【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0056】
下記実施例、比較例で得られた重合体の物性値は、以下に示す方法により求めた。
(1)数平均分子量Mnの計算値
重合体の末端に存すると考えられる重合開始剤及び重合停止剤由来の部分構造の分子量と、モノマーの使用量(モル)と重合開始剤の使用量(モル)の比(モノマーの使用量/重合開始剤の使用量)を基に算出した重合鎖の分子量を、合計した値を、数平均分子量の計算値とした。
(2)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn
重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnを、Right Angle Laser Light Scattering GPC(RALLS−GPC)を用いて測定した。
より具体的には、屈折率計、散乱強度計及び粘度計を検出器として有するViscotek Model 302 Triple Detector Array(旭テクネイオン(株)製)を使用し、流量は1.0ml/min、カラムオーブンを30℃に設定して測定を行った。流出溶媒にはTHFを用い、分析カラムはTOSOH G5000H
XL+G4000 H
XL+G3000 H
XLを使用した。
(3)分子量分布
上記(2)により得られた重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnを、分子量分布を示す値とした。
(4)核磁気共鳴分光法(NMR)
BLUKER製GPX(300MHz)を用い、ケミカルシフトはCDCl
3 (
1H:7.26ppm、
13C:77.1ppm)を基準として、NMRスペクトルを求めた。
【0057】
(実施例1:1−メチレンインダン重合体の製造)
1−メチレンインダンのアニオン重合を、パイレックス(登録商標)製反応容器を用いてブレークシール法にて実施した。
具体的には、パイレックス(登録商標)製反応容器にブレークシールによって封じられたsec−ブチルリチウム10.6mg(0.166mmol)を含むヘプタン溶液3ml(関東化学(株)製)のアンプル、1−メチレンインダン1.02g(7.85mmol)とテトラヒドロフラン(THF)10mlを含むアンプルを溶接した。なお、1−メチレンインダンとしては、1−インダノンを原料とするWittig反応で合成し蒸留精製して得たもので、純度99.7質量%のものを用いた。その後、反応容器を高真空ライン(10
−6mmHg)に接続して、高真空下で脱気とベーキングを2回繰り返し、反応容器を溶封した。次いで、sec−ブチルリチウム溶液が収容されている容器のブレークシールを割り、反応容器にsec−ブチルリチウム溶液を移したのち、−78℃に冷却した。
sec−ブチルリチウム溶液を含む反応溶液を激しく攪拌し、同じく−78℃に冷却した1−メチレンインダンとTHFを含む容器のブレークシールを割り、反応溶液に添加し、そのまま1時間反応させた。なお、1−メチレンインダンとTHFを含む溶液を加えた際、瞬時に溶液の色が薄い黄色から濃赤色に変化し、反応系の粘度の上昇が見られた。
重合終了後、反応容器を開封し、重合停止剤であるメタノール5mlを添加し、重合を停止した。
その反応溶液を200mlのメタノールに注ぎ込んだところ、白色の固体が沈殿した。その固体を桐山ロートおよび桐山ろ紙を用いた減圧ろ過によってろ別した後に、20mlのベンゼンに溶解させ、凍結乾燥を行うことで1−メチレンインダン重合体918mgを得た。ポリマー収率は仕込んだ1−メチレンインダンに対して90質量%であった。得られた1−メチレンインダン重合体について、上述の方法で構造と物性値を求めた。得られた物性値は、表1に示す通りであった。
【0058】
実施例1で得られた1−メチレンインダン重合体の
1HNMRスペクトルを
図1に、
13CNMRスペクトルを
図2に、それぞれ示す。
図1におけるa〜gのピーク、
図2におけるa〜jのピークは、それぞれ同図に示す化学式において、同じ記号が付された水素又は炭素に帰属するものである。
1HNMR及び
13CNMRの結果から、1−メチレンインダンの1−メチレン部位の二重構造に由来するシグナルが消失していることから、1−メチレン部位にて反応が進行して、カルド構造を有する1−メチレンインダン重合体が生成したことが確認された。
【0059】
(実施例2:1−メチレンインダン重合体の製造)
sec−ブチルリチウムの使用量を5.2mg(0.0817mmol)とし、1−メチレンインダンの使用量を1.10g(8.46mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にアニオン重合を行い、1−メチレンインダン重合体を得た。ポリマー収率は、仕込んだ1−メチレンインダンに対して100%であった。得られた1−メチレンインダン重合体について、上述の方法で構造と物性値を求めた。得られた物性値は、表1に示す通りであり、Mnの実測値は23400であった。また、分子量分布を示すMw/Mnは1.04と小さく、分子量分布の狭い1−メチレンインダン重合体が得られた。
【0060】
また、実施例2で得られた1−メチレンインダン重合体について、実施例1と同条件で核磁気共鳴測定を行ったところ、
図1及び
図2に示す
1HNMRスペクトル及び
13CNMRスペクトルと同様のスペクトルが得られ、1−メチレン部位にて反応が進行して、カルド構造を有する1−メチレンインダン重合体が生成したことが確認された。
【0061】
(実施例3:1−メチレンインダン重合体の製造)
sec−ブチルリチウムの使用量を4.9mg(0.0761mmol)とし、1−メチレンインダンの使用量を2.00g(15.36mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にアニオン重合を行い、1−メチレンインダン重合体を得た。ポリマー収率は、仕込んだ1−メチレンインダンに対して71%であった。得られた1−メチレンインダン重合体について、上述した方法で構造と物性値を求めた。得られた物性値は、表1に示す通りであり、Mnの実測値は129000であった。また、分子量分布を示すMw/Mnは1.04と小さく、分子量分布の狭い1−メチレンインダン重合体が得られた。
【0062】
また、実施例3で得られた1−メチレンインダン重合体について、実施例1と同条件で核磁気共鳴測定を行ったところ、
図1及び
図2に示す
1HNMRスペクトル及び
13CNMRスペクトルと同様のスペクトルが得られ、1−メチレン部位にて反応が進行して、カルド構造を有する1−メチレンインダン重合体が生成したことが確認された。
【0063】
(実施例4:1−メチレンインダン重合体の製造)
sec−ブチルリチウムに代えてリチウムナフタレン36mg(0.267mmol)を使用し、1−メチレンインダンの使用量を1.21g(9.30mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にアニオン重合を行い、1−メチレンインダン重合体を得た。ポリマー収率は、仕込んだ1−メチレンインダンに対して100%であった。得られた1−メチレンインダン重合体について、上述の方法で構造と物性値を求めた。得られた物性値は、表1に示す通りであり、Mnの実測値は21400であった。また、分子量分布を示すMw/Mnは1.12と小さく、分子量分布の狭い1−メチレンインダン重合体が得られた。
【0064】
また、実施例4で得られた1−メチレンインダン重合体について、実施例1と同条件で核磁気共鳴測定を行ったところ、
図1及び
図2に示す
1HNMRスペクトル及び
13CNMRスペクトルと同様のスペクトルが得られ、1−メチレン部位にて反応が進行して、カルド構造を有する1−メチレンインダン重合体が生成したことが確認された。
【0065】
(実施例5:1−メチレンインダン重合体の製造)
sec−ブチルリチウムに代えてカリウムナフタレン19mg(0.113mmol)を使用し、1−メチレンインダンの使用量を901mg(6.92mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にアニオン重合を行い、1−メチレンインダン重合体を得た。ポリマー収率は、仕込んだ1−メチレンインダンに対して86%であった。得られた1−メチレンインダン重合体について、上述の方法で構造と物性値を求めた。得られた物性値は、表1に示す通りであり、Mnの実測値は15800であった。また、分子量分布を示すMw/Mnは1.07と小さく、分子量分布の狭い1−メチレンインダン重合体が得られた。
【0066】
また、実施例5で得られた1−メチレンインダン重合体について、実施例1と同条件で核磁気共鳴測定を行ったところ、
図1及び
図2に示す
1HNMRスペクトル及び
13CNMRスペクトルと同様のスペクトルが得られ、1−メチレン部位にて反応が進行して、カルド構造を有する1−メチレンインダン重合体が生成したことが確認された。
【0067】
【表1】
【0068】
なお、表1中、s−BuLiはsec−ブチルリチウムを示し、LiNaphはリチウムナフタレンを示し、KNaphはカリウムナフタレンを示し、比A/Bは1−メチレンインダンの使用量A(モル)と重合開始剤の使用量B(モル)の比A/Bを示し、Mnの計算値は上記「(1)数平均分子量Mnの計算値」で得られる値を示し、MnのRALLSは上記「(2)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn」で得られる数平均分子量Mnの値を示し、Mw/Mnは上記「(3)分子量分布」で得られる比Mw/Mnを示す。
【0069】
(実施例6:ブロック共重合体の製造)
メチレンインダンとスチレンのブロック共重合は、パイレックス(登録商標)製反応容器を用いてブレークシール法にて実施した。
具体的には、パイレックス(登録商標)製反応容器にブレークシールによって封じられたsec−ブチルリチウム4.6mg(0.0724mmol)を含むヘプタン溶液1.3mlのアンプル、メチレンインダン703mg(5.40mmol)とテトラヒドロフラン(THF、ダイアケミカル(株)製)7mlを含むアンプルおよびスチレン882mg(8.47mmol、東京化成工業(株)製)とテトラヒドロフラン(THF)8mlを含むアンプルを溶接した。その後、反応容器を高真空ライン(10
−6mmHg)に接続して、高真空下で脱気とベーキングを2回繰り返し、反応容器を溶封した。次いで、sec−ブチルリチウム溶液が収容されているブレークシールを割り、反応容器にsec−ブチルリチウム溶液を移したのち、−78℃に冷却した。
【0070】
sec−ブチルリチウム溶液を含む反応溶液を激しく攪拌し、同じく−78℃に冷却したメチレンインダンとTHFを含むブレークシールを割り、反応溶液に添加し、そのまま2時間反応させた。なお、メチレンインダンとTHFを含む溶液を加えた際、瞬時に溶液の色が薄い黄色から濃赤色に変化し、反応系の粘度の上昇が見られた。
その後、スチレンとTHFを含むブレークシールを割り、反応溶液に添加し、そのまま30分間攪拌した。重合終了後、反応溶液を開封し、重合停止剤であるメタノール5mlを添加し、重合を停止した。
【0071】
反応溶液を300mlのメタノールに注ぎ込んだところ、白色の固体が沈殿した。その固体を桐山ロートおよび桐山ろ紙を用いた減圧ろ過によってろ別した後に、30mlのベンゼンに溶解させ、凍結乾燥を行うことでブロック共重合体1.52gを得た。
ポリマー収率は、仕込んだ1−メチレンインダンとスチレンの合計量に対して96質量%であった。得られたポリマーについて、上述の方法で構造と物性値を求めた。物性値は、表2に示す通りであり、Mnの実測値は21700で計算値の21300と近い値であった。また、分子量分布を示すMw/Mnは1.08と小さく、分子量分布の狭いブロック共重合体が得られた。
【0072】
実施例6で得られたブロック共重合体について、核磁気共鳴測定を行った。
図3に、実施例6で得られたブロック共重合体の
1HNMRスペクトルを示す。該
1HNMRにおいては、1−メチレンインダンの1−メチレン部位の二重結合に由来するシグナル及びスチレンの側鎖オレフィンに由来するシグナルがいずれも消失していることから、1−メチレンインダンの1−メチレン部位にて反応が進行してカルド構造を有するポリマーが生成したこと、また、スチレンとの共重合体が生成していることが確認された。
【0073】
【表2】
【0074】
(実施例7:位相差フィルム(光学フィルム)の作製)
実施例3の条件で得られた1−メチレンインダン重合体を10wt%濃度含有するクロロベンゼン溶液を調製し、ガラス板上にキャスト法によってフィルム状に供給し、自然乾燥を24時間行った。次いで、得られたフィルムをガラス板から剥離した後、70℃の真空乾燥機で乾燥したところ、透明性の高いフィルムが得られた。
【0075】
次に、得られたフィルムを、二軸延伸装置((株)柴山科学機械製作所製 SS−60型)を用いて、153℃の温度条件で、50mm/min.の引張り速度で120%(1.2倍)の一軸延伸を行い、実施例7の位相差フィルムを得た。
【0076】
得られた延伸フィルムの延伸方向をY軸と定義し、且つ、Y軸と直交する方向でフィルム面内方向をX軸、Y軸と直行する方向でフィルム厚み方向をZ軸(X軸とZ軸も直行)と定義し、X軸の屈折率(n
x)、Y軸の屈折率(n
y)及びZ軸の屈折率(n
z)から求められるN
z(N
z=(n
x−n
z)/(n
x−n
y))の値を偏光・位相差測定装置(Axometrics社製、「AxoScan」)を用いて測定した。
その結果、N
z=0となった。
このことから、n
x=n
z>n
yの関係を満たしており、上記の延伸フィルムは良好な位相差フィルムとして機能するものであり、また、いわゆるネガティブA位相差フィルムとして機能するものであることが確認された。