【実施例1】
【0024】
図2は、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の平面図であり、
図1はその平面図におけるA−Aでの断面図である。
【0025】
図1のように、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子は、サファイア基板10と、サファイア基板10上に順に形成されたn型層11、発光層12、p型層13を有している。n型層11は、たとえばサファイア基板11側から順に、nコンタクト層、ESD層、nクラッド層で構成される。発光層12は、たとえばMQW構造であり、InGaNからなる井戸層とGaNからなる障壁層とが繰り返し積層された構造である。p型層13は、たとえば発光層12側から順に、pクラッド層、pコンタクト層で構成される。p型層13表面の中央部には、そのp型層13表面からn型層11に達する深さの孔14(n型層11が積層構造である場合にはnコンタクト層に達する深さ、以下において同様)が直線状に複数設けられている。また、p型層13表面の孔14が設けられた領域以外のほぼ全面に、ITO電極15が設けられている。さらに、ITO電極15の表面、孔14の側面および底面、p型層13表面のうちITO電極15が形成されていない領域、に連続してSiO
2 からなる絶縁膜16が設けられている。絶縁膜16の材料には、SiO
2 以外にも、Si
3 N
4 、Al
2 O
3 、TiO
2 、などのIII 族窒化物半導体発光素子の発光波長に対して透光性を有した絶縁材料を用いることができる。
【0026】
絶縁膜16上にはn電極17とp電極18が形成されている。n電極17は、
図2に示すように、ボンディングワイヤが接続されるパッド部17aと、パッド部17aに連続する配線状のワイヤ部17bにより構成されている。また、p電極18も同様に、パッド部18aと、パッド部18aに連続する配線状のワイヤ部18bにより構成されている。絶縁膜16には孔14の底面であるn型層11を露出させる孔20、およびITO電極15を露出させる孔21が設けられ、孔20を通してn電極17のワイヤ部17bとn型層11とが接触し、孔21を通してp電極18のワイヤ部18bとITO電極15とが接触している。
【0027】
絶縁膜16中であって、平面視でn電極17およびp電極18と対向する領域には、反射膜19が埋め込まれている。反射膜19は、p型層13に近い側(下側)から順にAl/Ag/Al(記号「/」は積層であることを意味し、A/BはAを成膜したのちBを成膜した積層構造であることを意味する。以下において同じ)の3層構造であり、Alの厚さは1〜30Åである。Agの単層ではなく、Ag層をAl層で挟んだ構造としたのは、Agよりもイオン化傾向が大きなAlでAgを挟むことによりAgのマイグレーションを防止するためである。反射膜19の材料は、Al/Ag/Al以外でもよく、AgまたはAg合金からなる単層や、AgまたはAg合金からなる層を含む複層であればよい。また、反射膜19上には、その反射膜19に接してバリアメタル膜23が形成されている。
【0028】
バリアメタル膜23の材料は、反射膜19のウェットエッチングに耐性があり、絶縁膜16との密着性のよい金属であり、たとえばTi、Crである。
【0029】
なお、上記ではバリアメタル膜23として単層のTiまたはCrを用いるとしたが、バリアメタル膜23は単層に限らず多層であってもよい。また、バリアメタル膜23の材料としてTi、Cr以外にもITO(酸化インジウムスズ)、ICO(酸化インジウムセリウム)、IZO(酸化インジウム亜鉛)などの導電性酸化物を用いてもよい。バリアメタル膜23として導電性酸化物を用いる場合、バリアメタル膜23のパターニングはドライエッチングまたはウェットエッチングによって行うことができる。多層のバリアメタル膜23としては、たとえば、Al/Ti/(Au、Pt、またはW)/(TiまたはCr)の積層構造を用いることができる。この場合、バリアメタル膜23のパターニングはリフトオフによって行うことができる。また、(ITO、ICOまたはIZO)/Ti/(Au、Pt、またはW)/(TiまたはCr)の積層構造を用いることもできる。この場合、バリアメタル膜23は、以下のようにして形成することができる。まず、(ITO、ICOまたはIZO)をドライエッチングまたはウェットエッチングすることでパターニングする。次に、(ITO、ICOまたはIZO)上にTi/(Au、Pt、またはW)/(TiまたはCr)までの構造をリフトオフを用いてパターニングする。すなわち、(ITO、ICOまたはIZO)の形成領域以外の領域にレジスト膜をパターニングし、(ITO、ICOまたはIZO)上、およびレジスト膜上の全面にTi/(Au、Pt、またはW)/(TiまたはCr)の積層構造を蒸着やスパッタにより形成し、その後レジスト膜およびレジスト膜上のTi/(Au、Pt、またはW)/(TiまたはCr)の積層構造を除去する。以上によって、(ITO、ICOまたはIZO)/Ti/(Au、Pt、またはW)/(TiまたはCr)の積層構造を形成することができる。
【0030】
また、バリアメタル膜23の厚さは50〜1000nmとすることが望ましい。1000nmより厚いとバリアメタル膜23を絶縁膜16で覆うことが難しくなるため望ましくなく、50nmよりも薄いと、バリアメタル膜23が膜状とならず、ドライアッシングで使用する酸素やオゾンが透過してしまうため望ましくない。より望ましくは400〜1000nmである。
【0031】
実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子は、n電極17、p電極18側から光を取り出すフェイスアップ型の素子である。ここで、n電極17およびp電極18の下部には絶縁膜16に埋め込まれた反射膜19が位置している。そのため、発光層12から放射される光のうち、n電極17およびp電極18に向かう光は、反射膜19によって反射されて素子内部に戻り、n電極17およびp電極18によって光が吸収されてしまうことが防止されている。その結果、光取り出し効率が反射膜19を設けていない場合よりも向上されている。
【0032】
次に、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の製造工程について、
図3、4を参照に説明する。
【0033】
まず、サファイア基板10上に、MOCVD法によって、n型層11、発光層12、p型層13を順に形成する。原料ガスには、Ga源としてTMG(トリメチルガリウム)、In源としてTMI(トリメチルインジウム)、Al源としてTMA(トリメチルアルミニウム)、窒素源としてアンモニア、n型ドーピングガスとして、シラン、p型ドーピングガスとしてシクロペンタジエニルマグネシウム、キャリアガスには水素または窒素を用いる。そして、p型層13上の一部領域に、蒸着によってITO電極15を形成する(
図3(a))。
【0034】
次に、フォトリソグラフィとドライエッチングによってp型層13表面からn型層11に達する深さの孔14を形成する(
図3(b))。
【0035】
なお、先に孔14を形成した後にITO電極15を形成してもよい。
【0036】
次に、上面全面、すなわち、ITO電極15表面、孔14の底面および側面、p型層13表面であってITO電極15の形成されていない領域に連続して、CVD法によって、SiO
2 からなる第1絶縁膜16a(請求項8における「他の絶縁膜」に相当する)を形成する。そして、第1絶縁膜16a上であって、後に形成されるn電極17、p電極18と平面視において対向する領域に、Al膜、Ag膜、Al膜を順に積層してAl/Ag/Alからなる反射膜19を形成する(
図3(c))。Al膜は1〜30Å、Ag膜は500〜5000Åである。
【0037】
ここで、反射膜19の形成工程について、
図4を用いてさらに詳細に説明する。
【0038】
まず、スパッタや蒸着などによって、第1絶縁膜16aの全面に反射膜19を形成する(
図4(a))。
【0039】
次に、フォトリソグラフィによって、反射膜19上の所定の領域にレジスト膜24を形成する(
図4(b))。
【0040】
次に、スパッタや蒸着などによって、反射膜19上、およびレジスト膜24上に連続してバリアメタル膜23を形成する(
図4(c))。
【0041】
次に、レジスト剥離液を用いてレジスト膜24を除去するとともに、レジスト膜24上に形成されたバリアメタル膜23も除去し、所定の領域にバリアメタル膜23を残す(
図4(d))。
【0042】
なお、上記
図4(b)から
図4(d)の工程によりバリアメタル膜のパターニングにリフトオフ法を用いたが、ドライエッチングまたはウェットエッチングなどによってバリアメタル膜23をパターニングしてもよい。
【0043】
次に、銀エッチング液を用いて、反射膜19をウェットエッチングする。ここで、バリアメタル膜23は銀エッチング液によってウェットエッチングされないため、マスクとして機能し、上部にバリアメタル膜23が形成された領域の反射膜19はウェットエッチングされずに残る(
図4(e))。これにより、第1絶縁膜16a上に所望のパターンの反射膜19を均一な厚さで形成することができる。
【0044】
ここで、反射膜19の領域の端面(つまり、平面視において反射膜19の領域の外周となる面)が、バリアメタル膜23の領域の端面(つまり、平面視においてバリアメタル膜23の領域の外周となる面)と同じ位置(平面視において、反射膜の領域の外周とバリアメタル膜23の領域の外周とが一致)となるか、もしくはバリアメタル膜23の領域の端面よりも内側となる(平面視において、反射膜の領域の外周がバリアメタル膜23の領域の外周に含まれる)ように、上記ウェットエッチングを行うことが望ましい。反射膜19を均一に形成することができるためである。
【0045】
次に、光励起アッシングを行い、バリアメタル膜23表面に残留したレジストなどの有機不純物を灰化して除去した。ここで、反射膜19上にはバリアメタル膜23が形成されているため、光励起アッシングを行っても反射膜19の反射率の低下は抑制されている。
【0046】
図5は、光励起アッシング前と光励起アッシング後における反射膜19の反射率を示したグラフである。この反射率の測定に用いた試料は、サファイア基板上に、MOCVD法によってGaNを形成し、GaN上に蒸着によってITOを形成し、ITO上にCVD法によってSiO
2 を形成し、SiO
2 上にスパッタによってAl/Ag/Alからなる反射膜19を形成し、反射膜19上に蒸着によってTiからなるバリアメタル膜23を形成したものを用い、サファイア基板裏面(GaN形成側とは反対側の面)から垂直に波長450nmの光を照射して反射率を測定した。また、比較のため、バリアメタル膜23を形成しない試料についても反射率を測定した。なお、試料の各膜厚は、サファイア基板が500μm、GaNが7μm、ITOが200nm、SiO
2 が300nm、反射膜19のAlが2nm、Agが100nm、バリアメタル膜23が50nmである。
【0047】
図5のように、バリアメタル膜23を形成せずに光励起アッシングを行うと、反射率が69.0%から18.7%に大きく低下したのに対し、バリアメタル膜23を形成して光励起アッシングを行った場合には、反射率は69.2%から68.9%の変化であり、ほとんど反射率は変化しなかった。このように、バリアメタル膜23を設けたことにより光励起アッシングによる反射率の低下を抑制することができるようになり、光励起アッシングによって不純物を除去することができるので、次工程で形成する第2絶縁膜16bとの密着性をより高めることができる。
【0048】
なお、光励起アッシング以外のドライアッシングを用いてもよい。たとえば、酸素プラズマアッシングなどを用いてもよい。
【0049】
以上、
図4に示した工程により、後に形成されるn電極17、p電極18と平面視において対向する領域(n電極17、p電極18の正射影の領域)にのみ、均一な厚さの反射膜19を反射率を低下させることなく形成することができる。
【0050】
次に、第1絶縁膜16a表面、バリアメタル膜23表面に連続して、CVD法によって、SiO
2 からなる第2絶縁膜16b(請求項1における「絶縁膜」に相当する)を形成する。これにより、第1絶縁膜16aと第2絶縁膜16bとで一体の絶縁膜16を形成し、絶縁膜16中であって、後に形成されるn電極17、p電極18と平面視において対向する領域に、反射膜19、バリアメタル膜23が埋め込まれるように形成される。ここで、第2絶縁膜16bの形成前に光励起アッシングによって不純物を除去しているため、絶縁膜16と反射膜19、バリアメタル膜23との密着性が向上されている。その後、絶縁膜16の所定の領域に、n型層11を露出させる孔20、およびITO電極15を露出させる孔21を形成する(
図3(d))。なお、実施例1では、第1絶縁膜16aと第2絶縁膜16bとで同じSiO
2 を用い、一体の絶縁膜16としているが、第1絶縁膜16aと第2絶縁膜16bとで異なる材料を用いてもよい。第1絶縁膜16aおよび第2絶縁膜16bには、SiO
2 、Si
3 N
4 、Al
2 O
3 、TiO
2 、などのIII 族窒化物半導体発光素子の発光波長に対して透光性を有した絶縁材料を用いることができる。
【0051】
次に、蒸着によって、絶縁膜16上にNi/Au/Alからなるn電極17、p電極18を形成する。n電極17とp電極18はそれぞれ別に形成してもよいし、同一材料を用いることで同時に形成してもよい。n電極17は、パッド部17aと配線状のワイヤ部17bとを有する形状に形成し、ワイヤ部17bの一部が孔20を埋めて、ワイヤ部17bとn型層11とが接触するよう形成する。また、p電極18は、パッド部18aと配線状のワイヤ部18bとを有する形状に形成し、ワイヤ部18bの一部が孔21を埋めて、ワイヤ部18bとITO電極15とが接触するよう形成する(
図3(e))。
【0052】
次に、300〜700℃で3分間の熱処理を行う。これは、n電極17がn型層11にオーミックコンタクトをとるために、また、p電極18がITO電極15に、ITO電極15がp型層13にオーミックコンタクトをとるために行うものである。その後、n電極17のパッド部17a、およびp電極18のパッド部18aを除く全面に絶縁膜22を形成することで、
図1、2に示す実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子が製造される。絶縁膜22には、SiO
2 、Si
3 N
4 、Al
2 O
3 、TiO
2 、などのIII 族窒化物半導体発光素子の発光波長に対して透光性を有した絶縁材料を用いることができる。
【実施例3】
【0056】
実施例1の
図4に示したAl/Ag/Alからなる反射膜19の形成工程では、
図4(b)のフォトリソグラフィによるレジスト膜24の形成において、反射膜19の最表面であるAl膜が現像液によりエッチングされてしまい、Al膜によってAgのマイグレーションを抑制する効果を損なってしまう可能性がある。
【0057】
そこで実施例3は、
図4に示した実施例1の反射膜19形成工程において、
図4(a)の工程と
図4(b)の工程の間に以下に説明する工程を加える。
【0058】
図4(a)の工程によりAl/Ag/Al(第1絶縁膜16a側から順にAl膜19a、Ag膜19b、Al膜19cを積層した構造)からなる反射膜19を形成後、酸素雰囲気中で熱処理を行う。この熱処理によってAl膜19cの表面(Ag膜19b側とは反対側の面)を酸化して酸化アルミニウム(Al
2 O
3 )からなる酸化被膜19dを形成する(
図8参照)。
【0059】
図9は、10nmのAl膜を酸素雰囲気中で熱処理した場合における、熱処理後のAl膜の透過率を示した図である。透過率は、光の波長が440〜470nmである場合の平均値である。また、熱処理温度は150℃、250℃、350℃とし、熱処理時間は10分とした。熱処理を行わない場合、Al膜の透過率は約27%であった。また、熱処理後のAl膜の透過率は、熱処理温度150℃で約29%、250℃で約31%、350℃で約34%であった。熱処理後のAl膜の透過率は、いずれも熱処理を行わないAl膜よりも高いことがわかる。このことから、酸素雰囲気中でAl膜を熱処理することで、Al膜の表面に酸化アルミニウムからなる酸化被膜が生じていることがわかる。また、熱処理温度が高いほど透過率が高いことから、温度が高いほどAl膜の酸化が進み、酸化被膜が厚くなっているものと考えられる。
【0060】
このように、
図9の結果から、酸素雰囲気中で熱処理を行うことで、Al膜19cの表面に酸化アルミニウムからなる酸化被膜19dを形成できることがわかる。
【0061】
図8の工程後、
図4(b)のように、フォトリソグラフィによって反射膜19上の所定の領域にレジスト膜24を形成する。このとき、反射膜19の最上面はAl膜19cではなく、酸化アルミニウムからなる酸化被膜19dである。酸化アルミニウムはフォトリソグラフィ時の現像液に侵されないため、Al膜19cのエッチングが防止される。
【0062】
以上のように、実施例3の反射膜19形成工程によると、Al/Ag/Alからなる反射膜上にフォトリソグラフィによってレジスト膜24を形成する際に、最上面のAl膜が現像液によってエッチングされてしまうのを防止することができ、Al膜によるAgのマイグレーション抑制効果を保持することができる。
【0063】
なお、酸化被膜19dの厚さは、1分子層以上であればよいが、Al膜19cが5Å以上残ることが望ましい。Al膜19cの厚さが5Åよりも薄くなると、Al膜19cによるAgのマイグレーション抑制効果が十分に発揮されないため望ましくない。
【0064】
また、
図8の工程における熱処理は、酸素のみを含む雰囲気中である必要はなく、Al膜19cに酸化被膜19dを形成できる程度に酸素を含む雰囲気であればよい。
【0065】
また、実施例3では反射膜としてAl/Ag/Alを用いているが、Ag膜上面にAl膜が形成された構造であれば任意でよく、たとえばAg/Alでもよい。また、Al以外にも、Agよりもイオン化傾向が大きく、かつ、酸化物が現像液に対して耐性を有したものであれば任意の材料を用いることができる。たとえばTi、Crなどを用いてもよい。
【0066】
また、酸素雰囲気中での熱処理による酸化被膜19dの形成に替えて、スパッタまたは蒸着によるAl膜19cの形成途中で酸素を添加することによりAl膜19cの最上面に酸化膜を形成してもよい。酸化膜の厚さは1分子層以上であればよく、望ましくは1分子層以上100nm以下である。100nmを越えると、後工程での加工性が悪くなるため望ましくない。