【実施例】
【0041】
(実施例1:新規4−ビニルカテコール重合化合物の生成)
カフェ酸(和光純薬工業(株)製)1gをエタノール20mlに溶解し、ミネラルウォーター(商品名「ゲロルシュタイナー」サッポロ飲料(株)製)20mlを加えた混合液(pH5.0)をオートクレーブ(商品名「SANYO LABO AUTOCLAVE」、三洋電機(株)製)にて130℃、40分間加熱した(1度目の加熱処理)。得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、このうちの10μlをHPLCにより分析した。
さらに、エタノール10ml、ミネラルウォーター10mlを加え(pH5.4)、再度オートクレーブにて130℃、40分間加熱し(2度目の加熱処理)、同様に希釈後、HPLC分析した。
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H
2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1ml/min
注入:10μl
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
【0042】
得られたクロマトグラムを
図1に示す。上からカフェ酸、1度目の加熱、2度目の加熱のクロマトグラムを示している。上図ではカフェ酸のピークが示されている。次いで、1度目の加熱でAのピーク(中図)で示された4−ビニルカテコールが増大し、さらに、2度目の加熱で、カフェ酸、とAのピークが減少し、増大したピークがいくつか確認されたことから、複数の化合物が生成されていることが確認された。中でも、Bのピークで示された化合物は、カフェ酸から、4−ビニルカテコールを経て、生成されていることがわかる。
【0043】
(実施例2:新規4−ビニルカテコール重合化合物の単離・構造決定)
実施例1で得られた反応物のうち、
図1のBで示したピークに含まれる化合物を分取HPLCにより単離し、常法により乾燥したところ新規化合物(以下UHA6006)を10mg得た。単離精製したUHA6006は、褐色粉末状物質となった。
【0044】
次いで、前記UHA6006の分子量を高分解能電子イオン化質量分析法(Electron Ionization−Mass Spectrometry)にて測定したところ、測定値は408.4440であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C24H24O6(M
+) : 408.4438
分子式C
24H
24O
6
【0045】
次に、前記UHA6006を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から、前記UHA6006が式(1)で表される構造を有することを確認した。式(1)で表される4−ビニルカテコール重合化合物は本発明の方法で効率的に生成できることが示された。
【0046】
なお、NMR測定値について、式(1)で表されるUHA6006の各部位を
【0047】
【化3】
【0048】
として、それぞれの
1H核磁気共鳴スペクトル、
13C核磁気共鳴スペクトルをそれぞれ表1に示す。
値はδ、ppmで、溶媒はメタノール−d3で測定した値である。
【0049】
【表1】
【0050】
また、前記UHA6006の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
褐色粉末
(溶解性)
水: 不溶
メタノール: 可溶
エタノール: 可溶
DMSO: 可溶
クロロホルム: 可溶
酢酸エチル: 可溶
【0051】
(実施例3:UHA6006のリパーゼ阻害作用)
リパーゼに対する各化合物の阻害作用を見るため、ラット腸由来リパーゼを用いての阻害作用試験を行った。
リパーゼは、ラット腸アセトンパウダー(シグマアルドリッチジャパン(株)製)100mgを100mMクエン酸バッファー(pH6.0)1mlに懸濁して4℃で1時間撹拌し、これを遠心分離(15000rpm、45分間、4℃)した上清を400倍希釈したものをリパーゼ溶液として使用した。
試料は、カフェ酸(和光純薬工業(株)製)と、本発明品であるUHA6006、従来よりリパーゼ阻害作用が高いとされる緑茶成分のエピガロカテキンガレート(EGCg、和光純薬工業(株)製)の3種類を用いた。試料調製については、各々の化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド、和光純薬工業(株)製)にて溶解し、0.1mM、0.5mM、1mM、2mM、4mMに調製したものを使用した。
活性測定には「リパーゼキットS」(商品名、大日本製薬(株)製)を使用した。まず、リパーゼキットSのカタログに記載の調製法に従い発色液を調製した。発色液を70μl、エステラーゼ阻害剤を2μl、リパーゼ溶液を10μl、試料を10μl(終濃度10μM、50μM、100μM、200μM、400μM)混合した反応液を調製し、30℃で5分間プレインキュベートした後に基質溶液を8μl添加して反応を開始した。10分間の反応後、リパーゼキットSのカタログに記載の調製法に従い調製した反応停止液を150μl添加して反応を停止した。これを測定波長415nmの吸光度測定をおこなった。試料の溶媒であるDMSOのみを添加した反応液をポジティブコントロールとし、リパーゼ溶液の代わりに100mMクエン酸バッファー(pH6.0)10μlを添加したものをネガティブコントロールとした。これらから得られたデータを基に算出したリパーゼ阻害率と各化合物濃度の関係から、リパーゼ活性を50%阻害する濃度IC
50(50%阻害濃度:half maximal inhibitory concentration)を算出した(表2)。これらの結果からUHA6006には高いリパーゼ阻害活性が認められた。この効果はカフェ酸では認められず、エピガロカテキンガレートと比べても2倍程度高い活性を有していることからカフェ酸を4−ビニルカテコール重合化合物に変換する有意性が強く示唆された。
【0052】
したがって、UHA6006は優れたリパーゼ阻害作用を奏することから、抗肥満剤として、さらにはメタボリックシンドローム予防剤として有用であると考えられる。また、皮膚におけるリパーゼ阻害はニキビ予防・治癒に有効であるから、ニキビ予防・治癒などの皮膚疾患治療剤としても有用であると考えられる。
【0053】
【表2】
【0054】
(実施例4:UHA6006の抗癌作用)
次に癌細胞に対する各化合物の効果を見るため、HL−60細胞(Human promyelocytic leokemia cells:ヒト骨髄球性白血病細胞)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0055】
HL−60細胞の培養には、4mMグルタミン(L−Glutamine、シグマアルドリッチジャパン(株)製)、10%FBS(Foetal Bovine Serum、バイオロジカルインダストリーズ社製)を含む高栄養培地RPMI−1690(シグマアルドリッチジャパン(株)製)を使用した。試験には細胞培養用96ウェルプレート(コーニングジャパン(株)製)を用い、5×10
5cells/mlとなるように細胞数を調整したHL−60細胞を1ウェルあたり100μlずつ播種した。
【0056】
試料は、カフェ酸と、本発明品であるUHA6006の2種類を用いた。試料調製については、各々の化合物をDMSOにて溶解し、HL−60細胞培養液中の最終濃度がそれぞれ6.3μM、12.5μM、25μM、50μM、及び100μMとなるように調整し、試験を開始した。
【0057】
生存細胞数の定量は「Cell counting kit−8」(商品名、ドージンドー・モレキュラー・テクノロジー(株)製)を用いたMTT法にて行った。試験開始より24時間後、各ウェルにCell counting kit−8溶液を10μl添加し、よく攪拌した。1時間の遮光反応後にプレートリーダー(「BIO−RAD Model 680」、バイオ・ラッドラボラトリーズ(株)製)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した(
図2)。細胞生存率とは、溶媒であるDMSOのみを添加した培養液の生存細胞数を100%とし、各化合物の濃度下における細胞の生存細胞数を相対値として算出した値である。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC
50(50%阻害濃度:half maximal inhibitory concentration)を算出した(表3)。これらの結果から、UHA6006には、強い癌細胞増殖抑制能が認められた。この効果は、カフェ酸には全く認められず、カフェ酸を4−ビニルカテコール重合化合物に変換する有意性が強く示唆された。
【0058】
【表3】
【0059】
(実施例5:加熱温度によるUHA6006の生成量の違い)
カフェ酸100mg、エタノール1ml、ミネラルウォーター1mlの混合溶液(pH=5.0)を、オートクレーブにて70℃、90℃、110℃、130℃の各温度条件で20分間加熱した。それぞれの温度条件で得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析した。
【0060】
その結果、70℃を除きUHA6006の生成は確認できた。カフェ酸からの生成費比率(重量%)は、70℃が非生成、90℃が極微量、110℃が極微量、130℃が1%となり、130℃での加熱がもっとも多くUHA6006が生成していた。
【0061】
(実施例6:UHA6006含有エキスの調製)
キウィフルーツジュース濃縮物10g、エタノール10ml、ミネラルウォーターを10ml加えて調製した混合溶液を、オートクレーブにて130℃、60分間加熱した。得られた反応溶液を減圧加熱させて乾固し、UHA6006含有エキスを10g得た。得られたUHA6006エキス10g中には、実施例5と同様の手法で確認したところUHA6006が0.005g含有されていた。必要に応じてこの作業を繰り返した。
【0062】
(実施例7:UHA6006を含有する食品)
実施例6で得たUHA6006含有エキス1gをあらかじめ100mLのエタノールに溶解させ、これに砂糖500g、水飴400gを混合溶解し、生クリーム100g、バター20g、練乳70g、乳化剤1.0gを混合した後、真空釜にて−550mmHg減圧させ、115℃の条件下で濃縮し、水分値3.0重量%のミルクハードキャンディを得た。このミルクハードキャンディは、菓子として食べ易いものであることはもちろん、肥満予防による、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防や、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を期待した機能性食品としても利用できる。
【0063】
(実施例8:UHA6006を含有する医薬品)
実施例1,2と同様の方法で得たUHA6006をエタノールに溶解し、これを微結晶セルロースに吸着させた後に、減圧乾燥させた。これを常法に従い、打錠品を得た。処方は、フラバン化合物を10重量部、コーンスターチ23重量部、乳糖12重量部、カルボキシメチルセルロース8重量部、微結晶セルロース32重量部、ポリビニルピロリドン4重量部、ステアリン酸マグネシウム3重量部、タルク8重量部の通りである。本打錠品は、癌治癒を目的とする医薬品として有効に利用できる。
【0064】
(実施例9:UHA6006を含有する化粧品)
テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット1重量部、ポリオキシエチレンステアリルエーテル0.5重量部、親油型モノステアリン酸グリセリン1重量部、ピルビン酸0.5重量部、ステアリルアルコール0.5重量部、アボガド油1重量部、実施例1及び2と同様の方法で得たUHA6005の0.1重量部を、常法に従って溶解させ、これに、乳酸ナトリウム1重量部、プロピレングリコール5重量部、カルボキシビニルポリマー0.1重量部、ごく少量の香料及び精製水89.3重量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、乳液を得た。本乳液は、ニキビなどの皮膚疾患治療や予防効果をもつ薬用化粧品として有効に利用できる。