【文献】
藤田 政之 Masayuki FUJITA,ハイブリッドなシステムの制御 Control of Hybrid Systems,計測と制御 第38巻 第3号 JOURNAL OF THE SOCIETY OF INSTRUMENT AND CONTROL ENGINEERS,日本,社団法人計測自動制御学会 The Society of Instrument and Control Engineers,第38巻
【文献】
平田 研二 Kenji HIRATA,拘束システムに対する出力フィードバックスイッチング制御則の構成法 A Measurement Feedback Switching Control of Systems with State and Control Constraints,システム/制御/情報 第44巻 第8号 SYSTEMS,CONTROL AND INFORMATION,日本,システム制御情報学会 The Institute of Systems,Control and Information Engineers,第13巻
【文献】
平田研二,不変集合を利用した拘束システムの解析と制御系設計への応用,システム/制御/情報,日本,2003年,第47巻 第11号,pp.507-513
【文献】
安孫子 紘市, 平田 研二, 太田 快人,不変集合を利用したシリコンウエハ搬送ロボットの動作切り換え制御,日本機械学会論文集C編,日本,日本機械学会,2011年 3月25日,Vol.77 No.775,pp. 1017-1028
【文献】
平田 研二 Kenji HIRATA,入力に制限を有する線形離散時間システムに対するスイッチング状態フィードバック制御則の構成法 A Switching State Feedback Control of Input Constrained Linear Discrete-time Systems,システム/制御/情報 第42巻 第6号 SYSTEMS,CONTROL AND INFORMATION,日本,システム制御情報学会 The Institute of Systems,Control and Information Engineers,第11巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の一実施形態に係るウエハ搬送ロボット1の構成を説明する。
【0022】
図1に示すように、ウエハ搬送ロボット1は、ウエハ搬送ロボット1を取り囲むチャンバ50と呼ばれる処理室へ直径300mm程度のシリコンウエハ60を搬入出するものである。チャンバ50は、例えば、シリコンウエハ60をチャンバ内へ搬入出するロードロックチャンバ51やCVD(Chemical Vapor Deposition)やエッチング等の処理を行うプロセスチャンバ52等から構成される。
【0023】
図2に示すように、ウエハ搬送ロボット1は、水平多関節のロボットとされ、ハンド2と、二つの上アーム3・3と、下アーム4と、リンク部材5と、第一モータ10と、第二モータ20と、第一サーボアンプ15と、第二サーボアンプ25と、ロボット制御装置30と、で主に構成される。
【0024】
ハンド2は、その両端2a・2aがフォーク状に形成されて、シリコンウエハ60が載置される。
【0025】
上アーム3・3は、それぞれ平面視で略「く」字状に形成されるとともに、その屈曲部が対向して配置され、それぞれの一端3a・3aがハンド2の両端2a・2aよりやや内側で連動連結される。
【0026】
下アーム4は、平面視で略楕円形状に形成されるとともに、上アーム3・3の下方に配設され、その内部には、二つのプーリー6・6と、この二つのプーリー6・6に巻回される第一ベルト7と、が収容される。
【0027】
リンク部材5は、平面視略三角形の板材であり、上アーム3・3及び下アーム4の間に設けられる。リンク部材5には、孔5aが穿設され、また、その上面から二つの回転軸5b・5bが突設される。前記孔5aと、下アーム4における一方(先端側)のプーリー6の軸孔に回転軸8が挿嵌されて固設される。回転軸5b・5b上には、それぞれプーリー11・11が軸支される。プーリー11・11には第二ベルト9の一端が固定され、該第二ベルト9の中途部が回転軸8に巻回される。
【0028】
第一モータ10は、下アーム4における他方(基部側)の下部に配設され、その出力軸が下アーム4に固設される。
【0029】
第二モータ20は、第一モータ10の下方に配設され、その出力軸が下アーム4における他方のプーリー6に固設される。
【0030】
第一サーボアンプ15は、第一モータ10及びロボット制御装置30に接続され、ロボット制御装置30の信号に基づいて第一モータ10に電力を供給して回転駆動させる。また、第一サーボアンプ15は、第一モータ10の出力軸の回転角度θ
a及び角速度dθ
a/dtが検出可能に構成され、検出した回転角度θ
a及び角速度dθ
a/dtは、ロボット制御装置30に送信される。
【0031】
第二サーボアンプ25は、第二モータ20及びロボット制御装置30に接続され、ロボット制御装置30の信号に基づいて第二モータ20に電力を供給して回転駆動させる。また、第二サーボアンプ25は、第二モータ20の出力軸の回転角度θ
b及び角速度dθ
b/dtが検出可能に構成され、検出した回転角度θ
b及び角速度dθ
b/dtは、ロボット制御装置30に送信される。
【0032】
ロボット制御装置30は、回転角度θ
a・θ
b及び角速度dθ
a/dt・dθ
bdtに基づいて、第一モータ10及び第二モータ20の制御入力となるトルクτ
a・τ
bを算出して、このトルクτ
a・τ
bに対応する信号をサーボアンプ15・25に送信する。
【0033】
ウエハ搬送ロボット1は、
図3(a)に示すようなハンド2を直進させる直進動作(伸び動作及び縮み動作)と、
図3(b)に示すようなハンド2を回転させる回転動作が可能に構成される。これら二つの動作は、ロボット制御装置30が第一モータ10及び第二モータ20に対して、表1に示すような制御目標(目標回転角度)を与えることで実現される。
【0035】
すなわち、第一モータ10及び第二モータ20を同時に回転駆動させる(θ
a及びθ
bを共に増加、又は減少させる)と、ウエハ搬送ロボット1は、回転動作となる。この際、|θ
a−θ
b|ができるだけ小さくなるように、各モータの目標回転角度を設定する。第二モータ20を、その回転角度θ
bを保持するように駆動させつつ第一モータ10を回転駆動させる(θ
bを保持しつつθ
aを増加、又は減少させる)と、ウエハ搬送ロボット1は、直進動作となる。この際、|θ
b|が搬送軌道の精度に影響を及ぼす。このように、二つの動作を適宜切り換えてシリコンウエハ60の搬送を行う構成とされる。
【0036】
また、ロボット制御装置30は、ウエハ搬送ロボット1の連続した動作を切り換えるものである。ウエハ搬送ロボット1の連続した動作とは、ウエハ搬送ロボット1が連続しておこなうそれぞれ異なる一方の動作と他方の動作をいう。
ロボット制御装置30は、直進動作に対応するコントローラC
1と、回転動作に対応するコントローラC
2と、を備える。コントローラC
1とコントローラC
2とは、それぞれ連続した動作に対応するものである。コントローラC
1・C
2に対応したウエハ搬送ロボット1の動作は、ロボット制御装置30がコントローラC
1・C
2間を切り換えることによって行われる。このような複数の動作モードを有する制御系に対する、コントローラの動的な切り換え則を下記に示す。
【0037】
具体的には、ハンド2(詳細には、ハンド2のアーム)が伸びた位置から回転動作を行うウエハ搬送ロボット1の制御系を想定して説明する。
(1)ロボットは、初期設定点(ハンド2が伸びた状態)にある。
(2)伸びたハンド2に対して直進動作のコントローラC
1を適用し、直進動作の一つである縮み動作を開始する。
(3)縮み動作が未完の状態で、回転動作のコントローラC
2を適用し、回転動作を開始する。
ハンド2の回転時には、ハンド2のぶれが常に規定値以下であることが求められ、これはコントローラの動的な切り換え時も同様である。そこで、(3)の回転動作時に、ハンド2のぶれが規定値以下となることを保証する不変集合を定義し、これを利用したコントローラの動的な切り換え則を考える。
【0038】
まず、コントローラC
1・C
2の設計を行うために、制御対象となるウエハ搬送ロボット1のモデル化を行う。
【0039】
ウエハ搬送ロボット1の非線形モデルは、一般的なロボットの運動方程式を用いると、数1のように表される。M(θ)は慣性モーメント等の慣性行列を表し、h(θ,dθ/dt)は遠心力やコリオリ力等の非線形項を表し、θ及びτは、数2のように表す。ここで、θ
a及びθ
bは、第一モータ10及び第二モータ20の回転角度[rad]を表し、τ
a及びτ
bは、第一モータ10及び第二モータ20への制御入力となるトルク[Nm]を表す。
【0042】
また、数1及び数2をより一般的に表すと、数3及び数4として表すことができる。x
pはウエハ搬送ロボット1の状態、uはウエハ搬送ロボット1への制御入力を表す。
【0045】
そして、数4に被制御量z
1及び観測量yに関する式を加えたものを一般的に状態方程式と呼んでいる(数5参照)。
【0047】
数5に示すような非線形のシステムに対してコントローラを設計するとき、広く使われている方法が、平衡点近傍における線形化を行ってコントローラを設計する手法である。具体的には、平衡点における微小な動作を仮定して、数5に対してテイラーの定理を適用し、高次項を無視するように近似を行うことで得られる線形システムに対して線形なコントローラを設計する。
【0048】
数5に示す状態方程式の平衡点は、任意の角度を用いて数6として表されることがわかっている。これはすなわち、ウエハ搬送ロボット1に制御入力uがまったく与えられずに任意の姿勢で静止していることを意味している。なお、以下の数式において、上付きバーを付した値(x
p、u、θ、r、y等)は、平衡点におけるそれぞれの値を表すものとする。
【0050】
縮み動作と回転動作では、この任意の角度として、数7を考えると、縮み動作の平衡点は、ウエハ搬送ロボット1がアーム(上アーム3及び下アーム4)を最も伸ばしている姿勢に対応し、回転動作の平衡点は、アームを折り畳んでいる姿勢に対応する。
【0052】
数2、数6及び数7より、それぞれの動作におけるウエハ搬送ロボット1の状態の平衡点は、数8で表される。
【0054】
なお、ここでは、被制御量z
1の目標値追従制御を考える。被制御量z
1が追従すべき外部目標値信号を、rで表す。
【0055】
縮み動作の平衝点及び対応する制御入力(上付きバーx
p,
1及び上付きバーu
1)が存在することを仮定すると、数5は、数9で表される。
【0057】
また、回転動作の平衝点及び対応する制御入力(上付きバーx
p,
2及び上付きバーu
2)が存在することを仮定すると、数5は、数10として表される。
【0059】
それぞれの動作に対するコントローラC
1・C
2は、これら平衡点(上付きバーx
p,
1及び上付きバーx
p,
2)を中心とした、次の線形状態方程式に対して各々設計されている。まず、縮み動作に対しては、数11及び数12として表され、回転動作に対しては、数13及び数14で表される。
【0064】
次に、このようにして線形化されたウエハ搬送ロボット1に対して設計されるコントローラを数15及び数16に表す。数15は、直進動作に対して設計されたコントローラC
1であり、数16は、回転動作に対して設計されたコントローラC
2である。
【0067】
次に、ウエハ搬送ロボット1(ハンド2が伸びている状態)及びコントローラC
1で構成される第一の閉ループ系を数17に表し、ウエハ搬送ロボット1(ハンド2を折り畳んでいる状態)及びコントローラC
2で構成される第二の閉ループ系を数18に表す。
【0070】
次に、直進動作の制御系に対して設計を行う。すなわち、コントローラC
1の設計を行う。数1に対して、数19のように慣性行列を用いた制御入力をτと考えると、数1は、数20で表される。ただし、α=θ
a−θ
bとする。
【0073】
数20をx
p,
1の平衡点において線形化すると、数21として近似される。
【0075】
これはすなわち、対象となるプラントが線形化と共に完全に非干渉化され、θに依存しないことを示している。線形非干渉化されたプラントの数21に対し、
図4に示すようなゲインスケジューリングに基づく条件付きフィードバック構造の二自由度制御系を設計した。W(θ)はθのみに依存する関数であり、ここではW(θ)=M(θ)とする。T
refは、プラントのモデル式であり、sはラプラス演算子である。Fは目標値応答を指定し、Kはフィードバック特性を指定しており、Rはフィードフォワード制御である。ウエハ搬送ロボット1において設計されたコントローラC
1におけるフィードバックゲイン及び位相補償等の各要素のパラメータ等を、数22に表す。
【0077】
次に、回転動作の制御系に対して設計を行う。すなわち、コントローラC
2の設計を行う。数1をテイラー展開する。平衡点を原点姿勢として、上付きバーθ
a=上付きバーθ
b=0と考え、得られる線形状態方程式は数23で表される。
【0079】
上付きバーα=上付きバーθ
a−上付きバーθ
bである。ここで、慣性行列が回転角度差α=θ
a−θ
bに依存することから、上付きバーα=0と置ける。すなわち、数23は、数24で表される。
【0081】
数24の線形化プラントに対して、直進動作の制御系と同様にゲインスケジューリングに基づく条件付きフィードバック構造の二自由度制御系を設計した。ウエハ搬送ロボット1において設計されたコントローラC
2におけるフィードバックゲイン及び位相補償等の各要素のパラメータ等を、数25に表す。
【0083】
数22から数25の通り、直進動作及び回転動作においてそれぞれの動作について最適な制御系がそれぞれ設計される。
【0084】
次に、本発明の要部となる二つのコントローラ間の切り換え則について説明する。
【0085】
まず、切り換え制御の問題を一般化する。
図5に示すように、線形化されたシステムが二つ定義された場合に、第一のシステムから第二のシステムと切り換えることを想定する。第一のシステムは、数17に示す第一の閉ループ系に対応して、第二のシステムは、数18に示す第二の閉ループ系に対応する。
【0086】
ここで、
図10(b)に示す理想的な切り換え則を導出するために、不変集合を利用したアルゴリズムを提案する。
次に、拘束条件に対応する不変集合を構成する。不変集合は、システムの拘束を考慮した設計に有用なツールとして知られており、種々の方法が提案され、その効果が実証されている。不変集合の特徴は、
図6に示すように、その集合内に入った状態はそれ以降集合から外れないというものである。不変集合の構成には、まず、被拘束量を定義する。
【0087】
これをウエハ搬送ロボット1に適用すると、第二の閉ループ系を構成する切り換え後の動作である回転動作に対して、表1に示したように、|θ
a−θ
b|が小さくなるように制御しなければならない。そこで、被拘束量z
0として、数26のように設定する。
【0089】
数26は、数3で定義したx
pを用いて、数27と書き表すことができる。
【0091】
例えば、被拘束量z
0が0.1以下となるように設定すると、数28として表すことができる。また、数28を一般的に表すと数29となる。
【0094】
数29は、数5の非線形プラントに対するものなので、これらをさらに回転動作の平衝点(上付きバーx
p,
2)を基準とすると、数30と表すことができる。
【0096】
拘束条件は、数31と厳密に表すことができる。ここでは、数8に示すように、上付きバーx
p,
2=0であるので、z
0[t]=z
0,
2[t]であることに留意する。
【0098】
そして、数31を集合Z
2として、数32のように表す。M
z及びm
zは、拘束条件を規定するパラメータである。
【0100】
ここで、第二の閉ループ系に対し、外部入力wが与えられた場合に、数25のZ
2の拘束が達成されるための不変集合O
∞,
2は、数33として定義する。数33は、凸多面体で得られる。Z
+は、正の整数の集合を表す。
【0102】
不変集合O
∞,
2をプラントの線形モデルの状態空間上へ射影する。投射した不変集合をO
p,
2とし、数34として定義する。
【0104】
さらに、不変集合O
p,
2を非線形プラントの状態空間上へ平行移動する。平行移動した不変集合をO
pとし、数35として定義する。
【0106】
図7は、不変集合O
∞,
2・O
p,
2・O
pの関係を幾何学的に分かりやすく示した図である。ただし、図中でx
p,
2及びx
c,
2の次元はそれぞれ1である。
図7を用いて説明すると、まず初めに、線形化されたプラントとコントローラがなす座標系(x
p,
2,x
c,
2)が非線形プラントの状態空間上に定義される。次に、太い実線で示される領域内の不変集合O
∞,
2が構成される。続いて、この不変集合O
∞,
2を、線形化されたプラントの状態空間上へ投射して不変集合O
p,
2が得られる。そして、この不変集合O
p,
2を平行移動して、非線形プラントの状態空間へと写した不変集合O
pが得られる。
【0107】
ここで、非線形プラントのある状態x
pが、
図7に示すように、不変集合O
pの内部の点で与えられたと仮定する。すると、x
pに対応するx
p,
2も不変集合O
p,
2内にあるが、対応するコントローラの状態x
c,
2は一意ではない。そこで、何らかの方法で切り換え判定後x
c,
2(初期状態x
c,
2)を決定する必要がある。この決定方法は、現在のところ数36に示す条件である。
【0109】
下記に不変集合を利用した切り換え則のアルゴリズムの大枠を示す。
(1)第一の閉ループ系で駆動する。
(2)不変集合内部に入るか否かを判定する。
(3)(2)が満たされるならば直ちに第二の閉ループ系へ切り換え、駆動開始する。
このような(1)から(3)の手順を満たす切り換え則のアルゴリズムを構成する。これにより、切り換え後は、第二の閉ループ系の拘束は保証される。ただし、第二の閉ループ系におけるコントローラC
2の状態x
c,
2は未知であるため、適切な状態x
c,
2を決定する必要がある。
【0110】
以上の手順を踏まえ、得られた不変集合O
pを
図8に示す。ただし、不変集合O
pは、数37に表されるように、第一モータ10と第二モータ20の回転角度差|θ
a−θ
b|とし、この値cが0.02以下となるように設定する。また、射影の計算にはFourier Motzkinの射影アルゴリズムを用いた。注意点として、不変集合O
pは本来は、プラントの次数が4次であるため4次元空間上に存在することになり、集合を図示することが難しい。ところが、切り換え前の直進動作では、回転角度θ
bに変化が生じないようにその角度θ
bを保持するように第二モータ20を制御する。
図8ではこれを加味し、θ
b=0、dθ
b/dt=0とおいた図を示している。
【0112】
ここで、時刻t
sにおいて、x
p[t
s]∈O
pが達成されたとする。このとき、前述のように第二の閉ループ系に対応するコントローラC
2の初期状態x
c,
2[t
s]∈O
∞,
2は一意ではない。そこで、次のようにして初期状態x
c,
2を決定する。
【0113】
不変集合O
∞,
pを数38に表すようにウエハ搬送ロボット1の状態x
c,
2とコントローラの状態x
p,
2に対応するように分割する。
【0115】
不等式である数36を満たすようなx
p,
2を見つければよい。そこで、数38を等式とみなし、数39のように展開する。
【0117】
ここで、M
c,
2が正則ならば逆行列で一意にx
p,
2を決定できるが、一般にM
c,
2は正方行列ではない。そこで、擬似逆行列M
c,
2†を仮定して、数40の線型方程式からx
p,
2が求められる。こうして、求められたx
p,
2が、初期状態x
c,
2として決定される。
【0119】
初期状態x
c,
2を決定する他の方法として、切り換え時刻前後における制御入力の変動が最小になるように線形計画問題を解く方法が挙げられる。これは、切り換えの際に、ウエハ搬送ロボット1への直接の制御入力が不連続になりがちであるというシミュレーション及び実験結果に基づき、これを避けるために利用したものである。
【0120】
すなわち、切り換え判定時の前の時刻t
s−1において、制御系に実際に与えられている入力u[t
s−1]と、時刻t
sにおける状態x
c,
2[t
s]を決定する方法である。これを最適化問題の形式として記述すると、数41となる。
【0122】
数41に示すように、1ノルムを評価することで、最適化問題は、線形計画問題へと帰着する。
【0123】
以上のような動作の切り換え則を、ウエハ搬送ロボット1に適用して、縮み動作から回転動作に切り換わる制御態様を
図9に基づいて説明する。
【0124】
ステップS1において、ウエハ搬送ロボット1は、縮み動作で駆動する。すなわち、ウエハ搬送ロボット1及びコントローラC
1で構成される第一の閉ループ系で駆動する。これにより、ロボット制御装置30は、第一モータ10の回転角度θ
a及び第二モータ20の回転角度θ
bが所定の角度となるように第一モータ10及び第二モータ20を駆動制御して、ハンド2の縮み動作が行われる。そして、ステップ2に移行する。
【0125】
ステップS2において、ロボット制御装置30は、ウエハ搬送ロボット1の状態x
pを観測する。すなわち、ロボット制御装置30は、第一モータ10の回転角度θ
aと、角速度dθ
a/dtと、第二モータ20の回転角度θ
bと、角速度dθ
b/dtと、を検出する。そして、ステップS3に移行する。
【0126】
ステップS3において、ロボット制御装置30は、x
p∈O
pか否かを判断する。すなわち、ロボット制御装置30は、ステップ2で観測したθ
a、dθ
a/dt、θ
b及びdθ
b/dtが、数35の式から算出された不変集合O
pに属するか否かを判断する。属する場合は、ステップS4に移行する。属さない場合は、ステップS2に再度移行する。
【0127】
ステップS4において、コントローラC
2の初期状態x
c,
2を決定する。すなわち、ロボット制御装置30は、数37又は数38でコントローラC
2の初期状態x
c,
2を決定する。そして、ステップ5に移行する。
【0128】
ステップS5において、ウエハ搬送ロボット1は、回転動作で駆動する。すなわち、ロボット制御装置30において、コントローラC
1からコントローラC
2に切り換えて、ウエハ搬送ロボット1及びコントローラC
2で構成される第二の閉ループ系で駆動する。これにより、ロボット制御装置30は、第一モータ10の回転角度θ
a及び第二モータ20の回転角度θ
bが所定の角度となるように第一モータ10及び第二モータ20を駆動制御して、ハンド2の回転動作が行われる。こうして、一方の動作である縮み動作から他方の動作である回転動作への切り換えが行われる。
【0129】
図10(a)は、従来のハンドの軌跡であり、
図10(b)は、本発明のハンド2の軌跡である。点線で囲んだ領域において、従来の軌跡と本発明の軌跡とを比較すると、本発明の軌跡は、縮み動作から回転動作にスムースに移行して、理想的な軌跡となっていることがわかる。また、
図10(b)の二点鎖線や
図14に示すように、ハンド2の軌跡が崩れることもない。
【0130】
図11は、線形方程式を解く初期状態決定方法を用いた場合の実験結果であり、
図12は、制御入力の変化を最小とする初期状態決定方法を用いた場合の実験結果である。動作の切り換えは、共に14秒で行われている。
図11(a)及び(b)と、
図13(a)及び(b)と、を比較した場合において、動作全体における搬送のスループットが向上していることがわかる。同様に、
図12(a)及び(b)と、
図13(a)及び(b)と、を比較した場合において、全体のスループットが向上していることがわかる。
【0131】
また、
図11(e)及び
図12(e)に示すように、回転角度θ
aと回転角度θ
bの角度差が0.02以下に抑えられていることがわかる。
【0132】
また、
図11(c)及び(d)と、
図12(c)及び(d)と、を比較した場合において、制御入力の変化を最小とする初期状態決定方法を用いた場合の方が、制御入力、すなわちトルクτ
a・τ
bが小さくなっていることがわかる。
【0133】
なお、不変集合を用いた動作の切り換えは、縮み動作から回転動作だけでなく、回転動作から伸び動作に対しても同様に適用できる。また、ウエハ搬送ロボット1に限定するものでなく、さまざまなロボットに対しても適用できる。
【0134】
なお、ウエハ搬送ロボット1においては、ハンド2を回転させつつ直進させる動作、すなわち、回転動作を伴う直進動作が可能に構成してもよい。この場合は、ロボット制御装置30は、回転動作を伴う直進動作に対応するコントローラC
3を更に備える。これにより、コントローラC
1・C
2・C
3間を、不変集合O
pを用いて切り換えることで、これらコントローラC
1・C
2・C
3に対応する一方の動作から他方の動作にスムースに移行することができる。すなわち、直進動作から回転動作、回転動作から直進動作、直進動作から回転動作を伴う直進動作、回転動作を伴う直進動作から直進動作、回転動作から回転動作を伴う直進動作、回転動作を伴う直進動作から回転動作、にスムースに移行することができる。
【0135】
なお、昇降軸を有する3軸のウエハ搬送ロボットにおいては、ハンド2を昇降させる昇降動作が可能に構成される。この場合は、ロボット制御装置は、昇降動作に対応するコントローラC
4を備える。更に、前記3軸のウエハ搬送ロボットは、ハンド2を昇降させつつ回転させる動作、すなわち、昇降動作を伴う回転動作と、ハンド2を昇降させつつ直進させる動作、すなわち、昇降動作を伴う直進動作と、が可能に構成してもよい。この場合は、昇降動作を伴う回転動作に対応するコントローラC
5と、昇降動作を伴う直進動作に対応するコントローラC
6と、を更に備える。これにより、コントローラC
1・C
2・C
3・C
4・C
5・C
6間を、不変集合O
pを用いて切り換えることで、これらコントローラC
1・C
2・C
3・C
4・C
5・C
6に対応する一方の動作から他方の動作にスムースに移行することができる。すなわち、昇降動作から回転動作、回転動作から昇降動作、昇降動作から直進動作、直進動作から昇降動作、昇降動作を伴う回転動作から直進動作・・・等、スムースに移行することができる。
【0136】
なお、チャンバ50においては、ウエハ搬送ロボット1を取り囲むプロセスチャンバ51が多数設けられる場合や、ロードロックチャンバ52が上下多段に設けられる場合は、シリコンウエハ60をプロセスチャンバ51に搬入出する回数が多くなる。従って、処理装置全体の処理時間に対する、ウエハ搬送ロボット1がシリコンウエハ60を搬送する搬送時間が占める割合が高くなる。本発明によれば、ウエハ搬送ロボット1自体のエアカット時間、すなわち、搬送時間を短縮することができるため、処理装置全体のスループットを向上させることができる。
【0137】
以上のように、ロボットの連続した動作を切り換えるロボット制御装置30であって、前記動作に対応する複数のコントローラを備え、前記ロボットの状態が、切り換え後の動作における拘束条件から導出された不変集合に属すると、切り換え後の動作に対応する前記コントローラの初期状態を算出し、前記コントローラを動的に切り換えるものである。これにより、ロボットが一方の動作から他方の動作に、停止することなくスムースに移行することができる。
【0138】
また、前記ロボットは、被搬送物となるシリコンウエハ60を搬送するハンド2を備え、このハンド2を直進させる直進動作及び前記ハンド2を回転させる回転動作を可能としたウエハ搬送ロボット1であり、前記コントローラC
1・C
2は、前記直進動作および前記回転動作に各々対応して備えられたものである。これにより、ウエハ搬送ロボット1は、直進動作から回転動作に、又は回転動作から直進動作に、停止することなく、スムースに移行することができる。従って、搬送のスループットの向上を図ることができる。また、ハンド2がぶれずチャンバ50との衝突を避けることができ、精度よく搬送を行うことができる。
【0139】
また、前記不変集合O
pは、前記拘束条件で定義された多次元の不変集合O∞,
2を、前記ウエハ搬送ロボット1の状態空間へ射影することにより導出して前記動作の切り換え判定を行うものである。これにより、前記ウエハ搬送ロボット1の状態x
pのみで二つの動作の切り換え判定を行うことができる。
【0140】
また、切り換え後の動作に対応する前記コントローラC
2の初期状態x
c,
2を、前記拘束条件を満たす数40に示す線形方程式による初期状態決定方法から算出するものである。これにより、コントローラC
2の初期状態x
c,
2の演算が容易となる。
【0141】
また、切り換え後の動作に対応する前記コントローラC
2の初期状態x
c,
2を、切り換え前後における前記ウエハ搬送ロボット1に対する制御入力の変動を最小とする初期状態決定方法から算出するものである。これにより、切り換えの際に、ウエハ搬送ロボット1への直接の制御入力が不連続となり難くなる。