特許第5652634号(P5652634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5652634
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】樹脂潤滑用グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/00 20060101AFI20141218BHJP
   C10M 113/12 20060101ALI20141218BHJP
   C10M 107/38 20060101ALI20141218BHJP
   C10M 103/06 20060101ALI20141218BHJP
   C10M 107/44 20060101ALI20141218BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20141218BHJP
   C10M 109/00 20060101ALI20141218BHJP
   C10M 137/04 20060101ALI20141218BHJP
   C10M 107/08 20060101ALI20141218BHJP
   C10M 105/32 20060101ALI20141218BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20141218BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20141218BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20141218BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20141218BHJP
【FI】
   C10M169/00
   C10M113/12
   C10M107/38
   C10M103/06 F
   C10M107/44
   C10M107/02
   C10M109/00
   C10M137/04
   C10M107/08
   C10M105/32
   C10N30:06
   C10N30:08
   C10N40:04
   C10N50:10
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2009-31497(P2009-31497)
(22)【出願日】2009年2月13日
(65)【公開番号】特開2010-185043(P2010-185043A)
(43)【公開日】2010年8月26日
【審査請求日】2011年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084009
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(72)【発明者】
【氏名】伊熊 亨介
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 充弘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 功次
(72)【発明者】
【氏名】池島 昌三
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 末広
(72)【発明者】
【氏名】青山 純士
(72)【発明者】
【氏名】日坂 幸司
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−089575(JP,A)
【文献】 特開2001−089778(JP,A)
【文献】 特開2002−327759(JP,A)
【文献】 特開2002−371290(JP,A)
【文献】 特開2004−301268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤、基油および添加剤を含む樹脂潤滑用グリース組成物において、
増ちょう剤がシリカを含み、
添加剤が固体潤滑剤及びワックスを含み、
固体潤滑剤がポリテトラフルオロエチレン、有機ベントナイト及びメラミンシアヌレート(MCA)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
ワックスが酸化ポリエチレンワックス及びモンタン酸ワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
固体潤滑剤の含有量が全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%であり、ワックスの含有量が全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%であり、固体潤滑剤とワックスの合計量が全グリース組成物の質量に対して0.2〜10質量%である前記グリース組成物。
【請求項2】
脂肪族リン酸エステル及び芳香族リン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機リン酸エステルをさらに含有し、前記有機リン酸エステルの含有量が全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%である請求項1記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
【請求項3】
基油が合成炭化水素油である請求項1又は2記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂潤滑性に優れるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品や家電製品、OA、AV機器などは、軽量化や低コスト化などの要求から、従来の金属部品に代わり樹脂部品の使用が増加している。この傾向はギヤやカム軸受などに代表される潤滑部品も例外ではなく、樹脂化が進んでいる。このような樹脂製材料では、操作感や異常音の原因となるスティックスリップの発生が問題となっている。このスティックスリップは、物体を滑らす際に、途中で引っかかったり、滑ったりを繰り返すような現象のことを示す。
【0003】
増ちょう剤としてのシリカは樹脂潤滑においてよく使用されるが、スティックスリップの発生が問題となることが多い。
スティックスリップの対策としては、固体潤滑剤を使用したものがほとんどである。例えば、添加剤としてカルボン酸アマイド系ワックスを含有するグリース組成物(特許文献1)、モンタン酸ワックスを含有させた樹脂潤滑用グリース組成物(特許文献2)、平均分子量が900〜10000のポリオレフィンワックスを0.5〜40重量%含有させた潤滑グリース組成物(特許文献3)、平均1次粒径が0.2μm未満のポリテトラフルオロエチレン微粉末を含有させた樹脂用グリース組成物(特許文献4)などがある。
しかし、上記従来の処方は、いずれも増ちょう剤としてウレア化合物やLi石けんを使用したグリースであり、グリース中での増ちょう剤量が多くなるため低温性に劣るという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−208199
【特許文献2】特許第4037067
【特許文献3】特開平9−194867
【特許文献4】特開2001−89778
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、樹脂潤滑用グリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、スティックスリップの発生を少なく抑えることができる樹脂潤滑用グリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
シリカは、樹脂潤滑性は劣るものの、低温性は良好な増ちょう剤である。本発明者は、増ちょう剤としてシリカを使用した際の樹脂潤滑性を改善するために種々検討した結果、特定の添加剤を添加することにより、これを改善できることを見いだし本発明を完成するに至った。
本発明は下記の樹脂潤滑用グリース組成物を提供するものである。
1.増ちょう剤、基油および添加剤を含む樹脂潤滑用グリース組成物において、増ちょう剤がシリカを含み、添加剤が固体潤滑剤及びワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂潤滑用グリース組成物。
2.固体潤滑剤がポリテトラフルオロエチレン、有機ベントナイト及びメラミンシアヌレート(MCA)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む上記1記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
3.ワックスが酸化ポリエチレンワックス及びモンタン酸ワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む上記1又は2記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
4.脂肪族リン酸エステル及び芳香族リン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機リン酸エステルをさらに含有する上記1〜3のいずれか1項記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
5.固体潤滑剤の含有量が全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%であり、ワックスの含有量が全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%である上記1〜4のいずれか1項記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
6.有機リン酸エステルの含有量が全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%である上記5記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
7.基油が合成炭化水素油である上記1〜6のいずれか1項記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂潤滑用グリース組成物は、樹脂潤滑性及び低温性に優れている。
本発明の樹脂潤滑用グリース組成物は、特定の固体潤滑剤が樹脂材同士の接触を妨げ、スティックスリップ性を改善するものと考えられる。
本発明の樹脂潤滑用グリース組成物は、有機リン酸エステルを含有する場合には、これが樹脂に吸着することにより、スティックスリップ性がさらに改善される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のグリース組成物に使用する増ちょう剤は、シリカを含有する。シリカは、耐熱性、消音性及び低温性に優れた増ちょう剤である。シリカとしては、1次粒径が好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下、最も好ましくは0.05μm以下であるものが望ましい。
増ちょう剤としてはシリカのみであることが最も好ましいが、増ちょう剤全体に対して、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下で他の増ちょう剤を含有しても良い。他の増ちょう剤は特に限定されず、全ての増ちょう剤が使用可能である。例えば、Li石けんやLiコンプレックス石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイに代表される無機系増ちょう剤、PTFEに代表される有機系増ちょう剤などが挙げられる。
増ちょう剤の含有量はグリース組成物の質量に対して、好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%である。
【0009】
本発明のグリース組成物の基油としては合成油が好ましい。基油中の合成油の含有量は好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
本発明のグリース組成物に使用する基油の動粘度は40℃で好ましくは200〜1000mm2/s、さらに好ましくは400〜600mm2/sである。
合成油としては、エステル、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、ポリ−α−オレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油、シリコーン油、フッ素油などが挙げられる。好ましくは合成炭化水素油であり、特に好ましくはポリ−α−オレフィンとポリブテンの混合物である。ポリ−α−オレフィンは良好な低温特性を示し、ポリブテンは粘度−圧力係数(α)が約30と高いため、優れた消音効果を発揮する。ポリ−α−オレフィンとポリブテンの混合割合は、質量比で90:10〜99:1が適当である。
【0010】
本発明のグリース組成物の添加剤として使用される固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、有機ベントナイト及びメラミンシアヌレート(MCA)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
また、ワックスとしては、酸化ポリエチレンワックス及びモンタン酸ワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
固体潤滑剤の含有量は全グリース組成物の質量に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは2〜7質量%である。
ワックスの含有量は全グリース組成物の質量に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは2〜7質量%である。
固体潤滑剤とワックスの合計の含有量は全グリース組成物の質量に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは2〜7質量%である。0.1質量%未満では効果が少なく、10質量%を超えると低温性が低下する傾向がある。
固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン、有機ベントナイト、MCA、酸化ポリエチレンワックス、モンタン酸ワックスは、樹脂材間に介在することにより、摩擦を低減すると考えられる。
【0011】
本発明のグリース組成物は、脂肪族リン酸エステル及び芳香族リン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機リン酸エステルをさらに含有することが望ましい。
有機リン酸エステルの含有量は、全グリース組成物の質量に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。
有機リン酸エステルは、その極性基が樹脂材と吸着することにより、摩擦を低減すると考えられる。
0.1質量%未満では効果が少なく、10質量%を超えると低温性が低下する傾向がある。
【0012】
本発明のグリース組成物には、上記添加剤に加え、必要に応じてその他の添加剤が使用可能である。例えば、フェノール系およびアミン系に代表される酸化防止剤、ベンゾトリアゾールに代表される金属腐食防止剤などが挙げられる。
【0013】
実施例
実施例1−11及び比較例1−4
表1〜表3に示す処方の試験グリースを調製した。
増ちょう剤としてはシリカ(外観:白色粉体/融点:約1700℃/かさ密度(見掛け比重):<2g/L/比表面積:170±20m2/g/pH:3.8〜5.0/HCl含有率:0.05%以下/1次粒径:0.012μm以下)を、基油としては、合成炭化水素油とポリブテンの混合油(質量比95:5)を使用した。
合成炭化水素油の動粘度は40℃で390mm2/s、ポリブテンの動粘度は40℃で160,000mm2/sであり、基油全体の動粘度は40℃で518mm2/sに統一した。
添加剤としては、実施例では、ポリテトラフルオロエチレン、有機ベントナイト、MCA、酸化ポリエチレンワックス、モンタン酸ワックス、リン酸トリクレジルを、比較例では、無添加、リン酸トリクレジル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ひまし油を使用した。
【0014】
混和ちょう度(JIS K2220 7.)
混和ちょう度は280に統一した。
バーベルプレート試験(スティックスリップ性)
トライボロジー会議予稿集(佐賀2007-9 D37)「スプライン用高潤滑性グリースの開発」2007年9月、株式会社デンソー 分根聖司)記載のバーベルとプレートに試験グリースを塗布し、既定の条件で試験を行い、摩擦係数(Δμ=静摩擦係数−動摩擦係数)を測定し、スティックスリップ性を評価した。
試験条件
バーベル:PBT(ウィンテックスポリマー ジュラネックス2002)
プレート:POM(ポリプラスチックス ジュラコンM90XAP)
荷重:100N
速度:0.12m/s
温度:60℃
評価 (Δμ値) ○:0.150未満、×:0.150以上
【0015】
添加剤として、本発明の添加剤(ポリテトラフルオロエチレン、有機ベントナイト、MCA、酸化ポリエチレンワックス、モンタン酸ワックス)を添加した実施例1〜5、および2種以上の添加剤を組み合わせて添加した実施例6〜11のグリース組成物はΔμが0.150未満であり、本発明の添加剤を含まない比較例及び本発明の添加剤以外の添加剤を添加した比較例のグリース組成物に比べてスティックスリップ性が顕著に改善されている。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】