【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を、雄雌一対のスクリューロータにより空気を圧縮する無給油式スクリュー圧縮機に適用した場合について説明する。
まず、本発明の実施例1に適用される無給油式スクリュー圧縮機の全体構成について、
図2により説明する。
【0017】
図2に示す無給油式スクリュー圧縮機は、雄ロータ1と、これに噛み合わされた雌ロータ2と、前記雄,雌ロータ1,2を収容しているメインケーシング8aと、このメインケーシング8aの吸込側に取り付けられたSケーシング8bと、同メインケーシング3の吐出側に取り付けられたDケーシング8cと、メインケーシング8aに形成された冷却用ジャケット25と、雄ロータ1の吸込側および吐出側端部に一体に設けられたロータシャフト1aと、雌ロータ2の吸込側および吐出側端部に一体に設けられたロータシャフト2aと、雄ロータ1のロータシャフト1aの吸込側端部に取り付けられ且つモータ側のブルギヤ(図示せず)に噛み合わされたピニオンギヤ(圧縮機駆動用ギヤ)3と、Sケーシング8b内に設けられ且つ雄,雌ロータ1,2のロータシャフト1a,2aの吸込側端部を支持する吸込側の軸受(ローラ軸受)6aと、メインケーシング8aの吐出側端部に設けられ且つ雄,雌ロータ1,2のロータシャフト1a,2aの吐出側端部を支持する吐出側の軸受6b(ローラ軸受)及び軸受6c(組み合わせアンギュラ軸受)と、前記吸込側軸受6aの雄,雌ロータ1,2側寄りに設けられた軸封装置7aと、前記吐出側軸受6bの雄,雌ロータ1,2側寄りに設けられた軸封装置7bと、雄,雌ロータ1,2のロータシャフト1a,2aの吐出側端部に取り付けられ且つ互いに噛み合わされたタイミングギヤ4,5と、前記各軸受6a〜6cや前記タイミングギヤ4,5を潤滑するための潤滑油系統(図示せず)とを備えている。
【0018】
前記メインケーシング8aとSケーシング8bとDケーシング8cとにより圧縮機ケーシング8が構成されており、この圧縮機ケーシングには空気の吸込口および吐出口(いずれも図示せず)が設けられている。
【0019】
モータ(図示せず)の回転力は、ブルギヤからピニオンギヤ3を介し、雄ロータ1に伝達される。雄ロータ1に伝達された回転力はタイミングギヤ4,5を介して雌ロータ2にも伝達され、雄ロータ1と雌ロータ2とが非接触状態で互いに噛合い、回転することにより、吸込口から前記ロータ1,2間に吸入された空気は所定の圧力まで圧縮され、吐出口から外部に吐出される。
【0020】
吸込側と吐出側にそれぞれ設けられている前記軸封装置7a,7bは、圧縮室からの圧縮空気の漏れを防ぐ為のエアシール9、ピニオンギヤ3、タイミングギヤ4,5等のギヤや軸受6に供給される潤滑油が圧縮室内に浸入するのを防止する非接触型のビスコシール(油切りシール)11、及び前記エアシール9とビスコシール11との間に設けられたシールボックス10を備えている。
【0021】
前記軸封装置7a,7b部分の詳細構造を
図3及び
図4により説明する。
図3は吐出側の軸封装置7bの一般例を示す要部拡大断面図、
図4は吸込側の軸封装置7aの一般例を示す要部拡大断面図である。
【0022】
図3,
図4において、12は前記シールボックス10と大気側とを連通するように圧縮機ケーシングに設けられた大気開放穴で、この大気開放穴12は、前記ビスコシール11の発生圧や圧縮機の運転状態により、前記シールボックス10内の圧力が負圧とならないようにするために設けられている。
【0023】
前記ビスコシール11はロータシャフト1a,2aの回転により軸封圧を発生することで、ロータシャフト1a,2aを伝わって雄,雌ロータ1,2側(圧縮室側)に浸入しようとする潤滑油を、ギヤ3〜5や軸受6a〜6c側に押し戻す軸封部品である。
【0024】
しかし、前記潤滑油の圧縮室側への浸入経路は、ロータシャフト1a,2aと軸封装置7a,7bとの隙間部だけではなく、軸封装置7a,7bの外周側からも浸入する。これを
図6,
図7により説明する。
図6は
図3に示す軸封装置における油の浸入経路を説明する図、
図7は
図4に示す軸封装置における油の浸入経路を説明する図である。これら
図6,
図7において、矢印15は軸封装置の外周面側からの油の浸入経路を示し、矢印16は軸封装置7a,7bのシール部品間(エアシール9とシールボックス10間、及びビスコシール11とシールボックス10間)からの油の浸入経路を示す。
大気開放穴12の軸受及びギヤ側を一次側、圧縮室側を二次側とすると、前記ビスコシール11は一次側に、前記エアシール9は二次側に配置されている。
【0025】
従来は特許文献1にも示すように、一次側に設けたビスコシール11の外周面にOリング14Aを設けることにより、ビスコシール11と圧縮機ケーシングとの間から、軸受などからの潤滑油が、
図6,
図7に矢印15で示すように、二次側に浸入するのを防止していた。
【0026】
しかし、組立上これらのシール部品と圧縮機ケーシング8とはすきま嵌めで構成されているため、ケーシングと軸封部品との加工精度により、前記一次側に設けたOリング14Aのシール性能が低下している場合がある。
また、シールボックス10の部分は、矢印21(
図3,
図4参照)で示すシール発生圧により、シールボックス10内が負圧にならないように大気開放穴12により大気開放されている。しかし、矢印21で示すシール発生圧が影響しない軸封装置の外周部と圧縮機ケーシングとの間の微小隙間は、軸受側に対し負圧となる場合があり、軸受側からの油が微小隙間に導かれて、矢印17で示すように圧縮室側へ引き込まれる方向へ圧力が働く。
【0027】
更に、
図3,
図4に示すように、圧縮機の運転時のエアシール9と大気開放穴12における空気の流れが軸封装置外周部から圧縮室側への油の浸入を助長する。
【0028】
また、圧縮機の停止時にも軸受側からの油が、エアシール9の背面(外周面)や、エアシール9とシールボックス10との間に浸入して溜まり、圧縮機の運転開始と共に前記空気の流れなどによって、前記エアシール9の背面隙間やエアシール9とシールボックス10との間に溜まっていた油が圧縮室側へも侵入する可能性があることがわかってきた。
【0029】
そこで、本実施例では、一次側のOリング14Aなどを通過してエアシール9の背面に浸入してきた油が圧縮室側へ浸入するのを防ぐため、
図1に示すように、二次側に設けたエアシール9の外周面にもOリング14Bを設けるようにしている。これにより、エアシール9の背面に浸入してきた油がエアシール9の背面を通過して圧縮室側に流入するのを防止することができ(即ち、
図6,
図7に矢印15で示した油の浸入経路を遮断することが可能となる)、圧縮空気に油が混入するのを抑制することが可能となる。
【0030】
また、本実施例では、
図3,
図4に示すエアシール9、シールボックス10及びビスコシール11を一体化して、
図1に示すように、エアシール部9a、シールボックス部10a及びビスコシール部11aを有する軸封装置7b(吸込側の軸封装置7aも同様の構成としているがその説明は省略する)として構成している。軸封装置を構成する軸封部品を一体化することにより、
図6,
図7に矢印16で示した油の浸入経路を遮断することが可能となる。このように、一体化されたエアシール部9a、シールボックス部10a及びビスコシール部11aを有する軸封装置7bとすることで、シールボックス部10aと、エアシール部9aまたはビスコシール部11a間に従来あった油の浸入経路15,16がなくなるので、圧縮室側への油の浸入を抑制できる効果がある。また、軸封装置を構成する軸封部品の点数も削減することができ、原価低減及び組立工数の低減も図れる。
【0031】
尚、エアシール部9a、シールボックス部10a及びビスコシール部11aを一体化する場合、砲金等の金属材料で一体に製作する。この場合、ロータシャフト1a,2aとの金属接触を防ぐため、エアシール部13aの内径部とロータシャフト1a,2aとの隙間は安全を考慮した大きさにする必要がある。
【0032】
図5は、
図1に示すエアシール部9a、シールボックス部10a及びビスコシール部11aを一体化した軸封装置7bの別の例を説明する図である。この例では、軸封装置7bのエアシール部9aの内径部に、カーボンやフッ素樹脂(PTFE)などの摺動性が高くロータシャフトと接触した場合でも発火や焼損などの虞がない摺動材13を接着などにより取り付けて構成したものである。このように安全面で優位性のある摺動材をエアシール部9aの内径部に設けたことで、エアシール部9aの内径部とロータシャフト1a,1bとのギャップを小さくすることが可能となり、圧縮室から圧縮空気が漏れるのを低減することができる。
【0033】
前記エアシール部9a(金属)と摺動材13(カーボンやフッ素樹脂など)との接着は、耐熱性の高いエポキシ樹脂系の接着剤を用いることが望ましい。前記エポキシ樹脂系の接着剤としては、高耐熱で有機溶剤フリー(有機溶剤が含まれていない)のものが存在するので、このような接着剤を使用することにより、国際規格ISO8573−5における吐出圧縮空気中の有機溶剤含有量に対しても、高い清浄度を確保できる。
【0034】
なお、
図1及び
図5に示した実施例では、吐出側の軸封装置7bについて述べたが、吸込側の軸封装置7aについても
図1,
図5と同様に構成することができる。即ち、吸込側の軸封装置7aの場合には
図4に示すエアシール9、シールボックス10及びビスコシール11を
図4と同じ位置関係で
図1や
図5に示すように一体化して構成すれば良い。
【0035】
以上述べたように、本実施例によれば、軸封装置外周部と圧縮機ケーシングとの間から圧縮室側へ油が浸入するのを低減でき、油浸入に対して信頼性の高い軸封装置をもつ無給油式スクリュー圧縮機を得ることができる。この結果、無給油式スクリュー圧縮機から吐出される圧縮空気の清浄度を高めることができ、油含有量の少ない高い清浄度の圧縮空気を供給できる効果が得られる。