特許第5653553号(P5653553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5653553
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】イオン徐放性ガム組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/26 20060101AFI20141218BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20141218BHJP
   A23G 4/00 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   A61K8/26
   A61Q11/00
   A23G3/30
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-113582(P2014-113582)
(22)【出願日】2014年5月30日
【審査請求日】2014年6月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中塚 稔之
【審査官】 橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−182393(JP,A)
【文献】 特表2001−516709(JP,A)
【文献】 特開平10−218747(JP,A)
【文献】 特開2011−168516(JP,A)
【文献】 特表2011−524324(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/016395(WO,A1)
【文献】 特表2009−539755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 6/00−6/10
A23G 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン徐放性ガラス(a)及びガムベース(b)を含むガム組成物であって、
イオン徐放性ガラス(a)がフルオロアルミノボロシリケートガラスであり、そのガラス組成範囲は
SiO2 15〜35質量%、
Al2O3 15〜30質量%、
B2O3 5〜20質量%、
SrO 20〜45質量%、
F 5〜15質量%、
Na2O 0〜10質量%であることを特徴とするガム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化物イオン及びストロンチウムイオンを徐放することにより歯質の耐酸性を向上させることができるガム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内において、歯質中のハイドロキシアパタイトの溶解である脱灰と、歯質中のハイドロキシアパタイトの再成長および新たな結晶の形成である再石灰化の均衡が保たれることにより、健全な状態を維持している。しかしながら、S.mutansやS.obriuso等の齲蝕原性細菌が歯質表面に付着してプラークを形成すると、プラーク中でこれらの細菌が糖類や菌体内多糖類等を代謝し、産生された酸によって歯質が溶解する、所謂脱灰が起きる。この脱灰がさらに進行するとやがて歯質が崩壊して齲蝕が顕在化する。一方、唾液中に含まれるカルシウムイオンやリン酸塩が歯質に作用することによって再石灰化が発現する。健全な状態では歯質の表面において脱灰と再石灰化の平衡が保たれているが、プラークが付着することによって唾液が歯質表面に到達することができず、唾液による再石灰化作用が効果的に機能しない。その結果、脱灰が優位に進行し最終的に齲蝕に至る。つまり、健全な状態に維持するためには歯質に付着したプラークの除去が有効な手段と言える。
【0003】
プラークを除去できる最も効果的な手段としては、歯ブラシによる口腔内のブラッシング、つまり物理的な除去が挙げられる。ブラッシング以外の補助的な手段として、非特許文献1(日本歯科保存学会誌44(2):324〜329)に示されるようにガム組成物の咀嚼することによる物理的なプラークの除去方法が知られている。ガム組成物は粘着性のあるガムベースを主成分とするため、歯質表面に形成したプラークを絡め取ることが可能である。また、非特許文献1には歯磨剤の研磨剤として用いられる炭酸カルシウムをガム組成物に配合することにより、効率的に歯質上のプラークを除去できるものと考察している。さらに、ガム組成物として、非齲蝕性甘味料を配合したガム組成物が市販されている。非齲蝕性甘味料とは、従来のグルコース、フルクトースまたはスクロースといった齲蝕性甘味料と同等の甘みを有しながらも、口腔内において細菌により代謝されることがなく、酸の産生がほとんどないため齲蝕を誘発しない人工甘味料である。非齲蝕性甘味料を配合したガム組成物は齲蝕を誘発することなく、物理的にプラークを除去できるため齲蝕の予防には効果的な材料である。しかしながら、齲蝕の予防のみに効果が限定され、歯質の耐酸性の向上あるいは再石灰化の誘導能は有していないことが課題であった。
【0004】
特許文献1には歯質の耐酸性を向上及び再石灰化を誘導させることができる口腔内組成物が開示されている。かかる発明はフッ素含有物及び酸を含み、かつ齲蝕性糖類(甘味料)を配合しないことにより、再石灰化した歯の耐酸性を向上させることができる。酸により唾液の分泌が促進され、再石灰化が活性化することに加え、フッ素含有物から徐放されるフッ化物イオンにより再石灰化された歯質の耐酸性が向上する作用機序が記載されている。しかしながら、唾液の分泌を促進することにより再石灰化が活性化するものの、耐酸性の向上はフッ化物イオンの供給のみに依存しており、歯質の耐酸性の向上は不十分であることが課題であった。
【0005】
特許文献2にはキトサンオリゴ糖を抗菌成分として含有することを特徴とする抗菌性ガム組成物が開示されている。キトサンは、カニやエビの外殻に含まれる成分であるキチンを化学処理して得られ、その構造はD − グルコサミンがβ − 1 , 4 結合で繋がった形態をしており、種々の脱アセチル化度を有する多糖類である。キトサンは、その生体に対する高い親和性を利用して、人工皮膚としても利用される一方で、近年、齲蝕の一因となるS.mutansに対する抗菌作用が報告されている。キトサンオリゴ糖を配合する抗菌性ガム組成物はその抗菌効果により齲蝕原性細菌の増殖を抑制することができ、口腔内を清潔に保つことにより齲蝕を予防できる。
【0006】
カルシウムイオンの供給源及びフッ化物イオンの供給源を有する口腔ケア組成物が特許文献3並びに4に開示されている。特許文献3には安定化非結晶リン酸カルシウム(ACP)または安定化非結晶フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体フッ化物及びフッ化物イオン源を含む組成物が開示されている。ACPまたはACFP由来のカルシウムイオンとフッ化物イオン源から徐放されるフッ化物イオンが脱灰された歯質に取り込まれることにより、再石灰化と並行して歯質中にてフルオロアパタイトの形成が起きるため、再石灰化と歯質の耐酸性の向上が望まれる。しかしながら、ACPまたはACFPから溶出したカルシウムイオン並びにフッ化物イオンは口腔内という湿潤環境においては、不溶性のフッ化カルシウムを形成し、沈降してしまうため歯質の耐酸性の向上が得られなくなることが課題であった。
【0007】
一方、特許文献4にはカルシウムイオンの供給源としてリン酸化糖カルシウム塩または水溶性カルシウム塩、フッ化物イオンの供給源としてフッ化物、及びポリフェノールを配合するガム組成物が開示されている。口腔内に該ガム組成物が存在する場合、唾液中にカルシウムイオン、フッ化物イオン及びポリフェノールが徐放され、それらが歯質に取り込まれ、歯質の耐酸性の向上及び再石灰化能が発現することが該発明の特徴である。しかしながら、特許文献3と同様にカルシウムイオンおよびフッ化物イオンは口腔内の湿潤環境下においても、不溶性のフッ化カルシウムを形成し、沈殿してしまうため歯質の耐酸性の向上が得られなくなることが課題であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本歯科保存学会誌44 (2):324〜329,2001
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−263777
【特許文献2】特開2007−314505
【特許文献3】特表2009−525988
【特許文献4】再公表WO2010/061932
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
再石灰化を誘導するカルシウムイオンの供給源及び歯質の耐酸性を向上させるフッ化物イオンの供給源を配合するガム組成物は再石灰化の誘導及びフルオロアパタイトの形成という観点では有用な材料である。しかしながら、実際の口腔内においては唾液つまり水が存在するため、同一組成物中にカルシウムイオン源とフッ化物イオン源が存在するとこれらのイオン供給源が溶解した瞬間に、近傍に存在するイオン同士で反応し、フッ化カルシウムを形成する。このフッ化カルシウムは水に難溶性を示すため、一度塩形成をしてしまうと唾液中に溶解しないため歯質の再石灰化及び耐酸性の向上は期待できなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を克服するために鋭意検討を行った結果、ガム組成物にイオン徐放性ガラスを含むことにより、本発明のガム組成物を咀嚼した場合においてフッ化物イオン、ストロンチウムイオンが口腔内に徐放することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明者らは以下の発明を提供する。
具体的には
イオン徐放性ガラス(a)及びガムベース(b)を含むガム組成物。
イオン徐放性ガラス (a)がフッ化物イオンを徐放し、更に2〜4価のイオンのうち一種類以上のイオンを徐放するイオン徐放性ガラスであることが好ましい。
イオン徐放性ガラスがフッ化物イオンを徐放し、更にストロンチウムイオン、アルミニウムイオン及びホウ酸イオンの内から一種類以上のイオンを徐放するイオン徐放性ガラスであることが好ましい。更に、少なくともフッ化物イオン、ストロンチウムイオン及びホウ酸イオンを徐放することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガム組成物はフッ化物イオン及び2〜4価のイオンを持続的に徐放するイオン徐放性ガラスを含むことを特徴とする。フッ化物イオンが持続的に歯質に供給され、歯質中のハイドロキシアパタイト結晶に取り込まれフルオロアパタイトを形成することにより、歯質の耐酸性が向上し齲蝕の抑制につながる。さらにストロンチウムイオンが歯質に供給されハイドロキシアパタイトのカルシウムと置き換わることにより、ストロンチウムアパタイトを形成する。このストロンチウムアパタイトの耐酸性はハイドロキシアパタイトの耐酸性に比べ高い。つまり、従来のガム組成物が歯質の耐酸性に寄与する因子としてフッ化物イオンの取り込みのみに依存しているのに対して、本発明はフッ化物イオンとストロンチウムイオンの相乗効果により歯質の耐酸性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
従来技術では、カルシウムイオンの供給源とフッ化物イオンの供給源が別々に存在しそれらが水に溶解することによって、各イオンが供給される機構であったが、本発明のガム組成物においては、従来のイオン供給機構とは異なり組成物中に含まれる1成分であるイオン徐放性ガラスから平衡関係に則ってストロンチウムイオン及びフッ化物イオン徐放されるため、塩形成による不溶物質の生成や析出が起こらず、活性化したイオンの状態で歯質に作用することができる。また、イオン徐放性ガラスからのイオン徐放は従来技術記載のガム組成物に含まれている化合物の溶解による徐放と異なり平衡関係に則って徐放されるため、長時間に渡る咀嚼の間、イオンの徐放性が持続する。
【0013】
また、イオン徐放性ガラスを配合することの他の利点としては研磨剤としても作用するため、歯質表面のプラーク除去能が向上することが挙げられる。
さらに本発明の別の作用としては特定のイオン徐放性ガラスから徐放されるホウ酸イオンの静菌作用によって口腔内環境を良好な状態に維持することが挙げられる。イオン徐放性ガラスから徐放されるホウ酸イオンの殺菌効果により口臭の原因であるメチルメルカプタンや硫化水素を生成する細菌の増殖を抑制することが期待される。つまり、口腔内での細菌の増殖が抑制されるため、口臭の予防ができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のガム組成物はイオン徐放性ガラスを含んでなることを特徴とする。
イオン徐放性ガラスからのイオン徐放とはイオン徐放性ガラスを構成する元素に基因したイオンの持続的な徐放を意味するものであり、金属フッ化物等の水への溶解によって一時的に多量を放出するものとは異なる。
【0015】
本発明のガム組成物はイオン徐放性ガラスを含み、そのガラスからガラス組成に基因したイオンが持続的に徐放することを特徴とする。
【0016】
本発明に用いるイオン徐放性ガラスはガラス骨格を形成する1種類以上のガラス骨格形成元素とガラス骨格を修飾する1種類以上のガラス修飾元素を含んだガラスであれば何等制限なく用いることができる。また、本発明においてはガラス組成によってガラス骨格形成元素又はガラス修飾元素になりうる元素、いわゆるガラス両性元素はガラス骨格形成元素の範疇として含めるものである。イオン徐放性ガラスに含まれるガラス骨格形成元素を具体的に例示するとシリカ、アルミニウム、ボロン、リン等が挙げられるが、単独だけでなく複数を組み合わせて用いることができる。また、ガラス修飾元素を具体的に例示するとフッ素、臭素、ヨウ素等のハロゲン類元素、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属類元素、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属類元素等が挙げられるが、単独だけでなく複数を組み合わせて用いることができる。これらの中でもガラス骨格形成元素としてシリカ、アルミニウム、ボロンを含み、且つガラス修飾元素としてフッ素、ナトリウム、ストロンチウムを含むことが好ましく、具体的にはストロンチウム、ナトリウムを含んだシリカガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フルオロボロシリケートガラス、フルオロアルミノボロシリケートガラス等が挙げられる。さらに、フッ化物イオン、ストロンチウムイオン、アルミニウムイオン、ホウ酸イオンを徐放する観点から、より好ましくはナトリウム、ストロンチウムを含んだフルオロアルミノボロシリケートガラスであり、そのガラス組成範囲はSiO2 15〜35質量%、Al2O3 15〜30質量%、B2O3 5〜20質量%、SrO 20〜45質量%、F 5〜15質量%、Na2O 0〜10質量%となる。このガラス組成は元素分析、ラマンスペクトルおよび蛍光X線分析等の機器分析を用いることにより確認することができるが、いずれかの分析方法による実測値がこれらの組成範囲に合致していれ何等問題はない。
【0017】
これらのガラスの製造方法においては特に制限はなく、溶融法あるいはゾルーゲル法等の製造方法で製造することができる。その中でも溶融炉を用いた溶融法で製造する方法が原料の選択も含めたガラス組成の設計のし易さから好ましい。
本発明に用いるイオン徐放性ガラスは非晶質構造であるが、一部結晶質構造を含んでいても何等問題はなく、さらにそれらの非晶質構造を有するガラスと結晶構造を有するガラスの混合物であっても何等問題はない。ガラス構造が非晶質であるか否かの判断はX線回折分析や透過型電子顕微鏡等の分析機器を用いて行うことができる。その中でも本発明に用いるイオン徐放性ガラスは外部環境におけるイオン濃度との平衡関係により各種イオンが徐放することから、均質な構造である非晶質構造であることが好ましい。
【0018】
本発明に用いるイオン徐放性ガラスからの各種イオンの徐放はガラスの粒子径によって影響を受けるため湿式又は/及び乾式の粉砕、分級、篩い分け等の方法により粒子径を制御する必要がある。そのため本発明に用いるイオン徐放性ガラスの粒子径(50%)は0.01〜100μmの範囲であれば特に制限はないものの、好ましくは0.01〜50μmの範囲、さらに好ましくは0.1〜5μmの範囲である。また、ガラスの形状は球状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の形状でよく、特に何等制限はないが、好ましくは球状あるいは破砕状である。
【0019】
さらにイオン徐放性ガラスからのイオン徐放性を高めるために、ガラス表面を表面処理することにより機能化してイオン徐放性を向上させることが好ましい態様である。表面処理に用いる表面処理材を具体的に例示すると界面活性剤、脂肪酸、有機酸、無機酸、モノマー、ポリマー、各種カップリング材、シラン化合物、金属アルコキシド化合物及びその部分縮合物等が挙げられる。好ましくは酸性ポリマー及びシラン化合物を表面処理材として用いることである。
【0020】
この酸性ポリマー及びシラン化合物を表面処理材として用いてイオン徐放性ガラスを表面処理する製造方法、具体的にはシラン化合物によりイオン徐放性ガラス表面を被覆した後に、酸性ポリマーにより表面処理する方法を以下に例示する。

粉砕等によって所望の平均粒径に微粉砕されたイオン徐放性ガラスを含有する水性分散体中に、一般式(I)
【0021】
【化1】
(式中、ZはRO-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、m、Lは0から4の整数で、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物を混合し、これを系中で加水分解または部分加水分解してシラノール化合物を経て、次いでこれを縮合させて、イオン徐放性ガラス表面を被覆する。
【0022】
上記のポリシロキサン処理方法は、シラン化合物の加水分解及び縮合とガラス表面へのポリシロキサン処理を同一系内で同時に行っているが、シラン化合物の加水分解及び縮合を別の系で行って低縮合シラン化合物(オリゴマー)を生成させ、それをイオン徐放性ガラスを含有する水性分散体に混合する表面処理方法でも効率よくイオン徐放性ガラス表面にポリシロキサン被膜を形成することが可能である。より好ましくは市販の低縮合シラン化合物(オリゴマー)を用い、低縮合生成過程を経ず混合するポリシロキサン処理方法である。この方法が好ましい理由としては、シラン化合物単量体を用いる場合はポリシロキサン処理工程で多量の水が存在することから、縮合が3次元的に起こり、自己縮合が優位に進行し、均一なポリシロキサン被膜をガラス表面に形成することができないと考えられる。
【0023】
一方低縮合シラン化合物(オリゴマー)を用いる場合は、ある長さのポリシロキサン主鎖を有するユニット単位でガラス表面にポリシロキサン被膜を均一に形成することが可能と考えられる。またこの低縮合シラン化合物(オリゴマー)の形状は特に制限はないが3次元体のものよりも直鎖状の方が良く、またその重合度においても長いものほど縮合反応性が劣り、イオン徐放性ガラス表面上のポリシロキサン被膜の形成が悪くなることから、好ましい重合度は2〜20の範囲であり、より好ましくは2〜6である。その時の分子量は500〜600の範囲である。
【0024】
上記水性分散体中でのポリシロキサン処理は比較的低速の撹拌状態下で行われ、温度は室温から100℃の範囲、より好ましくは室温から50℃の範囲であり、撹拌時間は通常数分から数十時間、より好ましくは30分〜4時間の範囲で行われる。撹拌は特別な方法を必要とするものではなく、一般業界で通常に使用されている設備を採用して行うことができる。例えば万能混合撹拌機やプラネタリーミキサー等のスラリー状のものを撹拌できる撹拌機を用いて撹拌すればよい。撹拌温度は水性媒体が揮発しない温度、つまり水性媒体の沸点以下の温度であれば何等問題はない。撹拌時間はシラン化合物または低縮合シラン化合物の種類または添加量、ガラスの種類、粒子径及びその水性分散体中に占める割合、水性媒体の種類及び水性分散体中に占める割合により、縮合して形成するゲル化速度が影響を受けることから、調節しなければならなく、またゲルが形成されるまで行わなければならない。撹拌速度は速すぎるとゲル構造が崩れ、均一な被膜が形成されないため、低速で行う必要がある。
【0025】
また上記の水性媒体とは水及びアルコールから構成される。アルコールを加えることにより乾燥工程においてイオン徐放性ガラスの凝集性を軽減させ、より解砕性を向上させる多大な効果がある。好ましいアルコールとしては炭素数2〜10のアルコール類であるが、炭素数が10以上のアルコールの添加は沸点が高く溶媒を乾燥除去するために長時間を要する。具体的なアルコールとしては、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、iso−アミルアルコール、n−ヘキシルアルコールn−ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、n−ドデシルアルコールが挙げられ、より好ましくは炭素数2〜4のアルコール、例えばエチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコールが好適に使用される。上記アルコールの添加量は水に対して5〜100重量部、好ましくは5〜20重量部である。添加量が100重量部以上になると乾燥工程が複雑になる等の問題が生じる。またガラスの含有量は水性媒体に対して25〜100重量部の範囲であり、好ましくは30〜75重量部の範囲である。含有量が100重量部を超える場合は縮合によるゲル化速度が速く、均一なポリシロキサン被膜層を形成しにくく、また25重量部より少ない場合、撹拌状態下でガラスが沈降したり水性媒体中で相分離が発生したりする。また、シラン化合物の添加量はガラスの粒子径に依存するが、ガラスに対してSiO2 換算で0.1〜10重量部の範囲であり、好ましくは0.1〜4重量部である。添加量が0.1重量部以下の場合は、ポリシロキサン被膜層形成の効果がなく、一次粒子まで解砕できず凝集したものになり、10重量部以上では乾燥後の固化物が硬すぎて解砕することができない。
【0026】
「ゲル」状態にある系を、乾燥し水性媒体を除去して固化させる。乾燥は、熟成と焼成の2段階からなり、前者はゲル構造の生長と水性媒体の除去を、後者はゲル構造の強化を目的としている。前者はゲル構造にひずみを与えず、かつ水性媒体を除去することから静置で行う必要があり、箱型の熱風乾燥器等の設備が好ましい。熟成温度は室温から100℃の範囲で、より好ましくは40〜80℃の範囲である。温度がこの範囲以下の場合は、水性媒体除去が不十分であり、範囲以上の場合は急激に揮発し、ゲル構造に欠陥が生じたり、ガラス表面から剥離したりする恐れがある。熟成時間は乾燥器等の能力にもよるため、水性媒体が充分除去できる時間ならば何等問題はない。
【0027】
一方焼成工程は昇温と係留に分かれ、前者は目標温度まで徐々に長時間かけて昇温する方がよく、急激な温度はゲル分散体の熱伝導が悪いため、ゲル構造内にクラックが生じる可能性がある。後者は一定温度での焼成である。焼成温度は100〜350℃の範囲であり、よりこのましくは100〜200℃である。
【0028】
以上のように乾燥によりゲルから水性媒体を除去し、収縮した固化物が得られる。固化物はイオン徐放性ガラスの凝集状態ではあるが、単なるイオン徐放性ガラスの凝集物ではなく、個々の微粒子の境界面には縮合により形成されたポリシロキサンが介在している。したがって次の工程としてこの固化物をポリシロキサン処理前のイオン徐放性ガラス相当に解砕すると、その表面がポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスが得られる。ここで「ポリシロキサン処理前のイオン徐放性ガラス相当に解砕する」とは、ポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスの一次粒子に解砕することであり、元のイオン徐放性ガラスと異なる点は個々の微粒子がポリシロキサンで被覆されていることである。ただし、問題ない程度なら2次凝集物を含んでもよい。固化物の解砕は、せん断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては、例えばヘンシェルミキサー、クロスロータリミキサー、スーパーミキサー等を用いて行いことができる。
【0029】
一般式(I)で表されるシラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2-エチルヘキシロキシ)シラン、トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリイソプロポキシクロロシラン、トリメトキシヒドロキシシラン、ジエトキシジクロロシラン、テトラフェノキシシラン、テトラクロロシラン、水酸化ケイ素(酸化ケイ素水和物)等が例示でき、より好ましくはテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランである。また一般式(I)で表されるシラン化合物で示される凝集体であることがより好ましい。
また一般式(I)で表されるシラン化合物の低縮合体であることがより好ましい。例えばテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランを部分加水分解して縮合させた低縮合シラン化合物である。これらの化合物は単独または組み合わせて使用することができる。
【0030】
またポリシロキサン処理時に一般式(I)で表されるシラン化合物の一部としてオルガノシラン化合物も添加することができる。具体的にオルガノシロキサン化合物を例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γメルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン等が例示でき、特に好ましくはメチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシランである。これらの化合物は単独または組み合わせて使用することができる。しかしこれらはポリシロキサン層内において有機基が存在するため、ポリシロキサン層形成時のひずみを受ける可能性があり、機械的強度に問題が生じることがある。このため少量の添加にとどめておく必要がある。またポリシロキサン処理時に一般式(I)で表されるシラン化合物の一部として、他の金属のアルコキシド化合物、ハロゲン化物、水和酸化物、硝酸塩、炭酸塩も添加することができる。
【0031】
前記工程で得られたポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスは酸性ポリマーと反応させる酸性ポリマー処理を施すことによって本発明の最も好ましい表面処理イオン徐放性ガラスを得ることができる。酸性ポリマー処理は乾式流動型の撹拌機であれば業界で一般に使用されている設備を用いることができ、ヘンシルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー等が挙げられる。ポリシロキサン被膜が形成されたイオン徐放性ガラスへの酸性ポリマーの反応は、酸性ポリマー溶液を含浸や噴霧等により接触させることにより行うことができる。例えばポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスを乾式流動させ、その流動させた状態で上部から酸性ポリマー溶液を分散させ、十分撹拌するだけでよい。このとき酸性ポリマー溶液の分散法は特に制限はないが、均一に分散できる滴下またはスプレー方式がより好ましい。また反応は室温付近で行うことが好ましく、温度が高くなると酸反応性元素と酸性ポリマーの反応が速くなり、酸性ポリマー相の形成が不均一になる。
熱処理後、熱処理物の解砕は剪断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては上記反応に用いた設備などで行うことができる。
【0032】
反応に用いる酸性ポリマー溶液の調製に用いる溶媒は、酸性ポリマーが溶解する溶媒であれば何等問題はなく、水、エタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは水であり、これは酸性ポリマーの酸性基が解離し、イオン徐放性ガラスの表面と均一に反応することができる。
酸性ポリマー溶液中に溶解したポリマーの重量分子量は2000〜50000の範囲であり、5000〜40000の範囲にある。2000未満の重量平均分子量を有する酸性ポリマーで処理した表面処理イオン徐放性ガラスはイオン徐放性が低くなる傾向にある。50000を超える重量平均分子量を有する酸性ポリマーは酸性ポリマー溶液の粘性が上がり、酸性ポリマー処理を行うことが困難となる。また酸性ポリマー溶液中に占める酸性ポリマー濃度は3〜25重量%の範囲が好ましく、より好ましくは8〜20重量%の範囲である。酸性ポリマー濃度3重量%未満になると上記で述べた酸性ポリマー相が脆弱になる。また酸性ポリマー濃度が25重量%を超えるとポリシロキサン層(多孔質)を拡散しにくくなる反面、イオン徐放性ガラスに接触すると酸−塩基反応が速く、反応中に硬化が始まり凝集が起こる等の問題が生じる。またポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスに対する酸性ポリマー溶液の添加量は6〜40重量%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜30重量%である。この添加量で換算するとポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスに対する酸性ポリマー量は1〜7重量%、また水量は10〜25重量%の範囲が最適値である。
【0033】
上記の方法によりポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスの表面に酸性ポリマー反応相を形成するために用いることのできる酸性ポリマーは、酸性基として、リン酸残基、ピロリン酸残基、チオリン酸残基、カルボン酸残基、スルホン酸基等の酸性基を有する重合性単量体の共重合体または単独重合体である。このような重合性単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、グルタコン酸、シトラコン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル2'-ブロモエチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、ピロリン酸ジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート等が列挙できる。これらの重合体の中でも酸反応性元素との酸-塩基反応が比較的遅い、α-β不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体が好ましい。より好ましくはアクリル酸重合体、アクリル酸-マレイン酸共重合体、アクリル酸-イタコン酸共重合体である。
【0034】
本発明に用いるイオン徐放性ガラスはガラス組成に基因したイオン種を持続的に徐放することが特徴であり、金属フッ化物等の水への溶解によって一時的に多量を放出するものとは異なるものである。
以下の手法によってイオン徐放性ガラス又は他のフィラーがイオン徐放性を有しているか否かを判断することができる。
蒸留水100gに対してイオン徐放性ガラス又は他のフィラーを0.1g加え、1時間撹拌させた時の蒸留水中に徐放したイオン濃度(F1)又はイオン種に起因した元素濃度(F1)と、2時間撹拌した時の蒸留水中に徐放したイオン濃度(F1)又はイオン種に起因した元素濃度(F2)が下式(1)の関係を満足する場合をイオン徐放とみなすことができる。

F2 > F1 ・・・・式(1)

また、イオン徐放性ガラスから徐放するイオンが複数ある場合は、すべてのイオン濃度又は元素濃度が式(1)を満足する必要はなく、少なくとも一つのイオン濃度又は元素濃度が式(1)を満足した場合をイオン徐放とみなすことができる。
本発明に用いるイオン徐放性ガラスはイオン徐放の効果に基因する酸中和能を有していることが好ましい。酸中和能はpHを4.0に調整した乳酸水溶液10gに対してイオン徐放性ガラスを0.1g加え、5分間撹拌させた時のpH変化を測定することにより確認することできる。その時のpHが5.5以上、より好ましくは6.0以上、最も好ましくは6.5以上を示したとき酸中和能が発現するとみなすことができる。
【0035】
本発明のガム組成物におけるイオン徐放性ガラスの配合量はフッ化物イオンの徐放量の観点から5質量%以上配合していればよく、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜40質量%である。10質量%以下の場合はイオン徐放性が乏しく、50質量%以上配合した場合はガム組成物が硬くなり咀嚼に適さない性状となる。
【0036】
本発明のガム組成物はガムベース(b)を配合することが必須である。ガムベースとは、ガム組成物に含まれる口腔内中で適度な柔軟性を保持する基材を指し、イオン徐放性ガラスや甘味料、香料等を一塊にして保持する効果を有する。また、ガム組成物を噛んだ時に最後まで口腔内に残存するものである。ガムベースは、公知のものが使用でき、具体的には、グアヤク酸、シエラック、ジエルトン、ソルバ、ダンマル樹脂などの天然樹脂や天然チクル、酢酸ビニル、ポリブテン、タルク、マイクロクリスタンワックス、キャンデリラワックス、グリセリン脂肪酸エステル、硬化油、ソルビタン脂肪酸エステル、炭酸カルシウム、ライスワックス、天然ゴム、マスチック、カルナバワックス、グッタペルカチクル、エステルガム、ポリイソブチレン、スチレンブタジエンラバー、ポリ乳酸、天然ゴム、天然樹脂、アセチル化モノグリセリド、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸モノグリセリドが挙げられる。
【0037】
本発明のガム組成物にはイオン徐放性ガラスに加えてフッ化物イオン供給材を配合することによりフッ化物イオンを相乗的に徐放することができる。フッ化物イオン供給材としてはフッ化物塩及び植物由来のフッ素化合物が挙げられる。フッ化物塩を例示するとフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マンガン(II)、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、フッ化銀(I)、フッ化ジアンミン銀、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素カリウム、フルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ペンタフルオロ二スズ酸(II)ナトリウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸カリウムが例示される。上記例示のフッ化物塩の中でも、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウムが好ましく、フッ化ナトリウムが最も好ましい。一方、植物由来のフッ素化合物としては茶葉から抽出される茶抽出フッ素が挙げられる。フッ化物イオン供給材は、それぞれ単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることもできる。
【0038】
本発明のガム組成物には甘味料を配合することもできる。甘味料としては特に非齲蝕性甘味料である人工甘味料が好ましい。非齲蝕性甘味料である人工甘味料は口腔内において細菌により代謝されることがなく、酸の産生がほとんどないため、口腔内のpH低下を引き起こす原因にならない。人工甘味料の具体例を例示するとキシリトール、マルチトール、アスパルテーム、ソルビトール、サッカリンナトリウム、スクラロース、還元パラチノース、パラチノース、マンニトール、エリスリトール、シクロデキストリン等が挙げられる。甘味料はそれぞれ単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
本発明のガム組成物には唾液分泌促進材を配合することもできる。唾液分泌促進材とは口腔内において酸っぱい味覚刺激を与えることにより、唾液の分泌を促進する成分である。唾液の分泌量が増えると、口腔内に溜まった食物残差、軽度のプラークが洗い流されるので齲蝕予防に有効となる。唾液分泌促進材としては、口腔内に酸っぱい味覚刺激を与える物質であれば特に限定されないが、有機酸の具体例としてはクエン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、及び乳酸が挙げられる。唾液分泌促進材は、それぞれ単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
本発明のガム組成物には唾液緩衝能向上剤を配合することもできる。唾液緩衝能向上剤とは、口腔内のpHが低下した場合に口腔内を速やかに中性へと移行させる作用を有する物質である。唾液緩衝能向上剤の具体例としては炭酸水素ナトリウム、燐酸水素ニナトリウム、燐酸水素カルシウム、燐酸三カルシウム、炭酸ナトリウム、アルギニン等の塩基性アミノ酸等が挙げられる。唾液緩衝能向上剤は、それぞれ単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることもできる。さらに本発明のガム組成物は含有するイオン徐放性ガラスの効果によりストロンチウムイオンが口腔内に徐放するため、唾液緩衝能を相乗的に高めることが期待できる。
【0041】
本発明のガム組成物には抗菌性成分を配合することもできる。抗菌性成分の具体例としては、クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム等のカチオン性抗菌剤やイソプロピルメチルフェノール、ハロゲン化ジフェニルエーテル等の非イオン性抗菌剤が挙げられる。抗菌性成分は、それぞれ単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることもできる。さらに本発明のガム組成物は含有する特定のイオン徐放性ガラスの効果によりホウ酸イオンが口腔内に徐放するため、抗菌性または静菌性を相乗的に高めることが期待できる。
【0042】
本発明のガム組成物にはゼラチン、香料、光沢剤、着色料、増粘剤、酸味料、pH調整剤などの既知の材料を含み得る。
本発明のガム組成物の形態は板状、タブレット、球状等の形状が用いられ、ガムの表面を糖衣被覆材で被覆されていてもよい。また、この糖衣被覆材中に唾液分泌促進材、イオン徐放性ガラス、抗菌材、甘味料等を配合していてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例及び比較例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例にて調製したガム組成物の性能を評価する試験方法は次の通りである。
【0044】
[イオン徐放性ガラス及び各種フィラーから徐放されるイオンに基因した元素量の測定]
蒸留水100gに対してイオン徐放性ガラスまたは各種フィラーを0.1g加えて1時間撹拌後、分析用シリンジフィルター(クロマトディスク25A,ポアサイズ0.2μm:ジーエルサイエンス社)でろ過した溶液中に徐放した各イオンに基因する元素濃度をF1とした。また、同様に蒸留水100gに対してイオン徐放性ガラスまたは各種フィラーを0.1g加えて2時間撹拌後、同じ操作を行いろ過した溶液中に徐放した各イオンに基因した元素濃度をF2とした。フッ素はフッ素イオン複合電極(Model 9609:オリオンリサーチ社)及びイオンメータ(Model 720A:オリオンリサーチ社)を用いてフッ化物イオンを測定し、その値を用いてフッ素元素濃度に換算した。測定時にイオン強度調整剤としてTISABIII(オリオンリサーチ社製)を0.5ml添加した。検量線の作成は0.1、1、10、50ppmの標準液を用いて行った。他の元素(Na,B,Al,Sr)に関しては誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICPS-8000:島津社製)を用いて、測定により算出した。検量線の作成は0.1、1、10、50ppmの標準液を用いて行った。
【0045】
[イオン徐放性ガラス及び各種フィラーの酸中和能の評価]
本発明に用いるイオン徐放性ガラスの酸中和能を以下の方法で評価した。pHを4.0に調整した乳酸水溶液10gに対してイオン徐放性ガラス及び各種フィラーを0.1g加え、5分間撹拌した後のpHをpHメーター(D-51:堀場製作所)を用いて測定することにより評価した。
【0046】
[ガム組成物から放出されるイオンに基因した元素量の測定]
咀嚼試験機の衝突部位に直径5mm厚さ1mmの牛歯エナメル質試験体を装着し、チャンバー内に10mlの蒸留水及び板状ガム組成物(15mm×10mm、約1.0g)を加え、30ストローク/分で機械による咀嚼を行った。5分間隔で蒸留水を交換し、計15分(蒸留水を計2回交換)機械による咀嚼を行い、0〜5分、5〜10、10〜15分間におけるガム組成物から蒸留水中に放出したイオンを含む3種類の溶液を得た。それらの溶液を用いて前述の測定方法と同様に溶液中の各イオンに基因した元素量(フッ化物イオンのみイオン量)を測定した。なお、測定元素が検量線範囲外となった場合、適宜希釈して測定を実施した。
【0047】
[ガム組成物の酸中和能の評価]
咀嚼試験機の衝突部位に直径5mm厚さ1mmのポリエチレン試験体を装着し、チャンバー内に10mlの乳酸水溶液(pH4.0に調製)及び板状ガム組成物(15mm×10mm、約1.0g)を加え、30ストローク/分で機械による咀嚼を行った。15分間機械による咀嚼を行い、pHメーター(D-51:堀場製作所)を用いてpHを測定した。
【0048】
[口臭の抑制効果の評価]
実施例及び比較例の口臭の抑制効果を評価するために5名を対象に以下の試験を実施した。板状ガム組成物(15mm×10mm、約1.0g)を各被験者に15分間咀嚼させ、ガムを咀嚼する前の口臭と、咀嚼後の口臭を比較することにより評価を行った。口臭の比較には呼気中の硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド等に由来する口腔内の硫黄化合物濃度(VSC値)の測定(XP-Breath-Tron:新コスモス電機)を行い、咀嚼前の呼気中のVSC(1)値と15分間咀嚼した後の呼気中のVSC(2)値を比較した。評価の結果、口臭低減率=(1−VSC(2)/VSC(1))×100を算出し、5名の平均値を表2及び3に記載した。
【0049】
本発明の実施例及び比較例に使用した成分名およびその略号を以下に示す。
ガムベースの原材料
チクル
ガッターパーチャ
酢酸ビニル樹脂
ポリイソブチレン
マイクロクリスタリンワックス(日本セイロウ社製)
エステルガム
フィラー
FLX:フューズレックスX(シリカフィラー、平均粒径=2.1μm:龍森社)
SOC5:シリカフィラー(SO−C5、平均粒径=1.6μm:アドマテックス社)
フッ化物イオン供給材
NaF:フッ化ナトリウム粉末(ナカライテスク社)
甘味料
キシリトール
スクラロース
シクロデキストリン
唾液分泌促進材
クエン酸
【0050】
[イオン徐放性ガラス1の製造]
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料(ガラス組成:SiO2 23.8質量%、Al2O3 16.2質量%、B2O3 10.5質量%、SrO 35.6質量%、Na2O 2.3質量%、F11.6質量%)をボールミルを用いて均一に混合し原料混合品を調製した後、その原料混合品を溶融炉中で1400℃にて溶融した。その融液を溶融炉から取り出し冷鋼板上、ロールまたは水中で冷却してガラスを生成した。4連式振動ミルのアルミナポット(内容積3.6リットル)中に直径6mmφのアルミナ玉石4kgを投入後、上記で得たガラスを500g投入して40時間粉砕を行い、イオン徐放性ガラス1を得た。このイオン徐放性ガラス1の50%平均粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)により測定した結果、1.2μmであった。このイオン徐放性ガラス1から放出されるイオンに基因した元素量(フッ化物イオンのみイオン量)を測定し、(1)式への適合性を確認した。その結果を表2に示した。
【0051】
[イオン徐放性ガラス2の製造]
以下に示すポリシロキサン処理及び酸性ポリマー処理を行い表面処理したイオン徐放性ガラス2を得た。
前述のイオン徐放性ガラス1を500g、シラン化合物(予めテトラメトキシシラン5g、水1000g及びエタノール100gを2時間室温で撹拌し得られたシラン化合物の低縮合物)を万能混合攪拌機に投入し、90分間撹拌混合した。その後、140℃にて熱処理を30時間施し、熱処理物を得た。この熱処理物をヘンシェルミキサーを用いて解砕し、ポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスを得た。このポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラス500gを撹拌しつつ、酸性ポリマー水溶液(ポリアクリル酸水溶液:ポリマー濃度13重量%、重量平均分子量20000;ナカライ社製)をヘンシェルミキサーを用いて噴霧した。その後、熱処理(100℃3時間)を施し、表面処理したイオン徐放性ガラス2を製造した。このイオン徐放性ガラス2の50%平均粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)により測定した結果、1.3μmであった。この表面処理したイオン徐放性ガラス2から放出されるイオンに基因した元素量(フッ化物イオンのみイオン量)を測定し、(1)式への適合性を確認した。その結果を表2に示した。
【0052】
[イオン徐放性ガラス3の製造]
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料を混合後、1400℃にてその混合物を溶融してガラス(ガラス組成:SiO2 19.8質量%、Al2O3 19.8質量%、B2O3 11.7質量%、SrO 35.0質量%、Na2O 2.3質量%、F11.4質量%)を得た。次に生成したガラスを振動ミルを用いて10時間粉砕し、ガラス3を得た。前述のガラス3を500g、シラン化合物(予めテトラメトキシシラン10g、水1500g、エタノール100g、メタノール70g及びイソプロパノール50gを2時間室温で撹拌し得られたシラン化合物の低縮合物)を万能混合攪拌機に投入し、90分間撹拌混合した。その後、140℃にて熱処理を30時間施し、熱処理物を得た。この熱処理物をヘンシェルミキサーを用いて解砕し、ポリシロキサンで被覆したイオン徐放性ガラスを得た。このポリシロキサンで被覆したガラス500gを撹拌しつつ、酸性ポリマー水溶液(ポリアクリル酸水溶液:ポリマー濃度13重量%、重量平均分子量20000;ナカライ社製)をヘンシェルミキサーを用いて噴霧した。その後、熱処理(100℃3時間)を施し、表面処理したイオン徐放性ガラス3を製造した。
この表面処理したイオン徐放性ガラス3の50%平均粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)により測定した結果、3.1μmであった。この表面処理したイオン徐放性ガラス3から放出されるイオンに基因した元素量(フッ化物イオンのみイオン量)を測定し、(1)式への適合性を確認した。その結果を表2に示した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
pHを4.0に調整した乳酸水溶液10gに対してイオン徐放性ガラス及び各種フィラーを0.1g加え、5分間撹拌した結果、イオン徐放性ガラスはpHが6.5以上となり、酸中和能を有しているのに対して、非イオン徐放性フィラーはpHが4.1とほとんど変化しておらず、酸中和能を有していないことを確認した。また、イオン徐放性ガラスから徐放される元素量(フッ化物イオンのみイオン量)は式(1)を適合し、一方、非イオン徐放性フィラーから徐放される元素量(フッ化物イオンのみイオン量)は式(1)を適合しないことを確認した。
【0056】
表2に示した組成物を50℃に加熱した状態でニーダーを用いて混練し、均一分散させた後、押し出し機を用いて板状に成型した。成型したガム組成物をさらに延伸機を用いて厚さ約2mmまで圧伸した後、所定の大きさ(15mm×10mm、約1.0g)に切断した。切断した板状ガム組成物を試験に使用し、得られた評価結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
実施例1〜6に示されるガム組成物はフッ化物イオン、ストロンチウムイオンを咀嚼期間中、持続的に徐放することが確認された。さらにそのイオン徐放量の経時的な変化は少なく安定したイオン徐放性を示したことから歯質の耐酸性の向上が期待される。また、酸中和能の評価結果より15分間咀嚼を行うことによりpH6.4以上の中性付近まで中和されることから齲蝕の抑制に効果的であることが示唆される。口臭に関しては実施例1〜6に示されるガム組成物を咀嚼することにより、咀嚼前と比較して口臭を58〜75%低減させることが可能であり、口臭抑制に効果的であることを見出した。
【0059】
【表4】
【0060】
イオンの供給源としてフッ化ナトリウムのみを配合したガム組成物である比較例1及び3においてはフッ化物イオンの徐放が確認されたものの、持続的なフッ化物イオンの徐放はなく、歯質の耐酸性の向上はほとんど期待できない。イオン徐放ガラスフィラー及びフッ化物イオン供給材を配合していないガム組成物である比較例2は全くイオンを徐放せず、歯質の耐酸性の向上等の効果がないことが示唆される。また、比較例1〜3はいずれも酸中和能を有していないことを確認した。口臭抑制に関しては口臭の低減率が約20%と低く、口臭抑制には効果的ではないことを確認した。
【要約】      (修正有)
【課題】フッ化物イオンによる歯質の耐酸性を向上させることにより強化する方法の提供。
【解決手段】ガムベースにフッ化物イオンを徐放し、更にストロンチウムイオン、アルミニウムイオン及びホウ酸イオンの内から一種類以上のイオンを徐放するイオン徐放性ガラスを含むガム組成物。
【効果】イオン徐放性ガラスがフッ化物イオンを持続的に歯質に供給し、歯質中のハイドロキシアパタイト結晶に取り込まれフルオロアパタイトを形成し、歯質の耐酸性が向上し齲蝕の抑制につながり、更にストロンチウムイオンを歯質に供給しハイドロキシアパタイトのカルシウムと置き換わることにより、ストロンチウムアパタイトを形成して、このストロンチウムアパタイトの耐酸性はハイドロキシアパタイトの耐酸性に比べ高く、フッ化物イオンとストロンチウムイオンの相乗効果により歯質の耐酸性を向上させる。
【選択図】なし