタノールで洗浄した後、減圧下110℃で乾燥して、o−トリジンスルホンの黄色結晶6.98g(0.0254mоl)を収率96.1%で得た。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法によれば、o−トリジンと発煙硫酸とを反応させて高純度のo−トリジンスルホンをより安全で効率よく経済的に得ることができる。