特許第5653434号(P5653434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5653434高密度リポタンパク質3中のコレステロールの定量方法
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  • 特許5653434-高密度リポタンパク質3中のコレステロールの定量方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5653434
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】高密度リポタンパク質3中のコレステロールの定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/92 20060101AFI20141218BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALN20141218BHJP
   C12Q 1/42 20060101ALN20141218BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALN20141218BHJP
【FI】
   G01N33/92 A
   !C12Q1/26
   !C12Q1/42
   !C12Q1/44
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-525439(P2012-525439)
(86)(22)【出願日】2011年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2011066691
(87)【国際公開番号】WO2012011563
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2013年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2010-166395(P2010-166395)
(32)【優先日】2010年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591125371
【氏名又は名称】デンカ生研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康樹
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−049346(JP,A)
【文献】 特開2001−346598(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0246807(US,A1)
【文献】 松浦 文彦,「高比重リボ蛋白(HDL) ―HDLの動脈硬化防御機構における役割」,医学のあゆみ,医歯薬出版株式会社,2007年 6月30日,Vol. 221, No. 13,p. 1074-1080
【文献】 山内 一由,他5名,「HDL-コレステロール直接定量法の反応性に関する検討」,臨床化学,日本臨床化学会,1997年 9月30日,Vol. 26, No. 3,p. 150-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/92
C12Q 1/26
C12Q 1/42
C12Q 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料に高密度リポタンパク質3と特異的に反応する界面活性剤を反応させ、コレステロールを定量することを含む、高密度リポタンパク質3中のコレステロールの定量方法であって、前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル及びp−イソオクチルポリオキシエチレンフェノールホルムアルデヒドポリマーから成る群より選ばれる少なくとも1種の非イオン界面活性剤;ラウリルジメチル−アミノ酢酸ベタインである両性界面活性剤;及び/又は脂肪酸族リン酸エステルから成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオン界面活性剤である、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度リポタンパク質3(以下、「HDL3」と呼ぶことがある)中のコレステロール(HDL3中のコレステロールを以下、「HDL3コレステロール」と呼ぶことがある)の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度リポ蛋白(HDL)コレステロールは動脈硬化壁を含めた各組織からコレステロールを受け取るため細胞内に蓄積したコレステロールの除去作用に関係し、そのためコレステロール逆転送系ともいわれている。冠動脈硬化などの動脈硬化疾患と負の相関があることが知られており、HDLが低値であることは脂質異常症の一つとして低値限界が設けられており、動脈硬化の指標として有用であることが知られている。
【0003】
HDLはアポタンパク質とリン脂質、コレステロール、中性脂肪から構成されている。HDLは比重がd=1.063〜1.210g/mLであり、さらにd=1.063〜1.125g/mLであるHDL2とd=1.125〜1.210g/mLであるHDL3の2つの分画に分類される。リポ蛋白の分布曲線によりd=1.125部分にノッチが認められ、ここから比重の重い部分をHDL3とされる。また、HDL中のアポタンパク質のうちアポリポ蛋白E含有量差から、アポEの含有量の多いHDLをアポE−rich HDLとする亜分画の分け方も存在する。
【0004】
従来までのHDL蛋白全体だけではなく、HDL2およびHDL3それぞれの亜分画において異なった働きを示すことが知られている。臨床において、CETP欠損によりHDLがLDLやIDLに代謝されず、HDLコレステロール量が増加することが知られている。CETP欠損により増加したHDLはHDL2である。HDL2には抗動脈硬化作用があると言われている。また、CETP欠損によりアポE−rich HDLが上昇するとも言われており、Apo−E―ricHDLはコレステロール引き抜き能が強く抗血小板作用があり、HDLの中でもより善玉であるとも言われている。また、肝性リパーゼ活性の低下によりHDL3がHDL2に変化せず、HDL3が増加する。HDL3の増加による冠動脈疾患の発症率の増加が示唆されている。これらの傾向からHDL亜分画それぞれを測定することは、動脈硬化疾患の有無や原因を判断する助けとなることが予想される。また、現在、これらHDL亜分画の働きを踏まえ、CETPの働きを阻害し、LDLコレステロール量を減少させ、HDLコレステロール量を増加させる治療薬の開発が各メーカーで進められている。
【0005】
HDL亜分画の簡便な測定方法を確立することは詳細な働きの解明や、これらの治療の効果へと繋がる可能性がある。
【0006】
現在までにHDL亜分画の測定法として知られているものとしては、超遠心法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法、HDL3沈殿法(特許文献1)、NMR法、などが知られている。
【0007】
超遠心は遠心によりリポ蛋白の比重の差を利用して画分する方法であり、作業に熟練が必要なこと、日数がかかること、また費用も高額となる欠点がある。岡崎らによるHPLCを用いたHDL2とHDL3とを分ける方法では、作業に時間を要し、特別な機器が必要である。HDL3沈殿法は2価金属イオンおよびデキストラン硫酸を含む試薬によりHDL3以外を凝集させ、遠心により上清部分のHDL3を回収し自動分析装置で測定する方法である。やはり、作業に熟練が必要であること、また用手法であり検体の前処理操作が必要であることもあり、測定までにある程度の時間がかかるといった欠点があり、汎用的ではなかった。また、NMR法は磁気共鳴によりリポ蛋白の粒子数を計測する方法であるが、特殊な機械が必要であり、一般的ではない。
【0008】
なお、HDL亜画分の分析方法(特許文献2)が存在する。汎用自動分析装置により測定が可能であるが、界面活性剤を使用することによりHDL3以外のリポ蛋白を酵素の作用から阻害する方法を用いており、HDL3反応中において、目的以外のリポ蛋白質が存在していることなり、測定への影響、もしくは、阻害しきれなかった場合は、HDL3以外のリポ蛋白を測りこむ恐れがある。
【0009】
このような方法に変わり、簡便でかつコレステロール量をより選択的に定量できる試薬の発明が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−207463号公報
【特許文献2】特開2001−346598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、煩雑な操作を必要とすることなく、被検試料中のHDL3を定量する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、高密度リポタンパク質3と特異的に反応する界面活性剤を見出した。そして、被検試料にこのような界面活性剤を反応させ、コレステロールを定量することにより被検試料中のHDL3コレステロールが定量可能であることに想到し、これが可能であることを実験的に確認して本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、被検試料に高密度リポタンパク質3と特異的に反応する界面活性剤を反応させ、コレステロールを定量することを含む、高密度リポタンパク質3中のコレステロールの定量方法であって、前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル及びp−イソオクチルポリオキシエチレンフェノールホルムアルデヒドポリマーから成る群より選ばれる少なくとも1種の非イオン界面活性剤;ラウリルジメチル−アミノ酢酸ベタインである両性界面活性剤;及び/又は脂肪酸族リン酸エステルから成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオン界面活性剤である、方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、被検試料中のHDL3コレステロールを、超遠心や前処理といった煩雑な作業を必要とせずに自動分析装置で特異的に定量することが可能となった。また、従来技術である被検体中HDL総コレステロール定量法により得られた総HDLコレステロール量よりHDL3コレステロール量の差を算出することによりHDL2コレステロール量を定量することも可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例において行った、試薬Kを添加してからの各分画の吸光度変化の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法に供される被検試料としては、その試料中のHDL3コレステロールを定量しようとするものであれば特に限定されないが、好ましくは、血清若しくは血漿又はこれらの希釈物であり、特に血清又はその希釈物が好ましい。
【0017】
本発明の方法では、被検試料にHDL3と特異的に反応する(HDL3以外のリポタンパク質とはほとんど反応しない)界面活性剤を反応させる。HDL3と特異的に反応する界面活性剤としては、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル及−イソオクチルポリオキシエチレンフェノールホルムアルデヒドポリマーのような非イオン界面活性剤;ラウリルジメチル−アミノ酢酸ベタインのような両性界面活性剤;並びに脂肪酸族リン酸エステルのようなイオン界面活性剤を挙げることができる。これらの界面活性剤は、単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる
【0018】
より具体的には、HDL3に特異的に反応する界面活性剤の例としては、非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルであるエマルゲンA90(商品名、花王社製、以下、会社名は製造会社であり、会社名が併記されているものは全て商品名である)、p−イソオクチルポリオキシエチレンフェノールホルムアルデヒドポリマーであるTriton−WR−1339(ナカライ);両性界面活性剤として、ラウリルジメチル−アミノ酢酸ベタインであるニッサンアノンBL−SF(日本油脂);陰イオン界面活性剤として脂肪酸族リン酸エステルであるアデカコールPS−440E(旭電化)が挙げられる。
【0019】
本発明中において界面活性剤に対して「反応する」という言葉を用いる場合は、界面活性剤がリポ蛋白質に対して、反応系外に導くために酵素が作用しやすくする、もしくはリポ蛋白に対して酵素が作用できないよう保護することを意味する。
【0020】
界面活性剤の濃度は0.01〜5.0%(w/v)が好ましく、さらには0.05〜2.0%(w/v)が好ましい。
【0021】
本発明の方法においては、上記界面活性剤の反応によりコレステロールを定量する。コレステロールの定量方法自体は周知であり、周知のいずれの方法をも採用することができ、下記実施例にも具体的に記載されている。例えば、リポ蛋白中のエステル型コレステロールにコレステロールエステラーゼを用いて加水分解し、遊離型コレステロールと脂肪酸が生じ、生じた遊離型コレステロールと元来リポ蛋白中に存在する遊離コレステロールとをコレステロールオキシダーゼを用いてコレステノンと過酸化水素を発生させ、これをペルオキシダーゼの存在下でキノン色素を形成させ定量する。キノン色素を発生させる化合物として、例えばHDAOS(N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン)、DAOS(N-エチル-N(-2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3, 5-ジメトキシアニリンナトリウム)又はTOOS(N-エチル-N(-2-ヒドロキシ- 3-スルホプロピル)-3-メチルアニリンナトリウム二水和物)と4−アミノアンチピリンが挙げられるが、キノン色素を発生させることができる組み合わせであればこれらに限定されるものではない。後述する前工程でコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを用いる場合には、本発明の工程(HDL3特異的界面活性剤を反応させる工程)では、前工程で用いたコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼをそのまま用いることができ、新たに添加する必要はない。
【0022】
キノン色素を発生させる化合物の濃度は、例えば、HDAOSであれば濃度は0.5〜2.0mmol/L程度が好ましく、4−アミノアンチピリンであれば0.1〜2.0mmol/Lが好ましく、また、ペルオキシダーゼの濃度は0.4〜5.0U/mLが好ましい。また、前工程で発生した過酸化水素をカタラーゼで分解する工程ではカタラーゼの阻害剤であるアジ化ナトリウムを使用し、第二工程の反応液中へ添加する。この場合のアジ化ナトリウムの濃度は、通常、0.1g/L〜1.0g/L程度である。
【0023】
反応液には通常の生化学反応に用いられる各種の緩衝液を使用することができ、pHが5〜8の間であるのが好ましい。溶液としては、グッド、トリス、リン酸、グリシンの緩衝溶液が好ましく、グッド緩衝液であるビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシエチル)メタン(Bis−Tris)、ピペラジンー1、4−ビス(2−エタンスルフォン酸)(PIPES)、ピペラジンー1、4−ビス(2−エタンスルフォン酸)、1.5ナトリウム塩、一水和物(PIPES1.5Na)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、N、N−ビス(2−ヒドロキシエチル)―2―アミノエタンスルフォン酸(BES)、2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルフォン酸(HEPES)およびピペラジン−1、4−ビス(2−ヒドロキシー3−プロパンスルフォン酸)(POPSO)が好ましい。
【0024】
反応温度は25〜40℃程度が好ましく、さらに35〜38℃が好ましく、37℃が最も好ましい。反応時間は特に限定されず、通常、2〜10分程度である。
【0025】
本発明の方法は、被検試料に上記界面活性剤をそのまま反応させて行うことも可能であるが、HDL又はHDL3中のコレステロール以外のコレステロールを反応系外に移行させる前工程を先に行い、この前工程後の試料に対して上記した本発明の方法を行うとHDL3コレステロールをより正確に定量することができるので好ましい。
【0026】
前記前工程は、HDL以外のリポタンパク質と反応する界面活性剤又はHDL3以外のリポタンパク質と反応する界面活性剤の存在下で行うことが好ましい。HDL以外のリポタンパク質と反応する界面活性剤としては、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル及びアミドノニオンのような非イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムのような陰イオン界面活性剤;
及び/又はHLB値が14〜17のポリオキシエチレン多環フェニルエーテルのような非イオン系界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。より具体的には、プルロニックP123(旭電化)プルロニックF88(旭電化)、レベノールWX(花王)ノニオンHS220(日本油脂) 、ナイミッドMT−215(日本油脂)、Newcol-723(日本乳化剤)、Newcol−2614(日本乳化剤)、Newcol−714(日本乳化剤)を挙げることができる。
【0027】
HDL3以外のリポタンパク質に反応する界面活性剤としては、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、ポリオキシエチレン−ステアリルアミン等の非イオン界面活性剤;アミドエーテルサルフェート等の陰イオン界面活性剤;ヤシ油脂肪酸―アミドプロピルジメチル−アミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチル−アミノ酢酸ベタイン及びラウリルベタイン等の両性界面活性剤;並びにラウリルトリメチルアンモニウムクロライドのような陽イオン界面活性剤を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。より具体的には、非イオン界面活性剤としてはエマルゲンA500(商品名、花王社製、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、以下、会社名は製造会社であり、会社名が併記されているものは全て商品名である)、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物であるプルロニックF127(旭電化)、プルロニックF68(旭電化)プルロニックP103(旭電化)、ポリオキシエチレン−ステアリルアミンであるナイミーンS210(日本油脂);陰イオンとしてはアミドエーテルサルフェートであるサンアミドCF−10(日本油脂);両性界面活性剤としてはヤシ油脂肪酸―アミドプロピルジメチル−アミノ酢酸ベタインであるニッサンアノンBDF−SF(日本油脂)、アルキルジメチル−アミノ酢酸ベタインであるニッサンアノンBF(日本油脂)、ラウリルベタインであるアンヒトール24B(花王);陽イオン界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドであるコータミン24P(花王)、が挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。
【0028】
前工程で用いる界面活性剤の濃度は、0.01〜5.0重量%が好ましく、0.03〜3.0重量%程度がより好ましい。
【0029】
前工程では、界面活性剤の反応を受けてコレステロールを反応系外に移行させる。ここで、「反応系外に移行させる」とは、コレステロール及びそのエステルを消去又は保護することにより、その後の工程において、コレステロール及びそのエステルが関与しないようにすることを意味する。
【0030】
ここで、「消去」とは、被検試料中のリポ蛋白のコレステロールを分解し、その後の工程において、コレステロール測定の反応に作用させないようにすることである。リポ蛋白コレステロールを消去するための方法としては、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ発生した過酸化水素を、カタラーゼを用いて水と酸素に分解する方法が挙げられる。また、ペルオキシダーゼを用いて水素供与体と発生した過酸化水素を反応させ無色キノンに転化してもよいが、これらに限定されるものではない。コレステロールの消去の方法自体はこの分野において周知であり、下記実施例にも具体的に記載されている。
【0031】
「保護」とは、被検試料中のリポ蛋白をその後の工程においてコレステロール測定に反応しないように、保護を行なうことである。リポ蛋白を保護するのには、各リポ蛋白をコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼが作用しないように特異的に保護する界面活性剤を用いる方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本願発明者らは、さらに、ホスフォリパーゼ及びスフィンゴミエリナーゼがリポタンパク質に作用するが、HDL3にはほとんど作用しないことを見出した。従って、上記した界面活性剤に加え、ホスフォリパーゼ及び/又はスフィンゴミエリナーゼ(以下、両者を総称して「ホスフォリパーゼ等」と呼ぶことがある)を共存させることにより、HDL3コレステロールをさらに正確に定量できるので好ましい。
【0033】
ホスフォリパーゼとしては、少なくともホスファチジルコリンに作用するものであればよく、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC及びホスフォリパーゼDが好ましく、特にホスフォリパーゼC及びホスフォリパーゼDが好ましい。ホスフォリパーゼ等は市販されているので、市販品を好ましく用いることができる。ホスフォリパーゼ等は単独で用いることもできるし、2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。
【0034】
ホスフォリパーゼ等の終濃度(2種類以上のものが用いられる場合にはその合計濃度、以下同じ)は0.1〜100U/mL程度が好ましく、0.2〜50U/mL程度がより好ましい。
【0035】
なお、前工程に界面活性剤を共存させる場合でも、反応条件(反応温度、時間、緩衝液等)は上記の通りである。
【0036】
前工程は、コレステロールを反応系外に移行させるための酵素系や界面活性剤を同時に添加しておくことにより、両工程を単一の工程として同時に行うこともできる。なお、第1工程と第2工程では異なる界面活性剤を用いる。
【0037】
前工程において、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを用いる場合、コレステロールエステラーゼの濃度(本明細書において、濃度は特に断りがない限り終濃度を意味する)は0.1〜10.0U/mL程度が好ましく、0.2〜2.0U/mL程度がより好ましい。コレステロールオキシダーゼの濃度は0.05〜10.0U/mL程度が好ましく、0.1〜1.0U/mL程度がより好ましい。なお、コレステロールエステラーゼは、エステル型コレステロールに作用するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、旭化成社製のコレステロールエステラーゼ(CEBP、CEN)や東洋紡社製のコレステロールエステラーゼ(COE−311、COE−312)などの市販品を用いることができる。また、コレステロールオキシダーゼは、遊離型コレステロールに作用するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、旭化成社製のコレステロールオキシダーゼ(CONII)や東洋紡社製のコレステロールオキシダーゼ(COO−311、COO−321、COO−331)などの市販品を用いることができる。
【0038】
前工程において、ペルオキシダーゼを用いる場合、ペルオキシダーゼの濃度は2.0〜5.0単位/mL程度が好ましく、さらに3.0〜4.0単位/mL程度が好ましい。また、無色キノンに転化する化合物を用いる場合、その濃度は0.4〜0.8mm0l/L程度が好ましい。
【0039】
前工程の他の条件(反応温度、反応時間、緩衝液等)は、上記した本発明の方法と同様であってよい。
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
参考例1
以下の試薬組成の試薬Aと試薬Bを調製し、試薬Aに各種界面活性剤を0.1%(w/v)または1.0%(W/V)濃度添加した試薬をそれぞれ調製した。測定直前に各種界面活性剤入りの下記試薬Aと試薬Bを1:3の割合で混合し、HDL2分画とHDL3分画のコレステロールを反応させ、主波長700nm、副波長600nmでの終吸光度を測定し比較した。
【0042】
HDL2分画とHDL3分画は、以下の様にして画分した。HDLを含む被検試料、すなわち、血清に塩化ナトリウム及び臭化ナトリウムを用いた溶液を用いて、超遠心によりHDL2とHDL3との境目の比重(1.125)で別れるように画分し、それぞれの画分を回収した。
【0043】
下記表1には、HDL2/HDL3の率が0.75以下で、CM〜IDL/HDL3、LDL/HDL3が0.75以下である界面活性剤を示し、これらをHDL3に反応する界面活性剤とする。表2には、HDL2/HDL3の率が1.25以上で、CM〜IDL/HDL2、LDL/HDL2の率が1.25以上である界面活性剤を示し、これらをHDL3以外に反応する界面活性剤とする。表3には、HDL2/HDL3の率が0.75〜1.25間で、CM〜IDL/HDL2、LDL/HDL2、CM〜IDL/HDL3、LDL/HDL3の率が0.75以下である界面活性剤を示し、これらをHDLに反応する界面活性剤とする。表4には、HDL2/HDL3の率が0.75〜1.25間で、CM〜IDL/HDL2、LDL/HDL2、CM〜IDL/HDL3、LDL/HDL3の率が0.75以上である界面活性剤を示し、これらを全てのリポ蛋白に反応する界面活性剤とする。表5には、上記にあてはまらない界面活性剤を示しこれらを、HDL以外に反応する界面活性剤とする。
【0044】
試薬A
BES緩衝液 (pH7.0) 100mmol/L
HDAOS 0.7mmol/L
カタラーゼ 600U/L
コレステロールオキシダーゼ 1.4U/mL
コレステロールエステラーゼ 0.8U/mL
【0045】
試薬B
BES緩衝液 (pH6.6) 100mmol/L
アジ化ナトリウム 0.1%
4−アミノアンチピリン 4.0mmol/L
ペルオキシダーゼ 2.4U/mL
【0046】
【表1】
(単位:Abs×10000)
【0047】
エマルゲンA90、エマルゲン120、ニッサンアノンBL-SF、Triton WR-1339、パーソフトNK-100、アデカトールPS-440EがHDL3に特異的に反応する界面活性剤であった。
【0048】
【表2】
(単位:Abs×10000)
【0049】
エマルゲンA500、ニッサンアノンBDF-SF、ニッサンアノンBF、ナイミーンS210、プルロニックP103、コータミン24P、サンアミドCF-10、アンヒトール24B、プルロニックF68、プルロニックF127がHDL3以外に反応する界面活性剤であった。
【0050】
【表3】
(単位:Abs×10000)
【0051】
エマルゲンB66、エマルゲンA60、エマルゲンLS110、Nowcol-610、Newcol-2609、Newcol-CMP-11、ニッサンアノンGLM−RLV、Newcol-710がHDLに特異に反応する界面活性剤であった。
【0052】
【表4】
(単位:Abs×10000)
【0053】
エマルゲン108、エマルゲン707、Newcol707、アデカトールLB83、アデカトールLB103、エマルゲン909が全てのリポ蛋白に特異に反応する界面活性剤であった。
【0054】
【表5】
(単位:Abs×10000)
【0055】
Newcol−714、Newcol-723、Newcol2614、ナイミーンS215、プルロニックP123、レベノールWX、ナイミッドMT215、ノニオンHS220、プルロニックF88がHDL以外に特異に反応する界面活性剤であった。
【0056】
参考例2
超遠心を用いてCM〜LDL分画、HDL2分画、HDL3分画を画分し、下記試薬Jを反応させ、さらに、下記試薬Kを添加し、測定を行なった。測定は、血清2μLに試薬Eを150μL添加し、5分加温反応の後、試薬Kを添加しさらに5分加温反応させ、主波長700nm、副波長600nmの吸光度を測定した。

【0057】
試薬J
BES緩衝液 (pH7.0) 100mmol/L
HDAOS 0.7mmol/L
プルロニックP103 0.03w/v%
カタラーゼ 600U/L
コレステロールオキシダーゼ 1.4U/mL
コレステロールエステラーゼ 0.8U/mL
ホスフォリパーゼD 5.0U/mL
【0058】
試薬K
BES緩衝液 (pH6.6) 100mmol/L
アジ化ナトリウム 0.1%
エマルゲン120 1.0%
4−アミノアンチピリン 4.0mmol/L
ペルオキシダーゼ 2.4U/mL
【0059】
試薬Kが添加されてからの各分画における吸光度の経時変化の結果を図1に示す。HDL3に対して特異的に反応することが見て取れる。
図1