特許第5652977号(P5652977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5652977
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20060101AFI20141218BHJP
【FI】
   H02P5/00 K
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-17961(P2014-17961)
(22)【出願日】2014年1月31日
【審査請求日】2014年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 悟史
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−166801(JP,A)
【文献】 特開平11−308900(JP,A)
【文献】 特開平9−294399(JP,A)
【文献】 特開2007−100819(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0272731(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0143443(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
G05B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
速度指令と速度フィードバックとの偏差を積分する速度積分制御器と、
前記偏差と積分した偏差とを入力してトルク指令を出力する速度比例制御器と、
前記トルク指令の大きさが設定された範囲を超えるとその大きさを設定された範囲に制限するとともに飽和検出を出力する第1トルク指令リミッタと、
前記第1トルク指令リミッタから出力されるトルク指令に含まれている機械系の共振に基づく変動及び量子化リップルを取り除くトルク指令フィルタと、
前記トルク指令フィルタを通過したトルク指令の大きさが設定された範囲を超えるとその大きさを設定された範囲に制限するとともに飽和検出を出力する第2トルク指令リミッタと、
位置指令の変化状態を監視し当該位置指令が変化しているときには前記第1トルク指令リミッタの飽和検出によって前記速度積分制御器による積分動作を停止させ、前記位置指令が変化していないときには前記第2トルク指令リミッタの飽和検出によって前記速度積分制御器による積分動作を停止させる停止条件判別器と、
を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
速度指令と速度フィードバックとの偏差を積分する速度積分制御器と、
積分した偏差と速度フィードバックとを入力してトルク指令を出力する速度比例制御器と、
前記トルク指令の大きさが設定された範囲を超えるとその大きさを設定された範囲に制限するとともに飽和検出を出力する第1トルク指令リミッタと、
前記第1トルク指令リミッタから出力されるトルク指令に含まれている機械系の共振に基づく変動及び量子化リップルを取り除くトルク指令フィルタと、
前記トルク指令フィルタを通過したトルク指令の大きさが設定された範囲を超えるとその大きさを設定された範囲に制限するとともに飽和検出を出力する第2トルク指令リミッタと、
位置指令の変化状態を監視し当該位置指令が変化しているときには前記第1トルク指令リミッタの飽和検出によって前記速度積分制御器による積分動作を停止させ、前記位置指令が変化していないときには前記第2トルク指令リミッタの飽和検出によって前記速度積分制御器による積分動作を停止させる停止条件判別器と、
を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
前記停止条件判別器は、前記位置指令が変化しているときと前記位置指令が変化していないときとで第1トルク指令リミッタと第2トルク指令リミッタとを選択的に切り替え、前記位置指令が変化しているときには前記第1トルク指令リミッタの飽和検出により停止条件を判別し、前記位置指令が変化していないときには前記第2トルク指令リミッタの飽和検出により停止条件を判別することを特徴とする請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記第2トルク指令リミッタを通過したトルク指令を用いてモータを駆動するトルク制御器をさらに有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記速度比例制御器は、前記第1トルク指令フィルタが飽和検出を出力したときには、前記モータの加減速時の速度のオーバーシュートを抑制するためのトルク指令を出力することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記速度比例制御器は、前記第2トルク指令フィルタが飽和検出を出力したときには、機械の可動部の押し当て動作後の過大なトルク出力を抑制すると共に、前記モータの発振時の位置ずれを抑制するためのトルク指令を出力することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記第1トルク指令リミッタと前記第2トルク指令リミッタに設定するトルク指令の大きさの範囲は、同一であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振時に位置ずれを起こすことなく位置決めができるモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ制御装置は、制御系内の操作量が飽和したときに、アンチワインドアップ処理を行って、速度積分制御器の出力値が過大になることを防止する。アンチワインドアップ処理は、フィードバックを用いる手法と速度積分制御器を停止させる手法との2つの手法に分けられる。
【0003】
図4は、フィードバックを用いてアンチワインドアップ処理をする従来のモータ制御装置の一例を示す図である。
【0004】
モータ制御装置30は、トルク指令リミッタ32の入力と出力の差分をフィードバック制御器34でフィードバックゲイン倍(K倍)して速度指令にフィードバックし、アンチワインドアップ処理をする(下記特許文献1の記載を参照)。
【0005】
しかし、モータ速度のオーバーシュートを抑制するためには、フィードバックゲイン出力器34に設定するフィードバックゲインKの値を速度比例制御器38に設定してある速度制御ゲインGの値に応じて適切に調整する必要がある。
【0006】
たとえば、フィードバックゲインKの値が速度制御ゲインGの値に対して大きめであると、制御系が発振するという問題を生じる。このため、速度制御ゲインGの値を任意に設定できるモータ制御装置では、速度積分制御器を停止させる手法を用いる。
【0007】
図5は、速度積分制御器を停止させてアンチワインドアップ処理をする従来のモータ制御装置の一例を示す図である。
【0008】
モータ制御装置40は、速度比例制御器48から出力されるトルク指令がトルク指令リミッタ42で制限をかけられると、制御系内の操作量の飽和を認識する。モータ制御装置40は、操作量の飽和を認識すると、停止条件判別器43によって速度積分制御器44の積分動作を停止させる。
【0009】
速度積分制御器44の積分動作が停止すると、過大な積分動作が抑制される。このアンチワインドアップ処理により、モータ45の加減速時の速度のオーバーシュート及び機械49の可動部の押し当て動作後における過大なトルクの出力が抑制できる。
【0010】
工作機械では、モータのシャフトにカップリングを介してボールネジを接続し、ボールネジを用いてテーブルを往復移動させることがある。このような工作機械で用いられるモータ制御装置は、図6に示すように、速度制御を比例積分制御によって行い、位置制御を比例制御によって行う。
【0011】
図6は、速度積分制御器を停止させてアンチワインドアップ処理をする従来の他のモータ制御装置の一例を示す図である。
【0012】
モータ制御装置50は、ローパスフィルタ及びノッチフィルタにより構成されるトルク指令フィルタ51をトルク指令リミッタ52とトルク制御器56との間に挿入している。
トルク指令フィルタ51のローパスフィルタによりトルク指令に含まれるエンコーダの量子化リップルが抑制され、トルク指令フィルタ51のノッチフィルタによりカップリングやボールネジに起因する機械共振が抑制される。
【0013】
モータ制御装置50は、速度積分制御器54により機械系の摩擦の影響を抑制し、位置指令通りの位置でモータ55を位置決めさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−166801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、このような従来のモータ制御装置50では、機械のばらつきが大きい場合、機械系の共振周波数と制御系のノッチフィルタに設定した周波数との間にずれが生じることがある。そのずれが生じたときには、トルク指令が、発振により、トルク指令リミッタ51の制限値内で変動する。
【0016】
発振によりトルク指令が変動すると、アンチワインドアップ処理が働き、速度積分制御器54を停止させてしまう。速度積分制御器54が停止すると、機械系の摩擦の影響を抑制することができなくなり、位置指令通りの位置でモータ55を位置決めさせることができなくなる。
【0017】
図7は、図6のモータ制御装置50において発振によりトルク指令が変動したときの諸量のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0018】
位置制御器に台形波状の位置指令が入力され、エンコーダEからは検出されたモータ位置が出力される。トルク指令リミッタ52によりトルク指令の飽和が検出されると(飽和検出)、速度積分制御器54が停止し、位置偏差の平均が0に収束せずに位置ずれを生ずる。これは、図に示すように、位置偏差の振動が0を中心に起きているのではなく、上振れした状態で起きていることから読み取れる。
【0019】
つまり、発振によりトルク指令が変動すると、位置偏差の平均値が0に収束せず、位置ずれが生じる。位置ずれが大きくなると、機械を破損させる要因となるため、位置ずれはできるだけ抑制させる必要がある。
【0020】
本発明は、以上のような従来のモータ制御装置の問題を解消するために成されたものであり、モータの加減速時の速度のオーバーシュート及び可動部の押し当て動作後の過大なトルクの出力が抑制でき、位置ずれを起こすことなく位置決めができる、アンチワインドアップ処理を行う機能を備えたモータ制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係るモータ制御装置は、速度積分制御器、速度比例制御器、第1トルク指令リミッタ、トルク指令フィルタ、第2トルク指令リミッタ及び停止条件判別器を有する。
【0022】
速度積分制御器は、速度指令と速度フィードバックとの偏差を積分する。速度比例制御器は、偏差と積分した偏差とを入力してトルク指令を出力する。第1トルク指令リミッタは、トルク指令の大きさが設定された範囲を超えるとその大きさを設定された範囲に制限するとともに飽和検出を出力する。トルク指令フィルタは、第1トルク指令リミッタから出力されるトルク指令に含まれている機械系の共振に基づく変動及び量子化リップルを取り除く。第2トルク指令リミッタは、トルク指令フィルタを通過したトルク指令の大きさが設定された範囲を超えるとその大きさを設定された範囲に制限するとともに飽和検出を出力する。停止条件判別器は、位置指令の変化状態を監視し当該位置指令が変化しているときには前記第1トルク指令リミッタの飽和検出によって前記速度積分制御器による積分動作を停止させ、前記位置指令が変化していないときには前記第2トルク指令リミッタの飽和検出によって前記速度積分制御器による積分動作を停止させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るモータ制御装置によれば、位置指令の変化状態により、トルク指令フィルタの前段に設けた第1トルク指令リミッタの飽和検出またはその後段に設けた第2トルク指令リミッタの飽和検出を選択的に用いるようにしたので、モータの加減速時の速度のオーバーシュート及び過大なトルクの出力が抑制でき、位置ずれを起こすことなく位置決めができる。このため、制御系内の操作量が飽和したとしても機械の破損を防止でき、モータ制御装置の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態1に係るモータ制御装置の構成図である。
図2】実施形態2に係る他のモータ制御装置の構成図である。
図3】実施形態1に係るモータ制御装置においてトルク指令が変動したときの諸量のシミュレーション結果を示すグラフである。
図4】フィードバックを用いてアンチワインドアップ処理をする従来のモータ制御装置の一例を示す図である。
図5】速度積分制御器を停止させてアンチワインドアップ処理をする従来のモータ制御装置の一例を示す図である。
図6】速度積分制御器を停止させてアンチワインドアップ処理をする従来の他のモータ制御装置の一例を示す図である。
図7図6のモータ制御装置において発振によりトルク指令が変動したときの諸量のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係るモータ制御装置の実施形態を[実施形態1]と[実施形態2]に分けて説明する。
【0026】
[実施形態1]
(モータ制御装置100の構成)
図1は、実施形態1に係るモータ制御装置の構成図である。モータ制御装置100は、位置制御器120、速度算出器130、速度積分制御器140、速度比例制御器150、第1トルク指令リミッタ160、トルク指令フィルタ170、第2トルク指令リミッタ180、停止条件判別器190及びトルク制御器200を有する。
【0027】
位置制御器120は、位置指令とモータ位置の偏差を入力し速度指令を出力する。
【0028】
速度算出器130は、モータ位置を入力し速度フィードバックを出力する。
【0029】
速度積分制御器140は、速度指令と速度フィードバックとの偏差を入力し、入力した偏差を積分して出力する。
【0030】
速度比例制御器150は、速度指令と速度フィードバックとの偏差と、この偏差を速度積分制御器140で積分したものとを加算して入力し、加算したものを増幅してトルク指令を出力する。
【0031】
第1トルク指令リミッタ160は、入力したトルク指令の飽和検出を行って、トルク指令が飽和したら停止条件判別器190にその旨を通知する。
【0032】
トルク指令フィルタ170は、第1トルク指令リミッタ160を通過したトルク指令にフィルタをかけ第2トルク指令リミッタ180に出力する。
【0033】
第2トルク指令リミッタ180は、トルク指令フィルタ170を通過したトルク指令の飽和検出を行って、トルク指令が飽和したら停止条件判別器190にその旨を通知する。
【0034】
停止条件判別器190は、位置指令を入力し、位置指令の変化状態を監視する。入力されている位置指令が変化しているときには、移動のモータ制御時であると判別し、第1トルク指令リミッタ160の飽和検出によって、速度積分制御器140の積分動作を停止させる。移動のモータ制御時であると判別されているときには、第2トルク指令リミッタ180の飽和検出があっても受け付けない。
【0035】
また、停止条件判別部190は、入力されている位置指令が一定時間変化していないときには、停止のモータ制御時であると判別し、第2トルク指令リミッタ180の飽和検出によって、速度積分制御器140の積分動作を停止させる。停止のモータ制御時であると判別されているときには、第1トルク指令リミッタ160の飽和検出があっても受け付けない。つまり、停止条件判別器190は、位置指令が変化しているときと位置指令が変化していないときとで第1トルク指令リミッタ160と第2トルク指令リミッタ180とを選択的に切り替る。
【0036】
トルク制御器200は、第1トルク指令リミッタ160、トルク指令フィルタ170及び第2トルク指令リミッタ180を通過したトルク指令を入力してモータ210の動作を制御する。
【0037】
モータ210は機械220を駆動する。モータ210の回転位置はエンコーダ110によって検出される。エンコーダ110は、検出したモータ210の回転位置をモータ位置として出力する。
【0038】
(モータ制御装置100の動作)
<全体的な動作>
まず、位置指令とエンコーダ110が検出したモータ210のモータ位置とは、加算点151で減算され、減算後の偏差が位置制御器120に入力される。位置制御器120は入力した偏差から速度指令を出力する。モータ位置は速度算出器130にも入力され、速度算出器130は入力したモータ位置から速度フィードバックを出力する。
【0039】
位置制御器120が出力した速度指令と速度算出器130が出力した速度フィードバックとは、加算点152で減算され、減算後の偏差が速度積分制御器140で積分される。加算点152で減算された偏差と速度積分制御器140で積分された偏差とは、加算点153で加算され、速度比例制御器150に入力される。入力された偏差は、速度比例制御器150に設定されているゲインで増幅され、速度比例制御器150からはトルク指令が出力される。
【0040】
速度比例制御器150から出力されたトルク指令は、第1トルク指令リミッタ160によって、その大きさが設定された範囲に制限される。トルク指令の大きさが設定された範囲に制限されると、第1トルク指令リミッタ160は、飽和検出を停止条件判別器190に出力する。
【0041】
トルク指令フィルタ170は、機械220を含む機械系の共振及びエンコーダ110の量子化リップルを抑制するためのフィルタを有している。このため、第1トルク指令リミッタ160を通過したトルク指令に、機械系の共振に基づく変動が含まれていても、この変動は取り除かれる。また、そのトルク指令に量子化リップルが含まれていても、この量子化リップルは取り除かれる。トルク指令に機械系の共振に基づく変動または量子化リップルが含まれている場合には、第1トルク指令リミッタ160を通過した後のトルク指令の大きさよりもトルク指令フィルタ170から出力されるトルク指令の大きさの方が小さくなる。
【0042】
トルク指令フィルタ170によって機械系の共振に基づく変動または量子化リップルが取り除かれたトルク指令は、第2トルク指令リミッタ180によって、その大きさが設定された範囲に制限される。トルク指令の大きさが設定された範囲を超えると、第2トルク指令リミッタ180は、飽和検出を停止条件判別器190に出力する。第2トルク指令リミッタのリミット値は第1トルク指令リミッタのリミット値と同じ値にする。
【0043】
第2トルク指令リミッタ180を通過したトルク指令はトルク指令制御器200に入力され、トルク制御器200によってモータ210が駆動される。モータ210によって機械220が駆動される。
<移動のモータ制御時の動作>
移動のモータ制御時であるか否かは停止条件判別器190が判別する。停止条件判別器190は、位置指令の大きさが変化しているときには移動のモータ制御時と判別する。したがって、移動のモータ制御時は、モータ210が位置指令に従って回転している。
【0044】
移動のモータ制御時は、モータ制御装置100が上述した<全体的な動作>にしたがってモータ210の回転を制御している。このときに、速度比例制御器150から第1トルク指令リミッタ160の設定値を超える大きさのトルク指令が出力されると、第1トルク指令リミッタ160は、そのトルク指令の大きさを設定値に制限してトルク指令フィルタ170に出力するとともに、飽和検出を停止条件判別器190に出力する。
【0045】
停止条件判別器190は、第1トルク指令リミッタ160から出力される飽和検出により停止条件を判別し、速度積分制御器140の積分動作を停止させる。
【0046】
このため、トルク指令が第1トルク指令リミッタを超えるような値まで積分器の大きさが大きくなりすぎることはなく、モータ210の加減速時の速度のオーバーシュートは抑制される。
<停止のモータ制御時の動作>
停止のモータ制御時であるか否かは停止条件判別器190が判別する。停止条件判別器190は、位置指令の大きさが一定時間変化していないときには停止のモータ制御時と判別する。したがって、停止のモータ制御時は、モータ210が位置決めにより停止している。
【0047】
停止条件判別器190が停止のモータ制御時を判別したときには、停止条件判別器190は、第1トルク指令リミッタ160に代えて、第2トルク指令リミッタ180が出力する飽和検出により停止条件を判別し、速度積分制御器140を停止させる。
【0048】
停止のモータ制御時は、モータ制御装置100が上述した<全体的な動作>にしたがってモータ210を動作させている。このときに、トルク指令フィルタ170から第2トルク指令リミッタ180の設定値を超える大きさのトルク指令が出力されると、第2トルク指令リミッタ180は、そのトルク指令の大きさを設定値に制限してトルク制御器200に出力するとともに、飽和検出を停止条件判別器190に出力する。
【0049】
停止条件判別器190は、第2トルク指令リミッタ180から出力される飽和検出を受けて、速度積分制御器140の積分動作を停止させる。
【0050】
このため、モータ210の停止時(たとえば機械220の可動部の押し当て動作)に、速度偏差があっても、速度積分制御器140の値は第2トルク指令リミッタ180が飽和する値以上になることはなく、過大なトルクの出力が抑制できる。
【0051】
また、上述のように、第1トルク指令リミッタ160の後段には、トルク指令フィルタ170を設けているので、第1トルク指令リミッタ160を通過したトルク指令に、機械系の共振に基づく変動及び量子化リップルが含まれていても、この変動や量子化リップルは取り除かれる。
【0052】
機械系の共振周波数がノッチフィルタの設定周波数から少しずれて発振していたとしても、ノッチフィルタの減衰帯域内であれば、発振成分に対するある程度の減衰は行われ、またローパスフィルタによる減衰もあるため、第1トルク指令リミッタ160が飽和しても、第2トルク指令リミッタ180は飽和までには至らず、速度積分制御器140は停止されないため、摩擦の補償が行われ、モータ位置に位置ずれが生じることはない。
【0053】
さらに、押し当て時などの一定のトルク指令の飽和に対しては、トルク指令フィルタ170によるフィルタリング効果は働かないため、第1トルク指令リミッタ160出力の信号が減衰されることなく第2トルク指令リミッタに出力され、第2トルク指令リミッタ180による飽和検出は第1トルク指令リミッタ160による検出と同じレベルで検出され、速度積分制御器140の停止が適切に行われる。これにより、速度積分制御器140の停止動作が行われなかった場合に、速度積分器の値が過大になり、押し当て後の通常の動作を行う時に、過大な速度積分器の値が出力されてモータが暴走するのを防ぐことができる。
【0054】
なお、トルク指令フィルタ170として、オーバーシュートするような特性のフィルタを用いる場合には、通常のモータ制御時に、第1トルク指令リミッタ160と第2トルク指令リミッタ180の両方による飽和検出を行い、第1トルク指令リミッタ160と第2トルク指令リミッタ180のどちらかが飽和検出をしたら、速度積分制御器140の積分動作を停止させる。
【0055】
そして、位置指令が一定時間変化しない場合には、第2トルク指令リミッタ180のみによって飽和検出を行い、トルク指令フィルタ170を通過したトルク指令に対して飽和検出をするようにしても良い。
【0056】
[実施形態2]
(モータ制御装置300の構成)
図2は、実施形態2に係る他のモータ制御装置の構成図である。モータ制御装置300は、IP制御を用いており、備えている構成要素は図1に示したモータ制御装置100と同一である。したがって、図1と同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0057】
モータ制御装置300がモータ制御装置100と異なるのは、加算点152と加算点153とを直接接続する、速度積分器140のパイパスラインがないことと、加算点153に、速度フィードバックがフィードバックされていることである。
【0058】
(モータ制御装置300の動作)
<全体的な動作>
まず、位置指令とエンコーダ110が検出したモータ210のモータ位置とは、加算点151で減算され、減算後の偏差が位置制御器120に入力される。位置制御器120は入力した偏差から速度指令を出力する。モータ位置は速度算出器130にも入力され、速度算出器130は入力したモータ位置から速度フィードバックを出力する。
【0059】
位置制御器120が出力した速度指令と速度算出器130が出力した速度フィードバックとは、加算点152で減算され、減算後の偏差が速度積分制御器140で積分される。速度積分制御器140で積分された偏差と速度フィードバックとは、加算点153で減算され、速度比例制御器150に入力される。積分された偏差と速度フィードバックとの偏差は、速度比例制御器150に設定されているゲインで増幅され、速度比例制御器150からはトルク指令が出力される。
【0060】
速度比例制御器150から出力されたトルク指令は、第1トルク指令リミッタ160によって、その大きさが設定された範囲に制限される。トルク指令の大きさが設定された範囲に制限されると、第1トルク指令リミッタ160は、飽和検出を停止条件判別器190に出力する。
【0061】
トルク指令フィルタ170は、機械220を含む機械系の共振及びエンコーダ110の量子化リップルを抑制するためのフィルタを有している。このため、第1トルク指令リミッタ160を通過したトルク指令に、機械系の共振に基づく変動が含まれていても、この変動は取り除かれる。また、そのトルク指令に量子化リップルが含まれていても、この量子化リップルは取り除かれる。トルク指令に機械系の共振に基づく変動または量子化リップルが含まれている場合には、第1トルク指令リミッタ160を通過した後のトルク指令の大きさよりもトルク指令フィルタ170から出力されるトルク指令の大きさの方が小さくなる。
【0062】
トルク指令フィルタ170によって機械系の共振に基づく変動または量子化リップルが取り除かれたトルク指令は、第2トルク指令リミッタ180によって、その大きさが設定された範囲に制限される。トルク指令の大きさが設定された範囲を超えると、第2トルク指令リミッタ180は、飽和検出を停止条件判別器190に出力する。第2トルク指令リミッタのリミット値は第1トルク指令リミッタのリミット値と同じ値にする。
【0063】
第2トルク指令リミッタ180を通過したトルク指令はトルク制御器200に入力され、トルク制御器200によってモータ210が駆動される。モータ210によって機械220が駆動される。
<移動のモータ制御時の動作>
移動のモータ制御時であるか否かは停止条件判別器190が判別する。停止条件判別器190は、位置指令の大きさが変化しているときには移動のモータ制御時と判別する。したがって、移動のモータ制御時は、モータ210が位置指令に従って回転している。
【0064】
移動のモータ制御時は、モータ制御装置100が上述した<全体的な動作>にしたがってモータ210の回転を制御している。このときに、速度比例制御器150から第1トルク指令リミッタ160の設定値を超える大きさのトルク指令が出力されると、第1トルク指令リミッタ160は、そのトルク指令の大きさを設定値に制限してトルク指令フィルタ170に出力するとともに、飽和検出を停止条件判別器190に出力する。
【0065】
停止条件判別器190は、第1トルク指令リミッタ160から出力される飽和検出により停止条件を判別し、速度積分制御器140の積分動作を停止させる。
【0066】
このため、積分器の大きさが大きくなりすぎることはなく、モータ210の加減速時の速度のオーバーシュートは抑制される。
<停止のモータ制御時の動作>
停止のモータ制御時であるか否かは停止条件判別器190が判別する。停止条件判別器190は、位置指令の大きさが一定時間変化していないときには停止のモータ制御時と判別する。したがって、停止のモータ制御時は、モータ210が位置決めにより停止している。
【0067】
停止条件判別器190が停止のモータ制御時を判別したときには、停止条件判別器190は、第1トルク指令リミッタ160に代えて、第2トルク指令リミッタ180が出力する飽和検出により停止条件を判別し、速度積分制御器140を停止させる。
【0068】
停止のモータ制御時は、モータ制御装置100が上述した<全体的な動作>にしたがってモータ210を動作させている。このときに、トルク指令フィルタ170から第2トルク指令リミッタ180の設定値を超える大きさのトルク指令が出力されると、第2トルク指令リミッタ180は、そのトルク指令の大きさを設定値に制限してトルク制御器200に出力するとともに、飽和検出を停止条件判別器190に出力する。
【0069】
停止条件判別器190は、第2トルク指令リミッタ180から出力される飽和検出を受けて、速度積分制御器140の積分動作を停止させる。
【0070】
このため、モータ210の停止時(たとえば機械220の可動部の押し当て動作)に、速度偏差があっても、速度積分制御器140の値は第2トルク指令リミッタ180が飽和する値以上になることはなく、過大なトルクの出力が抑制できる。
【0071】
速度制御器の構成は、実施形態1及び実施形態2とは異なり、速度積分制御器140と速度比例制御器150を並列に接続する構成など、積分制御器と比例制御器とを含む構成であれば本実施形態と同様に適用することができる。また、積分器停止条件成立時に、速度積分制御器140の値を増加させる方向の速度偏差の場合にのみ、積分動作を停止させるようにして、速度積分制御器140の値を減少させる方向の速度偏差の場合には積分動作を停止しないようにしても良い。
【0072】
図3は、実施形態1に係るモータ制御装置100においてトルク指令が変動したときの諸量のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0073】
位置制御器120に台形波状の位置指令が入力され、エンコーダ110からは検出されたモータ位置が出力される。第1トルク指令リミッタ160によりトルク指令の飽和が検出されても、停止条件判別器190による速度積分制御器140の停止動作が行われないため、位置偏差の平均値は時間が経過しても0のままである。
【0074】
実施形態1では、発振によりトルク指令が変動しても、図3に示すように、位置偏差の平均値を0に収束させる(位置偏差の振動が0を中心に起きている)ことができる。このため、摩擦の補償が行われ、モータ位置に位置ずれが生じることはない。
【0075】
なお、実施形態2に係るモータ制御装置300も、実施形態1に係るモータ制御装置100と同様の効果を奏することができる。
【0076】
以上のように、本発明に係るモータ制御装置では、位置指令の変化量が0になり、モータが停止した後に、トルク指令フィルタの前段ではなく後段において飽和検出をするようにした。これにより、モータ加減速時の速度のオーバーシュートや、機械の可動部の押し当て動作後の過大なトルク出力の抑制と共に、モータの発振時の位置ずれも防止できるようになり、機械の破損を防止し、より信頼性の高いモータ制御装置を提供できる。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0078】
30、40、50、100、300 モータ制御装置、
32、42、52 トルク指令リミッタ、
34 フィードバックゲイン出力器、
35、45、55、210 モータ、
36、46、56、200 トルク制御器、
38、48、150 速度比例制御器、
43 停止条件判別器、
44、140 速度積分制御器、
49、220 機械、
51、170 トルク指令フィルタ、
54 速度積分制御器、
110 エンコーダ、
120 位置制御器、
130 速度算出器、
151、152、153 加算点、
160 第1トルク指令リミッタ、
180 第2トルク指令リミッタ、
190 停止条件判別器。
【要約】
【課題】モータの加減速時の速度のオーバーシュート及び過大なトルクの出力が抑制でき、位置ずれを起こすことなく位置決めできるようにする。
【解決手段】トルク指令の大きさが設定された範囲を超えるとその大きさを設定された範囲に制限するとともに飽和検出を出力する第1トルク指令リミッタ160及び第2トルク指令リミッタ180を有し、停止条件判別器190は、位置指令の変化状態を監視し当該位置指令が変化しているときには第1トルク指令リミッタ160の飽和検出によって速度積分制御器140による積分動作を停止させ、位置指令が変化していないときには第2トルク指令リミッタ180の飽和検出によって速度積分制御器140による積分動作を停止させる。
【選択図】図1
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図7