(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とを溶媒中で反応させて、ポリイミド前駆体溶液を製造する工程と、
製造されたポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、加熱して自己支持性フィルムを製造するキャスティング工程と、
製造された自己支持性フィルムを加熱してイミド化反応を行うキュア工程と
を有する熱イミド化法によるポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記キャスティング工程における自己支持性フィルムは、次式(A):
重量減少率(%)=(W1−W2)/W1×100 (A)
(W1は、自己支持性フィルムの質量、W2はキュア後のポリイミドフィルムの質量である。)
で示される重量減少率が36〜39%の範囲にあるものであって、
前記キャスティング工程における最高温度(T1)は、前記自己支持性フィルムが示す熱変形温度(TM)以下であり、
前記キュア工程が、前記自己支持性フィルムを熱変形温度TMより低い温度で加熱し、その後、温度上昇させ、最高熱処理温度(T2)495℃〜540℃の範囲で熱処理すること
を特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のポリイミドフィルムは、前述のとおり、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミドフィルムであって、25℃から500℃までの昇温過程の寸法変化率の最大値が、昇温前の25℃での寸法(初期寸法)を基準にして、0を超え+1%以下であり、好ましくは+0.6%より大きく、且つ+0.9%以下の範囲内であり、特に好ましくは+0.76%から0.80%の範囲内である。
【0028】
また、500℃から25℃までの降温過程の寸法変化率の最小値は、25℃での初期寸法を基準にして、0%〜−0.8%、さらに0%〜−0.3%が好ましい。
【0029】
上記の25℃から500℃までの昇温過程の寸法変化率、好ましくは上記の25℃から500℃までの昇温過程の寸法変化率および上記の500℃から25℃までの降温過程の寸法変化率を有するポリイミドフィルムは、CIS系太陽電池等の高温での熱処理を伴う用途で有利であり、電極となる金属層や半導体層のクラックの発生、基板からの剥離を防止して、変換効率が高い高品質のCIS系太陽電池を製造することができる。
【0030】
ここで、25℃から500℃までの寸法変化率とは、測定対象のポリイミドフィルムについて、熱機械的分析装置(TMA)により、下記の条件で、25℃から500℃の昇温過程とそれに続く500℃から25℃の降温過程を2回繰返し、2回目の各温度において、MD方向(連続製膜方向;フィルムの長手方向)およびTD方向(MD方向に垂直な方向;フィルムの幅方向)の初期寸法(昇温前の25℃での寸法)に対する寸法変化率を測定したものである。2回目の測定を採用しているのは、水分の吸収や残留応力の若干の差による影響を除く為である。
【0031】
測定モード:引張モード、荷重2g、
試料長さ:15mm、
試料幅:4mm、
昇温開始温度:25℃、
昇温終了温度:500℃(500℃での保持時間はなし)、
降温終了温度:25℃、
昇温および降温速度:20℃/min、
測定雰囲気:窒素。
【0032】
なお、寸法変化率は、下記式(1)で定義されるものである。
【0033】
ただし、昇温過程の寸法変化率の最大値(%)は、昇温過程において得られる最大寸法を式(1)のLとし、降温過程の寸法変化率の最小値(%)は、降温過程において得られる最小寸法を式(1)のLとして求めることができる。
【0034】
寸法変化率(%)=(L−L
0)/L
0×100 (1)
(ただし、Lは測定温度での長さ、L
0は昇温前の25℃での長さである。)
【0035】
さらに、ポリイミドフィルムは、窒素雰囲気中500℃、20分間熱処理後の重量減少率が1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.32質量%以下であることがさらに好ましい。これは、本発明のポリイミドフィルムが、500℃以上の高温で熱処理しても分解・劣化しないか、若しくは極めて分解・劣化の少ない、高い耐熱性を有することを意味する。
【0036】
ここで、500℃で20分間熱処理後の重量減少率は、測定対象のポリイミドフィルムについて、窒素雰囲気中で、室温から500℃まで50℃/分で昇温し、500℃になった時点と、それから500℃で20分間保持した後のポリイミドフィルムの重量を測定して、下記式(2)から求めたものである。
【0037】
重量減少率(%)=(W
0−W)/W
0×100 (2)
(ただし、W
0は500℃昇温直後の重量、Wは500℃で20分間保持後の重量である。)
【0038】
水分や残留溶媒などの揮発成分は500℃になる前に揮発するので、この重量減少率はポリイミドの分解・熱劣化の指標となり、値が大きいほど劣化が大きいことを示している。
【0039】
さらに、ポリイミドフィルムは、25〜500℃の線膨張係数が、20ppm/℃以下であることが好ましく、0〜20ppm/℃であることがより好ましく、10ppm/℃より大きく且つ20ppm/℃以下であることがさらに好ましい。基板の線膨張係数が電極となる金属層(通常、Mo層又はW層)の線膨張係数や、カルコパイライト構造半導体層の線膨張係数と大きく異なると、高温域における熱収縮を抑制しても電極となる金属層や半導体層の寸法変化率と大きな差が生じるからである。従って、ポリイミドフィルムが、上記の線膨張係数を有していることにより、CIS系太陽電池の基板として好適に使用することができる。なお、MD方向およびTD方向の両方の線膨張係数に関して、上記の範囲であることが好ましい。
【0040】
ここで、25〜500℃の線膨張係数は、前述の25℃から500℃までの寸法変化率の測定における2回目の昇温過程でのMD方向およびTD方向の寸法変化から、下記式(3)によって求めたMD方向とTD方向の平均線膨張係数である。2回目の測定を採用しているのは、水分の吸収や残留応力の若干の差による影響を除く為である。
【0041】
線膨張係数(ppm/℃)=(L−L
0)/{L
0×(T−T
0)}×10
6 (3)
(ただし、Lは500℃での長さ、L
0は2回目昇温前の25℃での長さ、Tは500℃、T
0は25℃である。)
【0042】
上記の寸法変化率および重量減少率の測定において、温度はいずれも、ポリイミドフィルム表面の温度を測定したものである。
【0043】
さらに、ポリイミドフィルムの引張破断強度が300MPa以上であることが好ましい。本発明のポリイミドフィルムは、以上の好ましい特性に加えて、耐折性に優れている。
【0044】
本発明のポリイミドフィルムは、以下に説明する方法により製造することができる。
【0045】
本発明のポリイミドフィルムは、次の製造方法、即ち:
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とを溶媒中で反応させて、ポリイミド前駆体溶液を製造する工程と、
製造されたポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、加熱して自己支持性フィルムを製造するキャスティング工程と、
製造された自己支持性フィルムを加熱してイミド化反応を行うキュア工程と
を有する熱イミド化法によるポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記キャスティング工程における自己支持性フィルムは、次式(A):
重量減少率(%)=(W1−W2)/W1×100 (A)
(W1は、自己支持性フィルムの質量、W2はキュア後のポリイミドフィルムの質量である。)
で示される重量減少率が36〜39%の範囲にあるものであって、
前記キャスティング工程における最高温度(T1)は、前記自己支持性フィルムが示す熱変形温度(T
M)以下であり、
前記キュア工程が、前記自己支持性フィルムを熱変形温度T
Mより低い温度で加熱し、その後、温度上昇させ、最高熱処理温度(T2)470℃〜540℃の範囲で熱処理すること
を特徴とする製造方法により製造することができる。
【0047】
まず、キャスティング工程において、ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを製造する。ポリイミド前駆体溶液は、ポリイミドを与えるポリイミド前駆体、即ちポリアミック酸の有機溶媒溶液であり、必要によりイミド化触媒、有機リン化合物や無機微粒子が添加される。自己支持性フィルムは、ポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)にまで加熱して製造される。
【0048】
芳香族テトラカルボン酸成分は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下単にs−BPDAと略記することもある。)を主成分とするものであり、具体的には、s−BPDAを75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含み、100%であることも非常に好ましい。芳香族ジアミン成分は、パラフェニレンジアミン(以下単にPPDと略記することもある。)を主成分とするものであり、具体的には、PPDを75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含み、100%であることも非常に好ましい。
【0049】
さらに、本発明の特性を損なわない範囲で、他のテトラカルボン酸成分およびジアミン成分を用いることもできる。
【0050】
本発明において3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸成分と併用可能な芳香族テトラカルボン酸成分としては、ピロメリット酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エ−テル二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。また、パラフェニレンジアミンと併用可能な芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられ、特にベンゼン核が1個または2個有するジアミンが好ましい。
【0051】
ポリイミド前駆体、即ちポリアミック酸の合成は、有機溶媒中で、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをランダム重合またはブロック重合することによって達成される。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後反応条件下で混合してもよい。このようにして得られたポリイミド前駆体溶液はそのまま、あるいは必要であれば溶媒を除去または加えて、自己支持性フィルムの製造に使用することができる。
【0052】
ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。最も好ましくは、N,N−ジメチルアセトアミドが使用される。
【0053】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えてもよい。
【0054】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01−2倍当量、特に0.02−1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0055】
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。アミンとしてはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0056】
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化チタン粉末、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化亜鉛粉末などの無機酸化物粉末、微粒子状の窒化ケイ素粉末、窒化チタン粉末などの無機窒化物粉末、炭化ケイ素粉末などの無機炭化物粉末、および微粒子状の炭酸カルシウム粉末、硫酸カルシウム粉末、硫酸バリウム粉末などの無機塩粉末を挙げることができる。これらの無機微粒子は二種以上を組合せて使用してもよい。これらの無機微粒子を均一に分散させるために、それ自体公知の手段を適用することができる。
【0057】
ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、上記のようなポリイミド前駆体の有機溶媒溶液、あるいはこれにイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えたポリイミド前駆体溶液組成物を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)、例えば支持体上より剥離することができる程度に加熱して製造される。
【0058】
ポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体を10〜30質量%程度含むものが好ましい。
【0059】
支持体としては、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレス基板、ステンレスベルトなどが使用される。連続生産するためには、エンドレスベルトなどのエンドレスな基材が好ましい。
【0060】
本発明は、この自己支持性フィルムを得るキャスティング工程において、比較的低い温度で熱処理を行うことを特徴とする。ここで、本発明でいう「自己支持性フィルム」とは、支持体から剥離可能な状態となるフィルムをいう。
【0061】
具体的には、キャスティング工程で得られる自己支持性フィルムは、次式(A):
重量減少率(%)=(W1−W2)/W1×100 (A)
(W1は、自己支持性フィルムの質量、W2はキュア後のポリイミドフィルムの質量である。)
で示される重量減少率が36〜39%の範囲にあるものであり、
前記キャスティング工程における最高温度(T1)は、前記自己支持性フィルムが示す熱変形温度(T
M)以下である。
【0062】
より具体的には、少なくともポリイミド前駆体溶液が乾燥されることにより、流動性を失う(固化)段階における温度が、T
M以下である。この場合、キャスティング工程全体の温度が、熱変形温度(T
M)以下である。
【0063】
キャスティング工程の温度条件の実施形態について、簡単に記載する。いずれの場合も、T1はT
M以下となっている。
1.キャスティング工程の温度を段階的に上昇させる。
2.キャスティング工程の入口から初期の温度は高く、キャスティング工程の中間段階以降、具体的にはポリイミド前駆体溶液が乾燥されることにより、流動性を失う(固化)段階における後半は温度を初期温度よりも低下させ比較的低い温度で熱処理を行う。キャスティング中間段階で最高温度を上記の温度より低い温度に設定できれば、例えばキャスティング投入温度は任意に選択することができる。ここでキャスティング中間段階とは、ポリイミド前駆体溶液が溶媒蒸発で流動性を失う段階のことを言う。
【0064】
以下、簡単のために、「重量減少率が36〜39%の範囲にある時点の自己支持性フィルムが示す熱変形温度」を「熱変形温度T
M」という場合がある。
【0065】
ここで、重量減少率は、次式(A):
重量減少率(%)=(W1−W2)/W1×100 (A)
(W1は、自己支持性フィルムの質量、W2はキュア後のポリイミドフィルムの質量である。)
で与えられる。
【0066】
また、熱変形温度は、熱機械的分析装置(TMA)により、下記の条件で、昇温しながら伸び(%)を測定し、温度(℃)に対する伸び(%)のグラフから、伸び(%)の立ち上がり温度として求めることができる。
【0067】
測定モード:引張モード、荷重4g
試料長さ:15mm、
試料幅:4mm、
昇温開始温度:25℃、
昇温終了温度:500℃(500℃での保持時間はなし)、
降温終了温度:25℃、
昇温速度:20℃/min
測定雰囲気:空気
【0068】
重量減少率が36〜39%の範囲にある時点の自己支持性フィルムの測定サンプルは、支持体上にポリイミド前駆体溶液を塗布した後、例えば60℃〜130℃の範囲、例えば80℃または100℃等の温度で、所定時間、溶媒を乾燥することで得ることができる。その熱変形温度T
Mは、成分等により若干変化するが、135〜140℃の範囲に存在する。キャスティング工程の最高温度(T1)は、好ましくは140℃以下であり、より好ましくは135℃以下である。また、キャスティング工程の最高温度(T1)は、通常100℃以上であり、好ましくは115℃以上であり、より好ましくは117℃以上である。
【0069】
自己支持性フィルムを形成するための加熱時間は適宜決めることができ、例えば、3〜60分間程度である。
【0070】
キャスティング工程の経過後に得られる自己支持性フィルムは、上記式(A)で与えられる重量減少率が、好ましくは20〜50質量%の範囲、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは39質量%以下である。キャスティング工程の経過後に得られる自己支持性フィルムは、39質量%を超える重量減少率を有していてもよいが、この場合、次のキュア工程の初期工程で、「熱変形温度T
M」を超えない温度で加熱している間に、フィルムの重量減少率が39質量以下となるように、熱処理条件を選ぶことが好ましい。
【0071】
キャスティング工程の経過後に得られる自己支持性フィルムのイミド化率は、好ましくは3〜50%の範囲、より好ましくは7〜30%の範囲である。このような範囲の重量減少率およびイミド化率を有する自己支持性フィルムは、それ自身の力学的性質が十分となり、また、自己支持性フィルムの上面にカップリング剤の溶液を塗工する場合には、カップリング剤溶液をきれいに塗布しやすくなり、イミド化後に得られるポリイミドフィルムに発泡、亀裂、クレーズ、クラック、ひびワレなどの発生が観察されないために好ましい。
【0072】
自己支持性フィルムのイミド化率は、IR(ATR)で測定し、フィルムとフルキュア品との振動帯ピーク面積または高さの比を利用して、イミド化率を算出することができる。振動帯ピークとしては、イミドカルボニル基の対称伸縮振動帯やベンゼン環骨格伸縮振動帯などを利用する。またイミド化率測定に関し、特開平9−316199号公報に記載のカールフィッシャー水分計を用いる手法もある。
【0073】
本発明者は、キャスティング工程を比較的低い温度で行うことは、高分子鎖の配向促進の効果があると推定している。即ち、キャスティング工程で溶媒が蒸発していく過程で、フィルムの体積が収縮するとき、xy平面方向が固定されているために、実質的には厚み方向のみが収縮する。従って、xy方向で見れば、見かけ上xy方向に延伸されたのと同じような効果を持つ。実際のキャスティング工程で起こっている現象を説明すると、初期には流動性を保ったまま溶媒が蒸発する過程で、配向が促進される工程ではない。次いで流延膜の固化(ポリマーの自由な分子運動が制限される状態)が生じ、その後の溶媒乾燥でxy方向に厚みが低下する。流延膜の固化以降が実質的に延伸が進行する工程であり、延伸率は固化膜のポリマー濃度と関係する。この時の温度が低い場合には固化膜のポリアミック酸濃度が低く、より効率的に延伸された自己支持性フィルムが形成される。低温で形成された配向状態は、後続の昇温過程で配向緩和する可能性があるが、実質的に自由に動ける溶媒が存在しないか、またはできるだけ少ない状態では、配向状態は維持されたまま高次構造が固定される傾向にある。重量減少率が36〜39%の範囲以下では、溶媒はアミック酸に塩などの形で束縛されているため、自由に動ける溶媒が存在しづらい状態である。ここで、溶媒がアミック酸と1:1の割合で塩を形成していると仮定する。この場合、重量減少率が36%の場合、自由に動ける溶媒(フリーの溶媒)がゼロとなる。また、重量減少率が39%の場合、自由に動ける溶媒が理論的には3%となる。従って、キャスティング工程で得られる自己支持性フィルムの重量減少率が36〜39%の範囲である場合、実質的に自由に動ける溶媒が存在しないか、またはできるだけ少ない状態における自由に動ける溶媒は、ゼロを超え3%の範囲となる。これは、キャスティング工程で得られる自己支持性フィルムの重量減少率が36〜39%の範囲の一形態であり、本発明における自己支持性フィルムはこれに限定されるものではない。このような理由から、熱変形温度T
M以下の温度の間(キャスティング工程およびキュア工程の初期工程を含む)で、重量減少率が39質量%以下となるように熱処理(乾燥)することが好ましいのである。
【0074】
本発明においては、このようにして得られた自己支持性フィルムの片面または両面に、必要に応じて、カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液を塗布してもよい。
【0075】
表面処理剤としては、シランカップリング剤、ボランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルミニウム系キレート剤、チタネート系カップリング剤、鉄カップリング剤、銅カップリング剤などの各種カップリング剤やキレート剤などの接着性や密着性を向上させる処理剤を挙げることができる。特に表面処理剤としては、シランカップリング剤などのカップリング剤を用いる場合に優れた効果が得られる。
【0076】
シラン系カップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン系、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が例示される。また、チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等が挙げられる。
【0077】
カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、特にγ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−(アミノカルボニル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−[β−(フェニルアミノ)−エチル]−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシランカップリング剤が好適で、その中でも特にN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0078】
カップリング剤やキレート剤など、表面処理剤の溶液の溶媒としては、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒(自己支持性フィルムに含有されている溶媒)と同じものを挙げることができる。有機溶媒は、ポリイミド前駆体溶液と相溶する溶媒であることが好ましく、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒と同じものが好ましい。有機溶媒は2種以上の混合物であってもよい。
【0079】
カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の有機溶媒溶液は、表面処理剤の含有量が0.5質量%以上、より好ましくは1〜100質量%、特に好ましくは1.2〜60質量%、さらに好ましくは1.5〜30質量%であるものが好ましい。また、水分の含有量は20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下であることが好ましい。表面処理剤の有機溶媒溶液の回転粘度(測定温度25℃で回転粘度計によって測定した溶液粘度)は0.8〜50000センチポイズであることが好ましい。
【0080】
表面処理剤の有機溶媒溶液としては、特に、表面処理剤が0.5質量%以上、特に好ましくは1.2〜60質量%、さらに好ましくは1.5〜30質量%の濃度でアミド系溶媒に均一に溶解している、低粘度(特に、回転粘度0.8〜5000センチポイズ)のものが好ましい。
【0081】
表面処理剤溶液の塗布量は適宜決めることができ、例えば、1〜50g/m
2が好ましく、2〜30g/m
2がさらに好ましく、3〜20g/m
2が特に好ましい。塗布量は、両方の面が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0082】
表面処理剤溶液の塗布は、公知の方法を用いることができ、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの公知の塗布方法を挙げることができる。
【0083】
次に、キュア工程において、自己支持性フィルムを加熱・イミド化してポリイミドフィルムを得る。
【0084】
キュア工程において、自己支持性フィルムの熱処理を、好ましくは約0.05〜5時間、より好ましくは0.1〜3時間で徐々に行って、その間にイミド化を完了する。熱処理は、段階的に温度が上昇する多段昇温工程により行うことが好ましい。本発明では、最初の加熱工程においては前記「熱変形温度T
M」より低い温度で加熱すること、そしてその後、温度上昇させ、最高熱処理温度(T2)470℃〜540℃の範囲で熱処理することが特徴の一つである。すなわち、キャスティング工程における最高温度(T1)は、前記自己支持性フィルムが示す熱変形温度(T
M)以下であり、かつ、キュア工程の初期における、自己支持性フィルムの加熱温度は前記「熱変形温度T
M」以下の温度である。
前記温度上昇は段階的に行うことが好ましい。
【0085】
ここで、前記「最初の加熱工程」とは、後述する第1加熱工程をいい、具体的にはキュア炉の入口から熱変形温度T
M未満の領域(ゾーン)をいう。
【0086】
前記多段昇温工程においても、最初の加熱工程においては前記熱変形温度T
Mより低い温度で加熱し、その後、温度上昇させ、最高熱処理温度(T2)470℃〜540℃の範囲で熱処理することが好ましい。
【0087】
即ち、本発明のキュア工程は、少なくとも、
「熱変形温度T
M」より低い温度、好ましくは「熱変形温度T
M」より60℃低い温度から「熱変形温度T
M」より低い温度の範囲、より好ましくは「熱変形温度T
M」より50℃低い温度から「熱変形温度T
M」より低い温度の範囲、さらに好ましくは「熱変形温度T
M」より40℃低い温度から「熱変形温度T
M」より低い温度の範囲で加熱する第1加熱工程;
「熱変形温度T
M」以上、最高熱処理温度(T2)(470℃以上、好ましくは490℃以上、より好ましくは495℃以上)未満の温度で加熱する中間加熱工程;
最高熱処理温度(T2)、即ち470℃以上、好ましくは490℃以上、より好ましくは495℃以上の温度で加熱する高温加熱工程;および
高温加熱工程以降の冷却工程を有する。
【0088】
(但し、中間加熱工程の温度範囲と、高温加熱工程の温度範囲は重複しないこと)
【0089】
第1加熱工程の処理温度は、上限として好ましくは「熱変形温度T
M」より低い温度であり、通常好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下であり、下限としては好ましくは「熱変形温度T
M」より60℃低い温度であり、通常好ましくは100℃以上、より好ましくは115℃以上、より好ましくは117℃以上である。第1加熱工程において、比較的低い温度で、自由に動ける溶媒をできるだけ少なくすることが寸法安定性のよいフィルムを得るのに重要である。前記自由に動ける溶媒をできるだけ少なくする状態とは、キャスティング工程の項で述べたとおり、実質的に自由に動ける溶媒が存在しないか、または少ない状態である。その観点から、第1加熱工程の時間を長くとることは好ましいが、現実的には、トータルの処理時間が過度に長くならないように温度パターンを決定する。第1加熱工程の処理時間は、例えば、約0.5〜30分間、好ましくは約1〜20分、さらに好ましくは2〜15分である。
【0090】
中間加熱工程においては、徐々に最高熱処理温度(T2)未満、即ち470℃未満、好ましくは490℃未満、さらに好ましくは495℃未満まで昇温することが好ましく、好ましくは、
「熱変形温度T
M」(好ましくは140℃または135℃)から200℃未満の温度で10秒〜30分、好ましくは30秒〜10分;
200℃から350℃未満の温度で10秒〜30分、好ましくは30秒〜10分;
350℃から最高熱処理温度(T2)(470℃以上、好ましくは490℃以上、さらに好ましくは495℃以上)未満の温度で10秒〜30分、好ましくは30秒〜10分
の多段階で熱処理することが好ましい。
【0091】
そして、高温加熱工程において、470℃以上、好ましくは490℃以上、さらに好ましくは495℃以上の温度が、約5秒〜5分間、好ましくは約10秒〜3分間、より好ましくは2分間以下となるように熱処理する。最高熱処理温度(T2)は、本高温加熱工程に存在する。
【0092】
高温加熱工程以降に、必要に応じてフィルムを降温工程で熱処理することが好ましく、これによりフィルム内の残留応力を低減することができる。
【0093】
降温工程は、最高加熱温度未満の温度から300℃の温度で0.5〜30分間、より好ましくは約1分〜10分、300℃未満から室温までの温度で0.5〜30分間、より好ましくは約1分〜10分の多段で冷却することが好ましい。
【0094】
最高キュア温度(T2)は、残存揮発成分低減、フィルムの特に密度向上と関係しており、高い方が、結果的な耐熱性の向上および耐折性の向上に効果があるが、高すぎると、熱分解があらわに認められるので、その温度以下、好ましくは540℃以下、より好ましくは530℃以下、さらに好ましくは525℃以下である。
【0095】
キュア工程の加熱処理は、好ましくは、所定の加熱ゾーンを有するキュア炉の中を自己支持性フィルムを連続的に搬送して行う。キュア炉中においては、ピンテンタ、クリップ、枠などで、少なくとも長尺の固化フィルムの長手方向に直角の方向、すなわちフィルムの幅方向の両端縁を固定して搬送する。必要に応じて幅方向に拡縮して加熱処理を行ってもよいが、本発明では、温度変化に伴う寸法変化によるしわの発生を抑える目的の軽微な拡縮調整のみの、概ね固定幅の加熱処理で十分に目的の特性を有するフィルムを得ることができる。
【0096】
さらに必要に応じて、残留応力を低減する後熱処理工程を加えることが出来る。無張力若しくは軽微な引張力の搬送装置を用い、250℃以上500℃以下の温度で加熱することで目的が達成される。この工程は製膜の続く連続工程でも、オフライン工程でも良い。
【0097】
以上の製造方法により、25℃から500℃までの昇温過程での寸法変化率の最大値が、昇温前の25℃での寸法を基準にして、0を超え+1%以下、好ましくは+0.6%より大きく、且つ+0.9%以下の範囲内であり、特に好ましくは+0.76%から0.80%の範囲内であるポリイミドフィルムを得ることができる。このポリイミドフィルムは、500℃で20分間の熱処理後の重量減少率が1質量%以下であり、25〜500℃の昇温時の線膨張係数が20ppm/℃以下であることができる。
【0098】
加えて、このポリイミドフィルムは、耐折性に非常に優れていることが見いだされた。ポリイミドフィルムの両面にガス不透過性の薄膜を積層した状態で加熱処理を行うと、理由は不明ながら、特に基材フィルムの耐折性の劣化が見られる。これは、例えばフレキシブル太陽電池基板材料としては問題である。検討の結果、この耐折性の劣化は、ポリイミドフィルム製膜時の最高キュア温度に依存し、フィルム自身の明らかな熱分解が生じる温度までは高温処理されたフィルムほど劣化の程度が小さいことが判った。一方、少なくとも片面積層フィルムでは耐折性の劣化が小さいため、高温でのデガス成分が何らかの作用をしていることが推察される。
【0099】
変換効率の高いCIS系太陽電池は、フィルムの両面に導電層のようなガス不透過性の薄膜を形成した状態で高温で熱処理されるため、本発明のポリイミドフィルムは、CIS系太陽電池の基板として極めて適している。特に、耐折性に優れているため、車載、その他、振動を繰り返し受けるような分野で使用されるCIS系太陽電池に好適に使用することができる。
【0100】
ポリイミドフィルムの厚みは特に限定されるものではないが、7.5〜75μm程度、好ましくは10〜60μm程度である。
【0101】
本発明により得られるポリイミドフィルムは接着性、スパッタリング性や金属蒸着性が良好であり、スパッタリングや金属蒸着などのメタライジング法により金属層(合金も含む)を設けることにより、密着性に優れ、十分な剥離強度を有する金属積層ポリイミドフィルムを得ることができる。金属層の積層は公知の方法に従って行うことができる。
【0102】
金属層は、ニッケル、クロム、マンガン、アルミニウム、鉄、モリブデン、コバルト、タングステン、バナジウム、チタン、タンタル、銅等の金属、又はそれらの合金、或いはそれらの金属の酸化物、それらの金属の炭化物等の層であり、例えばモリブデンやタングステンはCIS系太陽電池などの電極として用いる導電層などである。
【0103】
CIS系太陽電池の製造などに使用するポリイミド金属積層体は、ポリイミドフィルム上に電極となる金属層を形成してなる積層体であり、例えばポリイミドフィルム上に電極となるモリブデン又はタングステン等の金属を含む層などを形成してなる積層体である。
【0104】
本発明の積層体は、ポリイミドフィルムの両面に金属層を有するものであってもよく、その場合、2つの金属層は、CIS系太陽電池の電極と、基板裏面に設けられる保護層となる。2つの金属層は、同一であっても異なってもよいが、好ましくは同一であることが好ましい。
【0105】
後述するが、本発明では、自己支持性フィルムの製造時にフィルムの支持体と接する側の面(B面)に電極となる金属層を形成することが好ましい。従って、本発明の積層体は、ポリイミドフィルムの片面に金属層を有するものである場合、B面上に電極となる金属層、好ましくはモリブデン又はタングステンを含む層、さらに好ましくはモリブデンを含む層を有することが好ましい。
【0106】
金属層、好ましくはモリブデン又はタングステンなどを含む電極となる金属層は、スパッタリング法または蒸着法などにより形成することができる。なお、製膜条件は、公知の方法に従って、適宜決めることができる。
【0107】
金属層、好ましくはモリブデン又はタングステンなどを含む電極となる金属層の厚さは、使用する目的に応じて適宜選択することができるが、好ましくは50nm〜500nm程度である。
【0108】
金属層の層数は、使用する目的に応じて適宜選択でき、2層以上の多層であってもよい。
【0109】
次に、本発明のCIS系太陽電池について説明する。本発明のCIS系太陽電池は、以上説明したポリイミドフィルムを基板として使用することを特徴とするものである。
【0110】
本発明のCIS系太陽電池は、公知の方法、例えば特開2003−179238号公報などに記載の方法に準じて製造することができる。CIS系太陽電池の製造方法の一例を、
図1〜
図2を用いて、説明する。
【0111】
まず、
図1(a)に示すように、基板であるポリイミドフィルム1上に電極層2を形成する。電極層2は、導電性材料層であればよいが、通常、金属層であり、好ましくはMo層である。電極層2は、スパッタリング法や蒸着法によって形成することができる。
【0112】
本発明においては、電極層2を、ポリイミドフィルムの2つの面のうちで、自己支持性フィルムの製造時にフィルムが支持体と接する側の面(B面)に積層することが好ましい。B面に電極層を形成した場合、B面の反対側の面(A面)に電極層を形成するよりも、電極層や半導体層のクラックの発生が少なくなることがある。
【0113】
また、必要に応じて、基板であるポリイミドフィルム1と電極層2の間に下地金属層を設けることもできる。下地金属層は、例えばスパッタリング法や蒸着法などのメタライジング法によって形成することができる。
【0114】
次に、
図1(b)に示すように、ポリイミド基板1の裏面に、保護層8を形成する。このような保護層を設けることにより、電極層や半導体層のクラックの発生、基板の反りをさらに抑制することができる。
【0115】
保護層8は、特に限定されるものではないが、金属層、特に電極層2と同じ金属層(好ましくはMo層)であることが好ましい。保護層8は、スパッタリング法や蒸着法によって形成することができる。
【0116】
保護層8は必要に応じて設ければよく、上記のような極めて高い耐熱性と寸法安定性を有するポリイミドフィルムを用いた場合、保護層を設けなくても、電極層や半導体層のクラックの発生を十分に抑制できることもある。
【0117】
また、本発明においては、保護層8を形成した後に電極層2を形成してもよいが、電極層2を形成した後に保護層8を形成することが好ましい。電極層2、保護層8の順に形成する方が、言い換えると、先に積層した金属層(モリブデン層)を電極として使用する方が、電極層や半導体層のクラックの発生が少なくなることがある。
【0118】
前述の通り、電極層はB面に形成することが好ましい。従って、本発明の太陽電池の製造方法としては、ポリイミドフィルムからなる基板のB面に電極層を形成した後、A面に保護層を形成することが特に好ましい。
【0119】
次に、
図1(c)に示すように、電極層2上に、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む薄膜層3を形成する。この薄膜層3は、典型的には、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素のみからなる薄膜であり、後の熱処理によって太陽電池の光吸収層となる。Ib族元素としては、Cuを用いることが好ましい。IIIb族元素としては、InおよびGaからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を用いることが好ましい。VIb族元素としては、SeおよびSからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を用いることが好ましい。
【0120】
薄膜層3は、蒸着法やスパッタリング法によって形成することができる。薄膜層3を形成する際の基板温度は、例えば室温(20℃程度)〜400℃程度であり、後の熱処理における最高温度よりも低い温度である。
【0121】
薄膜層3は、複数の層からなる多層膜であってもよい。
【0122】
電極層2と薄膜層3の間には、例えば、Li、Na、KなどのIa族元素を含む層や、他の層を形成してもよい。Ia族元素を含む層としては、例えば、Na
2S、NaF、Na
2O
2、Li
2SまたはLiFからなる層が挙げられる。これらの層は、蒸着法やスパッタリング法によって形成することができる。
【0123】
次に、薄膜層3を熱処理することによって、
図2(d)に示すように、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む半導体層(カルコパイライト構造半導体層)3aを形成する。この半導体層3aが太陽電池の光吸収層として機能する。
【0124】
薄膜層を半導体層に変換するための熱処理は、窒素ガス、酸素ガスまたはアルゴンガス雰囲気中で行うことが好ましい。あるいは、SeおよびSからなる群より選ばれる少なくとも1つの蒸気雰囲気中で行うことが好ましい。
【0125】
熱処理は、薄膜層3を、好ましくは10℃/秒〜50℃/秒の範囲内の昇温速度で、450℃〜550℃、好ましくは480℃〜550℃の範囲内、より好ましくは490℃〜540℃の範囲内、さらにより好ましくは500℃〜530℃の範囲内の温度にまで加熱した後、好ましくは10秒〜5分間、この範囲内の温度で保持することが好ましい。その後、薄膜層3を自然冷却するか、または、ヒータを用いて自然冷却よりも遅い速度で薄膜層3を冷却する。
【0126】
この熱処理は段階的に行うこともできる。例えば、薄膜層3を、100℃〜400℃の範囲内の温度にまで加熱し、好ましくは10秒〜10分間、この範囲内の温度で保持した後、好ましくは10℃/秒〜50℃/秒の範囲内の昇温速度で、上記の範囲内の温度にまで加熱し、好ましくは10秒〜5分間、この範囲内の温度で保持することが好ましい。その後、薄膜層3を自然冷却するか、または、ヒータを用いて自然冷却よりも遅い速度で薄膜層3を冷却する。
【0127】
このようにして、光吸収層となるIb族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む半導体層3aを形成する。形成される半導体層3aは、例えば、CuInSe
2、Cu(In,Ga)Se
2、またはこれらのSeの一部をSで置換したCuIn(S,Se)
2、Cu(In,Ga)(S,Se)
2半導体層である。
【0128】
半導体層3aは、次のようにして形成することもできる。
【0129】
電極層2上に、VIb族元素を含まない、Ib族元素とIIIb族元素とを含む薄膜層3、典型的には、Ib族元素とIIIb族元素のみからなる薄膜を形成する。そして、この薄膜層を半導体層に変換するための熱処理を、VIb族元素を含む雰囲気中で、好ましくはSeおよびSからなる群より選ばれる少なくとも1つの蒸気雰囲気中で行うことで、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む半導体層を形成することができる。なお、薄膜層の形成方法および熱処理条件は上記と同様である。
【0130】
半導体層3aを形成した後は、公知の方法に従って、例えば
図2(e)に示すように、窓層(またはバッファ層)4、上部電極層5を順に積層し、取り出し電極6および7を形成して太陽電池を製造する。窓層4としては、例えばCdSや、ZnO、Zn(O,S)からなる層を用いることができる。窓層は2層以上としてもよい。上部電極層5としては、例えばITO、ZnO:Al等の透明電極を用いることができる。上部電極層5上には、MgF
2等の反射防止膜を設けることもできる。
【0131】
なお、各層の構成や形成方法については特に限定されず、適宜選択することができる。
【0132】
本発明では、可撓性のポリイミド基板を用いるので、ロール・ツー・ロール方式によりCIS系太陽電池を製造することができる。
【0133】
以上の説明では、ポリイミドフィルムを、他の基板に積層されていない独立したフィルムとして製造し、その後、フィルム表面に金属層を形成して積層体とする例を示した。本発明のポリイミドフィルムを製造する際に、ステンレス等の金属基板上にポリイミド前駆体溶液を流延塗布し、その基板上にポリアミック酸のコーティング被膜を形成し、その基板上で加熱処理してイミド化し、基板上に予め形成されたポリイミドフィルムの積層体を製造することもできる。金属基板上に形成したポリイミド絶縁層の表面に本発明で示したCIGS太陽電池を形成することが出来る。この際、金属層とポリイミド層との密着促進のために、金属基板上を各種のカップリング剤で処理することが出来る。その場合、熱処理温度が高くなり、耐熱性の表面処理剤が必要となるが、アルミキレート系カップリング剤などが好適に用いられる。
【実施例】
【0134】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0135】
ポリイミドフィルムの物性(25℃〜500℃の寸法変化率および線膨張係数と、500℃、20分間熱処理後の重量減少率)は上記のようにして求めた。なお、ポリイミドフィルムの25℃〜500℃の寸法変化率および線膨張係数の測定にはエスアイアイ・テクノロジー社製TMA/SS6100を用い、重量減少率の測定には島津製作所製TGA−50を用いた。
【0136】
耐折性の評価方法は次のとおりである。
【0137】
Mo膜をフィルム両面に形成後、加熱処理(480℃、2.5分間)を行い、塩化第二鉄水溶液を用いてMo膜をエッチングにより除去した後、MIT回数(破断までの回数;曲率半径:0.38mm、荷重;9.8N、折り曲げ速度;175回/分、折り曲げ角度;左右135度、試験片の幅;15mm)を測定した。
【0138】
(Mo膜形成の手順)
RFスパッタ(パワー:2.0kW/m
2)により前処理した後、このポリイミドフィルムの両面に、下記の条件でDCスパッタにより厚み100nmのMo層をB面、A面の順で形成して、モリブデン積層ポリイミドフィルムを得た。
【0139】
(Moスパッタ条件)
パワー:40kW/m
2(DC)、
スパッタガス:Ar、
チャンバーガス圧:0.6Pa、
ポリイミドフィルム幅:300mm、
搬送速度:0.3m/分。
【0140】
[25〜500℃の昇温過程の寸法変化率(%)最大値(MD/TD)]
ポリイミドフィルムについて、熱機械的分析装置(TMA)により、下記の条件で、25℃から500℃の昇温過程とそれに続く500℃から25℃の降温過程を2回繰返し、2回目の各温度において、MD方向(連続製膜方向;フィルムの長手方向)およびTD方向(MD方向に垂直な方向;フィルムの幅方向)の初期寸法(昇温前の25℃での寸法)に対する寸法変化率を測定した。
【0141】
測定モード:引張モード、荷重2g、
試料長さ:15mm、
試料幅:4mm、
昇温開始温度:25℃、
昇温終了温度:500℃(500℃での保持時間はなし)、
降温終了温度:25℃、
昇温および降温速度:20℃/min、
測定雰囲気:窒素
【0142】
[自己支持性フィルムの熱変形温度(T
M)]
熱変形温度は、熱機械的分析装置(TMA)により、下記の条件で、昇温しながら伸び(%)を測定し、温度(℃)に対する伸び(%)のグラフから、伸び(%)の立ち上がり温度として求めることができる。
【0143】
測定モード:引張モード、荷重4g
試料長さ:15mm、
試料幅:4mm、
昇温開始温度:25℃、
昇温終了温度:500℃(500℃での保持時間はなし)、
降温終了温度:25℃、
昇温速度:20℃/min
測定雰囲気:空気
【0144】
〔参考例1〕
(ポリアミック酸溶液の調製)
重合槽に、N,N−ジメチルアセトアミド2470質量部を入れ、次いで3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)294.33質量部と、p−フェニレンジアミン(PPD)108.14質量部とを加え、30℃で10時間重合反応させて、ポリアミック酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)を得た。得られたポリアミック酸溶液のポリマーの対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ml溶媒、溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド)は2.66であり、溶液の30℃での回転粘度は3100ポイズであった。
【0145】
〔実施例1〕
(ポリイミドフィルムの製造)
参考例1で得られたポリアミック酸溶液に、ポリアミック酸100質量部に対して0.1質量部の割合でモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩を添加し、均一に混合してポリアミック酸溶液組成物を得た。このポリアミック酸溶液組成物の30℃での回転粘度は3000ポイズであった。
【0146】
キャスティング工程において、このポリアミック酸溶液組成物をTダイ金型のスリットから連続的に平滑な支持体上に流延して、支持体上に薄膜を形成した。この薄膜を、131℃で1.5分−133℃で2.3分−119℃で2.3分加熱して乾燥し、支持体から剥離して固化フィルム(自己支持性フィルム)を得た。キャスティング工程における最高温度(T1)は133℃であった。この133℃の領域が、ポリイミド前駆体溶液が乾燥されることにより、流動性を失う(固化)段階である。
【0147】
次にキュア工程において、この自己支持性フィルムの幅方向の両端部を把持して連続加熱炉(キュア炉)へ挿入した。このとき、キュア炉の入口温度は100℃であり、フィルムは、100℃のゾーンを1.5分で通過し、127℃のゾーンを1.5分で通過した。このゾーンまでの温度が、熱変形温度(T
M)以下である。
【0148】
さらに、170℃のゾーンを1.5分で通過した。順次昇温していくゾーンを通過して、最も高温の約500℃(最高熱処理温度(T2))のゾーンを30秒で通過し、ロール状に巻き取りした長尺状の厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0149】
得られたポリイミドフィルムの特性の評価結果を表1に示す。
【0150】
このポリイミドフィルムについて、重量減少率が36〜39%の範囲にある時点の自己支持性フィルムが示す熱変形温度(T
M)を上記のようにして求めたところ、135℃であった。自己支持性フィルムの重量減少率は39%であった。
【0151】
〔
参考例R2、
実施例3、参考例
R1〕
実施例1において、キュア工程の最高温度を、480℃(
参考例R2)、520℃(実施例3)、460℃(参考例
R1)に変更した以外は実施例1を繰り返して、長尺状の厚み50μmのポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの特性の評価結果を表1に示す。
【0152】
〔比較例1〕
実施例1において、キャスト工程の最高温度を、145℃とした以外は、実施例1を繰り返して長尺状の厚み50μmのポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの特性の評価結果を表1に示す。
【0153】
【表1】