【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0038】
(実施例1〜9、比較例1,2,4,5)
1670dtexのアラミド繊維(帝人(株)製「テクノーラ」)を3.7回/10cmの撚り数で下撚りして作製されたアラミド繊維単糸を使用した。そしてこのアラミド繊維単糸を第1のRFL液に浸漬して、乾燥する処理をした。ここで、第1のRFL液として、表1に示す組成のものから、表2の「第1の処理液」の欄に記載するものを選択して用いた。また浸漬は、アラミド繊維単糸を第1のRFL液に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は100℃、1.5分間の条件で行なった。
【0039】
次に、RFL処理したアラミド繊維単糸を2本束ね、13.1回/10cmの撚り数で下撚りと同じ方向に上撚りし、アラミド繊維コードを作製した。そしてこのアラミド繊維コードを第2のRFL液に浸漬して、乾燥する処理をした。ここで、第2のRFL液として、表1に示す組成のものから、表2の「第2の処理液」の欄に記載するものを選択して用いた。また浸漬は、アラミド繊維コードを第2のRFL液に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は230℃、1.5分間の条件で行なった。
【0040】
この後、RFL処理したアラミド繊維コードをゴム糊に浸漬して、乾燥する処理をすることによって、アラミド心線を得た。ここで、ゴム糊として、表4に示すEPDM配合ゴム組成物をトルエンに溶解し、これにイソシアネートを添加した表3に示す組成の溶液を用いた。また浸漬は、アラミド繊維コードをゴム糊に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は170℃、1.5分間の条件で行なった。
【0041】
(比較例3)
1670dtexのアラミド繊維(帝人(株)製「テクノーラ」)を3.7回/10cmの撚り数で下撚りして作製されたアラミド繊維単糸を使用し、このアラミド繊維単糸を第1のRFL液に浸漬して、乾燥する処理をした。ここで、RFL液として、表2に記載するように、表1に示す組成の「RFL−4」を用いた。また浸漬は、アラミド繊維コードをRFL液に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は100℃、1.5分間の条件で行なった。
【0042】
次に、RFL処理したアラミド繊維単糸を2本束ね、13.1回/10cmの撚り数で下撚りと同じ方向に上撚りし、アラミド繊維コードを作製した。この後、このアラミド繊維コードをゴム糊に浸漬して、乾燥する処理をすることによって、アラミド心線を得た。ここで、ゴム糊として表3に示す組成の溶液を用いた。また浸漬は、アラミド繊維コードをゴム糊に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は170℃、1.5分間の条件で行なった。
【0043】
(比較例6,7)
1670dtexのアラミド繊維(帝人(株)製「テクノーラ」)を3.7回/10cmの撚り数で下撚りし、これを2本束ねて13.1回/10cmの撚り数で下撚りと同じ方向に上撚りして作製されたアラミド繊維コードを使用した。そしてこの未処理のアラミド繊維コードを、第1のRFL液の代わりに表2の「第1の処理液」の欄に示すように、表1に示す組成のイソシアネート系のプレディップ液(PD−1〜2)に浸漬して、乾燥する処理をした。浸漬は、アラミド繊維コードをイソシアネート系のプレディップ液に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は170℃、1.5分間の条件で行なった。次に、この処理をしたアラミド繊維コードを第2のRFL液に浸漬して、乾燥する処理をした。ここで、第2のRFL液として、表2に記載するように、表1に示す組成の「RFL−4」を用いた。また浸漬は、アラミド繊維コードをRFL液に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は230℃、1.5分間の条件で行なった。次に、この処理をしたアラミド繊維コードを表3に示すゴム糊に浸漬して、乾燥する処理をした。浸漬は、アラミド繊維コードをゴム糊に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は170℃、1.5分間の条件で行なった。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
上記の実施例1〜9及び比較例1〜7で得たアラミド心線について、ホツレ試験、剥離試験、屈曲疲労試験、RFL被膜厚み測定を、以下のようにして行なった。結果を上記の表2に示す。
【0048】
(ホツレ試験)
アラミド心線のホツレ性を評価するため、次の方法でVリブドベルトを作製した。まず、表面が平滑な円筒状の成形モールドの外周に、1プライのゴム付綿帆布を巻き付け、その外側に表5のゴム組成の未加硫の接着ゴム用シートを巻き付けた。次にこの接着ゴム層用シートの上からアラミド心線をスピニングして巻き付け、さらにこの上に表5のゴム組成の未加硫接着ゴム層用シート及び未加硫の圧縮ゴム層用シートをこの順に巻き付けた。この後、圧縮ゴム層用シートの外側に加硫用ジャケットを配置した状態で、成形モールドを加硫缶に入れて加硫した。そして加硫して得られた筒状の加硫ゴムスリーブを成形モールドから取り出し、加硫ゴムスリーブの圧縮ゴム層をグラインダーによりV溝状に研削することによって複数のリブを形成した後、加硫ゴムスリーブを輪切りするようにカッターで周方向に切断することによって、Vリブドベルト(
図1参照)に仕上げた。
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
上記のように作製したVリブドベルトについて、カッターで周方向に切断したベルト側面に露出するアラミド心線を手で擦り、目視でホツレの有無やその程度を調べるホツレ試験をした。そして露出したアラミド心線を強く擦ってもホツレが発生しない場合を「◎」、ホツレは発生するが微少である場合を「○」、ホツレが大きく発生する場合を「△」、カッターで切断した時点で既にホツレが発生している場合を「×」と評価し、評価が「○」以上の場合を良好と判定した。
【0052】
(剥離試験)
表5に示す組成の未加硫のEPDM配合ゴムシート(厚み4mm)の一方の面に、長さ150mmのアラミド心線を25mm幅となるように複数本平行に揃えて並べ(
図2(a)にアラミド心線1を平行に揃えて並べた状態を示す)、EPDM配合ゴムシートの他方の面に帆布を重ねて、プレス板で0.2MPa(2kgf/cm
2)の圧力をかけてプレスし、さらに160℃で30分間加熱して加硫することによって、剥離試験用の短冊試験片(幅25mm、長さ150mm、厚み4mm)を作製した。この試験片を用いて、JIS K6256に準拠して、引張速度50mm/minで剥離試験を行ない、アラミド心線とゴムとの接着力(加硫接着力)を室温雰囲気下で測定した。そして接着力が350N以上であれば「◎」、300N以上350N未満であれば「○」、200N以上300N未満であれば「△」、200N未満であれば「×」と評価し、評価が「○」以上であれば接着性は良好と判定した。
【0053】
(屈曲疲労試験)
屈曲疲労試験用の試験片を次のようにして作製した。まず表5に示す組成の未加硫のEPDM配合ゴムシート(厚み0.5mm)を円筒状の金型に巻き付け、この上にアラミド心線をスパイラル状に巻き付けた後、さらにこの上に同じ未加硫のEPDM配合ゴムシート(厚み0.5mm)を巻き付け、これにジャケットを被せて加熱することよって加硫し、加硫ゴムスリーブを作製した。そしてアラミド心線が2本埋設され、且つカットした側面にアラミド心線が露出しないように加硫ゴムスリーブを周方向にカッターでカットし、幅3mm、長さ50cm、厚み1.5mmの試験片を作製した。
【0054】
屈曲疲労試験は、
図2(b)に示すように、上下に配置した一対の円柱形の回転バー(直径30mm)12a,12bに上記のように作製した試験片13を屈曲させて巻き掛け、試験片13の一端をフレーム14に固定すると共に試験片13の他端に2kgの荷重15をかけ、一対の回転バー12a,12bを相対距離を一定に保ったまま、上下方向に300000回往復(ストローク:100mm、サイクル:100回/分)させることによって、回転バー12a,12bへの試験片13の巻き付け・巻き戻しを繰り返し、屈曲疲労させた。そしてオートグラフ((株)島津製作所製「AGS−J10kN」)を用いて、この屈曲後の試験片を引張速度50mm/minの条件で引張り、試験片の破断時の強力を測定した。一方、屈曲前の試験片の破断時の強力を予め測定しておき、
強力保持率(%)=(屈曲後の強力/屈曲前の強力)×100
の式から強力保持率を算出した。そして強力保持率が60%以上であれば「◎」、40%以上60%未満であれば「○」、20%以上40%未満であれば「△」、20%未満であれば「×」と評価し、評価が「○」以上であれば耐屈曲疲労性は良好と判定した。
【0055】
(RFL被膜厚み測定)
上記の(ホツレ試験)で作製したVリブドベルトを幅方向に切断し、切断端面に表れるアラミド心線の切断面を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製走査型電子顕微鏡「JSM−5900LV」)を用いて観察し、内周のアラミド繊維と外周のゴムとの間隔をRFL被膜として測定した。
【0056】
表2にみられるように、実施例1〜9のアラミド心線は、ホツレ性、接着性、屈曲疲労性に優れ、RFL被膜の厚みは5〜20μmの範囲に収まるものであった。
【0057】
一方、比較例1は屈曲疲労性は良好であったが、ホツレ性や接着性は悪いものであった。これは、第1のRFL液の固形分濃度が低いため、アラミド繊維のフィラメント間の結束性が悪く、ホツレが発生したものであり、またRFL被膜の膜厚が5μm未満となり、第1のRFL処理で形成される被膜と第2のRFL処理で形成される被膜の接着力が不足し、これが原因でアラミド心線の接着性が低下したものと考えられる。
【0058】
また比較例2は、ホツレ性は良好であったが、接着性は悪く、屈曲疲労性は十分ではなかった。これは、第1のRFL液の固形分濃度が過度に高いため、ホツレ性は良好であるものの、アラミド心線の柔軟性が損なわれて屈曲疲労性が十分でなくなったものと考えられる。また接着性については、RFL被膜の膜厚が20μmを超えて大きいため、RFL被膜内部に破壊が発生して、接着力が低下したためであると考えられる。
【0059】
また比較例3は、ホツレ性、屈曲疲労性は良好であったが、接着性は悪いものであった。これは、第1のRFL液の固形分濃度が10〜30質量%の範囲であるので、ホツレ性や屈曲疲労性に問題は生じないが、第2のRFL液による処理を省略したため、接着性が低下したものと考えられる。一方、比較例4、5は、第2のRFL液の固形分濃度が高いため、第2のRFL液の処理の際にアラミド心線の周囲にカス付が発生し、またRFL被膜の膜厚が20μmを超えて厚くなり、この結果、接着性が低下している。
【0060】
さらに、比較例6,7は、ホツレ性と屈曲疲労性が悪いものであった。屈曲疲労性については、第1の処理においてイソシアネートの樹脂系接着剤を用いたため、アラミド心線の曲げ剛性が高くなり、屈曲疲労性が低下したものと考えられる。ホツレ性については、上撚りしたコードにRFL液を処理するようにしたため、アラミド心線の内部にまでRFL液が十分に浸透しなかったことが原因であると考えられる。
【0061】
以上の結果から、アラミド心線のホツレ性を改善し、屈曲疲労性を高く維持するには、上撚りする前に第1のRFL液で、上撚りした後に第2のRFL液でそれぞれ処理し、そして第1のRFL液の固形分濃度を10〜30質量%に、第2のRFL液の固形分濃度を1〜10質量%の範囲にそれぞれ設定する必要のあることが、確認される。また第1や第2のRFL液の固形分濃度がこの範囲内であれば、RFL被膜の厚みが5〜20μmの範囲になり、アラミド心線とゴムとの接着性を高く維持することができるものである。