(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5652973
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】双眼ルーペの製作方法
(51)【国際特許分類】
G02C 9/00 20060101AFI20141218BHJP
A61B 3/11 20060101ALI20141218BHJP
A61B 3/107 20060101ALI20141218BHJP
G02B 23/00 20060101ALI20141218BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20141218BHJP
A61B 19/00 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
G02C9/00
A61B3/10 A
A61B3/10 H
G02B23/00
G02B21/00
A61B19/00 506
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-160109(P2013-160109)
(22)【出願日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年7月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505425878
【氏名又は名称】中村 正一
(73)【特許権者】
【識別番号】592248835
【氏名又は名称】日本エー・シー・ピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098589
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 善章
(74)【代理人】
【識別番号】100098062
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 明彦
(74)【代理人】
【識別番号】100131196
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 武信
(72)【発明者】
【氏名】中村 正一
【審査官】
加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−184986(JP,A)
【文献】
特開2012−130434(JP,A)
【文献】
特許第5311601(JP,B2)
【文献】
国際公開第2007/057987(WO,A1)
【文献】
実開昭55−052122(JP,U)
【文献】
米国特許第04834525(US,A)
【文献】
米国特許第03273456(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 − 13/00
A61B 19/00 − 19/08
G02B 9/00 − 17/08
G02B 21/02 − 21/04
G02B 25/00 − 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームに装着したキャリアレンズにルーペを取り付ける双眼ルーペの製作方法であって、
(a)作業体勢を執って下方の作業操作箇所を凝視している状態での作業者の左右の眼球に赤外線を照射するステップと、
(b)左右の眼球からの赤外線による反射光を一対の撮像素子によって受光するステップと、
(c)前記撮像素子からの画像データを処理して両眼それぞれの視線方向を演算するステップと、
(d)前記視線方向から左右の前記キャリアレンズ面にそれぞれ装着する前記ルーペの各内側装着角度pを決定するステップと、
(e)前記視線方向から左右の前記キャリアレンズ面にそれぞれ装着する前記ルーペの下方装着角度rを決定するステップと、
(f)前記下方装着角度rと、前記内側装着角度pとに基づいて左右の前記キャリアレンズ面に開口を形成し、前記開口に左右の前記ルーペを挿入して固定するステップと、の各ステップを有することを特徴とする双眼ルーペの製作方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)では、赤外線発光ダイオード又は赤外線を発光するストロボを用いて作業者の左右の眼球に赤外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)における前記視線方向は、前記画像データに含まれているプルキニエ像の位置から演算することを特徴とする請求項1に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項4】
前記ステップ(c)における前記視線方向は、顔面に平行で水平の軸をXとし、顔面に平行で垂直な軸をYとしたとき、前記プルキニエ像の位置の瞳孔の中心点からのXの値とYの値とから演算することを特徴とする請求項3に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項5】
前記ステップ(d)において、前記内側装着角度pは、角膜の曲率中心及び瞳孔の前記中心点間の寸法cと前記Xの値とで決定することを特徴とする請求項4に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項6】
前記ステップ(e)において、前記下方装着角度rは、角膜の曲率中心及び瞳孔の前記中心点間の寸法cと前記Yの値とで決定することを特徴とする請求項4に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項7】
前記ステップ(e)において、加速度センサーを取り付けた前記フレームを着用した作業者による前記作業体勢時における前記加速度センサーの出力に基づき前記フレームの前傾角度sを演算し、前記前傾角度sを用いて前記下方装着角度rを補正することを特徴とする請求項1又は6に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項8】
前記キャリアレンズの左右それぞれの表面において右瞳孔及び左瞳孔に対応する位置を定めるステップ(g)をさらに含み、前記ステップ(f)は、前記右瞳孔位置及び左瞳孔位置と、前記下方装着角度rと、前記内側装着角度pとに基づいて左右の前記キャリアレンズの表面に前記開口を形成することを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項9】
前記ステップ(g)は、前記作業操作箇所を凝視している状態での前記作業者の左右の眼球に前記作業操作箇所からストロボ光を照射し、前記ストロボ光の反射光を前記作業操作箇所に配置した撮像装置によって撮像し、前記撮像装置の撮像データから右瞳孔位置及び左瞳孔位置を特定することを特徴とする請求項8に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項10】
前記ステップ(g)は、前記撮像データにおいて前記フレームの中心点から左右側の予め設定された領域内において輝度が予め設定された閾値を超える所定範囲の面積を有し且つその周辺領域よりも所定倍数以上の輝度を有する箇所の中心点を求めることで右瞳孔位置及び左瞳孔位置を特定することを特徴とする請求項9に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項11】
前記撮像装置は、ストロボ光照射装置を備え、前記撮像データをメモリ内に電子的に格納するデジタルカメラであることを特徴とする請求項9に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項12】
前記ルーペは、前記作業操作箇所を拡大する固定倍率又は倍率を所定の範囲で可変可能なズーム機能を有する特徴とする請求項1に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項13】
前記キャリアレンズは、前記作業者の視力調整用レンズである請求項1に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項14】
前記作業者が前記作業体勢を解除し前記作業操作箇所よりも上方遠方を見る時の立姿勢において、
前記キャリアレンズを装着したフレームを着用した前記作業者による前記双眼ルーペを使用する前記立姿勢時における作業操作箇所からストロボ光を照射するステップと、
前記作業者の瞳孔からの前記ストロボ光の反射光を前記作業操作箇所に配置された撮像装置によって撮影するステップと、
前記撮像装置による正面の撮像データに基づいて、前記フレームの中心点からの前記作業者の右瞳孔位置及び左瞳孔位置を電子的に特定するステップと、
前記作業者の右瞳孔位置及び左瞳孔位置に前記視力調整用レンズの中心が配置されるステップと、
の各ステップを有し、これにより前記キャリアレンズを製作することを含む請求項13に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項15】
前記ステップ(f)における前記左右のルーペを装着するための開口の形成は、NC加工機により切削加工して行われることを特徴とする請求項1に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項16】
前記ステップ(f)において前記左右のキャリアレンズに形成された前記開口に前記左右のルーペを取り付ける際、レーザー位置決め機によって前記下方装着角度r及び前記内側装着角度pで位置決めし、位置決めした状態で前記左右のルーペを前記左右のキャリアレンズに挿入して固定することを特徴とする請求項15に記載の双眼ルーペの製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療手術や精密工作作業の際に使用される双眼ルーペに関するものであり、特に、フレームのキャリアレンズにルーペを取り付ける双眼ルーペの製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
双眼ルーペは、手元の局所的な視覚対象物を拡大して視認する手段として、従来から、医療分野、精密工作、宝石加工等の各分野において広く使用されており、これらの分野では、高い精度で視認できることが要求される。
【0003】
一般的なレンズ嵌め込み式の双眼ルーペ10の構成は、
図1に示すように、眼鏡と同じ構造のフレーム1と、作業対象の像を拡大するための双眼ルーペ本体であるルーペ2と、フレーム1に嵌め込まれてルーペ2を取り付けるためのキャリアレンズ5と、ルーペ2をキャリアレンズ5に取り付けるための取付部3と、精密作業者の顔に装着するためのフレーム蔓部6と、から成る。ルーペ2は、キャリアレンズ5の表面に刳り抜いた開口に挿入されて取付部3にて固定されている。
【0004】
図2は、双眼ルーペ10を作業者が着用した状態を示す説明図である。双眼ルーペ10は、通常の眼鏡と同様に、フレーム1のフレーム蔓部6を、作業者の耳に掛けることにより顔面に着用することができる。
【0005】
このような双眼ルーペ10は、特に、医療分野において用いられる場合には、人命に関わることから、作業者個々における瞳孔間距離や作業体勢に適合させたものであることが求められ、高精度の視認性を確保するためには、作業者の身体的特徴に応じて、以下の手順に沿って製作される。
【0006】
(1)作業者の顔の身体的特徴に適合したフレームの選定
フレーム蔓部6が作業者の側頭部にフィットしていると共に、フレーム蔓部6の曲状の先端部が耳に適切に掛かる。一組のキャリアレンズ5の間に設けられるノーズパッドが作業者の眉間と完全に接触している。
【0007】
(2)PDメーターによる瞳孔間距離の測定
瞳孔間距離を測定するには、PDメーターを用いて測定するのが一般的である(例えば、特許文献1を参照)。PDメーターは、一端に測定者用の見口、他方に被測定者が本体内部を見通す窓が設けられており、被測定者は、本体内部に映し出されている指標を注視するようこの窓に両眼を近づける。そして、測定者が、見口を覗きながら必要な操作を行って被測定者の左右の瞳孔を合致させたとき、PDメーターはそのときの像を光学的に読み取ることで、瞳孔間距離及び被測定者の鼻中央より左右の瞳孔中心までの距離を測定して表示する。
【0008】
一方、作業者(医師)が作業をしているときの体勢(手術時の体勢)は、
図3で示すように、作業者は前傾姿勢を執りながら手にしている器具の先端(作業操作箇所P)を凝視している状態にある。
図3において、作業者が掛けているフレームは、ルーペ2が未装着の状態で示されているが、作業者はルーペ2を通して作業操作箇所Pを拡大して観察している。そのため、ルーペ2をフレーム1に取り付ける際には、フレーム1のキャリアレンズ5の平面に対してルーペ2を垂直に取り付けるのではなく、上下方向では、
図2で示すように下方(フレームの下縁側)に向けて傾斜しており、且つ水平方向では、
図4で示すように内側(ノーズパッド側)に向けて傾斜している状態で取り付ける必要がある。
【0009】
このときの左右のルーペ2の内側に向けて取り付ける内側装着角度p1、p2は、PDメーターによって測定した鼻中央の中心線Lから左右両眼の瞳孔中心までの距離と焦点距離とから導き出される。
【0010】
(3)眼から作業操作箇所までの距離の測定
眼から作業操作箇所Pまでの距離の測定は、ルーペ2が未装着のフレーム1を着用した作業者に
図3に示す作業体勢を再現してもらい、このときの作業操作箇所Pからフレーム蔓部6とフレーム1との接続部分までの距離を測定して行う。
【0011】
この距離の測定を、
図5で模式的に示すと、作業者がフレーム1を着用して手術を行うときの体勢での作業操作箇所Pからキャリアレンズ5までの距離Aと、キャリアレンズ5を通る鉛直線に直交する水平方向距離Bとをそれぞれメジャーを用いて実測する。そして、実測した距離A、Bからこの辺に挟まれた角度aを求める。
【0012】
一方、作業者が手術を行うときの体勢では、作業者の頭部の前傾によりフレーム1も前傾しており(
図3)、この前傾角度sは、外科手術のような立ち姿勢での手術では25度、歯科手術のような座姿勢での手術では20度程度である。よって、製作しようとする双眼ルーペ10が用いられる手術に応じた25度又は20度の何れかの前傾角度sと、角度aとから、左右のルーペ2をキャリアレンズ5に取り付ける際の下向きの角度である下方装着角度r1、r2がそれぞれ導き出される。
【0013】
(4)こうして、ルーペ2の内側装着角度p1、p2と下方装着角度r1、r2を決定すると、左右のキャリアレンズ5のそれぞれにおいて、測定した瞳孔間距離の測定で求めた左右両眼の瞳孔位置からルーペ2の取り付け位置を決めて開口し、この開口にルーペ2を内側装着角度p1、p2と下方装着角度r1、r2を保って嵌め込んで双眼ルーペ10を製作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−14639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、従来から採用されている上記した双眼ルーペの製作方法は、作業操作箇所Pからキャリアレンズ5までの距離Aやキャリアレンズ5を通る鉛直線に直交する水平方向距離Bを実測するために精度に難点がある。そして、作業者が手術を行うときの前傾角度sについても、一般的な統計上の数値が採用されるために、作業者個々がそれぞれ作業しやすい前傾角度が反映されておらず、また実測したとしても上記の距離A、Bと同様に精度に問題がある。
【0016】
本発明は、上記した従来技術の課題に鑑み為されたものであり、個々の作業者による作業体勢に応じた取り付け角度にてルーペのキャリアレンズに取り付けることができる双眼ルーペの製作方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このため、本発明による双眼ルーペの製作方法は、フレームに装着したキャリアレンズにルーペを取り付ける双眼ルーペの製作方法であって、(a)作業体勢を執って下方の作業操作箇所を凝視している状態での作業者の左右の眼球に赤外線を照射するステップと、(b)左右の眼球からの赤外線による反射光を一対の撮像素子によって受光するステップと、(c)前記撮像素子からの画像データを処理して両眼それぞれの視線方向を演算するステップと、(d)前記視線方向から左右の前記キャリアレンズ面にそれぞれ装着する前記ルーペの各内側装着角度pを決定するステップと、(e)前記視線方向から左右の前記キャリアレンズ面にそれぞれ装着する前記ルーペの下方装着角度rを決定するステップと、(f)前記下方装着角度rと、前記内側装着角度pとに基づいて左右の前記キャリアレンズ面に開口を形成し、前記開口に左右の前記ルーペを挿入して固定するステップと、の各ステップを有する。
【0018】
前記ステップ(e)において、前記フレームに取り付ける加速度センサーの前記作業体勢時における出力に基づき演算した前記フレームの前傾角度sを用いて、求めた前記下方装着角度rを補正するとよい。
【0019】
前記ステップ(a)では、赤外線発光ダイオード又は赤外線を発光するストロボを用いて作業者の左右の眼球に赤外線を照射する。ここで、赤外線を発光するストロボとは、赤外線のみを発光するストロボには限定されず、可視光線及び赤外線をミックスして発光するストロボに赤外線だけを透過するフィルターを装着したものでもよい。
【0020】
このとき、前記ステップ(c)における前記視線方向は、
顔面に平行で水平の軸をXとし、顔面に平行で垂直な軸をYとしたとき、前記プルキニエ像の位置の瞳孔の中心点からの
Xの値とYの値とから演算することができる。
【0021】
また、前記ステップ(d)において、前記内側装着角度pは、角膜の曲率中心及び瞳孔の前記中心点間の寸法cと前記Xの値とで決定される。
【0022】
そして、前記ステップ(e)において、前記下方装着角度rは、角膜の曲率中心及び瞳孔の前記中心点間の寸法cと前記Yの値とで決定される。
【0023】
さらに、前記キャリアレンズの左右それぞれの表面に
おいて右瞳孔及び左瞳孔に対応する位置を定めるステップ(g)を設けることで、前記ステップ(f)は、前記右瞳孔位置及び左瞳孔位置と、前記下方装着角度rと、前記内側装着角度pとに基づいて左右の前記キャリアレンズの表面に前記開口を形成する。
【0024】
そして、前記ステップ(g)では、前記作業操作箇所を凝視している状態での作業者の左右の眼球に前記作業操作箇所からストロボ光を照射し、前記ストロボ光の反射光を前記作業操作箇所に配置した撮像装置によって撮像し、前記撮像装置の撮像データから右瞳孔位置及び左瞳孔位置を特定することができる。この際、前記ステップ(g)では、前記撮像データにおいて前記フレームの中心点から左右側の予め設定された領域内において輝度が予め設定された閾値を超える所定範囲の面積を有し且つその周辺領域よりも所定倍数以上の輝度を有する箇所の中心点を求めることで右瞳孔位置及び左瞳孔位置を特定する。
【0025】
このとき、前記撮像装置は、ストロボ光照射装置を備え、前記撮像データをメモリ内に電子的に格納するデジタルカメラによって撮像するとよい。
【0026】
また、前記ルーペとしては、前記作業操作箇所を拡大する固定倍率又は倍率を所定の範囲で可変可能なズーム機能を有するものが好ましい。
【0027】
前記キャリアレンズは、前記作業者の視力調整用レンズである。そして、このキャリアレンズは、前記作業者が前記作業体勢を解除し前記作業操作箇所よりも上方遠方を見る時の立姿勢において、前記キャリアレンズを装着したフレームを着用した作業者による前記双眼ルーペを使用する前記立姿勢時における作業操作箇所からストロボ光を照射するステップと、前記作業者の瞳孔からの前記ストロボ光の反射光を前記作業操作箇所に配置された前記撮像装置によって撮影するステップと、前記撮像装置による正面の撮像データに基づいて、前記フレームの中心点からの前記作業者の右瞳孔位置及び左瞳孔位置を電子的に特定するステップと、前記作業者の右瞳孔位置及び左瞳孔位置に前記視力調整用レンズの中心が配置されるステップと、の各ステップを実施することで製作される。
【0028】
また、前記ステップ(f)における前記左右のルーペを装着するための開口の形成は、NC加工機により切削加工して行われる。そして、前記ステップ
(f)において前記左右のキャリアレンズに形成された前記開口に前記左右のルーペを取り付ける際、レーザー位置決め機によって前記下方装着角度r及び前記内側装着角度pで位置決めし、位置決めした状態で前記左右のルーペを前記左右のキャリアレンズに挿入して固定することで双眼ルーペが製作される。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る双眼ルーペの製作方法によれば、作業体勢を再現している作業者の左右の眼球の視線方向からルーペをキャリアレンズ面に取り付ける内側装着角度と下方装着角度を計測するために、作業者毎に異なる作業体勢や身体的特徴を双眼ルーペの製作に簡単に反映させることができ、作業者に合致した拡大視野を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図3】作業者(被検者)が作業している状態を示す説明図。
【
図4】キャリアレンズにルーペを取り付けるときの内側装着角度について模式的に示す説明図。
【
図5】キャリアレンズにルーペを取り付けるときの下方装着角度について模式的に示す説明図。
【
図8】キャリアレンズ面にルーペを取り付ける際の内側装着角度及び下方装着角度を計測するシステムを概略的に示す説明図。
【
図9】
図8における視線方向計測装置の動作を説明するフローチャート。
【
図10】
図8におけるコンピュータによる内側装着角度の算出の原理を眼球の水平断面で示す模式図。
【
図11】
図8におけるコンピュータによる下方装着角度の算出の原理を眼球の垂直断面で示す模式図。
【
図12】
図8におけるコンピュータの構成をブロックにより概略的に示す説明図。
【
図13】
図12におけるカメラの構成をブロックにより概略的に示す説明図。
【
図14】瞳孔位置の測定時において、カメラによりフレームを着用している被検者を撮影したときのモニター上の画面を概略的に示す説明図。
【
図15】視力調整用のキャリアレンズの焦点距離の測定時において、カメラによりフレームを着用している被検者を撮影したときのモニター上の画面を概略的に示す説明図。
【
図16】
図8におけるアイカメラの具体例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る双眼ルーペの製作方法の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
[視線方向の検出]
双眼ルーペを製作するのに必要となる上記の内側装着角度p1、p2及び下方装着角度r1、r2は、製作する双眼ルーペ着用する作業者(被験者)に
図3に示すような作業体勢を再現し作業対象箇所Pを凝視してもらい、このときの両眼それぞれの視線方向を計測することで検出される。
【0033】
図6で示すように、眼球30の瞳孔43の中心点39(
図10及び
図11を参照)から、顔面に平行で水平な軸をX、顔面に平行で垂直な軸をYとすると、眼球30は視線方向の変化に応じてそれぞれX軸及びY軸に対して回転運動を行う。このとき、眼球30がX軸に対して回転したとき、眼球30を外部から観察すると黒目部分は上下に移動し、眼球がY軸に対して回転したとき、黒目部分は左右に移動する。よって、本発明に係わる双眼ルーペの製作方法は、眼球30のX、Y方向への移動による視線方向を検出することで、内側装着角度p1、p2及び下方装着角度r1、r2を測定する。視線方向を検出する装置としては種々のタイプのものが実用に供されているが、測定の簡便性を考えると非接触型の光学的に検出する装置が好ましい。
【0034】
光学的に視線方向を検出する方法には、プルキニエ像を認識して行う方法がある。
図7の模式図で示すように、眼球30は、強膜(白目)31と角膜(黒目)32があり、角膜32は、瞳孔43と虹彩34とから成っている。プルキニエ像とは、光を照射したとき角膜32に反射されて眼球30内に映る輝点像37である。
図7(b)で示すように、眼球30においては、眼球30の回転中心33に対して角膜32は中心が偏心しており、瞳孔43の中心点39(
図10及び
図11を参照)と回転中心33を結ぶ線が視線Eとなる。眼球30の向きが変化すると、眼球30内に映るプルキニエ像37の位置が眼球30の向きに対応して移動する。よって、光源36から眼球30に赤外線を照射しカメラ35が捉える眼球画像から瞳孔43の中心点39と角膜反射点であるプルキニエ像37の位置座標を求めることで視線方向が検出できる。
【0035】
図8は、視線方向計測システム40の構成を概略的に示すもので、左右の眼球位置にそれぞれ隣接して配置する赤外線発光ダイオード36A及び36Bと、赤外線の照射を受けて左右それぞれの眼球からの反射光を検出するCCD等の撮像素子を備えたアイカメラ35A及び35Bと、アイカメラ35A及び35Bの撮影画像から得られた両眼それぞれの画像データに基づき演算処理して両眼それぞれの視線方向を検出する視線方向計測装置41と、検出された視線方向を演算処理して内側装着角度p1、p2及び下方装着角度r1、r2を決定する処理装置42とから構成される。視線方向計測装置41は、瞳孔43の中心点39に対するプルキニエ像37のX−Yの位置座標を求めて両眼それぞれの視線方向を検出する。
【0036】
このとき、赤外線発光ダイオード36A(36B)とアイカメラ35A(35B)とは、視線方向測定時の撮像が行いやすいように一体に構成されたものを使用するとよい。例えば、
図16で示すように、アイカメラ35A(35B)は本体が細長形状の円筒体で構成されており、前面にカメラレンズ50を中心にして周りに複数の赤外線発光ダイオード36A(36B)を環状に配置して成るタイプのカメラが好適である。このようなカメラは、携帯性がよく被験者の眼球を撮像するのに操作しやすく、更に、マイクロSDカード等のメモリカードに撮像データを記録するカメラであればなおよい。
【0037】
また、眼球30に赤外線を照射する光源36(
図7)として、
図8に示す構成例では赤外線発光ダイオード36A及び36Bを使用したが、赤外線ストロボを用いてもよい。更に、赤外線のみを発光する赤外線ストロボに限らず、可視光線及び赤外線をミックスして発光する一般的なストロボに赤外線だけを透過するフィルターを装着したものを光源36に用いてもよい。
【0038】
視線方向計測装置41の動作を
図9のフローチャートを用いて説明する。視線方向計測装置41は、まず処理S1にて赤外線発光ダイオード36A及び36Bを駆動して赤外線を照射し、次の処理S2でアイカメラ35A及び35Bから画像データを取り込む。
【0039】
処理S3では、アイカメラ35A及び35Bからの画像データの平滑化を行ってノイズの影響を抑え、次の処理S4では、隣接する2点の輝度差が一定値以下の領域を連結してセグメント化を行う。
【0040】
処理S5では、セグメント化された領域の中から輪郭形状で判定して瞳孔領域を決定して瞳孔43の中心点39およびプルキニエ像37を検出する。この場合、アイカメラ35A及び35Bの光軸が赤外線発光ダイオード36A及び36Bの光軸が一致していると明瞳孔となり、視線方向計測装置41は、画像の明暗を利用した画像処理技術を利用して、眼球画像から明るい瞳孔43の中心点39と明るいプルキニエ像37を検出する。逆に、赤外線発光ダイオード36A及び36Bがアイカメラ35A及び35Bと離れた位置から眼球30に赤外線を照射していると暗瞳孔となり、眼球画像から暗い瞳孔43の中心点39と明るいプルキニエ像37を検出する。
【0041】
そして、処理S6で視線方向計測装置41は、瞳孔43の中心点39に対するプルキニエ像37のX、Yの位置座標を求める演算処理を行うことで、右眼及び左眼のそれぞれの視線方向を(X1、Y1)及び(X2、Y2)の座標を示す信号を出力する。
【0042】
こうして、左右両眼の視線方向が検出されると、処理装置42は、処理S7にて視線方向計測装置41によって示される座標(X1、Y1)及び(X2、Y2)のデータから内側装着角度p1、p2及び下方装着角度r1、r2を演算する。
【0043】
内側装着角度p1、p2及び下方装着角度r1、r2の演算について説明する。
図10は、眼球30の水平断面模式図で被験者が作業操作箇所Pを凝視したときの眼球30の水平方向の回転角度である内側装着角度p(p1、p2)を求める演算の基本的な原理を示している。
図10(a)は眼球30が中央を見ている状態を模式図により示しており、眼球30の回転中心33、角膜32の曲率中心38、プルキニエ像37及び瞳孔43の中心点39は眼球の視線Eの線上に整列している。
【0044】
そして、被験者が作業操作箇所Pを凝視すると、右眼であると眼球30は
図10(b)で示すように左を見る方向に回転する。すなわち、視線Eは左方向にp度変位する。よって、プルキニエ像37と瞳孔43の中心点39との間に生じる変位量がプルキニエ像37のX−Y座標のX値に対応している。このとき、角膜32の曲率中心38と瞳孔43の中心点39との間の寸法をcとすると、眼球30に回転角度pは、
p=arcsin(X/c)
の数式で算出される。そして、この回転角度pが内側装着角度となる。
【0045】
よって、右眼におけるプルキニエ像の位置を(X1、Y1)とし、左眼におけるプルキニエ像37の位置を(X2、Y2)としたとき、内側装着角度p1、p2は、
p1=arcsin(X1/c)
p2=arcsin(X2/c)
の各数式によってそれぞれ求めることができる。
【0046】
次に、被験者が作業操作箇所Pを凝視したときの眼球30の上下方向の回転角度である下方装着角度r(r1又はr2)を求める数式を
図11を用いて説明する。
図11は眼球30の垂直断面模式図であるが、眼球30の回転中心33、角膜32の曲率中心38及び瞳孔43の中心点39の各条件は
図10と同様である。そして、眼球30が中央を見ている状態では
図11(a)で示すように、眼球30の回転中心33、角膜32の曲率中心38、プルキニエ像37及び瞳孔43の中心点39は眼球の視線Eの線上に整列している点も
図10(a)と同様である。
【0047】
図11(b)は、被験者が作業操作箇所Pを凝視して眼球30が下方に回転した状態を示しており、視線Eは下方向にr度変位する。プルキニエ像37と瞳孔43の中心点39との間に生じる変位量がプルキニエ像37のX−Y座標のY値に対応している。このとき回転角度rは、
r=arcsin(Y/c)
の数式で算出される。そして、この回転角度rが下方装着角度となる。
【0048】
よって、左右両眼の下方装着角度r1、r2は、
r1=arcsin(Y1/c)
r2=arcsin(Y2/c)
の各数式でそれぞれ求めることができる。
【0049】
視線方向を光学的に測定する別の方法としては、
図8において、アイカメラ35A及び35Bを用いて眼球30の画像を取り込みと、画像の明暗を利用した画像処理技術を用いて、強膜(白目)と角膜(黒目)の光に対する反射率の差を利用して強膜と角膜の境目の変化から眼球の向きを検出することでも視線方向が検出される。
【0050】
ここで、被験者が作業操作箇所Pを凝視するときは、
図3で説明したように前傾姿勢を執る傾向にあり、処理装置42が演算した下方装着角度r1、r2にこの前傾角度sの分も含まれていることもある。このような場合、下方装着角度r1、r2は、キャリアレンズ5の垂直面と直交する線に対しての下向きの角度以上の値を示すため、視線方向のY座標の値から求めた前傾角度sによって下方装着角度r1、r2を補正するとよい。
【0051】
前傾角度sを求めるには、加速度センサー(図示せず)を用いることができる。例えば、被験者が作業操作箇所Pを凝視するときに加速度センサーを装着したフレーム1を着用していると、被験者が前傾したとき加速度センサーはフレーム1の傾き角に応じた電圧を出力する。よって、処理装置42は、ステップS7(
図9)の処理において、下方装着角度r1、r2を演算したとき、加速度センサーからの電圧信号に基づき前傾角度sを算出し、算出した前傾角度sに基づいて下方装着角度r1、r2を補正することができる。
【0052】
[瞳孔位置の特定]
左右のキャリアレンズ5のそれぞれの表面において右瞳孔及び左瞳孔に対応する位置を定めるには、被験者が装着した左右のキャリアレンズ5の表面で両眼が対応する位置に直接マーキングしてもよいが、コンピュータによってモニター画面上で瞳孔位置を特定することもできる。
【0053】
図12は、製作する双眼ルーペ10の設計を支援するコンピュータ20の概略構成を示しており、このコンピュータ20によって瞳孔位置を特定する実施例を説明する。
図12において、コンピュータ20は、中央制御部23と、種々の制御プログラムが記憶されているROM25と、モニター部21と、入力デバイス22と、カメラ11や処理装置42との間でデータ及び信号の授受を行うインターフェース24とを含んで構成される。中央制御部23は、ROM25に書き込まれている制御プログラムを実行することで、撮像制御部23a、瞳孔位置特定制御部23b及びキャリアレンズ測定制御部23c等として機能する。
【0054】
カメラ11は、
図13で示すように、制御部12、ストロボ光照射装置13、光学系14、撮像素子15、画像メモリ16及びコンピュータ20とデータ及び信号の授受を行うインターフェース17を含んで構成されるデジタルカメラである。
【0055】
制御部12は、カメラ11の各部を制御するプログラム記憶部と、このプログラムを実行するCPUとを備えている。制御部12の制御としては、コンピュータ20からの指示に伴う光学系14の撮像倍率やピント合わせ等の制御、画像メモリ16に対する画像の保存や読出し等の制御を行う。
【0056】
カメラ11を用いた瞳孔位置の特定について具体的に説明する。瞳孔位置の特定は、コンピュータ20がカメラ11を作動して行うが、このとき、中央制御部23はカメラ11を制御して、フレーム1を着用した作業者の両眼にズームし、フレーム1の中心点O(
図4)に焦点距離を合わせる。よって、カメラ11はコンピュータ20からの指示により、光学系14が捉えて撮像素子15により電気信号に変換された画像信号をコンピュータ20に出力している。そして、コンピュータ20が、この画像をモニター部21に表示することで、双眼ルーペの製作者は、カメラ11が捉える画像の範囲や位置合わせ等の調整を入力デバイス22から指示することができ、コンピュータ20はこの調整指示の内容に従ってカメラ11による撮影画像を調整する。
【0057】
そして、カメラ11は、双眼ルーペの製作者の指示の下でコンピュータ20から送られる撮像指令に応答して、ストロボ光照射装置13からストロボ光を照射させ撮影を行う。これにより、カメラ11の撮像素子15は、光学系14からの撮影光を電気信号に変換して出力し、制御部12は、この撮像データを画像メモリ16に保存する。
【0058】
そして、コンピュータ20の中央制御部23は、カメラ11の画像メモリ16に保存した撮像データを読み出してモニター部21に表示する。ストロボ光によって撮影を行うと左右両眼の瞳孔が光を反射し、撮像データの中でもこの部分の輝度は高くなる。
【0059】
図14は、このときのモニター部21上の画面を表示している。中央制御部23は、フレームの中心点Oから左右側の予め設定された撮像データの領域内において各画素を走査し、輝度が予め設定された閾値を超える領域を検出する。そして、この閾値を超えている領域が所定範囲の面積を有して、且つその周辺領域よりも所定倍数以上の輝度を有する箇所の中心点p11、p12を求める演算処理を行うことで、作業者の右瞳孔位置(X
R1、Y
R1)及び左瞳孔位置(X
L1、Y
L1)を電子的に特定する。
【0060】
このように中央制御部23が画像素子の輝度を演算により走査して、作業者の右瞳孔位置(X
R1、Y
R1)及び左瞳孔位置(X
L1、Y
L1)を特定する画像処理の方法以外にも、製作者がモニター部21の表示している画像から右の瞳孔位置p11及び左の瞳孔位置p12を入力デバイス22のマウス等によって直接ポイントアウトすることで、中央制御部23はポイントアウトされた位置を演算して、右瞳孔位置(X
R1、Y
R1)及び左瞳孔位置(X
L1、Y
L1)を電子的に特定するようにしても良い。
【0061】
コンピュータ20は、ルーペ2を通して被検者が作業操作箇所Pを凝視する際の右瞳孔位置(X
R1、Y
R1)及び左瞳孔位置(X
L1、Y
L1)を電子的に特定すると、処理装置42から送られてくる内側装着角度p1、p2及び下方装着角度r1、r2とに基づき製作する双眼ルーペ10の仕様を決定し、モニター部21に表示する。
【0062】
[キャリアレンズの製作]
キャリアレンズ5は、作業者の近視や遠視などの視力を調整するレンズであり、遠近両用の二重焦点レンズでも良い。なお、視力の調整が必要のない作業者には、素通しのレンズが使用される。
【0063】
キャリアレンズ5は、ルーペ2が取り付けられる前に、すなわち、被験者がフレーム1を選択したときに製作される。このとき、被験者が視力の調整が必要な場合、作業者の顔面にストロボ光を当てることによりレンズの焦点距離を測定することができる。
【0064】
この場合、中央制御部23はカメラ11を制御して、被験者の顔面にストロボ光を当てて撮影するのは、上記した瞳孔位置の特定のときと同じである。しかし、このとき被検者には、作業体勢ではなく自然体による立姿勢で作業操作箇所Pよりも上方の水平方向で遠方を見てもらい、フレーム1を着用した作業者の両眼にズームして、フレーム1の中心点Oに焦点距離を合わせる。そして、作業操作箇所Pにあるカメラ11は、コンピュータ20からの指示により、光学系14が捉えて撮像素子15により電気信号に変換された画像信号をコンピュータ20に出力する。コンピュータ20が、この画像をモニター部21の画面上に表示し、双眼ルーペの製作者は撮影画像の範囲や位置合わせ等の調整を入力デバイス22から指示することができ、コンピュータ20はこの調整指示の内容に従ってカメラ11を制御する。
【0065】
そして、カメラ11は、コンピュータ20から送られる撮像指令に応答して、ストロボ光照射装置13からストロボ光を照射させて撮影を行う。そして、カメラ11の撮像素子15は、光学系14からの撮影光を電気信号に変換して出力し、制御部12は、この撮像データを画像メモリ16に保存する。
【0066】
コンピュータ20の中央制御部23は、カメラ11の画像メモリ16に保存した撮像データを読み出してモニター部21に表示する。前述したように、ストロボ光にて撮影を行うと左右両眼の瞳孔位置は周辺の部分と比べて輝度が高くなり、モニター部21は
図13に示す画像を表示する。
【0067】
よって、中央制御部23は、フレーム1の中心点Oから左右側の予め設定された撮像データの領域内において各画素を走査し、輝度が予め設定された閾値を超える領域を検出する。そして、この閾値を超えている領域が所定範囲の面積を有して、且つその周辺領域よりも所定倍数以上の輝度を有する箇所の中心点p13、p14を求める演算処理を行うことで、作業者の右瞳孔位置(X
R2、Y
L2)及び左瞳孔位置(X
L2、Y
L2)を電子的に特定する。
【0068】
また画像処理の方法以外にも、上記したように、製作者がモニター部21の表示している画像から右の瞳孔位置p13及び左の瞳孔位置p14を入力デバイス22のマウス等によって直接ポイントアウトすることで、中央制御部23は右瞳孔位置(X
R2、Y
L2)及び左瞳孔位置(X
L2、Y
L2)を電子的に特定することもできる。
【0069】
そして、製作者は、被験者の右瞳孔位置(X
R2、Y
L2)及び左瞳孔位置(X
L2、Y
L2)に視力調整用レンズの中心が合うように左右のキャリアレンズ5を加工する。こうした作業者の視力調整が可能なキャリアレンズ5を有した双眼ルーペを使用すれば、作業時には作業者はルーペ2を通して作業箇所における精密部分を拡大して凝視することができ、作業体勢を解除して自然体のときはキャリアレンズ5を通して矯正された視界を確保できるために、作業の準備や周囲の人との作業についての打ち合わせ等において、その都度、双眼ルーペを外して眼鏡に掛け替える手間がなくなる。
【0070】
[キャリアレンズへのルーペの取り付け]
キャリアレンズ5が決まると、NC加工機(図示せず)に下方装着角度r1、r2及び内側装着角度p1、p2と、右瞳孔位置(X
R1、Y
R1)及び左瞳孔位置(X
L1、Y
L1)のデータを入力することで、NC加工機は切削加工のプログラムに従ってこれらのデータに基づきキャリアレンズ5の表面からルーペ2の挿入部分を刳り抜いて開口部を形成する。この場合、双眼ルーペ10の設計を支援するコンピュータ20を利用して、下方装着角度r1、r2及び内側装着角度p1、p2と、右瞳孔位置(X
R1、Y
R1)及び左瞳孔位置(X
L1、Y
L1)のデータをNC加工機に送信してもよい。また、コンピュータ20がNC加工機を直接制御して開口部を形成することもできる。
【0071】
そして、開口部の形成後、ルーペ2を開口部からキャリアレンズ5に挿入し、レーザー位置決め機(図示せず)によって、下方装着角度r1、r2及び内側装着角度p1、p2の調整を行い取付部3(
図1)によりルーペ2をキャリアレンズ5に固定する。ルーペ2は、作業操作箇所Pを拡大する固定倍率又は倍率を所定の範囲で可変可能なズーム機能を有するものを使用すれば、実用性の高い双眼ルーペとすることができる。
【0072】
取付部3は、ルーペ2を固定するアダプターと、キャリアレンズ5を挟んだ状態でこのアダプターを締め付けるリングとから成り、アダプターは、ルーペ2をキャリアレンズ5面に対して下方装着角度r1、r2及び内側装着角度p1、p2で保持して固定するように構成されている。また、ルーペ2をキャリアレンズ5に固定するには、ルーペ2を下方装着角度r1、r2及び内側装着角度p1、p2を維持した状態で開口部に嵌め込み接着材にて接着する方法がある。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、医療手術や精密作業の際に使用される双眼ルーペであって、キャリアレンズにルーペを取り付ける際に、作業者個々の特徴に応じた角度で取り付けることができる双眼ルーペの製作方法に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0074】
1 フレーム
2 ルーペ
5 キャリアレンズ
10 双眼ルーペ
11 カメラ(撮像装置)
13 視線方向検出装置
18 ストロボ光照射装置
35(35A、35B) アイカメラ
36(36A、36B) 赤外線発光ダイオード
P 作業操作箇所
p ルーペの内側装着角度
r ルーペの下方装着角度
【要約】 (修正有)
【課題】作業者個々の作業体勢に応じた角度にてキャリアレンズにルーペを取り付けることができる双眼ルーペの製作方法を提供する。
【解決手段】被検者が作業体勢を執って下方の作業操作箇所を凝視している状態において、被検者の左右の眼球に赤外線発光ダイオード36A及び36Bから赤外線を照射して、左右両眼からの反射光を一対のアイカメラ35A及び35Bによって撮像する。撮像した画像データを処理して両眼それぞれの視線方向を演算し、演算した視線方向から左右のキャリアレンズの面にそれぞれ装着するルーペの各内側装着角度及び下方装着角度を決定する。そして、下方装着角度と内側装着角度とに基づいて左右のキャリアレンズの面に開口を形成して、開口に左右のルーペを挿入して固定して双眼ルーペを製作する。
【選択図】
図8