【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであり、セメントによる十分な長期強度と水ガラスによる一定の早期強度を確保することが可能でかつ規模が大きな改良体であっても地盤内に確実に造成することが可能な改良体の造成方法を提供することを目的とする。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る改良体の造成方法は請求項1に記載したように、セメント系硬化材が水に添加されてなる第1の硬化材溶液を地盤中の土と原位置で攪拌混合することにより前記地盤中にセメント分布領域を形成するセメント分布領域形成工程と、前記セメント分布領域を形成した後、該セメント分布領域内にケイ酸ナトリウムを含む第2の硬化材溶液を圧縮空気とともに高圧噴射するケイ酸ナトリウム噴射工程とからなる改良体の造成方法であって、前記セメント分布領域の領域上縁近傍に相当する深さを噴射開始位置、領域下縁近傍に相当する深さを噴射終了位置としかつ前記噴射開始位置から前記噴射終了位置まで噴射位置を下方に移動させながら、前記第2の硬化材溶液を前記セメント分布領域に高圧噴射するものである。
【0012】
また、本発明に係る改良体の造成方法は、前記地盤内に設定された改良体造成範囲を深さ方向に分割することで複数の改良体造成区画を設定し、該複数の改良体造成区画への前記セメント分布領域形成工程とそれに続く前記ケイ酸ナトリウム噴射工程とを、前記複数の改良体造成区画ごとにかつ最下層に位置する改良体造成区画から順次上層に向けて繰り返し行うものである。
【0013】
また、本発明に係る改良体の造成方法は、前記第2の硬化材溶液が噴射される吐出箇所近傍での前記ケイ酸ナトリウムによるゲル化が抑制されるように、該第2の硬化材溶液を配合調整するものである。
【0014】
また、本発明に係る改良体の造成方法は、前記セメント分布領域にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って下降させながら、該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して前記第2の硬化材溶液を前記セメント分布領域に噴射するものである。
【0015】
また、本発明に係る改良体の造成方法は、前記セメント分布領域を、前記地盤にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って上昇させながら該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して前記第1の硬化材溶液を圧縮空気とともに前記地盤に高圧噴射することで形成するものである。
【0016】
セメントミルク及び水ガラスによって形成される固結物が障害となって大きな改良体を地盤中に造成できないという上述の問題を解決するため、本出願人は、地盤改良の対象となる地盤にセメント分布領域を先行形成し、しかる後、該セメント分布領域に水ガラスを噴射する試みを行った。
【0017】
しかし、従来の高圧噴射攪拌工法と同様にロッドを上昇させながらその下端近傍から水ガラスを噴射した場合、セメント分布領域のうち、高さにしておおよそ下方30%の範囲では、セメントによる長期強度は発現するものの、水ガラスによる早期強度は発現せず、上方70%の範囲では、早期強度のみならず、長期強度も十分に発現しないことがわかった。
【0018】
これは、水ガラスが、同時噴射された圧縮空気に連行される形で、すなわち圧縮空気によるエアリフトによってセメント分布領域内を浮上し、その分布範囲が上方に偏るため、セメント分布領域の下方では早期の強度発現が困難になる一方、セメント分布領域の上方においては早い段階で固結物が生成されるものの、ロッドを引き上げつつ高圧噴射を行う関係上、ゲル化がある程度進行した後で高圧噴射が行われることになり、それが原因で成長中の固結物が水ガラスや圧縮空気の噴流によって破壊され、その結果、早期強度が発現しなくなるばかりか、セメントの水和反応も進行しなくなるためと考えられる。
【0019】
これを受け、本出願人は、従来の高圧噴射攪拌工法とは異なり、ロッドを下降させながらその下端から水ガラスを圧縮空気とともに高圧噴射する試みを行ったところ、水ガラスの浮上及びそれに起因する偏在が防止されるとともに、ゲル化が始まった領域では、高圧噴射による噴流で攪乱されることなく静置状態が維持されてゲル化が進行することとなり、かくしてセメント分布領域全体にわたり、早期強度及び長期強度の両方を確保することができるという知見を得るに至ったものである。
【0020】
すなわち、本発明に係る改良体の造成方法においては、セメント分布領域を地盤内に先行形成し(セメント分布領域形成工程)、次いで該セメント分布領域内にケイ酸ナトリウムを含む第2の硬化材溶液を圧縮空気とともに高圧噴射するが(ケイ酸ナトリウム噴射工程)、ケイ酸ナトリウム噴射工程において第2の硬化材溶液をセメント分布領域内に高圧噴射するにあたっては、セメント分布領域の領域上縁近傍に相当する深さを噴射開始位置、領域下縁近傍に相当する深さを噴射終了位置とし、かつ噴射開始位置から前記噴射終了位置まで噴射位置を下方に移動させながら、第2の硬化材溶液をセメント分布領域に高圧噴射する。
【0021】
このようにすると、噴射位置よりも浅い箇所では、先行噴射された第2の硬化材溶液中のケイ酸ナトリウムによるゲル化が既に始まっているため、第2の硬化材溶液中のケイ酸ナトリウムが、その噴射位置よりも浅い箇所に向けて浮上することはないし、第2の硬化材溶液の噴射位置は、順次下方へと移動するため、ゲル化が進行中の箇所に高圧噴射による噴流が及ぶこともない。
【0022】
したがって、ケイ酸ナトリウムの偏在が未然に防止されるとともに、第2の硬化材溶液及び圧縮空気の高圧噴射による噴流によってケイ酸ナトリウムによるゲル化やセメントの水和反応が阻害される懸念もなくなり、かくしてセメント分布領域全体にわたり、ケイ酸ナトリウム由来のゲル化による早期強度を確保することができるとともに、セメントの水和反応による長期強度の発現を達成することも可能となる。
【0023】
加えて、第2の硬化材溶液の噴射先は、従来のように未だ攪乱されていない地盤ではなく、既に切削され攪乱状態の地盤である。
【0024】
そのため、未攪乱地盤であるがゆえに噴射時の抵抗が大きく、そのために吐出箇所近傍でのケイ酸ナトリウムによるゲル化が防止できなかった従来に比べ、本発明においては、噴射時の抵抗が大幅に減少して吐出箇所近傍でのゲル化を抑制しやすくなり、かくして、第1の硬化材溶液をセメント分布領域として広く地盤内に分散させることができることと相俟って、大きな改良体を地盤内に確実に造成することが可能となる。
【0025】
セメント系硬化材には、各種セメントのほか、フライアッシュ、膨張材、高炉スラグ微粉末、シリカフューム等の水硬性又は潜在水硬性を持つ無機質材料が包摂される。
【0026】
第1の硬化材溶液は、上述したセメント系硬化材のほかに、必要に応じて混和剤が適宜添加されたものでもよい。
【0027】
第2の硬化材溶液は、ケイ酸ナトリウムが含まれていればその配合は任意であるが、第2の硬化材溶液が噴射される吐出箇所近傍でのケイ酸ナトリウムによるゲル化が抑制されるように、該第2の硬化材溶液を配合調整するようにすれば、大きな改良体をより確実に地盤内に造成することが可能となる。
【0028】
本発明に係る改良体の造成方法のうち、第2の硬化材溶液を圧縮空気とともにセメント分布領域内に高圧噴射する方法は任意であり、例えば、セメント分布領域にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って下降させながら、該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して第2の硬化材溶液をセメント分布領域に噴射する構成を採用することができる。
【0029】
かかる構成において、ロッドは、圧縮空気と第2の硬化材溶液を圧送する流路がそれぞれ個別に形成された二重管構造とするのがよい。
【0030】
セメント分布領域を地盤中に先行形成するにあたっては、第1の硬化材溶液を地盤中の土と原位置で攪拌混合できる限り、その施工方法は任意であって、JSG工法、CJG工法、CCP工法、RJP工法といった高圧噴射攪拌工法や、攪拌翼を備えた攪拌混合装置による機械攪拌工法を用いることが可能であり、例えばJSG工法に基づき、地盤にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って上昇させながら該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して第1の硬化材溶液を圧縮空気とともに高圧噴射する方法を選択することができる。
【0031】
この場合も、ロッドは、圧縮空気と第1の硬化材溶液を圧送する流路がそれぞれ個別に形成された二重管構造とするのがよい。
【0032】
ケイ酸ナトリウム噴射工程においては、第2の硬化材溶液をセメント分布領域に高圧噴射することに起因するスライムが発生する。かかるスライムは、任意の方法により、例えばロッドを介して高圧噴射を行う場合であれば該ロッドとセメント分布領域との隙間を利用して適宜地上に排泥することが可能であるが、ケイ酸ナトリウム噴射工程を行う段階では、セメント分布領域がその上方から順次固結していくため、第2の硬化材溶液の高圧噴射に伴うスライムを地上に排泥することが困難になる場合も想定され、上述した例であれば、セメント分布領域の固結によってロッドとセメント分布領域との隙間が小さくなり、スライムの上昇、ひいては地上への排泥が妨げられる懸念がある。
【0033】
かかる場合には、地盤内に設定された改良体造成範囲全体にセメント分布領域を先行形成してそのセメント分布領域に第2の硬化材溶液を高圧噴射するのではなく、地盤内に設定された改良体造成範囲を深さ方向に分割することで複数の改良体造成区画を設定し、該複数の改良体造成区画へのセメント分布領域形成工程とそれに続くケイ酸ナトリウム噴射工程とを、複数の改良体造成区画ごとにかつ最下層に位置する改良体造成区画から順次上層に向けて繰り返し行うようにすればよい。
【0034】
このようにすると、各改良体造成区画において、第2の硬化材溶液の噴射開始から噴射終了までの時間が短くなるため、地上へのスライムの排泥をスムーズに行いつつ、セメント分布領域が固結する前に第2の硬化材溶液の噴射を終えることが可能となる。