(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5652771
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】分子イオンを生成する方法および装置
(51)【国際特許分類】
H01J 27/02 20060101AFI20141218BHJP
H01J 27/16 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
H01J27/02
H01J27/16
【請求項の数】25
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-506274(P2013-506274)
(86)(22)【出願日】2011年4月20日
(65)【公表番号】特表2013-525980(P2013-525980A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】US2011033255
(87)【国際公開番号】WO2011149607
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2013年11月29日
(31)【優先権主張番号】12/763,652
(32)【優先日】2010年4月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500324750
【氏名又は名称】バリアン・セミコンダクター・エクイップメント・アソシエイツ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ゴデット、ルドヴィック
(72)【発明者】
【氏名】ラドバノフ、スベトラナ
(72)【発明者】
【氏名】ハテム、クリストファー、アール.
【審査官】
桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0166554(US,A1)
【文献】
国際公開第2009/102752(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/02
H01J 27/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子イオンを生成する方法であり、
分子の第1種をイオン源に導入する段階と、
前記第1種から第1種イオンを形成する段階と、
前記第1種イオンを用い、前記第1種イオンの原子質量より大きな原子質量を持つ分子イオンを形成する段階と、
前記イオン源から第2チャンバーへ前記分子イオンを輸送する段階と、
前記第2チャンバーから前記分子イオンを抽出する段階と
を備える方法。
【請求項2】
前記分子イオンを形成する段階は、前記第1種イオンと前記第1種を組み合わせる段階を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1種は化学式CaHbを有するアルカンであり、前記分子イオンは、化学式CxHy(x>a)を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1種が、アルカン、B2H6、CO2、C2F4、BF3、AsH3、PH3、GeH4、GeF4、PI3、AsI3、N2、NH3、PxHy、CxFy、AlxCly、GexHy、およびGexFyからなる群より選ばれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記分子イオンが、CxHy、BxHy、BxFy、AsxHy、PxHy、CxFy、AlxCly、GexHy、およびGexFyからなる群より選ばれる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1種および前記第1種イオンが分子を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記輸送する段階で前記分子イオンをフィルタリングする段階をさらに備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分子イオンを形成する段階の圧力は、前記分子イオンを抽出する段階における圧力よりも高い、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
分子の第2種を前記イオン源に導入する段階をさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1種イオンを形成する段階が、RFパルスまたはDCパルスを印加する段階を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1種イオンを形成する段階が、前記RFパルスを印加する段階を含み、周波数、電力、およびデューティサイクルからなる群から選ばれるRFパラメータを調節し、前記RFパルスを印加する段階で電子温度を調整する段階をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2チャンバーの面の温度を変化させ、前記第2チャンバー内の蒸着を減らす段階をさらに備える、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記分子イオンを被処理体に注入する段階をさらに備える、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
分子イオンを生成する方法であり、
第1ガスおよび第2ガスをイオン源へ導入する段階と、
前記第1ガスおよび前記第2ガスをイオン化し、第1ガスイオンおよび第2ガスイオンを形成する段階と、
前記第1ガスイオンおよび前記第2ガスイオンを組み合わせ、分子イオンを形成する段階と、
前記分子イオンを前記イオン源から第2チャンバーへ輸送する段階と、
前記第2チャンバーから前記分子イオンを抽出する段階と
を備える方法。
【請求項15】
前記第1ガスと前記第2ガスとが、アルカン、B2H6、CO2、C2F4、BF3、AsH3、PH3、GeH4、GeF4、PI3、AsI3、N2、NH3、PxHy、CxFy、AlxCly、GexHy、およびGexFyからなる群より選ばれる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記分子イオンが、PxCyHz、PxCyFz、PxCyNz、BxCyHz、BxCyFz、BxCyNz、AsxCyHz、AsxCyFz、AsxCyNz、GexCyHz、GexCyFz、GexCyNz、AlxCyHz、AlxCyFz、AlxCyClz、およびAlxPyHzからなる群より選ばれる、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1ガス、前記第2ガス、前記第1ガスイオン、および前記第2ガスイオンが、分子を含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記輸送する段階で前記分子イオンをフィルタリングする段階をさらに備える、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記第1ガスおよび前記第2ガスをイオン化する段階が、RFパルスまたはDCパルスを印加する段階を含む、請求項14から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第1ガスおよび前記第2ガスをイオン化する段階が、前記RFパルスを印加する段階を含み、
周波数、電力、およびデューティサイクルからなる群から選ばれるRFパラメータを調節し、前記RFパルスを印加する段階で電子温度を変化させる段階をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第2チャンバーの面の温度を変化させ、前記第2チャンバー内の蒸着を減らす段階をさらに備える、請求項14から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記分子イオンを被処理体に注入する段階をさらに備える、請求項14から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
分子イオンを生成する方法であり、
RFイオン源内で化学式CaHbを有するアルカン種をイオン化する段階と、
前記RFイオン源内で、前記アルカン種から化学式CxHy(x>a)を有する分子イオンを生成する段階と、
前記RFイオン源から前記分子イオンを抽出する段階と、
前記分子イオンを被処理体に注入する段階と
を備える方法。
【請求項24】
前記分子イオンを前記RFイオン源から第2チャンバーへ輸送する段階と、前記分子イオンを前記第2チャンバーから抽出する段階とをさらに備える、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか一項に記載の方法により分子イオンを生成する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、イオンの形成に関し、特に分子イオンの形成に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入は、導電性を変化させる不純物を被処理体へ導入する標準的な技術である。所望の不純物材料がイオン源内でイオン化され、イオンが加速されて所定のエネルギーを持つイオンビームを形成し、イオンビームを被処理体の面へと照射する。ビーム中のエネルギーイオンが被処理体材のバルクへ浸透し、被処理体材の結晶格子内に埋め込まれ、所望の導電率を持つ領域が形成される。
【0003】
分子イオンビームは、より高いエネルギーかつより低いビーム電流で、原子イオンビームよりも容易に輸送することが可能である。分子イオン中の原子(ドーパント種を含む)は、それぞれの原子質量に応じた、その分子イオンの全体の運動エネルギーを共有している。さらに、同用量を得るのに注入されるイオンがより少なくなることにより、イオンビーム中のあらゆる空間電荷効果、およびそれに伴ってビームの「ブローアップ」を最小限にすることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、イオン化または注入処理の間に分子イオンを形成し維持することは難しい。間接的に加熱されたカソード(IHC)またはベルナス(Bernas)のイオン源などのイオン膜を用いると、分子を原子イオンへと分解してしまう。例えば、BF
3、PH
3、PF
5、AsH
3、B
2H
4、またはGeF
5のようなドーパント分子は、IHCまたはベルナスのイオン源を用いて形成される熱プラズマ内で容易に解離してしまう。よって、分子イオンではなく、原子イオンが形成されてしまう。イオンおよび中性物質のプラズマを生成し、被処理体にバイアスをかけることにより注入を行うプラズマドープシステムでは、電子温度や、あるいは圧力、電力、周波数およびガスフローなどの他のプラズマ条件を十分に制御して分子イオンを形成することが出来ない。よって、分子イオンは、そのようなプラズマドープシステムの高電圧シース内で解離してしまう。高電圧シース内部の圧力がこの原因である。したがって、例えばBF
3は、高電圧シースを横切り、被処理体に注入された後にB
+イオンとしてのみ、残ることになる。加えて、従来のイオン源では、分子イオンの分子量が大きくなると、分子イオンから原子イオン、またはより小さな分子量の分子イオンへの解離を防ぐのはさらに難しくなる。他のイオン源システムでは、分子イオン形成によって引き起こされる、イオン源のコンポーネントへの蒸着に起因する、システムの寿命に関わる問題がある。特定のドーパントを用いた場合には、イオン源内の面への、例えばB、C、As、またはPなどの蒸着の蓄積が引き起こされる。したがって、当技術分野では、分子イオンを形成する改良された方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明の第1の態様によると、分子イオンの生成方法が提供される。当該方法は、
分子の第1種をイオン源に導入する段階を備える。第1種から第1種イオンを形成する。第1種イオンを用いて分子イオンを形成する。当該分子イオンは、第1種イオンの原子質量より大きな原子質量を持つ。イオン源から第2チャンバーへ分子イオンを輸送し、第2チャンバーから抽出する。
【0006】
本願発明の第2の態様によると、分子イオンの生成方法が提供される。当該方法は、第1ガスおよび第2ガスをイオン源へ導入する段階を備える。第1ガスおよび第2ガスをイオン化し、第1ガスイオンおよび第2ガスイオンを形成する。第1ガスイオンおよび第2ガスイオンを組み合わせ、分子イオンを形成する。イオン源から第2チャンバーへ分子イオンを輸送し、第2チャンバーから抽出する。
【0007】
本願発明の第3の態様によると、分子イオンの生成方法が提供される。当該方法は、RFイオン源内で化学式C
aH
bを有するアルカン種をイオン化する段階を備える。RFイオン源内で、アルカン種から化学式C
xH
y(x>a)を有する分子イオンを生成する。RFイオン源から分子イオンを抽出し、被処理体に注入する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示をより良く理解出来るようにするべく、本明細書に参照として組み込む添付の図面に言及がなされる。
【
図1】
図1は、ビームラインイオン注入装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、イオン源の第1実施形態のブロック図である。
【
図3】
図3は、イオン源の第2実施形態のブロック図である。
【
図4】
図4は、イオン源の第3実施形態のブロック図である。
【
図5】
図5は、分子イオンの生成方法のフローチャートを示す。
【
図6】
図6は、イオンフィルターの一実施形態の断面図である。
【
図7】
図7は、パルシングを用いた電子温度調節の例を示す。
【
図8】
図8は、本明細書に開示する実施形態を用いた、CH
4からの分子イオン形成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書では、イオン注入装置に関する実施形態を説明する。しかし、これら様々な実施形態は、半導体製造に関わる他のシステムやプロセス、あるいはイオンを使用する他のシステムに用いることも可能である。よって、本願発明は以下に説明する特定の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
図1は、ビームラインイオン注入装置のブロック図である。当業者であれば、ビームラインイオン注入装置105が、イオンを生成するビームラインイオン注入装置の多くの例のうち一例に過ぎないことを理解するであろう。一般的には、ビームラインイオン注入装置105は、イオンを生成するイオン源104を含み、生成されたイオンを抽出することにより、例えばリボンビームやスポットビームなどのイオンビーム102が形成される。一例では、イオンビーム102を質量分析し、分岐イオンビームから実質的に平行なイオン軌道を持つリボンイオンビームに変換してもよい。他の実施形態では、イオンビーム102は質量分析されない。ビームラインイオン注入装置105は、他の実施形態では、加速ユニット、または減速ユニットをさらに含んでもよい。
【0011】
エンドステーション103は、イオンビーム102のパス上にある例えば被処理体100などの1以上の被処理体を支持し、所望の種のイオンが被処理体100に注入される。被処理体100は、例えば、半導体ウエハー、太陽電池、平面パネル、発光ダイオード(LED)、またはその他当業者に公知の被処理体である。エンドステーション103は、被処理体100を支持するプラテン101を含んでもよい。また一実施形態では、エンドステーション103は、イオンビーム102断面の長手寸法に対し垂直な方向に被処理体100を移動させるスキャナーも含み、被処理体100の全面にイオンを行き渡らせるようにしてもよい。イオン注入装置105は、自動化された被処理体ハンドリング装置、ファラデーセンサー、または電子フラッドガンなどの当業者に公知のコンポーネントをさらに含んでもよい。当業者は、イオンビーム102が横切るパス全体をイオン注入の間、退避させることを理解するであろう。他の実施形態では、ビームラインイオン注入装置105には、イオンの高温注入または低温注入が組み込まれていてもよい。
【0012】
特定のビームラインイオン注入装置105を説明するが、本明細書で説明する実施形態は、他のイオン注入装置またはプラズマ処理システムに適用してもよい。例えば、プラズマドープツール(例えば被処理体にバイアスをかけて注入を行うもの)、プラズマ浸漬ツール、フラッド注入装置、集束イオンビームツール、またはプラズマ化学気相成長法(PECVD)システムなどが本明細書に説明する実施形態の利点を生かすことが出来るであろう。
【0013】
図2は、イオン源の第1実施形態のブロック図である。
図1のイオン源104に対応するイオン源208は、一例では、複数の作動モードを有してもよく、第1イオン源200を含む。第1イオン源200は、ガス供給203で接続されたガス源202を有する。ガス源202は、例えば、ガス容器または気化器である。
【0014】
ガス源202は、CH
4、C
2H
4、他のアルカン、B
2H
6、CO
2、C
2F
4、BF
3、AsH
3、PH
3、GeH
4、GeF
4、PI
3、AsI
3、N
2、NH
3、または当業者に公知の他の種などの第1種211を供給し得る。第1種211は、特定の一実施形態では分子である。他の実施形態では、化学式C
aH
bを有するアルカンが供給される。また、第1種211は、化学式P
xH
y、C
xF
y、Al
xCl
y、Ge
xH
y、またはGe
xF
yなどを有するものであってもよい。ここでxとyは0よりも大きい。当業者に公知の他の有機金属分子を第1種211として用いてもよい。
【0015】
第1イオン源200は、例えば、RFパルスイオン源またはDCパルスイオン源であってもよい。アンテナ209は電源210からのRF電流またはDC電流と共振する。一例では、アンテナ209は、RFマッチング回路に取り付けられる。電源210は、RF電源およびDC電源のいずれかであってよい。これにより、第1イオン源200内で、RF電流またはDC電流を誘導する振動磁界が形成される。第1イオン源200内のRF電流またはDC電流は、第1種211を部分的に励起し、イオン化し、第1種イオン212(
図2中、プラス記号で示す)を形成する。第1イオン源200は、フローティング状態であっても、バイアスがかかった状態であってもよい。第1イオン源200は、他の実施形態では、RFアンテナをプラズマ内に有していてもよく、あるいは、電子サイクロトロン共鳴(ECR)イオン源またはマイクロ波イオン源であってもよい。
【0016】
特定の一実施形態では、第1イオン源200は、マルチセットポイントRFイオン源である。マルチセットポイントRFイオン源によって、RF電力の、時間の経過に応じた調節が可能となる。そのようなRF信号源は、パルスを発生出来る電源に接続されていてもよい。このようなイオン源を用いて、RF周波数、電力、またはデューティサイクルを変化させられる。このことを利用し、第1イオン源200内で起こるあらゆる反応のバランスをとることが可能である。例えば、波長が短く高電力のRFパルスを用いることで、第1イオン源200内で高密度プラズマを形成し、さらに多くの電子を生成し、電荷蓄積を取り除ける。さらに他の例では、デューティサイクルを減らすことにより、蒸着を減らしたり、第1イオン源200内でのエッチングを減らしたり出来る。
【0017】
一実施形態では、バイポーラバイアス電源を用い、RFパルシングの互いに異なる期間において、特定のエネルギーにて電子または正イオンを抽出出来る。正バイアスは、負イオンを引き寄せ、負バイアスは、正イオンを引き寄せる。
【0018】
イオン源200は、第1種211を部分的にイオン化し、第1種イオン212を形成する。第1種イオン212の電荷は、正負のいずれでもよい。分子イオン213(
図2中、黒で示す)は、第1種イオン212および/または第1種211から形成される。例えば、第1種211および第1種イオン212を組み合わせて、分子イオン213を形成してもよい。また、第1種イオン212の2つを組み合わせて、分子イオン213を形成してもよい。この反応を引き起こすには、特定のプラズマエネルギーが必要な場合もある。分子イオン213を形成する衝突は、ガス相で発生する。第1種211の2つの分子の結合性イオン化衝突、または第1種211の分子と第1種イオン212との結合性イオン化衝突は、分子イオン213の形成を引き起こす1つのメカニズムであり得るが、他のメカニズムも考えられる。他の例では、分子イオン213は、二体再結合か、または三体再結合によって、例えば第1種211の分子と、イオン化において形成される何らかの原子とが第1種イオン212と反応することによって、形成されてもよい。これらのメカニズムは、プラズマ内か、または第1イオン源200の面上で発生する。
【0019】
分子イオン213は、例えばC
xH
y、B
xH
y、B
xF
y、As
xH
y、P
xH
y、C
xF
y、Al
xCl
y、Ge
xH
y、またはGe
xF
yである。ここでxとyは0より大きい。これらの分子イオン213は、第1種211または第1種イオン212よりも大きな原子質量を持つ。特定の一実施形態では、第1種211は化学式C
aH
bを有するアルカンである。分子イオン213は、化学式C
xH
yを有するアルカンである。この例では、x>aである。よって、大きなアルカン分子イオンを、小さなアルカン分子イオンから生成出来る。他の特定の一実施形態では、BF
3が第1種211であり、形成される分子イオン213はB
2F
3+、B
2F
4+、またはB
2F
5+である。電力、周波数、デューティサイクル、圧力、またはガスフローなどのプラズマパラメータを調節することにより、生成または保持される分子イオン213を増やすことが出来、結果として、より多くの分子イオン213を形成することが可能である。
【0020】
第1イオン源200がパルスモードで作動することにより、分子イオン213の形成が促進される。例えば、第1イオン源200のパルシングにより、平均電子温度を調節し、第1種イオン212および/または第1種211の再結合が促進される。平均電子温度は、マクスウェル・ボルツマン分布に従った速度を持つ電子群の温度か、またはそのような電子群の平均エネルギーの割合である。第1イオン源200のパルシングにより、イオンおよび電子の密度、電子温度、またはプラズマ電位など、プラズマおよびイオンのパラメータを変化させられる。そのような変化によって、分子イオン213を形成する特定の反応の発生に影響を及ぼすことが可能である。電子温度の変化によって、分子イオン213、または所望の分子イオン213を形成する反応を起こすことが出来る。例えば、低い電子温度により、分子イオン213を形成する吸着および再結合を増加させられる。他の例では、低い電子温度により、特定の分子イオン213と、背景ガスまたは第1種211などの中性分子との再結合が可能となり、分子イオン213を大きく出来る。また、第1イオン源200のパルシングにより、形成される第1種イオン212を変化させられる。例えば、BF
3を第1種211として用いた場合、第1種イオン212としてB
+イオンを形成するのに必要なエネルギーは、BF
2+を形成するよりも高い。一例では、B
+を形成するには30eVが必要であり、BF
2+を形成するには16eVが必要である。
【0021】
また、パルスのデューティサイクルは、第1種211に合わせて最適化することも可能である。第1種211として用いられる特定の各分子にはそれぞれ、分子イオン213の生成を増やすのに最適な特定のデューティサイクルがある。デューティサイクルを変化させることにより、分子イオン213を形成する特定の反応の発生を変化させられる。各反応に要するエネルギーは異なり、発生に要する時間も異なる。例えば、質量が大きな分子イオン213は、アフターグロー期間に生成され得るが、第1種211がイオン化されている間に破壊され得る。そのため、デューティサイクルを調整し、分子イオン213の形成速度を解離速度よりも早くする。
【0022】
第1イオン源200で形成される分子イオン213を、プラズマ管204を用いて第2チャンバー201へと輸送する。プラズマ管204は、複数のリング磁石205を有する。リング磁石205は、マルチカスプ型構造を形成し、最適なプラズマまたはイオンの閉じ込めを提供してもよい。これらのリング磁石205をアルミコーティングすることにより、コンタミネーションを防げる。他の実施形態では、プラズマ管204はソレノイドである。ソレノイドによってプラズマ閉じ込めが提供され、特定の一実施形態では、ソレノイドの駆動電力の調整により、可変的な閉じ込めが提供される。抽出光学系を第1イオン源200とプラズマ管204との間、もしくはプラズマ管204と第2チャンバー201との間に配置することにより、分子イオン213を抽出出来る。一実施形態では、アインツェル(Einzel)レンズを用いることが可能である。
【0023】
第2チャンバー201は、拡散チャンバーでも、アークチャンバーでもよい。アークチャンバーは、既存のイオン注入装置の一部分であってもよく、また例えばIHCまたはベルナスのイオン源を含むものであってもよい。アークチャンバーは、分子イオン213が第2チャンバー201へ輸送されている間は、作動していても作動していなくてもよい。一実施形態では、第2チャンバー201内の面は、分子イオン213がその面上で解離するのを防ぐ触媒でコーティングされていてもよい。
【0024】
一実施形態では、第2チャンバー201はアークチャンバーであり、別体のガス供給器を有する。よって、イオン源208は、「高温」モードと「低温」モードの両方で作動することが出来、幅広い種類の原子イオンおよび分子イオンを提供出来る。例えば、「高温」モードでBF
3をアークチャンバーに供給し、B
+イオンを生成することや、「低温」モードで第1イオン源200が分子イオン213を提供することも可能である。よって、イオン源208は部分的に、既存のイオン源の改良であってもよい。
【0025】
その後、分子イオン213は、第2チャンバー201から分子イオン207として抽出される。分子イオン207は、
図1に示すイオンビーム102のようなイオンビームであってもよい。分子イオン207は、低圧力で抽出することにより、原子イオンへの解離を最小限に抑えられる。この抽出では、特定の一実施形態ではアインツェルレンズである、抽出光学系206を用いてもよい。分子イオン207は、続いて、質量分析されてもされなくてもよい。よって、イオン源208は、プラズマドープ、プラズマ浸漬、フラッド注入、またはシース調節ツールなどに用いることが可能である。
【0026】
第2チャンバー201の圧力は、第1イオン源200の圧力よりも低くてよい。第1イオン源200内の高い圧力から第2チャンバー201内の低い圧力にかけて、プラズマ管204内で圧力勾配が生まれる。例えば
図1に示すビームラインイオン注入装置105、または分子イオン207を抽出する他の部位での圧力は、第2チャンバー201の圧力よりも低くてよい。第1イオン源200、第2チャンバー201、およびプラズマ管204の間のバルブによって、圧力を制御出来る。イオン源208の領域内での低圧力によって、例えば分子イオン213同士の衝突を減らせる。衝突確率を下げることにより、分子イオン213の解離を減らせる。
【0027】
第1イオン源200、第2チャンバー201、およびプラズマ管204の温度を制御することによって、イオン源208の面上の蒸着を減らしたり、制御したりすることが可能となる。例えば、温度を下げると、B
2H
4イオンからのBの蒸着を減らせる。しかし、温度を上げると、BF
3イオンからのBF
xの蒸着、またはC
2F
4イオンからのCF
xイオンの蒸着を減らせる。一例では、加熱器、冷却管、または冷却ジャケットを用いることが可能である。
【0028】
また、温度を制御することにより、分子イオン213の形成や保持を促進出来る。高温状態は分子イオン213の解離を引き起こす。他の実施形態では、第1イオン源200、第2チャンバー201、およびプラズマ管204の温度の制御は、これらシステムの壁部分に水または流体の配管などのアクティブ冷却を用いることによって可能である。
【0029】
第2チャンバー201は、第2ガス供給器を有していてもよい。第2チャンバー201にガスを供給し、第2チャンバー201の圧力を制御したり、第2チャンバー201の面の汚れを取り除いたりすることが可能である。例えば、NF
3、Ar、NH
3またはこれらの組み合わせにより、第2チャンバー201の面の汚れを取り除ける。特定の一実施形態では、これらのクリーニング種をリモートプラズマ源によってイオン化出来る。第2ガス供給器によって圧力を制御することにより、第2チャンバー201内の分子イオン213の形成や保持が促進される。一例では、この促進が可能になる少なくとも部分的な理由として、第2チャンバー201内の圧力が第1イオン源200内の圧力よりも低いことが挙げられる。また、HeやArなどの背景ガスを用い、第2チャンバー201の面上での分子イオン213の損失を減らせる。
【0030】
図3は、イオン源の第2実施形態のブロック図である。この特定の実施形態では、プラズマ管204が曲げられている。プラズマ管204の曲率によって、プラズマ管204内で分子イオン213をフィルタリング出来る。プラズマ管204内での磁気閉じ込めによって、分子イオン213またはプラズマの輸送が促進される。
図6は、イオンフィルターの一実施形態の断面図である。リング磁石205は、パス600によって示されるように、所望の分子イオン213のみが第2チャンバー201へ通過するように構成することが可能である。所望されない分子イオン213、第1種イオン212、第1種211、または他の原子種、分子種、原子イオン、分子イオンが、パス601、602で示すように、リング磁石205の磁場により、プラズマ管204の壁部分に衝突し得る。よって、イオン種、中性粒子、および所望されない分子イオンがプラズマ管204によってフィルタリングされる。
【0031】
図4は、イオン源の第3実施形態のブロック図である。この特定の実施形態では、第2ガス源400は、第2ガス供給器401によって第1イオン源200へと接続されている。第2ガス源400は、第2種402(
図4中、四角で示す)を供給する。第2種402がイオン化され、正イオン、または負イオンである第2種イオン403(
図4中、プラス記号で示す)を形成する。第1種211、第1種イオン212、第2種402および/または第2種イオン403の結合により、分子イオン213が形成される。第1種211と第2種402とは両方ともガスであり、例えば、B
2H
6、CO
2、C
2F
4、BF
3、AsH
3、PH
3、GeH
4、GeF
4、PI
3、AsI
3、N
2、NH
3、または当業者に公知の他のアルカンまたは他の種であってよい。また第1種211および第2種402は、化学式P
xH
y、C
xF
y、Al
xCl
y、Ge
xH
y、またはGe
xF
yを有するものであってもよい。また、当業者に公知の他の有機金属分子を第1種211または第2種402として用いることも可能である。生成される分子イオン213は、例えば、P
xC
yH
z、P
xC
yF
z、P
xC
yN
z、B
xC
yH
z、B
xC
yF
z、B
xC
yN
z、As
xC
yH
z、As
xC
yF
z、As
xC
yN
z、Ge
xC
yH
z、Ge
xC
yF
z、Ge
xC
yN
z、Al
xC
yH
z、Al
xC
yF
z、Al
xC
yCl
z、Al
xP
yH
z、または当業者に公知の分子イオンであってよい。x、y、およびzは0よりも大きい。また、炭素、ホウ素、またはリンを含有する金属を組み合わせて、他の分子イオン213を形成することが可能である。当業者には公知であるようにこれら上に挙げた分子イオン213は、他の形態のものも含み、例えば上に挙げたB
xC
yH
zはC
xB
yH
zを含む。当然ながら、2以上の種を提供し、3以上の種の混合する実施形態で分子イオン213を形成することが可能である。特定の一実施形態では、CH
4およびPH
3が第1種211および第2種402である。これらによって、本明細書に開示する実施形態を用い、C
2PH
x+またはCP
2H
x+イオンを分子イオン213として形成する。
【0032】
他の実施形態では、第1種211を第2種402と第1イオン源200内で混ぜ合わせ、分子イオン213が形成される。この例では、第2種402は不活性である。HeやArなどの不活性準安定原子によって、電子温度の制御がしやすくなり、分子イオン213の形成を促進する。さらに他の実施形態では、プラズマ管204を
図3に示すように曲げ、分子イオン213をフィルタリングすることが可能である。
【0033】
図5は、分子イオンの生成方法のフローチャートを示す。少なくとも第1種が導入される500。第1種がイオン化され、結合し、分子イオンを形成する501。分子イオンが第2チャンバーへ輸送され502、第2チャンバーから抽出される503。当然ながら、他のガスが導入されてもよく、または第1種および第2種を結合させて分子イオンを形成してもよい。他の実施形態では、2以上の種が導入され、分子イオンを形成する。当然ながら、分子イオン213を生成し、第2チャンバーを通過させることなく抽出してもよい。
【0034】
図7は、パルシングを用いた電子温度調節の例を示す。パルシングが電子温度に影響を与え、結果として分子イオン213を形成するプラズマ内の反応速度が変化する。電子温度(Te)は、特定の一実施形態において約20eVよりも低くなるよう調節される。
図7には、パルシング間の3つの期間が示されている。低電力期間700と、高電力期間701と、オフ期間702である。一例では、低電力期間700では約750Wで作動する。パルシングの期間が、低電力期間700、高電力期間701、オフ期間702と移行することにより、電子温度が変化する。パルス期間またはパルシング時のバイアスを変化させることにより電子温度が変わり、分子イオン213を発生させる反応が異なったものになる。一実施形態では、1%から95%の間でデューティサイクルを変化させることにより、155Hzの周波数で出力25%のRFを用いることが出来る。
【0035】
図8は、本明細書に開示する実施形態を用いた、CH
4からの分子イオン形成を示す。
図8の結果は、
図2および3の実施形態によって得られる。
図8に示すように、CH
4から、C
2H
x+、C
3H
x+、およびC
4H
x+を形成することが可能である。さらに、C
5H
x+、C
6H
x+、またはC
7H
x+などのさらに大きな分子を形成することも可能である。本明細書に開示する実施形態によると、CH
4から形成される支配的なイオンは、C
3H
x+である。これは、プラズマ中で発生する他の反応と比較し、または電子衝撃イオン化を用いたCH
x+の形成と比較し、電子エネルギーが高く、C
3H
x+の形成速度が低いためかもしれない。よって、本明細書で開示する実施形態を用い、形成される分子イオン213の原子質量を大きく出来る。続いて分子イオン213は、質量分析し、特定のイオンを選択することが出来、または、所望のイオンが形成されるようパラメータを構成することも可能である。
【0036】
多くの適用例に、分子イオン213を用いることが可能である。被処理体のドープ、被処理体の歪みの改質、または被処理体の他の材料改質などがそれらの適用例に含まれる。材料改質には、例えば、被処理体の非晶質化や損傷工学などが含まれる。また、分子イオン207は、極浅接合(USJ)のため、低誘電率層間絶縁膜を製造するため、光学コーティングを作製するため、または被処理体を三次元表面構造に埋め込むためなどに用いることが可能である。
【0037】
本明細書に開示したイオン源の実施形態は複数の利点を持つ。まず、生成される原子イオン減らしつつ、または分子イオンから原子イオンへの解離を減らしつつ分子イオンを生成することが可能である。次に、イオン化による蒸着を減らすことが可能である。このことにより動作可能時間を増やし、予防的メンテナンスの頻度を減らすことが可能である。3つ目の利点として、より安価かつ一般的な種を用いて、より高価かつ一般的でない分子イオンを形成することが可能である。これにより、材料コストを低減出来る。
【0038】
本開示は、本明細書に記載された特定の実施形態によって範囲を限定されない。事実、本明細書に記載されたものに加えて、本開示のその他の多様な実施形態および本開示に対する変更が、上記の記載および添付の図面から当業者には明らかになるであろう。したがって、このようなその他の実施形態および変更は、本開示の範囲に含められることが意図されている。さらに、本開示は、本明細書において、特定の目的に対する特定の環境における特定の実施例を背景として記載されたが、本開示の有用性はこれに限定されず、いかなる数の目的に対するいかなる数の環境においても有利に実施し得ることが当業者には認識されるであろう。したがって、以下に記載される特許請求の範囲は、本明細書に記載された本開示の全範囲および全趣旨に鑑みて解釈されるべきである。