特許第5652738号(P5652738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5652738
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】衝突判定システム及び衝突判定方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20141218BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   B25J19/06
   G05B19/18 X
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-273932(P2011-273932)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2013-123772(P2013-123772A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2013年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109807
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】安味 憲一
【審査官】 佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−170386(JP,A)
【文献】 特開2000−218589(JP,A)
【文献】 特開平04−067209(JP,A)
【文献】 特開平05−265558(JP,A)
【文献】 特開平08−298795(JP,A)
【文献】 特開2002−062937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
G05B 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部を駆動するための低推力のモータの回転を検出する検出部と、
前記可動部が所定の動作を行うために、前記検出部からの検出信号に基づく現在位置と要求動作に基いた目的位置との差分が減るよう前記モータをフィードバック制御する制御部と、
前記モータの駆動状態を監視する判断部と、
を備え、
前記判断部が、
前記モータの出力量として前記検出部からの検出信号に基いて前記可動部の回転角度及び速度を算出し、
算出した回転角度及び速度の各差分に対してそれぞれ係数を乗じて加算することにより位置情報を電圧値で算出し、その算出した電圧値と前記制御部による前記モータへの制御量としての出力電圧との誤差を計測タイミング毎に算出し、その誤差を累積し、その累積誤差と所定の値とを比較して前記可動部が障害物に衝突したかを判定する、
衝突判定システム。
【請求項2】
低推力のモータで駆動される可動部が障害物に衝突したことを検出する衝突判定方法であって、
前記モータの回転に関する検出信号に基いて前記可動部の回転角度及び速度を、前記モータの出力量として算出し、算出した回転角度及び速度の各差分に対してそれぞれ係数を乗じて加算することで位置情報を電圧値で算出し、計測タイミング毎にその算出した電圧値と前記モータの制御量としてモータの出力電圧との誤差を算出し、計測タイミング毎の各誤差を累積する算出工程と、
前記算出工程で求めた累積誤差と所定の値とを比較して前記可動部が障害物に衝突したかを判定する判断工程と、
を備える、衝突判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低推力のモータで駆動されるアームが障害物に当たったことを検出する衝突判定システム及び衝突判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造現場等で安定した品質で効率的な生産を行うために産業用ロボットが重要な役割を担っている。利用範囲も、自動車車体へのスポット溶接や塗装のみでなく電子回路基板へのパーツの組立、製品の箱詰めなど、拡大を続けてきている。
【0003】
産業用ロボットを利用する製造現場等では、安全領域を確保するためにセンサを用いてロボットアームと作業者との接触を防止している。
【0004】
特許文献1(特表2009−545457号)には、可動式機械要素を備える機械と作業者との衝突を防止する監視装置が開示されている(特許文献1の段落[0001])。この監視装置は、画像センサによって安全領域への物体の進入を監視し、安全領域への物体の進入が検知された場合にロボットアームの駆動を制御し、物体との衝突を防止する(特許文献1の段落[0010]、[0012])。
【0005】
特許文献2(特開2001−208504号)には、医用寝台装置の障害物検出システムが開示されている。このシステムは、医療装置のC字形アームが患者や術者、付属装置への接触を防止するために、静電容量型距離センサを利用する。このセンサは、電磁界の強度を検出して周囲の物体の存在を検出する(特許文献2の段落[0009])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−545457号
【特許文献2】特開2001−208504号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2は、アームが作業者などに当たった場合に作業者などに強い衝撃を与え得ることを前提として、作業者へのアームの衝突を回避することを目的としている。特許文献1,2ではこの目的を安全領域を確保することで解決することから、アームの周囲を監視するためのセンサを利用する必要がある。従来の技術では、このようなセンサを備えると、センサで検出した情報の処理やそれに基づいたアームの制御が必要で、システムが高価になってしまう。
【0008】
そこで、アームが作業者などへ当たっても危害を加えない程度に、アームを低推力のモータで動作させ、作業者などへ当たった場合には安全側へアームを退避するように制御することが考えられる。さらに、システムの製造コストを低減するために、センサを利用せずとも、低推力のモータによるアームが作業者などに当たったことを判定する技術が必要である。
【0009】
そこで、本発明は、アームなどの可動部周囲の状況を監視するセンサを用いることなく、低推力のモータによる可動部が作業者や物などの障害物に当ったことを判定する衝突判定システム及び衝突判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の衝突判定システムは、
可動部を駆動するための低推力のモータの回転を検出する検出部と、
前記可動部が所定の動作を行うために、前記検出部からの検出信号に基づく現在位置と要求動作に基いた目的位置との差分が減るよう前記モータをフィードバック制御する制御部と、
前記モータの駆動状態を監視する判断部と、
を備え、
前記判断部が、
前記モータの出力量として前記検出部からの検出信号に基いて前記可動部の回転角度及び速度を算出し、
算出した回転角度及び速度の各差分に対してそれぞれ係数を乗じて加算することにより位置情報を電圧値で算出し、その算出した電圧値と前記制御部による前記モータへの制御量としての出力電圧との誤差を計測タイミング毎に算出し、その誤差を累積し、その累積誤差と所定の値とを比較して前記可動部が障害物に衝突したかを判定する。
【0012】
上記目的を達成するために、低推力のモータで駆動される可動部が障害物に衝突したことを検出する衝突判定方法であって、
前記モータの回転に関する検出信号に基いて前記可動部の回転角度及び速度を、前記モータの出力量として算出し、算出した回転角度及び速度の各差分に対してそれぞれ係数を乗じて加算することで位置情報を電圧値で算出し、計測タイミング毎にその算出した電圧値と前記モータの制御量としてモータの出力電圧との誤差を算出し、計測タイミング毎の各誤差を累積する算出工程と、
前記算出工程で求めた累積誤差と所定の値とを比較して前記可動部が障害物に衝突したかを判定する判断工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可動部の可動域を監視するセンサを設けていないので、センサの情報に基づいた可動部の制御などが不要で、システムの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る機械式駆動装置の平面図である。
図2】本発明の実施形態に係る衝突判定システムのブロック図である
図3】本発明の実施形態に累積誤差制御を説明するための図である。
図4】従来の電流値制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係る機械式駆動装置1の平面図である。機械式駆動装置1は駆動装置2とこの駆動装置2に一端部を支持された棒状のアーム3とを備えている。このアーム3は1自由度を有し、所定の動作、例えば外部から指定された要求動作に基づいて駆動装置2によって鉛直軸周りに回転する。駆動装置2は、アーム3が作業者や物などの障害物5に当たっても危害を加えないように、低推力のDCモータ、ACモータ或いはステッピングモータで構成されている。例えば、80W程度のモータを利用する。
【0017】
本発明では、機械式駆動装置1がアーム3と障害物5との衝突を回避するように構成されていないため、アーム3が要求動作に従って動作している過程で、アーム3の動作領域に例えば作業者などの障害物5が進入し、アーム3が障害物5に衝突した場合に衝突を検出して、アーム3の動作を停止或いはアーム3を障害物5から退避するよう動作させる必要がある。そこで、本発明の実施形態に係る衝突判定システム10により衝突を検出する。
【0018】
図2は本発明の実施形態に係る衝突判定システム10のブロック図である。衝突判定システム10は、検出部20と制御部30と判断部40とを備えている。
【0019】
検出部20はモータ2Aの回転を検出する。例えば、検出部20はロータリーエンコーダとして構成されている。このロータリーエンコーダからの信号が制御部30や判断部40に送られる。
【0020】
制御部30は、アーム3に所定の動作、例えば外部からの要求動作を行わせるためにモータ2Aを制御する。その際、制御部30は検出部20からの信号に基づいてモータの回転位置などを求め、モータ2Aをフィードバック制御する。図示を省略するが、制御部は比較器と増幅器とを備え、例えば制御部30はロータリーエンコーダからの信号に基づいて現在位置を求め、要求動作に基づいた目的位置とセンサで得た現在位置とを比較して、その差分が減るようにモータを制御する。
【0021】
判断部40は、モータの駆動状態としてモータの位置を監視する。この監視作業として、判断部40は、モータに対して与えた制御量とモータの出力量との誤差、つまり目的位置と現在位置との差分の検出を行う。この誤差の検出は、所定時間内に予め決められた回数分行われる。そして、判断部は、所定時間内に誤差を累積して累積誤差を算出する。このような累積誤差の算出が所定時間毎に行われる。さらに判断部40は、累積誤差が所定値を超えた場合にアーム3が障害物5に衝突したと判断する。
【0022】
判断部40は、モータの駆動状態を監視するために、モータ位置制御の2つのパラメータ、つまり、モータ2Aの出力量としての位置情報とモータ2Aに対して与えた制御量としての出力電圧とを比較する。ここで、位置情報とはモータ2Aの出力電圧と比較できるように電圧値に換算した値に相当する。モータ2Aに加えた電圧に対するアーム3の運動量とには誤差が生じるが、制御部によって要求動作は行われる。しかしながら、このような誤差に加えて、アーム3が障害物に衝突した場合には、通常の動作よりも大きな誤差が生じることになる。そこで、本実施形態では、モータ2Aの出力量としての位置情報と出力電圧との誤差を所定時間内に複数回求めてモータの駆動状態からアームの状態を評価する。
【0023】
具体的には、所定時間当たりの誤差の累積(以下、累積誤差と呼ぶ。)Σ[位置情報−出力電圧]を算出する。この累積誤差が所定の値を超えた場合、判断部40は、モータ2Aが正常な動作を行ってないと判定、つまりアーム3が障害物5に当たったと判断する。
【0024】
モータ2Aの位置情報は検出部20からの信号に基づいて算出される。判断部40は、モータ2Aの出力量として、検出部20からの信号を利用してアーム3の回転角度としてのモータの回転角度とアーム3の速度とを算出し、さらにこれらの回転角度と速度とに係数を乗じて位置情報を算出する。そして、判断部40は、この位置情報と出力電圧との誤差を所定時間内の計測タイミング毎に計測し、誤差を積算して累積誤差を算出する。具体的には、累積誤差は下記の式として定義される。
【数1】

ここで、図1中の実線は現在のアーム3を示し、一点鎖線は現在よりも一段階前の過去(以下、前回と呼ぶ。)のアーム3を示し、二点鎖線は現在よりも二段階前のアーム3を示しており、式中のVcur,nは現在の速度、Vpas,nは前回の速度、Acur,nは現在のモータ2Aの回転角度、Apas,nは前回のモータ2Aの回転角度、Opas,nは前回の出力電圧、countは単位時間当たりの計測回数、Pは位置係数、Dは速度係数である。単位時間としては、例えば0.1秒である。
【0025】
このような累積誤差を算出するために、判断部40は、図2に示すように位置算出部41と速度算出部42と衝突判定部43とを備えている。
【0026】
位置算出部41は、現在のモータ2Aの回転角度Acur,nを算出する。位置算出部41は、検出部20としての例えばロータリーエンコーダからの信号をモータ2Aの回転角度Acur,nに換算する。この回転角度Acur,nによってアーム3の位置が特定される。このように算出された回転角度Acur,nは、記憶部50に保存される。
【0027】
速度算出部42は、現在の速度Vcur,nを算出する。速度算出部42は、検出部20としての例えばロータリーエンコーダからの信号を現在の速度Vcur,nに換算する。この速度Vcur,nによってアーム3の速度が特定される。このように算出された速度Vcur,nは、記憶部50に保存される。
【0028】
衝突判定部43は、先ず計測タイミング毎に誤差を算出する。この誤差の算出に、衝突判定部43は、位置算出部41からの現在のモータ2Aの回転角度Acur,nと、記憶部50からの前回のモータ2Aの回転角度Apas,nと、速度算出部42からの現在の速度Vcur,nと、記憶部50からの前回の速度Vpas,nと、記憶部50からの前回の出力電圧Opas,nと、を利用する。衝突判定部43はこのような誤差の算出処理を所定時間内に、規定された回数だけ繰り返して、式(1)に従った累積誤差を算出する。
【0029】
図3は累積誤差の時間変化を示す図である。図3に示すように、モータ2Aによる制御に従ってアーム3が回転している場合には、誤差は0の値に近接するが、障害物5に衝突した場合には、図3のt=t1で示すように累積誤差が所定の値TH2を超える。また、図3に示していないが、累積誤差が+側の値TH1を越えた場合も、モータ2Aによる制御に従ってアーム3が回転していない、つまり障害物5に衝突したことになる。
【0030】
このように、累積誤差が所定の値TH1,TH2を超えた場合、判断部40は、アーム3が障害物5に衝突したと判断する。この場合、判断部40は、停止信号を制御部30に送り、アーム3を停止或いは障害物5から後退するようにアーム3を制御する。
【0031】
このような本発明の累積誤差制御に対して、モータへの電流値による制御が従来知られている。例えば図4に示すように、モータの動作中で最もトルクがかかる部分を確認して、その電流値が所定の値TH3を超えた場合、異常として制御を止める。このような電流制御は単純な閾値制御であるが、過負荷になるまでに時間がかかり、アームが障害物に接触した直後にアームを停止させることができない。このような電流制御に対して、本発明の実施形態に係る累積誤差制御は、モータ2Aの制御状況だけを監視するため、アーム3と障害物5との接触を直ちに検出できて、アーム3を素早く停止させることができる。
また、アーム3の可動域を監視するセンサを設けていないので、センサの情報に基づいたアーム3の制御などが不要で、システムの製造コストを低減することができる。
【0032】
以上説明したが、本発明は発明の趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施できる。
本発明は上記実施形態に用途や使用場所が限定されるものではない。例えば、モータによって駆動される可動部は、回動動作を行うアームに限定されるものではなく、直進方向に移動するコンベアやリフターの可動部分であってもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 :機械式駆動装置
2 :駆動装置
2A :モータ
3 :アーム
5 :障害物
10 :衝突判定システム
20 :検出部
30 :制御部
40 :判断部
41 :位置算出部
42 :速度算出部
43 :衝突判定部
50 :記憶部
図1
図2
図3
図4