【文献】
渡邉一弘 他,S-PRG フィラー含有MMA 常温重合レジンの抗プラーク性,岐歯学誌,2013年,39巻,3号,pp.127-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
歯牙を喪失した患者に装着する補綴装置である全部床義歯及び部分床義歯は、歯牙に相当する人工歯と、歯肉に相当する義歯床から構成される。
義歯は患者の粘膜面に合わせて製作されるため、使用開始時においては患者の粘膜に良く適合し、通常であれば何ら問題なく咀嚼・嚥下・発音などの機能回復効果を発揮する。しかし長期間使用を続けると、患者の顎堤が吸収する等により、義歯床との適合が悪くなることがある。
粘膜面と義歯床の適合が悪くなった場合、義歯が局所的に強く当たることにより、口腔粘膜の発赤、及び腫脹が発生することがある。そのような症例においては、義歯床を新しく作り変える必要がある。その場合、一般的には、義歯床に粘膜調整材と呼ばれる柔らかい材料を塗布した状態で使用することにより、患者の負担を軽減したまま粘膜面の発赤、及び腫脹を回復する手法が用いられる。さらにその後、粘膜調整材を義歯床用裏装材と呼ばれる硬化性材料に置換することにより、より患者の粘膜面に適合した義歯床に作り変える、裏装または裏打ちという手法が用いられる。
このような粘膜調整材は、非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーを主成分とする粉材と、可塑材及びエタノール等の有機溶媒を主成分とする液材から構成される。この粉材と液材を混合し、流動性があるうちに義歯床の粘膜面に盛り上げ、流動性が低下した頃に口腔内に装着させ一定時間保持した後、義歯を口腔外に取り出し、余剰分のトリミングする方法が一般に行われている。
従来の歯科用粘膜調整材組成物は、非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーと可塑材が主成分であるために、粉材と液材が非常に馴染みにくく操作性が悪いばかりでなく、混合・膨潤した状態においても非常に柔らかい性状を維持しており、義歯床に対する塗布性、及び形態修正時における切削性に課題があることが知られている。例えば、粘膜調整時に形態修正をする際、切削性が悪いと研削材の回転部に歯科用粘膜調整材組成物の一部が絡みつき作業性が悪いという課題が認められる。さらに従来の粘膜調整材は、硬化性でないために粘膜面にプラーク等の汚れが付着しやすく、また細菌や真菌等が増殖することから、衛生面においても大きな課題を有していた。
【0003】
さらに従来から部分床義歯の場合、鈎歯と呼ばれる残存歯にクラスプを掛けて義歯を固定するが、その鈎歯が清掃しにくく、また義歯の存在により不潔部位となるために、う蝕が発症しやすいことも課題であった。
以上のように、粘膜調整材はその使用方法及び口腔内の過酷な環境において多くの課題を有している。これらの課題を改善する従来技術として、粘膜調整材または粘膜調整材を含む義歯全体をコーティングする材料の改善方法が提案されている。例えば、汚れが付着しにくい成分、切削性が向上する成分、またはフッ素等のイオンを徐放する成分を粘膜調整材または前記コーティング材料に配合する等の発明がこれに該当する。
【0004】
特許文献1にはフルオロアルキル基を両末端に有する鎖状化合物、重合性単量体、重合開始材を含むことにより、プラーク等の付着を抑制することを特徴とする歯面または歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物が開示されている。しかし、この特許においては、歯科用組成物にフルオロアルキル基を両末端に有する鎖状化合物を配合することにより、プラークの付着は抑制できるものの、該鎖状化合物は有機成分であり材料の硬さは大きく向上しないため、切削性は不十分であり、依然として作業性は悪いという課題が認められていた。また粉材と液材の馴染みは悪くなるため操作性は低下し、混和物を義歯床に塗布する際の塗布性も低下するというデメリットも生じてしまう。さらに細菌や真菌等が増殖することについては改善されておらず、衛生面においても大きな課題を有していた。
【0005】
特許文献2にはオルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、シリコーン樹脂系充填材、ヒドロシリル化触媒を含むことにより、切削性が向上することを特徴とする歯科用粘膜調整材が開示されている。しかし、この特許においては、歯科用粘膜調整材にシリコーン樹脂系充填材を配合することにより、切削性を向上しているものの、該シリコーン系樹脂充填材は有機成分であり材料の硬さは大きく向上しないため、その効果は不十分であり、依然として作業性は悪いという課題が認められていた。また粉材と液材の馴染みは悪くなるため操作性は低下し、混和物を義歯床に塗布する際の塗布性も低下するというデメリットも生じてしまう。さらに細菌や真菌等が増殖することについては改善されておらず、衛生面においても大きな課題を有していた。
【0006】
特許文献3には、フッ素含有環式ホスファゼン化合物、または該化合物を繰り返し単位とするポリマー及びコポリマーを配合することによりフッ素徐放性を有する、部分床義歯または裏装材に利用可能な歯科用レジン組成物が開示されている。しかし、この特許においては、歯科用組成物にホスファゼン化合物を配合することにより、フッ素徐放性を付与させる特徴があるものの、該フォスファゼン化合物は有機成分であり、切削性及び表面硬さについては従来技術と変わらず、依然として作業性は悪いという課題が認められていた。また粉材と液材の馴染みは悪くなるため操作性は低下し、混和物を義歯床に塗布する際の塗布性も低下するというデメリットも生じてしまう。さらに細菌や真菌等が増殖することについては改善されておらず、衛生面においても大きな課題を有していた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物は、
(a)非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマー、
(b)イオン徐放性ガラスを含む粉材成分と
(c)可塑材、
(d)有機溶媒を含む液材成分とから構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物に用いることができる(a)非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーは単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体により膨潤するものであれば特に限定されず、単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体を単独に重合させたポリマーや数種類の単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体を共重合させたポリマー、さらに単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体と他の単官能性重合性単量体と共に共重合させたポリマー等が何等制限なく用いることができる。それらの非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーを具体的に例示するとポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート、ポリイソプロピル(メタ)アクリレート、ポリイソブチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等の単独重合ポリマーやメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の中から二種類以上組み合わせた共重合コポリマー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーは単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることができる。
これらの非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーの中でもポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合コポリマーを用いることが好ましい。
【0014】
これら非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーの重合方法については何等制限はなく、乳化重合、懸濁重合等のいずれの重合方法で製造されたものであっても何等問題なく用いることができる。これらの非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーの形状は球状、破砕状、中空状のいずれの形状であっても何等制限なく用いることができるが、好ましくは球状である。非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーの平均粒子径(50%)は1〜300μmの範囲であれば何等制限なく用いることができるが、好ましくは1〜200μmの範囲、さらに好ましくは5〜150μmの範囲である。また、非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーの重量平均分子量は1万〜200万の範囲であれば何等制限なく用いることができるが、好ましくは5万〜150万の範囲であり、さらに好ましくは10万〜150万である。
【0015】
また、有機充填材、無機充填材、有機・無機複合充填材、有機・無機化合物、有機・無機顔料等の表面を前記非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーで被覆する等の表面改質処理や複合化処理等を行う等の二次的な加工を施したものについても、何等制限なく用いることができる。
【0016】
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物における非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーの含有量は10〜80重量%の範囲であれば何等制限なく用いることができるが、好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%である。
非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーの含有量が10重量%未満の場合は可塑材が過剰となり、弾性が維持できなくなるため、操作性及び粘膜調整能が低下する等の問題がある。一方、80重量%を越える場合は、非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーが過剰となり、混合・膨潤した材料が硬すぎて、操作性が低下する等の問題がある。
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物はイオン徐放性ガラスを含み、そのガラスからガラス組成に基因したイオンが持続的に徐放することを特徴とする。
【0017】
本発明に用いるイオン徐放性ガラスはガラス骨格を形成する1種類以上のガラス骨格形成元素とガラス骨格を修飾する1種類以上のガラス修飾元素を含んだガラスであれば何等制限なく用いることができる。また、本発明においてはガラス組成によってガラス骨格形成元素又はガラス修飾元素になりうる元素、いわゆるガラス両性元素はガラス骨格形成元素の範疇として含めるものである。イオン徐放性ガラスに含まれるガラス骨格形成元素を具体的に例示するとシリカ、アルミニウム、ボロン、リン等が挙げられるが、単独だけでなく複数を組み合わせて用いることができる。また、ガラス修飾元素を具体的に例示するとフッ素、臭素、ヨウ素等のハロゲン類元素、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属類元素、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属類元素等が挙げられるが、単独だけでなく複数を組み合わせて用いることができる。これらの中でもガラス骨格形成元素としてシリカ、アルミニウム、ボロンを含み、且つガラス修飾元素としてフッ素、ナトリウム、ストロンチウムを含むことが好ましく、具体的にはストロンチウム、ナトリウムを含んだシリカガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フルオロボロシリケートガラス、フルオロアルミノボロシリケートガラス等が挙げられる。さらに、フッ化物イオン、ストロンチウムイオン、アルミニウムイオン、ホウ酸イオンを徐放する観点から、より好ましくはナトリウム、ストロンチウムを含んだフルオロアルミノボロシリケートガラスであり、そのガラス組成範囲はSiO2 15〜35質量%、Al2O3 15〜30質量%、B2O3 5〜20質量%、SrO 20〜45質量%、F 5〜15質量%、Na2O 0〜10質量%となる。このガラス組成は元素分析、ラマンスペクトルおよび蛍光X線分析等の機器分析を用いることにより確認することができるが、いずれかの分析方法による実測値がこれらの組成範囲に合致していれ何等問題はない。
【0018】
これらのガラスの製造方法においては特に制限はなく、溶融法あるいはゾルーゲル法等の製造方法で製造することができる。その中でも溶融炉を用いた溶融法で製造する方法が原料の選択も含めたガラス組成の設計のし易さから好ましい。
本発明に用いるイオン徐放性ガラスは非晶質構造であるが、一部結晶質構造を含んでいても何等問題はなく、さらにそれらの非晶質構造を有するガラスと結晶構造を有するガラスの混合物であっても何等問題はない。ガラス構造が非晶質であるか否かの判断はX線回折分析や透過型電子顕微鏡等の分析機器を用いて行うことができる。その中でも本発明に用いるイオン徐放性ガラスは外部環境におけるイオン濃度との平衡関係により各種イオンが徐放することから、均質な構造である非晶質構造であることが好ましい。
【0019】
本発明に用いるイオン徐放性ガラスからの各種イオンの徐放はガラスの粒子径によって影響を受けるため湿式又は/及び乾式の粉砕、分級、篩い分け等の方法により粒子径を制御する必要がある。そのため本発明に用いるイオン徐放性ガラスの粒子径(50%)は0.01〜100μmの範囲であれば特に制限はないものの、好ましくは0.01〜50μmの範囲、さらに好ましくは0.1〜5μmの範囲である。また、ガラスの形状は球状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の形状でよく、特に何等制限はないが、好ましくは球状あるいは破砕状である。
【0020】
さらにイオン徐放性ガラスからのイオン徐放性を高めるために、ガラス表面を表面処理することにより機能化してイオン徐放性を向上させることが好ましい態様である。表面処理に用いる表面処理材を具体的に例示すると界面活性剤、脂肪酸、有機酸、無機酸、モノマー、ポリマー、各種カップリング材、シラン化合物、金属アルコキシド化合物及びその部分縮合物等が挙げられる。好ましくは酸性ポリマー及びシラン化合物を表面処理材として用いることである。
【0021】
この酸性ポリマー及びシラン化合物を表面処理材として用いてイオン徐放性ガラスを表面処理する製造方法、具体的にはシラン化合物によりイオン徐放性ガラス表面を被覆した後に、酸性ポリマーにより表面処理する方法を以下に例示する。
粉砕等によって所望の平均粒径に微粉砕されたイオン徐放性ガラスを含有する水性分散体中に、一般式(I)
【0022】
【化1】
(式中、ZはRO-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、m、Lは0から4の整数で、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物を混合し、これを系中で加水分解または部分加水分解してシラノール化合物を経て、次いでこれを縮合させて、イオン徐放性ガラス表面を被覆する。
【0023】
上記のポリシロキサン処理方法は、シラン化合物の加水分解及び縮合とガラス表面へのポリシロキサン処理を同一系内で同時に行っているが、シラン化合物の加水分解及び縮合を別の系で行って低縮合シラン化合物(オリゴマー)を生成させ、それをイオン徐放性ガラスを含有する水性分散体に混合する表面処理方法でも効率よくイオン徐放性ガラス表面にポリシロキサン被膜を形成することが可能である。より好ましくは市販の低縮合シラン化合物(オリゴマー)を用い、低縮合生成過程を経ず混合するポリシロキサン処理方法である。この方法が好ましい理由としては、シラン化合物単量体を用いる場合はポリシロキサン処理工程で多量の水が存在することから、縮合が3次元的に起こり、自己縮合が優位に進行し、均一なポリシロキサン被膜をガラス表面に形成することができないと考えられる。
【0024】
一方低縮合シラン化合物(オリゴマー)を用いる場合は、ある長さのポリシロキサン主鎖を有するユニット単位でガラス表面にポリシロキサン被膜を均一に形成することが可能と考えられる。またこの低縮合シラン化合物(オリゴマー)の形状は特に制限はないが3次元体のものよりも直鎖状の方が良く、またその重合度においても長いものほど縮合反応性が劣り、イオン徐放性ガラス表面上のポリシロキサン被膜の形成が悪くなることから、好ましい重合度は2〜20の範囲であり、より好ましくは2〜6である。その時の分子量は500〜600の範囲である。
【0025】
上記水性分散体中でのポリシロキサン処理は比較的低速の撹拌状態下で行われ、温度は室温から100℃の範囲、より好ましくは室温から50℃の範囲であり、撹拌時間は通常数分から数十時間、より好ましくは30分〜4時間の範囲で行われる。撹拌は特別な方法を必要とするものではなく、一般業界で通常に使用されている設備を採用して行うことができる。例えば万能混合撹拌機やプラネタリーミキサー等のスラリー状のものを撹拌できる撹拌機を用いて撹拌すればよい。撹拌温度は水性媒体が揮発しない温度、つまり水性媒体の沸点以下の温度であれば何等問題はない。撹拌時間はシラン化合物または低縮合シラン化合物の種類または添加量、ガラスの種類、粒子径及びその水性分散体中に占める割合、水性媒体の種類及び水性分散体中に占める割合により、縮合して形成するゲル化速度が影響を受けることから、調節しなければならなく、またゲルが形成されるまで行わなければならない。撹拌速度は速すぎるとゲル構造が崩れ、均一な被膜が形成されないため、低速で行う必要がある。
【0026】
また上記の水性媒体とは水及びアルコールから構成される。アルコールを加えることにより乾燥工程においてイオン徐放性ガラスの凝集性を軽減させ、より解砕性を向上させる多大な効果がある。好ましいアルコールとしては炭素数2〜10のアルコール類であるが、炭素数が10以上のアルコールの添加は沸点が高く溶媒を乾燥除去するために長時間を要する。具体的なアルコールとしては、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、iso−アミルアルコール、n−ヘキシルアルコールn−ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、n−ドデシルアルコールが挙げられ、より好ましくは炭素数2〜4のアルコール、例えばエチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコールが好適に使用される。上記アルコールの添加量は水に対して5〜100重量部、好ましくは5〜20重量部である。添加量が100重量部以上になると乾燥工程が複雑になる等の問題が生じる。またガラスの含有量は水性媒体に対して25〜100重量部の範囲であり、好ましくは30〜75重量部の範囲である。含有量が100重量部を超える場合は縮合によるゲル化速度が速く、均一なポリシロキサン被膜層を形成しにくく、また25重量部より少ない場合、撹拌状態下でガラスが沈降したり水性媒体中で相分離が発生したりする。また、
イオン徐放性ガラス表面を被覆するシラン化合物の添加量は
イオン徐放性ガラス100重量部に対して、シラン化合物のSiをSiO2
に換算
して0.1〜10重量部の範囲であり、好ましくは0.1〜4重量部である。添加量が0.1重量部以下の場合は、ポリシロキサン被膜層形成の効果がなく、一次粒子まで解砕できず凝集したものになり、10重量部以上では乾燥後の固化物が硬すぎて解砕することができない。
【0027】
「ゲル」状態にある系を、乾燥し水性媒体を除去して固化させる。乾燥は、熟成と焼成の2段階からなり、前者はゲル構造の生長と水性媒体の除去を、後者はゲル構造の強化を目的としている。前者はゲル構造にひずみを与えず、かつ水性媒体を除去することから静置で行う必要があり、箱型の熱風乾燥器等の設備が好ましい。熟成温度は室温から100℃の範囲で、より好ましくは40〜80℃の範囲である。温度がこの範囲以下の場合は、水性媒体除去が不十分であり、範囲以上の場合は急激に揮発し、ゲル構造に欠陥が生じたり、ガラス表面から剥離したりする恐れがある。熟成時間は乾燥器等の能力にもよるため、水性媒体が充分除去できる時間ならば何等問題はない。
【0028】
一方焼成工程は昇温と係留に分かれ、前者は目標温度まで徐々に長時間かけて昇温する方がよく、急激な温度はゲル分散体の熱伝導が悪いため、ゲル構造内にクラックが生じる可能性がある。後者は一定温度での焼成である。焼成温度は100〜350℃の範囲であり、よりこのましくは100〜200℃である。
【0029】
以上のように乾燥によりゲルから水性媒体を除去し、収縮した固化物が得られる。固化物はイオン徐放性ガラスの凝集状態ではあるが、単なるイオン徐放性ガラスの凝集物ではなく、個々の微粒子の境界面には縮合により形成されたポリシロキサンが介在している。したがって次の工程としてこの固化物をポリシロキサン処理前のイオン徐放性ガラス相当に解砕すると、その表面がポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスが得られる。ここで「ポリシロキサン処理前のイオン徐放性ガラス相当に解砕する」とは、ポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスの一次粒子に解砕することであり、元のイオン徐放性ガラスと異なる点は個々の微粒子がポリシロキサンで被覆されていることである。ただし、問題ない程度なら2次凝集物を含んでもよい。固化物の解砕は、せん断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては、例えばヘンシェルミキサー、クロスロータリミキサー、スーパーミキサー等を用いて行いことができる。
【0030】
一般式(I)で表されるシラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2-エチルヘキシロキシ)シラン、トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリイソプロポキシクロロシラン、トリメトキシヒドロキシシラン、ジエトキシジクロロシラン、テトラフェノキシシラン、テトラクロロシラン、水酸化ケイ素(酸化ケイ素水和物)等が例示でき、より好ましくはテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランである。また一般式(I)で表されるシラン化合物で示される凝集体であることがより好ましい。
また一般式(I)で表されるシラン化合物の低縮合体であることがより好ましい。例えばテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランを部分加水分解して縮合させた低縮合シラン化合物である。これらの化合物は単独または組み合わせて使用することができる。
【0031】
またポリシロキサン処理時に一般式(I)で表されるシラン化合物の一部としてオルガノシラン化合物も添加することができる。具体的にオルガノシロキサン化合物を例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γメルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン等が例示でき、特に好ましくはメチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシランである。これらの化合物は単独または組み合わせて使用することができる。しかしこれらはポリシロキサン層内において有機基が存在するため、ポリシロキサン層形成時のひずみを受ける可能性があり、機械的強度に問題が生じることがある。このため少量の添加にとどめておく必要がある。またポリシロキサン処理時に一般式(I)で表されるシラン化合物の一部として、他の金属のアルコキシド化合物、ハロゲン化物、水和酸化物、硝酸塩、炭酸塩も添加することができる。
【0032】
前記工程で得られたポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスは酸性ポリマーと反応させる酸性ポリマー処理を施すことによって本発明の最も好ましい表面処理イオン徐放性ガラスを得ることができる。酸性ポリマー処理は乾式流動型の撹拌機であれば業界で一般に使用されている設備を用いることができ、ヘンシルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー等が挙げられる。ポリシロキサン被膜が形成されたイオン徐放性ガラスへの酸性ポリマーの反応は、酸性ポリマー溶液を含浸や噴霧等により接触させることにより行うことができる。例えばポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスを乾式流動させ、その流動させた状態で上部から酸性ポリマー溶液を分散させ、十分撹拌するだけでよい。このとき酸性ポリマー溶液の分散法は特に制限はないが、均一に分散できる滴下またはスプレー方式がより好ましい。また反応は室温付近で行うことが好ましく、温度が高くなると酸反応性元素と酸性ポリマーの反応が速くなり、酸性ポリマー相の形成が不均一になる。
熱処理後、熱処理物の解砕は剪断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては上記反応に用いた設備などで行うことができる。
【0033】
反応に用いる酸性ポリマー溶液の調製に用いる溶媒は、酸性ポリマーが溶解する溶媒であれば何等問題はなく、水、エタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは水であり、これは酸性ポリマーの酸性基が解離し、イオン徐放性ガラスの表面と均一に反応することができる。
酸性ポリマー溶液中に溶解したポリマーの重量分子量は2000〜50000の範囲であり、5000〜40000の範囲にある。2000未満の重量平均分子量を有する酸性ポリマーで処理した表面処理イオン徐放性ガラスはイオン徐放性が低くなる傾向にある。50000を超える重量平均分子量を有する酸性ポリマーは酸性ポリマー溶液の粘性が上がり、酸性ポリマー処理を行うことが困難となる。また酸性ポリマー溶液中に占める酸性ポリマー濃度は3〜25重量%の範囲が好ましく、より好ましくは8〜20重量%の範囲である。酸性ポリマー濃度3重量%未満になると上記で述べた酸性ポリマー相が脆弱になる。また酸性ポリマー濃度が25重量%を超えるとポリシロキサン層(多孔質)を拡散しにくくなる反面、イオン徐放性ガラスに接触すると酸−塩基反応が速く、反応中に硬化が始まり凝集が起こる等の問題が生じる。またポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスに対する酸性ポリマー溶液の添加量は6〜40重量%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜30重量%である。この添加量で換算するとポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスに対する酸性ポリマー量は1〜7重量%、また水量は10〜25重量%の範囲が最適値である。
【0034】
上記の方法によりポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラスの表面に酸性ポリマー反応相を形成するために用いることのできる酸性ポリマーは、酸性基として、リン酸残基、ピロリン酸残基、チオリン酸残基、カルボン酸残基、スルホン酸基等の酸性基を有する重合性単量体の共重合体または単独重合体である。このような重合性単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、グルタコン酸、シトラコン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル2'-ブロモエチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、ピロリン酸ジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート等が列挙できる。これらの重合体の中でも酸反応性元素との酸-塩基反応が比較的遅い、α-β不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体が好ましい。より好ましくはアクリル酸重合体、アクリル酸-マレイン酸共重合体、アクリル酸-イタコン酸共重合体である。
【0035】
本発明に用いるイオン徐放性ガラスはガラス組成に基因したイオン種を持続的に徐放することが特徴であり、金属フッ化物等の水への溶解によって一時的に多量を放出するものとは異なるものである。
以下の手法によってイオン徐放性ガラス又は他のフィラーがイオン徐放性を有しているか否かを判断することができる。
蒸留水100gに対してイオン徐放性ガラス又は他のフィラーを0.1g加え、1時間撹拌させた時の蒸留水中に徐放したイオン濃度(F1)又はイオン種に起因した元素濃度(F1)と、2時間撹拌した時の蒸留水中に徐放したイオン濃度(F1)又はイオン種に起因した元素濃度(F2)が下式(1)の関係を満足する場合をイオン徐放とみなすことができる。
F2 > F1 ・・・・式(1)
また、イオン徐放性ガラスから徐放するイオンが複数ある場合は、すべてのイオン濃度又は元素濃度が式(1)を満足する必要はなく、少なくとも一つのイオン濃度又は元素濃度が式(1)を満足した場合をイオン徐放とみなすことができる。
本発明に用いるイオン徐放性ガラスはイオン徐放の効果に基因する酸中和能を有していることが好ましい。酸中和能はpHを4.0に調整した乳酸水溶液10gに対してイオン徐放性ガラスを0.1g加え、5分間撹拌させた時のpH変化を測定することにより確認することできる。その時のpHが5.5以上、より好ましくは6.0以上、最も好ましくは6.5以上を示したとき酸中和能が発現するとみなすことができる。
【0036】
イオン徐放性ガラスの含有量は、二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物の総量に対して1〜60重量%であることが好ましく、さらに好ましくは3〜60重量%の範囲である。イオン徐放性ガラスの含有量が1重量%未満の場合はイオン徐放量が不足し歯質強化、二次齲蝕抑制等の効果が期待できない。一方、60重量%を越える場合は二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物の粘度が高くなり操作性の低下等の問題が生じる。
【0037】
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物に用いることができる(c)可塑材は特に限定されず、公知のものが何等制限なく用いることができる。可塑材を具体的に例示すると、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブヂルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸エステル、ジブチルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジブチルセバチート、ジオクチルセバチート、ジブチルマレエート、ジブチルフマレート等のフタル酸以外の二塩基酸エステル、グリセロールトリアセテート等のグリセリンエステル、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル、安息香酸ベンジル,安息香酸エチル,安息香酸ブチル,安息香酸アミル等のカルボン酸エステル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの可塑材は単独だけでなく、複数を組みわせて用いることができる。
これら可塑材の中でもカルボン酸エステルが好ましく、より好ましくは安息香酸ベンジル,ジブチルセバチート,ジブヂルフタレート等である。
【0038】
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物における可塑材の含有量は使用方法、使用目的、組成等によって適宜調製することができるが、1〜70重量%の範囲であれば何等制限なく、用いることができる。好ましくは1〜60重量%の範囲、さらに好ましくは20〜50重量%の範囲である。可塑剤の含有量が1%未満の場合は非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーが過剰となり、混合・膨潤した材料が硬すぎて、操作性が低下する等の問題がある。一方、60重量%を越える場合は可塑材が過剰となり、弾性が維持できなくなるため、操作性及び粘膜調整能が低下する等の問題がある。
【0039】
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物に用いることができる(d)有機溶媒は特に限定されず、公知のものが何等制限なく用いることができる。有機溶媒を具体的に例示すると、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化アルキル類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの有機溶媒は単独だけでなく、複数を組みわせて用いることができる。
これら有機溶媒の中でもアルコール類が好ましく、より好ましくはエタノール、イソプロピルアルコール等である。
【0040】
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物における有機溶媒の含有量は使用方法、使用目的、組成等によって適宜調整することができるが、1〜30重量%の範囲であれば何等制限なく、用いることができる。好ましくは1〜20重量%の範囲、さらに好ましくは5〜15重量%の範囲である。有機溶媒の含有量が1%未満の場合は、非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーと可塑材の膨潤速度が遅く、粘膜調整材としての操作性が低下する。一方、30重量%を越える場合は、有機溶媒の溶出による材料の性状変化が大きい等、材料特性に問題が生じる。
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物に用いることができる(e)充填材は特に限定されず、可塑材及び有機溶媒に対して膨潤しないものであれば有機成分、無機成分及びそれらの混合物または複合物でも何等制限なく使用することができる。
【0041】
充填材を具体的に例示すると水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸塩、酸化アルミニウム等の金属酸化物、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム等の金属フッ化物、タルク、カオリン、クレー、雲母、ヒドロキシアパタイト、シリカ、石英等の無機系充填材、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、スチレンーブタジエンゴム等のエラストマー類、単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体と二個以上の官能基を有する重合性単量体を共重合させた架橋性(メタ)アクリレート系ポリマー等の有機系充填材、無機充填材の表面を重合性単量体により重合被覆したもの、無機充填材と重合単量体を混合・重合させた後、適当な粒子径に粉砕したもの、あるいは、予め重合性単量体中に充填材を分散させて乳化重合または懸濁重合させたもの等、有機‐無機複合系充填材等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの充填材は単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることができる。
【0042】
これら充填材は球状、針状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の形状の充填材を用いることができる。また充填材の平均粒子径(50%)は0.1〜100μmの範囲であれば特に制限はないものの、好ましくは1〜50μmの範囲、さらに好ましくは1〜10μmの範囲である。
【0043】
さらに充填材の表面を、表面処理剤等を用いた表面処理法により多機能化してもよく、これらの表面処理充填材も何等制限なく用いることができる。充填材の表面を多機能化するために用いる表面処理剤を具体的に例示すると界面活性剤、脂肪酸、有機酸、無機酸、各種カップリング材、金属アルコキシド化合物等が挙げられる。また表面処理方法を具体的に例示すると充填材を流動させた状態で上部から表面処理剤を噴霧する方法、表面処理剤を含んだ溶液中に充填材を分散させる方法及び充填材表面に数種類の表面処理剤を多層処理する方法等が挙げられる。しかしながら表面処理剤及び表面処理方法は、これらに限定されるものではない。また、これらの表面処理剤や表面処理方法はそれぞれ単独または複合的に組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物における充填材の含有量は特に限定されないものの、二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物の総量に対しての1〜50重量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは1〜20重量%の範囲である。充填材の含有量が1重量%未満の場合はその添加効果が得られず、切削性がほとんど向上しない。一方、50重量%を越える場合は二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物中における非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマーの含有量が少なくなるために、単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体等の浸透・膨潤が均一に起こらず、その結果材料特性に問題が生じる。
【0045】
また、本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物には、上記の(a)〜(e)の成分以外に、フュームドシリカに代表される賦形材、2−ヒドロキシ−4−メチルベンゾフェノンのような紫外線吸収材、(メタ)アクリレート系重合性単量体、重合開始材、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2、5−ジターシャリーブチル−4−メチルフェノール等の重合禁止材、変色防止材、抗菌材、着色顔料、その他の従来公知の添加材等の成分を必要に応じて任意に添加できる。
【実施例】
【0046】
以下に本発明の実施例及び比較例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例にて調製した二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物の性能を評価する試験方法は次の通りである。
【0047】
〔切削性〕
目的:二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物の切削性を評価する。
方法:本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物を1.2g(粉材):1mL(液材)の割合で混合・膨潤させた後、混合物をステンレス製金型(20φ×2mm:円盤状)に充填した後、ナイロンフィルムを介してガラス板で圧接し、30分間放置することにより試験体を作製した。試験体を技工用カーバイドバーにより切削し、その切削性を以下の4段階で評価した。
◎・・・切削性が非常に良好であり、切削面に凹凸が認められない。
○・・・切削性が良好であり、切削面にわずかに凹凸が認められる。
△・・・粘膜調整材が研削材に絡みつき、切削しにくい。または切削面にやや凹凸が認められる。
×・・・粘膜調整材が研削材に絡みつき、切削しにくい。または切削面に凹凸が認められる。
【0048】
〔フッ素放出量の測定評価〕
目的:二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物からのフッ素放出特性を評価する。
方法:本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物を1.2g(粉材):1mL(液材)の割合で混合・膨潤させた後、混合物をステンレス製金型(15φ×1mm:円盤状)に充填した後、ナイロンフィルムを介してガラス板で圧接し、30分間放置することにより試験体を作製した。試験体を5mLの蒸留水が入ったプラスチック製容器に入れ、密封後37℃恒温器中に1週間放置した。1週間後容器を恒温器から取り出し、円盤状試験体から溶出したフッ素量をフッ素イオン複合電極(Model 96-09:オリオンリサーチ社製)及びイオンメーター(Model 720A:オリオンリサーチ社製)を用いて測定した。測定時にイオン強度調整剤としてTISABIII(オリオンリサーチ社製)を0.5mL添加した。また検量線の作成は0.02、0.1、1、10、50ppmの標準液を用いて行った。フッ素放出量は0.2ppm以上が好ましく、0.5ppm以上がさらに好ましい。
【0049】
〔イオン放出量の測定評価〕
目的:二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物からのイオン放出特性を評価する。
方法:本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物を1.2g(粉材):1mL(液材)の割合で混合・膨潤させた後、混合物をステンレス製金型(15φ×1mm:円盤状)に充填した後、ナイロンフィルムを介してガラス板で圧接し、30分間放置することにより試験体を作製した。試験体を5mLの蒸留水が入ったプラスチック製容器に入れ、密封後37℃恒温器中に1週間放置した。1週間後容器を恒温器から取り出し、円盤状試験体から溶出したイオン量についてICP発光分析装置を用いて測定した。なお、各金属イオン量は、各イオンの標準試料(1ppm、2.5ppm、5ppm、10ppm)から求めた検量線を用いて換算した。
【0050】
[イオン徐放性ガラス及び各種フィラーの酸中和能の評価]
本発明に用いるイオン徐放性ガラスの酸中和能を以下の方法で評価した。pHを4.0に調整した乳酸水溶液10gに対してイオン徐放性ガラス及び各種フィラーを0.1g加え、5分間撹拌した後のpHをpHメーター(D-51:堀場製作所)を用いて測定することにより評価した。
【0051】
〔二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物の酸中和能の評価〕
目的:二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物の酸中和能を評価する。
方法:本発明の二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物を1.2g(粉材):1mL(液材)の割合で混合・膨潤させた後、混合物をステンレス製金型(15φ×1mm:円盤状)に充填した後、ナイロンフィルムを介してガラス板で圧接し、30分間放置することにより試験体を作製した。試験体を5mLの乳酸水溶液(pH4.0に調整)中に浸漬した。その後、6時間及び24時間経過後の乳酸水溶液のpHをpHメーター(D-51:堀場製作所)を用いて測定した。
【0052】
本発明の実施例及び比較例に使用した成分名及びその略号を以下に示す。
PEMA50:ポリメチルメタクリレート(平均粒子径(D50):50μm、重量平均分子量:30万、形状:球状)
F1:イオン徐放性ガラス1
F2:イオン徐放性ガラス2
F3:イオン徐放性ガラス3
BB:安息香酸ベンジル
DBS:ジブチルセバチート
DBP:ジブチルフタレート
EtOH:エタノール
PMMA−C:架橋ポリメチルメタクリレート(MMA:95部及び1G5部から成るポリメチルメタクリレート、平均粒子径(D50):10μm、形状:球状)
【0053】
[イオン徐放性ガラス1の製造]
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料(ガラス組成:SiO2 23.8質量%、Al2O3 16.2質量%、B2O3 10.5質量%、SrO 35.6質量%、Na2O 2.3質量%、F11.6質量%)をボールミルを用いて均一に混合し原料混合品を調製した後、その原料混合品を溶融炉中で1400℃にて溶融した。その融液を溶融炉から取り出し冷鋼板上、ロールまたは水中で冷却してガラスを生成した。4連式振動ミルのアルミナポット(内容積3.6リットル)中に直径6mmφのアルミナ玉石4kgを投入後、上記で得たガラスを500g投入して40時間粉砕を行い、イオン徐放性ガラス1を得た。このイオン徐放性ガラス1の50%平均粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)により測定した結果、1.2μmであった。このイオン徐放性ガラス1から放出されるイオンに基因した元素量(フッ化物イオンのみイオン量)を測定し、(1)式への適合性を確認した。その結果を表1に示した。
【0054】
[イオン徐放性ガラス2の製造]
以下に示すポリシロキサン処理及び酸性ポリマー処理を行い表面処理したイオン徐放性ガラス2を得た。
前述のイオン徐放性ガラス1を500g、シラン化合物(予めテトラメトキシシラン5g、水1000g及びエタノール100gを2時間室温で撹拌し得られたシラン化合物の低縮合物)を万能混合攪拌機に投入し、90分間撹拌混合した。その後、140℃にて熱処理を30時間施し、熱処理物を得た。この熱処理物をヘンシェルミキサーを用いて解砕し、ポリシロキサン被覆イオン徐放性ガラスを得た。このポリシロキサンで被覆されたイオン徐放性ガラス500gを撹拌しつつ、酸性ポリマー水溶液(ポリアクリル酸水溶液:ポリマー濃度13重量%、重量平均分子量20000;ナカライ社製)をヘンシェルミキサーを用いて噴霧した。その後、熱処理(100℃3時間)を施し、表面処理したイオン徐放性ガラス2を製造した。このイオン徐放性ガラス2の50%平均粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)により測定した結果、1.3μmであった。この表面処理したイオン徐放性ガラス2から放出されるイオンに基因した元素量(フッ化物イオンのみイオン量)を測定し、(1)式への適合性を確認した。その結果を表1に示した。
【0055】
[イオン徐放性ガラス3の製造]
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料を混合後、1400℃にてその混合物を溶融してガラス(ガラス組成:SiO2 19.8質量%、Al2O3 19.8質量%、B2O3 11.7質量%、SrO 35.0質量%、Na2O 2.3質量%、F11.4質量%)を得た。次に生成したガラスを振動ミルを用いて10時間粉砕し、ガラス3を得た。前述のガラス3を500g、シラン化合物(予めテトラメトキシシラン10g、水1500g、エタノール100g、メタノール70g及びイソプロパノール50gを2時間室温で撹拌し得られたシラン化合物の低縮合物)を万能混合攪拌機に投入し、90分間撹拌混合した。その後、140℃にて熱処理を30時間施し、熱処理物を得た。この熱処理物をヘンシェルミキサーを用いて解砕し、ポリシロキサンで被覆したイオン徐放性ガラスを得た。このポリシロキサンで被覆したガラス500gを撹拌しつつ、酸性ポリマー水溶液(ポリアクリル酸水溶液:ポリマー濃度13重量%、重量平均分子量20000;ナカライ社製)をヘンシェルミキサーを用いて噴霧した。その後、熱処理(100℃3時間)を施し、表面処理したイオン徐放性ガラス3を製造した。
この表面処理したイオン徐放性ガラス3の50%平均粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)により測定した結果、3.1μmであった。この表面処理したイオン徐放性ガラス3から放出されるイオンに基因した元素量(フッ化物イオンのみイオン量)を測定し、(1)式への適合性を確認した。その結果を表1に示した。
【0056】
【表1】
表2及び表3の調合組成に従い、粉材及び液材をそれぞれ調製した。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
実施例1〜6本発明の構成要件(a)〜(d)及び(e)を含有した二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物であり、表4に示すように、良好な切削性を有することが確認できる。さらに表5に示すように、イオン徐放性ガラスを含有している効果によりフッ化物イオンを含む6種類のイオンが徐放していることが認められ、特に部分床義歯においては不潔部位になりやすい鈎歯の脱灰抑制が期待できる。また酸中和能の評価から、二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物はpH4.0の乳酸水溶液を6時間経過後にはpH5前後、24時間後にはpH6前後にまで中和しており、酸中和能を有していることが確認できた。
比較例1は本発明の構成要件の中でも(b)イオン徐放性ガラスを含んでいない二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物であり、表4が示すように切削性が悪く、かつフッ素を含むイオン徐放性を有しないことが確認された。また酸中和能を有していないことが確認された。
比較例2は本発明の構成要件の中でも(c)有機溶媒を含んでいない二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物であり、表4が示すように試験体が作製不可能であることが確認された。
 
【課題】歯科用粘膜調整材組成物にイオン徐放性ガラスを含有することによって形態修正時における切削感が良好であり、かつフッ化物イオンを含む各種イオンの徐放効果により残存歯質の強化と二次的な齲蝕の発生抑制、細菌・真菌の付着及び増殖抑制等の予防的機能を兼備した歯科用粘膜調整材組成物の提供。
【解決手段】粉材と液材から成る二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物であって、(a)非架橋性(メタ)アクリレート系ポリマー(b)イオン徐放性ガラスを含む粉材成分と(c)可塑材(d)有機溶媒を含む液材成分とからなる構成とする二成分混和型イオン徐放性粘膜調整材組成物。