【実施例】
【0020】
以下に、本発明の回転電機用のロータ
に用いるロータコアの製造方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
(
参考例)
本例の回転電機用のロータ1は、
図2に示すごとく、電磁鋼板21を軸方向に積層して形成したロータコア2と、ロータコア2に設けた磁石配置開口穴22に対して、径方向Rに対して斜めに磁極形成側面41が位置する状態で埋設した磁石4とを備えている。磁極形成側面41とは、磁石4のN極又はS極の磁極を形成する側面のことをいう。
図1に示すごとく、磁石4における磁極形成側面41以外の側面のうち径方向外周側に位置する外周側側面42には、磁石配置開口穴22の一部によって外周側空隙部23が隣接して形成されている。外周側空隙部23とロータコア2の外周面20との間には、ロータコア2の一部によって外周側ブリッジ部24が形成されている。外周側空隙部23において外周側ブリッジ部24に接するコア側面221には、ロータコア2の一部が溶融した後に凝固してなる凝固層31が形成されている。同図において、凝固層31を太線によって示す。
【0021】
以下に、本例の回転電機用のロータ1につき、
図1〜
図11を参照して詳説する。
本例のロータ1は、ステータの内周側に配置して回転するインナーロータである。また、本例のロータ1は、3相の回転電機に用いられるものである。
図3に示すごとく、磁石配置開口穴22における凝固層31は、軟磁性を有する各電磁鋼板21に対してそれぞれ形成されたものであり、ロータコア2は、凝固層31を形成した電磁鋼板21を軸方向に積層して形成されている。なお、ロータコア2の軸方向は、
図3において、紙面に垂直な方向である。
図2に示すごとく、本例の磁石4は、ロータコア2に対し、一対の磁石組Aを構成して、外周側に向けて磁極形成側面41同士の間の間隔が広がるV形状に配置されている。そして、ロータ1は、ロータコア2に対して一対の磁石組Aを周方向Cに等間隔に配置して形成されている。
【0022】
また、
図1、
図3に示すごとく、磁石4における磁極形成側面41以外の側面のうち径方向内周側に位置する残りの内周側側面43には、磁石配置開口穴22の一部によって内周側空隙部25が隣接して形成されている。一対の磁石組Aを構成する磁石4に対する内周側空隙部25同士の間には、ロータコア2の一部によって内周側ブリッジ部26が形成されている。内周側空隙部25において内周側ブリッジ部26に接するコア側面222には、ロータコア2の一部が溶融した後に凝固してなる凝固層31が形成されている。各図において、凝固層31を太線によって示す。
外周側空隙部23及び内周側空隙部25における凝固層31は、プレスによって打抜き加工を行う磁石配置開口穴22の一部に形成したものであり、磁石配置開口穴22の形成前又は形成後のいずれの時期に形成することもできる。磁石配置開口穴22において、凝固層31を形成した部分以外の部分には、打抜き加工による打抜き面32が形成されている。
【0023】
外周側空隙部23及び内周側空隙部25には、非磁性の樹脂等を充填しておくことができる。
本例の外周側ブリッジ部24は、ロータコア2の外周面20に沿って略均一な幅で形成されており、内周側ブリッジ部26は、内周側空隙部25同士の間において径方向Rに向けて略均一な幅で形成されている。
本例の一対の磁石組Aは、各磁石4のN極が外周側に位置して配置されている。各磁石4のN極から生じる磁束Xは、ロータコア2における一対の磁石4の間の領域を通過した後ステータコア5を通過し、ステータコア5からロータコア2を通過した後、各磁石4のS極へ復帰して、磁路を形成する。なお、各磁石4は、N極を内周側に、S極を外周側に配置することもできる。
【0024】
本例の回転電機用のロータ1は、磁石配置開口穴22の外周側空隙部23において外周側ブリッジ部24に接するコア側面221の状態及び磁石配置開口穴22の内周側空隙部25において内周側ブリッジ部26に接するコア側面222の状態に工夫をすることにより、外周側ブリッジ部24及び内周側ブリッジ部26に漏れ磁束Yが発生し難くしている。
具体的には、外周側空隙部23において外周側ブリッジ部24に接するコア側面221及び内周側空隙部25において内周側ブリッジ部26に接するコア側面222には、ロータコア2の一部が溶融した後に凝固してなる凝固層31を形成している。この凝固層31の形成により、
図4に示すごとく、電磁鋼板21の平面方向であって各ブリッジ部24、26における凝固層31の形成方向Lに引張応力σ1を作用させることができると共に、凝固層31に隣接する部分311において、電磁鋼板21の平面方向であって各ブリッジ部24、26の形成方向Lに圧縮応力σ2を作用させることができる。
【0025】
図5は、磁石配置開口穴22におけるコア側面221及びコア側面222に対して、凝固層31を形成した状態の断面を写真によって示す。凝固層31は、コア側面221、222の表面部分に10〜30μmの厚みで形成されている。
図6は、プレスによる打抜き加工によって形成された打抜き面32の表面の写真を示す。打抜き面32においては、打抜き加工の打抜き前半部分に剪断面321が形成され、後半部分に破断面322が形成されている。
図7は、レーザー加工によって凝固層31を形成したコア側面221及びコア側面222の表面の写真を示す。凝固層31の表面は、打抜き加工を行った場合と比べて大きく異なることがわかる。
【0026】
図1に示すごとく、上記凝固層31を形成したことにより、ロータ1をステータの内周側に配置して、磁石4のN極からロータコア2及びステータコア5を通過して磁石4のS極に戻る磁束Xによる磁路を形成する際には、圧縮応力σ2により各ブリッジ部24、26を磁束Xが通過し難くすることができ、各ブリッジ部24、26に漏れ磁束Yが発生し難くすることができる。
また、本例の凝固層31を形成した各ブリッジ部24、26は、磁束Xが流れる方向と同一方向に圧縮応力σ2が付与されるため、磁束が通過し難い性質が強く、従来のレーザーピーニング処理を行った場合に比べて、発生する漏れ磁束Yを格段に低減させることができる。
また、凝固層31の形成によって漏れ磁束Yの発生を低減させていることにより、各ブリッジ部24、26の幅を、大幅に狭くする必要がなくなり、その強度を確保するために必要な適切な幅にすることができる。
【0027】
それ故、本例の回転電機用のロータ1によれば、必要な強度を確保することができると共に漏れ磁束Yが発生し難くすることができるブリッジ部を形成することができる。
【0028】
(確認試験)
図8は、横軸に、切断端面(コア端面)からの幅方向位置(mm)をとり、縦軸に、残留応力(MPa)をとって、幅方向W(凝固層31の形成方向Lに直交する平面方向)(
図4参照)における残留応力の分布を推定したグラフを示す。凝固層31の形成部分には引張応力σ1が作用し、凝固層31に隣接する部分(母材)311には圧縮応力σ2が作用していると考える。
図9は、横軸に、切断端面(コア端面)からの幅方向位置(mm)をとり、縦軸に、残留応力(MPa)をとって、幅方向Wにおける残留応力の分布を実測した結果を示す。同図より、凝固層31に近い部分には、凝固層31の形成方向Lに向けて引張応力σ1が作用し、凝固層31に隣接する部分311には、凝固層31の形成方向Lに向けて圧縮応力σ2が作用していることがわかる。
【0029】
(他の構造)
上記磁石配置開口穴22及び磁石4の配置構造は、上述した構造以外の種々の構造とすることができる。
例えば、
図10に示すごとく、一対の磁石組Aの内周側にも、一対の内周側磁石組Bとして、一対の磁石組Aにおける各磁石4と平行に内周側磁石4Aを配置することができる。そして、内周側磁石4Aを配置する磁石配置開口穴22についても、外周側空隙部23及び内周側空隙部25を形成すると共に、ブリッジ部に接するコア側面に凝固層31を形成することができる。また、内周側磁石4Aに隣接する内周側空隙部25同士の間には、中間空隙部27を形成することができる。そして、中間空隙部27においてブリッジ部26に接するコア側面にも、凝固層31を形成することができる。
【0030】
また、一対の磁石4の間であってロータコア2の外周面20に隣接する位置に他の空隙部28を形成した場合には、この空隙部28と外周面20との間にブリッジ部29が形成される。そして、他の空隙部28においてブリッジ部29に接するコア側面に、凝固層31を形成することができる。
この場合には、磁束Xを、各内周側磁石4AのN極から各磁石4のS極へ通過させ、各磁石4のN極からロータコア2、ステータコア5、ロータコア2を通過させて、各内周側磁石4AのS極へ復帰させることができる。なお、各磁石4、4Aの磁極は反対向きにすることもできる。
【0031】
また、例えば、
図11に示すごとく、一対の磁石4を配置した各磁石配置開口穴22においては外周側空隙部23のみを形成し、内周側空隙部25を形成する代わりに、一対の磁石4の内周側に、一対の磁石4を含む部分を内周側から囲むように内周側包囲空隙部250を形成することもできる。この場合には、外周側空隙部23において外周側ブリッジ部24に接するコア側面221、及び一対の磁石4の間に形成された中間ブリッジ部260に接するコア側面に凝固層31を形成することができる。また、内周側包囲空隙部250の端部とロータコア2の外周面20との間には、他のブリッジ部240が形成されており、内周側包囲空隙部250において他のブリッジ部240に接するコア側面に凝固層31を形成することもできる。
この場合には、磁束Xを、一対の磁石4のN極から内周側包囲空隙部250の外周側に隣接するロータコア2の部分、ステータコア5、一対の磁石4の外周側に位置するロータコア2の部分を通過させて、一対の磁石4のS極へ復帰させることができる。なお、各磁石4、4Aの磁極は反対向きにすることもできる。
【0032】
(実施例
1)
本例は、上記
参考例に示したロータコア2を製造する方法について示す例である。
本例においては、ロータコア2を構成する電磁鋼板21に対してレーザー加工を行うことにより、ロータコア2の一部が溶融した後に凝固してなる凝固層31を形成する。より具体的には、レーザー光によって電磁鋼板21の一部を溶融させて、溶融した部分をガスによって吹き飛ばす、又は吸引装置によって吸引し、電磁鋼板21に残った部分によって凝固層31を形成する。
【0033】
本例のレーザー加工を行う装置は、半導体レーザーを励起光に用いたファイバーレーザー装置である。このファイバーレーザー装置は、レーザーの発振源となる発振器からファイバーケーブルを引き出して構成されており、ファーバーケーブルの先端から出射されるレーザー光によって加工を行う。また、ファイバーレーザー装置は、ファイバーケーブルの先端から発せられるレーザー光によって、電磁鋼板21の一部を固体状態から気化させて加工を行う。
発振器から複数本のファイバーケーブルを引き出し、各ファイバーケーブルの先端をそれぞれロボットのエンドエフェクタ部に支持しておくことにより、各ロボットによって異なる電磁鋼板21に対して同時期にかつパラレルにレーザー加工を行うことができる。
【0034】
本例においては、コイル状に巻かれた電磁鋼板21の母材を直線状に伸ばして、複数のプレスに順次送り込み、この母材に対して複数のプレスによって段階的に打抜き加工を行って、ロータコア2用の電磁鋼板21を形成する。そして、
図12に示すごとく、プレスによる打抜き加工を行う前に、電磁鋼板21の母材に対してレーザー加工を行うことにより、磁石配置開口穴22の一部となるスリット状穴220を形成する。スリット状穴220は、レーザー光によって電磁鋼板21の素材を溶融させ、ガスによって溶融した部分を吹き飛ばすこと、又は吸引装置によって吸引することによって形成される。
また、スリット状穴220は、磁石配置開口穴22において、外周側ブリッジ部24を形成する部分と内周側ブリッジ部26を形成する部分とに形成する。そして、レーザー加工を行ったことにより、スリット状穴220のコア側面には凝固層31が形成される。
【0035】
次いで、スリット状穴220が形成された電磁鋼板21の母材に対し、プレスにより打抜き加工を行う。この打抜き加工は、スリット状穴220に繋がる残りの部分、本例においては外周側ブリッジ部24を形成するスリット状穴220の端部と内周側ブリッジ部26を形成するスリット状穴220の端部とをそれぞれ結ぶ一対の外形ラインM(
図12において破線で示す。)に対して行う。そして、一対のスリット状穴220と、打抜き加工によって形成された打抜き面32とによって、磁石配置開口穴22が形成される(
図3参照)。
こうして、磁石配置開口穴22のうち凝固層31を形成しないコア側面は、打抜き加工による打抜き面32として形成される。打抜き面32は、剪断面及び破断面の混在する面として形成される。
【0036】
本例においては、レーザー光のエネルギーにより、適切な厚みの凝固層31を形成することができ、凝固層31の形成方向に適切に上記引張応力σ1を作用させることができると共に、凝固層31に隣接する部分311において適切に上記圧縮応力σ2を作用させることができる。それ故、本例のロータコア2の製造方法によれば、必要な強度を確保することができると共に漏れ磁束Yが発生し難くすることができるブリッジ部24、26を容易に形成することができる。
また、本例においては、ロータコア2を製造する際に、レーザー加工を行う工程を、プレスにより打抜き加工を行う工程から分離して設置することができる。その他、本例のロータコア2については上記
参考例と同様である。
【0037】
(実施例
2)
本例は、上記
参考例に示したロータコア2を製造する他の方法について示す例である。
本例においても、ロータコア2を構成する電磁鋼板21に対してレーザー加工を行うことにより、ロータコア2の一部が溶融した後に凝固してなる凝固層31を形成する。
本例においては、コイル状に巻かれた電磁鋼板21の母材を直線状に伸ばして、複数のプレスに順次送り込み、この母材に対して複数のプレスによって段階的に打抜き加工を行う途中においてレーザー加工を行って、ロータコア2用の電磁鋼板21を形成する。
【0038】
本例においては、まず、
図13に示すごとく、電磁鋼板21の母材に対して、プレスによって磁石配置開口穴22を形成する部分に打抜き加工を行って、打抜き開口穴225を形成する。この打抜き開口穴225は、外周側ブリッジ部24を形成する部分と内周側ブリッジ部26を形成する部分とに対応する位置に、レーザー加工用の加工代226を残して形成する。打抜き開口穴225の側面は、剪断面及び破断面の混在する面として形成される。
次いで、電磁鋼板21の母材におけるレーザー加工用の加工代226に対してレーザー加工を行い、打抜き開口穴225を拡大して磁石配置開口穴22を形成する(
図3参照)。このとき、磁石配置開口穴22において、外周側ブリッジ部24を形成する部分と内周側ブリッジ部26を形成する部分とに凝固層31が形成される。
【0039】
本例においては、打抜き開口穴225における所定箇所からレーザー加工を開始することができ、レーザー光によって電磁鋼板21に貫通口を形成しなくてもよくなる。そのため、レーザー加工に要するレーザー光の照射強度を低くすることができ、小さな加工エネルギーで凝固層31を有する磁石配置開口穴22を形成することができる。
そして、本例のロータコア2の製造方法によっても、必要な強度を確保することができると共に漏れ磁束Yが発生し難くすることができるブリッジ部24、26を容易に形成することができる。その他、本例においても、上記実施例2と同様の作用効果を得ることができる。また、本例のロータコア2については上記
参考例と同様である。