特許第5653346号(P5653346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コーセラ,インコーポレーテッドの特許一覧

<>
  • 特許5653346-子宮頚管の拡張の予防方法 図000007
  • 特許5653346-子宮頚管の拡張の予防方法 図000008
  • 特許5653346-子宮頚管の拡張の予防方法 図000009
  • 特許5653346-子宮頚管の拡張の予防方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5653346
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】子宮頚管の拡張の予防方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20141218BHJP
   A61P 15/06 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   A61K37/02
   A61P15/06
【請求項の数】4
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-509784(P2011-509784)
(86)(22)【出願日】2009年5月15日
(65)【公表番号】特表2011-520919(P2011-520919A)
(43)【公表日】2011年7月21日
(86)【国際出願番号】US2009044251
(87)【国際公開番号】WO2009140661
(87)【国際公開日】20091119
【審査請求日】2012年4月4日
(31)【優先権主張番号】61/127,888
(32)【優先日】2008年5月16日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510301987
【氏名又は名称】コーセラ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】スチュアート,デニス,アール.
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 American Journal of Obstetrics and Gynecology,1980年,Vol.136,No.5,p584−586
【文献】 EMBO Journal,1984年,Vol.3,No.10,p2333−2339
【文献】 日本臨床生理学会雑誌,1987年,Vol.17,No.3,p433−440
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/17
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊娠しているヒト女性において子宮頚管の拡張度を低減するための医薬製剤であって、医薬的に活性なH2リラキシンを含む医薬製剤
【請求項2】
前記妊娠しているヒト女性が、早期収縮、下腹部の痙攣、腰の鈍痛、骨盤領域の圧迫、胃痙攣、膣分泌物、膣出血、および膣水状液漏れからなる群より選択される症状に直面している、請求項1に記載の医薬製剤
【請求項3】
前記H2リラキシンを、0.1〜500μg/kg(被験体体重)の範囲の量で投与する、請求項1に記載の医薬製剤
【請求項4】
前記H2リラキシンを、リラキシンの血清中濃度を0.5〜50ng/mlで維持するような量で投与する、請求項3に記載の医薬製剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、米国特許法第119条(e)の下、2008年5月16日に出願された米国特許仮出願第61/127,888号の恩典を主張し、この仮出願はあらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
分野
本開示は、リラキシンの投与によって、ヒト女性において子宮頚管の拡張(cervical dilation)および早産を低減する方法に関する。リラキシン処置は、未熟分娩になり易い被験体に特に適している。
【背景技術】
【0003】
背景
リラキシンは、約6000ダルトンのジスルフィド架橋ポリペプチドホルモンであり、その濃度は多くの種において妊娠の間に著しい上昇を示す。いくつかの研究から、リラキシンが、生殖管を再形成(remodeling)することで妊娠および出産(parturition)の間に重要な役割を果たすことが示されている。
【0004】
リラキシンは、妊娠および非妊娠女性のいずれにおいても、黄体によって主に生成され、男性の精液でも見とめられる(Bryant-Greenwood (1982), Endocrine Reviews 3, 62-90; Weisse(1984), Ann. Rev. Physiol. 46, 43-52)。女性において、末梢血漿中のリラキシンレベルは、黄体形成ホルモンの周期性ピーク(midcycle surge)の7〜10日後にピークに達し、受胎が起こってさらにリラキシンが脱落膜によって生成された場合には上昇し続ける(Stewartら (1990), J. Clin. Endo. Metab. 70, 1771-1773)。妊娠の間、同族ラジオイムノアッセイで測定されるリラキシンの血清中濃度は、10週頃に最も高く、その後徐々に低下して、残りの妊娠期の間は約500 pg/mlで留まる(Bellら(1987), Obstet. Gynecol. 69, 585-589)。リラキシンのヒト遺伝型は、ブタリラキシン遺伝子由来のプローブを用いたゲノムクローニングにより同定されている(Hudsonら (1983), Nature 301, 628; Hudsonら (1984), EMBO J. 3, 2333;ならびに米国特許第4,758,516号および同第4,871,670号)。これらの遺伝型のH2と呼ばれる1つのみが、卵巣中の黄体において転写および発現されることが分かっており、これが妊娠生理機能に直接関与する配列であることを示唆している。
【0005】
動物において、リラキシンは、出産プロセスを容易にするために生殖管を再形成すると説明されており、これには子宮頸部の成熟、妊娠子宮の子宮内膜の肥厚、この領域への血管新生の増大、およびコラーゲン合成の調節が含まれる(Sherwood(1994) The physiology of reproduction 第2版)。これはまた、泌乳とも関連付けられており、一部の報告ではリラキシンが乳腺組織に対して成長促進影響を及ぼすことが示されている(WrightおよびAnderson(1982)、Adv. Exp. Med. Biol. 143, 341)。
【0006】
妊娠中のヒトリラキシンの役割は、未だによく理解されていない。ヒトリラキシンの影響のin vitro研究からは、非妊娠子宮の子宮筋収縮を阻害するが、妊娠の子宮筋層には影響を及ぼさないことが示唆されている(MacLennan(1991), J. Reprod. Med. 36, 630- 34)。これまで、子宮筋層に対するヒトリラキシンの刺激的影響は報告されていない。特に、ブタリラキシンは、ヒトにおいて影響を持つことが明らかになっており、リラキシン機能が種特異的であることが示されている。Evansらは、無作為化二重盲検対照臨床治験においてブタリラキシンを子宮頸部内ペレットとして用いたところ、リラキシン群において、子宮頸管成熟度(細くなること)がより大きく、分娩までの時間がより短いことを観察した(Evansら(1983), Am J. Obstet. Gynecol. 147, 410-414)。同様の研究設計を用いて、MacLennanらは、ブタリラキシンまたはプラシーボを子宮頸部内ゲルとして投与した(MacLennan(1986), Obstet. Gynecol. 68, 595-601)。リラキシンで処置した群は自然陣痛になる可能性が高く、高い用量のリラキシンでは子宮頸部成熟に大きな変化がもたらされた。これらの研究は、ブタリラキシンが、女性の陣痛誘発において有用であり得ることを示唆する。しかし、ブタリラキシンは、女性に対して免疫原性であり得る。
【0007】
膣内投与されるヒトリラキシンは、非妊娠女性における第1相安全性研究でテストされたが、子宮頸部成熟には全く影響を示さなかった。この研究は、ヒトリラキシンの投与が安全であり、有害な副作用が最小限であることを実証した。重要なことには、リラキシンの血清中レベルはリラキシンで処置した女性では上昇せず、子宮頸部に対してリラキシンの影響がないのは不十分または不適切な投薬方法によるものと説明され得ることを示唆する(Bellら(1993), Obstet. Gynecol. 82: 328-333;Brennandら(1995) 2nd International congress on the hormone relaxin, 380-388)。動物におけるリラキシンの機能、およびブタリラキシンがヒトにおいて子宮頸部成熟を促進可能であるという観察に基づいて、リラキシンの投与を使用して、ヒトの出産を容易にできることが示唆されている。
【0008】
ほとんどの妊娠は、最終月経期(LMP)から数えて妊娠約40週が続く。妊娠約37〜42週の在胎週齢で生まれた新生児は、満期であると考慮される。米国の新生児の約12.5%(年間50万人を超える)は、妊娠満37週よりも前に未熟児で生まれる。早産は、深刻な健康問題であり、米国における新生児の約85%の罹患率および死亡率を占める。これは新生児医療費の大部分を占め、主に妊娠満32週よりも前に生まれる非常に未熟な乳児を出産する2%のアメリカ人女性によるものである。
【0009】
未熟児は、身体および器官系が完全に発達する前に生まれる。これらの新生児は、多くの場合小さく、出生体重が低く(2,500グラムまたは5.5ポンド未満)、呼吸、摂食、感染に対する抵抗、および体温を温かく保つのに助けがいるかもしれない。未熟児は、新生児健康合併症、ならびに精神遅滞、脳性まひ、肺および胃腸の問題、視力および聴力の低下等の持続的な障害、さらには死亡などの危険性が高い。満期新生児よりも未熟児によくある合併症としては、呼吸窮迫症候群(RDS)、無呼吸、脳室内出血(IVH)、動脈管開存症、壊死性腸炎(NEC)、未熟児網膜症、黄疸、貧血、慢性肺疾患、および感染症が挙げられるがこれらに限定されない。後期の早産新生児は、一般的に、より少ないかまたはより軽度の問題を有するが、妊娠約32〜34週より前に生まれた新生児は、軽度から重度のいくつかの合併症を生じ得る。24〜27週の早さで生まれた新生児が生存することは可能であるが、これらの新生児は生涯にわたる健康問題に直面する場合がある。
【0010】
理由は完全には理解されていないが、米国における早産の比率は、過去25年の間に30%以上増えた。この増加の大部分は、生殖補助技術によりもたらされる多胎妊娠が増えたことによるものであるかもしれない。このような過程を経て受胎した妊娠の全体の約20%〜25%は、早期陣痛の危険性が特に高い双胎妊娠を生じる。双胎妊娠の約50%が、未熟児を分娩し、単胎妊娠の40週と比べて平均在胎週齢が37週である。
【0011】
これまで、未熟分娩または早期陣痛を予防するための信頼できる安全な処置はなかった。現在の方法としては、感染症を減らすための自己療法、ならびに栄養学的および心理学的介入が挙げられる。さらに、これらの方法としては、集中的かつ頻繁な出産前経過観察、および早産危険要因の制御が挙げられる。しかし、これらの方法は、早産の有意な低減を実証できていない。早期子宮収縮の場合、子宮収縮抑制療法が通常適用される。硫酸マグネシウム、ニフェジピンおよびテルブタリン等の、様々な成功率および副作用を持つ様々な種類の薬剤が、説明されてきた。一部の薬物は、早期陣痛の子宮収縮を止めるために使用することが米国食品医薬品局(FDA)によってはっきりと認可されたものではなく、それどころか認可外で使用されている。収縮抑制は部分的なものでしかないことが多く、子宮収縮抑制薬は出産を数日間遅らせるぐらいしか当てにできない。この方法は、ベタメタゾン等のグルココルチコイド薬を投与するまでの時間稼ぎとして使用でき、これは胎児肺成熟を大幅に加速させて、呼吸窮迫症候群、脳室内出血、壊死性腸炎、感染および乳児死亡の危険性を低減する。グルココルチコイド薬が作用するまでには1、2日かかる。抗生物質も、感染に対する抵抗によって早産を予防する能力について研究されてきたが、有効であることは証明されていない。さらに、膣プロゲステロンの使用、およびプロゲステロンの天然代謝産物である17α-カプロン酸ヒドロキシプロゲステロンの注射がテストされてきた(Fonsecaら(2007), NEJM, 357(5), 462-469; Romero(2007), Ultrasound Obstet. Gynecol, 30, 675-686)。このアプローチは、陣痛開始がプロゲステロンの生理学的離脱を伴うという知見に基づいている。両方の処置共、子宮収縮を止めるのには有効であったが、17α-カプロン酸ヒドロキシプロゲステロンの安全性については、それに関連する流産および死産の増加のために、FDAおよびその専門委員会によって近年疑問視されている(Meisら(2003), NEJM 348(24), 2379-85;およびFDA諮問委員会:CDER 2006)。
【0012】
従って、未熟分娩を予防するための安全かつ効率的な方法が必要とされている。本明細書に記載する開示は、そのような方法および付加的な恩恵を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
好適な実施形態の簡単な概要
本開示は、リラキシンを投与することにより、子宮頚管の拡張を低減することを伴う方法を提供する。これらの方法は、早産および流産の危険性を低減し、妊娠期間を延長するために適用でき、これにより乳児の出生体重を増加させることができる。未熟分娩の数は、過去十年にわたり米国の病院において著しく増加した。そのような早産を予防する試みにも関わらず、負の副作用のない安全かつ効率的な処置はこれまでに見つかっていない。いくつかの方法は、自己療法に焦点を当てており、これは一部の事例では役に立つかもしれないが、それ以外の事例には適用できない。従って、未熟分娩を予防する安全かつ有効な新規方法を提供することが望ましく、本開示はこのニーズに応じる。このように、本開示は、リラキシンを投与することによって、未熟分娩を予防し、その危険性を低減する方法を提供する。本開示の利点の1つは、リラキシンの投与が、未熟分娩になり易い女性に対して有害な副作用がほとんどまたは全くないことである。別の利点は、リラキシンが、他の薬物(例えば、子宮収縮抑制薬またはプロゲステロン)と組み合わせて投与され、胎児の未熟を予防するのにさらにより有力な方法を提供できることである。子宮収縮抑制薬およびプロゲステロンが子宮収縮に影響を及ぼすのに対して、リラキシンは子宮頚管の拡張を予防するため、これらの処置は、組み合わせることによって、公知方法と比べて有意な改善を提供する。
【0014】
一態様では、本開示は、未熟分娩になり易いヒト女性を選択する工程、および該女性に医薬的に活性なリラキシンの医薬製剤を投与する工程を含む、子宮頚管の拡張を低減する方法を提供する。好適な実施形態において、本開示は、医薬的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を妊娠しているヒト女性に投与して子宮頚管の拡張度を低減する工程を含む、子宮頚管の拡張度を低減する方法を提供する。別の態様では、本開示は、早産し易いヒト女性を選択する工程、該女性に医薬的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を投与する工程を含む、早産の危険性を低減する方法に関する。好適な実施形態において、本開示は、医薬的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を妊娠しているヒト女性に投与して早産の危険性を低減する工程を含む、早産の危険性を低減する方法を提供する。本開示はまた、流産し易いヒト女性を選択すること、および該女性に医薬的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を投与することによって流産の危険性を低減する方法も包含する。本方法の好適な一実施形態において、ヒト女性は妊娠している女性である。本方法の別の実施形態において、リラキシンは、未熟分娩になり易い妊娠前の女性にも投与され得る。特に、本明細書に記載の方法では、リラキシンは、収縮、下腹部の痙攣、腰の鈍痛(low dull pain in her back)、骨盤領域の圧迫、胃痙攣、膣分泌物、膣出血、および膣水状液漏れ(vaginal watery fluid leakage)等の(ただしこれらに限定されない)症状に直面している場合の妊娠女性に投与され得る。
【0015】
さらなる態様では、本開示は、未熟分娩になり易い妊娠しているヒト女性を選択する工程、および未熟分娩の危険性を低減する医薬的に活性なリラキシンの医薬製剤を投与する工程を含む、妊娠期間の長さを延ばす方法を提供する。本開示はまた、未熟分娩になり易い妊娠しているヒト女性を選択する工程、および該女性に医薬的に活性なリラキシンの医薬製剤を投与して妊娠期間の長さを延ばすことにより出産率を上昇させる工程を含む、乳児出生体重を増加させる方法に関する。本方法の一実施形態において、リラキシンは、収縮、下腹部の痙攣、腰の鈍痛、骨盤領域の圧迫、胃痙攣、膣分泌物、膣出血、および膣水状液漏れ等の(ただしこれらに限定されない)症状に直面している場合の妊娠女性に投与される。
【0016】
本開示の医薬製剤に採用するリラキシンは、例えば、精製、合成、または組換えリラキシンであり得る。本開示の一実施形態において、リラキシンはH2ヒトリラキシンである。他の実施形態において、リラキシンはH1ヒトリラキシン、H3ヒトリラキシンまたはリラキシンアゴニストである。別の実施形態において、リラキシンは合成または組換えH2ヒトリラキシンである。従って、被験体は、合成または組換えヒトリラキシンの医薬製剤で処置され得る。本開示の一実施形態において、被験体は、合成H2ヒトリラキシンで処置される。さらに別の実施形態において、被験体は、組換えH2ヒトリラキシンで処置される。リラキシンは、静脈内、皮下、筋内、または局所等の(ただしこれらに限定されない)多数の異なる経路を介して被験体に投与され得る。好適な一実施形態において、リラキシンは、静脈内投与される。別の好適な実施形態において、リラキシンは皮下投与される。さらに別の実施形態において、リラキシンは脊髄注射を介して投与される。より具体的には、リラキシンの医薬製剤は、約0.1〜500μg/kg(被験体体重)/日の範囲の量で被験体に投与され得る。そのようにして、リラキシンは被験体に投与されて、約0.5〜50 ng/mlのリラキシンの血清中濃度を維持する。
【0017】
本開示の方法に記載するリラキシンの投与は、早期陣痛または早産の兆候の危険性のある女性における早期陣痛または早産を防ぐ。さらに、リラキシンの投与は、出産時の乳児体重の増加および/または出産時の正常乳児体重をもたらし得る。本開示の方法の一実施形態において、リラキシンは、妊娠第1期(first trimester of pregnancy)の始めから陣痛開始まで投与される。別の実施形態において、リラキシンは、第2期または第3期の始めから陣痛開始まで投与される。リラキシンは、この期間の間に、毎日、毎週または毎月投与され得る。
【0018】
本開示はさらに、未熟分娩になり易いヒト女性において子宮頚管の拡張度を低減するために使用されるリラキシン;未熟分娩または流産になり易いヒト女性において未熟分娩および流産の危険性を低減するために使用されるリラキシン;ならびに未熟分娩になり易いヒト女性において妊娠期間の長さを延ばして乳児出生体重を増加させるために使用されるリラキシン、を提供する。
【0019】
本開示は、好適な実施形態を例示する役割を果たす添付の図面と共に読むと最もよく理解される。ただし、本開示は、図面に開示する特定の実施形態に限定されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1Aは、インスリンに大きさおよび形状が似ているペプチドホルモンであるH2リラキシンを描く。図1Bは、ヒトリラキシン2(H2)のB鎖(配列番号1)およびA鎖(配列番号2、Xはグルタミン酸[E]またはグルタミン[Q]を表す)のアミノ酸配列を提供する。
図2図2は、プールされたリラキシン群およびプールされたプラシーボ群における、時間経過に伴う平均血清リラキシン濃度を示す。
図3図3は、表示の時点での、プールされたリラキシン群およびプールされたプラシーボ群における平均合計ビショップスコアを示す。
図4図4は、プールされたリラキシン群およびプールされたプラシーボ群における、時間経過に伴う子宮頚管の拡張の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
全体概要
本開示は、妊娠している女性へのヒトリラキシンの静脈内投与が、子宮頚管の拡張度の有意な低減をもたらすという観察に基づいている。子宮頚管の拡張は、経膣分娩に向けての女性の身体的準備具合を決定する重要なパラメータを示す。驚くべきことに、本発明者は、リラキシンの投与が、ヒト女性の子宮頚管の拡張を抑制するために適用できることを見いだした。この知見は、リラキシンの投与が子宮頸部成熟および拡張を増強させるという動物研究で得られた結果とは全く対照的である。特に、成熟前の拡張の高まりは、早期分娩の危険性を高める。従って、子宮頚管の拡張の抑制は、妊娠の満期に達する前の未熟分娩を予防する方法、および妊娠の初期段階の間の流産を予防する方法を提供する。未熟分娩を予防することにより、乳児の完全な発達が保証されるまで、または少なくとも母胎外で乳児が生存するのに十分な乳児器官の成熟レベルまで、妊娠期間の長さを延ばすことができる。
【0022】
早産は、新生児および母親の両方に健康の危険性をもたらし、費用のかかる健康問題である。未熟児は、特別なケアを必要とし、多くの場合に重病を患い、生涯にわたる健康上の影響に直面し得る。これらの身体的制約以外では、早産は乳児および母親の両方に対して強い心理学的影響も及ぼし得る。周産期および新生児医薬において数多くの技術的進歩が生み出されて、未熟児の医学的合併症からの生存および回復の見込みは高くなったが、早産は、依然として、生後1年以内の乳児の死亡について上位を占める原因の1つである。
【0023】
定義
「リラキシン」という用語は、当該分野で周知のペプチドホルモンを指す(図1を参照)。本明細書で使用する「リラキシン」という用語は、無傷の完全長ヒトリラキシン、または生物学的活性を保持するリラキシン分子の一部等のヒトリラキシンを包含する。「リラキシン」という用語はさらに、合成H2ヒトリラキシンおよび組換えH2ヒトリラキシンを含む合成ヒトリラキシンおよび組換えヒトリラキシンを意図する。本用語はさらに、リラキシン類似体および生物学的活性を保持するその一部等のリラキシン様活性を有する活性剤、ならびにLGR7またはLGR8 受容体等のリラキシン受容体に結合したリラキシンを競合的に置き換える薬剤を包含する。さらに、本明細書で使用するヒトリラキシンの核酸配列は、ヒトリラキシンH2と100%同一でなくてもよく、ヒトリラキシンH2と少なくとも約40%、50%、60%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であってもよい。本明細書で使用するリラキシンは、当業者に公知の任意の方法により生成できる。そのような方法の例は、例えば、米国特許第5,759,807号、およびBullesbachら(1991) The Journal of Biological Chemistry 266(17):10754-10761に例示されている。リラキシン分子および類似体の例は、例えば、米国特許第5,166,191号に例示されている。
【0024】
「子宮頚管の拡張」という用語は、子宮口(cervical os)(開口部)および子宮頸管が約1 cm未満から約10 cmまで広がって胎児の分娩を可能にする過程を指す。
【0025】
「子宮頸部成熟」という用語は、陣痛のために子宮頸部を準備する過程、例えば、子宮頸部を柔らかく薄くすること(すなわち、展退(effacement))を指す。
【0026】
「未熟分娩」、「早産(premature birth or preterm birth)」および「早期分娩」という用語は、妊娠満37週頃よりも前の出産を指し、明細書を通して互換的に使用される。
【0027】
「早期陣痛(premature labor or preterm labor)」という用語は、妊娠満37週頃よりも前の陣痛開始を指し、子宮収縮の存在または子宮過敏性(uterine irritability)の上昇を特徴とする。「早期陣痛(premature labor or preterm labor)」という用語は、明細書を通して互換的に使用される。
【0028】
「流産」または「自然堕胎」という用語は、概して妊娠約20週よりも前のヒトにおいて定義される、胚または胎児が生存不可能な段階での自然または自然発生的な妊娠の終わりを指す。これらの用語は、明細書を通して互換的に使用される。
【0029】
「乳児」または「新生児」という用語は、最も若い段階、特に歩行する前の概して1歳前のヒトの子供を指す。これらの用語は、明細書を通して互換的に使用される。
【0030】
「新生児(newborn infant or neonate)」という用語は、約1ヶ月齢未満のヒト乳児を指す。これらの用語は明細書を通して互換的にに使用され、 早産児、過熟児および満期乳児を含む。
【0031】
「約」という用語は、表示値に関して使用される場合には、表示値の上下10%の範囲(例えば、表示値の90〜110%)を包含する。例えば、約30 mcg/kg/日の静脈内(IV)点滴速度は、27mcg/kg/日〜33mcg/kg/日のIV点滴速度を包含する。
【0032】
「治療上効果的な」という用語は、患者の基準状態、または未処置もしくはプラシーボ処置された(例えば、リラキシンで処置されていない)被験体の状態と比べた場合に、測定可能な所望の医学的または臨床的恩典を患者にもたらす医薬的に活性なリラキシンの量を指す。
【0033】
リラキシン
リラキシンは、インスリンに大きさおよび形状が似ているペプチドホルモンである(図1を参照)。より具体的には、リラキシンは、インスリン遺伝子スーパーファミリーに属する内分泌および自己分泌/傍分泌ホルモンである。コードされるタンパク質の活性型は、鎖間で2つおよび鎖内で1つのジスルフィド結合により互いと結び付いているA鎖およびB鎖で構成される。つまり、この構成は、ジスルフィド結合の配置がインスリンに酷似している。ヒトにおいては、リラキシン-1(RLN-1またはH1)、リラキシン-2(RLN-2またはH2)、およびリラキシン-3(RLN-3またはH3)の3つの非対立リラキシン遺伝子が存在する。H1およびH2は高い配列相同性を共有する。この遺伝子については、異なるイソフォームをコードする2つの選択的スプライス転写産物変異体が説明されている。ヒトにおけるH1の発現は不確かである。H2は生殖器において発現され、H3は主に脳で見とめられる。受容体におけるリラキシンペプチドファミリーの進化は一般的に当該分野で周知である(Wilkinsonら(2005) BMC Evolutionary Biology 5(14):1-17;ならびにWilkinsonおよびBathgate(2007) 第1章, Relaxin and Related Peptides, Landes Bioscience and Springer Science + Business Mediaを参照)。
【0034】
リラキシンは、2つの特異的なリラキシン受容体、すなわちLGR7(RXFPl)およびLGR8(RXFP2)を活性化させる。LGR7およびLGR8 は、Gタンパク質共役型受容体固有のサブグループを代表する、ロイシンに富む反復配列を含むGタンパク質共役型受容体(LGR)である。これらは、LH受容体またはFSH受容体等の糖タンパク質ホルモン(glycoproteohormone)の受容体に遠縁の、7回膜貫通型ドメイン(heptahelical transmembrane domain)および大きなグリコシル化細胞外ドメインを含む。これらのリラキシン受容体は、心臓、平滑筋、結合組織、ならびに中枢神経系および自律神経系において見とめられる。H1、H2、ブタおよびクジラリラキシン等の有力なリラキシンは、共通する特定の配列、すなわちArg-Glu-Leu-Val-Arg-X-X-Ile(配列番号3)配列または結合カセットを有する。ラット、サメ、イヌおよびウマリラキシン等、この配列相同性から外れるリラキシンは、LGR7およびLGR8受容体を介して生物活性の低下を示す(Bathgateら(2005) Ann. N.Y. Acad. Sci. 1041:61-76; Receptors for Relaxin Family Peptidesを参照)。
【0035】
リラキシンは、女性および男性の両方で見とめられる(Tregearら;Relaxin 2000, Proceedings of the Third International Conference on Relaxin and Related Peptides (2000年10月22-27日, Broome, Australiaを参照)。女性では、リラキシンは、卵巣の黄体、胸、そして妊娠中は胎盤、絨毛膜および脱落膜によっても生成される。男性では、リラキシンは精巣で生成される。リラキシンレベルは、排卵後に黄体により生成されるため上昇し、そのピークは妊娠末期に向かってではなく第1期の間に達する。妊娠していない場合は、そのレベルは下降する。ヒトにおいて、リラキシンは、妊娠での役割、精子の運動性を向上させる役割、血圧を調節する役割、心拍数を制御する役割、ならびにオキシトシンおよびバソプレシンを放出する役割を果たす。動物において、リラキシンは、恥骨を広げ、陣痛を促進し、子宮頸部を柔らかくし(子宮頸部成熟)、子宮筋層を弛緩させる。動物においては、リラキシンはコラーゲン代謝にも影響を及ぼして、コラーゲン合成を抑制し、マトリクス・メタロプロテイナーゼを増加させてコラーゲンの分解を増強させる。リラキシンはまた血管新生を増強し、腎血管拡張薬でもある。
【0036】
リラキシンは、成長因子の一般的な特徴を有し、結合組織の性質を変化させたり、平滑筋収縮に影響を与えることが可能である。H2は、生殖組織において主に発現されることが知られており(米国特許第5,023,321号を参照)、動物における子宮頚管の拡張に関係があるとされてきた。しかし、本発明者は、リラキシンがヒトにおいては逆の影響をもたらし、実際に子宮頚管の拡張度を低減することを発見した。
【0037】
リラキシンアゴニスト
一部の実施形態において、本開示は、リラキシンアゴニストの投与を含む方法を提供する。一部の方法において、リラキシンアゴニストは、RXFPl、RXFP2、RXFP3、RXFP4、FSHR(LGRl)、LHCGR(LGR2)、TSHR(LGR3)、LGR4、LGR5、LGR6、LGR7(RXFPl)およびLGR8(RXFP2)(ただしこれらに限定されない)から選択される1つ以上のリラキシン関連Gタンパク質共役型受容体(GPCR)を活性化する。一部の実施形態において、リラキシンアゴニストは、CompugenのWO2009/007848(リラキシンアゴニスト配列の教示について参照により本明細書に援用する)の式Iのアミノ酸配列を含む。
【0038】
式Iペプチドは、好ましくは7〜100アミノ酸の長さであり、アミノ酸配列:X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X1O-X11-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-X22-X23-X24-X25-X26-X27-X28-X29-X30-X31-X32-X33(配列中、X1は不在、またはG、または短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X2は不在、またはQ、または極性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X3は不在、またはK、または塩基性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X4は不在、またはG、または短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X5は不在、またはQもしくはS、または極性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X6は不在、またはVもしくはAもしくはPもしくはM、または疎水性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X7は不在、またはG、または短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X8は不在、またはPもしくはLもしくはA、または天然型もしくは非天然型アミノ酸;X9は不在、またはPもしくはQ、または天然型もしくは非天然型アミノ酸;X1Oは不在、またはG、または短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X11は不在、またはAもしくはHもしくはEもしくはD、または疎水性もしくは短いもしくは酸性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X12は不在、またはAもしくはPもしくはQもしくはSもしくはRもしくはH、または疎水性もしくは短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X13は不在、またはCもしくはV、または疎水性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X14は不在、またはRもしくはKもしくはQもしくはP、または塩基性もしくは極性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X15は不在、またはRもしくはQもしくはS、または塩基性もしくは極性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X16は不在、またはAもしくはLもしくはHもしくはQ、または疎水性もしくは短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X17は不在、またはY、または疎水性もしくは芳香族の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X18は不在、またはA、または疎水性もしくは短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X19は不在、またはA、または疎水性もしくは短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X20は不在、またはF、または疎水性もしくは芳香族の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X21は不在、またはSもしくはT、または極性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X22は不在、またはV、または疎水性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X23は不在、またはG、または疎水性もしくは短い非天然型アミノ酸、またはアミドで置換;X24は不在、またはR、または塩基性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X25は不在、またはR、または塩基性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X26はA、または疎水性もしくは短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X27はY、または疎水性もしくは芳香族の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X28はA、または疎水性もしくは短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X29はA、または疎水性もしくは短い天然型もしくは非天然型アミノ酸;X30はF、または疎水性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X31はSもしくはT、または極性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X32はV、または疎水性の天然型もしくは非天然型アミノ酸;X33は不在、またはG、または疎水性もしくは短い天然型もしくは非天然型アミノ酸、またはアミドで置換)あるいはそれらの医薬的に許容可能な塩(配列番号4)を含むことが好ましい。一部の好適な実施形態において、リラキシンアゴニストは、ペプチドP59C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFSV(配列番号5)を含む。別の好適な実施形態において、リラキシンアゴニストは、ペプチドP74C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFS VGRRA Y AAFS V(配列番号6)を含む。ペプチドP59-G(遊離酸Gly)GQKGQVGPPGAACRRA Y AAFSVG(配列番号7)等の、ヒト補体ClQ腫瘍壊死因子関連タンパク質8(CTRP8またはC1QT8)のさらなる誘導体も、本開示の方法での使用に適していると考える。C1QT8のアミノ酸配列は、配列番号8:
【化1】

として表される。
【0039】
本開示はこれらのポリペプチドの相同体も包含し、このような相同体は、米国の国立生物工学情報センター(the National Center of Biotechnology Information)(NCBI)のBlastPソフトウェアを使用し、デフォルトパラメータ(任意かつ好ましくは以下を含む:フィルタリング有り(filtering on)(この選択肢はSeg(タンパク質)プログラムを用いてクエリーから繰返し配列または低複雑性配列をフィルタリングする)、スコアマトリクスはタンパク質用BLOSUM62、ワードサイズは3、E値は10、ギャップコストは11、1(開始ならびに(開始および伸長))を用いて決定できるように、例示のリラキシンアゴニストのアミノ酸配列(例えば、配列番号5または配列番号6)と少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%以上、例えば100%同一である。任意かつ好ましくは、核酸配列同一性/相同性は、米国の国立生物工学情報センター(NCBI)のBlastNソフトウェアでデフォルトパラメータ(好ましくはDUSTフィルタープログラムを使用すること、また好ましくはE値が10、低複雑性配列をフィルタリングすること、およびワードサイズが11であることを含む)を用いて決定される。最後に、本開示は、上記ポリペプチドの断片、および自然発生的にまたは無作為にもしくは標的化して人為的に誘導された1つ以上のアミノ酸の欠失、挿入または置換等の変異を有するポリペプチドも包含する。
【0040】
リラキシン処置は子宮頚管の拡張度の低減をもたらす
妊娠は、強制的な子宮収縮がないことと、閉鎖された適格な子宮頸部によって維持される。子宮頸部は、微生物が侵入するのを防護するバリア、および胎児の分娩に対する構造的バリアの役目をする。子宮頸部の能力が欠如していると、陣痛の子宮収縮がなかったとしても早産が生じる。しかし、柔軟性のない子宮頸部での強制的な子宮収縮は分娩を引き起こすには不十分である。従って、妊娠期間中の子宮頸部機能のタイムリーな変化は妊娠を達成するために極めて重大である。出産の途中およびその後は、子宮頸部は劇的な結合組織再形成のプロセスを受ける。これは、4段階で起こる:すなわち、軟化、成熟、拡張および修復(Wordら, 2007 Semin. Reprod. Med. 25 (l):69-79)。最初の軟化段階は、コラーゲン合成および子宮頸部成長の上昇を特徴とするゆっくりとした漸進的なプロセスであり、コラーゲン線維ネットワークの再構成をもたらす。このプロセスは、妊娠期間の初期段階の間、軟化した子宮頸部の引張強度を提供する。子宮頸部成熟の間、主に親水性グリコサミノグリカンの合成の増加により、コラーゲン濃度は低下する。この段階では、引張強度は低下し、子宮頸部が展退(薄くなること)および拡張し始める。陣痛の間の拡張は、成熟の間のこの初期拡張プロセスとは異なり、白血球による細胞外マトリクスへのプロテアーゼおよびコラゲナーゼの放出を伴う異なるメカニズムにより生じる。子宮頸部再形成の最終段階、すなわち修復は、出産後に起こる。
【0041】
特に、子宮頸部成熟は子宮頚管の拡張に必要であり、両方のプロセスが満期出産を達成するために必要であることがよく知られている。子宮頸部成熟の標準的測定は、ビショップスコアである。これは、子宮頸部がどのぐらい軟化、開口および薄くなっているか(拡張および展退)、ならびに子宮頸部および新生児が骨盤においてどこまで下がっているかの採点を表し、経膣分娩の準備具合を評価する。子宮頸部成熟は、通常、子宮収縮開始の数週間前に始まり、女性における早期出産および満期出産の両方とも長期にわたるプロセスであり、陣痛の子宮収縮が出産プロセスにおける後期事象であることを示唆する(Wordら、前掲)。リラキシンは、動物において子宮頸部成熟および拡張を促進することによって出産プロセスを容易にするとされてきた。驚くべきことに、本発明者は、リラキシンの投与が、ヒト女性に対して逆の影響を持ち、子宮頚管の拡張度を低減する方法を提供することを発見した。この知見に基づいて、リラキシン(例えば、ヒトリラキシンまたはヒトH2リラキシン)を未熟分娩になり易い妊娠している女性に投与して、子宮頚管の拡張度を低減することができる。リラキシンは、静脈内、皮下、筋内もしくは局所投与等(ただしこれらに限定されない)のいくつかの投与経路、または脊髄注射を介して投与できる。リラキシンでの処置は早くて第1期から開始して陣痛開始まで行うか、あるいはまた、処置は第2期または第3期の始めから開始して陣痛開始まで行うことができる。
【0042】
リラキシン処置は、早産または流産を予防する方法を提供する
未熟分娩を防ぐための現行の方法は、満期前の子宮収縮または子宮過敏性の上昇を特徴とする早期陣痛を予防する方策および処置に向いている。早期陣痛を開始する実際の生理学的メカニズムは、明確には特定されていないが、プロスタグランジン合成、オキシトシン放出、ホルモン比(プロゲステロンレベルの下降、エストラジオールレベルの上昇)、子宮組織の機械的伸張、および子宮血流量の変化等の要因により影響を受けることが示されてきた。分娩を止める非常に効率的かつ信頼できる方法がこれまでなかったため、早期陣痛はほとんどの場合に早産を生じる。従って、早期陣痛の発生を減らすことは、未熟分娩の危険性を低減するために極めて重要であると考えられている。従って、方策として、早期陣痛の危険性およびその早期検出の方法について医師および患者の両者を教育することに焦点が当てられてきた。これらには、1時間毎に6回超生じる収縮、鈍い腰痛、骨盤を圧迫される感覚、下痢、膣からの少量出血もしくは出血(vaginal spotting or bleeding)、または水様膣分泌物等の早期陣痛の典型的症状に注意を払うことを伴う。さらに、早期陣痛および分娩の危険性が高い女性に対しては、毎週の子宮頸部評価、経膣超音波検査、(胎盤組織の破壊の指標としての)胎児フィブロネクチンの検出、および自宅での子宮活動モニタリングが示唆されている(Weissmiller(1999), American Academy of Family Physicians)。現在のところ、早期陣痛の管理として、床上安静、身体活動の低減、および子宮収縮抑制剤を使用して収縮を防ぐことが挙げられ、これらは場合によっては助けになるが、それ以外の場合には不十分である。
【0043】
本開示は、子宮収縮に影響を及ぼすのではなく子宮頚管の拡張度を低減することにより、早産の危険性を低減する新規方法を提供する。特に、子宮頸部成熟および拡張は、満期時の子宮収縮に先立ち、満期前の早期陣痛の間に起こると考えられている(Wordら, 前掲)。従って、リラキシンの投与は、子宮頚管の拡張を予防することが重要である場合に特に適している。他の事例において、早期陣痛の間の子宮収縮は、子宮頸部の拡張を生じる。リラキシンの投与は、この場合においても適用することができ、拡張度を低減して、出産を防ぐことができる。本明細書において、リラキシンは単独で、または収縮性に影響を及ぼす薬剤(例えば、子宮収縮抑制薬もしくはプロゲステロン)と組み合わせて早産を予防するためのさらに有力な方法を提供するために使用できる。
【0044】
特に、排卵誘発(ovarian hyper-stimulation)またはin vitro受精は、黄体組織が多いために、正常な妊娠と比べて循環リラキシンレベルの高い妊娠をもたらす。これらの妊娠は、未熟分娩の発生率が高いため、高い血清中リラキシンレベルは早い陣痛開始と関連付けられることが示唆されてきた(Weissら(1993) Obstet Gynecol 82, 821-828)。しかし、これらの妊娠の複数の要因は胎児の未熟の危険性を高める一因となり得る。重要なことには、本開示の方法において記載するリラキシンの投与は、これらの妊娠で見とめられるレベルと比べて数倍も高い血清中リラキシンレベルを生じる。本発明者は、リラキシンが、これらの有意に高いレベルにおいて、経膣分娩の前提条件である子宮頚管の拡張を小さくし、そのため未熟分娩を防ぐことを示す。
【0045】
本開示は、流産の危険性を低減する方法をさらに包含する。流産、つまり、明確な原因のない妊娠約20週より前の妊娠の喪失は、初期妊娠の最もよくある合併症である。American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)によれば、公知の妊娠の約15%が流産に終わる。しかし、多くの流産は妊娠期間のあまりにも初期に起こり女性が妊娠していることに気付いてさえいないため、実際の数字はもっと高いであろう。ほとんどの流産は妊娠12週目より前に起こり、これは場合によっては母親とは通常無関係な胚の遺伝的な問題によるものである。初期自然堕胎の別の理由は、プロゲステロン欠損であり得る。これらの場合にはプロゲステロン補助剤が処方されてきたが、これが流産の危険性を低減するとはどの研究からも示されていない。特に妊娠後期段階における流産の他の原因としては、子宮の形成異常、子宮での成長、子宮頸部の問題、臍帯の問題、および胎盤の問題が挙げられるがこれらに限定されない。多くの場合に、流産は胎児の異常と関連付けられるが、妊娠約20週より前の受胎産物の喪失は、原因不明の障害である。
【0046】
現在、流産の危険性が高い妊娠女性は、床上安静で治療される。流産は、腹部痙攣または膣出血を呈することが多い。その他の症状として、鈍いまたは鋭い腰痛または腹痛、腹部痙攣を伴うか伴わない膣からの少量出血、膣を通って出てくる体液、組織または凝塊様物質、発熱、および嘔吐が挙げられるがこれらに限定されない。流産の危険性を低減するための方策は、主に身体活動の低減および床上安静に焦点を当て、これは、妊娠中の母親を衰弱させることが多い。さらに、本明細書に記載するリラキシン処置より以前は流産を防ぐ信頼できる方法は存在しなかった。しかし、本開示は、リラキシンの投与を介して、流産を防ぎ、流産の危険性を低減する信頼できる方法を提供する。流産は、子宮頚管の拡張等の子宮頸部変化を伴うことが多い。従って、リラキシンの投与は、本明細書で実証するように子宮頚管の拡張度を有意に低減するため、これらの場合にも非常に適している。
【0047】
リラキシン投与による早期分娩または流産の予防により、妊娠期間の長さを延ばすことができる。事例によっては、リラキシンの投与は、妊娠を満期まで延ばす事ができ、これは満期新生児については多くの新生児合併症の危険性がより低いために好ましい。子癇前症、膣出血または胎児仮死等の母親または新生児の病状によっては、満期前の分娩が必要とされる場合もある。これらの場合、乳児の器官が十分に発達して乳児の生存が確実な段階までリラキシンを投与して妊娠を延長できる。
【0048】
新生児が生存する可能性についての重要な要因は出生体重である。満期新生児の平均出生体重は、約7.5ポンド(3.2 kg)であるが、典型的に約5.5〜10ポンド(2.7〜4.6 kg)の範囲である。未熟児の出生体重は、以下のとおりに分類される:5 Ib 8 oz(2500 g)未満の出生体重は低出生体重(LBW);3 Ib 5 oz(1500 g)未満の体重は極低出生体重(VLBW);2 Ib 3 oz(1000 g)未満の体重は超低出生体重(ELBW)と定義される。LBW、VLBWおよびELBWは、脳性まひ、敗血症、慢性肺疾患、および死亡等(ただしこれらに限定されない)の乳児の様々な問題の危険性が高い。これらの乳児はまた、危険を伴う低体温の危険性も高い。平均未満の出生体重は、早産新生児に見られることが多い。従って、リラキシンを使用する未熟分娩の予防は、新生児の出生体重を増加する手段を提供する。とりわけ、平均未満の出生体重は、時折満期新生児においても見られることがある。特定の場合には、出生体重および生存率を高めるために、リラキシンの投与を使用して満期を超えるように妊娠を延ばすことができる。
【0049】
本開示は、リラキシンを投与することにより、未熟分娩および流産の危険性を低減する方法、ならびに妊娠期間を延ばし乳児出生体重を増加させる方法を提供する。リラキシン(例えば、ヒトH2リラキシン)は、静脈内、皮下、筋内、局所投与または脊髄注射等の(ただしこれらに限定されない)いくつかの投与経路によって未熟分娩になり易い女性に投与できる。リラキシンでの処置は、早くて第1期から陣痛開始まで行うか、あるいはまた、処置は第2期または第3期の始めから陣痛開始まで行うことができる。
【0050】
未熟分娩または流産の危険性のある女性
早期陣痛、未熟分娩もしくは流産の前歴がある女性、双子もしくは多胎児を妊娠している女性、またはin vitro受精(IVF)後に単胎児を妊娠している女性は、より早産の危険性が高い。さらに、非白人女性は、18歳未満または35歳を超えた女性と同じく、早期分娩の危険性がより高い。栄養不良、肥満、妊娠前の体重不足、5フィート未満の背丈は、この危険性を高めるその他の要因である。別の重要な局面は、妊娠と妊娠との間の期間であり、出産と次の妊娠の始まりとの間が6〜9ヶ月という短い期間は、早産の高い発生率と関連付けられる。さらに、特定の子宮または子宮頸部異常を持つ女性は、未熟児を分娩することが多い。例えば、妊娠が満期に達する前に、疼痛または子宮収縮無しに子宮頸部が開口(拡張)し、細くなる(展退)症状である子宮頸部無力症を患う女性。これらの事象は、妊娠が進むにつれて子宮の圧迫の強まりと共に開口する子宮頸部の脆弱性により起こる。さらに、出産前管理が遅いかまたは全く無い、喫煙、アルコール消費、違法薬物の使用、ドメスティックバイオレンス、社会的支援の欠如、非常に高レベルのストレス、および長時間の立ち仕事を伴う長い労働時間等(ただしこれらに限定されない)の特定の生活習慣要因も早産の危険性を増進させうる。妊娠の間の特定の病状はまた、女性が満期前に出産する可能性も高めうる。これらとしては、異常胎盤形成、尿路感染症、膣感染症、性感染症そして場合により他の感染症、糖尿病、高血圧、凝固障害(血栓性素因)、膣からの出血、新生児における特定の先天性異常、およびDES(ジエチルスチルベストロール、エストロゲン欠損症状を治療するために投与される合成エストロゲン)への曝露が挙げられる。
【0051】
流産の危険性の高い女性としては、35歳を超えるかまたは流産の前歴を持つ女性、および多胎妊娠の女性が挙げられる。さらに、ホルモン不足または不均衡、子宮または子宮頸部異常、風疹感染、クラミジア感染、他の性感染症、細菌性膣炎、制御不良の糖尿病、甲状腺障害、免疫系の障害、重度の腎疾患、および先天性心臓疾患は、流産の危険性を増進する。さらに、喫煙、飲酒、または違法薬物の使用等の生活習慣要因は、ニキビ治療薬アキュテイン等の特定の薬物、重度の栄養不良、ならびに高レベルの放射能または毒物等の環境および作業場危険要因への曝露と同様に、自然堕胎の可能性を高める。
【0052】
リラキシン組成および製剤
リラキシンおよびリラキシン類似体は、本開示の方法において使用されるために医薬品として製剤化される。生物学的または医薬的に活性なリラキシン(例えば、合成リラキシン、組換えリラキシン)またはリラキシンアゴニスト(例えば、リラキシン類似体もしくはリラキシン様モジュレーター)のリラキシン受容体への結合に関連した生物学的応答を刺激できる任意の組成物または化合物が、本開示において医薬品として使用できる。処方および投与の技術についての全般的な詳細は、科学文献に詳しく記載されている(Remington's Pharmaceutical Sciences, Maack Publishing Co, Easton Pa.を参照)。医薬的に活性なリラキシンを含有する医薬製剤は、当該分野で公知の任意の医薬品製造方法に従って調製できる。本開示の方法で使用される医薬的に活性なリラキシンまたはリラキシンアゴニストを含む製剤は、静脈内、皮下、筋内、局所等(ただしこれらに限定されない)の従来の許容可能な任意の手法または脊髄注射を介した投与のために処方され得る。説明のための実施例を以下に記載する。好適な一実施形態において、リラキシンは静脈内投与される。
【0053】
薬剤を静脈内注射で送達する場合、医薬的に活性なリラキシンまたはリラキシンアゴニストを含有する製剤は、注射可能な水性または油性の滅菌懸濁液等の注射可能な滅菌剤形の形態を取り得る。この懸濁液は、上記した適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて公知技術に従って処方され得る。注射可能な滅菌剤形はまた、非毒性の非経口許容される希釈剤または溶剤に入った注射可能な滅菌溶液または懸濁液であり得る。採用できる許容可能なビヒクルおよび溶剤の中では、水、および等張な塩化ナトリウムであるリンガー溶液がある。さらに、滅菌固定油を、従来どおり、溶剤または懸濁化剤として採用できる。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の無刺激性の固定油が採用できる。さらに、オレイン酸等の脂肪酸も、注射剤の調製において同様に使用できる。
【0054】
局所投与用の医薬製剤は、医薬的に許容可能な局所担体を局所投与に適切な投薬量で含み、体表面への塗布に適した任意の形態を取り得る。製剤は、例えば、クリーム、ローション、溶液、ゲル、軟膏、パテ等を含む。当業者に公知の様々な添加剤が、局所製剤に含まれ得る。例えば、比較的少量のアルコールを含む溶剤を使用して、特定の製剤成分を可溶化できる。製剤中に追加の透過促進剤を含むことも望ましくあり得る。透過促進剤は、局所薬送達の分野の当業者に公知であり、ならびに/または添付のテキストおよび文献に記載されている。例えば、Percutaneous Penetration Enhancers, Smithら編(CRC Press, 1995)を参照のこと。局所製剤は、乳白剤、抗酸化剤、香料、着色剤、ゲル化剤、増粘剤、希釈剤、安定剤、界面活性剤等の従来の添加剤も含み得る。抗菌剤等の他の薬剤も添加されて、保管時の腐敗を防止、すなわち、酵母およびかび等の微生物の成長を抑制できる。製剤はまた、刺激緩和添加剤を含んで、組成物の薬理学的活性成分または他の成分による皮膚刺激または皮膚損傷の可能性を最小限にするかまたは排除してもよい。
【0055】
経口投与用の医薬製剤は、当該分野で周知の医薬的に許容可能な担体を、経口投与に適した投薬量で用いて製剤化され得る。このような担体は、医薬製剤を、患者による摂取に適した錠剤、丸薬、粉末、カプセル、液体、ロゼンジ、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等の単位投薬形態に製剤化できる。経口使用のための医薬剤形は、リラキシン化合物を固体賦形剤と組み合わせ、錠剤または丸薬を得ることが所望であれば、任意に適切な添加化合物を添加した後に、得られた混合物を粉砕して顆粒混合物を加工することで、得られる。適切な固体賦形剤は、炭水化物またはタンパク質充填剤であり、乳糖、ショ糖、マンニトール、またはソルビトールを含む糖;トウモロコシ、小麦、コメ、ジャガイモ、または他の植物由来のスターチ;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース;アラビアゴムおよびトラガカントゴムを含むゴム;ならびにゼラチンおよびコラーゲン等のタンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、またはその塩(アルギン酸ナトリウム等)等の崩壊剤または可溶化剤を添加してもよい。同じく経口用に使用できる本開示の医薬剤形は、例えば、ゼラチン製のプッシュフィット(push-fit)カプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトール等のコーティングからなる密封したソフトカプセルである。プッシュフィットカプセルは、乳糖またはスターチ等の充填剤または結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、および任意に安定剤と混合されたリラキシンを含有し得る。ソフトカプセルにおいて、リラキシン化合物は、脂肪油、液体パラフィン、または液体ポリエチレングリコール等の適切な液体に、安定剤と共にまたは無しで、溶解または懸濁することができる。
【0056】
本開示の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合されたリラキシンを含有する。このような賦形剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴム等の懸濁剤、ならびに天然型リン脂質(例えば、レシチン)等の分散剤または湿潤剤、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから誘導される部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)、またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。水性懸濁液はまた、エチルまたはn-プロピルp-ヒドロキシ安息香酸等の1つ以上の保存料、1つ以上の着色剤、1つ以上の香味剤、およびショ糖、アスパルテームまたはサッカリン等の1つ以上の甘味剤も含有し得る。製剤は、浸透圧について調節できる。
【0057】
油性懸濁液は、リラキシンを、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはココナッツ油等の植物油、または液体パラフィン等の鉱油に懸濁させることで処方できる。油性懸濁液は、ミツロウ、固形パラフィンまたはセチルアルコール等の増粘剤を含み得る。甘味剤を添加して、口当たりのよい経口剤形を提供してもよい。これらの製剤は、アスコルビン酸等の抗酸化剤の添加により保存され得る。
【0058】
水の添加による水性懸濁液の調製に適している本開示の分散性粉末および顆粒は、分散剤、懸濁剤および/または湿潤剤、ならびに1つ以上の保存料と混合されるリラキシンから処方され得る。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤は、上記開示したものに例示されている。さらなる賦形剤、例えば、甘味剤、香味剤および着色剤が入っていてもよい。
【0059】
本開示の医薬製剤はまた、水中油エマルジョンの形態であり得る。油相は、オリーブ油もしくはラッカセイ油等の植物油、液体パラフィン等の鉱油、またはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤としては、アカシアゴムおよびトラガカントゴム等の天然ゴム、ダイズレシチン、エステルまたは脂肪酸から誘導された部分エステル等の天然型リン脂質、ならびにソルビタンモノオレエート等の無水ヘキシトール、ならびにポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等のこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物 が挙げられる。エマルジョンはまた、甘味剤および香味剤も含有し得る。シロップおよびエリキシル剤は、グリセロール、ソルビトールまたはショ糖等の甘味剤と共に処方され得る。このような製剤はまた、粘滑剤、保存料、香味剤または着色剤も含有し得る。
【0060】
投与および投薬レジメン
本開示の方法で使用する医薬的に活性なリラキシンを含有する製剤は、従来の任意の許容可能な手法で投与でき、静脈内、皮下、筋内、局所、および脊髄注射を介することが挙げられるがこれらに限定されない。投与は、薬の薬物動態および他の性質、ならびに患者の健康状態により変化する。一般的ガイドラインを以下に提示する。
【0061】
本開示の方法は、未熟分娩になり易いヒト女性における子宮頚管の拡張を低減する。さらに、本開示の方法は、未熟分娩または流産になり易い女性における未熟分娩および流産の危険性を低減し、ならびにこれらの被験体の妊娠期間の長さを延ばして乳児出生体重を増加させる。これを達成するのに十分な、単独での、または他の薬剤もしくは薬物(例えば、プロゲステロンまたは子宮収縮抑制剤)と組み合わせる、リラキシンの量が、治療上有効な用量と考えられる。この使用のために有効な投薬スケジュールおよび量、すなわち、「投薬レジメン」は、妊娠の段階、子宮頚管の早期拡張の程度、早期陣痛の重症度、有害な副作用の重症度、患者の健康の全般的状態、患者の身体的状態、年齢等を含む様々な要因に依存する。ある患者について投薬レジメンを計算する場合、投与モードも考慮される。投薬レジメンはまた、薬物動態、すなわち吸収速度、生物学的利用能、代謝、クリアランス等も考慮しなければならない。これらの原理に基づき、リラキシンは、未熟分娩になり易いヒト女性、好ましくは妊娠している女性において子宮頚管の拡張を低減するために使用できる。
【0062】
最新技術は、臨床医が、個々の患者に対してリラキシンの投薬レジメンを決定することを可能にする。例示のための例として、リラキシンについての以下に記載のガイドラインを、本開示の方法を実施する際に投与される医薬的に活性なリラキシン含有製剤の投薬レジメン(すなわち、用量スケジュールおよび投薬レベル)を決定するための指針として使用できる。一般的ガイドラインとして、医薬的に活性なH2ヒトリラキシン(例えば、合成、組換え)の毎日の用量は、典型的に約0.1〜500μg/kg(被験体体重)/日の範囲の量、より典型的に約1〜500μg/kg(被験体体重)/日の範囲の量であることが予測される。被験体はまた、医薬的に活性なH2ヒトリラキシン(例えば、合成、組換え)を約10〜1000μg/kg(被験体体重)/日の範囲の量でも受けられる。一実施形態において、リラキシンの投薬量は、10、30、100および250μg/kg/日である。別の実施形態において、これらの投薬量は、それぞれ約3、10、30および75ng/mLの血清中リラキシン濃度をもたらす。別の実施形態においては、リラキシンの投与を続行して血清中リラキシン濃度を約0.5〜約500ng/mlの範囲、より好ましくは約0.5〜約300ng/ml、最も好ましくは約3〜約75 ng/mlに維持する。別の実施形態においては、リラキシンを続けて、血清中リラキシン濃度を、被験体および症状に応じて約0.1〜約50ng/ml、より好ましくは約0.1〜約30ng/ml、最も好ましくは約1〜約20 ng/mlに維持する。リラキシン投与は、特定の期間または子宮頚管の拡張および早産を抑制するのに必要な期間の間維持する。例えば、リラキシン処置の持続期間は、患者、および必要に応じて1つ以上の任意の反復処置に応じて、約4時間〜約96時間の範囲で維持できる。あるいはまた、リラキシンは、数週間にわたり投与され得る。例えば、リラキシンの皮下投与用の携帯点滴ポンプを使用して、入院の必要なく未熟分娩の危険性のある女性を数週間にわたり処置できる。
【0063】
リラキシン製剤の単一または複数回投与は、未熟分娩の危険性のある女性により必要とされかつ寛容される投薬量および頻度に応じて投与され得る。製剤は、子宮頚管の拡張を有効に低減するのに十分な量のリラキシンを提供するべきである。リラキシンの静脈内投与のための典型的な医薬製剤は、具体的な療法に依存し得る。例えば、リラキシンは、単剤療法(すなわち、その他の併用薬物が無い)、またはプロゲステロン、子宮収縮抑制剤もしくは他の薬物等の別の医薬との組合せ療法を介して、患者に投与され得る。特に、患者に投与するリラキシンの投薬量は、年齢、妊娠段階、薬物寛容、ならびに併用薬物および条件に応じて変化し得る。
【実施例】
【0064】
実験
以下の具体的な実施例は、本開示を例示すること意図したものであり、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0065】
実施例1 子宮頸部成熟に対するヒトリラキシンの安全性および影響を評価する臨床研究
臨床研究の概説
現研究は、2つの目的をもって設計された。第1の目的は、満期女性における組換えヒトリラキシンの静脈内投与の24時間の安全性を決定することであった。第2の目的は、本方法により24時間投与された高用量のリラキシンが、子宮頸部を成熟させるか否か、または陣痛を誘導するか否かを決定することであった。主要な効力評価項目は、子宮頸部成熟の広く認められている複合測定法であるビショップスコアにおける基準からの変化であった(Bishop, 1964)。このスコアは、5つの要素を有し、全てが新生児の経膣分娩に必要な子宮頸部の変化(すなわち、子宮頸部の拡張、展退、児頭の下降度(station)、整合性(consistency)および配置)に寄与する。驚くべきことに, リラキシンは、子宮頸部成熟または陣痛開始を促進せず、逆に, これらの被験体において子宮頚管の拡張を低減した。
【0066】
研究被験体
研究被験体は、計画的な陣痛誘発のために入院している妊娠40週以上の健康な初産の女性であった。研究被験体の対象および除外基準は、表1に一覧している。本研究は、医薬品規制調和国際会議(International Conference on Harmonization)(ICH)、医薬品の臨床試験の実施に関する基準(Good Clinical Practices)(GCP)、FDA、自治体の条例(local regulations)、およびBAS Medical、Inc.の標準作業手順(SOP)のプロトコルの要件に応じて行った。調査員は、本研究に参加した各患者からインフォームド・コンセントを得る責任があった。インフォームド・コンセントの用紙に患者がサインする前に、本研究の全ての関連する局面を患者に説明した。インフォームド・コンセントは、地元の倫理委員会に承認され、日常的な治療の一部ではないあらゆる作業または処置を行う前に患者から得た。これには、診断的または治療的手順の遂行、および研究薬物の初回用量の投与が含まれたがこれらに限定されない。
【表1-1】
【表1-2】
【0067】
研究設計:本研究は二部構成で行った。
【0068】
パートAは、誘発を予定している18 人の妊娠40週以上の被験体の多施設無作為化二重盲検プラシーボ対照用量漸増研究であった。7.5、25および75 mcg/kg/日の用量のリラキシンをテストした。被験体を6人のコホートで処置し、無作為にリラキシンまたはプラシーボをそれぞれ4:2の比率で受けるように割り当てた。次の用量レベルへの用量漸増は、安全性データを検討してから実行した。
【0069】
適任な患者は、計画的誘発の少なくとも24時間前に入院させた。リラキシンまたはそれに釣り合ったプラシーボのいずれかを、持続静脈内点滴によって誘発前に24時間投与した。被験体は、研究薬物の投与の間中、血圧および心拍数、ならびに子宮収縮および陣痛開始についてモニタリングした。胎児の健康を評価するために、胎児ノンストレステストおよび心拍数モニタリングを行った。基準時点、投薬12および24時間目、ならびに分娩の2日後、1週間後および4週間後に、血清化学および血液学について血液サンプルを採取した。血清リラキシンレベルの評価のためのサンプルを、基準時点、ならびに投薬30分、1、4、6、12および24時間目で採取し、臍帯血液のサンプルもリラキシン測定のために採取した。分娩2日後にも研究被験体からサンプルを採取した。抗リラキシン抗体の発生測定用のサンプルを、投与前、ならびに分娩の1および4週間後に採取した。2日目にリラキシンレベルについて、ならびに1および4週目に抗リラキシン抗体の存在について新生児を評価した。
【0070】
研究のパートBは、誘発を予定している50人の妊娠40週以上の被験体の多施設無作為化二重盲検プラシーボ対照並行群研究であった。被験体をパートAで決定された最適用量のリラキシンまたはプラシーボに1:1の比率で無作為に分けた。パートAと同様に、適任な被験体に、誘発前にリラキシンまたはプラシーボの静脈内点滴を24時間投与した。全ての評価について、パートAと同じ手法で被験体および新生児を評価した。
【0071】
主要有効性評価項目は、基準時点から6、12および24時間目(または研究薬剤投与終了時)のビショップスコアの変化であった。スコアは、0(子宮頸部の変化が全く無い)から、完全に拡張(>5 cm)、展退(>80%)および軟化し、児頭の下降度(station)が+1または+2であり、前方に位置する子宮頸部を表す最大13までにわたる(Bishop, 1964)。いくつかの二次的な有効性評価項目も調査した:拡張完了までの時間;ビショップスコア変化が>3の被験体の割合;ビショップスコアが>5の被験体の割合;ビショップスコアが>8の被験体の割合;本陣痛(active labor)までの時間;分娩(経膣または帝王切開)までの時間;子宮収縮の頻度;テルブタリン処置または研究薬物(リラキシンもしくはプラシーボ)点滴の中断を要する子宮過刺激の発生;自然分娩の発生;帝王切開の割合;異常胎児心拍数出力(tracings)の発生;収縮期および拡張期血圧の基準時点からの変化;コックロフト-ゴールト(Cockroft-Gault)式によって決定された血清クレアチニンおよび予測クレアチニンクリアランスの基準時点からの変化。
【0072】
安全性
報告および観察された有害な事象、身体的検査、および12誘導ECGの所見、バイタルサイン測定、ならびに臨床実験的評価の結果から安全性を評価した。投薬前、投薬開始から12および24時間目、分娩後2日目、1週間目および4週間目に血清臨床化学サンプルを採取した。母体バイタルサインには、体温、心拍数および血圧が含まれた。これらの評価は、スクリーニング時、投薬前、投薬中、投薬後24〜48時間、ならびに分娩後2日目、1週目および4週目に行った。投薬期間後24〜48時間の間の測定は、28、32、36、40、44および48時間目に行った。新生児バイタルサインには、体温、脈、呼吸および血圧が含まれた。全てのバイタルサイン測定を、分娩時、分娩後2日目、1週目および4週目に行った。
【0073】
研究被験体における有害な事象は、開始時、すなわち、投薬期間(0〜24時間目)、点滴後24時間(24〜48時間目)、および経過観察(48時間目より後)に照らして記録した。胎児および新生児において報告された有害な事象は、処置群別でもまとめた。実験的テスト(血液学、血清化学、検尿)については、バイタルサイン、身体的検査、およびECG要約統計量を、基準時点、および基準時点から各指定時点での変化について処置群ごとに得た。収縮期および拡張期血圧の事後反復測定分析も行った。
【0074】
重篤な有害事象の1つである児頭骨盤不適合が、プラシーボ群の1人の被験体において報告された。この事象は、投薬後の経過観察期間に起こった(投薬から48時間目より後)。処置も薬物も必要なく、被験体は回復した。重篤な有害事象は、3人の胎児について報告された。2件の事象は、プールされたリラキシン群において報告された(重症度が中度の胎児低酸素症)。いずれの場合も処置も薬物も必要なく、有害な事象は研究薬物とは無関係であった。プラシーボ群において重症度が中度の急性胎児仮死が1件報告された。薬物を投与したところ、胎児はこの事象から回復した。8人の新生児において重篤な有害事象が報告された;1人は7.5 mcg/kg/日用量群、4人がプールされたリラキシン群、および3人がプラシーボ群。いずれも、研究薬物とは無関係で、全ての新生児が有害な事象から回復した。これらの事象には、溶血性疾患の報告が2件、ならびに重度の新生児仮死、不十分な体重増加、巨口症、高ビリルビン血症、脳虚血、十分な自発呼吸の欠如、先天性心臓病、胎便吸引、および結膜炎の報告がそれぞれ1件ずつ含まれていた。
【0075】
統計的分析
無作為化被験体全員で構成される全対象(Intent-to-treat)(ITT)集団、ならびに研究薬物を少なくとも18時間受け(75%コンプライアンス)、基準時点および24時間目(または処置終了時)のビショップスコア評価を有する無作為化被験体の全員で構成されるプロトコル遵守(Per-protocol)(PP)集団に対して分析を行った。有効性比較のために、パートAおよびBのプラシーボ患者全員(プールされたプラシーボ群)と同様に、パートBにおいて投与された活性用量を受けたパートAの患者はパートBの患者と共にプールした(プールされたリラキシン群)。
【0076】
リラキシンELISA
血清リラキシン濃度の測定は、アフィニティー精製したヤギ抗リラキシン抗体でコーティングされた96ウェルマイクロタイタープレートを用いた酵素免疫測定技術に基づく。予め希釈した対照および未知サンプルを、マイクロタイタープレートのウェルにピペットで移し、2〜8℃でインキュベートして、存在するリラキシンを抗リラキシン抗体に結合させる。一晩のインキュベーションの後、プレートを洗浄して、非反応性血清成分を全て除去した。アフィニティー精製したウサギ抗リラキシンペルオキシダーゼ共役体を添加し、室温にて振盪しながら3時間インキュベートした。添加した共役体は、結合したリラキシンを全て認識する。結合しなかったタンパク質および試薬をさらなる洗浄工程により除去し、その後基質であるテトラメチルベンジジン(TMB)溶液をウェルに添加して発色させた。20分間のインキュベーションの後、2M硫酸のアリコートを添加して、呈色反応を止め、プレート分光光度計を用いて450 nm(参照650 nm)にて吸光度を測定した。発色の強度は、サンプル中のリラキシンの濃度に比例した。20%ヒト血清マトリクス中の精製した組換えリラキシンを4-パラメータ曲線フィット方程式を利用して測定して作成した標準曲線に従って、リラキシンレベルを定量化した。このアッセイは、96 pg/mlの作用感度を有した。このELISA で分析した低レベル、中レベルおよび高レベルのリラキシンでスパイクした対照は、変動係数(CV)が7.21%〜9.16%にわたる許容可能なラン間(between-run)精度を有していた。本研究は、米国食品医薬品局(FDA)、医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GLP)の21CFRの58章の規則に従って行った。
【0077】
抗リラキシン抗体テスト
このアッセイは、リラキシン分子でコーティングされた96ウェルマイクロタイタープレートを用いた酵素免疫測定技術に基づく。予め希釈した対照および未知サンプルを、マイクロタイタープレートのウェルにピペットで移し、室温にて振盪しながらインキュベートして、存在する全ての抗リラキシン抗体をリラキシンに結合させた。3時間のインキュベーションの後、プレートを洗浄して、非反応性血清成分を全て除去した。あらゆるIgGまたはIgM 抗体を認識する種特異的抗IgG/IgM西洋ワサビペルオキシダーゼ共役体をリラキシン固体相に結合させた。結合しなかったタンパク質および試薬をさらなる洗浄工程により除去し、その後基質であるテトラメチルベンジジン(TMB)溶液を添加した。10分間のインキュベーションの後、2M硫酸のアリコートを添加し、プレート分光光度計を用いて450 nm(参照630 nm)にて吸光度を測定した。発色の強度は、サンプル中の抗リラキシン抗体の濃度に比例した。光学密度を、所定のカットオフ光学密度と比較することにより、抗体陽性サンプルを決定した。
【0078】
所見
40人がリラキシンで処置され、32 人がプラシーボで処置された合計72人の被験体(パートAにおいて22 人、およびパートBにおいて50人)を、研究に登録した。研究集団の平均年齢は、24歳であった(範囲:18〜32歳)。被験体の大多数は白色人種(85%、n = 61)であった。被験体は、平均妊娠前体重は60 kg(範囲:45〜80 kg)で、妊娠40 週を呈した。集団統計学データは、パートAにおいて3用量レベルに無作為に分けた被験体、およびパートBにおいて2用量群に無作為に分けた被験体に似ていた。被験体全員が、スクリーニング時および処置前評価時の両方において<4のビショップスコアを呈した。被験体全員の平均ビショップスコアは、スクリーニング時および投薬前基準時点の両方の測定において、2.1+1.5(平均値+SD)であった。
【0079】
パートA:パートAの第1のコホートにおいて、7人の被験体が7.5μg/kg/日リラキシンを受け、3人の被験体がプラシーボを受けた。これらの被験体から得た安全性データを盲検様式で評価したところ、許容可能であることが分かったため、6人の被験体を無作為にコホート2に分け、25 mcg/kg/日のリラキシンまたはプラシーボを受けるように登録した。これらの被験体における安全性を確認した後、第3のコホートへの登録を行い、4人および2人の被験体にそれぞれ75 mcg/kg/日のリラキシンおよびプラシーボを投薬した。パートAにおける22人の被験体から得たデータに基づき、75 mcg/kg/日のリラキシン用量をパートBの研究のための用量として選択した。
【0080】
パートB:75 mcg/kg/日群およびプラシーボ群に等しく分配した合計50人の患者を本研究のこのセグメントに登録した。72人の被験体の内の合計9人が、18時間未満の研究薬物点滴を受けた。点滴ポンプ送達系の技術的な問題のために4人の被験体において点滴を一時的に中断し、陣痛開始(n=12)または破水(n=4)のために16人の被験体において点滴を打ち切った。プールされたリラキシン群における平均処置曝露時間は22.3+4.2時間(n = 29)であり、プールされたプラシーボ群における平均処置曝露時間は21.4+6.1時間(n = 32)であった。リラキシン群およびプラシーボ群において基準時点での平均血清中濃度は、それぞれ0.293および0.561ng/mLであり、内因性リラキシンレベルを反映していた。リラキシン群におけるリラキシン濃度は、投薬12時間目で13.0 ng/mLのピークまで急速に上昇し、プラシーボ群におけるレベルは一定のままであった。分娩後の2日目に、両群の濃度が検出レベルよりわずかに上のレベルにまで降下した(図2を参照)。
【0081】
プールされたリラキシン群およびプラシーボ群における、基準時点、ならびに研究薬物処置の6、12および24時間目での平均ビショップスコアを図3に示す。基準時点において、平均 ビショップスコアは、プールされたリラキシン群およびプラシーボ群においてそれぞれ2.2および1.9であった。以下の表2は、プールされたプラシーボ群およびプールされたリラキシン群における、基準時点でのビショップスコア、ならびに6、12および24時間目での基準時点からの変化をまとめたものである。両方の処置群が、基準時点から、研究薬物点滴の6、12および24時間目でのビショップスコアの上昇を示した。平均上昇は、プールされたリラキシン群において1.55〜3.26、プラシーボ群において1.77〜4.19にわたった。
【0082】
いずれの観察時点においても、プールされたリラキシン群とプラシーボ群との間で統計的に有意な差はなかった。ビショップスコアの個別成分も、子宮頚管の拡張という1つのパラメータ以外は、プールされたリラキシン群とプールされたプラシーボ群との間で類似していた。
【0083】
プールされたプラシーボ群およびプールされたリラキシン群は、同程度の子宮頚管の拡張から開始し、拡張の変化を時間経過と共に測定した(図4)。プラシーボ群は、子宮頚管の拡張の持続的な増大を示し、開始時の拡張から24時間目の時点までで1.39 cm変化した。対照的に、リラキシン群は、リラキシン投与の始めの数時間の間でわずかな増大しか示さず、これは時間経過に伴い横ばいになった。24時間目の時点で、この群における子宮頚管の拡張は、最初の拡張から0.69 cmしか増大しなかった。従って、子宮頸部の拡張は、プラシーボ群と比べてリラキシン群において有意に低減し(t-テストでp<0.024)、リラキシンが子宮頚管の拡張を止めることを示した。パートAでテストした低用量リラキシン群(7.5および25μg/kg/日)における合計ビショップスコアも、プールされたプラシーボ群で見とめられたものと差異が無かった(データは示さず)。分娩に関連する二次的評価項目を表3に示す。リラキシン点滴は、経膣分娩の発生もしくは時間、自然分娩の発生、または陣痛開始までの時間に有意に影響を及ぼさなかった。胎児心拍数に対して、リラキシン処置の影響はなかった。
【表2】
【0084】
表2についての注記
1)プールされたリラキシン群(75μg/kg/日)は、パートAおよびBにおいて同じ活性用量を受けた被験体を組み合わせた。プールされたプラシーボ群は、パートAおよびBにおいてプラシーボを受けた被験体を組み合わせた。2)本研究において無作為化した被験体(ITT集団)を本表に含めた。3)CRFで報告された合計ビショップスコアを本表で使用した。合計ビショップスコアが>13の場合には「13」を用いた。4)基準時点の値を、投薬前の合計ビショップスコアと規定した。投薬前の値が無い場合は、スクリーニング値を用いた。5)最後の観察(Last Obs.)は、基準時点より後の最後に得た値と規定した。6)変化は、視察時(visit)の値から基準時点の値を差し引いて計算した。*P値は、プールされたリラキシン群とプールされたプラシーボ群との差を評価するためだけに得た。
【表3】
【0085】
結論
本発明者の研究の目的は、妊娠しているヒト女性に静脈内投与した際の組換えヒトリラキシンの安全性を判定すること、および子宮頸部成熟に対するヒトリラキシンの効果を調査することであった。本研究は、この兆候(indication)について静脈内投与されたヒトリラキシンの第1の使用を報告し、投薬範囲全体にわたりリラキシンが関連性のある有害な影響を示さなかったこと実証する。動物に対するリラキシンの効果とは対照的に、リラキシンは、妊娠満期のヒト女性においては、子宮頸部成熟についての標準的測定値であるビショップスコアの上昇をもたらすことはなかった。代わりに、本研究は、リラキシンの投与がこれらの女性において子宮頚管の拡張度を低減したことを示す。従って、リラキシンは、早過ぎる子宮頚管の拡張を低減するために使用でき、未熟分娩または流産の危険性を低減するための処置として大いに適用できることを示す。
【0086】
実施例2
未熟分娩の危険性のある女性におけるリラキシンの有効性を決定するための臨床研究
研究の概略および設計
子宮頚管の早期拡張を起こしている女性においてそれ以上の子宮頚管の拡張を阻むヒトリラキシンの有効性を評価するために無作為化二重盲検プラシーボ対照研究を行う。この兆候を示す女性は、通常、入院し、床上安静となる。本研究は、これらの個人を登録し、院内での静脈内点滴、または入院を必要としない皮下投与のための点滴ポンプの使用のいずれかによりリラキシンを投与する。主要有効性評価項目は、子宮頚管の早期拡張の開始、およびリラキシンまたはプラシーボ投与から、分娩までの時間の延長である。この時間の長さを、リラキシン処置群と対照群との間で比較し、統計的分析を行う。
【0087】
本開示の範囲および精神から逸脱することのない本開示の種々の改変および変更が当業者には明らかであろう。本開示は特定の好適な実施形態に関連して説明してきたが、請求する本開示は、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきでないことが理解されよう。実際、本開示を実施するために記載したモードの、当業者に理解される種々の改変が、特許請求の範囲内にあることを意図する。

本発明は、以下の態様を包含する。
[1]
子宮頚管の拡張度を低減する方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を妊娠しているヒト女性に投与して、子宮頚管の拡張度を低減する工程を含む、前記方法。
[2]
前記妊娠しているヒト女性が、早期収縮、下腹部の痙攣、腰の鈍痛、骨盤領域の圧迫、胃痙攣、膣分泌物、膣出血、および膣水状液漏れからなる群より選択される症状に直面している、上記[1]に記載の方法。
[3]
前記リラキシンがヒトH2リラキシンである、上記[1]に記載の方法。
[4]
前記リラキシンを、約0.1〜500μg/kg(被験体体重)の範囲の量で前記女性に投与する、上記[1]に記載の方法。
[5]
前記リラキシンを前記女性に投与して、リラキシンの血清中濃度を約0.5〜50ng/mlで維持する、上記[1]に記載の方法。
[6]
前記リラキシンを妊娠第1期の始めに投与する、上記[1]に記載の方法。
[7]
前記リラキシンを陣痛開始まで投与する、上記[6]に記載の方法。
[8]
前記リラキシンを妊娠第2期の始めに投与する、上記[1]に記載の方法。
[9]
前記リラキシンを陣痛開始まで投与する、上記[8]に記載の方法。
[10]
前記リラキシンを妊娠第3期の始めに投与する、上記[1]に記載の方法。
[11]
前記リラキシンを陣痛開始まで投与する、上記[10]に記載の方法。
[12]
早産の危険性を低減する方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を妊娠しているヒト女性に投与して、早産の危険性を低減する工程を含む、前記方法。
[13]
前記妊娠しているヒト女性が、早期収縮、下腹部の痙攣、腰の鈍痛、骨盤領域の圧迫、胃痙攣、膣分泌物、膣出血、および膣水状液漏れからなる群より選択される症状に直面している、上記[12]に記載の方法。
[14]
前記リラキシンがヒトH2リラキシンである、上記[12]に記載の方法。
[15]
前記リラキシンを、約0.1〜500μg/kg(被験体体重)の範囲の量で前記女性に投与する、上記[12]に記載の方法。
[16]
前記リラキシンを前記女性に投与して、リラキシンの血清中濃度を約0.5〜50ng/mlで維持する、上記[12]に記載の方法。
[17]
前記リラキシンを妊娠第1期の始めに投与する、上記[12]に記載の方法。
[18]
前記リラキシンを陣痛開始まで投与する、上記[17]に記載の方法。
[19]
前記リラキシンを妊娠第2期の始めに投与する、上記[12]に記載の方法。
[20]
前記リラキシンを陣痛開始まで投与する、上記[19]に記載の方法。
[21]
前記リラキシンを妊娠第3期の始めに投与する、上記[12]に記載の方法。
[22]
前記リラキシンを陣痛開始まで投与する、上記[21]に記載の方法。
[23]
乳児出生体重を増加させる方法であって、
a)未熟分娩の危険性のある妊娠しているヒト女性を選択する工程;および
b)医薬的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を該女性に投与して妊娠期間の長さを延ばすことによって、乳児出生体重を増加させる工程
を含む、前記方法。
[24]
前記妊娠しているヒト女性が、早期収縮、下腹部の痙攣、腰の鈍痛、骨盤領域の圧迫、胃痙攣、膣分泌物、膣出血、および膣水状液漏れからなる群より選択される症状に直面している、上記[23]に記載の方法。
[25]
前記リラキシンがヒトH2リラキシンである、上記[23]に記載の方法。
[26]
前記リラキシンを、約0.1〜500μg/kg(被験体体重)の範囲の量で前記女性に投与する、上記[23]に記載の方法。
[27]
前記リラキシンを前記女性に投与して、リラキシンの血清中濃度を約0.5〜50ng/mlで維持する、上記[23]に記載の方法。
[28]
前記リラキシンを妊娠第1期の始めに投与する、上記[23]に記載の方法。
[29]
前記リラキシンを陣痛開始まで投与する、上記[28]に記載の方法。
[30]
前記リラキシンを妊娠第2期の始めに投与する、上記[23]に記載の方法。
[31]
前記リラキシンを陣痛開始まで投与する、上記[30]に記載の方法。
[32]
前記リラキシンを、妊娠第3期の始めに投与する、上記[23]に記載の方法。
[33]
前記リラキシンを陣痛開始まで投与する、上記[32]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]