(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5652707
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】溶融ガラス移送管
(51)【国際特許分類】
C03B 5/225 20060101AFI20141218BHJP
【FI】
C03B5/225
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-251018(P2010-251018)
(22)【出願日】2010年11月9日
(65)【公開番号】特開2012-101970(P2012-101970A)
(43)【公開日】2012年5月31日
【審査請求日】2013年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】金谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】山内 幸一
【審査官】
大工原 大二
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−523449(JP,A)
【文献】
特開平09−072996(JP,A)
【文献】
特開2007−145668(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/013228(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/136109(WO,A1)
【文献】
特開2003−095663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00− 5/44
C03B 8/00− 8/04
C03B 19/12−20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる縦管部を有する貴金属管と、前記貴金属管の外周面を包囲して前記貴金属管の外周面との間に溶融ガラスの充填空間を形成する耐火物とを備え、前記充填空間に溶融ガラスを充填した状態で、前記貴金属管を通電加熱しながら前記貴金属管の内部空間に溶融ガラスを流通させる溶融ガラス移送管において、
前記縦管部の外周面を包囲する前記耐火物に傾斜姿勢で接続されたガラス原料投入管を備え、前記ガラス原料投入管の上端開口部が、前記ガラス原料投入管の管軸に直交する平面に対して角度をなす略水平面に沿って形成された長円形をなし、
前記ガラス原料投入管の上端開口部からその内部空間に投入された前記ガラス原料を前記ガラス原料投入管の下端開口部まで誘導して前記縦管部に対応する前記充填空間に供給することを特徴とする溶融ガラス移送管。
【請求項2】
前記ガラス原料投入管の傾斜角が、水平線に対して30°〜60°であることを特徴とする請求項1に記載の溶融ガラス移送管。
【請求項3】
前記ガラス原料投入管の内径が、30〜50mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融ガラス移送管。
【請求項4】
前記ガラス原料投入管の下端開口部が、前記縦管部の内部空間を流通する溶融ガラスの液面高さと同一又はそれよりも上方位置で、前記縦管部に対応する前記充填空間にガラス原料を供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶融ガラス移送管。
【請求項5】
前記ガラス原料投入管が、前記縦管部の外周面を包囲する前記耐火物の周方向に複数設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶融ガラス移送管。
【請求項6】
前記縦管部が、内部に攪拌翼を有する攪拌槽であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶融ガラス移送管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスを流通させる溶融ガラス移送管の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば薄板ガラスなどのガラス物品を連続的に成形する場合、ガラス溶解室でガラス原料を加熱して溶融ガラスに溶解した後、その溶融ガラスが、清澄工程や撹拌工程などの各種工程を経て成型装置(成形体)へと連続的に供給される。この際、ガラス溶解室で溶解された溶融ガラスは、溶融ガラス移送管の内部空間(内部通路)を流通することで、成型装置まで移送される(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この溶融ガラス移送管としては、例えば、特許文献2に開示されているように、耐熱性や耐酸化性の観点から白金や白金合金などからなる貴金属管で、溶融ガラスの流通路を構成したものが利用される。
【0004】
そして、同文献によれば、溶融ガラスを貴金属管の内部に流通させると、その過程で溶融ガラス中に酸素気泡が発生するとされている。貴金属管の内部を流通する溶融ガラスは、製品となるガラス物品の成形に利用されるものであるので、この溶融ガラス中に酸素気泡が発生したまま放置していると、最終的に成形されるガラス物品中に酸素気泡に起因する欠陥が形成されるという問題が生じ得る。
【0005】
特に、液晶ディスプレイパネルを始めとするフラットパネルディスプレイ用のガラス基板の場合には、高い製品品位が要求されるため、酸素気泡に起因する欠陥が形成されている場合には要求品位を満たさずに不良品として取り扱わざるを得ない事態を招きやすい。
【0006】
上記のように溶融ガラス中に酸素気泡が形成される理由は、特許文献2には、次のように説明されている。すなわち、貴金属管の外部環境(例えば、外部環境の水素分圧が低い場合)によっては、貴金属管を溶融ガラス中の水分に由来する水素が透過して管外へと放出されやすくなる。その結果、貴金属管内を流通する溶融ガラス中の水分に由来する酸素濃度が上昇して酸素気泡が生じ、その酸素気泡が原因となってガラス物品に欠陥が生じ得る。
【0007】
そのため、ガラス物品の高い品位を維持する上で、溶融ガラス中の酸素気泡を低減すべく、対策を講じることが必要不可欠となる。そこで、特許文献2では、溶融ガラスを流通させる貴金属管(ガラス搬送白金管)の外周面を耐火物で包囲し、貴金属管と耐火物との間に形成される充填空間に溶融ガラスを充填するようにしている。このようにすれば、貴金属管と耐火物との間の充填空間に存在する溶融ガラスにより、貴金属管の内部を流通する溶融ガラス中の水分に由来する水素が外部に透過する事態が抑制されることから、貴金属管の内部を流通する溶融ガラス中に酸素気泡が形成され難くなる。
【0008】
ここで、貴金属管と耐火物との間の充填空間に存在する溶融ガラスは、耐火物の目地等に吸収されるなどして徐々に減少する。そのため、特許文献2では、耐火物にガラス原料を供給するための充填口が形成されている。
【0009】
なお、溶融ガラス移送管においては、貴金属管の外周面の複数個所に電極(例えば、貴金属管の外周面の全周に亘って鍔状に形成される)を設け、この電極間に通電して貴金属管を加熱しながら、貴金属管の内部に溶融ガラスを流通させるのが通例とされている。これは、貴金属管の内部の溶融ガラスの粘度を適正に維持するためである。また、耐火物で覆われた貴金属管を通電加熱するため、貴金属管の外周面に形成された電極の一部は、貴金属管の外周を覆う耐火物の外方側に露出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−145668号公報
【特許文献2】特表2004−523449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、溶融ガラス移送管の貴金属管は、その流路の全長に亘って略水平に延在する横管部のみで構成されることは少なく、上下方向に延在する縦管部を一部に含むのが一般的である。この場合、横管部とその外周面を包囲する耐火物との間の充填空間、および、縦管部とその外周面を包囲する耐火物との間の充填空間に、それぞれ溶融ガラスとなるガラス原料を供給する必要がある。
【0012】
しかしながら、縦管部とその外周面を包囲する耐火物との間の充填空間の場合、貴金属管の外周面に形成される電極などが邪魔になって、特許文献2に開示されているように、充填空間に連通する縦孔を耐火物に形成することが困難となる。そのため、貴金属管に設けられた電極などを避けて、耐火物の壁面に横孔を形成することも考えられるが、この場合には、横孔の内部空間でガラス原料が詰まり易く、作業性が非常に悪い。また、横孔の形成位置によっては、溶融ガラスが横孔を通じて耐火物の外部へ流出するおそれもある。
【0013】
以上の実情に鑑み、本発明は、貴金属管の縦管部の外周面に電極等が形成されている場合であっても、溶融ガラスを流通させる貴金属管の縦管部と、その外周面を包囲する耐火物との間の充填空間に、溶融ガラスとなるガラス原料を効率よく供給することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために創案された本発明は、上下方向に延びる縦管部を有する貴金属管と、前記貴金属管の外周面を包囲して前記貴金属管の外周面との間に溶融ガラスの充填空間を形成する耐火物とを備え、前記充填空間に溶融ガラスを充填した状態で、前記貴金属管を通電加熱しながら前記貴金属管の内部空間に溶融ガラスを流通させる溶融ガラス移送管において、前記縦管部の外周面を包囲する前記耐火物に傾斜姿勢で接続されたガラス原料投入管を備え、前記ガラス原料投入管の上端開口部からその内部空間に投入された前記ガラス原料を前記ガラス原料投入管の下端開口部まで誘導して前記縦管部に対応する前記充填空間に供給することに特徴づけられる。
【0015】
このような構成によれば、ガラス原料投入管が傾斜状態であるから、ガラス原料は自重によってガラス原料投入管の上端開口部から下端開口部へと移動する。そのため、ガラス原料投入管の内部空間でガラス原料が詰まるという不具合が防止され、縦管部に対応する充填空間にガラス原料を効率よく供給することができる。また、貴金属管を通電加熱する際に利用される電極が縦管部に設けられている場合であっても、ガラス原料投入管が傾斜しているので、この電極を回避しながら縦管部の外周面を包囲する耐火物に接続することができる。そのため、縦管部の外周面に電極が設けられていても、縦管部に対応する充填空間にガラス原料を問題なく供給することができる。
【0016】
上記の構成において、前記ガラス原料投入管の傾斜角が、水平線に対して30°〜60°であることが好ましい。
【0017】
すなわち、ガラス原料投入管の傾斜角度が小さすぎると、ガラス原料投入管の内部空間に投入したガラス原料の重力による落下作用が低減し、ガラス原料投入管の内部空間でのガラス原料の供給効率が低下するおそれがある。一方、ガラス原料投入管の傾斜角度が大きすぎると、貴金属管の縦管部に電極が設けられている場合に、電極がガラス原料投入管の障害物になるおそれがある。そこで、ガラス原料投入管の傾斜角は、上記数値範囲であることが好ましく、このようにすれば、仮に電極が設けられている場合でも、その電極を容易に回避しつつ、ガラス原料投入管の内部空間に充填されたガラス原料を重力の作用により円滑に移動させることができる。
【0018】
上記の構成において、前記ガラス原料投入管の内径が、30〜50mmであることが好ましい。
【0019】
すなわち、ガラス原料投入管の内径が小さすぎると、その内部空間でガラス原料が詰まり易くなる。一方、ガラス原料投入管の内径が大きすぎると、ガラス原料投入管を介して充填空間の熱が逃げ易く、温度管理に悪影響を与えるおそれがある。そこで、ガラス原料投入管の内径は、上記数値範囲であることが好ましい。このようにすれば、ガラス原料投入管の流路面積が最適化され、ガラス原料投入管の内部空間でガラス原料を円滑に移動させると共に、ガラス原料投入管を通じて充填空間の熱が外部に逃げるという事態を問題ない程度に抑えることができる。
【0020】
上記の構成において、前記ガラス原料投入管の上端開口部が、略水平面内で長円形をなすように形成されていることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、ガラス原料投入管の上端開口部の開口面積が、真円形をなす場合に比して大きくなることから、ガラス原料を投入し易くなる。また、ガラス原料投入管の上端開口部を介して、その内部空間を視認し易くもなるため、充填空間に充填された溶融ガラスの液面レベルを目視により容易に監視することが可能となる。
【0022】
上記の構成において、前記ガラス原料投入管の下端開口部が、前記縦管部の内部空間を流通する溶融ガラスの液面高さと同一又はそれよりも上方位置で、前記縦管部に対応する前記充填空間にガラス原料を供給することが好ましい。
【0023】
このようにすれば、貴金属管の縦管部の内部空間を流通する溶融ガラスの外側を、充填空間の溶融ガラスで確実に覆うことが可能となるので、縦管部の内部空間を流通する溶融ガラス中に酸素気泡が形成される割合を確実に低減することができる。
【0024】
上記の構成において、前記ガラス原料投入管が、前記縦管部の外周面を包囲する前記耐火物の周方向に複数設けられていてもよい。
【0025】
このようにすれば、縦管部に対応する充填空間に対して、複数方向からガラス原料が供給されることになる。そのため、縦管部の外周面の周囲に万遍なくガラス原料を供給できることから、縦管部の外周面を覆う溶融ガラスの液面レベルを緻密に管理することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように本発明によれば、貴金属管の縦管部の外周面に電極等が形成されている場合であっても、溶融ガラスを流通させる貴金属管の縦管部と、その外周面を包囲する耐火物との間の充填空間に、溶融ガラスとなるガラス原料を効率よく供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶融ガラス移送管を備えた板ガラスの製造装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1の撹拌槽周辺の溶融ガラス移送管を示す縦断面図である。
【
図5】
図1の撹拌槽周辺の溶融ガラス移送管を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶融ガラス移送管を備えた板ガラスの製造装置の構成を示す図である。この製造装置1は、上流端に配置された溶解室2の下流側に、上流側から順に、清澄室3、撹拌翼4aを有する撹拌槽4、および溶融ガラスG1の粘度調整を主として行う容積部であるポット5を備えている。そして、溶解室2と清澄室3の間、清澄室3と撹拌槽4の間、及び撹拌槽4とポット5の間は、それぞれ連結管6,7,8によって連結されている。更に、ポット5の下部には、下方に移行するに連れて径が漸次縮小する流路面積絞り部9が形成され、この流路面積絞り部9の下流端に小径管10が接続されると共に、この小径管10の下流側には、途中に曲成部11を有する大径管12が通じている。この大径管12の下流端部13から成形体14に溶融ガラスG1が供給され、この成形体14にて溶融ガラスG1が板状の形態とされる。したがって、この実施形態では、溶解室2から成形体14へ至るまでの流通路(清澄室3、撹拌槽4、ポット5、及び連結管6,7,8など)が、溶融ガラス移送管を構成する。
【0030】
成形体14は、断面が略くさび形をなし、オーバーフローダウンドロー法を実行するものであって、次のようにして溶融ガラスG1を板状形態に成形する構成とされている。まず、成形体14の上部に形成されたオーバーフロー溝(図示省略)に溶融ガラスG1を連続供給し、この溶融ガラスG1をオーバーフロー溝から溢れさせて成形体14の両側の側壁面に沿って流下させる。そして、その流下させた溶融ガラスG1をそれぞれ成形体14の下頂部で融合させて一枚の板状形態にする。その後、この形態の板状ガラス成形物が固化した段階で、これを引張りローラが挟持しつつ下方に引き抜くことにより、最終的に製品となるべき板ガラスが得られる。なお、このように製造された板ガラスは、例えば、厚みが0.1〜1.0mmであって、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などの基板や保護カバーに利用される。
【0031】
溶融ガラス移送管は、例えば撹拌槽4の周辺を例にとって説明すると、
図2に示すように、成形体14に供給する溶融ガラスG1を内部空間S1に流通させる貴金属管(例えば、白金又は白金合金管)15と、この貴金属管15の外周面を包囲して貴金属管15の外周面との間に溶融ガラスG2の充填空間S2を形成する耐火物16とを備えている。なお、この実施形態では、溶融ガラス移送管を構成するその他の部分(例えば、清澄室3、ポット5、及び連結管6など)も、貴金属管の外周面を耐火物が包囲し、貴金属管と耐火物との間に溶融ガラスの充填空間が形成されているものとする。
【0032】
そのため、貴金属管15の外周面は、充填空間(貴金属管15の外周面と耐火物16の内壁との間の空間)S2に充填された溶融ガラスG2により覆われた状態となっている。このようにすれば、貴金属管15の内部空間S1に存在する溶融ガラスG1の水分に由来する水素が、貴金属管15の外方に透過する割合を低減することができる。その結果、貴金属管15の内部空間S1に存在する溶融ガラスG1中に水素透過に起因した酸素気泡が発生する割合を大幅に低減することができる。
【0033】
また、撹拌槽4の周辺では、貴金属管15は、連結管7,8にそれぞれ対応する部分が溶融ガラスG1を略水平に流通させる横管部15a,15bとされ、撹拌槽4に対応する部分が溶融ガラスG1を上下方向に流通させる縦管部15cとされる。詳細には、上流側の横管部15aが、縦管部15cの上方に接続され、下流側の横管部15bが縦管部15cの下方に接続されている。そのため、上流側の横管部15a内を流通する溶融ガラスG1は、上方側から縦管部15c内に流入した後に縦管部15c内を下方側へ移動するとともに、縦管部15c内の下方側から下流側の横管部15b内に流入し、その横管部15b内を下流側へ移動する。
【0034】
横管部15a,15bの外周面、及び縦管部15cの外周面には、鍔状の電極17,18,19,20が設けられている。そして、これら電極17〜20の各相互間に図示しない電源が接続され、この電源によって横管部15a,15b及び縦管部15cを有する貴金属管15が通電され、貴金属管15の内部空間S1を流通する溶融ガラスG1が加熱される。なお、この際、貴金属管15と耐火物16との間に形成される充填空間S2に存在する溶融ガラスG2も同時に通電加熱される。
【0035】
縦管部15cの外周面を包囲する耐火物16cの側方には、縦管部15cに対応する充填空間(縦管部15cと耐火物16cとの間の空間)S2に、溶解した後に溶融ガラスG2となるガラス原料(例えば、ガラスを粉砕したガラスカレットなど)Gaを供給するためのガラス原料投入管21が設けられている。このガラス原料投入管21は、縦管部15cの外周面を包囲する耐火物16cに対して傾斜姿勢で接続されており、上端開口部21aから内部空間に投入されたガラス原料Gaを下端開口部21bまで誘導して縦管部15cに対応する充填空間S2に補充するようになっている。このようにすれば、ガラス原料投入管21が傾斜状態であるから、ガラス原料Gaは自重によってガラス原料投入管21の上端開口部21aから下端開口部21bへと自動的に移動する。そのため、ガラス原料投入管21の内部空間でガラス原料Gaが詰まり難くなり、縦管部15cに対応する充填空間S2にガラス原料Gaを効率よく供給することができる。また、この場合には、縦管部15cの上方位置に、電極18が略水平方向に張り出すように設けられていても、その電極18を回避しながらガラス原料投入管21を縦管部15cの外周面を包囲する耐火物16cに問題なく接続することができる。
【0036】
なお、横管部15a,15bの外周面を包囲する耐火物16a,16bの上方にも、図示を省略するが、横管部15a,15bに対応する充填空間(横管部15aと耐火物16aとの間の空間および横管部15bと耐火物16bとの間の空間)S2にガラス原料Gaを供給する投入部(例えば、投入孔又は投入管)が設けられており、この投入部を通じて充填空間S2にガラス原料Gaが適宜補充することができる。
【0037】
ガラス原料投入管21の上端開口部21aは、その傾斜した管軸中心に対して直交する平面内に沿って形成されておらず、略水平面に沿って形成されている。そのため、ガラス原料投入管21の上端開口部21aは、略水平面内で真円ではなく、長円形を呈している。そのため、ガラス原料投入管21の上端開口部21aの開口面積は、ガラス原料投入管21の軸直角断面の開口面積よりも大きくなることから、ガラス原料を投入し易くなる。また、ガラス原料投入管21の上端開口部21aを介してその内部空間を視認し易くもなる。そのため、縦管部15cに対応した充填空間S2に充填された溶融ガラスG2の液面レベルを目視により容易に監視することが可能となる。
【0038】
また、ガラス原料投入管21の傾斜角θは、水平線Hに対して30°〜60°(好ましくは40°〜50°)に設定されており、その内径寸法Dは、30〜50mm(好ましくは、35〜45mm)に設定されている。ここで、内径寸法Dは、ガラス原料投入管21の軸直角断面で測定するものとする。
【0039】
図3に示すように、ガラス原料投入管21の下端開口部21bは、縦管部15cの内部空間S1を流通する溶融ガラスG1の液面L1の高さよりも上方位置で、縦管部15cに対応する充填空間S2にガラス原料Gaを供給するようになっている。このようにすれば、充填空間S2の溶融ガラスG2の液面L2を、縦管部15cの内部空間S1を流通する溶融ガラスG1の液面L1よりも高くすることができる。その結果、縦管部15cの内部空間S1を流通する溶融ガラスG1の外側を、縦管部15cを介して、充填空間S2の溶融ガラスG2で完全に覆うことが可能となる。したがって、縦管部15cの内部空間S1を流通する溶融ガラスG1中に酸素気泡が発生する割合を確実に低減することができる。
【0040】
なお、ガラス原料投入管21の下端開口部21bの位置は、特に限定されるものではなく、例えば、
図4に示すように、ガラス原料投入管21の下端開口部21bの下縁が、縦管部15cの内部空間S1を流通する溶融ガラスG1の液面L1と略同一高さであってもよい。ただし、
図3及び
図4に示したように、ガラス原料投入管21の下端開口部21bは、縦管部15cの内部空間S1を流通する溶融ガラスG1の液面L1が、縦管部15cに対応する充填空間S2の溶融ガラスG2の液面L2と同一か、又はそれよりも高くなるように調整可能な位置に設けられていることが好ましい。
【0041】
図5に示すように、ガラス原料投入管21は、縦管部15cの外周面を包囲する耐火物16cの周方向に複数設けられている。このようにすれば、縦管部15cに対応する充填空間S2に対して、複数方向からガラス原料Gaを万遍なく供給することができるため、縦管部15cの外周面を覆う溶融ガラスG2の液面レベルを緻密に管理可能となる。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の形態で実施することができる。例えば、上記の実施形態では、溶融ガラス移送管をオーバーフローダウンドロー法によって板ガラスを製造する製造装置に組み込んだ場合を説明したが、スロットダウンドロー法などの他のダウンドロー法によって板ガラスを製造する製造装置に組み込んでもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、撹拌槽4の縦管部15cに対応する耐火物16cにガラス原料投入管21を設ける場合を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、
図1に示したように、ポット5や小径管10の内部も溶融ガラスG1を上下方向に流通させる縦管部を構成するので、これら縦管部を構成するポット5や小径管10などに対応する耐火物にガラス原料投入管を同様の傾斜態様で設けてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 板ガラスの製造装置
2 溶解室
3 清澄室
4 撹拌槽
5 ポット
6,7,8 連結管
14 成形体
15 貴金属管
15a,15b 横管部
15c 縦管部
16 耐火物
16a,16b 横管部の外周面を包囲する耐火物
16c 縦管部の外周面を包囲する耐火物
21 ガラス原料投入管
G1,G2 溶融ガラス
Ga ガラス原料