(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5653952
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造物の造成方法
(51)【国際特許分類】
C23F 13/00 20060101AFI20141218BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
C23F13/00 C
E04B1/64 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-42787(P2012-42787)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-177660(P2013-177660A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2012年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 実
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】宮口 克一
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−127157(JP,A)
【文献】
特開2004−010909(JP,A)
【文献】
特開2005−281112(JP,A)
【文献】
塩分環境下での鉄筋の腐食機構,コンクリート工学,1987年,Vol.25、No.11,34〜39頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00 − 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分を含むコンクリートガラを骨材として含むコンクリートを利用して、鉄筋コンクリート構造物を造成する際に、鉄筋に犠牲陽極を鉄筋の表面積1m2あたり5〜20個配設することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の造成方法。
【請求項2】
海水を練り水として用いて調製されたコンクリートを用いて鉄筋コンクリート構造物を造成する際に、鉄筋に犠牲陽極を鉄筋の表面積1m2あたり5〜20個配設することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の造成方法。
【請求項3】
海水を練り水として用い、かつ、塩分を含むコンクリートガラを骨材として含むコンクリートを利用して、鉄筋コンクリート構造物を造成する際に、鉄筋に犠牲陽極を鉄筋の表面積1m2あたり5〜20個配設することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の造成方法。
【請求項4】
海砂を配合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の造成方法。
【請求項5】
コンクリートが塩素固定化材を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の造成方法。
【請求項6】
コンクリートの塩化物イオン含有量が、0.3kg/m3を超える量であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の造成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、塩分を含むコンクリートガラを骨材として含むコンクリート、あるいは海水を練り水に用いて調製されたコンクリートなどで鉄筋コンクリート構造物を造成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日、東北地方を大地震と津波が襲い、甚大な被害が出た。東北地方のインフラは大きな打撃を受け、一日も早い復興が望まれている。
【0003】
しかしながら、津波の被害で発生したガレキが被災地の広範囲に散乱しており、ガレキの処理が進まなければ、復興も遅々として進まない現状にある。ガレキには、コンクリートや金属類などの無機系と、木材やゴム、プラスティックなどの有機系がある。
【0004】
有機系のガレキは焼却処分する方法が考えられるが、無機系のガレキ、殊に、コンクリートガラは付加価値がない上に嵩高く、重要も重いため処分方法に困っている。コンクリートガラの有効利用方法の提案が望まれている。
【0005】
従来、コンクリートガラの有効利用方法としては、再生骨材として利用する方法が提案されている。しかしながら、東北地方の大地震で被害を受けて発生したコンクリートガラのほとんどが、津波の影響を受けているため、高濃度の塩分を含んでいる。
【0006】
コンクリートガラを再生骨材として利用する場合、発生元で利用する必要がある。骨材という商材の特徴として、遠方に運んで使うというわけにはいかないからである。この場合、沿岸地域での消費が望まれ、復興工事の中では、護岸工事や防潮堤などへの利用が現実的である。そして、このような利用に際しては、現場プラントを設置して生コンクリートを調製することが望ましく、さらには、真水の調達が問題視されている。そこで、海水練りコンクリートが提案されている。
【0007】
海水の影響で塩分を多く含む骨材に加え、練り水も海水を用いることになるのである。このような特殊なコンクリートでは、鉄筋の腐食発生を避けられない。そこで、復興を推進するために、塩分の影響を受けたコンクリートガラを再生骨材として用いても、さらには、練り水として海水を用いても、鉄筋の腐食を抑制できる鉄筋コンクリート技術の開発が強く求められている。
【0008】
一方、鉄筋コンクリート構造物中の腐食の腐食を抑制する方法として、亜鉛犠牲陽極材を用いる方法が知られている(特許文献1)。この方法は、塩害で劣化した鉄筋コンクリートを断面修復材で補修する際に、鉄筋に装着する。しかしながら、新設工事において、しかも、津波の被害で発生したコンクリートガラを再生骨材として利用するコンクリートへ適用した事例や、海水練りコンクリートへ適用した例はない。
【0009】
本発明者らは、前記の課題に鑑み、地震や津波の被害で発生したコンクリートガラを骨材として含むコンクリートを利用して、鉄筋コンクリート構造物を造成する際に、鉄筋に犠牲陽極を配設することで前記課題を解消できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3099830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、塩分を含むコンクリートガラ、あるいは海水を練り水に用いて調製されたコンクリートなどを用いて耐久性に優れる鉄筋コンクリート構造物の造成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(1)塩分を含むコンクリートガラを骨材として含むコンクリートを利用して、鉄筋コンクリート構造物を造成する際に、鉄筋に犠牲陽極を
鉄筋の表面積1m2あたり5〜20個配設することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の造成方法、(2)海水を練り水として用いて調製されたコンクリートを用いて鉄筋コンクリート構造物を造成する際に、鉄筋に犠牲陽極を
鉄筋の表面積1m2あたり5〜20個配設する鉄筋コンクリート構造物の造成方法、(3)海水を練り水として用い、かつ、塩分を含むコンクリートガラを骨材として含むコンクリートを利用して、鉄筋コンクリート構造物を造成する際に、鉄筋に犠牲陽極を
鉄筋の表面積1m2あたり5〜20個配設する鉄筋コンクリート構造物の造成方法、(4)海砂を配合する(1)〜(3)のいずれかの鉄筋コンクリート構造物の造成方法、(5)コンクリートが塩素固定化材を含有する(1)〜(4)のいずれかの鉄筋コンクリート構造物の造成方法、(6)コンクリートの塩化物イオン含有量が、0.3kg/m
3を超える量である(1)〜(5)のいずれかの鉄筋コンクート構造物の造成方法、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鉄筋コンクリート構造物の造成方法を採用することにより、例えば、復興の妨げとなるガレキを処理でき、本来は鉄筋コンクリート構造物に採用できない塩分を多く含む骨材や、練り水として海水を採用しても得られる鉄筋コンクリート構造物の延命化を図ることができ、しかも、コンクリートの強度発現性、中性化抵抗性、凍結融解抵抗性が向上するなどの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、例えば、津波の被害で発生したコンクリートガラのガレキをコンクリート用骨材として利用する。コンクリートガラは適度な大きさに粉砕して用いることができる。
【0016】
津波の被害で発生したコンクリートガラは、海水を浴びているため、塩分を多く含んでいる。通常の場合、塩分を多く含む骨材、例えば、海砂などは水で洗って除塩してから使用される。しかしながら、本発明では、除塩は行わず、そのまま用いる。これは、災害復興を円滑に進める上で不可欠である。
【0017】
本来、塩分を多く含む骨材は、鉄筋の腐食を誘発するため、利用できない。しかしながら、本発明の犠牲陽極材を鉄筋に装着することによって、塩分を多く含むコンクリートを用いても、耐久的な鉄筋コンクリート構造物を造成することが可能となる。
【0018】
本発明で言うコンクリートガラは、津波を被っているため、塩分を含む。その含有量は、概ね、0.01〜0.05質量%である。一般的にコンクリートの粗骨材量は800〜1200kg/m
3である。したがって、津波をかぶったコンクリートガラを再生骨材として使用した場合、骨材から由来する塩分は、1m
3あたり0.08〜0.60kg/m
3となる。
なお、JISA 5308「レディーミクストコンクリート」による規定ではコンクリート中に含まれる塩分は0.3kg/m
3以下とするようにしている。従って、0.3kg/m
3以下の塩分量では過剰な対策となり、経済的に不利となる。
【0019】
本発明では、練り水に海水を用いることができる。海水の塩分含有率は、一般的に3〜4質量%の範囲にある。また、コンクリートの単位水量は、150〜185kg/m
3の範囲が一般的である。したがって、練り水としての海水から由来する塩分量が算出可能である。例えば、海水の塩分含有率が3.5質量%で単位水量が170kg/m
3のコンクリートを調製した場合、練り水から由来する塩分は、170×0.035=5.95kg/m
3となる。
【0020】
本発明では、地震や津波の被害で発生したコンクリートガラを骨材として含むコンクリート、あるいは海水を練り水に用いて調製されたコンクリートなどで鉄筋コンクリート構造物を造成することができる。
【0021】
また、本発明では、細骨材として海砂を用いることができる。通常、海砂は水洗されて塩分を許容されるレベル(JISA 5308「レディーミクストコンクリート」附属書Aによる規定では0.04質量%以下)まで低下させているが、本発明では、水洗せずにそのまま用いることもできる。
【0022】
本発明で言う犠牲陽極材とは、鉄筋を構成する鉄よりもイオン化傾向が高い金属を鉄筋と回路を形成することでガルバニック電池を形成し、鉄を防食できる能力を持つ材料のことである。
具体的には、クロム、亜鉛、マンガン、鉛、チタン、ウラン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、リチウムや、それらから選択される2種又はそれ以上の種類からなる合金や擬合金を用い、これらの金属から軟鋼線などを通じ鉄筋と結束することによって回路を形成する。
これらの金属を一個当たり50〜70g程度のブリケットにし、セメントや石こうなどの結合材を用いた無機系のモルタルなどで構成されるバックフィル材で包み込み、長期間にわたって防食効果を保持できるものが好ましい。
ブリケットの形状は、本発明の目的を阻害しない範囲でどのような形でも構わないが、円盤状、直方体状、立法体状、球状などの塊状であることが好ましい。バックフィル材の設置方法についても特に指定しないが、ブリケット状の金属塊を埋めこむように型枠内金属塊を設置し、型枠にバックフィル材を流し込み、硬化させる方法で包み込むのが好ましい。犠牲陽極材は金属塊から軟鋼線等を接続されており、鉄筋と緊結することで鉄筋との導通を確認する。
本発明の犠牲陽極材は鉄筋と一緒に配設して使用するものである。
【0023】
犠牲陽極材の使用割合は、コンクリート内に設置する鉄筋の表面積1m
2あたり、5〜20個が好ましく、10〜15個がより好ましい。5個未満では、鉄筋の腐食を長期にわたって抑制できない場合があり、20個を超えて多用してもさらなる効果の増進が期待できない。
【0024】
犠牲陽極材を用いることによって、鉄筋の腐食が発生するまでの期間を大幅に延長することができる。加えて、鉄筋近傍の塩分濃度を低下させる効果も発揮する。促進試験の結果では、条件にもよるが、20年〜30年の延命が可能である。さらには、圧縮強度の向上に加え、中性化速度が小さくなり、凍結融解抵抗性も向上するなど、耐久性が向上する。
【0025】
本発明で使用する塩素固定化材とは、コンクリート中の塩化物イオンを結晶などに取り込むことによってコンクリート中の自由水に溶出することが無いように固定化し、鉄筋の発錆を防止することを目的とするコンクリート混和材全般のことを指す。
例えば、モノサルフェート、ハイドロタルサイト様化合物などを生成し、フリーデル氏塩の形で固定化するものであり、高炉スラグ、亜硝酸リチウム型ハイドロカルマイト、CaO/Al
2O
3なモル比が0.3〜0.7のカルシウムアルミネートなどが挙げられる。本発明では既存のどのような塩素固定化材でも使用可能である。中でも、CaO/Al
2O
3なモル比が0.3〜0.7のカルシウムアルミネートを適用することが好ましい。
【0026】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
「実験例1」
表2に示す種々の粗骨材、細骨材、練り水を使用し、単位セメント量300kg/m
3、単位水量170kg/m
3、s/a=42%、スランプ8cm、空気量4.5±1.0%のコンクリートを調製した。このコンクリートを用いて、鉄筋比0.7%の鉄筋コンクリート製の壁を造成した。なお、鉄筋の表面積1m
2あたり13個の犠牲陽極材を犠牲陽極材に接続されている軟鋼線を鉄筋と緊結して配設し、この鉄筋コンクリートの鉄筋の腐食電流を調べるとともに、鉄筋近傍の塩分濃度を調べた。さらに、コンクリートの圧縮強度、促進中性化試験、凍結融解抵抗性試験を実施した。結果を表2に示す。
【0028】
<使用材料>
犠牲陽極材:亜鉛55gを円盤状のブリケットにし、セメント系のバックフィル材で包み込んだもの。亜鉛には軟鋼線が接続されており、鉄筋に緊結することで導通を確保する。
セメント:普通ポルトランドセメント。市販品、比重3.15。
粗骨材A:津波被害を受けたコンクリートガラを粉砕したもの。Gmax25mm。塩分含有率0.05質量%、比重2.25。粗骨材は900.16kg/m
3となり、これから由来する塩分は0.45kg/m
3。
粗骨材B:新潟県姫川産、砕石、Gmax25mm、比重2.65。
細骨材イ:新潟県姫川産、川砂、比重2.64。
細骨材ロ:海砂、塩分含有量0.1%(JISA5308「レディーミクストコンクリート」附属書Aに記載の方法に準拠)、比重2.75。細骨材は796.68kg/m
3となり、これから由来する塩分は0.797kg/m
3。
細骨材ハ:海砂、塩分含有量0.039%、比重2.75。細骨材は796.68kg/m
3となり、これから由来する塩分は0.31kg/m
3。
練り水a:水道水。
練り水b:海水、塩分含有率3.5質量%(JIS A 5308「レディーミクストコンクリート」附属書Cに記載の方法に準拠)
塩素固定化材:CaO/Al
2O
3のモル比が0.6のカルシウムアルミネート。試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを酸化物換算でCaO/Al
2O
3のモル比が0.6となるように配合し電気炉で焼成したもの。1450℃で3時間焼成後、徐冷して合成した。すべてブレーン比表面積値は4,000cm
2/gに調整した。使用量は普通セメントに対して10質量%内割置換した。
【0029】
<試験方法>
鉄筋腐食の判定:材齢半年後、1年後、3年後にASTM C 876に準じて、基準電極となる銅/硫酸銅電極に対する鉄筋の自然電位を測定し、鉄筋の腐食状態を判定した。鉄筋の腐食は表1のように判断される。
【0030】
【表1】
【0031】
コンクリートの全塩分含有量:JIS A 1154「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法」に準拠して測定した。
鉄筋近傍の塩分濃度の測定:材齢1年の時点で供試体からコンクリートコアを抜き取り、鉄筋近傍のコンクリート片から鉄筋近傍の塩分濃度をJISA 1154に準じ、塩分量を測定した。
圧縮強度:JIS A 1108に準じて材齢28日での圧縮強度を測定。
促進中性化試験:材齢1日で脱型後、20℃の水中養生を13日間行った後、30℃・RH60%・CO
2濃度5%の環境で91日間促進中性化させた。中性化深さをフェノールフタレイン法で判定した。
凍結融解抵抗性試験:JIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験方法」に準拠し、試験開始材齢を材齢28日として試験を実施した。但し、凍結融解サイクルは最大400サイクル実施した。相対動弾性係数が60%以上保たれたサイクル数が400サイクルを超えた場合を◎、300サイクルを超え、400サイクル未満だった場合を○、200サイクルを超え、300サイクル未満だった場合を△、200サイクル未満だった場合を×とした。
【0032】
【表2】
【0033】
表2より、本発明の工法では鉄筋腐食が発生していないことが分かる。また、鉄筋近傍の塩分含有量も低下していることが分かる。加えて、圧縮強度、中性化抵抗性、凍結融解抵抗性が向上していることが分かる。
【0034】
「実験例2」
粗骨材B、細骨材ロ、練り水bを使用し、鉄筋の表面積1m
2あたりの犠牲陽極材の使用個数を表2に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記した。
【0035】
【表3】
【0036】
表3より、本発明の工法では、鉄筋腐食が発生していないことが分かる。また、鉄筋近傍の塩分量も低下していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の鉄筋コンクリート構造物の造成方法を採用することにより、例えば、復興の妨げとなるガレキを処理でき、本来は鉄筋コンクリート構造物に採用できない塩分を多く含む骨材や、練り水として海水を採用しても得られる鉄筋コンクリート構造物の延命化を図ることができ、しかも、コンクリートの強度発現性、中性化抵抗性、凍結融解抵抗性が向上するなどの効果を奏するので、土木・建築分野で広範に使用できる。