特許第5652471号(P5652471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5652471ポリイミド前駆体の溶融成形物及びこれを用いたポリイミド発泡体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5652471
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体の溶融成形物及びこれを用いたポリイミド発泡体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/14 20060101AFI20141218BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   C08J9/14CFG
   C08G73/10
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-504476(P2012-504476)
(86)(22)【出願日】2011年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2011055378
(87)【国際公開番号】WO2011111704
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2013年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-50559(P2010-50559)
(32)【優先日】2010年3月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100103274
【弁理士】
【氏名又は名称】千且 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100172443
【弁理士】
【氏名又は名称】田島 愛美
(72)【発明者】
【氏名】細馬 敏徳
(72)【発明者】
【氏名】小沢 秀生
(72)【発明者】
【氏名】山本 茂
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸夫
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−38433(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/055870(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00〜9/42
C08G73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも芳香族テトラカルボン酸エステル成分と芳香族アミン成分とを含むポリイミド前駆体の粉末が密閉状態で溶融処理されて得られるポリイミド前駆体の溶融成形物であって、
前記溶融処理温度が、140℃未満であることを特徴とするポリイミド前駆体の溶融成形物。
【請求項2】
少なくとも芳香族テトラカルボン酸エステル成分と芳香族アミン成分とを含むポリイミド前駆体の粉末を密閉状態で溶融処理してポリイミド前駆体の溶融成形物を得る溶融成形工程と、
該ポリイミド前駆体の溶融成形物を加熱処理して発泡させる発泡工程と、
を含んで構成されるポリイミド発泡体の製造方法であって、
前記溶融成形工程の溶融処理温度が、140℃未満であることを特徴とするポリイミド発泡体の製造方法。
【請求項3】
芳香族アミン成分が芳香族ジアミン成分であることを特徴とする請求項2記載のポリイミド発泡体の製造方法。
【請求項4】
芳香族テトラカルボン酸エステル成分が、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4’−オキシジフタル酸、及びピロメリット酸からなる群から選択されるテトラカルボン酸のエステル化物であることを特徴とする請求項2又は3記載のポリイミド発泡体の製造方法。
【請求項5】
芳香族ジアミン成分が、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、及びジアミノトルエンからなる群から選択される芳香族ジアミンであることを特徴とする請求項又は記載のポリイミド発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体の溶融成形物及びこれを用いたポリイミド発泡体の製造方法に関し、特にポリイミド前駆体の粉末を密閉状態で溶融処理して得られることを特徴とするポリイミド前駆体の溶融成形物及びこれを用いることを特徴とするポリイミド発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド発泡体は、他の高分子発泡体に比べて耐熱性などの優れた特性が期待できることから種々の検討がなされている。
特許文献1には、芳香族テトラカルボン酸エステルとアミン成分とからなるポリイミド前駆体の粉末を用いてポリイミド発泡体を製造する製造方法が記載されている。ここでは、ポリイミド前駆体の粉末に所定量の極性プロトン性発泡促進剤を加えたスラリーを、加熱処理して均一で透明な溶液または不透明な懸濁液として溶融物とし、引き続いてその溶融物を発泡させることによって、発泡倍率を好適に制御することができるポリイミド発泡体の製造方法が記載されている。
特許文献2には、芳香族テトラカルボン酸エステルとアニリン類とホルムアルデヒドの縮合物からなるポリイミド前駆体(ポリイミド発泡体用プレポリマー)の粉末を用いてポリイミド発泡体を製造する製造方法が記載されている。この製造方法では、ポリイミド前駆体を140℃に保ったマイクロウエーブオーブンに入れて同温度で溶融し、引き続いてマイクロ波を照射して縮合反応を行わせてポリイミド発泡体を得ている。
特許文献3には、特定の芳香族テトラカルボン酸エステル成分と芳香族アミン成分を含んでなるポリイミド前駆体の粉末を概略均一なグリーン体とした後で、加熱処理してポリイミド発泡体を得る製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−211440号公報
【特許文献2】特開平6−298936号公報
【特許文献3】特開2002−12688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この様なポリイミド発泡体の製造方法においても、簡単な操作や簡便な工程によって、例えば寸法が1m×1m×0.5m程度以上の大型のポリイミド発泡体を、細かで均一なセルの状態で容易に得ることは、他の高分子発泡体の場合ほど容易ではなく、さらに改良の余地があった。そこで、本発明は、簡単な操作や簡便な工程によって、大型のポリイミド発泡体を、細かで均一なセルの状態で容易に得ることができる、改良されたポリイミド発泡体の製造方法及びこれに用いるポリイミド前駆体の溶融成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリイミド発泡体の製造方法に関し、ポリイミド前駆体の粉末を密閉状態で溶融処理して得られるポリイミド前駆体の溶融成形物を発泡させることで、大型のポリイミド発泡体を、細かで均一なセルの状態で容易に得ることができることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、少なくとも芳香族テトラカルボン酸エステル成分と芳香族アミン成分とを含むポリイミド前駆体の粉末が密閉状態で溶融処理されて得られることを特徴とするポリイミド前駆体の溶融成形物である。
【0007】
また、本発明は、少なくとも芳香族テトラカルボン酸エステル成分と芳香族アミン成分とを含むポリイミド前駆体の粉末を密閉状態で溶融処理してポリイミド前駆体の溶融成形物を得る溶融成形工程と、該ポリイミド前駆体の溶融成形物を加熱処理して発泡させる発泡工程と、を含んで構成されることを特徴とするポリイミド発泡体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡単な操作や簡便な工程によって、大型のポリイミド発泡体を、細かで均一なセルの状態で容易に得ることができる、改良されたポリイミド発泡体の製造方法及びこれに用いるポリイミド前駆体の溶融成形物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るポリイミド発泡体の製造方法において、ポリイミド前駆体を構成する芳香族テトラカルボン酸エステル成分とは、芳香族テトラカルボン酸と低級アルコールからなるエステル化合物である。芳香族テトラカルボン酸エステル成分は、低級アルコール中に芳香族テトラカルボン酸二無水物と必要に応じてエステル化触媒とを加え200℃以下好ましくは120℃以下の温度で0.1〜48時間好ましくは1〜24時間程度反応させることで容易に得ることができる。この方法によれば、芳香族テトラカルボン酸のジエステル体を主成分とした芳香族テトラカルボン酸エステル成分の溶液が好適に得られる。
【0010】
芳香族テトラカルボン酸としては、特に限定はなく、ポリイミド発泡体を形成できる芳香族テトラカルボン酸であればいずれでも構わないが、例えば2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸などのビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4’−オキシジフタル酸、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタンなどを好適に挙げることができる。
【0011】
エステル化に用いる低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールなどの炭素数が1〜6のアルキルアルコールが好適である。
【0012】
本発明に係るポリイミド発泡体の製造方法において、ポリイミド前駆体を構成する芳香族アミン成分は、例えばアニリン類とホルムアルデヒドの縮合物からなるマルチアミン成分などでも構わないが、好ましくは芳香族ジアミン或いはそのアミノ基をイソシアネート基などに変性したジイソシアネートなどからなる芳香族ジアミン成分である。芳香族ジアミン成分は、特に限定するものではなく、ポリイミド発泡体を形成できる芳香族ジアミン成分であればいずれでも構わないが、例えば1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンなどのジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエンなどのジアミノトルエン、2,6−ジエチル−1,3−ジアミノベンゼン、4,6−ジエチル−2−メチル−1,3−ジアミノベンゼン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ビス(2,6−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)、ビス(2−エチル−6−メチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス[4’−(4’’−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルなど、或いはそれらのアミノ基をイソシアネート基などに変性したジイソシアネート化合物を好適に挙げることができる。
【0013】
本発明に係るポリイミド発泡体の製造方法においては、特に芳香族テトラカルボン酸エステル成分が、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸エステル、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸エステル、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸エステルなどのビフェニルテトラカルボン酸エステル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸エステル、4,4’−オキシジフタル酸エステル、ピロメリット酸エステルのいずれかであることが好ましく、芳香族ジアミン成分が、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノトルエンのいずれかであることが好ましい。
【0014】
さらに、芳香族テトラカルボン酸エステル成分が、0〜90モル%の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸エステルと、100〜10モル%の3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸エステル及び/または2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸エステルとからなり、芳香族ジアミン成分が、50〜97モル%の1,3−ジアミノベンゼンと、50〜3モル%の4,4’−ジアミノジフェニルメタンとからなることが、大型のポリイミド発泡体を得る場合でも容易に製造することができ、得られる発泡ポリイミドが、セルが均一で細かなものであり、変形しても容易に亀裂が発生しない可撓性や優れたクッション性などの発泡体としての実用的な機械的特性や、高温での使用に耐えることができる耐熱性を有するので好適である。
【0015】
本発明に係るポリイミド発泡体の製造方法において、用いられるポリイミド前駆体には、芳香族テトラカルボン酸エステル成分と芳香族アミン成分以外に、必要に応じて界面活性剤(整泡剤)、触媒、難燃剤などの添加剤を好適に加えることができる。
【0016】
界面活性剤(整泡剤)としては、ポリウレタンフォームの整泡剤として好適に使用される界面活性剤を好適に使用することができる。中でも、ポリジメチルシロキサンのメチル基の一部がポリエチレンオキサイド基、ポリ(エチレン−プロピレン)オキサイド基またはプロピレンオキサイド基等のポリアルキレンオキサイド基で置換されたグラフト共重合体(置換したポリアルキレンオキサイド基の末端は水酸基又はメチルエーテル等のアルキルエーテル基やアセチル基等のアルキルエステル基である)などのポリエーテル変性シリコーンオイルが特に好適である。
【0017】
ポリエーテル変性シリコーンオイルの具体例としては、SH−193、SH−192、SH−194、SH−190、SF−2937、SF−2908、SF−2904、SF−2964、SRX−298、SRX−2908、SRX−274C、SRX−295、SRX−294A、SRX−280A(以上、東レダウコーニングシリコーン社製)、L−5340、SZ−1666、SZ−1668(以上、日本ユニカー社製)、TFA4205(GE東芝シリコーン社製)、X−20−5148、X−20−8046、X−20−8047、X−20−8048、X−20−8049、F−518、F−348、F−395、F−506、F−317M、KF−351A、KF−353A、KF−354L、KP−101(以上、信越化学社製)、L6100J、L6100、L6884、L6887、L6900、L6970、L5420(以上、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)などの市販品が挙げられる。
【0018】
また、触媒は、重合イミド化を促進するためのものであって、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、ベンズイミダゾールなどのイミダゾール類、イソキノリンなどのキノリン類、ピリジンなどのピリジン類、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7のようなアミン類などが好適である。
【0019】
さらに、ポリイミド発泡体は、高い難燃性を有しているが、それを更に難燃化するために、例えば3価の亜リン酸エステルなどのリン化合物などの難燃剤を好適に用いることができる。
【0020】
本発明に係るポリイミド発泡体の製造方法において、ポリイミド前駆体の粉末は、ポリイミド前駆体を均一にいわゆる分子分散させた溶液から溶媒を蒸発させて乾固させ、得られた乾固物(固形物)を粉砕するか、或いはスプレードライヤーなどを用いて溶媒の蒸発と粉末化を同時に行う方法によって好適に行うことができる。溶媒の蒸発に際しては発泡が生じない低い温度範囲内で加熱処理するのが好ましく、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下である。ここでは、ポリイミド前駆体が粉末化できればよく、溶媒が0.1〜15質量%程度残存することが好ましい。通常は、例えば低沸点溶媒であるメタノールを用いた場合でも、0.1〜10質量%より好ましくは0.5〜5質量%の(遊離の)メタノールが残存している。前記温度よりも高温で蒸発を行って得られたポリイミド前駆体の粉末は発泡性が著しく低下する。なお、溶媒の蒸発や粉末の乾燥は常圧下でも、加圧下でも、或いは減圧下でも構わない。
【0021】
前記ポリイミド前駆体の溶液は、溶媒中に、少なくとも芳香族テトラカルボン酸エステル成分と芳香族アミン成分、必要に応じて界面活性剤(整泡剤)、触媒、難燃剤などの添加剤からなるポリイミド前駆体の各成分を加えて、好ましくは60℃以下(通常室温、例えば24℃)で、好ましくは0.1〜6時間(通常1〜2時間)程度混合・撹拌して、均一に溶解することによって好適に得ることができる。
特に、まず低級アルコール中に芳香族テトラカルボン酸二無水物と必要に応じてエステル化触媒とを加えて反応することによって芳香族テトラカルボン酸エステル成分の低級アルコール溶液を調製し、その反応溶液に芳香族アミン成分などの他の成分を加えて、均一に溶解して混合することによって好適に得ることができる。
ここで、芳香族テトラカルボン酸エステル成分と芳香族アミン成分とが略等当量数、具体的には当量数の比(芳香族テトラカルボン酸成分/芳香族ジアミン成分)が0.95〜1.05の範囲、芳香族テトラカルボン酸エステル成分と芳香族ジアミン成分の場合には、略等モル、具体的にはモル比(芳香族テトラカルボン酸成分/芳香族ジアミン成分)が0.95〜1.05の範囲で用いることが好適である。
【0022】
ポリイミド前駆体の調製に用いる溶媒は、芳香族テトラカルボン酸エステル成分、芳香族アミン成分を溶解できるものであれば特に限定されない。アルコール、エーテル、ケトン、或いは他の有機溶媒を好適に用いることができるが、粉末化してポリイミド前駆体を得る場合には、低沸点溶媒が好適に採用される。
なお、ポリイミド前駆体に必要に応じて加えられる界面活性剤、触媒、難燃剤などの添加剤は、芳香族テトラカルボン酸エステル成分の溶液に、芳香族ジアミンを加えて均一な溶液にする際には、芳香族ジアミンに先立って加えることが好適であるが、芳香族ジアミンの後で加えても構わない。
【0023】
本発明に係るポリイミド発泡体の製造方法において、ポリイミド前駆体の粉末は、そのままで、或いは必要に応じて予備成形体とした後で、密閉状態で溶融処理し、その後冷却処理して、本発明に係るポリイミド前駆体の溶融成形物にされる。なお、予備成形体は、例えばポリイミド前駆体の粉末を室温で金型に充填し、圧縮・成形することで好適に得ることができる。
【0024】
本発明に係るポリイミド前駆体の溶融成形物は、密閉状態で、好ましくは溶融成形物が所定の形状になるように形状制御をしながら、好ましくは、140℃未満、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下の温度で、好ましくは1〜120分間、より好ましくは10〜60分間程度、ポリイミド前駆体の粉末を溶融処理することによって好適に得ることができる。また、溶融処理は、必要があれば適度の圧力下で行っても良い。密閉状態にするのは、ポリイミド前駆体の粉末に残存している溶媒やエステルの脱離反応により発生する低級アルコールなどの気化成分を残存させて、イミド化反応が抑制されるような低温で容易に溶融成形物を得るためである。したがって、密閉状態とは、揮発性成分が気化・蒸発して飛散するのを抑制することができればよく、例えばポリイミド前駆体の粉末をガス透過性が低い高分子フィルムなどで覆うことで容易に達成できる。もし密閉状態にすることなく溶融処理すると、ポリイミド前駆体の粉末は乾燥して、容易に溶融成形物を得ることができない。溶融処理の温度は、ポリイミド前駆体の粉末が溶融する温度以上である必要であるが、140℃を越えるとエステルの脱離反応が激しくなって、この工程でイミド化反応が起こるために、その後の加熱処理によって発泡を行おうとしても十分な発泡を行うことが難しくなる。
【0025】
本発明に係るポリイミド前駆体の溶融成形物は、次の発泡工程で期待される発泡体の形状に合わせた形状に成形されるのが好ましい。例えば底辺が長方形の形状に発泡させる場合には、長方形の板状に成形することが好適である。したがって、ポリイミド前駆体の粉末は、その所定量を高分子フィルムなどで覆った状態で、所定の形状にし、好ましくはその形状を保持するように制御板や金型などで制御された状態で、必要に応じて形状を保持するために加圧して、オーブンや加熱プレスなどによって加熱処理される。この様な方法によって、ポリイミド前駆体の溶融成形物は、好ましくは連続的に製造される。このポリイミド前駆体の溶融成形物は、密閉状態を解除した後で、そのまま引き続いて発泡させてもよいが、同一の装置で条件が全く異なる溶融と発泡を行うのは効率的ではない。本発明に係るポリイミド発泡体の製造方法において、ポリイミド前駆体の溶融成形物は、そのまま引き続いて発泡させる必要はなく、一旦冷却処理して保存した後で、別途好適に発泡を行うことができる。冷却処理には、冷蔵庫等の低温設備で積極的に冷却するのみならず、室温で溶融物を放置することで冷却することも含まれる。
【0026】
本発明に係るポリイミド発泡体の製造方法によれば、ポリイミド前駆体の粉末を密閉状態で溶融処理して得られたポリイミド前駆体の溶融成形物を用い、前記ポリイミド前駆体の溶融成形物を加熱処理して発泡させることによって好適にポリイミド発泡体を得ることができる。この発泡工程は、ポリイミド前駆体の粉末を用いて発泡させる従来公知の発泡工程と同様の操作や条件を採用して好適に行うことができる。
【0027】
ポリイミド前駆体の溶融成形物を発泡させてポリイミド発泡体を得るための加熱処理は、発泡させるための加熱を行うことができれば限定されるものではないが、例えばオーブン或いはマイクロ波装置などの加熱装置を用いて好適に行うことができる。この時の加熱処理条件(加熱温度や時間など)は、ポリイミド前駆体の種類や処理量に対応して適宜選択することができる。
【0028】
オーブンで加熱する場合は、発泡のために、好ましくは80〜200℃、より好ましくは100〜180℃、特に好ましくは130〜150℃の温度範囲で加熱処理することが必要であり、また加熱処理時間は、好ましくは5〜60分間、より好ましくは10〜30分間程度である。前記の加熱温度よりも温度が低くなると発泡させるために長時間が必要となるので好ましくない。また前記の加熱温度よりも温度が高くなると得られるポリイミド発泡体の発泡体セルを均一にするのが難しくなるので好適ではない。
【0029】
マイクロ波加熱装置を日本で用いる際は、通常は電波法に基づいて2.45GHzの周波数で行う。ポリイミド前駆体の処理量を増すとより大きな出力が必要になる。例えば、ポリイミド前駆体の粉末数十グラム〜数千グラムに対して1〜25kwの出力が好適に採用される。マイクロ波を照射すると、通常は1〜2分間程度で発泡が開始し、照射時間が5〜20分間で発泡は収束する。
【0030】
オーブン加熱或いはマイクロ波照射のいずれの場合も、発泡が終了した段階では、得られたポリイミド発泡体は十分な機械的強度を有していない。従って、得られたポリイミド発泡体を例えばオーブンなどの加熱装置によって、さらに後加熱することが好適である。
【0031】
後加熱は、得られたポリイミド発泡体の大きさに依存するが、200℃以上でポリイミド発泡体の[ガラス転移温度+10℃]以下の温度範囲、通常は200〜500℃、好ましくは200〜400℃の温度範囲で、5分〜24時間好ましくは1〜15時間加熱することによって好適に行うことができる。後加熱は、例えば200℃程度の比較的低温から10℃/分の昇温速度で徐々に昇温し、350℃程度の高温で最終的に加熱するような所定の温度プロフィールにしたがって加熱温度を変える方法であっても構わない。
【0032】
また、ポリイミド前駆体を発泡させてポリイミド発泡体を得るための加熱処理は、特に限定されるわけではないが、型枠内において行っても構わない。型枠内で発泡成形を行った際には、型枠の内側形状と近似した形状の発泡体を得ることが可能であり、ポリイミド発泡体製造時の収率向上をもたらす。
【0033】
なお、発泡倍率や見掛け密度(密度)は、発泡時の揮発成分(重合イミド化の際に発生するアルコールや水、更に溶媒やその他の揮発性の添加物など)の量や、加熱処理の方法や、加熱時の温度プロファイルなどの諸条件によって適宜制御することができる。
【0034】
本発明に係るポリイミド発泡体の製造方法によれば、簡単な操作や簡便な工程によって、大型のポリイミド発泡体を、細かで均一なセルの状態で、容易に且つ再現性よく(歩留まりよく)得ることができる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例によって本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
以下の例において各略号は次の化合物を意味する。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
a−BPDA:2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
MPD:メタフェニレンジアミン
MDA:4,4’−メチレンジアニリン
1,2−DMz:1,2−ジメチルイミダゾール
MeOH:メタノール
【0037】
〔参考例1〕
1mの反応槽にメタノール477.1kg、1,2−DMz3.358kg(34.9mol)、s−BPDA141.226kg(480mol)、a−BPDA23.538kg(80mol)、BTDA77.335kg(240mol)を仕込み、投入口を閉め、真空ポンプにて−0.06MPaまで減圧し、窒素ガスで常圧になるまで戻した。窒素置換を3回行った後、内温65〜70℃にコントロールし、メタノールを還流させながら、2時間加熱攪拌を行い、均一な溶液とした。得られた溶液を15℃以下まで冷却した後、芳香族ジアミン成分のMPD77.861kg(720mol)、MDA15.861kg(80mol)を内温が20℃を超えないように加え、1時間反応させた。次に、シリコーン系界面活性剤のL6100J(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)7.808kgを加えて攪拌して、沈殿物を生じることなく均一な溶液を得た。この溶液を、ミストドライヤー(MDP−050)を使用して粉末化した。すなわち、乾燥エアーを流量30m/分で(除湿器を併用して除湿しながら)供給しながら、温度50℃で前記溶液を送液量640cc/minで噴霧乾燥して粉末化を行い、ポリイミド前駆体の粉末を得た。
【0038】
〔実施例1〕
サイズ1280×1800mm、厚み0.45mmのポリエチレン製の袋状物(ポリ袋)の中に、参考例1で得られたポリイミド前駆体の粉末を7,900g入れ、中の空気を出来るだけ押出しながら、ポリイミド前駆体の粉末を均等の厚さにし、袋状物の開口部をテープで密閉した。
オーブン内にサイズ1230×1230mmの金属板を置き、残りの冶具も予めオーブン内に入れ、100℃で1時間、予熱した。金属板上に、袋状物内に密閉したポリイミド前駆体の粉末を置き、さらにその表面に同様の金属板を置き、袋状物内に密閉したポリイミド前駆体の粉末の底面と上面とを金属板で完全に挟んで積層した。更にその上に、得られるポリイミド前駆体の溶融成形物が緻密で厚みが均一になるように、30個の重しを重量が均等に分散するように並べた。このときに平均圧力は約10g/cm程度であった。この状態で20分間溶融処理を行った後、室温まで放冷し、約990×990×7.3mmの寸法の板状のポリイミド前駆体の溶融成形物を取出した。
次いで、予め100℃に予熱した1280×1280×770mmの金属枠の中央に、袋状物を剥がして取り出したポリイミド前駆体の溶融成形物を置いた。その金属枠をマイクロ波オーブン内に投入し、20分予熱を行った後、17.5kWで10分間マイクロ照射して発泡させた。発泡後、金属枠をマイクロ波オーブン内より取出し、速やかに焼成炉へ投入し、温度が200℃になった後で昇温を開始し、段階的に330℃まで昇温し、昇温開始から約6時間後に加熱を止めて降温を開始し、温度が250℃以下になったところで、オーブンより金属枠を取出し、室温で2時間以上静置して放冷した。十分に温度が下がったことを確認後、金属枠よりポリイミド発泡体を取出した。
得られたポリイミド発泡体は、発泡倍率184倍であり、断面を目視検査したところ、セルが細かく均一であり、「すじ」、「あれ」、「ピンホール」、「割れ」は見られなかった。
同一操作を5回繰り返してポリイミド発泡体を得た。得られたポリイミド発泡体は、発泡倍率約160〜200倍であり、断面を目視検査したところ、いずれもセルが細かく均一であり、「すじ」、「あれ」、「ピンホール」、「割れ」は見られなかった。
【0039】
〔比較例1〕
ポリイミド前駆体の粉末を密閉状態にせずに100℃で溶融化を試みたが、粉末のままで溶融することなく、ポリイミド前駆体の溶融成形物を得ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、簡単な操作や簡便な工程によって、大型のポリイミド発泡体を、細かで均一なセルの状態で容易に得ることができる、改良されたポリイミド発泡体の製造方法を得ることができる。