特許第5653510号(P5653510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5653510
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】波動歯車装置の波動発生器
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20141218BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-501048(P2013-501048)
(86)(22)【出願日】2012年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2012003376
(87)【国際公開番号】WO2013175532
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2013年4月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
【審査官】 広瀬 功次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−205450(JP,A)
【文献】 実公昭50−035273(JP,Y1)
【文献】 特開2008−180259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性外歯歯車を予め定めた楕円状の形状に撓めて剛性内歯歯車に部分的に噛み合わせた状態を形成し、回転に伴ってこれら両歯車の噛み合い位置を周方向に移動させて、これら両歯車の歯数差に応じた相対回転をこれら両歯車の間に発生させる波動歯車装置の波動発生器において、
前記可撓性外歯歯車の内周面に当接して当該可撓性外歯歯車を前記楕円状の形状に撓める複数個のローラーを備えており、
前記ローラーには、前記楕円状の形状の長軸上に配置されている2個の第1ローラーと、前記長軸上以外の位置に配置されている2個の第2ローラーと、前記長軸上以外の位置に配置されている2個の第3ローラーとが含まれており、
前記第2ローラーのそれぞれは、前記楕円状の形状の中心に対して対称の位置であって、前記楕円状の形状の長軸と短軸の間に配置されており、
前記波動歯車装置の負荷運転時に前記ローラーのそれぞれに作用する荷重に基づき、前記第1、第2および第3ローラーのそれぞれの支持ベアリングのサイズ、および、前記第2、第3ローラーの位置が設定されており、
前記第1ローラーの支持ベアリングは、前記第2ローラーの支持ベアリングに比べて、大きなサイズであり、動定格荷重が大きく、
前記第2ローラーおよび前記第3ローラーは同一サイズの支持ベアリングを備えたローラーであり、
前記第2ローラーのそれぞれは、前記楕円状の形状の中心の回りに、前記長軸から35度〜40度の角度範囲内に位置し、
前記第3ローラーのそれぞれは、前記長軸を中心として、前記第2ローラーのそれぞれに対して線対称の位置に配置されており、
減速比が80以上の前記波動歯車装置に用いられることを特徴とする波動歯車装置の波動発生器。
【請求項2】
剛性内歯歯車と、
前記剛性内歯歯車の内側に同軸に配置した半径方向に撓み可能な可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車を楕円状の形状に撓めて当該可撓性外歯歯車を前記楕円状の形状の長軸上の部位において前記剛性内歯歯車に噛み合わせている波動発生器と、
を有し、
80以上の減速比を備え、
前記波動発生器は、請求項1に記載の波動発生器であることを特徴とする波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波動歯車装置に関し、特に、複数個のローラーによって可撓性外歯歯車を楕円状の形状に撓めて当該可撓性外歯歯車を剛性内歯歯車に噛み合わせるローラータイプの波動発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置の波動発生器として、6ローラータイプのものが知られている。このタイプの波動発生器は波動歯車装置の可撓性外歯歯車を適切な楕円状の形状に撓めるために6個のローラーを備えている。これらのローラーのうち、一対のローラーは、楕円状の形状の長軸上における対称の位置に配置され、残り二対のローラーは、楕円状の形状の短軸の間で長軸に対して線対称となるように配置されている。特許文献1の図3には、このタイプの波動発生器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−232411号公報、段落0026、図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、従来における6ローラータイプの波動発生器では、小径の同一サイズのローラー、すなわち、各ローラーの支持ベアリングが同一サイズのものが使用されている。ローラータイプの波動発生器を備えた波動歯車装置の寿命は、ローラーの支持ベアリングのもつ動定格荷重と回転速度で決まる。従来においては、ローラータイプの波動発生器の転動疲労寿命の改善については何ら着目されておらず、そのための対策についても何ら提案されていない。
【0005】
本発明の課題は、この点に鑑みて、転動疲労寿命の向上を図った波動歯車装置のローラータイプの波動発生器を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、波動歯車装置の負荷運転時において波動発生器に生ずる特有な荷重分布に着目し、これに基づき、ローラータイプの波動発生器の転動疲労寿命の向上を実現した。すなわち、波動歯車装置では、その減速比毎に、波動発生器における円周方向の各部分に生ずる荷重の分布状況が変わる。そこで、本発明では、この波動発生器の荷重分布に合わせて各ローラーの支持ベアリングのサイズを決めるようにしている。
【0007】
すなわち、本発明は、
可撓性外歯歯車を予め定めた楕円状の形状に撓めて剛性内歯歯車に部分的に噛み合わせた状態を形成し、回転に伴ってこれら両歯車の噛み合い位置を周方向に移動させて、これら両歯車の歯数差に応じた相対回転をこれら両歯車の間に発生させる波動歯車装置の波動発生器において、
前記可撓性外歯歯車の内周面に当接して当該可撓性外歯歯車を前記楕円状の形状に撓める複数個のローラーを備えており、
前記ローラーには、前記楕円状の形状の長軸上に配置されている2個の第1ローラーと、前記長軸上以外の位置に配置されている第2ローラーとが含まれており、
前記波動歯車装置の負荷運転時に前記ローラーのそれぞれに作用する荷重に基づき、前記第1ローラーの支持ベアリングのサイズおよび前記第2ローラーの支持ベアリングのサイズが設定されており、
前記第1ローラーの支持ベアリングのサイズは、前記第2ローラーよりも大きく、
減速比が80以上の前記波動歯車装置に用いられることを特徴としている。
【0008】
動歯車装置の減速比が80以上の高減速比の場合には、特に、長軸上に位置する一対のローラーに作用する荷重が、他の二対のローラーに作用する荷重に比べて大幅に大きくなる。したがって、本発明の波動発生器は、減速比が80以上の波動歯車装置に用いると、波動発生器の寿命を従来に比べて大幅に長くすることができるので、特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明を適用した波動歯車装置を示す概略正面図である。
図2図1の波動歯車装置の概略縦断面図である。
図3図1の波動歯車装置の波動発生器を示す斜視図である。
図4図1に示す波動歯車装置において、減速比を変えた場合における負荷運転時の波動発生器の円周方向の各位置に生ずる荷重の分布状態の測定例を示すグラフである。
図5】長軸からの各角度位置における荷重と長軸位置での荷重との比率(%)を示すグラフであり、(a)は減速比が30の場合であり、(b)は減速比が100の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0011】
図1図3を参照して説明すると、本実施の形態に係る波動歯車装置1はカップ型と呼ばれるものであり、円環状の剛性内歯歯車2と、この剛性内歯歯車2の内側に配置されたカップ形状の可撓性外歯歯車3と、この可撓性外歯歯車3の内側に配置された6ローラータイプの波動発生器4とを有している。波動発生器4によって、可撓性外歯歯車3は楕円形状あるいは略楕円形状に撓められて、その長軸L1上において剛性内歯歯車2と噛み合っている。
【0012】
波動発生器4が不図示のモーターによって高速回転すると、両歯車2、3の噛み合い位置が周方向に移動し、両歯車2、3の歯数差2n枚(nは正の整数)に応じた相対回転が両歯車2、3の間に発生する。歯数差は一般的に2枚とされており、例えば剛性内歯歯車2を回転しないように固定しておくと、可撓性外歯歯車3が波動発生器4の回転(入力回転)に対して大幅に減速された回転数で回転するので、当該可撓性外歯歯車3から減速回転を負荷側に取り出すことができる。
【0013】
剛性内歯歯車2は円環状の剛性部材21と、この剛性部材21の円形内周面に形成されている内歯22とを備えている。剛性部材21には、円周方向にそって所定の間隔でボルト穴23が形成されており、ボルト穴23は剛性部材21を装置中心軸線1aの方向に貫通している。
【0014】
カップ形状の可撓性外歯歯車3は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部31と、当該円筒状胴部31の後端に連続して半径方向の内方に広がっているダイヤフラム32と、このダイヤフラム32の内周縁に連続して形成されている肉厚の円環状のボス33とを備えている。ボス33には円周方向に所定の角度間隔で、取付け用のボルト穴34が形成されている。円筒状胴部31の開口縁35の側における当該円筒状胴部31の外周面部分には外歯36が形成されている。
【0015】
6ロータータイプの波動発生器4は、中空入力軸41と、この中空入力軸41の外周面に同軸に固定、あるいは中空入力軸41と一体部品として形成されている支持円盤42と、この支持円盤42に取り付けられている6個のローラー51〜56を備えている。ローラー51、52は、可撓性外歯歯車3の中心(装置中心軸線1a)に対して点対称の位置にそれぞれ配置されている一対の第1ローラーである。ローラー53、54は、同じく可撓性外歯歯車3の中心に対して点対称の位置に配置されている一対の第2ローラーであり、ローラー55、56も可撓性外歯歯車3の中心に対して点対称の位置に配置されている一対の第3ローラーである。
【0016】
一対の第1ローラー51、52は、楕円状の形状に撓められた可撓性外歯歯車3の長軸L1上に位置し、可撓性外歯歯車3における外歯36が形成されている部分の内周面37を外方に撓めた状態で、当該内周面37に当接している。一対の第2ローラー53、54は、長軸L1と短軸L2の間において長軸L1から時計回りに所定角度だけ回転した位置に配置されており、可撓性外歯歯車3の外歯形成部分の内周面37を外方に撓めた状態で、当該内周面37に当接している。同様に一対の第3ローラー55、56は、一対の第2ローラー53、54に対して長軸を挟み線対称の位置において、可撓性外歯歯車3の内周面37を外方に撓めた状態で、当該内周面37に当接している。
【0017】
第1ローラー51、52は同一サイズであり、それらの支持ベアリング51a、52aは同一サイズである。また、第2ローラー53、54および第3ローラー55、56は同一サイズであり、それらの支持ベアリングが同一サイズである。さらに、第1ローラー51、52の支持ベアリング51a、52aは、第2、第3ローラー53〜56の支持ベアリングよりも大なサイズであり、動定格荷重が大きい。これら第1〜第3ローラー51〜56のサイズは、波動歯車装置1の負荷運転時において、各ローラー51〜56に作用する荷重に基づき決定されている。
【0018】
波動歯車装置1では、負荷運転時の波動発生器4の荷重分布に合ったサイズのローラー51〜56を用いているので、波動歯車装置1の寿命を効率的に向上させることができる。例えば、図1図2に示す減速比100の波動歯車装置1において、その波動発生器4の各ローラー51〜56をφ12の同一サイズのものとした場合に比べて、ローラー51、52をφ14のサイズとし、残りのローラー53〜56をφ12のサイズとした場合には、計算寿命が約2.2倍に伸びることが確認された。
【0019】
図4は、図1図2に示す波動歯車装置1において、減速比を変えた場合における負荷運転時の波動発生器4の円周方向の各位置に生ずる荷重の分布状態の測定例を示すグラフである。実線の曲線A、一点鎖線の曲線Bおよび破線の曲線Cは、それぞれ、減速比が100、50および30の場合の荷重分布曲線である。また、図5は、長軸からの各角度位置における長軸位置で荷重との比率(%)を示すグラフであり、(a)は減速比が30の場合であり、(b)は減速比が100の場合である。
【0020】
これらの図から分かるように、減速比が100の場合には、略長軸位置において荷重のピークが現れる。また、長軸位置に比べて、長軸から離れた角度位置、すなわち、ローラー53、54、ローラー55、56が配置される35から40度の角度位置に対応する位置では荷重が大きく減少する。これに対して、減速比50、30の場合には、長軸位置に対して回転方向に10〜20度ずれた角度位置の所で荷重のピークが現れる。このため、ローラー51、52が配置される長軸位置と、ローラー53、54、ローラー55、56が配置される角度位置に対応する位置との間では、大きな荷重差が現れず、僅かに、長軸位置の方が大きい。
【0021】
いずれの場合においても、両方向回転において、長軸位置のローラー51、52に作用する荷重の平均値が、残りのローラー53〜56の位置において発生する荷重の平均値よりも大きいので、長軸位置にあるローラー51、52のサイズを残りのローラー53〜56よりも大きくすることは有効である。また、高減速比100の場合には、ほぼ長軸位置において荷重のピークが現れ、長軸位置から外れた角度位置では荷重が小さいので、長軸位置においてサイズの大きなローラー51、52を配置し、長軸位置から外れた位置に配置されているローラー53〜56のサイズを小さくすることは、波動発生器4の寿命を向上させる上で極めて有効である。
【0022】
本発明者の実験によれば、減速比が80以上の高減速比の波動歯車装置において、ほぼ長軸位置において荷重のピークが現れ、長軸位置から外れた角度位置では荷重が小さいので、長軸位置においてサイズの大きなローラーを配置し、長軸位置から外れた位置に配置されているローラーのサイズを小さくすることが波動発生器の寿命を向上させる上で有効であることが確認された。
【0023】
(その他の実施の形態)
上記の例は、カップ型の波動歯車装置に6ロータータイプの波動発生器を用いた場合のものである。本発明は、シルクハット形状の可撓性外歯歯車を備えたシルクハット型と呼ばれる波動歯車装置に対しても同様に適用可能である。また、2個の剛性内歯歯車の内側に円筒状の可撓性外歯歯車が同軸に配置された構成のフラット型と呼ばれる波動歯車装置に対しても同様に適用可能である。
【0024】
また、ローラータイプの波動発生器として、6個のローラーよりも多い個数のローラーを備えたものであっても、同様に本発明を適用可能である。例えば、長軸上の一対のローラーに加えて四対のローラーを備えた合計10個のローラーからなる波動発生器にも本発明を適用可能である。この場合には、長軸上の一対のローラーを最も大きなサイズとし、この一対のローラーの両側に配置されている二対のローラーを長軸上のローラーよりも小さなサイズとし、これら二対のローラーの両側に配置されている残りの二対のローラーを最も小さなサイズとすればよい。
図1
図2
図3
図4
図5