【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
核初期化因子が、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-Mycまたはそれらをコードする核酸、あるいはOct3/4、Sox2およびKlf4またはそれらをコードする核酸である、請求項1に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、TCR遺伝子のα鎖(TCRα)領域が均一なVα-Jαに再構成されており、かつ自己増殖能および分化多能性を有し、ES細胞様の遺伝子発現パターンを示す等のiPS細胞に特徴的な性質を備えた細胞(NKT-iPS細胞)を提供する。本明細書において「iPS細胞」とは、体細胞に核初期化因子を接触させることにより、人為的に分化多能性および自己複製能を獲得した細胞であって、遺伝子発現プロファイルがES細胞と類似する細胞をいう。ここで「分化多能性」とは、NKT細胞、T細胞、B細胞、赤血球、マクロファージまたはその前駆細胞などの複数の系列の造血・免疫系細胞、並びに1以上の造血・免疫系以外の細胞系列に分化し得る能力を意味し、造血幹細胞や多能性前駆細胞における多能性とは区別される。また「自己複製能」とは、細胞が特定の環境(例えば、ES細胞の培養に適した条件)下において、上記「分化多能性」を保持したまま増幅し続けることができる能力を意味する。さらに、「遺伝子発現プロファイルがES細胞と類似する」とは、対象の細胞における遺伝子発現データ群とES細胞における遺伝子発現データ群との相関係数rが0.9以上であることを意味する。比較対象となるES細胞としては、同一種、好ましくは同一系統由来の受精卵から作製されるES細胞や、NKT細胞の核移植胚から作製されるES細胞等が挙げられる。
【0015】
本発明のNKT-iPS細胞は、TCR遺伝子のα鎖(TCRα)領域がNKT細胞受容体特異的な態様で均一なVα-Jαに再構成されており、かつ自己増殖能および分化多能性を有し、ES細胞様の遺伝子発現パターンを示す等のiPS細胞に特徴的な性質を備えた細胞であり得る。用語「NKT細胞受容体特異的な態様」については、後述する。
【0016】
本発明のNKT-iPS細胞は、NKT細胞等の、TCR遺伝子のα鎖(TCRα)領域がNKT細胞受容体特異的な態様で均一なVα-Jαに再構成されている体細胞に核初期化因子を接触させることにより樹立することができる。本明細書において「NKT細胞」とは、TCRα領域の片方が均一なVα-Jαに再構成されている限り特に限定されず、成熟NKT細胞(例えば、NK1.1
+/CD3ε
+で特徴付けられる)だけでなく、その前駆細胞(例えば、CD4
+/CD8
+で特徴付けられる細胞等)をも含む意味で用いられる。NKT細胞は脾臓、リンパ節、末梢血、臍帯血などから、自体公知の方法、例えば、上記細胞表面マーカーに対する抗体とセルソーターとを用いてフローサイトメトリーにより、単離することができる。マウスの場合は、NKT細胞の存在割合が高い脾臓やリンパ節から採取することが好ましいが、ヒトの場合、侵襲性が少なく調製が容易との観点から、末梢血、臍帯血などからNKT細胞を調製することが望ましい。
【0017】
本発明に用いることができるNKT細胞は、当該NKT細胞に核初期化因子を接触させることによりNKT-iPS細胞を樹立することができるいかなる動物種由来のものであってもよく、具体的にはヒトおよびマウス由来のものが挙げられるが、好ましくはヒト由来のNKT細胞である。NKT細胞の採取源となるヒトまたはマウスは特に制限されないが、得られるNKT-iPS細胞がヒトの免疫細胞療法に使用される場合には、拒絶反応が起こらないという観点から、患者本人またはHLAの型が同一である他人からNKT細胞を採取することが特に好ましい。また、ヒトに投与(移植)しない場合でも、例えば、患者の薬剤感受性や副作用の有無を評価するためのスクリーニング用の細胞のソースとしてNKT-iPS細胞を使用する場合には、患者本人または薬剤感受性や副作用と相関する遺伝子多型が同一である他人からNKT細胞を採取する必要がある。
【0018】
脾臓、リンパ節、末梢血、臍帯血などから、上述の方法により調製したNKT細胞は、直ぐに核初期化因子と接触させてNKT-iPS細胞を誘導してもよいし、あるいは常法により凍結保存し、用時融解して培養した後に核初期化因子と接触させて、NKT-iPS細胞を誘導することもできる。従って、例えば、健常時に、自身の脾臓、リンパ節、末梢血、臍帯血などから調製したNKT細胞を長期間凍結保存しておき、後年細胞移植が必要となった際に、該NKT細胞からNKT-iPS細胞を誘導し、そこから分化誘導して得られた細胞、組織等を自家移植するということも可能である。
【0019】
NKT細胞は、TCRα領域の片方が均一なVα-Jα(ヒトではVα24-Jα18、マウスではVα14-Jα18)に再構成されていることを特徴とする機能的に均一と考えられる免疫担当細胞である。本発明のNKT-iPS細胞においては、NKT-TCRへの再構成が保存されている。
【0020】
また、本発明のNKT-iPS細胞は、NKT細胞以外の体細胞であっても、該体細胞が、T細胞抗原受容体遺伝子のα鎖領域がNKT細胞受容体特異的な態様で均一なVα-Jαに再構成されているものであれば、該体細胞に核初期化因子を接触させることによって樹立することができる。NKT細胞受容体とは、NKT細胞に特異的に発現しており、CD1d上に提示されたαガラクトシルセラミド(α-GalCer)を特異的に認識する、T細胞受容体である。NKT細胞受容体のα鎖は、通常、ヒトではVα24-Jα18、マウスではVα14-Jα18に再構成されている。従って、NKT細胞受容体特異的な態様での再構成とは、T細胞抗原受容体のα鎖領域におけるV-Jの組み合わせが、ヒトにおいてはVα24-Jα18、マウスにおいてVα14-Jα18であって、得られるTCRαがNKT細胞受容体を構成することのできるような、α鎖領域の遺伝子再構成を意味する。そのような体細胞は、自体公知の方法により作製することができる。例えば、このような体細胞は、NKT細胞の核を、除核した細胞(例、卵母細胞)に移植し、所定の操作に付すことによりNKT細胞クローン動物を作製し、該動物から採取された体細胞であり得る。クローン動物の作製は、例えば、WO2006/018998などに記載されている。また、該体細胞は、例えば、線維芽細胞などであり得、好ましくは線維芽細胞(特に胚性線維芽細胞)である。
【0021】
T細胞抗原受容体遺伝子のα鎖領域がNKT細胞受容体特異的な態様で均一なVα-Jαに再構成されている体細胞は、任意の哺乳動物種に由来する細胞であり得る。このような哺乳動物種としては、例えば、ヒト、サル等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタが挙げられる。該体細胞が核移植により樹立されたものである場合、核移植により樹立された体細胞はまた、NKT細胞の核を当該核と同種の哺乳動物由来の除核細胞に移植することにより樹立された細胞、又は当該核を当該核と異種の哺乳動物由来の除核細胞に移植することにより樹立された細胞であり得る。
【0022】
本発明において「核初期化因子」とは、NKT細胞等の体細胞から分化多能性および自己複製能を有する細胞を誘導することができる物質(群)であれば、タンパク性因子またはそれをコードする核酸(ベクターに組み込まれた形態を含む)、あるいは低分子化合物等のいかなる物質から構成されてもよい。核初期化因子がタンパク性因子またはそれをコードする核酸の場合、好ましくは以下の組み合わせが例示される(以下においては、タンパク性因子の名称のみを記載する)。
(1) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5で置換可能である。さらに、c-MycはT58A(活性型変異体), N-Myc, L-Mycで置換可能である。)
(2) Oct3/4, Klf4, Sox2
(3) Oct3/4, Klf4, c-Myc
(4) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28
(5) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28
(6) Oct3/4, Klf4, Sox2, bFGF
(7) Oct3/4, Klf4, Sox2, SCF
(8) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, bFGF
(9) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, SCF
これらの組み合わせの中で、得られるNKT-iPS細胞を治療用途に用いることを念頭においた場合、Oct3/4, Sox2及びKlf4の3因子の組み合わせが好ましい。一方、NKT-iPS細胞を治療用途に用いることを念頭に置かない場合(例えば、創薬スクリーニング等の研究ツールとして用いる場合など)は、Oct3/4, Klf4, Sox2及びc-Mycの4因子か、それにLin28またはNanogを加えた5因子が好ましい。特に好ましくは、本発明における核初期化因子は、Oct3/4, Klf4, Sox2及びc-Mycの4因子である。
【0023】
本発明においては、線維芽細胞などの初期化に通常使用される上記核初期化因子のみでNKT-iPS細胞を取得することができ、B細胞の場合において報告されているような他の因子の使用を必要としない。このことにより、NKT-iPS細胞から分化誘導される細胞、組織における腫瘍化の潜在的可能性を少なくすることができる。
【0024】
上記の各タンパク性因子のマウス及びヒトcDNA配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ(Nanogは当該公報中では「ECAT4」との名称で記載されている。尚、Lin28のマウス及びヒトcDNA配列情報は、それぞれNCBI accession number NM_145833及びNM_024674を参照することにより取得できる。)、当業者は容易にこれらのcDNAを単離することができる。核初期化因子としてタンパク性因子自体を用いる場合には、得られたcDNAを適当な発現ベクターに挿入して宿主細胞に導入し、該細胞を培養して得られる培養物から組換えタンパク性因子を回収することにより調製することができる。一方、核初期化因子としてタンパク性因子をコードする核酸を用いる場合、得られたcDNAを、ウイルスベクターもしくはプラスミドベクターに挿入して発現ベクターを構築し、核初期化工程に供される。
【0025】
核初期化因子のNKT細胞等の体細胞への接触は、該物質がタンパク性因子である場合、自体公知の細胞へのタンパク質導入方法を用いて実施することができる。そのような方法としては、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systmes)、Pro-Ject
TM Protein Transfection Reagent(PIERCE)及びProVectin(IMGENEX)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetrain Peptide(Q biogene)及びChariot Kit(Active Motif)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコルに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。核初期化因子を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5-15分程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に交換した細胞に添加して37℃で1ないし数時間インキュベートする。その後培地を除去して血清含有培地に交換する。
PTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。核初期化因子のcDNAとPTD配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いる。導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。
マイクロインジェクションは、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。
【0026】
NKT細胞等の体細胞への導入の容易さを考慮すると、核初期化因子は、タンパク性因子自体としてよりも、それをコードする核酸の形態で用いることがむしろ好ましい。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。好ましくは該核酸は二本鎖DNA、特にcDNAである。
核初期化因子のcDNAは、宿主となるNKT細胞等の体細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスなどのウイルスベクター、動物細胞発現プラスミド(例、pA1-11,pXT1,pRc/CMV,pRc/RSV,pcDNAI/Neo)などが用いられ得る。
用いるベクターの種類は、得られるNKT-iPS細胞の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、アデノウイルスベクター、プラスミドベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが使用され得る。
【0027】
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えばSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0028】
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、SV40複製起点などを含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
核初期化因子である核酸を含む発現ベクターは、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターの場合、該核酸を含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させる。一方、プラスミドベクターの場合には、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。
【0029】
核初期化因子が低分子化合物である場合、該物質のNKT細胞等の体細胞への接触は、該物質を適当な濃度で水性もしくは非水性溶媒に溶解し、ヒトまたはマウスより単離したNKT細胞等の体細胞の培養に適した培地(例えば、IL-2、IL-7、SCF、Flt3リガンド等のサイトカイン類、約5-20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地など)中に、核初期化因子濃度がNKT細胞等の体細胞において核初期化が起こるのに十分で且つ細胞毒性がみられない範囲となるように該物質溶液を添加して、細胞を一定期間培養することにより実施することができる。核初期化因子濃度は用いる核初期化因子の種類によって異なるが、約0.1nM-約100nMの範囲で適宜選択される。接触期間は細胞の核初期化が達成されるのに十分な時間であれば特に制限はないが、通常は陽性コロニーが出現するまで培地に共存させておけばよい。
【0030】
また、核初期化因子をNKT細胞に接触させることで本発明のNKT-iPS細胞を作製する場合、核初期化因子と接触されるNKT細胞は、IL-2およびIL-12の存在下で抗CD3抗体および抗CD28抗体によって刺激されたものであってもよい。NKT細胞の刺激は、例えば、上述したようなNKT細胞の培養に適した培地中に、IL-2およびIL-12を添加し、抗CD3抗体および抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上でNKT細胞を一定期間培養することによって行うことができる。抗CD3抗体および抗CD28抗体は、NKT細胞を刺激し得ることができるのであれば、培地に溶解した態様で用いてもよい。プレートに結合させた時の各抗体の濃度は0.1-100μg/mlであり、培地に溶解した態様で用いる時の各抗体の濃度は0.1-100μg/mlである。添加されるIL-2およびIL-12の濃度としては、それぞれ例えば0.1-100ng/mlの範囲で適宜選択される。また、培養期間としては、NKT細胞の増殖および抗CD3抗体および抗CD28抗体による刺激のために十分な時間であれば特に制限されないが、通常3日間〜1ヶ月程度、例えば1週間である。このような工程により刺激されたNKT細胞を核初期化因子と接触させる。
後述する実施例に示すように、当該工程を含めることにより、より効率的にNKT-iPS細胞を樹立することが可能となる。
【0031】
従来iPS細胞の樹立効率が低いために、近年、その効率を改善する物質が種々提案されている。よって前記核初期化因子に加え、これら樹立効率改善物質をNKT細胞等の体細胞に接触させることにより、NKT-iPS細胞の樹立効率をより高めることが期待できる。
iPS細胞の樹立効率改善物質としては、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool
O (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]等が挙げられるが、それらに限定されない。核酸性の発現阻害剤はsiRNAもしくはshRNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態であってもよい。
【0032】
iPS細胞の樹立効率改善物質のNKT細胞等の体細胞への接触は、該物質が(a) タンパク性因子である場合、(b) 該タンパク性因子をコードする核酸である場合、あるいは(c) 低分子化合物である場合に応じて、核初期化因子についてそれぞれ上記したのと同様の方法により、実施することができる。
iPS細胞の樹立効率改善物質は、該物質の非存在下と比較してNKT細胞等の体細胞からのNKT-iPS細胞樹立効率が有意に改善される限り、核初期化因子と同時にNKT細胞等の体細胞に接触させてもよいし、また、どちらかを先に接触させてもよい。一実施態様において、例えば、核初期化因子がタンパク性因子をコードする核酸であり、iPS細胞の樹立効率改善物質が化学的阻害物質である場合には、前者は遺伝子導入処理からタンパク性因子を大量発現するまでに一定期間のラグがあるのに対し、後者は速やかに細胞に作用しうることから、遺伝子導入処理から一定期間細胞を培養した後に、iPS細胞の樹立効率改善物質を培地に添加することができる。別の実施態様において、例えば、核初期化因子とiPS細胞の樹立効率改善物質とがいずれもウイルスベクターやプラスミドベクターの形態で用いられる場合には、両者を同時に細胞に導入してもよい。
【0033】
ヒトまたはマウスから分離したNKT細胞等の体細胞は、その培養に適した自体公知の培地(例えば、IL-2、IL-7、IL-15、SCF、Flt3リガンド等のサイトカイン類、約5-約20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地など)で前培養することも可能である。
核初期化因子(及びiPS細胞の樹立効率改善物質)との接触に際し、例えば、カチオニックリポソームなど導入試薬を用いる場合には、導入効率の低下を防ぐため、無血清培地に交換しておくことが好ましい場合がある。核初期化因子(及びiPS細胞の樹立効率改善物質)を接触させた後、細胞を、例えばES細胞の培養に適した条件下で培養することができる。ヒト細胞の場合、通常の培地に分化抑制因子として塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加して培養を行うことが好ましい。一方、マウス細胞の場合には、bFGFの代わりにLeukemia Inhibitory Factor(LIF)を添加することが望ましい。また通常、細胞は、フィーダー細胞として、放射線や抗生物質で処理して細胞分裂を停止させたマウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)の共存下で培養される。MEFとしては、通常STO細胞等がよく使われるが、iPS細胞の誘導には、SNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))等がよく使われている。
【0034】
NKT-iPS細胞の候補コロニーの選択は、薬剤耐性とレポーター活性を指標とする方法と目視による形態観察による方法とが挙げられる。前者としては、例えば、分化多能性細胞において特異的に高発現する遺伝子(例えば、Fbx15、Nanog、Oct3/4など、好ましくはNanog又はOct3/4)の遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子及び/又はレポーター遺伝子をターゲッティングした組換え型のNKT細胞等の体細胞を用い、薬剤耐性及び/又はレポーター活性陽性のコロニーを選択するというものである。一方、目視による形態観察で候補コロニーを選択する方法としては、例えばTakahashi et al., Cell, 131, 861-872 (2007)に記載の方法が挙げられる。レポーター細胞を用いる方法は簡便で効率的ではあるが、NKT-iPS細胞がヒトの治療用途への適用を目的として作製される場合、安全性の観点から目視によるコロニー選択が望ましく、目視による形態観察によっても十分効率よくNKT-iPS細胞の候補コロニーを選択することができる。
【0035】
選択されたコロニーの細胞がNKT-iPS細胞であることの確認は、自体公知の種々の試験方法、例えばES細胞特異的遺伝子(例えば、Oct3/4、Sox2、Nanog、Cripto、Dax1、ERas、Fgf4、Esg1、Rex1、Zfp296等)を含む遺伝子群の発現を、RT-PCR(
図3参照)やDNAマイクロアレイ(
図4参照)等を用いて測定し、その発現プロファイルを、ES細胞(例えば、受精卵由来のES細胞、NKT細胞からの体細胞核移植により得られるクローン胚由来のES細胞等)における遺伝子発現プロファイルと比較することにより行うことができる。さらに正確を期す場合は、選択された細胞をマウスに移植してテラトーマ形成を確認すればよい。
【0036】
また、NKT-iPS細胞がNKT細胞等の、TCR遺伝子のα鎖(TCRα)領域がNKT細胞受容体特異的な態様で均一なVα-Jαに再構成されている体細胞由来であることの確認は、後記実施例2に示されるように、NKT-TCRへの遺伝子再構成の有無(
図1参照)を、ゲノミックPCRにより調べることにより行うことができる(
図2参照)。
【0037】
このようにして樹立されたNKT-iPS細胞は、種々の目的で使用することができる。例えば、ES細胞や造血幹細胞等で報告されている分化誘導法を利用して、NKT-iPS細胞から種々の細胞(例、B細胞、形質細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞、マクロファージ等の造血・免疫系細胞、心筋細胞、網膜細胞、神経細胞、血管内皮細胞、インスリン分泌細胞等)・組織・臓器への分化を誘導することができる。例えば、NKT-iPS細胞を、ES細胞での報告に基づき、IL-7やFlt3リガンドなどのサイトカインの存在下、Notchリガンドを発現するストローマ細胞をフィーダー細胞として培養することにより、CD4/CD8ダブルポジティブNKT細胞に分化させることができる。さらに、後述の方法を用いることにより、機能的な成熟NKT細胞まで試験管内で分化させることができる。
【0038】
好ましい一実施態様において、NKT-iPS細胞は、例えばNKT細胞免疫療法剤のソースとしての利用のために、α-GalCer刺激により活性化される、機能的な成熟もしくは未成熟なNKT細胞に生体外で分化させられる。したがって、本発明はまた、NKT-iPS細胞を一定条件下で培養することによるNKT細胞の作製方法、並びに該方法により得られうる、成熟もしくは未成熟な単離されたNKT細胞を提供する。
【0039】
まず、NKT-iPS細胞を、Notchリガンドを発現するストローマ細胞と共培養することにより、CD4/CD8ダブルポジティブNKT細胞(以下、「DP-NKT細胞」ともいう)を作製することができる。ストローマ細胞としては、Notchリガンド(例、Delta-like 1;以下「Dll-1」ともいう)を強制発現させたOP9細胞、S17細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。分化誘導用の培地としては、例えば、インターロイキン-2(IL-2)、IL-7、IL-15、幹細胞因子(SCF)、Flt3リガンド(FL)等のサイトカイン類(それぞれ0.1-10ng/mL、好ましくは1-5ng/mL)、約5-約20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが挙げられるが、これらに限定されない。培養は、自体公知の培養容器中にNKT-iPS細胞を、例えば約1.0x10
6-約1.0x10
7細胞/mLの細胞密度となるように播種し、5% CO
2/95% 大気の雰囲気下、約30-約40℃、好ましくは約37℃で、約1-約4週間、好ましくは約2-約3週間行われる。DP-NKT細胞に分化したことの確認は、例えば、CD4およびCD8に対する各抗体とセルソータを用いて、細胞の表面抗原の表現型を解析することにより行うことができる(
図7参照)。必要に応じて、さらに他の各種細胞表面抗原の発現についても調べ、その表現型を、例えば胸腺内に存在するCD4
+/CD8
+細胞のそれと比較することもできる(
図8参照)。
【0040】
上記のようにして得られるDP-NKT細胞を、IL-2、IL-7、IL-15およびFLから選ばれる3以上のサイトカインの存在下で、ストローマ細胞と共培養することにより、NKT細胞を大量に増幅することができる(
図10参照)。この際使用するストローマ細胞としては、例えばOP9細胞やS17細胞等の上記と同様のものが挙げられるが、該細胞はNotchリガンドを発現していてもよいし、発現していなくてもよい。培地としては、サイトカインの組み合わせを除けば、上記と同様のものが好ましく例示される。具体的なサイトカインの組み合わせとしては、IL-2/IL-7/IL-15、IL-2/IL-7/FL、IL-2/IL-15/FL、IL-7/IL-15/FL、IL-2/IL-7/IL-15/FLが挙げられるが、特に好ましくはIL-2/IL-15/FLおよびIL-2/IL-7/IL-15/FLの組み合わせである。各サイトカインの濃度は0.1-10ng/mL、好ましくは1-5ng/mLの範囲で適宜選択することができる。培地には、さらに別のサイトカイン(例、SCFなど)を添加することもできる。培養は、5% CO
2/95% 大気の雰囲気下、約30-約40℃、好ましくは約37℃で、約3日-約4週間、好ましくは約5日-約3週間行われる。本培養により、細胞量は5日間で約20-約30倍もしくはそれ以上に増大する。
【0041】
一方、上記のようにして得られるDP-NKT細胞を、Notchリガンドを発現しないストローマ細胞と共培養することにより、末梢のNKT細胞に酷似したNKT細胞を作製することができる。該NKT細胞はNK1.1ポジティブで特徴づけられるが、さらにCD3ε
+、Sca1
+、CD44
+、CD69
+、CD34
-、Flt3
-等の表現型を示し(
図9参照)、Vα14(ヒトにおいてはVα24)の発現もDP-NKT細胞と比較して低下し、末梢のNKT細胞と同等の発現レベルを示す(
図11)。言い換えれば、NKT-iPS細胞からDP-NKT細胞への分化誘導培養の途中で、フィーダー細胞を、Notchリガンドを発現するストローマ細胞から該リガンドを発現しないストローマ細胞に切り換えることにより、末梢のNKT細胞と同等のNKT細胞にまで分化・成熟させることができる。Notchリガンドを発現しないストローマ細胞としては、例えばOP9細胞、S17細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。培地としては、NKT-iPS細胞からDP-NKT細胞への分化誘導に使用される培地を同様に使用することができるが、IL-2、IL-7、IL-15およびFLから選ばれる2以上のサイトカインを含むことが好ましく、IL-15を含むことがより好ましい(
図11参照)。フィーダー細胞を、Notchリガンドを発現するストローマ細胞から該リガンドを発現しないストローマ細胞に切り換えるタイミングは、最終的に末梢のNKT細胞と同等のNKT細胞(例、NK1.1ポジティブ細胞)が得られる限り特に制限されないが、例えば、NKT-iPS細胞とNotchリガンドを発現するストローマ細胞との共培養を開始してから約12-約20日後、好ましくは約14-約18日後に、フィーダー細胞を、該リガンドを発現しないストローマ細胞に切り換える。Notchリガンドを発現しないストローマ細胞との共培養期間も特に制限されないが、例えば、約3日-約4週間、好ましくは約5日-約3週間である。本培養を、IL-2、IL-7、IL-15およびFLから選ばれる3以上のサイトカインを含む(好ましくは、そのうちの1つはIL-15である)培地を用いて実施することにより、末梢のNKT細胞と同程度に分化・成熟したNKT細胞を大量に取得することができる。
【0042】
上記のようにして得られるNKT-iPS細胞由来のNKT細胞(以下、「iPS-NKT細胞」ともいう)はCD1d拘束性であるので、α-GalCerを提示した樹状細胞(DC)と接触させることにより、iPS-NKT細胞を活性化することができる。DCはiPS-NKT細胞と同種由来のものが好ましいが、iPS-NKT細胞を活性化し得る限り異種DCを用いてもよい(例えば、ヒトDCとマウスiPS-NKT細胞とを接触させる)。DCは、α-GalCerを介してiPS-NKT細胞を活性化し得るものであれば特に制限はなく、ミエロイド系の樹状細胞(DC1)、リンパ系の樹状細胞(DC2)のいずれであってもよいが、好ましくはDC1である。DCは自体公知のいかなる方法によって調製されてもよく、骨髄、末梢非リンパ系組織、リンパ系組織のT細胞領域、輸入リンパ、表皮、真皮などから分離することもできるが、好ましくは、例えば、骨髄細胞や末梢血等から密度勾配遠心法などにより単球、骨髄球などを分離し、GM-CSF(およびIL-4)存在下で約7-約10日間培養して、調製することができる。
【0043】
本発明において、DCをパルスするのに用いられるα-GalCerには、α-ガラクトシルセラミドまたはその塩もしくはそのエステルなどの他、CD1dに結合してDCを活性化し、NKT細胞に抗原提示され得る任意のその誘導体(例えば、OCHなどの脂肪鎖を短縮した合成脂質等)も包含されるものとする。これらは自体公知の方法により合成することができる。DCにより活性化されたiPS-NKT細胞がヒトへの投与を目的とするものである場合は、DCをパルスするのに用いるα-GalCerはGMPグレードのものであることが望ましい。α-GalCerによるDCのパルスは慣用の手法により行えばよく、例えば、α-GalCerを約0.1-約200ng/mLの濃度で含有する血清含有培地(例えば、10% FCS含有RPMI-1640培地等)中で、DCを約12-約48時間培養することにより実施することができる。α-GalCerのパルスは、未成熟のDCをGM-CSF(およびIL-4)存在下で培養・成熟させる過程で、培地にα-GalCerを添加することにより行ってもよい。あるいは、下記のように成熟させたDCをiPS-NKT細胞と共培養する工程で、培地にα-GalCerを添加することにより行ってもよい。
【0044】
DCとiPS-NKT細胞との接触は、例えばNKT-iPS細胞から末梢NKT細胞と同等の表現型を示すiPS-NKT細胞への分化誘導において上記した培地中で、両者を共培養することにより実施することができる。
【0045】
本明細書において「活性化NKT細胞」とは、少なくともα-GalCerを提示したDCに応答して、IFN-γ等のTh1サイトカインを産生するiPS-NKT細胞を意味する。該細胞は、さらにIL-4等のTh2サイトカインの産生能を有していてもよく、また増殖能を有していてもよい。iPS-NKT細胞が、α-GalCerを提示したDC刺激により増殖能およびTh2サイトカイン産生能をも獲得するには、NKT-iPS細胞からiPS-NKT細胞への分化誘導の過程で、Notchリガンドを発現するストローマ細胞と共培養し続ける必要があり、その場合、Notchリガンドを発現しないストローマ細胞に切り換えて得られるiPS-NKT細胞に比べてIFN-γ産生能も高くなる(
図12参照)。また、DP-NKT細胞からiPS-NKT細胞を大量増幅させる培養工程で、サイトカインとしてIL-2/IL-15/FLの組み合わせを選択することにより、特に活性化NKT細胞におけるTh1/Th2サイトカイン産生バランスがTh1優位を示す(
図12参照)。
【0046】
本発明はまた、上記のようにして得られる活性化NKT細胞を含有してなるNKT細胞療法剤を提供する。本発明により提供される活性化NKT細胞は、増殖能およびTh1優位なサイトカイン産生能を有するので、例えば、癌、感染症、アレルギー疾患などの各種疾患の予防・治療に有用である。癌としては、あらゆる種類の原発性癌が挙げられ、また、初期癌および転移・浸潤能を有する進行癌を含むあらゆる状態の癌が挙げられる。
【0047】
活性化NKT細胞は、常套手段にしたがって医薬上許容される担体と混合するなどして、経口/非経口製剤、好ましくは、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることができる。本発明の剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤などと配合しても良い。
【0048】
本発明の剤を水性懸濁液剤として製剤化する場合、上記水性液に約1.0×10
6-約1.0×10
7細胞/mLとなるように、活性化NKT細胞を懸濁させればよい。
【0049】
このようにして得られる製剤は、安定で低毒性であるので、ヒトなどの哺乳動物に対して安全に投与することができる。投与対象はNKT-iPS細胞作製のための出発材料として用いたNKT細胞の由来する患者本人であること(即ち、自家移植)が好ましいが、投与される活性化NKT細胞に対して適合性があることが予測される(即ち、HLAの型が一致する)同種の他個体であれば、これに限定されない。投与方法は特に限定されず、経口又は非経口的に投与することができるが、好ましくは注射もしくは点滴投与であり、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、患部直接投与などが挙げられる。当該NKT細胞療法剤の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、通常、成人の患者(体重60kgとして)においては、例えば、非経口投与の場合、1回につき活性化NKT細胞量として約1.0×10
5-約1.0×10
7細胞を、約1-約2週間隔で、約4-約8回投与するのが好都合である。
【0050】
本発明はまた、上記のようにして得られるiPS-NKT細胞と、α-GalCerとを組み合わせてなる、NKT細胞療法剤を提供する。本発明により提供されるiPS-NKT細胞は、ヒト等の哺乳動物に投与することにより、内在のNKT細胞と同様に機能してアジュバント効果を発揮するので、例えば、癌、感染症、アレルギー疾患などの各種疾患の予防・治療に有用である。癌としては、あらゆる種類の原発性癌が挙げられ、また、初期癌および転移・浸潤能を有する進行癌を含むあらゆる状態の癌が挙げられる。
【0051】
iPS-NKT細胞は、上記活性化NKT細胞の場合と同様に、医薬上許容される担体と混合するなどして、経口/非経口製剤、好ましくは、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造され、同様の投与量、投与経路で投与されうる。
【0052】
iPS-NKT細胞と併用されるα-GalCerとしては、活性化NKT細胞の作製において上記したものが同様に使用され得るが、投与対象がヒトである場合はGMPグレードのものが使用される。癌などのNKT細胞療法を必要とする疾患に罹患している患者の場合、内在DCの数が減少していたり、機能が欠損していたりする場合があるので、iPS-NKT細胞の生体内での活性化を向上させる目的で、α-GalCerに代えてα-GalCerでパルスしたDCを用いてもよい。この場合、DCの採取源としては、投与対象である患者本人であること(即ち、自家移植)が好ましいが、患者に適合性があると予測される(即ち、HLAの型が一致する)同種の他個体であれば、これに限定されない。
【0053】
α-GalCerは、通常、医薬上許容される担体とともに、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることができる。本発明の剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤などと配合しても良い。α-GalCerを水性液剤として製剤化する場合、適当な有機溶媒(例、DMSOなど)に溶解したα-GalCerを、約100μg-約1mg/mLの濃度となるように、上記水性液中に溶解すればよい。
一方、α-GalCerの代わりにα-GalCerでパルスしたDCを用いる場合、活性化NKT細胞の作製において上記したような手法により調製されるα-GalCerでパルスしたDCを、上記水性液に約1.0×10
6-約1.0×10
7細胞/mLとなるように懸濁すればよい。
【0054】
上記のようにして製剤化されたα-GalCerは、経口又は非経口的に投与することができるが、好ましくは注射もしくは点滴投与であり、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、患部直接投与などが挙げられる。α-GalCerの投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、通常、成人の患者(体重60kgとして)においては、例えば、非経口投与の場合、1回量として約0.6-約6.0mgである。一方、α-GalCerの代わりにα-GalCerでパルスしたDCを用いる場合、その投与量は、通常、1回につき約1.0×10
5-約1.0×10
7細胞である。これらの量を、iPS-NKT細胞含有製剤の投与プロトコルに応じて投与することができる。
iPS-NKT細胞含有製剤とα-GalCer含有製剤とは、別個にもしくは用時混合して同時に投与することもできるし、iPS-NKT細胞含有製剤、次いでα-GalCer含有製剤の順で、経時的に投与することもできる。
【0055】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
実施例1 マウス脾臓細胞由来NKT細胞からのiPS細胞の樹立
T細胞抗原受容体α鎖(TCRα)領域が既にNKT細胞で用いられるTCR (NKT-TCR) に再構成しているC57BL/6マウスの脾臓細胞より、NKT細胞を調製した。NKT細胞はMHCクラスI様分子であるCD1dに提示される糖脂質抗原を認識することを特徴とするため、糖脂質抗原であるα-GalCerを挟んだ可溶化型CD1d-マウスIgG1組換え体 (BD Bioscience社製) をAPC標識した抗マウスIgG1抗体に反応性を有する細胞を、抗APC磁気ビーズを利用したMACS法(Miltenyi Biotech社製)を用いてポジティブ選択することにより、細胞を濃縮した。この操作により、α-GalCer loaded CD1d dimer陽性/TCRβ陽性の細胞として規定されるNKT細胞は90%以上の純度となった。濃縮したNKT細胞を、IL-2(10ng/ml)存在下、10
6個/mlの細胞密度で10%FCSを含むRPMI培地で24時間培養した後、Cell, 126: 663-676 (2006) に記載の方法に準じて、マウス由来の4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycをコードする核酸)を含むレトロウイルス(10
6pfu/ml)に24時間感染させた。ウイルス感染から3-7日後に細胞を回収し、マウス胚性線維芽細胞(MEF)上への蒔き直しを行い、LIF存在下、ES細胞培養用培地で共培養した。出現したコロニーを形態的に判断し、ES様の形態をとるコロニーについてピックアップし、さらにLIF存在下MEF上で培養することにより、NKT細胞由来iPS細胞(NKT-iPS細胞)を4クローン樹立した(クローン名:2a, 5b, 5d, 5g)。
【0057】
実施例2 NKT-iPS細胞のcharacterization
実施例1で樹立した4クローンのNKT-iPS細胞がNKT細胞由来であるか証明するために、NKT-TCRへの再構成が行なわれているか否かをgenomic PCRにより確認した。NKT-TCRを有する細胞では、TCRα領域の片方がVα14-Jα18に既に再構成していることから(
図1)、下記に示すプライマーを用いて、各NKT-iPSクローンのゲノムを鋳型としてPCRを行なうことにより、再構成の有無を確認した。
配列番号1:プライマー1: 5’-gacccaagtggagcagagtcct-3’
配列番号2:プライマー2: 5’-tcacctatgtctcctggaagcctc-3’
配列番号3:プライマー3: 5’-cagctccaaaatgcagcctccctaa-3’
[Vα14-Jα18に再構成していない(ワイルド)場合、プライマー1とプライマー2を用いたPCRにより、349bpのバンドが増幅される。一方、Vα14-Jα18に再構成している(NKT-TCR)場合、プライマー1とプライマー3を用いたPCRにより、317bpのバンドが増幅される。]
その結果、樹立された4クローンいずれもゲノムの片方がNKT-TCRに再構成していることが明らかとなり(
図2)、樹立されたiPS細胞がNKT細胞由来であることが確認できた。
【0058】
実施例3 NKT-iPS細胞の遺伝子発現解析
実施例2で確認されたNKT-iPS細胞がiPS様の細胞へリプログラミングされているか否かを確認するために、遺伝子発現プロファイリングを実施した。NKT-iPS細胞、NKT細胞の核移植胚由来のES細胞(NKT-ES細胞)、末梢のNKT細胞からそれぞれtotal RNAをフェノール-クロロホルム法により調製し、ES細胞において発現が知られている一連の遺伝子群の発現をone step RT-PCR法 (Invitrogen社製) により解析した。解析を行なった遺伝子と用いたプライマーの配列を下記に列記する。
Endogenous Oct3/4: 5’-tctttccaccaggcccccggctc-3’(配列番号4)
5’-tgcgggcggacatggggagatcc-3’(配列番号5)
Endogenous Sox2: 5’-tagagctagactccgggcgatga-3’(配列番号6)
5’-ttgccttaaacaagaccacgaaa-3’(配列番号7)
Endogenous Klf4: 5’-gcgaactcacacaggcgagaaacc-3’(配列番号8)
5’-tcgcttcctcttcctccgacaca-3’(配列番号9)
Endogenous c-Myc: 5’-tgacctaactcgaggaggagctggaatc-3’(配列番号10)
5’-aagtttgaggcagttaaaattatggctgaagc-3’(配列番号11)
Ecat1: 5’-tgtggggccctgaaaggcgagctgagat-3’(配列番号12)
5’-atgggccgccatacgacgacgctcaact-3’(配列番号13)
Nanog: 5’-caggtgtttgagggtagctc-3’(配列番号14)
5’-cggttcatcatggtacagtc-3’(配列番号15)
Gdf3: 5’-gttccaacctgtgcctcgcgtctt-3’(配列番号16)
5’-agcgaggcatggagagagcggagcag-3’(配列番号17)
Rex1: 5’-acgagtggcagtttcttcttggga-3’(配列番号18)
5’-tatgactcacttccagggggcact-3’(配列番号19)
Zfp296: 5’-ccattaggggccatcatcgctttc-3’(配列番号20)
5’-cactgctcactggagggggcttgc-3’(配列番号21)
HPRT: 5’-ctgtgtgctcaaggggggct-3’(配列番号22)
5’-ggactcctcgtatttgcagattcaacttg-3’(配列番号23)
その結果、解析した全ての遺伝子において、NKT-iPS細胞、NKT-ES細胞で発現が確認され、末梢のNKT細胞では発現が確認されなかった(
図3)。この結果は、樹立したNKT-iPS細胞がiPS細胞様の機能を有している可能性を示唆している。
さらに、DNAマイクロアレイ (Affimetrix社製) により、NKT-iPS細胞、NKT-ES細胞、ES細胞、末梢のNKT細胞間での遺伝子発現プロファイルの相関を確認したところ、NKT-iPS細胞はNKT-ES細胞あるいはES細胞と非常に良く似た遺伝子発現パターンを有し、末梢のNKT細胞とは異なることが明らかとなった(
図4)。
【0059】
実施例4 NKT-iPS細胞の形態観察
実施例2で樹立されたNKT-iPS細胞の形態を顕微鏡下で観察した。その結果、SSEA1やOct3/4の発現局在や細胞自身の形態がES細胞のそれらと酷似していることが明らかとなった(
図5)。
【0060】
実施例5 NKT-iPSキメラマウスの樹立と解析
実施例2で樹立されたC57BL/6マウス NKTクローン由来のNKT-iPS細胞と、Balb/c由来細胞から、アグリゲーション法によりキメラマウスを作製した。得られたキメラマウスの脾臓細胞について、細胞表面抗原の解析を行なった。C57BL/6由来の細胞とBalb/c由来の細胞とを、MHCクラスIで見分けることによりゲート(それぞれI-A
bとI-A
d)し、NKT細胞の含有率を解析した。その結果、C57BL/6由来の細胞はほとんど全ての細胞が、α-GalCer loaded CD1d dimer陽性/TCRβ陽性のNKT細胞様の表面抗原を有しているのに比して、Balb/c由来の細胞は通常の頻度のT/NKT細胞の含有率であった(
図6)。
【0061】
実施例6 NKT-iPS細胞からの試験管内分化誘導
ES細胞は、NotchリガンドであるDelta-like1(Dll-1)を強制発現したOP9ストローマ細胞(OP9/Dll-1)と、IL-7およびFlt3リガンド(FL)存在下で共培養することにより、CD4/CD8ダブルポジティブ(DP)のT細胞に分化誘導させることができる(Schmitt TM, de Pooter RF, Gronski MA, Cho SK, Ohashi PS, Zuniga-Pflucker JC. Induction of T cell development and establishment of T cell competence from embryonic stem cells differentiated in vitro. Nat Immunol. 2004 Apr;5(4):410-417.)。この知見に基づき、NKT-iPS細胞をOP9/Dll-1細胞とIL-7(1 ng/ml)、FL(5 ng/ml)存在下で20日間共培養したところ、CD4/CD8 DPのα-GalCer loaded CD1d dimer陽性/TCRβ陽性のNKT細胞様の細胞(NKT-iPS細胞由来DP-NKT細胞)が誘導されることが明らかとなった(
図7)。さらに詳細に細胞表面抗原の発現解析を行なうと、DP-NKT細胞の表現型は、胸腺内のCD4/CD8 DP細胞のそれと酷似していることが明らかとなった(
図8)。この結果は、NKT-iPS細胞がTCRα領域の遺伝子再構成の影響を受けて、NKT様の細胞に分化誘導されやすいことを示唆しているとともに、免疫細胞の遺伝子再構成という特徴を生かした新しいコンセプトを導入することで、目的の免疫細胞 (特にNKT細胞、T細胞、B細胞) を大量に調製する技術を確立できることを示している。
【0062】
実施例7 NKT-iPS細胞から成熟NKT細胞の試験管内分化誘導
NKT-iPS細胞を培養14日目までOP9/Dll-1と共培養し、培養14日目から20日目までOP9と共培養することによってNKT細胞が誘導されるか否かを解析した。その結果、Lin陰性/CD44陽性/CD25陰性の所謂DN1しか出現していない分化段階早期においても、NKT細胞が出現しうること(
図9)、分化誘導したNKT細胞の表面マーカーが末梢のNKT細胞に酷似していること(
図9)を見出した。この結果は、NKT細胞が分化段階早期にNotchシグナルが欠損しても、成熟したNKT細胞に分化し得ることを示すものである。
【0063】
実施例8 NKT-iPS細胞由来DP-NKT細胞から成熟NKT細胞の試験管内分化誘導
実施例6で誘導が確認できたNKT-iPS細胞由来DP-NKT細胞を試験管内でさらに増やし成熟化させるために、種々のサイトカインの組み合わせでフィーダー細胞あり、なしの条件で5日間培養を行なった。その結果、OP9あるいはOP9/Dll-1との共培養で、IL-2/IL-15/FLあるいはIL-2/IL-7/IL-15/FLのサイトカインの組み合わせで培養することにより、さらに10倍以上に細胞を増やせることが明らかとなった(
図10)。さらに、これら条件で培養した細胞はNK1.1の発現が誘導されており、より分化誘導が進んでいることが推測された(
図11)。そこで、OP9あるいはOP9/Dll-1との共培養で、IL-2/IL-15/FLあるいはIL-2/IL-7/IL-15/FLのサイトカインの組み合わせで誘導して得られるNKT細胞について、骨髄細胞由来樹状細胞(GM-CSFで誘導)とα-GalCer存在下で共培養することにより、その増殖能およびサイトカイン産生能を確認した。その結果、OP9/Dll-1でさらに培養した場合に増殖能が確認されること(
図12)、その中でもIL-2/IL-15/FLで培養した場合にTh1への偏りがあること(
図12)が確認できた。
【0064】
実施例9 NKT-iPS細胞由来成熟NKT細胞の生体内におけるアジュバント効果
実施例8で誘導されたNKT-iPS細胞由来成熟NKT細胞(IL-7/FL存在下、OP9/Dll-1と20日間共培養した後、IL-2/IL-15/FL存在下、OP9/Dll-1とさらに5日間共培養したもの)が、生体内で機能的であるか否かを評価した。TAPノックアウトマウス由来脾細胞を10mg/mlの卵白アルブミン(OVA)と高張液下培養した後、アポトーシスを誘導し、アポトーシスした細胞2×10
7個を、2μgのα-GalCerとともに、NKT-iPS細胞由来成熟NKT細胞10
5個あるいは10
6個を1時間前に予め移入しておいたJα18ノックアウトマウス(NKT細胞欠損マウス)に移入した。7日後、該マウスより脾臓細胞を採取し、試験管内でOVAペプチド(257-264)により刺激し、細胞内染色によりIFN-γの産生を解析した。その結果、IFN-γ産生能を有するOVA抗原特異的CD8陽性T細胞が移入細胞数依存的に誘導できていることが確認され、NKT-iPS細胞由来成熟NKT細胞が生体内で機能し、強力なアジュバント効果を有することが明らかとなった(
図13)。
【0065】
実施例10 ワイルドマウス脾臓細胞由来NKT細胞からのiPS細胞の樹立
実施例1−8で、純化したマウスNKT細胞集団からのNKT-iPS細胞の樹立と、該NKT-iPS細胞からのNKT細胞への分化誘導、該細胞がNKT細胞としての機能を有していることなどが明らかとなった。そこで、実施例1と同様の手順により、C57BL/6マウスの脾臓細胞より濃縮操作なしにNKT細胞を調製し、30-50%程度の純度のNKT細胞集団を得た。実施例1と同様に、IL-2(10ng/ml)存在下、10
6個/mlの細胞密度で24時間この細胞を培養した後、マウス由来の4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycをコードする核酸)を含むレトロウイルス(10
6pfu/ml)に24時間感染させた。ウイルス感染から3-7日後に細胞を回収し、マウス胚性線維芽細胞(MEF)上への蒔き直しを行い、LIF存在下、ES細胞培養用培地で共培養した。出現したコロニーを形態的に判断し、ES様の形態をとるコロニーについてピックアップし、さらにLIF存在下MEF上で培養することにより、NKT-iPS細胞5クローンの樹立に成功した(クローン名:i12c, i12d, i13g, i13h, i13i)(
図14)。
【0066】
作製例1 C57BL/6バックグラウンドのNKTクローンマウスの作製
図15に示すように、細胞移入実験を行う目的でC57BL/6バックグラウンドのNKTクローンマウスを作製した。すなわち、C57BL/6マウスの脾臓由来のNKT細胞の核をBDF1マウスの脱核した卵母細胞に移入した。この細胞をBDF1×ICRのES細胞とフュージョンし、仮親の子宮に移入し、産仔であるキメラマウスを得た。得られたキメラマウス(雄)をC57BL/6マウス(雌)と交配することで得られた産仔をC57BL/6バックグラウンドのNKTクローンマウスとした。
この方法で樹立されたNKTクローンマウスは、元となる核が100%、C57BL/6マウスの脾臓由来のNKT細胞に由来するため、完全なC57BL/6であり、C57BL/6マウスとアロジェニックあるいはセミアロジェニックな反応を起こさない。C57BL/6バックグラウンドのNKTクローンマウスとC57BL/6マウスとのゲノム上の相違は、NKT細胞への分化に伴うT細胞レセプター領域の再構成による配列の相違のみと考えられる。遺伝子再構成を終えているC57BL/6バックグラウンドのNKTクローンマウスのT細胞レセプター領域の塩基配列を
図16に示す。
【0067】
実施例11 NKTクローンマウス由来胚性線維芽細胞に由来するiPS細胞の樹立
従来の山中らにより確立されたマウスiPS細胞の樹立の方法は、胚性線維芽細胞(MEF)にOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycを導入することによるものである。そこで、作製例1において創生されたNKTクローンマウスのMEFから、iPS細胞の樹立を試み、NKT-iPS細胞7aおよび7gの樹立に成功した。樹立された7aおよび7gは、T細胞レセプター領域がNKT細胞のT細胞レセプターに遺伝子再構成を起こしていることが確認される(
図17)とともに、ES細胞マーカーとなり得る遺伝子群の発現がES細胞と同等であることがRT-PCR法により確認された(
図18)。また、DNAマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析とそのクラスター解析から、樹立された7a及び7gはES細胞に近く、元となるNKTクローンマウスのMEFとは遠いという結果を得た(
図19)。さらに、その形態学的観察を行うと、7aおよび7gはES細胞のそれと非常に良く似ており、ES細胞マーカーであるSSEA1、Oct3/4、Nanogが発現していることも確認された(
図20)。さらに、Oct3/4及びNanogの遺伝子発現調節領域のゲノムのメチル化傾向を解析したところ、7aおよび7gにおいてはES細胞と同等に非メチル化されており、十分にリプログラミングされていることが明らかとなった(
図21)。また、7a及び7gからはキメラマウスも複数産まれ、C57BL/6マウスとの交配で得られた産仔は全て、NKT細胞のT細胞レセプターに遺伝子再構成を起こしていることから、子孫伝達も確認され、7aおよび7gが多能性を有することが示された(
図22)。以上のことから、7aおよび7gはiPS細胞のクライテリアを満たしていると結論付けた。
【0068】
実施例12 実施例11のiPS細胞からの試験管内でのNKT細胞への分化誘導
次に、MEFに由来する7aおよび7gから試験管内でNKT細胞を分化誘導することが可能であるか否かを検証した。7aおよび7gを、骨髄由来ストローマ細胞であるOP9にNotchリガンドであるDll-1を強制発現させた細胞株OP9/Dll-1と、
図23に示すプロトコルで25日間共培養した。その結果、
図24に示すように、α-GalCer/CD1d dimer陽性、TCRβ陽性のNKT細胞様の細胞(7a dif.および7g dif.)に分化誘導されることが明らかとなった。さらに、7a dif.および7g dif.は、その細胞表面マーカーの発現が、胸腺内に存在するCD4陽性CD8陽性の所謂DP細胞のそれと酷似していた。また、DNAマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析とそのクラスター解析から、7a dif.および7g dif.は分化誘導前の7aおよび7gとは遠く、末梢に存在する脾臓由来NKT細胞に近いという結果を得た(
図25)。そこで、7a dif.および7g dif.が機能的にNKT細胞と同等であるか否かを評価するために、樹状細胞との共培養下、糖脂質リガンドであるα-GalCerで刺激し、増殖能およびサイトカイン産生能を調べた。その結果、7a dif.および7g dif.は、末梢のNKT細胞と同様に、顕著な増殖能を有し、大量のIFN-γやIL-4を産生する能力を有することが確認できた(
図26)。
【0069】
実施例13 7a dif.および7g dif.の生体内機能解析
実施例12に記載のように7a dif.および7g dif.が末梢のNKT細胞と同等の機能を有することから、生体内において同様の効果があるか否かをNKT細胞欠損マウスを用いて解析した。NKT細胞欠損マウスに7a dif.および7g dif.を移入後、1週間および2週間における移入細胞の存在を確認すると、肝臓に、α-GalCer/CD1d dimer陽性、TCRβ陽性の7a dif.および7g dif.が存在することが明らかとなった(
図27)。そこで
図28に示すプロトコルに基づいて、抗原特異的CD8陽性T細胞の誘導とそれに伴う抗腫瘍効果を確認した。TAPノックアウトマウス由来脾細胞を10mg/mlの卵白アルブミン(OVA)と高張液下培養した後、アポトーシスを誘導し、アポトーシスした細胞2×10
7個を、2μgのα-GalCerとともに7a dif.および7g dif.を一週間前に移入したNKT細胞欠損マウスに移入した(TOG免疫)。7日後、該マウスより脾臓細胞を採取し、試験管内でOVAペプチド(257-264)により刺激し、細胞内染色により、IFN-γの産生を解析した。その結果、IFN-γ産生能を有するOVA抗原特異的CD8陽性T細胞が野生型マウスと同等に誘導できていることが確認され、7a dif.および7g dif.が生体内で機能し、強力なアジュバント効果を有することが明らかとなった(
図29)。そこで、該マウスにC57BL/6 マウスの胸腺腫細胞系 EL4あるいはEG7(EL4 OVA- transfectant)を使用した悪性腫瘍拒絶モデルによる評価を行なった。その結果、OVA強制発現株であるEG7においては、TOG免疫を行なっていない野生型マウスでは悪性腫瘍の進行が見られるのに対して、TOG免疫を行なった7a dif.および7g dif.移入NKT細胞欠損マウスにおいては、TOG免疫を行なった野生型マウスと同様に進行が確認されなかった。EL4においては、TOG免疫を行なった野生型マウスとNKT細胞欠損マウスとで同様の進行が見られることから、移入した7a dif.および7g dif.による抗原特異的なアジュバント効果によってもたらされているものと結論付けた(
図30)。
以上の結果は、如何なる細胞であれ、T細胞レセプターが再構成しているものであるならば、該T細胞レセプターに再構成している、機能的な免疫担当細胞に分化誘導させうることを示している。
【0070】
実施例14 野生型NKT細胞からの効率的なiPS細胞の樹立方法
実施例10に示すように野生型マウスの脾臓細胞由来のNKT細胞からのiPS細胞の樹立に成功しているが、より効率的なiPS細胞樹立方法を確立した。
すなわち、脾細胞よりMACSビーズを用いてCD1d拘束性のNKT細胞を濃縮後、FACSソーティングにより純度99.9%のNKT細胞を得る。該NKT細胞は、抗CD3抗体(10μg/ml)および抗CD28抗体(10μg/ml)による刺激下、IL-2(10ng/ml)及びIL-12(10ng/ml)を加えることにより、増殖サイクルに入れることができる。この条件下で、該NKT細胞をOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycをコードする核酸を含むレトロウイルスに感染させることで、実施例10よりも10倍以上効率的にiPS細胞を樹立することが可能であることが明らかとなり、NKT-iPSクローン14kの樹立に成功した(
図31)。
図32に示すように、14kはES細胞様の形態とES細胞マーカーの発現、さらにT細胞レセプター領域のNKT細胞T細胞レセプターの再構成が起こっている。また、実施例12に記載の方法により、NKT細胞様の細胞への分化がみられ、試験管内での糖脂質刺激によって増殖し、サイトカインを産生する機能的な細胞となった(
図33)。