【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
以下の実験で用いたインフルエンザウイルスは、以下のように調製した。
10日目の発育鶏卵の漿尿腔にウイルスを接種し、34℃で2日間培養し、さらに4℃で一晩放置後、ウイルスを含む漿尿液を得た。この漿尿液を4℃、3000rpm(日立SCR20B遠心機,RPR9ローター)で細胞片を除去後、上清を4℃、8500rpm(日立SCR20B遠心機,RPR9ローター)で3時間遠心分離した。上清を除去して得られたペレットをリン酸緩衝液(131mM NaCl,14mM Na
2HPO
4,1.5mM KH
2PO
4,2.7mM KClをpH7.2で含む。以下、該リン酸緩衝液を「PBS」と記載する場合がある。)で懸濁して濃縮ウイルスを得た。この濃縮ウイルスを50%(v/v)グリセロール−PBS溶液に重層したショ糖密度勾配遠心法により、4℃、38000rpm(日立CP65B超遠心機,P40STローター)で2時間遠心して、ウイルスのバンドを分離した。分離して得られた精製ウイルスを以下の実験で用いた。
精製濃縮したウイルスは、HSFM(場合により、ストリクチニン等を含んでもよい)に懸濁させて以下用いた。
ヒトインフルエンザウイルス株として、A/Memphis/1/71(H3N2)、A/Aichi/2/68(H3N2)、A/Shizuoka/838/2009(H1N1)、A/Puerto Rico/8/34(H1N1)(以下、「A/PR/8/34」と記載する場合がある。)を使用した。トリインフルエンザウイルス株として、A/duck/313/4/78(H5N3)を、豚インフルエンザウイルス株として、A/swine/Hokkaido/10/85を使用した。
【0028】
赤血球凝集活性(HAU)の測定は以下のとおりに行った。
マイクロプレート(Falcon 3911 Test3TM Flexible Assay Plate)にPBS(50μL)を加え精製ウイルスを倍々希釈した。0.5%(v/v)モルモット赤血球−PBS懸濁液(50μL)を加え、30秒間振とう後、4℃で2時間静置して凝集像を観察した。赤血球凝集活性(HAU)は赤血球の凝集が認められた最高希釈倍数で表した。
【0029】
(1−1.抗インフルエンザウイルス活性)
ストリクチニンのA型インフルエンザウイルスに対する抗インフルエンザウイルス活性を、以下のプロトコール1〜4の方法に従って反応させて、感染細胞からの上清中のウイルス感染価をfocus−formingアッセイにより測定した。プロトコール1〜4の詳細を、
図2及び以下に示す。
Madin−Darby canine kidney(MDCK)細胞(国立遺伝学研究所より分与されたものを用いた。)を5%(v/v)の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS:Fetal bovine serum)(バイオロジカルインダストリー)及び50μg/mLのゲンタマイシン(Gibco)を添加した最小必須培地(MEM:ニッスイ製薬)で培養した。
【0030】
プロトコール1では、96wellマイクロプレートに、培養したMDCK細胞を約1.5×10
4細胞/wellで加え、37℃で、12時間培養して、該細胞をプレートに接着させた。PBSを加え、上清を除去することにより3回洗浄を行った。洗浄後、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
様々な濃度(0−50μM)のストリクチニン(長良サイエンス)を含有するHSFM(Hybridoma−SFM complete DPM,インビトロジェン)とウイルスの混合液(100μL/well)を、氷浴で1時間、MDCK細胞と反応させた。未吸着のウイルスを除くために、HSFM(100μL/well)でMDCK細胞を3回以上洗浄した。そして、0−50μMの同濃度のストリクチニンを含有するHSFM(100μL/well)を加え、37℃で1時間反応させた。その後、MDCK細胞は、HSFMで同様に洗浄し、次いで、0−50μMの同濃度のストリクチニンを含有するHSFM(100μL/well)と37℃で12時間反応させた。
【0031】
プロトコール2では、96wellマイクロプレートに培養したMDCK細胞を約1.5×10
4細胞/wellで加え、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
様々な濃度(0−50μM)のストリクチニンを含有するHSFMとウイルスの混合液を加え、ウイルス吸着のために、氷浴で1時間、MDCK細胞と反応させた。未吸着のウイルスを除くために、HSFM(100μL/well)でMDCK細胞を3回以上洗浄した。そして、プロトコール1での0μMのストリクチニンの場合と同様に(ストリクチンンを含有しない、HSFMで)、37℃で1時間、次いで、洗浄後、37℃で12時間反応させた。
【0032】
プロトコール3では、96wellマイクロプレートに培養したMDCK細胞を約1.5×10
4細胞/wellで加え、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
ストリクチンンを含有しない、HSFMとウイルスの混合液(100μL)を、氷浴で1時間、MDCK細胞と反応させた。未吸着のウイルスを除くために、HSFM(100μL/well)でMDCK細胞を3回以上洗浄した。そして、様々な濃度(0−50μM)のストリクチニンを含有するHSFM(100μL/well)を加え、ウイルス取り込みのために、37℃で1時間反応させた。その後、MDCK細胞は、HSFM(100μL/well)で同様に洗浄し、次いで、ストリクチンンを含有しない、HSFM(100μL/well)と37℃で12時間反応させた。
【0033】
プロトコール4では、12wellプレートに培養したMDCK細胞を約1.5×10
4細胞/wellで加え、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
ストリクチニンを含有しない、HSFMとウイルスの混合液(100μL/well)を、氷浴で1時間、MDCK細胞と反応させた。未吸着のウイルスを除くために、HSFM(100μL/well)でMDCK細胞を3回以上洗浄した。そして、ストリクチンンを含有しない、HSFM(100μL/well)と37℃で1時間、反応させた。その後、MDCK細胞は、HSFM(100μL/well)で同様に洗浄し、次いで、様々な濃度(0−50μM)のストリクチニンを含有するHSFM(100μL/well)を加え、ウイルス複製のために、37℃で12時間反応させた。
【0034】
focus−formingアッセイは、Biol.Pharm.Bull.,2009,32,1188−1192の方法により、.以下のように行った。
ウイルスと反応させたMDCK細胞を30秒間、氷冷メタノールで固定化し、メタノールを除去後、PBSで4倍に希釈した抗NPモノクローナル抗体溶液(MAb J.Virol.,2008,82,5940−5950に記載の方法により、マウスにインフルエンザウイルスを免疫し、脾臓細胞を採取し、一般的な方法でハイブリドーマを作製し、MAbを得た。)と30分間反応した。次いで、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)結合抗ウサギIgG(ジャクソン・イムノ・リサーチ、PBSで3000倍希釈した。)を加え、室温で30分間培養した。ウイルス感染した細胞を、DEPDA発色液(1.2mM N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン二塩酸塩、0.003% 過酸化水素、2mM 4−クロロ−1−ナフトールを含む100mM クエン酸緩衝液(pH6.0))を50μL添加して検出した。全ての画像は、OLYMPUS SZX7を用いて、拡大倍率12倍で、フォトショップソフトウェアを用いてウイルス感染細胞をカウントした。
【0035】
プロトコール1−3でのウイルス価の測定結果(n数=3)を、
図3に示す。
【0036】
EGCG(長良サイエンス)とストリクチニンを用いてプロトコール1の方法と同様に培養を行って、抗インフルエンザウイスル活性を測定した。
プロトコール1での、ストリクチニン、EGCGの測定結果(n数=3)を
図4に示す。
【0037】
プロトコール1に従い、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)に代えて他のインフルエンザウイルスを用いて測定したストリクチニンの阻害活性を表1に示す。また、ストリクチニンに代えて、EGCG、アマンタジンについても同様にの抗インフルエンザウイルス活性を測定した。その結果を表1に示す。測定はそれぞれ3回行った。
【0038】
【表1】
【0039】
(1−2.抗インフルエンザウイルス活性)
ストリクチニンのA型インフルエンザウイルスに対する抗インフルエンザウイルス活性をvero細胞を用いて、focus−formingアッセイにより測定した。
vero細胞(理化学研究所バイオリソースセンターから入手したものを用いた)を5%(v/v)の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS:Fetal bovine serum)(バイオロジカルインダストリー)及び50μg/mLのゲンタマイシン(Gibco)を添加したMEM培地(ニッスイ製薬)で培養した。
12wellプレートに、培養したvero細胞を約1.5×10
5細胞/wellで加え、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
vero細胞は、ウイルスと共に、様々な濃度(0−50μM)のストリクチニンを含有するHSFMと37℃で48時間反応させた。
ウイルス感染した細胞を、focus−formingアッセイにより測定した。測定結果を
図5に示す。測定はそれぞれ2回行った。
【0040】
(1−3.抗インフルエンザウイルス活性)
ストリクチニンのB型インフルエンザウイルスに対する抗インフルエンザウイルス活性をfocus−formingアッセイにより測定した。
12wellプレートに培養したMDCK細胞を約1.0×10
5細胞/wellで加え、B型株(B/Lee/40)を0.001FFU/細胞で反応させた。
MDCK細胞は、ウイルスを含むプレ培養混合物と共に、様々な濃度(0−30μM)のストリクチニンと34℃で1時間反応させた。HSFMでMDCK細胞を洗浄した。そして、0−30μMの同濃度のストリクチニン、1.2%のアビセル(FMC Corporation,USA)、2μg/mLのアセチル化トリプシンを含有するHSFMで34℃で48時間培養した。
ウイルス感染した細胞を、focus−formingアッセイにより測定した。測定結果(n数=3)を
図6に示す。
【0041】
ストリクチニンのMDCK細胞に対する細胞障害性は、死細胞から放出されるラクトースデヒドロゲナーゼ活性を測定することにより測定した。
ストリクチニンは、0−200μMの用量範囲でMDCK細胞に対して、細胞障害性を示さなかった。
【0042】
上記実験により、緑茶成分である、エピガロカテキンガレートや、エラジタンニンの1種であるストリクチニンが抗インフルエンザウイルス阻害活性を有することが分かった。また、ストリクチニンは、細胞へのウイルス感染時に添加することにより、A型インフルエンザウイルスの複製を用量依存的に阻害することが分かった。また、ストリクチニンは、インフルエンザウイルス細胞への付着・侵入時の感染初期の段階を阻害すると考えられ、斯かる阻害作用によりストリクチニンは従来にない強力な阻害活性を有するものである。また、ストリクチニンを用いて該作用を利用した抗インフルエンザウイルス阻害作用を有する化合物のスクリーニングにおいても用いることができる。また、ストリクチニンは、B型インフルエンザウイルスに対しても阻害活性を有することが確認された。ストリクチニン及びエピガロカテキンガレートなどの緑茶成分は、表1に示されているように、広範な亜型のインフルエンザウイルスに対しても阻害活性を有するので、高病原性トリインフルエンザのH5N1型ウイルスや、ブタインフルエンザのH1N1型ウイルス等に対しても阻害活性を有すると考えられる。また、A型、B型、C型のいずれの型に対してもインフルエンザの阻害活性を有するものであり、かつ、感染初期の段階を阻害する作用メカニズムから、インフルエンザ予防剤として有効である。
また、本実施例により、緑茶がインフルエンザの予防に有効であることが示唆される。