【実施例】
【0152】
平成18年12月初めに種菌を添加して、本発明の排水処理方法を開始し、以下のように活性汚泥処理を行った。
【0153】
実施例で使用した下水処理施設(長野県中野市の公共下水道長嶺浄化管理センター)は、
図7に示すように、曝気装置,攪拌装置および処理水引抜装置がそれぞれ配設された、2つの回分槽70(各最大容量:365m
3),汚泥貯留槽30(最大容量:40m
3)および濃縮汚泥貯留槽50(最大容量:20m
3);ならびに遠心濃縮機60(汚泥を最大4.5倍に濃縮することができ、平均で4倍濃縮。)からなる。
【0154】
この下水処理施設では、汚泥貯留槽31から回分槽70へ汚泥を返送する装置のみを備えており(通常は回分式処理施設では汚泥を返送する装置を備えていない。)、また汚泥貯留槽30および濃縮汚泥貯留槽50には、曝気装置,攪拌装置および処理水引抜装置のいずれも備えていなかった。
【0155】
そこで、新たに、上記のとおり汚泥返送(i)〜(iii)を行う経路を配設した。
【0156】
さらに、汚泥貯留槽30および濃縮汚泥貯留槽50それぞれに曝気装置および攪拌装置を新たに配設した。ただし、濃縮汚泥貯留槽50に配設した曝気装置は、パイプを槽に装着して、空気攪拌を主目的として攪拌装置を補助的に用いた。なお、濃縮汚泥貯留槽50中のMLSS濃度が15,000mg/L以上では正常に曝気することができない。
【0157】
汚水または廃液1(以下「原水」ともいう。)の流入量は、184.8m
3/日(平成17年)〜184.9m
3/日(平成21年)であり、滞留時間は約4日間であった。この原水の流入を6時間間隔で切り替え、1日あたり4サイクルで運転していた。各サイクル中、2回の曝気・攪拌(計6時間)を行い、3時間の沈殿および上澄み液21の放流を行った。この条件で運転すると、もっとも汚泥沈降性が良好であったためである。
【0158】
回分槽70の曝気量は、ORPで50〜300mV(通常100〜280mV)であり;汚泥貯留槽30の曝気量は、ORPで−50〜300mV(通常100〜280mV)であり;濃縮汚泥貯留槽50の曝気量は、ORPで−350〜−100mV(通常−300〜−100mV)であった。
【0159】
汚泥貯留槽30の汚泥を濃縮する遠心濃縮機60は、平成17年(2005年)では汚泥貯留槽30の汚泥平均3m
3/日を1m
3/日に濃縮したが、平成21年(2009年)では4.2〜4.8m
3/日の汚泥を1m
3/日に濃縮した。
【0160】
汚泥返送(i)の汚泥返送量は、原水流入量に対して、従来の標準法で15〜50%(通常は最大70%)、回分法で10〜30%であり、一方、実施例では約11〜16%(回分槽70の槽容量に対して2.7〜4.1%に相当する。)であった。
【0161】
また、汚泥返送(iii)の汚泥返送量は、汚泥濃縮機を備える施設において、原水流入量に対して1.6〜6%(汚泥貯留槽30の槽容量に対して7.5〜30%に相当する。)であり、一方、実施例では平均1.6〜2.8%/回・週2回(汚泥貯留槽30の槽容量に対して7.5〜12.5%/回・週2回に相当する。)であった(特開2000−189991号公報および特開平10−216789号公報を参照)。
【0162】
[実施例1および比較例1]
実施例1は、すなわち、
図2に示した回分式活性汚泥処理装置に、
図4に示した曝気・撹拌可能な第一余剰汚泥槽12aおよび第二余剰汚泥槽13aならびに第一汚泥返送工程Vaを可能とする装置を設置して用いた。
【0163】
比較例1として、
図2に示した回分式活性汚泥処理装置を用いて、平成17年1月初めから平成17年12月末までの実施結果を示す。比較例1における第一余剰汚泥槽8aおよび第二余剰汚泥槽9aは、曝気・撹拌の装置は有していない。この期間は、汚泥返送工程に用いる第一余剰汚泥槽9aから回分槽へ汚泥返送できる装置を備えていた。
【0164】
最大容量365m
3の処理槽である第一回分槽2aおよび第二回分槽3aに、最大量340m
3に維持するように長野県中野市長嶺地区下水を原水として流入させ、4サイクル運転、1サイクル中に2回の曝気と撹拌を行った。1サイクル約45m
3の処理量(=放水量、すなわち流入量)にて運転した。
【0165】
種菌として、バチルス・シューリンジエンシスA株,バチルス・ズブチリスB株およびバチルス・ズブチリスC株を、第一回分槽2aおよび第二回分槽3aならびに第一余剰汚泥槽8aに添加した。
【0166】
この間、両回分槽から合計最大量約30m
3/日(=汚泥返送量)の汚泥引き抜きと汚泥返送を行った。下水処理量は約185m
3/日であった。処理運転中、原水の流入量の16%量の第一汚泥返送工程Vaの最大量を行った。この間、各回分槽中のバチルス属細菌数がおおよそ3×10
5cfu/mLにまで低下したとき、余剰汚泥引抜き量と返送量とを増加して汚濁物分解活性を持った汚濁分解性微生物数(汚濁物分解性のバチルス属菌を指標として)を、2.0×10
5〜22.5×10
5cfu/mLに維持した。
【0167】
処理水(原水,処理済み水)の微生物数(バチルス属菌数)・水質(BOD)・トータル窒素〔T−N〕・全隣化合物量〔T−P〕ともに2回/月測定して月平均値を算出し、年平均値で表した。微生物数は1回/週で総細菌数とバチルス属細菌数とを計測した。原水流入量、BODとSSの流入量と除去率(年平均)を表2に、流入T−N,T−P量および除去率を表3に示した。
【0168】
また、処理槽における総曝気時間(年間および一日当たり)を表4に示した。なお、ORPは(DOが1.0〜1.1mg/Lで)100〜270mVに維持した。
【0169】
汚濁物分解性の指標として、汚泥搬出量・汚泥減量化率・汚泥転換率を表5に表した。
【0170】
実施例1の第一回分槽2aおよび第一余剰汚泥槽8a中の微生物数(バチルス属細菌数)の測定値を表6に示した。なお、主として沈降性を保つ目的で、両回分槽MLSS濃度を汚泥引き抜き量の増減によって調整したところ、両回分槽MLSSは2,700〜4,300mg/L(比較例1において両回分槽MLSS濃度1,250〜2,150mg/mL)の範囲に保たれた。
【0171】
【表2】
【0172】
表2から明らかなように、実施例1においては、排水中のBOD流入量が大幅に増加したにもかかわらず、BODおよびSSの除去率においても比較例1に比べ著しく改善されていた。
【0173】
【表3】
【0174】
【表4】
【0175】
【表5】
【0176】
比較例1において、運転中、毒性物質を含む工場排水と思われる生育阻害物質の流入により、しばしば活性汚泥微生物群がショック状態を起こしたので、沈降性を良くするため汚泥の引き抜きを行った。また、1月29日,2月26日,3月26日,4月16日および4月26日にバチルス属細菌数の減少(1月29日および2月26日を除く)を伴う強いショック状態に陥り、沈降性の阻害が起ったので、汚泥引き抜きと汚泥返送量の増加により、バチルス属細菌数の正常値への回復効果を得た。6月に汚泥の膨潤が起こり、沈降性が悪くなったので6月4日,6月11日,6月18日,6月25日および7月2日に凝集剤(ポリ塩化アルミニウム〔pac〕;式[Al
2(OH)
n・Cl
6-n]
mで表され、1≦n≦5およびm≦10を満たす。)を1.5Lづつ両回分槽に添加して運転したところ、7月30日には細かい泡が浮上して沈降性が良くなった。
【0177】
汚泥減量化率は、比較例1に比し実施例1では62.745%という極めて高い減量を示した。なお、比較例1においては、種菌添加前でバチルス属細菌数が約6×10
5cfu/mLと異常に多かったにもかかわらず、分解性が低かった。
【0178】
【表6-1】
【0179】
【表6-2】
【0180】
[実施例2]
実施例2として、実施例1と同様に、平成20年1月〜12月にかけて本発明の排水処理方法(α)を行った。この間、曝気・撹拌を行った第二余剰汚泥槽13aから第一余剰汚泥槽12aへ第一余剰汚泥槽中の汚泥量の25%量/週の汚泥返送(
図4において第二汚泥返送工程Wa)を行った。
【0181】
原水流入量,BODとSS(懸濁物質)の流入量と除去率(年平均)を表7に、流入T−N,T−P量と除去率を表8に示した。
【0182】
また、処理槽における総曝気時間(年間および1日当たり)を表9に示した。
【0183】
さらに、汚濁物分解性の指標として、汚泥搬出量・汚泥減量化率・汚泥転換率を表10に表した。
【0184】
また、実施例2の第一回分槽2aおよび第一余剰汚泥槽12a中の微生物数(バチルス属細菌数)の測定値を表11に示した。なお、主として沈降性を保つ目的で、両回分槽MLSS濃度を汚泥引き抜き量の増減によって調整したところ、両回分槽MLSSは2,300〜4,200mg/L(比較例1において両回分槽MLSS濃度1,250〜2,150mg/mL)の範囲に保たれた。
【0185】
【表7】
【0186】
【表8】
【0187】
【表9】
【0188】
【表10】
【0189】
表10が示すように、第二余剰汚泥槽13aから第一余剰汚泥槽12aへ汚泥返送(
図4において第二汚泥返送工程Wa)を行うことによって、汚濁物除去、汚泥減量率に顕著な改善がみられた。
【0190】
【表11】
【0191】
上記バチルス属菌数から明らかなように、曝気量を特に変更しなくても、第二余剰汚泥槽13aから第一余剰汚泥槽12aへの汚泥返送(第二汚泥返送工程Wa)ならびに第一余剰汚泥槽12aから第一回分槽2aおよび第二回分槽3aへの汚泥返送(第一汚泥返送工程Va)でバチルス属細菌数が早期に回復、安定した処理運転が可能となった。
【0192】
[実施例3]
実施例3として、処理促進剤および栄養剤をさらに添加した以外は実施例2と同様に、平成21年1月〜12月にかけて本発明の排水処理方法(α)を行った。すなわち、実施例3は、本発明の排水処理方法(β)の好ましい態様を実施したものである。この間、曝気・撹拌した第二余剰汚泥槽13aから第一余剰汚泥槽12aへ第一余剰汚泥槽中の汚泥量の25%量/週の汚泥返送(
図4において第二汚泥返送工程Wa)を行った。
【0193】
また、実施例3において、各回分槽(第一回分槽2aおよび第二回分槽3a)に処理促進剤(凝集剤)および栄養剤として、SiO
2を450g、Al
2O
3を230g、MgOを680g、ペプトンを17.6g、乾燥酵母エキスを3.5g、2回/週添加した。添加した処理促進剤は、添加後直ちにフロックに吸着された。処理促進剤は、フロック内では、約50倍に濃縮されている。
【0194】
さらに、第一余剰汚泥槽12aに、SiO
2を100g、Al
2O
3を55g、MgOを160g、ペプトンを17.6g、乾燥酵母エキスを3.5g、2回/週添加した。
【0195】
原水流入量,BODとSSの流入量と除去率(年平均)を表12に、流入T−N,T−P量と除去率を表13に示した。
【0196】
また、処理槽における総曝気時間(年間および1日当たり)を表14に示した。
【0197】
さらに、汚濁物分解性の指標として、汚泥搬出量・汚泥減量化率・汚泥転換率を表15に表した。
【0198】
また、実施例3の第一回分槽2aおよび第一余剰汚泥槽12a中の微生物数(バチルス属細菌数)の測定値を表16に示した。なお、主として沈降性を保つ目的で、汚泥引き抜き量の増減で両回分槽MLSS濃度を調整したところ、両回分槽MLSSは2,100〜4,000mg/L(比較例1において両回分槽MLSS濃度1,250〜2,150mg/mL)の範囲に保たれた。
【0199】
【表12】
【0200】
表12に示したように、実施例3の場合、比較例1に比し流入BODは35%増加しているにも関わらず、放流水量BODは57%減少し、除去率は0.39%向上していた。
【0201】
【表13】
【0202】
【表14】
【0203】
両回分槽と第一余剰汚泥槽12aにおいては、DOが1.0〜1.1mg/Lで、ORPが100〜270mVに維持した。第二余剰汚泥槽13aではORPが−180〜−310mVを示していた。
【0204】
【表15】
【0205】
表15が示すように、第二余剰汚泥槽13aから第一余剰汚泥槽12aへ第二汚泥返送工程Waを行い、処理促進剤および栄養剤を添加することによって、汚泥減少化率は、比較例1に比べ50%減量した。汚泥減量化率に顕著な改善がみられた。
【0206】
また、表16が示すように、年間を通してバチルス属細菌数は第一回分槽2aおよび第一余剰汚泥槽12aにおいても極めて安定であり、汚泥返送と処理促進剤および栄養剤との効果が明瞭に観察され、排水の質向上と、高汚泥減量化率が実証された。
【0207】
【表16】
【0208】
さらに、第一余剰汚泥槽12aから、デンプン分解性・油脂分解性・セルロース分解性が極めて高いカビおよび酵母菌が見出された。これらは、大気中から自然に飛来したものや原水中に元々含まれていたものが、第一余剰汚泥槽12aにおいて高い汚泥物質分解能を取得したものと推察される。
【0209】
本発明の高い効率の排水処理効果に加え、高い汚泥分解性を分析したところ、従来法に拠るときは原排水とともに糸状菌の流入や汚泥が膨潤して沈降性が悪くなり、汚泥処理効率を低下させる事態がしばしば起きていた。
【0210】
しかしながら、本発明の排水処理方法における第一余剰汚泥の返送によって、回分槽における糸状菌の生育が弱くなり、運転の中期からは生育が認められなくなった。第一余剰汚泥槽12aからペニシリウム・ターバタム[Penicillium turbatum]と同定したカビが分離された。28S rDNA塩基配列と系統樹から同定した。ペニシリウム・ターバタムは、抗生物質生産菌として知られており、これが流入した糸状菌の生育を抑制したものと考えられる。本菌は、強いデンプン分解性・油脂分解性・セルロース分解性を有し、バチルス属細菌であるD株,E株,F株と協奏して汚濁物分解に寄与している。なお、このカビはペニシリウム・ターバタムG株として、国際寄託されている。単離は、上記方法を用い、細菌類分析中に出現し、釣菌した。
【0211】
さらに、第一余剰汚泥槽12aの汚泥の顕微鏡観察から酵母の生育が確認され、単離を行って、26S rDNA塩基配列の相同性と系統樹から、ジェオトリカム・シルビコーラ(=ガラクトマイセス・ジェオトリカム[Galactomyces geotrichum])H株,ピチア・フェルメンタンスI株,ピチア・グイリイエルモンデイイJ株と同定した3株を確認した。これらも国際寄託されている。
【0212】
これら酵母類も強いデンプン分解性・油脂分解性・セルロース分解性を有しており、バチルス属細菌であるD株,E株,F株と協奏して汚濁物分解に寄与している。
【0213】
すなわち、添加した種菌は、C株を除いて平成19年7月頃には消失し、より分解性の高いバチルス属細菌が出現し始め、平成20年5月〜7月にかけて、C株と近縁である、D株,E株およびF株の分解性の高いバチルス属細菌3株が出現した。さらに、分解性の高いバチルス属細菌類に加え、汚濁物とセルロース分解性を示すカビおよび酵母類が平成21年1月から出現し、汚濁物分解に寄与している。
【0214】
[汚泥返送について]
実施例1〜3において、汚泥返送の運転は、平成17年度までは汚泥返送(i)の経路(
図7)で各回分槽当たり5m
3/日で行った(自動運転)。
【0215】
実験開始後、平成19年1月〜平成20年5月まで、汚泥返送(i)を各回分槽当たり5〜15m
3/日(自動運転),汚泥返送(iii)を1〜5m
3/点検時・週2回行った(手動運転)。汚泥返送(i)の返送汚泥量は10〜15m
3(この施設の許容最大量)で処理の改善が見られた。汚泥返送(iii)は3〜5m
3(この施設での最大許容量)が適量であった。汚泥返送(ii)は、平成19年1月〜6月頃まで間欠的に行ったが、濃縮汚泥貯留槽50の汚泥濃度変化が大きく、返送用ポンプの揚力不足のため返送することが困難であった。しかしながら、汚泥返送(ii)の有効性は確認している。
【0216】
【表17】
【0217】
汚泥返送(i)は、平成20年7月から各回分槽に10m
3以上/日で運転すると効果を発揮し、15m
3/日(この施設での許容最大量)ではさらに効果を示した。特に生育阻害剤流入時、回分槽70での分解性細菌類の回復・維持にこの汚泥返送(i)が安定して効果を発揮するようになった。
【0218】
汚泥返送(ii)は、濃縮汚泥貯留槽50の汚泥濃度が高い場合、揚力不足でポンプが作動せず、平成19年短期間の運転で中止した。
【0219】
汚泥返送(iii)は、5m
3/点検時・週2回で安定した効果を示したが、施設の槽容量の制限で3〜5m
3/点検時・週2回(許容最大量)で運転した。
【0220】
[処理促進剤の添加量について]
平成19年〜平成20年は試行を続け、平成20年7月から各槽への添加量が定まった。
【0221】
汚泥凝集剤(無機性化合物)として、アルミニウム化合物,ケイ素化合物,マグネシウム化合物を;栄養剤(有機性化合物)として、ペプトンおよび乾燥酵母エキスを;および窒素源を添加した。
【0222】
図7において、各回分槽70(表18),汚泥貯留槽30(表19)および濃縮汚泥貯留槽50(表20)への処理促進剤および窒素源の添加量を示した。アルミニウム化合物,ケイ素化合物およびマグネシウム化合物それぞれの添加量を酸化物重量で記載した。また、窒素源の添加量をN
2換算値で記載した。
【0223】
添加した処理促進剤は、添加後、直ちにフロックに吸着される。フロックは、遠心分離や濾過の操作で容易に集められ、MLSS濃度5,000mg/Lの汚泥が含水率75%のとき、占める容積が約20mLである。すなわち、添加した処理促進剤はフロック内で50倍以上に濃縮される。なお、下水(汚濁物を含む排水)を曝気すると汚濁物質が凝集して細かい懸濁物が形成される。この懸濁物質が「フロック」と呼ばれる。
【0224】
【表18】
【0225】
窒素源は、回分槽70に添加するよりも、汚泥貯留槽30に添加する方が汚濁物分解性微生物類の生育により効果的であった。ペプトンおよび乾燥酵母エキスの添加濃度は、回分槽でペプトン0.055mg/L,乾燥酵母エキス0.011mg/Lと濃度が低いが、汚濁物分解性微生物の生育に効果が認められた。ペプトンおよび乾燥酵母エキスは槽内水フロックに吸着されるため、微生物の生育するフロック内では50倍以上の濃度となり、効果を示すと考えられる。
【0226】
【表19】
【0227】
汚泥貯留槽30への処理促進剤は、平成20年7月から定まり継続して同じ量を添加した。汚泥貯留槽30では、滞留時間が24時間であるが、汚泥減量化に効果を示した。
【0228】
【表20】
【0229】
濃縮汚泥貯留槽50への処理促進剤の添加は、栄養剤および窒素源が効果的であった。添加によって、分解性菌株(バチルス属細菌およびカビ,酵母類)が住み着いて、汚泥分解・分解性菌株数の維持に効果を発揮した。
【0230】
平成20年7月以後の添加量で安定した処理が可能となり、分解性細菌類が安定して生育し、汚泥発生量の減少が継続して見られた。また、汚泥沈降性の向上や汚濁物分解に効果的であった。表21に見られるように、平成21年5月頃から汚濁物分解性微生物数も含め安定して検出した。平成21年7月頃から特に汚泥分解や処理水質の向上が見られた。
【0231】
[汚濁物分解性の高い微生物類(汚濁物高分解性菌叢)の推移について]
実施例で用いた下水処理施設は、BOD成分の除去とT−N除去およびT−P除去がともに優れていた。BOD成分の除去には、(a-1)バチルス属細菌類,(a-2)ロドコッカス・ラバー[Rhodococcus rubber],(a-3)マイクロコッカス・ルテウス[Micrococcus luteus]および(b)カビおよび酵母類が主に貢献し、T−N成分の除去には(a-1)バチルス属細菌に加え、(a-4)アルカリゲネス・フェーカリス[Alcaligenes faecalis],(a-5)パラコッカス[Paracoccus]属細菌類および(a-6)ロドバクター[Rhodobacter]属細菌がT−N除去に寄与しており、T−P成分の除去には(a-6)ロドバクター[Rhodobacter]属細菌,(a-7)スフィンゴバクテリウム[Sphingobacterium]属細菌および(a-8)リゾビウム・ロティ[Rhizobium loti]が寄与していると考えられる。
【0232】
(a)細菌類
(a-1)バチルス属細菌類
表21に、検出されたバチルス属細菌数を年度別にまとめた。
【0233】
実験施設の平成18年12月におけるバチルス属細菌数は、回分槽で平均5.5×10
5cfu/mLであった。ここに種菌叢2として、A株,B株およびC株の3菌株(濃度約1:1:3)を合計で、各回分槽に2.5×10
6cfu/mLの濃度になるよう添加した。
【0234】
一方、汚泥貯留槽30には添加前バチルス属細菌数7×10
5cfu/mLに対し、上記3菌株(濃度比1:1:3)を2×10
6cfu/mLになるよう添加した。
【0235】
種菌添加後、平成19年は1週間単位で、平成20年以降は2週間単位で総細菌数およびバチルス属細菌数を計測した。
【0236】
A株は平成19年4月には消失した(生育阻害物質の流入が続き細菌数急減)。B株は、平成19年7月頃には消失した(生育阻害物質の流入によって細菌数急減)。C株は、添加後平成19年5月頃までは検出された。
【0237】
その後、16S rDNAに基づく分析で、C株と同一の塩基配列・長さを有し、より分解性の高いD株(B.subtilis)(表21)が平成19年5月頃から出現し、平成19年7月頃にはバチルス属細菌の約90%を占めた。
【0238】
さらにその後、16S rDNA塩基配列でC株と同一の塩基配列・長さを有し、さらに分解性の高いE株(B.subtilis)およびF株(B.subtilis)(表21)が平成19年10月頃から出現し、この時期濃縮汚泥貯留槽50で汚泥分解が顕著に進んだ(平成19年10月〜平成20年1月、濃縮汚泥貯留槽50でMLSS(濃縮直後17,000〜18,000mg/L)が9,500〜15,500mg/Lに低下した)。
【0239】
汚濁物分解性を比較すると、C株<D株<E株<F株であった(表21)。
【0240】
平成20年11月にはバチルス属細菌数の内、D株+E株+F株で90%以上を占め、D株30〜70%;E株10〜30%;F株10〜20%の割合であった。平成21年7月、D株10〜30%;E株10〜30%;F株30〜80%を占めた(表21;(注3))。
【0241】
菌株の識別・同定法は(注3)に記載した。
【0242】
D株,E株およびF株は、Clustal Xによる16S rDNA塩基配列の解析および遺伝子系統樹から、種菌C株が、より汚濁物分解性の高い酵素生産性株に誘導された変異株と推定される。
【0243】
これらバチルス属細菌の汚濁物分解性は、デンプン分解性・油脂分解性・タンパク質分解性に基づくと考えられるが、汚濁物分解性の差は、菌株または菌株群がデンプン分解性・油脂分解性を備える場合、クックトミート培地(筋肉性タンパク質)分解性で評価できた。A株〜F株および下水処理施設の活性汚泥希釈液のクックトミート培地中の懸濁物質〔SS〕除去率を表22に示した。
【0244】
(注1) 下水処理施設において標準法で下水処理する場合、バチルス属細菌数は2×10
5cfu/mL以下で通常0.5×10
5cfu/mL以下で出現し、活性汚泥のクックトミート分解性は弱い(表22)。
【0245】
(注2) A株はデンプン分解性・油脂分解性・カゼイン分解性を示し、B株は油脂分解性・筋肉性タンパク質(クックトミート)分解性を示す。
【0246】
各菌株単独では屎尿分解性を示さないが、A株+B株で強い屎尿分解性を示し、クックトミート培地分解性も大幅に向上する(表24)。C株は処理の良好な屎尿処理施設から単離した菌株で、デンプン分解性、油脂分解性、筋肉性タンパク質分解性を示す(表24)。
【0247】
(注3) 実施例で使用した下水処理施設では、B.thuringiensisの出現が0.25×10
5cfu/mL以下と少なかった。平成19年4月にはB.thuringiensisは1×10
4cfu/mL以下となった。B.thuringiensisはコロニーの形状と菌体の大きさ(φ1μm以上)から容易に識別できる。
【0248】
(注4) B株およびC株(いずれもB.subtilis)の識別は、コロニーの形状とクックトミート培地分解性および16S rDNA分析に依った。B株は、16S rDNA塩基配列に基づく遺伝子系統樹で、B.subtilis標準株(ATCC 6051,AJ276351)より起源が古く、容易に識別できる。Clustal Xによるアライメントを行うと、C株は、16S rDNA塩基配列(塩基数1,510 bp;
図8)で276番目の塩基が"R"(「A」または「G」:C株には16S rDNA部分が複数箇所(コピー)存在し、それらの約半数の276番目塩基が「A」、残りが「G」である。)で、B.subtilus標準株の相当する塩基は"A"(16S rDNA部分は複数個存在する。)であった。また、C株は配列の先端(5'末端)でB.subtilus標準株の16S rDNA塩基配列より9塩基("GAGTTTGAT")長く、末端(3'末端)はB.subtilis標準株が16塩基長い。C株はこれら遺伝子分析から容易に識別できる。D株,E株およびF株はC株と同一の塩基配列・長さを有すること、培養したコロニーの形状とクックトミート分解性の違いによって識別した(表21)。C株,D株,E株およびF株は極めて近縁であることがわかった。
【0249】
(注5) 屎尿は分解し難く、屎尿処理施設の滞留時間は通常15日間である。屎の分解が進めば悪臭の低減化や汚泥減量化に繋がると考えられ、屎尿分解性菌株を種菌として使用した。
【0250】
【表21】
【0251】
表21において、平成18年12月4日に種菌叢2を添加したが、種菌培養の際に熱がかかり、胞子は発芽しがたかった。回分槽70および汚泥貯留槽30で2月中旬にほぼ発芽してバチルス属細菌数が急増した。平成19年2月下旬まで汚泥搬出を行わず運転した。
【0252】
また、平成19年5〜8月まで、濃縮汚泥貯留槽50で増加していたMLSSが平成19年10月〜平成20年1月に、約17,500mg/Lに濃縮されたMLSSが分解を受け、約30日間で9,500〜15,500mg/Lに低下した(約10,000
mg/L低減化)。より分解性の高いD株,E株およびF株が出現した後、顕著な汚泥減量化が見られた。
【0253】
さらに、汚泥貯留槽30の汚泥は遠心濃縮機60で、平成19年1月以降平成20年1月までは約3〜3.5倍に、それ以降は約4.2〜4.8倍に濃縮された。平成21年7月以降、濃縮汚泥貯留槽50のMLSS濃度は汚泥貯留槽30の約3.1倍かそれ以下であって、濃縮汚泥貯留槽50でも汚泥の分解が起こっていることが判明した。バチルス属細菌濃度を比較すると、約4.8倍で、バチルス属細菌が増加していることが分かった。一般の下水処理施設では、バチルス属細菌数はMLSS濃度に比例せず、汚泥貯留槽30に相当する汚泥貯留槽で回分槽の1.1〜1.2倍である。
【0254】
(注6) 活性汚泥細菌の分離:
ニュートリエント・ブロス(Oxoid社製,コード:CM0001)8g,グルコース7g,ペプトン−P(Oxoid社製,コード:LP0049)4g,乾燥酵母エキス(Bacto社製,コード:212750)2gおよび寒天15gを蒸留水1,000mLに溶解させ、121℃で15分間滅菌した。滅菌したφ9cmのシャーレに、それを20mLずつ分注して平面培地を作製した。
【0255】
乾燥後、活性汚泥の100倍希釈液および10,000倍希釈液を調製し、それぞれ0.1mLずつを平面培地上に添加しコンラージ棒で拡げた。
【0256】
32℃で4〜5日間培養しコロニーを観察した。
【0257】
(注7) クックトミート培地中のSS除去率測定法:
φ18mmの試験管2本に、Oxoid社製のクックトミート培地(CM0081)およびDifco社製のクックトミート培地(226730)をそれぞれ250〜350mg量り取り、蒸留水6mL加えて121℃で15分間滅菌した。1本ずつに菌株を植菌して32℃で10日間振蘯培養した。
【0258】
ブランクとして、植菌しない試験管も同様に振蘯培養した。
【0259】
10日間後、φ55mmのガラス繊維フィルタ(アドバンテック社製GS25;またはワットマン社製GF/A)で懸濁物を濾集し、125℃で2.5時間乾燥して懸濁物質乾物重量を測定した。
【0260】
クックトミート培地に植菌し培養した後の懸濁物質〔SS〕の乾燥重量(X)と、別途、クックトミート培地に植菌せずに培養した後のSSの乾燥重量(Y)とから、下記式(i):
SS除去率(%)={(Y−X)/Y}×100 …(i)
を用いてSS除去率を算出した。
【0261】
【表22】
【0262】
A株(B.thuringiensis)およびB株(B.subtilis)は、単独では屎尿を分解できないが共存すると激しい分解性を示す(表24および非特許文献1を参照)。これらのSS除去率から、Oxoid社製で70%以上、Difco社製で60%以上のSS除去率を示し、かつ、デンプン分解性および油脂分解性を有する場合、汚濁物高分解性菌株と判定した。A株+B株,A株+B.subtilis
TおよびC株はこの条件を満たし、D株,E株およびF株は汚濁物高分解性であると判定できる。
【0263】
また、実験開始前の下水処理施設活性汚泥(100倍希釈液)と実験開始後(平成21年10月)活性汚泥(100倍希釈液)のOxoid社製とDifco社製とにおける懸濁物質〔SS〕除去能を比較すると、実験開始後大幅に増加している(表22)。
【0264】
なお、D株+H株,E株+H株,F株+H株において、SS除去率が低下しているが、活性汚泥中ではこの様な現象は起こっていないと考えられる。なぜならDifco製ではH株の生育が旺盛になり、D株,E株およびF株の生育が抑制され数が少なくなるためと考えられるからである(顕微鏡観察から)。D株,E株およびF株のプロテアーゼ活性阻害を行っているためではないと思われる。
【0265】
なお、平成22年(2010年)になって、汚泥減量化がより一層進んでいる。すなわち、A株+B株は消失し、C株がD株,E株,F株,IRN−110株,IRN−111株などのより汚濁物分解性の高い菌株に変異している。A株+B株の効果は、C株が下水/汚濁物に順応し、D株(E株,F株,IRN−110株,IRN−111株など)に変異する過程で、汚濁物を分解してC株の生育/順馳を支えることであると考えられる。A株+B株を添加した事で、C株の生育停止を防ぎ、C株を繰り返し添加する必要がなかったと思われる。
【0266】
下記のバチルス属細菌はすべてC株と同じ16S rDNAを有しており、クックトミート培地(Oxoid)および(Difco)それぞれのSS除去率を下表にまとめる。
【0267】
【表23】
【0268】
表23から、平成21年(2009年)までに単離されたバチルス属細菌はOxoidのSS除去率が高くてもDifcoのSS除去率が低い場合があったが、平成22年(2010年)になってDifcoのSS除去率が向上し、OxoidのSS除去率/DifcoのSS除去率の比が小さくなってきた。2010年になって汚泥減量化はさらに進んでいる。
【0269】
汚濁物分解性が高い微生物群として、定性的にデンプン分解性・油脂分解性を示し、繊維性タンパク質であるクックトミート培地中のSS除去率がOxoid社製で70%以上、Difco社製で60%以上を示す場合であると定義した根拠について、以下に説明する。
【0270】
【表24】
【0271】
通説では、下水汚泥は活性汚泥細菌が主要構成物であるとされているが、実際は下水に含まれる未分解汚濁物が下水汚泥の主要構成物であると考えられる。下水汚濁物の大半は生物由来のため、デンプン・油脂・タンパク質から構成され、屎尿が未分解汚濁物の半分以上を占めると考え、屎尿分解性菌株に注目した。屎尿処理施設から単離したA株,B株,A株+B株,C株についてデンプン分解性,油脂分解性,クックトミート培地中のSS除去率を測定したところ、屎尿分解性であるA株+B株およびC株が、デンプン分解性・油脂分解性を示し、SS除去率においてOxoid社製で70%以上、Difco社製で60%以上を示すことが判明し(表22,24)、これらの生化学的性質を備える菌株あるいは菌叢を汚濁物高分解性であると定義した。A株およびB株は単独では屎尿分解性を示さなかった。汚濁物高分解性は、単独の菌株または菌叢であって、細菌,酵母およびカビのそれぞれが単独であっても2種以上で構成されてもよい。
【0272】
(a-2)ロドコッカス・ラバー[Rhodococcus rubber]
ポリヒドロキシアルカン酸分解性,植物油分解性,各種環状炭化水素(シクロドデカン等)の分解性,高級炭化水素エーテル化合物の分解性,メチル−t−ブチルエーテルの分解性,2級−アルキル硫酸分解性など、多岐に渡る合成化合物資化性が知られている。洗剤や油脂、その他の高分子化合物の除去に寄与していると考えられる。平成21年7月、回分槽70で、4×10
5〜8×10
5cfu/mL、汚泥貯留槽30で7×10
5〜14×10
5cfu/mL見られ年間を通じて検出された。特有のコロニーの形状から(コロニーは4種類の形状を示す)容易に識別できる。16S rDNA分析から確認した。
【0273】
(a-3)マイクロコッカス・ルテウス[Micrococcus luteus]
高級脂肪酸資化性,エステラーゼ生産性,C16炭化水素資化性等を示し、洗剤などの高分子化合物の除去に寄与していると考えられる。コロニーの形状と菌体の検鏡によって容易に識別可能である。平成21年7月、回分槽70で1×10
5cfu/mL以下、汚泥貯留槽30で1×10
5〜4×10
5cfu/mL検出された。
【0274】
(a-4)アルカリゲネス・フェーカリス[Alcaligenes faecalis]
硝酸イオン利用性および脱窒性を示す。また、脱窒に伴いBOD成分を消費する。薄く着色した透明の、特有の形状のコロニーを形成し、容易に識別できる。年間を通じて、平成21年7月で、回分槽70で総細菌数の約25%、汚泥貯留槽30で総細菌数の約50%を占めた。
【0275】
(注8) 10年前まで(または現在でも)の通説では、好気性で脱窒は起こらないとされてきた。しかし、Alcaligenes faecalisとParacoccus denitrificansとの研究が進み現在では好気性での脱窒が認めらるようになってきている。
【0276】
(a-5)パラコッカス[Paracoccus]属細菌類
これら3株の種は未同定である。いずれも脱窒性を示し、脱窒する際BOD成分を資化する。薄いまたは濃いピンク色の透明なコロニーを形成し容易に識別可能である。平成21年7月、回分槽70で2×10
5〜6×10
5cfu/mL、汚泥貯留槽30で4×10
5〜12×10
5cfu/mL出現した。
【0277】
(a-6)ロドバクター[Rhodobacter]属細菌
硝酸イオン還元性・脱窒性を示し、リン酸を代謝する。特有のコロニーを形成し容易に識別できる。平成21年7月、回分槽70で2×10
5〜6×10
5cfu/mL、汚泥貯留槽30で2×10
5〜8×10
5cfu/mL検出した。
【0278】
(a-7)スフィンゴバクテリウム[Sphingobacterium]属細菌
脱窒性・リン脂質(スフィンゴ脂質)蓄積性を示す。黄色のコロニーを形成し容易に識別できる。リン酸の除去に寄与すると考えられる。平成21年7月、これらは回分槽70で<1×10
5cfu/mL、汚泥貯留槽30で1×10
5〜4×10
5cfu/mL出現した。(a-8)リゾビウム・ロティ[Rhizobium loti]と区別し難い場合がある。
【0279】
(a-8)リゾビウム・ロティ[Rhizobium loti]
リン酸の代謝に関係し、リン酸の除去に関与していると考えられる。回分槽70で<1×10
5cfu/mL以下、汚泥貯留槽30で1×10
5〜4×10
5cfu/mL見られた。(a-7)スフィンゴバクテリウム属[Sphingpbacterium sp.]と区別し難い場合がある。
【0280】
(b)カビおよび酵母類
(b-1)カビ(G株)
G株(ペニシリウム・ターバタム[Penicillium turbatum])は、平成21年5月頃から細菌数計測の際、汚泥貯留槽30から検出されるようになり、平成21年9月、汚泥貯留槽30で、5×10
5cfu/mL、回分槽70で2.5×10
4cfu/mL検出した。単離した一連の菌株は、28S rDNA塩基配列の相同性と遺伝子系統樹からPenicillium turbatumと同定した。強いデンプン分解性・油脂分解性・セルロース分解性を示す。P. turbatumは、抗生物質を生産することが知られている。下水処理施設で、平成21年1月頃から、流入する糸状菌類の生育性が回分槽で弱くなり、平成21年5月以降には生育できなくなった(分解中の糸状菌類は多数見られる)。
【0281】
(b-2)酵母類
酵母類は、汚泥貯留槽30の汚泥の検鏡で、平成20年8月頃から生存が確認できた。汚泥貯留槽30から平成21年3月,平成21年6月に単離を試み、3月にはI株(Pichia fermentans)およびJ株(Pichia guilliermondii)を、6月にはH株(Galactomyces geotrichum/Geotrichum silvicola;有性無性の関係)を加えて単離した。
【0282】
H株,I株およびJ株いずれも強いデンプン分解性・油脂分解性・セルロース分解性を示した。平成21年6月、H株,I株およびJ株の合計菌株数は、汚泥貯留槽30で1×10
3cfu/mLであり、H株が約20%,I株が約20%,J株が約60%を占めた。26S rDNA塩基配列の相同性および系統樹から同定した。
【0283】
(注9) 酵母の単離方法:
酵母類の単離培地は、馬鈴薯デンプン5g,可溶性デンプン5g,グルコース5g,ニュートリエント・ブロス(Oxoid社製,コード:CM0001)5g,ペプトン−P(Oxoid社製,コード:LP0049)4g,乾燥酵母エキス(Bacto社製,コード:212750)2gおよび寒天16gを蒸留水1,000mLに懸濁し、クエン酸でpH3.8に調整後、115℃で3分間滅菌して平面培地を調製した。
【0284】
ここに汚泥貯留槽30の槽内水0.1mLを拡げ、6日間培養して生育したコロニーから釣り菌して培養した。釣り菌した各菌株は希釈法で3回精製を繰り返して純粋な菌株を得た。なお、釣り菌した菌株の培養に使用した培地は、(注6)に記載したニュートリエント・ブロス−グルコース培地である。
【0285】
(注10) 実施例で用いた種菌の調製方法およびその添加:
ニュートリエント・ブロス(Oxoid社製,コード:CM-1)15g,グルコース10g,乾燥酵母エキス2gおよび寒天15gを蒸留水1,000mLに溶解し、121℃で15分間滅菌して、予め滅菌しておいたステンレス製バット(蓋付き,約23cm×32cm)に流し込み(約1L必要)平面培地を5枚調製した。
【0286】
A株,B株およびC株それぞれ6mL×3本を予め試験管に培養しておき、1枚目のバットにA株,2枚目のバットにB株,3枚目から5枚目のバットにC株を撒いて30℃で10日間培養した。各培養物を掻き取り2Lの蒸留水に懸濁した。
【0287】
懸濁液を1×10
4倍,1×10
6倍,1×10
8倍に希釈して600nmでODを測定し、文献からOD=0.3で約1×10
9cells/mLとした。原液を2×10
12cells/Lに希釈し、500mLずつ各回分槽に添加した(種菌濃度:約2.5×10
6cfu/mL)。
【0288】
一方、汚泥貯留槽30へは、種菌濃度8×10
10cells/L液を1L調製して添加した(種菌濃度:約2×10
6cells/mL)。この様にして調製した種菌は培養中約40℃に発熱し、胞子化した培養物は、栄養培地中32℃で培養しても急速に栄養細胞に戻らない。種菌として添加すると約25日後から発芽を始めた。なお、種菌添加前、バチルス属細菌数は各回分槽で5×10
5cfu/mLおよび6×10
5cfu/mL、汚泥貯留槽30で7×10
5cfu/mLであったが、クックトミート培地中のSS除去率はOxoid社製で41%、Difco社製で28%であり、種菌添加後平成21年10月、Oxoid社製で80%、Difco社製で82%であり(表22)、汚濁物分解性も平成21年には大幅に高くなった(表2,5,7,10,12,15)。(Quiagen社,Genomic DNA Handbook(2001),P.38〜39を参照。)
(注11) デンプン分解性試験および油脂分解性試験は「坂崎利一,吉崎悦郎,三木寛二著 新細菌培地学口座−下I,近代出版(1988)」に従って行った。以下、セルロース分解性試験も併せて簡単に説明する。
【0289】
[デンプン分解性試験]
可溶性デンプンを含む寒天平面培地に試験菌株を植菌し、32℃で培養した。2〜7日後に生じたコロニーにヨウ素ヨウ化カリ液(グラム染色用ルゴール液)を数滴垂らし、コロニー周辺にヨウ素−デンプン反応が消失した場合を「デンプン分解性あり(表24中“○”で示す。)」と判定した。
【0290】
可溶性デンプンを含む寒天平面培地は、ニュートリエント・ブロス(Oxoid社製,コード:CM-1)8g,ペプトン−P(Oxoid社製,コード:LP0049)4g,グルコース2g,可溶性デンプン5g,乾燥酵母エキス(Bacto社製,コード:212750)2gおよび寒天15gを蒸留水1,000mLに溶解し、121℃で15分間滅菌し、予め滅菌したシャーレに20mLずつ分注し冷却することで作製した。
【0291】
グラム染色用ルゴール液は、ヨウ素0.2gおよびヨウ化カリウム0.4gを蒸留水60mLに溶解することで調製し、茶色瓶に保存した。
【0292】
[油脂分解性試験]
油脂分解試験用寒天平面培地に試験菌株を植菌し、32℃で2〜10日間培養した。コロニー周辺に結晶(有機酸カルシウム塩)が形成された場合を「油脂分解性あり(表24中“○”で示す。)」と判定した。
【0293】
油脂分解試験用寒天平面培地は、下記a〜c液を調製して滅菌した後、85℃でa〜c液を素早く混合し、予め121℃で15分間滅菌したシャーレに20mLずつ分注し冷却することによって作製した。
【0294】
a液:ニュートリエント・ブロス(Oxoid社製,コード:CM-1)8g,グルコース7g,ペプトン−P(Oxoid社製,コード:LP0049)4g,乾燥酵母エキス(Bacto社製,コード:212750)2gおよび寒天15gを蒸留水1,000mLに溶解し、121℃で15分間滅菌した。
【0295】
b液:1%塩化カルシウム液10mLを調製し、121℃で15分間滅菌した。
【0296】
c液:ツイーン80(または60もしくは40)10mLを121℃で15分間滅菌した。
【0297】
[セルロース分解性試験]
セルロース粉末を含む寒天培地に試験菌株を植菌し、2〜10日間32℃で培養した。コロニー周辺に透明帯が生成した場合を「セルロース分解性あり」と判定した。。
【0298】
セルロース粉末を含む寒天平面培地は、ニュートリエント・ブロス(Oxoid社製,コード:CM-1)8g,グルコース7g,ペプトン−P(Oxoid社製,コード:LP0049)4g,乾燥酵母エキス(Bacto社製,コード:212750)2g,セルロース粉末1gおよび寒天16gを蒸留水1,000mLに溶解し、121℃で15分間滅菌した。滅菌後、予め滅菌しておいたシャーレに20mLずつ分注して冷却することによって作製した。