特許第5653429号(P5653429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5653429
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】射出成形機及び電源回生コンバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/797 20060101AFI20141218BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20141218BHJP
   B29C 45/17 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   H02M7/797
   H02M7/12 F
   B29C45/17
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-521477(P2012-521477)
(86)(22)【出願日】2011年6月21日
(86)【国際出願番号】JP2011064145
(87)【国際公開番号】WO2011162246
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2013年2月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-142641(P2010-142641)
(32)【優先日】2010年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】森田 洋
(72)【発明者】
【氏名】水野 博之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 好古
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徳高
【審査官】 杉浦 貴之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−163751(JP,A)
【文献】 特開平04−244798(JP,A)
【文献】 特開昭63−194596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/797
B29C 45/17
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源とインバータとの間に接続される電源回生コンバータを備えた射出成形機であって、
交流電力と直流電力とを双方向に変換する電力変換部と、
前記インバータと前記電力変換部との間にあるコンデンサの直流電圧を検出する直流電圧検出部と、
前記直流電圧検出部が検出した直流電圧と所定電圧との間の電圧差に基づいて生成する制御信号を前記電力変換部に対して出力し、前記交流電源と前記電力変換部との間を流れる交流電流を制御する交流電流制御部と、を備え、
前記コンデンサに回生される電力が、前記コンデンサに回生される最大電力未満に設定された前記交流電源に流れる交流電流の許容最大値に対応する電力以上となった場合に、前記電力変換部から前記交流電源に流れる交流電流を許容最大値とし、前記コンデンサに回生される電力と前記電力変換部から前記交流電源に回生される電力との差に相当する電力を前記コンデンサに蓄える、
射出成形機。
【請求項2】
前記交流電流制御部は、前記電圧差を打ち消すための制御信号を前記電力変換部に対して出力する、
請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記交流電流制御部は、前記直流電圧検出部が検出した直流電圧と所定電圧との間の電圧差と、該直流電圧の時間的な変動とに基づいて生成する制御信号を前記電力変換部に対して出力し、前記交流電源と前記電力変換部との間を流れる交流電流を制御する、
請求項1に記載の射出成形機。
【請求項4】
前記制御信号は、前記直流電圧が前記所定電圧を上回る場合、前記交流電源から前記電力変換部への交流電流の流れを禁止するように出力される、
請求項1に記載の射出成形機。
【請求項5】
交流電源とインバータとの間に接続される電源回生コンバータであって、
交流電力と直流電力とを双方向に変換する電力変換部と、
前記インバータと前記電力変換部との間にあるコンデンサの直流電圧を検出する直流電圧検出部と、
前記直流電圧検出部が検出した直流電圧と所定電圧との間の電圧差に基づいて生成する制御信号を前記電力変換部に対して出力し、前記交流電源と前記電力変換部との間を流れる交流電流を制御する交流電流制御部と、備え、
前記コンデンサに回生される電力が、前記コンデンサに回生される最大電力未満に設定された前記交流電源に流れる交流電流の許容最大値に対応する電力以上となった場合に、前記電力変換部から前記交流電源に流れる交流電流を許容最大値とし、前記コンデンサに回生される電力と前記電力変換部から前記交流電源に回生される電力との差に相当する電力を前記コンデンサに蓄える、
電源回生コンバータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源とインバータとの間に接続される電源回生コンバータを備えた射出成形機及びその電源回生コンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流電源とモータを駆動するインバータとの間に接続される電源回生コンバータであり、ヒステリシスコンパレータによってDCリンクコンデンサの直流電圧と交流電源の電圧ピーク値との間の差を監視しながら、直流電圧が第一の閾値を超えた場合に電源回生運転を開始させ、その後に直流電圧が(第一の閾値より低い)第二の閾値を下回った場合にその電源回生運転を停止させる電源回生コンバータが知られている。
【0003】
これに対し、交流電源に関する交流電流の大きさ及び交流電圧の位相(入力電流情報)に基づく交流電源とモータと電源回生コンバータとの間における電力のやり取りの状態(以下、「電力状態」とする。)の判定結果、及び、DCリンクコンデンサの直流電圧(直流電圧情報)に基づく電力状態の判定結果に応じて、自身の力行運転と電源回生運転とを切り換える電源回生コンバータが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この電源回生コンバータは、直流電圧情報に基づいて、モータが発生させた電力がDCリンクコンデンサに流入している状態(以下、「モータ回生状態」とする。)にあると判定した場合に電源回生運転を開始させ、その後の直流電圧の変動にかかわらず所定時間に亘ってその電源回生運転を継続させる。
【0005】
そして、その所定時間が経過した後に、この電源回生コンバータは、直流電圧情報に基づく電力状態の再度の判定と、判定結果が安定するまでに比較的時間のかかる、入力電流情報に基づく電力状態の判定とを実行し、少なくとも何れか一方でモータ回生状態にあると判定した場合に、その電源回生運転を更に継続させる。
【0006】
このようにして、この電源回生コンバータは、電源回生運転を開始させる際の、ヒステリシスコンパレータに起因するチャタリング(力行運転と電源回生運転とが頻繁に切り換えられる現象)の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−289794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の電源回生コンバータ及び特許文献1の電源回生コンバータは何れも、電源回生運転を開始させた途端に、モータが発生させた電力の大きさにかかわらず、一定の交流電流を電源回生コンバータから交流電源に流そうとするので、電源回生コンバータから交流電源に回生される電力が、インバータから電源回生コンバータへ回生される電力よりも大きい場合、DCリンクコンデンサにおける直流電圧の低下を引き起こすこととなる。
【0009】
また、ノイズ等の影響によりDCリンクコンデンサにおける直流電圧の値が上述の閾値を一時的に上回り電源回生運転が誤って開始されてしまうと、従来の電源回生コンバータは、不可避的にチャタリングを引き起こすこととなり、また、特許文献1の電源回生コンバータは、DCリンクコンデンサにおける直流電圧の値の大幅な低下を引き起こすこととなる。
【0010】
そのため、従来の電源回生コンバータ及び特許文献1の電源回生コンバータは何れも、電源回生運転が誤って開始されてしまうのを防止するために、その閾値をある程度高めに設定しておかなければならず、その結果、電源回生運転の開始を遅らせ、効率的な電源回生運転の実行を困難なものとする。
【0011】
上述の点に鑑み、本発明は、電源回生運転をより効率的に実行可能な電源回生コンバータを備えた射出成形機及びその電源回生コンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するために、本発明の実施例に係る射出成形機は、交流電源とインバータとの間に接続される電源回生コンバータを備えた射出成形機であって、交流電力と直流電力とを双方向に変換する電力変換部と、前記インバータと前記電力変換部との間にあるコンデンサの直流電圧を検出する直流電圧検出部と、前記直流電圧検出部が検出した直流電圧と所定電圧との間の電圧差に基づいて生成する制御信号を前記電力変換部に対して出力し、前記交流電源と前記電力変換部との間を流れる交流電流を制御する交流電流制御部と、を備える。
【0013】
また、前記交流電流制御部は、前記電圧差を打ち消すための制御信号を前記電力変換部に対して出力することが好ましい。
【0014】
また、前記交流電流制御部は、前記直流電圧検出部が検出した直流電圧と所定電圧との間の電圧差と、該直流電圧の時間的な変動とに基づいて生成する制御信号を前記電力変換部に対して出力し、前記交流電源と前記電力変換部との間を流れる交流電流を制御することが好ましい。
【0015】
また、前記制御信号は、前記直流電圧が前記所定電圧を上回る場合、前記交流電源から前記電力変換部への交流電流の流れを禁止するように出力されることが好ましい。
【0016】
また、本発明の実施例に係る電源回生コンバータは、交流電源とインバータとの間に接続される電源回生コンバータであって、交流電力と直流電力とを双方向に変換する電力変換部と、前記インバータと前記電力変換部との間にあるコンデンサの直流電圧を検出する直流電圧検出部と、前記直流電圧検出部が検出した直流電圧と所定電圧との間の電圧差に基づいて生成する制御信号を前記電力変換部に対して出力し、前記交流電源と前記電力変換部との間を流れる交流電流を制御する交流電流制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
上述の手段により、本発明は、電源回生運転をより効率的に実行可能な電源回生コンバータを備えた射出成形機及びその電源回生コンバータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例に係る射出成形機の要部構成を示す図である。
図2】本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される電源回生コンバータの構成例を示す機能ブロック図である。
図3図2の電源回生コンバータにおけるモータ電力、電源回生電力、及び直流電圧の時間的推移を示す図である。
図4図2の電源回生コンバータにおける電力変換制御処理の流れを示すフローチャートである。
図5】本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される電源回生コンバータの別の構成例を示す機能ブロック図である。
図6図5の電源回生コンバータにおけるモータ電力、電源回生電力、及び直流電圧の時間的推移を示す図である。
図7図5の電源回生コンバータにおける電力変換制御処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0020】
図1は、本発明の実施例に係る射出成形機の一例の要部構成を示す図である。
【0021】
射出成形機は、本例では電動式射出成形機であり、射出用のサーボモータ40Aを備える。射出用のサーボモータ40Aの回転はボールネジ2に伝えられる。ボールネジ2の回転により前後進するナット3はプレッシャプレート4に固定されている。プレッシャプレート4は、ベースフレーム(図示せず。)に固定されたガイドバー5、6に沿って移動可能である。プレッシャプレート4の前後進運動は、ベアリング7、ロードセル8、射出軸9を介してスクリュ50に伝えられる。スクリュ50は、加熱シリンダ51内に回転可能に、かつ軸方向に移動可能に配置されている。加熱シリンダ51におけるスクリュ50の後部には、樹脂供給用のホッパ52が設けられている。射出軸9には、ベルトやプーリ等の連結部材53を介してスクリュ回転用のサーボモータ40Bの回転運動が伝達される。すなわち、スクリュ回転用のサーボモータ40Bにより射出軸9が回転駆動されることにより、スクリュ50が回転する。
【0022】
可塑化/計量工程においては、加熱シリンダ51の中をスクリュ50が回転しながら後退することにより、スクリュ50の前部、すなわち加熱シリンダ51のノズル51−1側に溶融樹脂が貯えられる。射出工程においては、スクリュ50の前方に貯えられた溶融樹脂を金型内に充填し、加圧することにより成形が行われる。この時、樹脂を押す力がロードセル8により反力として検出される。つまり、スクリュ前部における樹脂圧力が検出される。検出された圧力は、ロードセル増幅器55により増幅され、制御手段として機能するコントローラ56(制御装置)に入力される。また、保圧工程では、金型内に充填した樹脂が所定の圧力に保たれる。
【0023】
プレッシャプレート4には、スクリュ50の移動量を検出するための位置検出器57が取り付けられている。位置検出器57の検出信号は増幅器58により増幅されてコントローラ56に入力される。この検出信号は、スクリュ50の移動速度を検出するために使用されてもよい。
【0024】
サーボモータ40A、40Bにはそれぞれ、回転数を検出するためのエンコーダ41A、41Bが備えられている。エンコーダ41A、41Bで検出された回転数はそれぞれコントローラ56に入力される。
【0025】
サーボモータ40Cは、型開閉用のサーボモータであり、サーボモータ40Dは、成形品突出し(エジェクタ)用のサーボモータである。サーボモータ40Cは、例えばトグルリンク(図示せず。)を駆動して型開閉を実現する。また、サーボモータ40Dは、例えばボールネジ機構を介してエジェクタロッド(図示せず)を移動させることで成形品突出しを実現する。サーボモータ40C、40Dにはそれぞれ、回転数を検出するためのエンコーダ41C、41Dが備えられている。エンコーダ41C、41Dで検出された回転数はそれぞれコントローラ56に入力される。
【0026】
コントローラ56は、マイクロコンピュータを中心に構成されており、例えば、CPU、制御プログラム等を格納するROM、演算結果等を格納する読書き可能なRAM、タイマ、カウンタ、入力インターフェイス、及び出力インターフェイス等を有する。
【0027】
コントローラ56は、複数の各工程に応じた電流(トルク)指令をサーボモータ40A〜40Dのそれぞれに送る。例えば、コントローラ56は、サーボモータ40Bの回転数を制御して可塑化/計量工程を実現する。また、コントローラ56は、サーボモータ40Aの回転数を制御して射出工程及び保圧工程を実現する。同様に、コントローラ56は、サーボモータ40Cの回転数を制御して型開工程及び型閉工程を実現する。さらに、コントローラ56は、サーボモータ40Dの回転数を制御して成形品突出し工程を実現する。
【0028】
ユーザインターフェース35は、型開閉工程、射出工程等の各成形工程のそれぞれに対して、成形条件を設定可能な入力設定部を備える。また、ユーザインターフェース35は、後述の消費電力算出のために、型開閉工程、射出工程等の各成形工程のそれぞれに対して成形条件を入力する入力部を備える。その他、ユーザインターフェース35は、ユーザからの各種指示を入力する入力部を備えると共に、ユーザに対して各種情報を出力する出力部(例えば表示部)を備える。
【0029】
射出成形機における射出成形の1サイクルは、典型的には、金型を閉じる型閉工程と、金型を締め付ける型締め工程と、金型のスプル(図示せず)にノズル51−1を押しつけるノズルタッチ工程と、加熱シリンダ51内のスクリュ50を前進させて、スクリュ50前方に溜まった溶融材料を金型キャビティ(図示せず)内に射出する射出工程と、その後、気泡、ヒケの発生を抑制するために保持圧力をしばらくかける保圧工程と、金型キャビティ内に充填された溶融材料が冷却されて固まるまでの間の時間に次のサイクルのために、スクリュ50を回転させて、樹脂を溶融しながら加熱シリンダ51の前方にため込む可塑化/計量工程と、固化された成形品を金型から取り出すために、金型を開く型開工程と、成形品を金型に設けられた突出しピン(図示せず)によって押し出す成形品突出し工程とからなる。
【0030】
電源回生コンバータ10は、交流電源20の交流電力を直流電力に変換するための装置であり、例えば、射出成型器に搭載され、交流電源20と複数のインバータ部30A、30B、・・・(以下、集合的に「インバータ部30」とも称する。「モータ40」並びに後述の「電力変換部31」及び「コンデンサ32」についても同様である。)との間に接続される。
【0031】
交流電源20は、例えば、商用の3相交流電源であり、電源回生コンバータ10に対して交流電流を供給する。
【0032】
インバータ部30はそれぞれ、電源回生コンバータ10が出力する直流電力を交流電力に変換しその交流電力を各種負荷に供給するための装置であり、例えば、交流電力と直流電力とを双方向に変換可能なスイッチング素子で構成される電力変換部31(31A、31B、・・・)と、コンデンサ32(32A、32B、・・・)とを備えたサーボカードであり、モータ40(40A、40B、・・・)のそれぞれに交流電流を供給する。本実施例では、インバータ部30Aが射出用のサーボモータ40Aに接続され、インバータ部30Bがスクリュ回転用のサーボモータ40Bに接続され、インバータ部30Cが型開閉用のサーボモータ40Cに接続され、インバータ部30Dがエジェクタ用のサーボモータ40Dに接続される。なお、電源回生コンバータ10は、単一のインバータ部30のみに接続される構成であってもよい。
【0033】
図2は、本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される電源回生コンバータ10の構成例を示す機能ブロック図である。
【0034】
電源回生コンバータ10は、電力変換部11、ACリアクトル12、交流電流検出部13、DCリンクコンデンサ14、直流電圧検出部15、及び交流電流制御部16を含む。
【0035】
電力変換部11は、交流電力と直流電力とを双方向に変換可能な装置であり、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成されるスイッチング素子である。
【0036】
具体的には、電力変換部11は、後述の交流電流制御部16が出力する制御信号に応じて、PWM(Pulse Width Modulation)制御により、DCリンクコンデンサ14における直流電力から交流電源20における交流電力への変換動作(電源回生運転)を行い、その電源回生運転における、交流電源20と電力変換部11との間の交流電力(交流電流)、及び、DCリンクコンデンサ14と電力変換部11との間の直流電力(直流電圧)の大きさを制御する。なお、電力変換部11は、ダイオード整流により、交流電力からDCリンクコンデンサ14における直流電力への変換動作(力行運転)を行うものとする。
【0037】
ACリアクトル12は、巻線を利用した受動素子であり、例えばその一機能として、電源回生運転の際に、電源回生コンバータ10から交流電源20に流れる高調波電流を抑制する。
【0038】
交流電流検出部13は、電力変換部11と交流電源20との間を流れる交流電流の大きさを検出するための装置であり、その検出値を後述の交流電流制御部16に対して出力する。なお、交流電流検出部13は、所定周期で交流電流の値を検出し且つ出力するものとし、所定周期で検出されたそれら検出値のそれぞれを所定時間に亘ってRAM等の記憶媒体に記憶保持するものとする。また、本実施例において、この交流電流は、電源回生コンバータ10から交流電源20への流れが正値で表され、交流電源20から電源回生コンバータ10への流れが負値で表されるものとする。
【0039】
DCリンクコンデンサ14は、インバータ部30との間でやり取りする直流電力を蓄積するためのコンデンサであり、電源回生コンバータ10によって、所定の電圧値(例えば、交流電源20における電源電圧の波高値であり、以下「充電電圧VCRG」とする。)を維持するように交流電源20から電力が供給される。
【0040】
直流電圧検出部15は、DCリンクコンデンサ14における直流電圧を検出するための装置であり、その検出値を後述の交流電流制御部16に対して出力する。なお、直流電圧検出部15は、所定周期で直流電圧の値を検出し且つ出力するものとし、所定周期で検出されたそれら検出値のそれぞれを所定時間に亘ってRAM等の記憶媒体に記憶保持するものとする。
【0041】
交流電流制御部16は、電力変換部11と交流電源20との間の交流電流の向き及び大きさを制御するための装置であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random
Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)等を備えたコンピュータであって、基準電圧記憶部160、演算部161、制御ゲイン乗算部162、リミッタ部163、演算部164、及び制御信号出力部165のそれぞれに対応するプログラムをROMに記憶しながら、各部に対応する処理をCPUに実行させ、所望の交流電流の向き及び大きさを実現するための制御信号を電力変換部11に対して出力する。
【0042】
また、交流電流制御部16は、上述の各部をアナログ回路、デジタル回路、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、FPAA(Field
Programmable Analog Array)等を用いてハードウェアで構成するようにしてもよい。
【0043】
なお、交流電流制御部16は、本実施例において、電源回生コンバータ10に搭載される機能要素として構成されるが、コントローラ56(図1参照。)に搭載される機能要素として構成されてもよい。
【0044】
基準電圧記憶部160は、基準電圧を記憶するための要素であり、例えば、NVRAMやROM等の不揮発性の記憶媒体に設定される記憶領域であって、書き換え可能であってもよく、書き換え不能であってもよい。
【0045】
基準電圧は、電源回生運転を開始或いは停止させるための条件を構成する電圧値であり、電源回生コンバータ10は、DCリンクコンデンサ14における直流電圧が基準電圧を上回った場合に電源回生運転を開始させ、その後、その直流電圧が基準電圧を下回った場合に電源回生運転を停止させる。
【0046】
本実施例では、基準電圧は、充電電圧VCRGに設定されている。モータ40が発生させた電力がDCリンクコンデンサ14(DCリンクコンデンサ14は、通常、電源電圧の波高値に等しい充電電圧VCRGを有する。)に回生される際に電源回生運転をできるだけ早期に開始させるためである。
【0047】
なお、基準電圧は、充電電圧VCRGよりも僅かに高い値に設定されていてもよい。モータ40からDCリンクコンデンサ14への回生が行われていないにもかかわらず、ノイズ等に起因してDCリンクコンデンサ14の直流電圧の値(原則的に充電電圧VCRGとなっている。)が基準電圧(充電電圧VCRG)を瞬間的に上回ってしまい、電源回生運転を誤って開始させたり、電源回生運転の開始及び停止を頻繁に繰り返させたりしてしまうのをより確実に防止するためである。
【0048】
演算器161は、直流電圧検出部15が検出したDCリンクコンデンサ14の現在の直流電圧の値VCRTと基準電圧記憶部160が記憶する基準電圧との間の電圧差VDIFFを算出し、算出した電圧差VDIFFを制御ゲイン乗算部162に対して出力する。
【0049】
制御ゲイン乗算部162は、電圧差VDIFFに対応する交流電流の値ADIFF1から交流電流指令値ATMP1を算出し、算出した交流電流指令値ATMP1の符号(正負)や大きさに応じた所定の制御ゲインをその交流電流指令値ATMP1に対して乗算し、制御ゲインを乗算した後の交流電流指令値ATMP1をリミッタ部163に対して出力する。
【0050】
なお、交流電流の値ADIFF1は、好適には、電圧差VDIFFが大きい程大きくなるように設定され、例えば、電圧差VDIFFに対して比例関係にあるものとする。
【0051】
リミッタ部163は、交流電流指令値ATMP1の値を所定範囲内に限定するための要素であり、例えば、交流電流指令値ATMP1と許容最小値AMINとを比較し、且つ、交流電流指令値ATMP1と許容最大値AMAXとを比較し、交流電流指令値ATMP1を許容最小値AMINと許容最大値AMAXとの間に制限しながら、交流電流指令値ATMP1を目標交流電流指令値ATGTとして演算部164に対して出力する。
【0052】
また、許容最小値AMINは、例えば値ゼロに設定されるものとする。なお、本実施例において、負値を有する交流電流は、交流電源20から電源回生コンバータ10へ(力行方向へ)流れる交流電流を表し、正値を有する交流電流は、電源回生コンバータ10から交流電源20へ(回生方向へ)流れる交流電流を表すものとする。この場合、許容最小値AMINを値ゼロとすることで、交流電流制御部16は、交流電流の向きを回生方向のみに制限することができ、力行運転を禁止することができる。
【0053】
また、許容最大値AMAXは、例えば、電源回生コンバータ10の許容最大交流電流以下の交流電流値に設定されるものとする。
【0054】
なお、許容最小値AMIN及び許容最大値AMAXは共に、NVRAMやROM等の不揮発性の記憶媒体に予め記憶されており、書き換え可能であってもよく、書き換え不能であってもよい。
【0055】
演算部164は、交流電流検出部13が検出した現在の交流電流の値ACRTとリミッタ部163が出力する目標交流電流指令値ATGTとの間の差分ΔA(増分又は減分である。)を算出するための要素であり、例えば、目標交流電流指令値ATGTから現在の交流電流の値ACRTを差し引いた値ΔAを制御信号出力部165に対して出力する。
【0056】
制御信号出力部165は、例えばPI制御により、演算部164から受けた値ΔAに応じた制御信号を電力変換部11に対して出力し、目標交流電流指令値ATGTが示す交流電流が電力変換部11と交流電源20との間で実際に流れるようにする(ΔAが値ゼロとなるようにする。)。
【0057】
次に、図3を参照しながら、電源回生コンバータ10におけるモータ電力、電源回生電力、及び直流電圧の時間的推移について説明する。
【0058】
図3(A)は、モータ電力(電力変換部11とモータ40のそれぞれとの間でやり取りされる電力を合計したものである。)及び電源回生電力(電源回生コンバータ10から交流電源20に戻される電力であり、説明を分かり易くするため、DCリンクコンデンサ14に充電される電力は省略している。)の時間的推移を示す図であり、時間軸(横軸)より上が力行状態を示し、時間軸(横軸)より下が回生状態を示す(以下、時間軸の上の領域を「力行領域」とし、時間軸の下の領域を「回生領域」とする。)。
【0059】
また、図3(B)は、DCリンクコンデンサ14における直流電圧の時間的推移を示す図であり、その時間軸(横軸)が図3(A)と共通するものとする。
【0060】
モータ電力、電源回生電力、及び直流電圧の時間的推移は、縦軸に平行な複数の点線によって複数の段階に分けられており、段階(I)は、電源回生コンバータ10が停止している状態に対応し、段階(II)は、電源回生コンバータ10が電源回生運転の実行を開始した後の状態に対応する。
【0061】
また、段階(III)は、モータ40から回生される電力(交流電流)における電源回生電力(交流電流)が、電源回生コンバータ10から交流電源20へ流すことのできる許容最大電力(交流電流)を超過した後の電源回生運転の状態に対応し、段階(IV)は、モータ40から回生される電力(交流電流)が、再び許容最大電力(交流電流)未満となった後の電源回生運転の状態に対応する。
【0062】
更に、段階(V)は、電圧差VDIFFに応じた目標交流電流指令値ATGTが許容最大値AMAXを下回った後(電源回生電力が許容最大電力を下回った後)の電源回生運転の状態に対応し、段階(VI)は、電源回生電力がゼロになった後の停止状態(力行運転及び電源回生運転が共に実行されていない状態)に対応する。
【0063】
段階(I)において、電源回生コンバータ10は、直流電圧検出部15が検出した現在の直流電圧の値VCRTが充電電圧VCRG未満となった場合、交流電源20からの電力をDCリンクコンデンサ14に供給し直流電圧の値を充電電圧VCRGの値まで引き上げるようにする。
【0064】
その結果、図3(B)の一点鎖線で示される直流電圧は、充電電圧VCRG未満となった場合には充電電圧VCRGのレベルまで引き上げられることとなる。
【0065】
その後、段階(II)において、電源回生コンバータ10は、モータ40から電力が回生される場合であり、現在の直流電圧の値VCRTが充電電圧VCRGを上回るときには、交流電流制御部16のリミッタ部163により、正の値である交流電流指令値ATMP1(許容最大値AMAX未満とする。)を目標交流電流指令値ATGTとして演算部164に対して出力し、制御信号出力部165により、その目標交流電流指令値ATGTと交流電流検出部13が検出した現在の交流電流の値ACRTとの間の差ΔAに応じた制御信号を電力変換部11に対して出力して、現在の直流電圧の値VCRTと充電電圧VCRGとの間の電圧差VDIFFに応じた電源回生運転(例えば、電圧差VDIFFの増加を抑制しながら漸増させるための電源回生運転である。)が行われるようにする。
【0066】
なお、電源回生コンバータ10は、モータ40から電力が回生される場合であっても、現在の直流電圧の値VCRTが充電電圧VCRG未満となっているときには、交流電流制御部16のリミッタ部163により、負の値である交流電流指令値ATMP1(そのままでは力行運転を開始させてしまう値である。)を許容最小値AMIN(値ゼロ)で置き換えて目標交流電流指令値ATGTとして演算部164に対して出力し、制御信号出力部165により、その目標交流電流指令値ATGTと交流電流検出部13が検出した現在の交流電流の値ACRTとの間の差ΔAに応じた制御信号を電力変換部11に対して出力して電源回生運転が開始されないようにしながらモータ40からの電力をDCリンクコンデンサ14に蓄えるようにする。
【0067】
その結果、図3(A)の破線で示されるモータ電力が回生領域に至った場合、図3(A)の実線で示される電源回生電力は、その破線で示されるモータ電力と共に回生領域において増大し(図3(A)の下方に推移し)、モータ40からDCリンクコンデンサ14に回生される電力の一部がそのまま交流電源20に回生されることとなり、図3(B)の一点鎖線で示される直流電圧は、モータ電力と電源回生電力との間の電力差に応じた割合で増加することとなる。
【0068】
その後、段階(III)において、電源回生コンバータ10は、目標交流電流指令値ATGTが許容最大値AMAXに達すると、リミッタ部163により、目標交流電流指令値ATGTを許容最大値AMAXに設定し、電源回生コンバータ10から交流電源20に流れる交流電流を制限することによって、モータ40からDCリンクコンデンサ14に回生される電力P1のうち、交流電源20に戻さない電力P3であり、モータ40からDCリンクコンデンサ14に回生される電力P1と電源回生コンバータ10から交流電源20に回生される電力P2(P2<P1)との間の差に相当する電力P3(=P1−P2)をDCリンクコンデンサ14に蓄えるようにする。
【0069】
その結果、図3(B)の一点鎖線で示される直流電圧は、図3(A)の実線で示される(許容最大値AMAXに対応する許容最大電力で一定に推移する)電源回生電力と破線で示されるモータ電力との間の電力差に応じた割合で増加する。なお、図3(B)の二点鎖線は、リミッタ部163が出力する目標交流電流指令値ATGTが許容最大値AMAXに達するときの電圧差VDIFFのレベルを示す。
【0070】
その後、段階(IV)において、電源回生コンバータ10は、電力P1が最大許容電力を下回った場合(電源回生コンバータ10から交流電源20に流れる交流電流を許容最大値AMAX以下としながらも電力P1の全てを交流電源20に回生させることができる状態に復帰した場合)であっても、リミッタ部163により、電圧差VDIFFに応じた目標交流電流指令値ATGT(この場合、目標交流電流指令値ATGTは、許容最大値AMAX以上となっているため、許容最大値AMAXに制限されることとなる。)を出力し、制御信号出力部165により、その目標交流電流指令値ATGTと交流電流検出部13が検出する現在の交流電流の値ACRTとの間の差ΔAに応じた制御信号を電力変換部11に対して出力する。
【0071】
その結果、図3(A)の破線で示されるモータ電力が減少する(図3(A)の上方に推移する)一方で、図3(A)の実線で示される電源回生電力は、図3(B)の一点鎖線で示される直流電圧の値が図3(B)の二点鎖線で示されるレベルに減少するまで、許容最大電力のレベルで推移し、モータ40からDCリンクコンデンサ14に回生される電力P1を上回る電力が交流電源20に回生されることとなり、図3(B)の一点鎖線で示される直流電圧は、電源回生電力とモータ電力との間の電力差に応じた割合で比較的急峻に減少することとなる。
【0072】
その後、段階(V)において、電源回生コンバータ10は、電圧差VDIFFに応じた目標交流電流指令値ATGTが許容最大値AMAXを下回った後(電源回生電力が許容最大電力を下回った後)、その電圧差VDIFFに応じた電源回生運転(例えば、その電圧差VDIFFを漸減させる電源回生運転である。)が行われるよう、リミッタ部163により、その電圧差VDIFFに応じた目標交流電流指令値ATGT(この場合、目標交流電流指令値ATGTは、許容最大値AMAX未満となっているため、許容最大値AMAXに制限されることはない。)を出力し、制御信号出力部165により、その目標交流電流指令値ATGTと交流電流検出部13が検出する現在の交流電流の値ACRTとの間の差ΔAに応じた制御信号を電力変換部11に対して出力する。
【0073】
その結果、図3(A)の実線で示される電源回生電力は、図3(B)の一点鎖線で示される直流電圧の値が図3(B)の二点鎖線で示されるレベルに減少した時点において減少を開始して許容最大電力のレベルから値ゼロのレベルまで漸減し(図3(A)の上方に推移し)、図3(B)の一点鎖線で示される直流電圧も充電電圧VCRGのレベルまで漸減することとなる。
【0074】
その後、段階(VI)において、電源回生コンバータ10は、これまでと同様にリミッタ部163により目標交流電流指令値ATGTを出力し(この場合、その目標交流電流指令値ATGTは、電圧差VDIFFが値ゼロであるため、値ゼロとなっている。)、制御信号出力部165により、その目標交流電流指令値ATGT(値ゼロ)と交流電流検出部13が検出する現在の交流電流の値ACRTとの間の差ΔAに応じた制御信号を電力変換部11に対して出力する。すなわち、電源回生コンバータ10は、電源回生運転を停止させることとなる。
【0075】
その結果、図3(A)の実線で示される電源回生電力及び破線で示されるモータ電力は共に値ゼロのレベルで推移することとなり、また、図3(B)の一点鎖線で示される直流電圧も充電電圧VCRGのレベルで推移することとなる。
【0076】
次に、図4を参照しながら、電源回生コンバータ10が電力変換部11の動作を制御する処理(以下、「電力変換制御処理」とする。)について説明する。なお、図4は、電力変換制御処理の流れを示すフローチャートであり、電源回生コンバータ10は、所定周期で繰り返しこの処理を実行するものとする。
【0077】
最初に、交流電流制御部16は、直流電圧検出部15が検出したDCリンクコンデンサ14における現在の直流電圧の値VCRTを取得し(ステップS1)、取得した値をRAMに記憶する。
【0078】
その後、交流電流制御部16は、基準電圧記憶部160に記憶された基準電圧(充電電圧VCRG)の値を取得し(ステップS2)、演算部161により、現在の直流電圧の値VCRTと充電電圧VCRGの値との間の電圧差VDIFFを算出する(ステップS3)。
【0079】
具体的には、交流電流制御部16は、演算部161により、現在の直流電圧の値VCRTから充電電圧VCRGの値を減算し、その減算結果を電圧差VDIFFとして制御ゲイン乗算部162に対して出力する。
【0080】
その後、交流電流制御部16は、制御ゲイン乗算部162により、電圧差VDIFFに対応する交流電流の値ADIFF1から交流電流指令値ATMP1を算出し、算出した交流電流指令値ATMP1の符号(正負)や大きさに応じた所定の制御ゲインをその交流電流指令値ATMP1に対して乗算し、制御ゲインを乗算した後の交流電流指令値ATMP1をリミッタ部163に対して出力する(ステップS4)。
【0081】
その後、交流電流制御部16は、リミッタ部163により、交流電流指令値ATMP1が許容最小値AMIN以下であるか否かを判定し(ステップS5)、許容最小値AMIN以下であれば(ステップS5のYES)、交流電流指令値ATMP1を許容最小値AMINで置き換え(ステップS6)、許容最小値AMINを上回るものであれば(ステップS5のNO)、交流電流指令値ATMP1をそのまま採用する。
【0082】
更に、交流電流制御部16は、リミッタ部163により、交流電流指令値ATMP1が許容最大値AMAX以上であるか否かを判定し(ステップS7)、許容最大値AMAX以上であれば(ステップS7のYES)、交流電流指令値ATMP1を許容最大値AMAXで置き換え(ステップS8)、許容最大値AMAXを下回るものであれば(ステップS7のNO)、交流電流指令値ATMP1をそのまま採用する。なお、ステップS5〜S6の処理と、ステップS7〜S8の処理は順不同であり、同時に実行されてもよい。
【0083】
その後、交流電流制御部16は、リミッタ部163により、交流電流指令値ATMP1を目標交流電流指令値ATGTに設定し(ステップS9)、演算部164に対して出力する。
【0084】
その後、交流電流制御部16は、演算部164により、交流電流検出部13が検出した電力変換部11と交流電源20との間における現在の交流電流の値ACRTを取得し(ステップS10)、取得した値ACRTをRAMに記憶する。
【0085】
その後、交流電流制御部16は、演算部164により、目標交流電流指令値ATGTから現在の交流電圧の値ACRTを減算して差分ΔAを算出し(ステップS11)、制御信号出力部165により、その差分ΔAに対応する制御信号を生成し、生成した制御信号を電力変換部11に対して出力する(ステップS12)。
【0086】
その制御信号を受けた電力変換部11は、電源回生コンバータ10から交流電源20に流れる交流電流の値が目標交流電流指令値ATGTとなるように、スイッチング素子を切り換え、また、PWM制御におけるパルス幅のデューティサイクルを変化させるようにする。
【0087】
上述のような流れにより、電源回生コンバータ10は、電力変換部11の動作を制御することができる。
【0088】
以上の構成により、電源回生コンバータ10は、モータ40からDCリンクコンデンサ14への電力の回生により増加したDCリンクコンデンサ14における電力の増分を、DCリンクコンデンサ14の現在の直流電圧の値VCRTと基準電圧記憶部160が記憶する充電電圧VCRGとの間の電圧差VDIFFとして把握し、その電圧差VDIFFに応じた割合で電源回生電力(交流電流)を増減させながらその電力の増分の一部を交流電源20に回生するため、電源回生運転を開始した途端に電源回生電力を急激に増大させるようなことがない。
【0089】
また、電源回生コンバータ10は、その電圧差の増加を抑制するように電力変換部11を制御するので、インバータ部30からDCリンクコンデンサ14へ回生される電力が小さい段階で電源回生運転を開始させることができる。
【0090】
また、電源回生コンバータ10は、交流電流制御部16により交流電流の向きを回生方向のみに制限することができるので、電源回生運転の実行中に、力行運転(交流電源20から電源回生コンバータ10への電力供給)が実行されてしまうのを防止することができる。
【0091】
また、電源回生コンバータ10は、基準電圧を比較的低めに設定したとしても(例えば充電電圧、又はその充電電圧より僅かに高い値に設定したとしても)DCリンクコンデンサ14の直流電圧が一旦基準電圧を上回った直後にその基準電圧を再び下回るのを防止することができるので、チャタリングを防止するために基準電圧を高めに設定することなく、電源回生運転をより早期に開始させることができる。
【0092】
また、電源回生コンバータ10は、電源回生運転をより早期に開始させることができ、その結果、電源回生運転の動作時間をより長くとることができ、モータ40が発生させた電力のうちDCリンクコンデンサ14に蓄えられる電力(例えば直流電圧のピーク値である。)をより小さくすることができるので、DCリンクコンデンサ14の所要蓄電容量を低減させることができる。
【0093】
また、電源回生コンバータ10は、電力変換部11と交流電源20との間を流れる交流電流と、DCリンクコンデンサ14の直流電圧とを監視しながら電力変換部11を制御するため、複数のモータ40のそれぞれの動作状態を詳細に把握することなく電力変換部11を制御することができる。
【0094】
また、電源回生コンバータ10は、電圧差VDIFFの増加を抑制しながら電源回生運転を実行するので、電源回生電力(交流電流)の変化が連続的(滑らか)となり、電源側に発生するノイズを低減させることができる。
【0095】
次に、図5図7を参照しながら、本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される電源回生コンバータの別の構成例について説明する。
【0096】
図5は、本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される電源回生コンバータ10Aの構成例を示す機能ブロック図であり、電源回生コンバータ10Aは、その交流電流制御部16Aが直流電圧差分算出部166、制御ゲイン乗算部167、及び演算部168を有する点で、図2の電源回生コンバータ10と相違するが、その他の点で共通する。そのため、共通部分の説明を省略しながら、相違点を重点的に説明することとする。
【0097】
直流電圧差分算出部166は、直流電圧検出部15が検出した直流電圧の一制御周期前の値VPRV(例えばRAMに記憶されている。なお、値VPRVは、複数制御周期前の値であってもよい。)と今回の値VCRTとの間の差分ΔV(増分又は減分である。)を算出し、算出した差分ΔVを制御ゲイン乗算部167に対して出力する。
【0098】
制御ゲイン乗算部167は、差分ΔVに対応する交流電流の値ADIFF2から交流電流指令値ATMP2を算出し、算出した交流電流指令値ATMP2を演算部168に対して出力する。
【0099】
演算部168は、制御ゲイン乗算部162が出力する交流電流指令値ATMP1と制御ゲイン乗算部167が出力する交流電流指令値ATMP2とを加算して交流電流指令値ATMPを算出し、算出した交流電流指令値ATMPをリミッタ部163に対して出力する。
【0100】
この構成により、電源回生コンバータ10Aは、現在の直流電圧の値VCRTと充電電圧VCRGとの間の電圧差VDIFF(累積的な差)に加え、現在の直流電圧の値VCRTと一制御周期前の直流電圧の値VPRVとの間の差分ΔV(瞬間的な差)をも考慮しながら目標交流電流指令値ATGTを決定することができ、例えば、回生領域におけるモータ電力の増加により敏感に追従して電源回生電力を増加させ、モータ40からDCリンクコンデンサ14に回生される電力の全てをそのまま交流電源20に回生することができるようになり、電圧差VDIFF(DCリンクコンデンサ14における直流電圧の増加)を更に抑制することができる。
【0101】
図6は、電源回生コンバータ10Aにおけるモータ電力、電源回生電力、及び直流電圧の時間的推移を説明するための図であり、段階(II)及び段階(V)における推移が図3と異なるが、その他の段階における推移は図3と共通する。そのため、共通部分の説明を省略しながら、相違点を重点的に説明することとする。
【0102】
段階(II)において、電源回生コンバータ10Aは、モータ40から電力が回生される場合であり、現在の直流電圧の値VCRTが充電電圧VCRGを上回るときには、交流電流制御部16Aのリミッタ部163により、交流電流指令値ATMP1と交流電流指令値ATMP2との合計値ATMP(許容最大値AMAX未満の正値とする。)を目標交流電流指令値ATGTとして演算部164に対して出力し、制御信号出力部165により、その目標交流電流指令値ATGTと交流電流検出部13が検出した現在の交流電流の値ACRTとの間の差ΔAに応じた制御信号を電力変換部11に対して出力して、現在の直流電圧の値VCRTと充電電圧VCRGとの間の電圧差VDIFF、及び、現在の直流電圧の値VCRTと一制御周期前の直流電圧の値VPRVとの間の差分ΔVの双方に応じた電源回生運転(例えば、電圧差VDIFF及び差分ΔVの双方を打ち消すための電源回生運転である。)が行われるようにする。
【0103】
その結果、図6(A)の破線で示されるモータ電力が回生領域に至った場合、図6(A)の実線で示される電源回生電力は、その破線で示されるモータ電力と重なるように回生領域において増大し(図6(A)の下方に推移し)、モータ40からDCリンクコンデンサ14に回生される電力の全てがそのまま交流電源20に回生されることとなり、図6(B)の一点鎖線で示される直流電圧は、充電電圧VCRGのレベルで推移することとなる。
【0104】
また、図6(B)の一点鎖線で示される直流電圧は、段階(II)で増加しないため、図3(B)の一点鎖線で示される直流電圧と比べ、そのピーク値(段階(IV)の開始時点における直流電圧の値である。)が低めに抑えられることとなり、その結果、電源回生コンバータ10Aは、電源回生コンバータ10と比べ、DCリンクコンデンサ14の所要蓄電容量を低減させることが可能となる。
【0105】
図7は、電源回生コンバータ10Aにおける電力変換制御処理の流れを示すフローチャートであり、ステップS5〜S7が新たに追加された点で図4のフローチャートと相違するが、その他のステップが図4のフローチャートと共通する。そのため、共通部分の説明を省略しながら、相違点を重点的に説明することとする。
【0106】
ステップS1〜S4は、図4のステップS1〜S4と同様である。
【0107】
ステップS5において、交流電流制御部16Aは、直流電圧差分算出部166により、現在の直流電圧の値VCRTからRAMに記憶された一制御周期前の直流電圧の値VPRV(一制御周期前の値が存在しない場合には充電電圧VCRGの値を使用する。なお、値VPRVは、複数制御周期前の値であってもよい。)を減算して差分ΔVを算出する。
【0108】
その後、ステップS6において、交流電流制御部16Aは、制御ゲイン乗算部167により、差分ΔVに対応する交流電流の値ADIFF2から交流電流指令値ATMP2を算出する。
【0109】
その後、ステップS7において、交流電流制御部16Aは、演算部168により、制御ゲイン乗算部162が出力する交流電流指令値ATMP1と制御ゲイン乗算部167が出力する交流電流指令値ATMP2とを加算して交流電流指令値ATMPを算出し、算出した交流電流指令値ATMPをリミッタ部163に対して出力する。なお、以降のステップS8〜S15は、図4のステップS5〜S12と同様である。また、ステップS2〜S4の処理と、ステップS5〜S6の処理は順不同であり、同時に実行されてもよい。
【0110】
以上の構成により、電源回生コンバータ10Aは、電源回生コンバータ10が有する効果に加え、DCリンクコンデンサ14における直流電圧のピーク電圧を更に低減させ、DCリンクコンデンサ14の所要蓄電容量を更に低減させることができるという効果を奏する。
【0111】
また、電源回生コンバータ10Aは、DCリンクコンデンサ14における直流電圧の瞬間的な変動にも対処できるように電力変換部11を制御するので、電源回生運転をより効率的に実行することができる。
【0112】
また、電源回生コンバータ10Aは、電源回生コンバータ10に比べ、モータ電力の回生が終了した後にDCリンクコンデンサ14における直流電圧をより早期に充電電圧VCRGに復帰させることができるという効果を奏する。
【0113】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0114】
例えば、上述の実施例において、電源回生コンバータ10、10Aは、交流電流指令値に制御ゲインを乗算した上でその交流電流指令値をリミッタ部163に対して出力しているが、制御ゲインを乗算することなく交流電流指令値をリミッタ部163に対して出力するようにしてもよい。
【0115】
また、電源回生コンバータ10、10Aは、射出成形機のサイクルパターンに基づいて電源回生運転の内容を設定するようにしてもよい。具体的には、電源回生コンバータ10は、例えば、可塑化/計量工程、ノズルタッチ工程、射出工程、保圧工程、型開工程、型閉工程、成形品突出し工程等の射出成形機における各種工程毎に、電源回生運転の際の許容最大電力、基準電圧、充電電圧VCRG、許容最小値AMIN、許容最大値AMAX等を設定するようにしてもよい。
【0116】
また、本願は、2010年6月23日に出願した日本国特許出願2010−142641号に基づく優先権を主張するものであり同日本国出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0117】
1 射出成形機
2 ボールねじ
3 ナット
4 プレッシャプレート
5、6 ガイドバー
7 ベアリング
8 ロードセル
9 射出軸
10、10A 電源回生コンバータ
11 電力変換部
12 ACリアクトル
13 交流電流検出部
14 DCリンクコンデンサ
15 直流電圧検出部
16、16A 交流電流制御部
20 交流電源
30、30A〜30D インバータ部
31、31A、31B 電力変換部
32、32A、32B コンデンサ
40、40A〜40D モータ
41、41A〜41D エンコーダ
50 スクリュ
51 加熱シリンダ
51−1 ノズル
52 ホッパ
53 連結部材
55 ロードセル増幅器
56 コントローラ
57 位置検出器
58 増幅器
160 基準電圧記憶部
161 演算部
162 制御ゲイン乗算部
163 リミッタ部
164 演算部
165 制御信号出力部
166 直流電圧差分算出部
167 制御ゲイン乗算部
168 演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7