【実施例】
【0032】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)チキンハムの製造:アルギニン添加による接着力向上の確認
以下の手順に従いアルギニンを添加したチキンハム(アルギニン区:Aと標記)を製造し、接着性を評価した。比較として、アルギニンを添加していないチキンハム(無添加区:Nと標記)と、アルギニンを入れずにリン酸塩製剤を添加したチキンハム(リン酸塩区:Pと標記)を製造し、同様に接着性を評価した。なお、リン酸塩は、接着性ではなく結着性を付与するものとして知られている添加剤である。
【0034】
5cm程度に細切した小肉塊からなる鶏ムネ肉1,000gに、表1に示す配合のピックル液を200g添加した。添加後の食塩濃度は1.5%、アルギニン区でのアルギニン濃度は0.7%であった。これを3時間タンブリングし、2日間熟成した。これを直径10cmのセルロースケーシングに充填し、結さく後にスモークハウス内で60℃1時間の乾燥を行い、さらに75℃で15分間燻煙した後、結さくされた肉塊の中心部の温度が63℃以上で30分間維持されるまで80℃で蒸気加熱を行った。これによりチキンハムを得た。得られたチキンハムについて接着性を評価した。表1中、単位はgである。
【0035】
リン酸塩としてはオルガノフードテック(株)社製リン酸塩製剤を使用し、アルギニンとしてはL−アルギニンを使用した。
【0036】
【表1】
(接着性の評価方法)
接着性の測定には山電社製クリープメーターRE2−33005Bを使用し、小肉塊の間を引き離す時に必要な荷重値の測定を行った。測定時のサンプルの形状は幅2cm、高さ3cm、厚さ5mmとし、小肉塊同士の接着面が中央になるようにセットした。接着面の両端に5mmの切り込みを入れ、はがれる面が接着面になるように調整した。プランジャーでサンプルの上下を5mm程度挟み、引っ張り速度を1cm/minとし、等速で上下から引っ張った。最大荷重値が高いほど、小肉塊間の接着力が強く、小肉塊同士がまとまっていて好ましい状態であることを意味する。結果を
図1に示す。
図1中、Nは無添加区、Pはリン酸塩区、Aはアルギニン区を示す。
【0037】
(接着性の結果評価)
無添加区とリン酸塩区では最大荷重値が小さく、小肉塊同士の接着面は簡単に引き離され、接着力は非常に小さいものであった。一方、アルギニン区では最大荷重値が極めて大きく、接着面を引き離すのに強い力が必要であり、接着力が非常に大きいものであった。
【0038】
(外観評価)
チキンハムをスライスし、その断面の外観を比較した。
【0039】
無添加区とリン酸塩区ではチキンハムをスライスした時点で小肉塊同士が分離してしまうか、又は、接着力が弱く小肉塊同士が簡単に分離する傾向があった。そのスライス断面では小肉塊同士の間に隙間があり、外観上好ましくなかった。また、断面の全体的な形状は円形がくずれたような形状であった。
【0040】
一方、アルギニン区では小肉塊同士が良好に接着しており、無添加区とリン酸塩区で見られたような隙間はなく、外観上非常に好ましいものであった。また、断面の外縁は滑らかで、全体的な形状もきれいな円形を呈しており、極めて良好であった。
【0041】
(官能評価)
9名のパネルにこれらのハムを試食してもらったところ、アルギニン区では小肉塊同士がくっついており、プリプリとしてジューシー感があるとの回答を得た。一方、無添加区とリン酸塩区では小肉塊同士がすぐに分離し、ボソボソしており、食感上好ましくないとの回答を得た。
【0042】
(まとめ)
以上から、アルギニンを添加してチキンハムを製造することで、小肉塊同士の接着力が向上し、スライス時に不都合がなく、スライス後の外観や食感が改善されることが判明した。また、結着剤として一般に用いられているリン酸塩は、接着剤としての効果が非常に低いことが判明した。
【0043】
(実施例2)チキンハムの製造:アルギニン濃度の検討
(チキンハムの製造)
表2に示す配合のピックル液を使用することでアルギニンの添加濃度を変えて、実施例1と同様の手順により複数種類のチキンハムを製造した。表2中、単位はgである。
【0044】
【表2】
(接着性の結果評価)
上述した評価方法により、各チキンハムの接着性を評価した。
【0045】
アルギニン濃度が0.0%〜0.5%のチキンハムでは、濃度が大きくなるに従い、小肉塊同士の引き離しに必要な荷重値は大きくなっていた。
【0046】
アルギニン濃度が0.5%〜1.5%のチキンハムでは、前記荷重値はほぼ同程度であったが、接着性評価試験において、小肉塊同士の接着面以外の箇所から裂けることが多かった。このため、アルギニン濃度が0.5%以上になると、小肉塊同士の接着力が、肉塊自体を引き裂く力よりも強くなるものと考えられる。
【0047】
(外観評価)
各チキンハムをスライスし、その断面の外観を比較した。アルギニン濃度が0%又は0.1%のチキンハムでは、スライス断面で小肉塊同士の間に隙間があり、外観上好ましくなかったが、アルギニン濃度が0.3%以上のチキンハムでは、そのような隙間はなく外観上好ましいものであり、接着性の向上が認められた。
【0048】
(官能評価)
9名のパネルに各チキンハムを試食してもらったところ、アルギニン濃度が0.3%以下の各チキンハムでは、小肉塊同士の接着力が弱く食感上好ましくないが、アルギニン濃度が0.5%以上の各チキンハムについては、弾力がありジューシーで、好ましい食感を持つとの回答を得た。
【0049】
(まとめ)
以上から、チキンハムに0.3%以上の濃度でアルギニンを添加することで小肉塊同士の接着力が向上し、さらに食感を改善するには、チキンハム中のアルギニン濃度を0.5%以上にすることが望ましいことが分かった。
【0050】
(実施例3)チキンハム、ポークハム及びビーフハムの製造:従来の接着剤との比較
(各ハムの製造)
本発明のアルギニン添加により製造したチキンハム、ポークハム及びビーフハム、並びに、特公昭52−12789号公報、特公平6−55116号公報及び国際公開第2004/012524号公報の記載に従い従来の接着剤を添加した各ハムを製造し、接着性を評価した。
【0051】
以下では、本発明のアルギニン添加により製造したハムを試験区Aとし、特公昭52−12789号公報、特公平6−55116号公報又は国際公開第2004/012524号公報の記載に従い製造したハムを試験区B、試験区C又は試験区Dとする。
【0052】
原料肉としては、それぞれ鶏ムネ肉、豚モモ肉、牛モモ肉を、5cm程度に細切して使用した。
【0053】
表3及び表4に、各ハム製造時の処方を示した。表4は、表3中の接着剤の処方を示したものである。各表中、単位はgである。なお、試験区B、試験区C及び試験区Dの処方は各文献の記載に従った。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
各試験区のハムの製造手順は以下の通りである。なお、試験区B、試験区C及び試験区Dの製造手順は各文献の記載に従った。
【0056】
試験区A:原料肉1kgに接着液200gを加液した後、6時間タンブリングし、ケーシングに充填した後、所定の熱処理を行った。
【0057】
試験区B:原料肉1kgに接着剤のペースト200gを加えた後、5分間ミキシングを行い、ケーシングに充填した後、室温で1時間反応させ、所定の熱処理を行った。
【0058】
試験区C:原料肉1kgに接着剤200gを加液した後、5℃で3〜6時間タンブリングし、さらに、水20mlに溶解したトランスグルタミナーゼをすり込み、ケーシングに充填した後、5℃で15〜24時間反応させ、所定の熱処理を行った。
【0059】
試験区D:原料肉1kgに接着剤10gをすり込んだ後、ケーシングに充填した後、20℃で1時間反応させ、−25℃で酵素を失活させ、解凍後、所定の熱処理を行った。
【0060】
(接着性の結果評価)
上述した評価方法により、各ハムの接着性を評価した。チキンハム、ポークハム及びビーフハムの結果をそれぞれ
図2、
図3及び
図4に示す。
【0061】
図2より、チキンハムでは、アルギニンを使用した試験区Aが最も大きい接着力を示し、小肉塊同士を引き離すのに最も強い荷重値が必要であることが分かった。試験区B及び試験区Cではより小さい接着力を示した。
【0062】
試験区Dでは、接着性評価試験を行う前に、すでに小肉塊同士が分離していたため、荷重値の測定が不可能であった。そのため、
図2では試験区Dを示していない。
【0063】
図3より、ポークハムでは、試験区A及び試験区Cが良好な接着性を示し、試験区B及び試験区Dでは小さい接着力を示すことが分かった。
【0064】
図4より、ビーフハムでは、試験区Aが最も大きい接着力を示し、試験区B及び試験区Cでは小さい接着力を示すことが分かった。試験区Dでは、接着性評価試験を行う前に、すでに小肉塊同士が分離していたため、荷重値の測定が不可能であった。そのため、
図4では試験区Dを示していない。
【0065】
(外観評価)
ハムの外観を観察した後、各ハムをスライスし、その断面についても観察した。
【0066】
試験区Aでは各ハムの表面が滑らかで、スライス断面でも小肉塊同士の接着面が良好に密着していた。試験区Cも同等であった。しかし、試験区B及び試験区Dでは、接着力が弱く、スライス断面で小肉塊同士の間に隙間があった。また、各ハムの表面もでこぼこになっていた。特に、試験区Bのチキンハムでは大豆タンパクの色が緑色となって現れ、外観上好ましくなかった。試験区Dは特に接着力が弱く、スライスするとハムの形状が崩れてしまった。
【0067】
(まとめ)
アルギニンを使用した試験区Aではチキン、ポーク、ビーフのいずれの肉種においても良好な接着力が認められた。従来法による試験区B、C及びDでは、接着力が弱かったり、接着できる肉種が限定されたりするなどの問題点があった。以上から、アルギニンを使用した接着剤が最も優れていると考えられる。
【0068】
(実施例4)牛スモークタンの製造
表5に示す処方に従い、牛タン1000gに対してピックル液を約150g加え、タンブリングを行い、6日間熟成した。これを直径10cmのセルロースケーシングに充填し、結さく後にスモークハウス内で65℃40分間の乾燥を行い、さらに75℃で1時間燻煙した後、80℃で45分間の蒸気加熱を行った。これにより牛スモークタンを製造した。原料の牛タンとしては、二枚の肉塊を貼り合わせて最終製品の大きさになるサイズのものと、5cm角程度の大きさに細切したものを用いた。表5中、単位はgである。
【0069】
【表5】
(外観評価)
得られた牛スモークタンをスライスしたところ、二枚の肉塊の貼り合わせからなる製品と、細切した肉塊からなる製品のいずれにおいても、肉塊同士が良好に接着していた。このことから、牛タンにおいてもアルギニン添加により接着力改善効果が達成されることが分かった。
【0070】
(実施例5)チキンナゲットの製造
鶏ムネ肉を3cm程度に細切したもの1000gに、表6に示す配合のピックル液を100g添加した。添加後のアルギニン濃度は0.5%であった。これをよく混ぜ、一晩熟成し、半凍結状態で厚さ8mm直径5cm程度の楕円形に成型した。これにバッターを付け、フライ加熱を行うことで、チキンナゲットを製造した。
【0071】
【表6】
(外観評価)
得られたチキンナゲットをスライスしたところ、小肉塊間の接着面を識別出来ない程、小肉塊同士が良好に接着していた。このことから、揚げ処理を行った後においても、アルギニン添加による接着力改善効果は維持され、揚げ物でも本発明の効果を達成できることが分かった。