【課題を解決するための手段】
【0024】
最も一般的には、本発明は、DMSデバイス(例えばイオンのフィルタリングに非対称波形を利用するもの)を質量分析器の筐体の最初の排気ステージに位置させることを提案する。また、ある提案では、特定の圧力と波形周波数をDMSデバイスに与えることにより良好な分解能とイオン通過特性を達成する。さらに、別の提案では、多重極DMSデバイスを用い、双極子場を、多重極に与える、より高次の電場と組み合わせて用いることにより半径方向にイオンを収束させる。
【0025】
第1の態様では、本発明が提供するイオン分析装置は、
試料からイオンを生成するイオン化源と、
イオン検出器と
を備え、使用時に、イオンを前記イオン源から前記イオン検出器に向かってイオン光軸に沿って飛行させる装置であって、該装置がさらに、
微分型イオン移動度分光器を含む第1真空領域と、
質量分析器を含む第2真空領域と
を含む真空空間と
前記第2真空領域の圧力を前記第1真空領域の圧力よりも低くするように構成された排気手段と、
前記イオン化源を前記第1真空領域に接続するイオン入口穴と
を備え、
使用時に、質量分析の前に前記試料から生成したイオンの微分型イオン移動度分析を実行するように、前記イオン光軸上で前記第1真空領域が前記第2真空領域よりも前段に配置されており、
使用時に、前記微分型イオン移動度分光器を含む前記第1真空領域が0.005kPaから40kPaの範囲の圧力に設定され、前記微分型イオン移動度分光器が20kHzから25MHzの範囲の周波数を有する非対称波形により駆動されること
を特徴とする。
【0026】
本明細書において用いる「イオン光軸」という用語は当業者には馴染みのあるものであり、イオンが装置を通り抜ける間に通過する経路に関係するものである。イオン経路(イオン光軸)は部分的にあるいは全体的に直線状とすることができ、また部分的あるいは全体的に曲線状にすることもできる。
【0027】
後述するように、実施形態において、装置は非対称波形を生成する波形生成器を含む。つまり、微分型イオン移動度分光器、例えば、微分型イオン移動度分光器の少なくとも一つの電極に非対称波形を与えるように構成される。波形生成器と微分型イオンの望ましい特徴については本明細書において説明する。
【0028】
MSのこれら領域(例えば第1真空領域、本明細書ではDMS領域ともいう)において減圧下でDMSを使用することにより、真空チャンバの外部で使用される従来のDMSデバイスに比べて、E/N値の範囲を飛躍的に広げることができる。そして、ガスの流れを変形させ、MS真空インターフェースの入口穴キャピラリあるいはオリフィスを通じてイオンを輸送しなければならないという煩雑さもない。
【0029】
加えて、後述するパッシェン曲線(Paschen curve)を用いて示されるように、ブレイクダウン開始前に、減圧状態でより高いE/N値を達成することができる。
【0030】
さらに、波形の大きさを実質的に減少させることができる、より低圧の手段を用いると、はるかに高い周波数で波形を使用することができる。これは、出力が電圧と周波数に比例(P∞V
2f)するためである。より高い周波数の非対称波形を使用すると、イオン振動振幅を抑えることができ、境界電極上で電荷を失うイオンの数を最小化でき、通過性を高めることができる。矩形非対称波形を用いる場合、例えば高電圧・高周波数スイッチを用いる場合、より低電圧、つまりより低電力消費にできることは特に利点である。
【0031】
質量分析器の真空空間内でイオンの微分型移動度分離を行う別の利点は、MSの入口穴あるいはキャピラリを通じて真空閉空間に放出されるガスの高速拡散を利用できる点である。このとき、適当な手段によりガスの流れを整えることにより、大気圧あるいは準大気圧におけるフィルタリングに比べて高速で適切なイオンのフィルタリングを行うことができる。
【0032】
質量分析器の第1排気ステージにおいてイオンの微分型移動度分析を行う特筆すべき利点は、例えばエレクトロスプレーイオン化(ESI)源において形成され、MSの温調入口キャピラリを通って運ばれる帯電した液滴や付加イオン、を完全に脱溶媒和できる点である。ESI DMSあるいはESI FAIMSを大気条件あるいは大気条件付近で使用する当業者には、DMSチャンネルを通じて運ばれる付加イオンがMSに入射する際に分解して、微分型イオン移動度スペクトルを複雑にし、分析全体の有効性を大きく低下させてしまうことが良く知られている。
【0033】
更に別の利点は、質量分析よりも前にMSの真空空間において微分型移動度分離を行うと、実用上、イオン化源を再設計する必要がなく、既存の外部イオン化源の構成を利用できる点にある。
【0034】
上記のように定めた特定の圧力と周波数帯域の組み合わせにより、特に良好な結果が得られることを見出した。本発明者は、これらの圧力と周波数範囲が、本明細書において定義する微分型イオン移動度分光器の有効な使用条件となることを見出した。実施形態では、圧力と周波数を特定の範囲内で選択することによって良好な分解能とイオン通過性が達成されている。対照的に、本発明者は、これらの範囲外の圧力及び周波数では分解能とイオン透過のいずれか、または両方が許容できないものになることも見出した。
【0035】
本明細書で記載する実施形態は、選別されたイオンの通過特性を最適化する、質量分析器に含まれる装置を検討する上でのDMSデバイスの配置や構成を示すものであり、分解能を制御可能にしたものである。これは様々な応用に有用な装置である。例えば、高分解能モードでは、補償電圧を走査して高品質な微分型移動度スペクトルを得ることができる。別の応用では、低分解能モードを、一つのグループのイオンを通過させ、他のグループのイオンを排除するように選択するために用いることができる。例えば、これは溶媒クラスターイオンを排除するために好適に用いることができる。後者の場合、DMSは質量分析器の性能を向上させるように機能る。このように、実施形態では、微分型移動度に従ってイオンのフィルタリングあるいは選択を行うのに有効な、質量分析器とDMSデバイスを含む装置を提供する。
【0036】
特に望ましい圧力範囲は0.01kPaから40kPaであり、より望ましくは0.01kPaから20kPa(0.1mbarから200mbar)、さらに望ましくは0.1kPaから20kPa(1mbarから200mbar)、最も望ましくは0.5kPaから5kPa(5mbarから50mbar)である。
【0037】
好ましくは、装置は、所望の圧力を与えるように構成された圧力制御手段を備える。例えば、そのような圧力制御手段として、本明細書に記載する排気手段及び/又はガスフロー手段を用いることができる。
【0038】
特に望ましい周波数帯域は0.5MHzから20MHzであり、より望ましくは0.1MHzから20MHz、さらに望ましくは0.25MHzから15MHz、さらに望ましくは0.3MHzから10MHz、最も望ましくは0.4MHzから8MHzである。
【0039】
実施形態では、装置は周波数コントローラを含み、周波数コントローラは本明細書に記載する周波数帯域を与えるように構成される。好ましくは、装置は、より詳しく後述するように波形生成器を備え、望ましくは、波形生成器は本明細書に記載する周波数範囲を生成するように構成される。これらの場合、波形生成器に周波数制御機能を付与することができる。実施形態では、例えばデジタル波形生成器により与えられるデジタル波形(後段参照)を用い、周波数はデジタル波形生成器によって制御される。
【0040】
本発明者は、大気圧において約100Tdという電気絶縁破壊限界によって、DMSデバイスを使用することができる、ガス媒質の数密度に対する電場が制限されていることに留意する。本明細書で記載する減圧下では、その範囲を広げることが可能であり、例えば、電気絶縁破壊のリスクなく500Tdにまで広げることが可能である。このようなE/Nの拡張は、分析性能を改善するために用いることができ、及び/又は印加電圧をより低くするように用いることもできる。好ましいことに、これにより非対称波形生成器の複雑さ、サイズ、及びコストを抑えることができる。
【0041】
本発明者は、特定の周波数帯域の非対称波形を使用し、特定の圧力範囲において使用することにより、性能を改善できることを見出した。特に、実施形態から、良好な分析性能が良好な通過特性と結びついていることが分かる。
【0042】
本明細書で定義する圧力と周波数の範囲は、複数の異なる圧力と周波数における分解能とイオン通過特性に関する研究の結果から本発明者により導き出されたものである。本発明者によって成された広範なシミュレーションにより、効果的なパフォーマンスを得ることができる圧力と周波数の「動作範囲(working region)」に関する知見が得られた。
【0043】
特に、本発明者は、シミュレーションとモデル実験から、例えば高電場条件から低電場条件への変化のような非対称波形の変化が生じた後に、イオン分布が定常状態のドリフト速度に達するのに要する時間に起因する、高周波数側の境界が存在することを見出した。定常状態のドリフト速度に達する時間が、波形が特定の状態(例えば高電場状態あるいは低電場状態)に対して長くなると、分解能が急激に悪化することを見出した。これが、波形周波数に上限を生じさせる。特に、本明細書において特定する周波数よりも高くなると、分解能が悪化する。
【0044】
低周波数側の境界や限界も本発明者により推定された。周波数が低すぎると、イオンの振動振幅が大きくなりすぎ、イオンの損失が大きくなることが確認された。特に、本明細書において特定する周波数よりも低いと、イオン通過特性が悪くなる。
【0045】
高圧側の境界に関し、本発明者はE/Nの値を真空DMSの利点を十分に引き出せる範囲内に維持する、つまりイオン移動度K(E/N)を非線形領域内にするためには、印加電圧を圧力に比例させなければならないことを確認した。ある特定の圧力よりも高くなると、電圧はガスの電圧破壊を引き起こすほどに高くなる。
【0046】
低圧側の境界に関し、本発明者は、ガスの流れが、DMSチャンネルを通じて効率よくイオンを通過させるために十分な層流でなければならないことを見出した。特に、本明細書で特定するよりも低い圧力ではイオン通過が悪くなるか、あるいはイオン通過が起こらない。
【0047】
このような圧力及び周波数の境界を合わせて「動作領域(working region)」と定義する。この動作領域内で使用する実施形態では、良好な分解能とイオン通過の両方を達成することができた。
【0048】
さらに、いくつかの場合において、本発明者は、圧力を決めると効果的な周波数帯域が決まる、またその逆も成り立つことを見出した。
【0049】
このように、所定の分析ギャップdで使用するデバイスを用いると、非対称波形の周波数を変化させて、様々な移動度の値を持つ複数のイオンから、ある特定のイオンを選択することができる。また、使用領域を、低、中、及び高移動度の領域の中から変更することができる。
【0050】
好ましくは、非対称波形の周波数、例えばデジタル駆動波形(後段参照)を使用時に変更する。特に望ましくは、周波数は、低、中、及び高移動度の異なる使用領域の間で変化させる。つまり、実施形態では、装置は可変波形生成器を含み、好ましくは使用時に、波形や波形の周波数を変化するように構成する。このような実施形態は、固定周波数生成器を用いて非対称波形を生成する従来のデバイスに比べ大幅に柔軟性を有する。
【0051】
別の実施形態では、波形の周波数は測定毎に調節される。例えば、試料に応じて調整される。
【0052】
微分型イオン移動手段の分析ギャップdの典型的な値は1mmから25mmの範囲であり、望ましくは、2mmから20mm、更に望ましくは5mmから15mmの範囲である。
【0053】
本発明者は、dの値に応じて、性能を最大限発揮させるように圧力及び/又は周波数を調整できることを見出した。
【0054】
dが非常に小さな値である場合、例えば1mm以上2.5mm未満である場合、特にdが約2mmである場合には、0.7kPaから27kPaの圧力範囲及び/又は0.3Mhzから20MHzの周波数帯域とすることが望ましい。より望ましい範囲は2kPaから10.5kPa及び/又は1.5MHzから5MHzである。特に効果的な圧力は約5.9kPaであり、特に効果的な周波数は約2.5MHzである。
【0055】
dが小さな値、例えば2.5mm以上7.5mm未満である場合、特に4mmから6mmである場合、さらにはdが約5mmである場合には、0.4kPaから13.2kPaの圧力範囲及び/又は0.2MHzから10MHzの周波数帯域とすることが望ましい。より望ましい範囲を0.5kPaから6.6kPa及び/又は0.6MHzから2.5MHzである。特に効果的な圧力は2.6kPaであり、特に効果的な周波数は1MHzである。
【0056】
dが中間的な値、特に7.5mm以上15mm未満の範囲である場合、特に9mmから13mmである場合、9mmから11mmである場合、さらにはdが約10mmである場合には、0.2kPaから10.5kPaの圧力範囲及び/又は0.05MHzから6MHzの周波数帯域とすることが望ましい。より望ましい範囲は0.2kPaから4.6kPa及び/又は0.3MHzから1.5MHzである。特に効果的な圧力は1.3kPaであり、特に効果的な周波数は0.5MHzである。
【0057】
dが大きな値、特に15mm以上25mm以下の範囲である場合、特に17mmから23mmである場合、18mmから22mmである場合、さらにはdが約20mmである場合には、0.008kPaから6.6kPaの圧力範囲及び/又は0.03MHzから5MHzの周波数帯域とすることが望ましい。より望ましい範囲は0.008kPaから3.3kPa及び/又は0.15MHzから1MHzである。特に効果的な圧力は0.7kPaであり、特に効果的な周波数は0.3MHzである。
【0058】
実施形態では、圧力と周波数を、(a)0.7kPaから27kPa及び0.3MHzから20MHz、(b)0.4kPaから13.2kPa及び0.2MHzから10MHz、(c)0.2kPaから10.5kPa及び0.05MHzから6MHz、(d)0.008kPaから6.6kPa及び0.03MHzから5MHzの中から選択する。
【0059】
実施形態において、圧力と周波数は、(a)2kPaから10.5kPa及び1.5MHzから5MHz、(b)0.5kPaから6.6kPa及び0.6MHzから2.5MHz、(c)0.2kPaから4.6kPa及び0.3MHzから1.5MHz、(d)0.008kPaから3.3kPa及び0.15MHzから1MHzの中から選択される。
【0060】
微分型イオン移動度分光器に与える非対称波形はデジタル波形であることが望ましい。つまり、微分型イオン移動度分光器には、デジタル駆動の非対称波形を与えることが望ましい。実際には、低電圧信号波形に応じて、高電圧(好ましくは時間的に変化する矩形波電圧)を微分型イオン移動度分光器に印加する。本明細書において、微分型イオン移動度分光器に対してデジタル波形を与える、とは、信号波形に応じて生成される高電圧を印加することを含む。デジタル波形(デジタル駆動波形)とその結果生じる電圧は、当業者に馴染みのあるものであり、高電圧が二つの電圧レベル(高電圧レベルと低電圧レベル)の間でスイッチされるという特徴を有する。スイッチングは、低電圧と電流デジタル回路制御手段とによって駆動するスイッチング手段によってなされる。好ましくは、このような低電圧信号は、直接デジタル合成法(Direct Digital Synthesis method:DDS)により与えられる。
【0061】
本明細書で引用する特許文献2には、好ましいデジタル駆動方法と装置が記載されている(例えば
図1)。高電圧源と低電圧源に直列に接続された二つのスイッチブロックを備える高電圧スイッチ回路が記載されている。二つのスイッチブロックは、低電圧デジタル信号によって二者択一的に導電状態と切電状態が切り替わるように制御され、高電圧スイッチ回路が高電圧と低電圧の間でスイッチして高電圧矩形波を生成する。これは、一斉に導電状態あるいは切電状態になるデジタル信号により制御される。このシステムを用いると、使用周波数を広域にわたって調整することができる。特許文献2に記載の装置は本発明のDMS-MSシステムとは無関係であるが、驚くべきことに本発明者は、本発明の低圧DMS-MSデバイスを特定の圧力及び周波数の範囲で使用する際、これが特に効果的であることを見出した。共通の電極に対して信号を伝送したり分離したりする必要がある場合、デジタル駆動法を用いることでこのような柔軟性を付与できる。
【0062】
好ましくは、装置はデジタル制御信号(デジタル波形)を発生するように構成された波形生成器を含む。本明細書では、このような波形生成器もまたデジタル波形生成器と呼ぶ。好ましくは、装置は、デジタル波形に応じて時間的に変化する矩形波を生成する電圧スイッチング手段を含む。デジタルスイッチング手段は波形生成器(デジタル波形生成器)の一部とすることができる。
【0063】
好ましくは、装置は、矩形波電圧の負荷サイクルを変化させる負荷サイクル変化手段を含む。実施形態において、負荷サイクル変化手段は、前述の波形生成器(デジタル波形生成器)である。
【0064】
デジタル波形を与えることにより、性能が更に改善することを見出した。特に、デジタル波形を、本明細書において特定する周波数と低圧に組み合わせることによって、驚くほどに良好な分解能とイオン通過特性が得られることを見出した。デジタル駆動手段を用いると、より柔軟に使用できるという顕著な利点が得られる。例えば、より広い範囲の周波数を用いることができる。
【0065】
好ましくは、(デジタル)波形生成器は、異なる周波数(例えばある範囲の周波数)を生成するように構成される。つまり、波形生成器は、周波数可変の波形生成器であり、例えば、波形に応じて生成される矩形波電圧の周波数を、好ましくは本明細書に記載の周波数帯域で変化させることができるものである。
【0066】
デジタル駆動の更なる利点は、異なる波形間の超高速(好ましくは実質的に瞬時の)スイッチングが可能な点である。そのようなスイッチングの例については、本明細書中で議論する。
【0067】
デジタル波形の更なる利点は、柔軟な負荷サイクルであり、特に高負荷サイクルを達成できる点である。高負荷サイクルにより、高電場レベルと低電場のレベルの差をより大きくすることができ、広範なE/Nと組み合わせて、高電場と低電場の間で、より大きな移動度の差を引き出すことができる。好ましくは、(デジタル)波形生成器は異なる負荷サイクル(例えば負荷サイクルの範囲)を生成するように構成される。上述のとおり、低電圧デジタル波形に応じて生成される矩形波電圧の負荷サイクルが可変であることが好ましい。
【0068】
好ましくは、装置は、第1波形と第2波形をスイッチングする波形スイッチング手段を含む。これにより、例えば、広範な移動度を有するイオンを通過させる第1波形と、移動度の差に従ってイオンを分離する第2波形の間でスイッチングさせることができる。典型的には、これは、矩形波を有する第1波形と、方形波を有する第2波形を選択することにより達成できる。
【0069】
実施形態では、波形スイッチング手段は波形生成器である。このように、望ましくは、波形生成器は波形をスイッチ可能にするように構成される。例えば、波形生成器は第1波形から第2波形(第2波形は第1波形と異なる)にスイッチ可能なものである。
【0070】
特に望ましい実施形態では、波形は、負荷サイクルが50%である第1波形と負荷サイクルが50%ではない第2波形(例えば、50%より大きい、あるいは50%より小さい)の間でスイッチ可能である。好ましくは、これによりイオン通過モードとイオン分離モードを切り替え可能にする。
【0071】
好ましくは、波形生成器は負荷サイクルを変化させるように構成される。これは、望ましくは0.05から0.5の範囲であり、イオン、特に異なる高電界移動度を有するイオンを効果的に分離する。
【0072】
本明細書でより詳しく議論するように、デジタル駆動法を用いることの更なる利点は、広範なE/Nと組み合わせた非対称波形の負荷サイクルの柔軟性である。E/Nの範囲を拡張すると、高電場の場合と低電場の場合の間で、より大きな移動度の差をつけることができる。負荷サイクルが大きい場合にのみ、つまり高負荷サイクルによって高電場適用時と低電場適用時の大きな違いが得られる場合にのみ、このような差を利用できる。
【0073】
典型的には、装置は、微分型イオン移動度分光器にガス媒体を供給するように第1真空領域へのガスの流れを形成するガスフロー手段を含む。このガスフロー手段は、望ましくは、本明細書で記載するガス注入システムの一部である。ガスの流れはイオン化源と関連付けることが望ましい。従って、特に望ましくは、装置は、微分型イオン移動度分光器にガス媒体を供給するように、イオン化源からイオン入口を通って第1真空領域に入るガスの流れを形成するガスフロー手段を含む。好都合なことに、これは、イオン化源からのガスの流れを利用して達成できる。このように、実施形態では、イオン化源は前述したガスの流れを与えるイオン化源ガスフロー手段を備える。
【0074】
実施形態では、ガスフロー手段により形成されるガスの流れは、装置を通り、特に微分型イオン移動度分光器を通り、イオン光軸に沿ってイオンを運ぶ。
【0075】
ガスフロー手段により供給されるガスは、イオン化源内部のガスと同じでもよく、異なってもよい。好ましくは異なる。これらのガスは異なる組成を有する(例えば、同タイプのガスで異なる質量を有する)か、あるいは異なるタイプのガスである。このような実施形態では、ガスフロー手段は好ましくはイオン化源と関連づけないことが望ましい。
【0076】
その代わりに、あるいは付加的に、装置は、使用時にイオンの装置通過、特に微分型イオン移動度分光器の通過を促す電場を与えるイオン輸送電場手段を含む。好ましくは前述の電場は実質的にイオン光軸(即ちイオン飛行方向)と一致する長手方向のものである。所望の長手方向の電場を与えるために、本明細書で議論するタイプの「分割電極」DMS(長手方向に順に配置された複数の電極を有する)を用いることができる。
【0077】
実施形態では、前述の電場は、微分型イオン移動度分光器により与えられる微分型イオン移動度電場に重畳される。
【0078】
このように、実施形態では、微分型イオン移動度分光器は、DMSを通ってイオンを飛行させることを目的とする軸方向の電場を形成した状態で備えられる。軸方向の電場は、輸送イオンガイドの技術分野において知られる種々の手段により形成することができる。例えば、補助抵抗の、又は分割された、もしくは傾いたロッドセットの使用、またはメインロッドの抵抗被覆手段の使用、あるいはメインロッドの分割によりなされる。
【0079】
移動度セルを通ってイオンを飛行させる電場を用いることにより、固定ガスフローあるいは小さなカウンターガスフローでDMSを使用できるという利点が得られる。
【0080】
実施形態では、DMSデバイスは大気圧インターフェース領域から効果的に切り離される。他の実施形態では、準大気圧イオン化源または中間圧Maldiイオン化源に用いることができる。
【0081】
この実施形態は、例えば、質量分析器が広範なm/z範囲のイオンを、イオンのm/z値に関して同効率で受け入れることが望ましい場合に用いることができる。そのような質量分析器の例としては、イオントラップ質量分析器、時間飛行型(Time-of-Flight:ToF)分析器、及びトラップToF分析器がある。DMSデバイスをイオン注入口から切り離すことは、第1真空領域において広範なm/z値を有するイオンを輸送するように設計されたデバイスが使用できることを意味する。
【0082】
DMSデバイスが通過モードで使用されている場合、質量分析器は全てのイオンを分析する。このように、DMSを質量分析器の真空区画内に配置し、DMSの性能に最適化された圧力下で、ガスの強い動的な影響がない状態で使用してもよい。これにより、ガスの強い動的影響の存在下でDMSセルを使用するための煩雑な設計作業を回避でき、好ましい。
【0083】
更なる利点は、本明細書に記載のイオン収束手段を、イオンを最大限通過させるように最適化された圧力下で使用できる点にある。更なる利点は、イオン化源(例えばAPI)インターフェースで用いるガスとは別のガスを、独立にDMSに導入できる点にある。上記のとおり、イオン化源は真空空間の外側あるいは内側のいずれに配置してもよい。
【0084】
あらゆるイオン化源を用いることができる。イオン化源は大気圧イオン化源、中間圧イオン化源、真空イオン化源のいずれであってもよい。
【0085】
イオン化源を真空チャンバの外に配置する場合、好ましくは、イオン化源はエレクトロスプレーイオン化(ESI)、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)、化学イオン化(CI)、大気圧イオン化(API)、大気圧MALDI、ペニング(Penning)イオン化の中から選択する。
【0086】
ある実施形態では、イオン化源を真空空間内のイオン化源真空チャンバ内に配置する。このような実施形態では、イオン化源はマトリックス支援レーザーイオン化(MALDI)源であり、望ましくは中間圧MALDI源あるいは高真空MALDIである。
【0087】
実施形態では、イオン化源真空チャンバはガス注入口を備え、ガス注入口は好ましくは本明細書で議論するように第1真空領域へのガスの流れを形成する。
【0088】
好ましくは、第1真空領域は第1区画と第2区画を含む。つまり、DMS分析を行う第1真空領域は二つの区画に分割してもよい。典型的には、それぞれの区画は従来と同様の真空区画であり、通常の方法で排気される。好ましくは、区画を分離する壁に設けられた適当なアパーチャ又はオリフィス(例えばスキマー)を通じて、イオンが区画間を通過する。
【0089】
いくつかの実施形態では、第1真空領域に2つよりも多い区画がある。例えば3つや4つである。
【0090】
第1区画と第2区画の圧力は実質的に略同一であっても、異なってもよい。望ましくは、第1区画の圧力を第2区画の圧力よりも高くする。このような実施形態では、排気手段は第1区画の圧力を第2区画の圧力よりも高くするように構成されることが望ましい。好ましくは、排気手段は第1区画と第2区画の圧力を独立に調整する。
【0091】
好ましくは、装置は、ガスを真空空間(例えば第1及び/又は第2真空領域、第1及び/又は第2真空区画)に供給するガス注入システムを含む。望ましくは、ガス注入システムは第1区画と第2区画へのガスの流れを独立に調整できるように構成する。特に望ましくは、排気手段とガス注入手段は第1区画と第2区画の圧力を独立に調整する。
【0092】
しかし、第1区画を第2区画よりも低圧にするように装置を使用してもよい。
【0093】
第1真空領域(DMS領域)が第1真空区画と第2真空区画とを備える場合は、微分型イオン移動度分光器を第1区画内に配置することが望ましい。
【0094】
別の配置では、微分型イオン移動度分光器を第2区画内に配置する。
【0095】
更に別の実施形態では、微分型イオン移動度分光器はイオン入口とイオン出口を有し、微分型イオン移動度分光器は、イオン入口が第1区画に、イオン出口が第2区画に位置するように配置される。つまり、好ましくは、微分型イオン移動度分光器は双方の真空区画にまたがる。この場合、第1区画と第2区画の圧力制御を、微分型イオン移動度分光器を通るガスの流れの調節に用いることができるという利点がある。
【0096】
第1真空領域(DMS領域)は、微分型イオン移動度分光器以外の構成を含んでもよい。例えば、イオン光学収束手段を第1真空領域に配置することができ、好ましくは微分型イオン移動度分光器の前段あるいは後段に配置することができる。イオン光学収束手段は多重極、イオンファンネル、もしくは四重極アレイデバイスとすることができる。
【0097】
実施形態では、第1真空領域は、微分型イオン移動度分光器の前段に配置されたイオン光学収束手段を含む。
【0098】
第1真空領域が第1真空区画と第2真空区画とを備える場合、好ましくは、第1真空区画はイオン光学収束手段を含む。好ましくは、第1真空区画とは独立して、第2区画がイオン光学収束手段を含む。
【0099】
実施形態では、第2真空領域(MS領域)は質量分析器以外の構成を含んでもよい。例えば、第2真空領域は衝突冷却セルを含んでもよく、好ましくは光軸上で質量分析器の前段に配置する。
【0100】
第2真空領域(MS領域は)2つ以上の真空区画を含んでもよい。そのような配置では、質量分析器は真空区画のいずれかひとつに配置される(MS真空区画)。好ましくは、質量分析器は最後の真空区画に配置される(つまり、イオン光軸に沿った最後の真空区画)。
【0101】
望ましくは、第1真空領域において、装置は、イオン注入口と関連付けられたガスフロー修正手段を含む。ガスフロー修正手段は、第1真空領域へのガスの流れの乱れを抑えるように構成される。好ましくは、ガスフロー修正手段は、使用時に微分型イオン移動度分光器に対して略層流のガスフローを形成するように構成される。
【0102】
好ましくは、イオン注入口は第1真空領域に出口部を有し、ガスフロー修正手段はイオン注入口出口部に接続されるかイオン注入口出口部に隣接しており、微分型イオン移動度分光器から離れている。
【0103】
当業者は、ガスフロー修正手段の適当な形状を選択することができる。特に望ましく略円錐形の部材である。
【0104】
実施形態では、好ましくは、イオン注入口はキャピラリとオリフィスから選択される。イオン源を真空空間の外に配置する場合、イオン注入口は真空閉空間の外側から第1真空領域へのイオン経路を形成する。
【0105】
当業者に周知である適当なデバイスを微分型イオン移動度分光器とすればよい。実際、本発明の長所は、従来型のDMSセルを第1真空領域内で使用できるように改良されている点にある。DMSセルの性能は、圧力と電圧を低下させて衝突の態様を変化させることにより改良することができる。
【0106】
好ましくは、微分型イオン移動度分光器(例えばDMSセル)は
(a) 2つの平行平板電極、
(b) 2つの同心円筒電極、及び
(c) 共通軸の周りで円周状に配置された複数の細長い電極からなり、電極の長軸が平行である多重極
の中から選択された電極配置を備える。
【0107】
多重極を用いることが特に望ましい。好ましくは、多重極の共通軸をイオン光軸とする。好ましくは、電極を共通軸周りに対称に配置する。好ましくは、多重極は円形断面を有する。好ましくは、多重極の各電極を円周配置になるように湾曲させる。
【0108】
望ましくは、微分型イオン移動度分光器は、本明細書中に記載の波形生成器を備え、多重極の少なくとも一つの電極に対して非対称波形を与えるように構成する。このようにして、電極間に交流電場を形成する。上述したように、波形生成器は、多重極の少なくとも一つの電極に対してデジタル波形(好ましくは波形に応じた電圧)を与えるように構成することが望ましい。
【0109】
好ましくは、装置は、多重極に双極子場を生成する双極子場手段を含む。
【0110】
望ましくは、双極子場手段は波形生成器であり、波形生成器は多重極内部(即ち、多重極の電極で定義される空間内部)に双極子場を与えるように構成される。実際には、上述のとおり、波形に応じた電圧を多重極に印加する。
【0111】
さらに望ましくは、波形生成器は、多重極内部に付加的な電場、好ましくはより高次の電場(例えば四重極電場)を与えるように構成される。望ましくは、より高次の電場は双極子場に重畳される。このように、好ましくは、より高次の電場と双極子場を多重極の電極で定義される空間の内部に形成する。
【0112】
多重極は、好ましくは四重極(n=4)、六重極(n=6)、八重極(n=8)、及び十二重極(n=12)から選択される。しかし、nは4から12の範囲のいずれの値でも好ましい。
【0113】
多重極の望ましい実施形態は、十二重極(12-pole)であり、例えば
図2及び
図3に示すようなものである。
【0114】
好ましい(内接)半径は1mmから10mmである(d=2mm〜20mm)。好ましい長さは20mmから150mmである。
【0115】
図2及び
図3に示すような望ましい実施形態では、(内接)半径は約2.5mm(d=5mm)であり、長さは約70mmである。
【0116】
好ましくは、装置は、微分型イオン移動度分光器(DMS)の電極の少なくとも一つに対して付加電圧を重畳して、選択したイオンをDMSの中心長軸に対する半径方向に効果的に収束させる付加電圧手段を含む。このようにして、半径方向の閉じ込めが達成される。
【0117】
望ましくは、付加電圧手段は、付加電場がイオンを半径方向に収束するように、多重極の内部に付加電場を形成する。好ましくは、付加電圧は本明細書に記載の波形生成器によって制御する。例えば、波形生成器で生成した信号を用いて、DMSに印加する電圧を制御する。実施形態では、共通電源を用いて「通常の」DMS電圧と付加電圧を印加する。
【0118】
装置は、望ましくは波形生成器が、多重極の内部に(i) 双極子場と(ii) より高次の電場を与えるように構成することが好ましい。好ましくは、より高次の場は四重極電場、あるいはさらに高次の電場である。実施形態では、より高次の電場はn=4〜12から選択する。この次数の上限は電極の数であり、nは電極の数より小さいか、電極の数と同じである。
【0119】
典型的には、より高次の電場と双極子場は同時に与えられ、好ましくは同一の波形周波数と負荷サイクルで与えられる。好ましくは、より高次の電場を双極子場に重畳する。しかし、実施形態では、双極子場のみを与えるように、より高次の電場を双極子場と独立に切断ことができる。これは、例えば、特定のイオンのみを選択的に半径方向に収束させる、及び/又は多重極を収束なしのモードで使用するために用いる。
【0120】
実施形態では、多重極は、収束モードと収束なしのモードの使用(即ち、より高次の電場のon/off)を切り替え可能である。波形生成器によって収束モードと収束なしのモードを切り替え可能にすることが好ましい。
【0121】
望ましくは、より高次の電場は(非対称)RF構成要素とDC構成要素とを含む。
【0122】
実施形態では、DC信号は、典型的にはRF信号用の電源と独立の電源であるDC電源によって与えられる。
【0123】
より一般的には、望ましくは、微分型イオン移動度分光器は装置の他の部分とは独立に、特に質量分析器とは独立に、スイッチを切る(電極にポテンシャルを与えない)ことができる。これにより、装置を従来の質量分析器としても用いることができ、好ましい。
【0124】
実施形態では、微分型イオン移動度分光器は長手方向に配置された複数の電極を備える。この種の「分割電極」に、本明細書で議論するような電場(付加的なあるいはガスフローに代わる)を作用させ、イオンがDMSを通過することを可能にする。
【0125】
好ましくは、装置は、使用時に、微分型イオン移動度分光器の少なくとも一つの電極に補償電圧を印加する補償電圧手段を含む。
【0126】
典型的には、装置は制御手段を含み、該制御手段は微分型イオン移動度分光器を動作させ、好ましくは波形生成器を制御する。
【0127】
望ましくは、排気手段は、第1真空領域に接続された少なくとも一つの真空ポンプと第2真空領域に接続された少なくとも一つの真空ポンプとを含む。好ましくは、MS真空領域に必要な低圧を達成するため、MS真空領域にはターボ分子ポンプが接続する。
【0128】
望ましくは、真空ポンプの少なくともいくつかについて、排気手段は真空ポンプと真空領域の間に配置された絞りを含む。実施形態では、それぞれの絞りは独立にバルブを備える。
【0129】
好ましくは、排気手段及び/又はガスフロー手段(例えばイオン化源からのガスフロー)は本明細書で説明する第1真空領域の圧力を与えるように構成される。望ましくは、排気手段とイオン化源は第1真空領域を0.005kPa〜40kPa(0.05mbar〜400mbar)、より望ましくは0.1kPa〜20kPa(1mbar〜200mbar)にするように構成される。
【0130】
望ましくは、排気手段とイオン化源は第2真空領域を10
-4kPa(10
-3mbar)よりも低くするように構成される。
【0131】
望ましくは、第1真空領域と第2真空領域とは1つのオリフィスのみで接続される。
【0132】
あらゆる質量分析器を用いることができる。質量分析器は当業者により選択可能である。望ましくは、質量分析器は四重極フィルタ、飛行時間型分析器、直線RFイオントラップ、及び静電イオントラップから選択される。
【0133】
好ましくは、装置は質量分析器であり、望ましくはTOF質量分析器である。
【0134】
第2真空領域は複数の質量分析器を備えてもよいが、装置は1つの質量分析器のみを含むことが望ましい。
【0135】
他の実施形態では、装置はハイブリッド又はタンデムMSを備える。特に望ましくは、装置は前述の質量分析器の後段に、さらに質量分析器を含む。このような配置では、第1質量分析装置により対象イオンを選択し、選択したイオンを断片化して生じたフラグメントイオンあるいは娘イオンを第2質量分析器で分析するように構成することができる。
【0136】
別の態様では、本発明が提供する質量分析器は、
イオン化源と、
第1真空領域と第2真空領域を含む真空空間であって、該第1真空空間は前記イオン源からイオンを該第1真空空間に導入するイオン注入口を備える真空空間と、
前記第1真空領域に配置された微分型イオン移動度分光器と、
前記第2真空空間に配置された質量分析器であって、使用時にはイオンがイオン光軸に沿って前記イオン化源から前記第1真空領域を通って該質量分析器へ飛行し、使用時には試料から生成したイオンが質量分析を行う前に微分型イオン移動度分析される質量分析器と、
を備え、
使用時には前記微分型イオン移動度分光器を含む前記第1真空領域の圧力は0.005kPa 〜40kPaの範囲内であり、前記微分型イオン移動度分光器を20kHz〜25MHzの範囲の周波数を有する非対称波形により駆動する
ことを特徴とする。
【0137】
第1の態様に関連する付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。
【0138】
さらに別の態様において、本発明は、本明細書に記載した装置と分析器とを用いてイオンを分析する方法を提供する。
【0139】
さらに別の態様では、本発明はイオンを分析する方法を提供し、該方法は
(a) イオン化源においてサンプルからイオンを生成する
(b) イオン注入口を通じて、真空空間の第1真空領域に前記イオンを輸送する
(c) 前記第1真空領域において、前記イオンの質量分析を行う前に前記イオンの微分型イオン移動度分析を行う
(d) 微分型イオン移動度分析の後、前記イオンを前記真空空間の第2真空領域に移送する
(e) 前記第2真空領域において前記イオンの質量分析を行う
ステップを含み、
ステップ(c)が20kHz〜25MHzの範囲内の周波数を有する非対称波形を前記イオンに与えることを含み、ステップ(c)が0.005kPa〜40kPaの範囲の圧力において実行される
ことを特徴とする。
【0140】
このように、この態様の方法では、イオン化源で生成したイオンは装置の真空空間の第1領域に運ばれ、そこで特定の条件下でDMS分析が行われ、続いて真空空間の第2領域に運ばれ、そこでは質量分析が行われる。
【0141】
望ましくは、ステップ(b)は、微分型イオン移動度分析がガス中で実行されるように、前述のイオン化源から前述の第1真空領域へのガスの流れを供給することを含む。
【0142】
好ましくは、第1真空領域において、ガスの流れは、微分型イオン移動度分析を実行する前にガスの流れの揺らぎを抑えるように修正される。望ましくは、微分型イオン移動度分析は、ガスの略層流で行われる。
【0143】
その代わりに、あるいは付加的に、上述のとおり、イオンは電場(好ましくは長手方向の電場)の作用によって微分型イオン移動度分光器を通過する。このような配置では、微分型イオン移動度分光器を通過するガスが実質的に存在しない(例えば、静的なガス環境)ことが望ましい。
【0144】
実施形態では、微分型イオン移動度分析の前及び/又は後にイオンを収束させる。
【0145】
本明細書で議論するように、好ましくは、微分型イオン移動度分析は0.01kPa〜40kPa(0.1mbar〜400mbar)の圧力で行われ、望ましくは0.1kPa〜20kPa(1mbar〜200mbar)の圧力で行われる。
【0146】
本明細書で議論するように、望ましくは、質量分析は10
-4kPa(10
-3mbar)よりも低い圧力で行われる。
【0147】
第1の態様に関連する付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。
【0148】
さらに別の態様において、本発明が提供するイオン分析装置は、
試料からイオンを生成するイオン化源と、
イオン検出器と
を備え、
使用時にはイオンは前記イオン化源から前記イオン検出器までイオン光軸に沿って飛行し、前記装置はさらに、
微分型イオン移動度分光器を含む第1真空領域と、
質量分析器を含む第2真空領域と、
を含む真空空間と、
前記第2真空領域の圧力が前記第1真空領域の圧力よりも低くなるように構成された排気手段と、
前記イオン化源を前記第1真空領域に接続するイオン注入口と
を備え、
使用時に、前記試料から生成されたイオンが質量分析の前に微分型イオン移動度分析されるように、前記イオン光軸上において前記第1真空領域が前記第2真空領域の前段に位置しており、
前記微分型イオン移動度分光器は多重極を備え、そこでは複数の細長い電極が共通軸周りで円周状に配置され、電極の長軸が平行になっており、
前記装置は、前記多重極の内部に(i)双極子場と(ii)より高次の電場を与えるように構成された波形生成器を含む
ことを特徴とする。
【0149】
本明細書に記載のとおり、この配置ではイオンを半径方向に収束できることを見出した。
【0150】
好ましくは、上記の共通軸はイオン光軸である。
【0151】
典型的には、より高次の電場と双極子場は多重極内部に同時に形成する。好ましくは、より高次の電場を双極子場に重畳する。例えば、より高次の電場を多重極の電極により定義される空間の内部に与えることができる。
【0152】
望ましくは、より高次の電場とは四重極場である。
【0153】
好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。特に、多重極、電場、及び多重極に印加する電圧に関する、第1の態様での議論は、この態様にも適用される。
【0154】
別の態様において、本発明が提供するイオン分析方法は、
(a) イオン化源において試料からイオンを生成する
(b) イオン注入口を通じて真空空間の第1真空領域に前記イオンを輸送する
(c) 前記第1真空領域において、前記イオンの質量分析に先立って前記イオンの微分型イオン移動度分析を行う
(d) 微分型イオン移動度分析の後、前記イオンを
前記真空空間の第2領域に輸送する
(e) 前記第2真空領域において前記イオンの質量分析を実行する
ステップを含み、
ステップ(c)は、共通軸の周りで円周状に配置され、電極の長軸が平行に配置された複数の細長い電極を備えた多重極により微分型イオン移動度分析を実行することを含み、また、ステップ(c)が前記多重極内に(i)双極子場と(ii)より高次の電場を与えることを含む
ことを特徴とする。
【0155】
好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。特に、多重極、電場、及び多重極に印加する電圧に関する第1の態様での議論は、この態様にも適用される。
【0156】
さらに別の形態において、本発明が提供するイオン分析装置は、
試料からイオンを生成するイオン化源と、
イオン検出器と
を備え、
使用時に、イオンは前記イオン化源から前記イオン検出器までイオン光軸に沿って飛行し、前記装置はさらに、
微分型イオン移動度分光器を含む第1真空領域と、
質量分析器を含む第2真空領域と、
を含む真空空間と、
前記第2真空領域の圧力が前記第1真空領域の圧力よりも低くなるように構成された排気手段と、
前記イオン化源を前記第1真空領域に接続するイオン注入口と、
を備え、
使用時に、前記試料から生成されたイオンが質量分析の前に微分型イオン移動度分析されるように、前記イオン光軸上において前記第1真空領域が前記第2真空領域の前段に位置している
ことを特徴とする。
【0157】
この配置の利点は第1の態様について上述したとおりである。
【0158】
好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。
【0159】
別の態様において、本発明が提供するイオン分析方法は、
(a) イオン化源において試料からイオンを生成する
(b) イオン注入口を通じて真空空間の第1真空領域に前記イオンを輸送する
(c) 前記第1真空領域において、前記イオンの質量分析に先立って前記イオンの微分型イオン移動度分析を行う
(d) 微分型イオン移動度分析の後、前記イオンを前記真空空間の第2領域に輸送する
(e) 前記第2真空領域において前記イオンの質量分析を実行する
ステップを含むことを特徴とする。
【0160】
好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。
【0161】
別の態様において、本発明は、イオン飛行方向に順に配置された複数の電極を備える微分型イオン移動度セル(DMS cell)を提供する。典型的には、DMSセルは細長く、イオンの飛行方向はセルの長手方向に合致する。従って、前記複数の電極は長手軸の方向に順に配置されることが望ましい。好ましくは、DMSセルは、使用時にイオンがDMSセルを通り抜ける電場を生成するように、前述の複数の電極に対して電圧を与えるイオン輸送電場手段を含む。
【0162】
本明細書中で議論するように、この種の「分割電極」を用いて、電場(付加的にあるいはガスフローの代わりに)を作用させることにより、イオンをDMSを通過させる。
【0163】
別の態様において、本発明は、複数の電極と、使用時にイオンがDMSセルを通り抜ける電場を生成するように、前述の複数の電極に対して電圧を与えるイオン輸送電場手段とを含む微分型イオン移動度セル(DMS cell)を提供する。
【0164】
別の関連する態様は、本明細書に記載のDMSセルを備えたイオン分析器を提供する。好ましくは、分析器は質量分析器であり、DMSセルは質量分析器の真空区画内に配置される。
【0165】
本発明のいずれの態様も別の一つ以上の態様と組み合わせることができる。さらに、好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴は別の態様にも適用される。特に、方法あるいは使用に関連する付加的な特徴は装置にも適用でき、逆も可能である。