特許第5653759号(P5653759)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5653759-皮膚老化抑制ペプチド 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5653759
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】皮膚老化抑制ペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20141218BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20141218BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20141218BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20141218BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20141218BHJP
   C07K 5/113 20060101ALI20141218BHJP
   C07K 5/117 20060101ALI20141218BHJP
   C07K 5/103 20060101ALI20141218BHJP
   C07K 5/107 20060101ALI20141218BHJP
   A61K 35/20 20060101ALN20141218BHJP
【FI】
   A61K37/02
   A61K8/64
   A61P17/00
   A61P17/16
   C07K7/06ZNA
   C07K5/113
   C07K5/117
   C07K5/103
   C07K5/107
   !A61K35/20
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-542975(P2010-542975)
(86)(22)【出願日】2009年12月15日
(86)【国際出願番号】JP2009070912
(87)【国際公開番号】WO2010071132
(87)【国際公開日】20100624
【審査請求日】2012年9月10日
(31)【優先権主張番号】特願2008-318334(P2008-318334)
(32)【優先日】2008年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104353
【氏名又は名称】カルピス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】大澤 一仁
(72)【発明者】
【氏名】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 通生
(72)【発明者】
【氏名】大木 浩司
【審査官】 渡邊 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第06/000350(WO,A1)
【文献】 特開2007−145845(JP,A)
【文献】 特表2008−504319(JP,A)
【文献】 特開2001−136995(JP,A)
【文献】 増山明弘,特集 最近の保湿研究と保湿剤の開発 Lactobacilus helveticus発酵乳の皮膚に対する効果,FRAGRANCE JOURNAL,日本,フレグランス ジャーナル社,2005年10月15日,Vol.33, No.10,p.71-76
【文献】 梶本修身, 他.,健常者を対象とした「ラクトトリペプチド(VPP, IPP)」含有錠菓の大量摂取による安全性の検討,健康・栄養食品研究,日本,財団法人 日本健康・栄養食品協会,2002年 3月31日,Vol.4, No.4,p.37-46,要約欄、2.試験方法の項、表1など
【文献】 GOMEZ-RUIZ, J.A., et al., Journal of Dairy Science, 2007.11, Vol.90,No.11, p.4966-4973
【文献】 Singh, Tanoj K., et al., Journal of Dairy Science, 1997.11, Vol.64,No.3, p.433-443
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 35/20
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のi)〜vi)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を投与することを含む、コラーゲン産生を促進させる方法(ただし、ヒトを治療または診断する方法を除く):
i)Asn-Ile-Pro-Pro-Leu
ii) Ile-Pro-Pro-Leu
iii)Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro
iv) Val-Pro-Pro-Phe
v)Phe-Pro-Pro-Gln
vi)Leu-Pro-Pro-Thr
【請求項2】
下記のi)〜vi)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を投与することを含む、表皮細胞増殖を促進させる方法(ただし、ヒトを治療または診断する方を除く):
i)Asn-Ile-Pro-Pro-Leu
ii) Ile-Pro-Pro-Leu
iii)Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro
iv) Val-Pro-Pro-Phe
v) Phe-Pro-Pro-Gln
vi)Leu-Pro-Pro-Thr
【請求項3】
下記のi)〜vi)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を投与することを含む皮膚老化を抑制する方法(ただし、ヒトを治療または診断する方法を除く):
i)Asn-Ile-Pro-Pro-Leu
ii) Ile-Pro-Pro-Leu
iii)Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro
iv) Val-Pro-Pro-Phe
v) Phe-Pro-Pro-Gln
vi)Leu-Pro-Pro-Thr
【請求項4】
下記のi)〜vi)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を投与することを含む、皮膚の弾力性を維持する方法(ただし、ヒトを治療または診断する方法を除く):
i)Asn-Ile-Pro-Pro-Leu
ii) Ile-Pro-Pro-Leu
iii)Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro
iv) Val-Pro-Pro-Phe
v)Phe-Pro-Pro-Gln
vi)Leu-Pro-Pro-Thr
【請求項5】
下記のi)〜vi)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を投与することを含む、皮膚のシワ形成の進行を抑える、シワを改善する、またはシワを予防する方法(ただし、ヒトを治療または診断する方法を除く):
i)Asn-Ile-Pro-Pro-Leu
ii) Ile-Pro-Pro-Leu
iii)Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro
iv) Val-Pro-Pro-Phe
v)Phe-Pro-Pro-Gln
vi)Leu-Pro-Pro-Thr
【請求項6】
ペプチドまたはその塩が経口投与される、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
下記のi)〜vi)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を有効成分として含む、コラーゲン産生促進用医薬組成物:
i)Asn-Ile-Pro-Pro-Leu
ii) Ile-Pro-Pro-Leu
iii)Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro
iv) Val-Pro-Pro-Phe
v) Phe-Pro-Pro-Gln
vi)Leu-Pro-Pro-Thr
【請求項8】
下記のi)〜vi)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を有効成分として含む、表皮細胞増殖促進用医薬組成物:
i)Asn-Ile-Pro-Pro-Leu
ii) Ile-Pro-Pro-Leu
iii)Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro
iv) Val-Pro-Pro-Phe
v) Phe-Pro-Pro-Gln
vi)Leu-Pro-Pro-Thr
【請求項9】
下記のi)〜vi)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を有効成分として含む、皮膚老化抑制医薬組成物:
i)Asn-Ile-Pro-Pro-Leu
ii) Ile-Pro-Pro-Leu
iii)Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro
iv) Val-Pro-Pro-Phe
v) Phe-Pro-Pro-Gln
vi)Leu-Pro-Pro-Thr
【請求項10】
経口摂取用である、請求項のいずれか1項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚の老化を防止する作用を有するペプチドおよび組成物に関する。より具体的には、本発明は皮膚老化抑制作用、コラーゲン産生促進作用、表皮ターンオーバー促進作用(表皮細胞賦活作用)および皮膚細胞増殖促進作用を有するペプチドおよび組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は他の生体組織と同様に加齢に伴って老化が進むほかに、紫外線の曝露により老化が促進される。近年の研究で、加齢による皮膚老化と紫外線による皮膚老化には、いくつかの重要な分子生物学的共通点があることが明らかにされている。
皮膚は外側から角質層、表皮層、真皮層、皮下組織から構成される。表皮層は、表皮最深部の基底層で誕生した表皮細胞が外界方向に移行していき、常に新しい細胞に入れ代わっている(表皮細胞のターンオーバーという)。皮膚老化の要因としては、表皮層を構成する表皮細胞のターンオーバーの低下および真皮層に存在する線維芽細胞の細胞間に存在するコラーゲンが減少することが知られている(Arch Dermatol. 2002;138:1462-1470)。コラーゲンは、真皮層の主成分であり、皮膚の弾力性維持に関与するが、加齢や紫外線によるダメージにより皮膚のコラーゲン量は減少し、皮膚の弾力性が損なわれ、シワの形成や皮膚老化が促進されることが知られている。また、乾燥により、角質層および表皮層は肥厚するが、角質層の剥離が遅れると、浅いシワの原因になることも知られている(J. Dermatol. Sci. 2001;27 Suppl 1:S19-25)。皮膚のシミ、たるみも皮膚老化の主症状であるが、シワの形成はその中でも大きな要素を占めており、そうしたシワの予防には、従来からさまざまな方法が取られてきた。例えば、皮膚構造を支持するコラーゲン線維の合成を促進し、かつその減少を予防する方法である。また、皮膚の保湿維持やバリア機能に関わる角質層ならび表皮細胞の再生を促進すること、すなわち表皮層および角質層の生まれ変わり(表皮ターンオーバー)を促進すること(表皮細胞賦活)もシワの効果的な予防方法であると考えられている。
現在、世間一般に普及しているシワ予防のための手段としては、皮膚に潤いを与える成分や、弾力性の維持に働く成分を配合した外用化粧品がある。そのような化粧品には、例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などのムコ多糖類やコラーゲン、ビタミン類、アミノ酸、セラミドなどが含有されている。
近年、皮膚によいとされる美容健康食品も開発されている。例えば、ラクトフェリンの酵素分解産物やラクトパーオキシダーゼの酵素分解産物(特開2004-331564 特開2004-331565)を含むコラーゲン産生促進剤や、ムコ多糖類を含有することを特徴とする美容健康食品(特開2006-143671)などが挙げられる。
コラーゲンの産生を促進する低分子化合物として、レチノイン酸やその誘導体であるレチノールなどのビタミンAが知られている(Arch Dermatol. 2007 May;143(5):606-12.)。さらに、安全性の高い低分子化合物としてペプチドやアミノ酸を利用したコラーゲン産生促進技術がある。例えば、コラーゲナーゼによるコラーゲン分解物ペプチドを有効成分とするコラーゲン産生促進用組成物や(特開2007−91637)、大豆たんぱく質などに由来するLeu-Glu-His-Ala(特開2007−145795)が開発されている。また、L-プロリン、L-アラニン、L-グリシンの3種アミノ酸を人肌コラーゲンに近い割合で配合した美容食品(特開2001-224334号)も知られている。
また、さらに、WO2006/000350には乳タンパク質水解物に含まれる末端がプロリンであるペプチドに美容効果があると記載されている。この文献では、カルボキシ末端がプロリンであるペプチドを高含量する化粧品が有効であると記載されているが、一方、有効成分は特定されておらず経口摂取時の腸管吸収性についても一切言及されていない。
他方で、醗酵乳、ホエー等の乳酸菌醗酵代謝物(WO2006/095764 WO2006/137513 特開2005-206578)に皮膚紫外線感受性抑制や表皮細胞分化促進、保湿などの美容効果が見られることが示されている。
さらに、薬物やペプチドなどの腸管における吸収性を調べる方法として、ヒト結腸癌由来上皮細胞であるCaco-2細胞の細胞層透過性を用いるin vitro試験系が知られている。Caco-2細胞の単層細胞培養系を用いた薬物透過試験系は、in vivoでの薬物吸収性を予測評価するのに有用であることが知られている(Pharm Res. 1997 Apr;14(4):486-91)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-331564
【特許文献2】特開2004-331565
【特許文献3】特開2006-143671
【特許文献4】特開2007−9163
【特許文献5】特開2007−145795
【特許文献6】特開2001-224334号
【特許文献7】WO2006/000350
【特許文献8】WO2006/095764
【特許文献9】WO2006/137513
【特許文献10】特開2005-206578
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Arch Dermatol. 2002;138:1462-1470
【非特許文献2】J. Dermatol. Sci. 2001;27 Suppl 1:S19-25
【非特許文献3】Arch Dermatol. 2007 May;143(5):606-12
【非特許文献4】Pharm Res. 1997 Apr;14(4):486-91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シワを主な症状とする皮膚老化防止・改善のためには、真皮のコラーゲン量を増加させることや表皮のターンオーバーを促進することが特に効果的であると考えられていることから、線維芽細胞に対する顕著なコラーゲン産生促進能や表皮ターンオーバー促進に寄与する表皮細胞賦活能を有し、特に飲食品形態での使用に適した有効成分の開発が望まれている。
コラーゲン産生促進作用および皮膚細胞増殖効果を有するペプチドであっても、腸管から吸収されにくいペプチド、または消化管内で容易に分解するペプチドであっては、経口摂取した場合にコラーゲン産生促進作用および皮膚細胞増殖効果を発揮するのは困難である。
従って、本発明の目的の一つは、皮膚老化抑制作用、コラーゲン産生促進作用、表皮ターンオーバー促進作用および皮膚細胞増殖効果を有する経口摂取に適したペプチドおよび組成物を提供することである。さらに、本発明は皮膚老化抑制作用、コラーゲン産生促進作用および皮膚細胞増殖促進作用を有する医薬および機能性食品を提供する。
また、本発明により、消化管酵素による分解を容易に受けず、かつ、腸管吸収性に優れ、さらに皮膚老化防止・改善機能を有する新規美容食品が提供される。また本発明は、コラーゲン産生促進作用、表皮ターンオーバー促進作用および皮膚細胞増殖促進作用を有する新規美容食品が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記のi)〜viii)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を有効成分として含む、経口摂取に適した、コラーゲン産生促進用組成物、表皮ターンオーバー促進用組成物、皮膚細胞増殖促進用組成物、または皮膚老化抑制組成物である。
i)Asn-Ile-Pro-Pro-Leu
ii) Ile-Pro-Pro
iii) Ile-Pro-Pro-Leu
iv) Val-Pro-Pro
v) Val-Pro-Pro-Phe
vi)Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro
vii) Phe-Pro-Pro-Gln
viii)Leu-Pro-Pro-Thr
特に、本発明は、上記i)〜viii)の少なくとも一つのペプチドまたはその塩を有効成分として含む、コラーゲン産生促進用組成物、表皮細胞ターンオーバー促進用(表皮細胞賦活作用)組成物、皮膚細胞増殖促進用、または皮膚老化抑制経口摂取組成物である。
さらに、本発明は上記i)〜viii)のペプチドまたはその塩または前記組成物を含む医薬または、機能性食品、特に美容食品でもある。
本発明の組成物は特にヒトの経口摂取に適している。
本発明のコラーゲン産生促進作用は線維芽細胞に対して特に顕著である。
なお、本明細書においてアミノ酸の一文字表記および三文字表記は当業者によく知られた標準的な記法に従う。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、経口摂取により皮膚の老化や劣化を防止する作用を示すペプチドおよび組成物が提供される。より具体的には、本発明により、皮膚老化抑制作用、コラーゲン産生促進作用、表皮ターンオーバー促進(表皮細胞賦活)作用および皮膚細胞増殖作用を有する、経口摂取に適したペプチドおよび組成物が提供される。本発明の組成物は特にヒトの経口摂取に適している。
コラーゲンは真皮層の主成分であり、皮膚の弾力性維持に関与するが、加齢や紫外線によるダメージにより皮膚のコラーゲン量は減少し、皮膚の弾力性が損なわれ、シワの形成や皮膚老化が促進されることが知られている。また、乾燥により、角質層および表皮層は肥厚するが、角質層の剥離が遅れると、浅いシワの原因になることも知られている。
本発明の組成物に含まれるペプチドは消化管酵素による分解を容易に受けず、かつ腸管吸収性に優れており、しかも醗酵乳由来であるため安全性にも優れている。従って、本発明により、このような皮膚の老化や劣化を安全かつ簡便に防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leuの繊維芽細胞におけるコラーゲン産生および細胞増殖に対する効果を示す(実施例2)。 図1Aは、ペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu存在下または非存在下における線維芽細胞の培養7日後におけるコラーゲン産生量を示す。縦軸はペプチドを添加しなかったものを100としたときの相対値の平均値±平均誤差(%)を表す。NIPPL:ペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu、NIPPL-aa:ペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leuの構成アミノ酸、Asn、Ile、Pro、Leuの混合物。**:P<0.01、*:P<0.05(SNK検定。ペプチド非添加をコントロールとする。)。 図1BはペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu存在下または非存在下における線維芽細胞の培養7日後における細胞数を示す。縦軸はペプチドを添加しなかったものを100としたときの相対値の平均値±平均誤差(%)を表す。NIPPL:ペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu、NIPPL-aa:ペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leuの構成アミノ酸、Asn、Ile、Pro、Leuの混合物。**:P<0.01、*:P<0.05(SNK検定。ペプチド非添加をコントロールとする。)
【発明を実施するための形態】
【0009】
コラーゲンは、真皮層の主成分であり、皮膚の弾力性維持に関与するが、加齢や紫外線によるダメージにより皮膚のコラーゲン量は減少し、皮膚の弾力性が損なわれ、シワの形成や皮膚老化が促進されることが知られている。また、乾燥により、角質層および表皮層は肥厚するが、角質層の剥離が遅れると、浅いシワの原因になることも知られている。
上述のように、天然由来の高分子化合物であるヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などを配合した外用化粧品が知られているが、これらのムコ多糖類やコラーゲンは、高分子化合物ゆえに外用として皮膚に塗布しても吸収されにくく、さらにはそれら原料動物に由来するゼラチン臭が残存するなどの問題があった。また、セラミドなど保湿効果を有するものは表皮の角質の状態を改善するだけのものであり、さらに外用保湿剤は皮膚に塗布するものであるから、使用者が違和感や不快感を覚える場合があった。美容健康食品においては、安全性の面から天然由来成分の使用が好まれる傾向にあり、消費者にも受け入れられやすいが、ムコ多糖類などの高分子化合物を内服した場合には消化および吸収性が悪く、それらの効果は必ずしも満足いくものではない。
【0010】
レチノイン酸やその誘導体であるレチノールなどのビタミンAには皮膚刺激性があることが知られていることは既に述べたが、これらを外用することによって炎症が引き起こされる場合があり、またビタミンAを多量に摂取すると肝臓に蓄積されて肝障害が引き起こされる可能性も指摘されている。
L-プロリン、L-アラニン、L-グリシンなどのアミノ酸を配合した美容食品も知られているが、これらのアミノ酸は糖原性アミノ酸であり、炭素骨格の全部あるいは一部が脱アミノあるいはアミノ基転移後にクエン酸回路に入って糖新生に加わり、グルコースまたはグリコーゲンへ転換されるため(生化学辞典第2版:906ページ、左段)、経口摂取で得られる効果は低いものと考えられ、十分な効果を得るために、用量を多く用いる必要や、他成分と併用したりする必要があった。
このようにシワをはじめとする皮膚老化を予防・改善するために、または、コラーゲン産生を増加させるために、種々の成分および組成物が開発されてきたが、優れた体内吸収性を示し、限られた用量で十分な効果を示し、かつ美容食品の形態などで男女問わずに手軽に使用でき、さらに外用および内服でも使用可能な安全性を兼ね備え、継続的に使用可能な、皮膚老化防止の技術開発には至ってはいない。
【0011】
特定のペプチドを用いた美容食品は、前述のような従来技術において知られているが、それらは十分な利用がなされているとはいえない。その理由として、体内への吸収効率を検討していないことが大きいと見られる。経口摂取されたペプチドが体内に吸収されるためには腸管から吸収されなくてはならない。また、摂取された物質は胃腸において消化酵素にさらされるため、たとえ有用な生理活性ペプチドを見出したとしても容易に分解されるものでは有効性は期待できない。したがって、経口摂取による有効成分を見出すにあたっては、候補物質の腸管吸収性と消化酵素分解性を評価することが重要である。
薬物やペプチドなどの腸管における吸収性を調べる方法として、ヒト結腸癌由来上皮細胞であるCaco-2細胞透過性を用いるin vitro試験系が知られている。Caco-2細胞の単層細胞培養系を用いた薬物透過試験系は、in vivoでの薬物吸収性を予測評価するのに有用であることが知られている(Pharm Res. 1997 Apr;14(4):486-91)。本発明の有効成分であるペプチドのスクリーニングにもこのCaco-2細胞を用いたin vitro試験系を利用することが出来る。
【0012】
上述したように、本発明者等は、醗酵乳を経口摂取することで、皮膚紫外線感受性抑制や表皮細胞分化促進、保湿などの美容効果が得られることをすでに報告している(WO2006/095764 WO2006/137513 特開2005-206578)。本発明者らは、さらに、醗酵乳中に消化管酵素による分解を容易に受けず、腸管上皮細胞透過性を有し、さらに、コラーゲン産生促進作用および/または表皮ターンオーバー促進作用および/または表皮細胞増殖促進作用を有するペプチドがあることを見出し、それらのペプチドがAsn-Ile-Pro-Pro-Leu(NIPPL)、Ile-Pro-Pro(IPP)、Ile-Pro-Pro-Leu(IPPL)、Val-Pro-Pro(VPP)、Val-Pro-Pro-Phe(VPPF)、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro(PVVVPP)、Phe-Pro-Pro-Gln(FPPQ)、またはLeu-Pro-Pro-Thr(LPPT)のアミノ酸配列を有するペプチドまたはそれらの塩であることを明らかにした。
これらのペプチドはいずれもコラーゲン産生促進作用および/または表皮ターンオーバー促進作用および/または表皮細胞増殖促進作用を有し皮膚老化に対して十分な効果を示すが、特に、Asn-Ile-Pro-Pro-Leuは他のペプチドに比較してコラーゲン産生能および細胞増殖率に関して高い効果を有しており、皮膚の老化防止に特に高い効果が期待できる。
ペプチド、Asn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-Gln、またはLeu-Pro-Pro-Thrはいずれも有機化学的に合成したペプチドであってもよく、また天然物由来のペプチドであってもよい。これらのペプチドの有機化学的合成法としては、固相法(Boc法、Fmoc法)や液相法といった一般的な方法を用いることができ、例えば、島津製作所製のペプチド合成装置(PSSM−8型)といったペプチド自動合成装置を用いて合成したものであってもよい。ペプチド合成の反応条件等については、当業者の技術常識に基づき、選択する合成方法や適切な反応条件等を任意で設定することができる。化学的に合成されたペプチドの精製方法も当業者にはよく知られたものである。
【0013】
本明細書において、これらのペプチドについて言及する場合、特に明示した場合および文脈上除外されることが明らかである場合を除き、「ペプチド」にはそれらの塩が含まれる。そのような塩には、ナトリウム塩、カリウム塩などの生理的条件下で存在しえる塩が含まれる。また、本発明の組成物は、本発明の組成物の有効成分であるペプチド、Asn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-Gln、またはLeu-Pro-Pro-Thr以外に遊離アミノ酸を含んでいても良い。
本発明のペプチドの特性、すなわち消化管酵素による分解を容易に受けず、かつ、腸管吸収透過性に優れ、さらにコラーゲン産生促進作用および/または表皮ターンオーバー促進作用および/または表皮細胞増殖促進作用を持つことなどはこれまで全く知られていなかったものである。
【0014】
本発明のコラーゲン産生促進用組成物、表皮ターンオーバー促進(表皮細胞賦活)用組成物、または、皮膚細胞増殖促進用組成物は、Asn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-Gln、またはLeu-Pro-Pro-Thrなるアミノ酸配列を有するペプチドまたはその塩を有効成分として含有する。本発明でいう「皮膚老化抑制組成物」とは、シワ形成の進行を抑えとどめる作用を有するか、シワを改善する作用を有するか、あるいはシワの予防効果を有する組成物をいう。
本発明の組成物の投与量又は摂取量としては、1日あたり、ヒトの場合、ペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-Gln、またはLeu-Pro-Pro-Thrを、通常10μg〜10g、好ましくは1mg〜5g、さらに好ましくは3mg〜1g程度含む用量であり、1日に何回かに分けて投与又は摂取しても良い。
本発明の別の態様においては、Asn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-Gln、またはLeu-Pro-Pro-Thrは、乳タンパク質を含む原料(例えば、牛乳、馬乳、山羊乳または羊乳、およびそれらの脱脂粉乳など)をラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)種に属する菌により醗酵させて得られる醗酵物に由来するものであってもよい。醗酵の際の乳タンパク質原料の含有量は特に限定されないが、一般には1〜19重量%が好ましいであろう。
【0015】
ラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌としては、例えば、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株(通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号、郵便番号305(現、産業技術総合研究所特許生物寄託センター、日本国茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6、郵便番号305-8566)、受託番号:FERM BP-6060,寄託日1997.8.15)(以下、単にCM4株と称す)が挙げられる。ペプチド、Asn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-Gln、またはLeu-Pro-Pro-Thrを得るために、乳タンパク質を含む原料をCM4株のようなラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌により醗酵させて醗酵物を調整する場合は、これらのペプチドの含有割合は、好ましくは該醗酵物100g中に換算して0.1mg以上、より好ましくは1mg以上であろう。
この醗酵物中にはペプチド、Asn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-Gln、またはLeu-Pro-Pro-Thrが含まれていると考えられるが、この醗酵物をさらに1以上の消化管局在酵素、例えばペプシンおよび/またはパンクレアチンで消化しても良い。例えば、ペプシン消化は、37℃、pH2.0にて2時間、パンクレアチン消化は37℃、pH7.0にて2時間の条件下で行うことが出来る。これらの酵素のいずれか、または1以上の消化酵素による消化を行ってもよい。例えば、前述の醗酵物をペプシン消化に続いてパンクレアチン消化してもよい。これらの消化管酵素による分解は使用する消化管酵素ならび反応液、および酵素処理時間ならびpHなどの反応条件は、適宜変更してもよい。
【0016】
これらの醗酵物またはその消化酵素処理物中のペプチドの腸管上皮透過性はCaco-2細胞単層培養膜透過試験や反転腸管法(J. Physiol. 123, 116-125, 1954)などで調べることが出来る。腸管上皮透過性が確認されたペプチドは、種々の方法で精製して、それらのアミノ酸配列を決定することが出来る。例えば、固相抽出(SepPak tC18、Waters)によりペプチド成分を濃縮後、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析装置(LCMS-IT-TOF、島津)を用いて解析し、さらにMS/MS測定から得られた情報を基にde novoシーケンシングを行い、透過したペプチドのアミノ酸配列を決定することができる。
これらのペプチドの線維芽細胞に対するコラーゲン産生促進作用および細胞増殖作用は以下のようにして確認することが出来る。NHDF-NBのような正常ヒト皮膚線維芽細胞を、適当な密度、たとえば1.0×104cells/mlの濃度で適切な培養液中96ウェルプレートに100μLずつ播種し、37℃、5%CO2、加湿条件下で3日間培養を行い、さらに100μLの適切なバッファーたとえばPBSに溶解した試験サンプルを種々の濃度で添加して培養する。2−7日間培養した後、培養液を採取し、培養液中に分泌されたタイプIコラーゲン濃度を酵素結合免疫測定法等の方法で定量して、これらのペプチドの線維芽細胞に対するコラーゲン産生促進作用を確認することができる。同様にして、これらのペプチド存在下でNHDF-NBのような正常ヒト皮膚線維芽細胞を一定期間、たとえば7日間培養して、細胞数を計数することにより、これらのペプチドの線維芽細胞に対する細胞増殖促進作用を確認することができる。コラーゲン産生量についても細胞数についても、ペプチドを添加しない細胞培養物をコントロールとして定量化することが出来る。
【0017】
本発明のさらに別の態様においては、ペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-Gln、またはLeu-Pro-Pro-Thrは、牛乳、馬乳、山羊乳、羊乳等のカゼインのような獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物に由来してもよい。また、獣乳カゼインを含む食品原料を麹菌や乳酸菌といった菌類、例えば乳酸菌CM4株によって醗酵させて得られる醗酵物に由来するものであってもよい。獣乳カゼインを加水分解又は醗酵する際のカゼイン濃度は、特に限定されないが、一般には1〜19重量%が好ましい。市販の酵素群を用いる場合には、通常、至適条件が設定されているが、前記カゼイン加水分解物が得られるように条件、例えば、使用酵素量や反応時間等を、用いる酵素群に応じて適宜変更して行なうことができる。
必要であれば、ラクトバチルス・ヘルベティカスによる醗酵物について記載したのと同様にして、これらの加水分解物またはその濃縮物から本発明の有効成分であるペプチドを単離し(あるいは単離せず)、その機能を確認することができる。
【0018】
本発明の組成物の投与又は摂取期間は、投与又は摂取する対象、たとえばヒトの年齢やその対象の皮膚老化に対する環境等を考慮して種々調整することができ、通常1日以上、好ましくは7日以上摂取することで、継続した効果が期待できる。本発明の組成物の投与又は摂取の方法は、皮膚に塗布する外用であっても経口的でもよいが、その良好な腸管吸収性から好ましくは経口的に摂取される。本発明の組成物を医薬として用いる場合の形態は、経口投与用の製剤の形態とすることができる。例えば、錠剤、丸剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル、散剤、顆粒剤、液剤等が挙げられる。医薬として製造する場合は、例えば、適宜必要に応じて、製薬的に許容される担体、アジュバント、賦形剤、補形剤、防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調節剤、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、保存剤、抗酸化剤等を用い、一般に認められた製剤投与に要求される単位用量形態で製造することができる。
本発明の組成物は飲食品用素材として用いることもでき、例えば、本発明の組成物または本発明の組成物の有効成分であるペプチドを皮膚老化抑制作用、シワ予防といった効能を有する特定保健用食品等の機能性食品とすることができる。このような効能を得るための摂取量は、食品、例えば機能性食品が、日常的、連続的又は断続的に長期間摂取することを鑑みると、ヒトの場合、1日あたり、有効成分であるペプチド、Asn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-GlnまたはLeu-Pro-Pro-Thrの量として、通常10μg〜10g、好ましくは1mg〜5g、さらに好ましくは3mg〜1g程度であり、1日あたりの摂取回数に応じて、食品、例えば機能性食品における1回あたりの摂取量を前記量より更に低くすることも可能である。
【0019】
本発明の組成物またはその有効成分であるペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-GlnまたはLeu-Pro-Pro-Thrを含む食品、例えば機能性食品は、上述のようにして得た獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物や乳タンパク質を含む原料の醗酵物そのもの、あるいは醗酵物を粉末状や顆粒状にして各種食品に添加して製造することができる。また必要に応じて、ラクトバチルス・ヘルベティカス以外の乳酸菌の醗酵物や、食品に用いる他の成分、例えば、糖類、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、フレーバー、例えば、各種炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、甘味料、香料、色素、テクスチュア改善剤等又はこれらの混合物等の添加物を添加し、栄養的バランスや風味等を改善してもよい。
本発明の食品、例えば機能性食品は、固形物、ゲル状物、液状物の何れの形態とすることができ、例えば、乳酸菌飲料等の醗酵乳製品、各種加工飲食品、乾燥粉末、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等が挙げられ、更には各種飲料、ヨーグルト、流動食、ゼリー、キャンディ、レトルト食品、錠菓、クッキー、カステラ、パン、ビスケット、チョコレート等とすることができる。
ペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-GlnまたはLeu-Pro-Pro-Thrを用いて、皮膚老化抑制作用、シワ予防といった効能を有する特定保健用食品等の機能性食品とする場合、含有される有効成分であるペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-GlnまたはLeu-Pro-Pro-Thrの含有量としては、添加形態や製品形態によるが、最終製品に対して、0.01質量%〜50質量%、好ましくは0.1質量%〜30質量%、さらに好ましくは1質量%〜10質量%である。
【0020】
本発明の組成物およびその有効成分であるペプチドのin vivoにおける効果は以下のように確認することが出来る。
へアレスマウスを用いて紫外線によるシワ発生に対する予防効果を、ペプチドの経口摂取試験により検定することができる。すなわち、5週齢雄性へアレスマウス(8匹/1群)に、3週間にわたり、第1週目に90mJ/cm2、第2週目に120mJ/cm2、第3週目に150mJ/cm2のUVB紫外線を1週間あたり3回照射する。また紫外線を照射している3週間、各群のヘアレスマウスには、各試験ペプチドまたはその混合物の含有水または水を自由摂取させる。そして、第1回目の紫外線照射から24日後に、目視にてシワを評価する。この評価は例えば7段階でスコア化(表1)することができる。シワのスコアは、たとえばPhotodermatol. Photoimmunol. Photomed 7,153-158,1990を参考にして設定することができる。この評価試験により、本発明のペプチドまたはその混合物を含有する水を摂取した群における優れたシワ発生の予防効果が確認される。
【0021】
表1:シワの目視観察のためのスコア
【0022】
本発明の組成物またはその有効成分であるペプチドのin vivo効果は、老齢マウスを用いた自然加齢モデル、アセトンなどの有機溶媒塗布による乾燥肌モデルならびドデシル硫酸ナトリウム水溶液などの界面活性剤刺激による荒れ肌モデルなど、他の評価方法において確認することもできる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限られない。
【0023】
(実施例)
【実施例1】
【0024】
難分解性かつ易吸収性のペプチドのスクリーニング
1)発酵乳の調製
還元率8.9%の還元脱脂粉乳にラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株スターターを3〜5%接種し、30〜32℃にて16時間以上発酵させ乳酸菌発酵乳を調製した。
【0025】
2)発酵乳の消化管酵素による分解
経口摂取時の消化管酵素によるペプチドの分解を考慮し、消化管酵素による分解を行った。上記発酵乳に対し、消化管酵素ペプシン(Sigma)を用い反応溶液をpH2、37℃で2時間反応させ、続いて溶液をpH7に調整後、消化管酵素パンクレアチン(Sigma)を用い37℃で2時間反応させる条件下で、発酵乳の酵素処理を行った。酵素処理後、溶液を95℃に加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥により、発酵乳の消化管酵素分解物の粉末を得た。
【0026】
3)Caco-2細胞単層培養膜透過試験とペプチドのスクリーニング
Caco-2細胞をAmerican Type Culture Collectionから入手し、継代数40〜70のものを透過試験に用いた。培養液の組成はDulbecco's modified Eagle's medium(Sigma)にウシ胎子血清(10%、旭テクノグラス)、非必須アミノ酸溶液(1%、Gibco)、ペニシリン−ストレプトマイシン(各200 IU/ml、200μg/ml、Gibco)を加えたものとした。Caco-2細胞を37℃、5%CO2、加湿条件下で培養し、4-5日おきに継代を行った。透過試験に際しては、細胞を12穴トランズウェル内のメンブレンフィルター(Millipore)で培養した。培養液を基底膜側には1.5ml、管腔側には0.5mlを加え約2週間培養した。培養後のCaco-2細胞の管腔側に発酵乳酵素分解物を添加し、基底膜側に透過したペプチドを回収した。比較のため、未発酵の還元率8.9%の還元脱脂粉乳の消化管酵素分解物についても、同様の試験を行った。
【0027】
4)LC/MS/MSによるアミノ酸配列分析ならびペプチドの同定
基底膜側に透過したペプチドは、固相抽出(SepPak tC18、Waters)によりペプチド成分を濃縮後、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析装置(LCMS-IT-TOF、島津)を用いて測定を行った。データの解析はPEAKS(Bioinfomatics Solutions Inc)を用い、MS/MS測定から得られた情報を基にde novoシーケンシングを行い、透過したペプチドのアミノ酸配列を決定した。検出したペプチドと乳タンパクの消化管酵素分解物中に含まれるペプチドの比較を行い、Asn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Ile-Pro-Pro-Leu、Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-Gln、Leu-Pro-Pro-Thr等の、ペプシンおよびパンクレアチンなどの消化管酵素による分解のみでは生成しない、発酵乳特有の透過性ペプチドを同定した。
【実施例2】
【0028】
線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進試験および細胞増殖試験
(株)スクラムに委託して、Fmoc法による固相合成法によりペプチドAsn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-GlnおよびLeu-Pro-Pro-Thrを合成し、分取HPLCを用い精製した(純度99%)。
正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF-NB:クラボウ)を、1.0×104cells/mLの濃度で96ウェルプレートに100μLずつ播種し、37℃、5%CO2、加湿条件下で3日間培養を行った。培養液は、Medium106S(クラボウ)にLSGS(クラボウ)を10%重量濃度で含有した培地を各ウェル100μLずつ使用した。次いで、ダルベッコ改変イーグル培地 (DMEM:Sigma)に交換し、さらに100μLのPBS(タカラバイオ)で溶解した試験サンプルをそれぞれの濃度で添加して培養した。試験サンプルを溶解しないPBSを100μL添加したものをコントロールとして用いた。コラーゲン産生促進試験においては、2−7日間培養した後、培養液を採取し、培養液中に分泌されたタイプIコラーゲン濃度を、酵素結合免疫測定法(Procollagen typeI c-peptide EIA Kit;タカラバイオ)で定量した。定量結果をもとに、コントロール培養液中のタイプIコラーゲン量を100%として各試験サンプル培養液中のコラーゲン量を算出した(表2、図1(A))。また、細胞増殖試験では、7日間培養した後に培養液を捨てて、PBSを100μL添加し、CellTiter-Glo(プロメガ)を用いて、細胞数を測定した。定量結果をもとに、コントロール培養液で培養した細胞数を100%として各試験サンプル培養液で培養した細胞の細胞数を算出して示した(図1(B))。
比較例として、文献WO2006/000350(DSM)ならび特開2007−145795(ロート)からコラーゲン産生促進作用を有することが推察されるAsn-Ile-Pro-ProならびLeu-Glu-His-Ala、およびAsn-Ile-Pro-Pro-Leuを構成するアミノ酸の混合物を用いた。
【0029】
表皮角化細胞における細胞増殖試験
さらに、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK-F:クラボウ)を、1.0×105cells/mLの濃度で96ウェルプレートに100μLずつ播種し、37℃、5%CO2、加湿条件下で14日間培養を行った。培養液は、Humedia-KB2(クラボウ)に増殖添加剤(クラボウ)を含有した培地を各ウェル100μLずつ使用した。次いで、100μLのPBS(タカラバイオ)で溶解した試験サンプルをそれぞれの濃度で添加して培養した。試験サンプルを溶解しないPBSを100μL添加したものをコントロールとして用いた。7日間培養した後に培養液を捨てて、PBSを100μL添加し、CellTiter-Glo(プロメガ)を用いて、細胞数を測定した。定量結果をもとに、コントロール培養液で培養した細胞数を100%として各試験サンプル培養液で培養した細胞の細胞数を算出して示した(表2)。
比較例として、文献WO2006/000350(DSM)から表皮細胞増殖促進作用を有することが推察されるAsn-Ile-Pro-Pro、および各ペプチドを構成するアミノ酸の混合物を用いた。
Asn-Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro-Leu、Ile-Pro-Pro、Pro-Val-Val-Val-Pro-Pro、Val-Pro-Pro-Phe、Val-Pro-Pro、Phe-Pro-Pro-GlnおよびLeu-Pro-Pro-Thrはいずれも顕著なコラーゲン産生能および細胞増殖促進作用を有し、皮膚老化防止に対して十分な効果を示すが、Asn-Ile-Pro-Pro-Leuは他のペプチドに比較してコラーゲン産生能および細胞増殖率に関して特に高い効果を有していることが明らかになった。
【0030】
表2.種々のペプチドの線維芽細胞に対するコラーゲン産生量および表皮角化細胞に対する細胞増殖率への効果
※値はペプチドを添加しなかったものを100としたときの相対値の平均値±平均誤差を表す
※サンプル添加濃度はコラーゲン産生促進試験では100μMとし、表皮細胞増殖試験では300μMとした
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]