(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法は、欠陥部を有する有機EL素子にレーザー光を照射する第1のレーザー照射工程と、前記レーザー光の照射後、前記有機EL素子に、前記有機EL素子が正常であれば基準階調未満の第1階調に対応する輝度で発光することが期待される第1量の電流を供給しつつ、前記有機EL素子の発光輝度を測定する第1輝度測定工程と、前記第1輝度測定工程において測定された発光輝度が判定しきい値未満である場合に、前記有機EL素子に前記レーザー光を再度照射する第2のレーザー照射工程と、前記第1輝度測定工程において測定された発光輝度が前記判定しきい値以上である場合に、前記有機EL素子に、前記有機EL素子が正常であれば前記基準階調以上の第2階調に対応する輝度で発光することが期待される第2量の電流を供給しつつ、前記有機EL素子の発光輝度を測定する第2輝度測定工程と、を含む。
【0015】
上記の有機EL素子の製造方法によれば、高階調の発光輝度を測定する従来の検査に先立って、低階調の発光輝度を測定するので、レーザーリペアが不完全な発光素子を確実に発見し、かかる素子をリペアすることができる。
【0016】
また、前記有機EL素子の製造方法において、前記発光輝度の判定しきい値は、前記有機EL素子が正常な場合に前記第1階調に対応する輝度の50%であってもよい。
【0017】
低階調の発光輝度が正常な有機EL素子の半分に満たない有機EL素子は、利用者に特に認識されやすいので、そのような有機EL素子を選択して、レーザー再照射による再リペアを試みることは有効である。
【0018】
また、前記有機EL素子の製造方法において、前記第1階調は、前記有機EL素子が正常な場合に発光輝度1cd/m
2に対応する階調であってもよい。
【0019】
発光輝度1cd/m
2は、利用者によって実質的に黒色と認識される輝度の上限値の一例であり、利用者は1cd/m
2以下の輝度を一律に黒色と認識する。
【0020】
そのため、有機EL素子が正常であれば輝度1cd/m
2で発光する階調において、リペア後の有機EL素子の発光輝度を、正常な輝度の50%の0.5cd/m
2まで回復することができれば、利用者には一律に黒色と認識されるもっと低い階調においてリペア後の有機EL素子の発光輝度が不足することは妥協できると考えられる。
【0021】
なお、利用者によって実質的に黒色と認識される輝度の上限値は、有機ELパネルが適用されるディスプレイ装置の性能、用途、利用環境によって大きく異なるため、前記第1階調の具体的な値はディスプレイ装置の性能、用途、利用環境に応じて適宜選択されるべきである。
【0022】
また、前記有機EL素子の製造方法において、前記第2階調は、前記有機EL素子の最高階調付近の階調であってもよい。
【0023】
最高階調付近で行われる高階調の発光検査は、レーザー照射後の有機EL素子において、許容できるしきい値以上の最大発光輝度が回復しているかを確認すると同時に、レーザー照射によって有機EL素子の耐性が劣化していないことを確認する耐性検査を兼ねることができるので、リペア工程の簡素化および効率化に大いに役立つ。
【0024】
本発明は、前述した有機EL素子の製造方法として実現できるのみならず、有機EL素子を評価するための評価方法として実現することもできる。
【0025】
以下、本発明の実施の形態にかかる有機EL素子の製造方法及びそのような製造方法によって製造された有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。なお、以下では、全ての図を通じて同一または対応する要素には同じ符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0026】
(実施の形態1)
<素子構造>
図1は、本発明の実施の形態1に係る有機EL素子1の断面概略図である。
図1に示した有機EL素子1は、陽極、陰極、および当該両極で挟まれた発光層を含む有機層を有する有機機能デバイスである。
【0027】
図1に示すように、有機EL素子1は、透明ガラス9の上に、平坦化膜10と、陽極11と、正孔注入層12と、発光層13と、隔壁14と、電子注入層15と、陰極16と、薄膜封止層17と、封止用樹脂層19と、透明ガラス18とを備える。
【0028】
陽極11及び陰極16は、それぞれ、本発明における下部電極層及び上部電極層に相当する。また、正孔注入層12、発光層13及び電子注入層15は、本発明における有機層に相当する。
【0029】
透明ガラス9及び18は、発光パネルの発光表面を保護する基板であり、例えば、厚みが0.5mmである透明の無アルカリガラスである。
【0030】
平坦化膜10は、一例として、絶縁性の有機材料からなり、例えば駆動用の薄膜トランジスタ(TFT)などを含む基板上に形成されている。
【0031】
陽極11は、正孔が供給される、つまり、外部回路から電流が流れ込むアノードであり、例えば、Al、あるいは銀合金APCなどからなる反射電極が平坦化膜10上に積層された構造となっている。反射電極の厚みは、一例として10〜40nmである。なお、陽極11は、例えばITO(Indium Tin Oxide)と銀合金APCなどからなる2層構造であってもよい。このように、陽極11を、APCなどの高反射率の金属で形成されることにより、照射レーザー光が高反射率の金属で反射されるので、より高効率にフォーカスしたい層にレーザー光を集光することが可能となる。
【0032】
正孔注入層12は、正孔注入性の材料を主成分とする層である。正孔注入性の材料とは、陽極11側から注入された正孔を安定的に、または正孔の生成を補助して発光層13へ注入する機能を有する材料であり、例えば、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、アニリンなどの化合物が使用される。
【0033】
発光層13は、陽極11および陰極16間に電圧が印加されることにより発光する層であり、例えば、下層としてα−NPD(Bis[N−(1−naphthyl)−N−phenyl]benzidine)、上層としてAlq3(tris−(8−hydroxyquinoline)aluminum)が積層された構造となっている。
【0034】
電子注入層15は、電子注入性の材料を主成分とする層である。電子注入性の材料とは、陰極16から注入された電子を安定的に、または電子の生成を補助して発光層13へ注入する機能を有する材料であり、例えば、ポリフェニレンビニレン(PPV)が使用される。
【0035】
陰極16は、電子が供給される、つまり、外部回路へ電流が流れ出すカソードであり、例えば、透明金属酸化物であるITOにより積層された構造となっている。Mg、Ag等の材料により透明電極として形成することもできる。また、電極の厚みは、一例として10〜40nmである。
【0036】
隔壁14は、発光層13を独立して発光駆動可能な発光領域2ごとに分離するための壁であり、例えば、感光性の樹脂からなる。
【0037】
薄膜封止層17は、例えば、窒化珪素からなり、上記した発光層13や陰極16を水蒸気や酸素から遮断する機能を有する。発光層13そのものや陰極16が、水蒸気や酸素にさらされることにより劣化(酸化)してしまうことを防止するためである。
【0038】
封止用樹脂層19は、アクリルまたはエポキシ系の樹脂であり、上記の基板上に形成された平坦化膜10から薄膜封止層17までの一体形成された層と、透明ガラス18とを接合する機能を有する。
【0039】
上述した陽極11、発光層13及び陰極16の積層構造体は有機EL素子1の基本構成であり、このような構成により、陽極11と陰極16との間に適当な電圧が印加されると、陽極11側から正孔、陰極16側から電子がそれぞれ発光層13に注入される。これらの注入された正孔および電子が発光層13で再結合して生じるエネルギーにより、発光層13の発光材料が励起され発光する。
【0040】
なお、正孔注入層12および電子注入層15の材料は、本発明では限定されるものではなく、周知の有機材料または無機材料が用いられる。
【0041】
また、有機EL素子1の構成として、正孔注入層12と発光層13との間に正孔輸送層があってもよいし、電子注入層15と発光層13との間に電子輸送層があってもよい。また、正孔注入層12の代わりに正孔輸送層が配置されてもよいし、電子注入層15の代わりに電子輸送層が配置されてもよい。正孔輸送層とは、正孔輸送性の材料を主成分とする層である。ここで、正孔輸送性の材料とは、電子ドナー性を持ち陽イオン(正孔)になりやすい性質と、生じた正孔を分子間の電荷移動反応により伝達する性質を併せ持ち、陽極11から発光層13までの電荷輸送に対して適性を有する材料のことである。また、電子輸送層は、電子輸送性の材料を主成分とする層である。ここで、電子輸送性の材料とは、電子アクセプター性を有し陰イオンになりやすい性質と、発生した電子を分子間の電荷移動反応により伝達する性質を併せ持ち、陰極16から発光層13までの電荷輸送に対して適性を有する材料のことである。
【0042】
また、有機EL素子1は、さらに、隔壁14で分離された各発光領域を覆うように、透明ガラス18の下面に、赤、緑および青の色調整を行うカラーフィルタ(調光層)を備える構成であってもよい。
【0043】
なお、本発明において、正孔注入層12、発光層13及び電子注入層15を合わせて有機層30と称する。また、正孔輸送層、電子輸送層を有する場合には、これらの層も有機層30に含まれる。有機層30の厚さは、一例として、100nm〜200nmである。
【0044】
また、隔壁14で分離され独立して発光制御可能な1つの発光領域2に配置された平坦化膜10、陽極11、有機層30、陰極16、薄膜封止層17、封止用樹脂層19及び透明ガラス18が1つの有機EL素子1を構成している。
【0045】
複数の有機EL素子1をマトリクス状に配列すると共に、当該複数の有機EL素子1の各々を発光駆動するための駆動回路を設けて、有機ELパネル(画像表示パネル)を構成することができる。本明細書では、そのような有機ELパネルにおける1つの有機EL素子1及び対応する駆動回路を含む部分を画素と称する。
【0046】
さらに、
図1に示した有機EL素子1は、製造工程において、陽極11と陰極16との間に導電性の異物20が混入し、異物20を介して陽極11と陰極16とが短絡している。異物20による短絡箇所は、発光領域2の欠陥部の一例である。
【0047】
そして、異物20による陽極11と陰極16との間の短絡に起因する不良を解消(リペア)すべく、異物20の周辺に位置する陰極の一部がレーザー光の照射による照射痕16aが形成されている。レーザー光の照射によるリペアの詳細については、後ほど説明する。
【0048】
図2は、有機EL素子1の上面図であり、異物20による短絡箇所を有する発光領域2において、レーザー光の照射にて形成される照射痕16aの平面位置の典型例を表している。ここで、
図2に示されるAA’断面が、
図1に対応している。
【0049】
レーザー光は、陰極16の異物20による短絡箇所を包囲する閉じた線上をトレースしながら照射される。例えば、陰極16の異物20から10μm程度離れた周囲に定められる20μm×20μmの正方形の輪郭線上にレーザー光が照射されてもよい。その結果、陰極16に、
図2に示すような状態の照射痕16aが形成される。照射痕16aの抵抗値は、レーザー光の照射を受けていない陰極16の本来の抵抗値よりも高くなっている。
【0050】
以下の説明では、レーザー光の照射により、照射対象箇所の抵抗値を、レーザー光の照射前に比べて高めることを高抵抗化するという。
【0051】
<製造方法>
次に、有機EL素子1の製造方法について説明する。この製造方法には、有機EL素子1の欠陥部に起因する不良を解消する工程が含まれる。
【0052】
図3は、本発明に係る有機EL素子1の製造方法を説明するフローチャートである。
【0053】
まず、有機ELパネルを準備する(S10)。有機ELパネルは、有機EL素子1と有機EL素子1を駆動する駆動回路とが形成された画素がマトリクス状に配置されたものである。本工程は、マトリクス状に配置された複数の画素が有する有機EL素子1を積層形成する工程を含む。
【0054】
次に、ステップS10で準備された有機ELパネルの全面を点灯させ、面的な表示特性に問題がない有機ELパネルを選別する全面点灯検査を実行する(S20)。
【0055】
次に、ステップS20で選別された有機ELパネルにおいて、各画素の滅点検査およびリペアを行う(S30)。
【0056】
まず、画素ごとの発光領域を検査し、各発光領域において陽極11と陰極16とが短絡している短絡箇所を欠陥部として検出する(S40)。
【0057】
次に、ステップS40で検出された欠陥部に起因する不良をレーザー照射によりリペアする(S50)。ステップS50における工程には、レーザー照射後の有機EL素子を評価するための、本発明の特徴的な回復評価工程が含まれる。
【0058】
以下、上述した各々の工程について、詳細に説明する。
【0059】
まず、有機ELパネルを準備する工程(S10)について説明する。
【0060】
図4は、本発明の第1の工程で準備された有機ELパネルの部分断面概略図である。
図4には、異物20により陽極11及び陰極16が短絡された有機EL素子1Aの断面構造が表されている。
【0061】
まず、TFTを含む基板上に、絶縁性の有機材料からなる平坦化膜10を形成し、その後、平坦化膜10上に陽極11を形成する。陽極11は、例えば、スパッタリング法により、平坦化膜10上にAlが30nm成膜され、その後、フォトリソグラフィ及びウエットエッチングによるパターニング工程を経て形成される。
【0062】
次に、陽極11上に、例えば、PEDOTをキシレンよりなる溶剤に溶かし、このPEDOT溶液をスピンコートすることにより、正孔注入層12を形成する。
【0063】
次に、正孔注入層12の上に、例えば、真空蒸着法によりα−NPD、Alq3を積層し、発光層13を形成する。
【0064】
次に、発光層13の上に、例えば、ポリフェニレンビニレン(PPV)を、キシレンまたはクロロホルムよりなる溶剤に溶かしてスピンコートすることにより、電子注入層15を形成する。
【0065】
続いて、電子注入層15が形成された基板を大気曝露させることなく、陰極16を形成する。具体的には、電子注入層15の上に、スパッタリング法によりITO(Indium Tin Oxide)が35nm積層されることにより、陰極16が形成される。このとき、陰極16は、アモルファス状態になっている。
【0066】
上記製造工程により、発光素子としての機能をもつ有機EL素子が形成される。なお、陽極11の形成工程と正孔注入層12の形成工程との間に、表面感光性樹脂からなる隔壁14が所定位置に形成される。
【0067】
次に、陰極16の上に、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により窒化珪素を500nm積層し、薄膜封止層17を形成する。薄膜封止層17は、陰極16の表面に接して形成されるので、特に、保護膜としての必要条件を厳しくすることが好ましく、上記した窒化珪素に代表されるような非酸素系無機材料が好ましい。また、例えば、酸化珪素(Si
XO
Y)や酸窒化珪素(Si
XO
YN
Z)のような酸素系無機材料や、これらの無機材料が複数層形成された構成であってもよい。また、形成方法は、プラズマCVD法に限らず、アルゴンプラズマを用いたスパッタリング法など、その他の方法であってもよい。
【0068】
次に、薄膜封止層17の表面に、封止用樹脂層19を塗布する。その後、塗布された封止用樹脂層19上に、透明ガラス18を配置する。ここで、透明ガラス18の主面に、予めカラーフィルタ(調光層)が形成されてもよい。この場合には、カラーフィルタが形成された面を下方にして、塗布された封止用樹脂層19上に透明ガラス18を配置する。なお、薄膜封止層17、封止用樹脂層19及び透明ガラス18は、保護層として機能する。
【0069】
最後に、透明ガラス18を上面側から下方に加圧しつつ熱またはエネルギー線を付加して封止用樹脂層19を硬化し、透明ガラス18と薄膜封止層17とを接着する。
【0070】
このような形成方法により、
図4に示す有機EL素子1Aが形成される。
【0071】
なお、陽極11、正孔注入層12、発光層13、電子注入層15及び陰極16の形成工程は、本発明により限定されるものではない。
【0072】
また、有機EL素子1Aの発光領域2には欠陥部、つまり、前述した製造工程において混入した異物20による陽極11と陰極16との間の短絡箇所があり、有機EL素子1Aには短絡に起因する不良が生じている。
【0073】
次に、全面点灯検査工程(S20)について説明する。
【0074】
全面点灯検査工程では、ステップS10で準備された有機ELパネルの全面を点灯させ、許容レベルを超える輝度むら、線状の表示欠陥、ダークスポットといった、面的な表示特性上の問題の有無を検査し、問題がない有機ELパネルを選別するとともに、不合格品は部材を再生利用するかまたは破棄する。
【0075】
次に、有機EL素子の各画素の滅点検査およびリペア工程(S30)における、有機EL素子の欠陥部を特定する工程(S40)について説明する。
【0076】
図4において、異物20は、例えば、陽極11の材料であるAlが、陽極11の形成後、陽極11上に付着し、続けて、正孔注入層12、発光層13、電子注入層15、陰極16が積層されたために生じたものである。異物20の大きさは、一例として直径が200nm、高さが500nm程度である。異物20による陽極11と陰極16との短絡箇所があると、本来は発光を駆動するための電流が当該短絡箇所に流れてしまうので、この発光領域2は十分に又は全く発光することができない。このように正常な発光機能を喪失した発光領域2に対応する画素を、以下では、滅点画素という。
【0077】
図5は、本発明の実施の形態に係るステップS40を説明するための動作フローチャートである。
【0078】
まず、ステップS20で選別された有機ELパネルを点灯させる(S41)。具体的には、有機ELパネルが備える駆動回路により、または、外部接続されたソースメータにより、有機ELパネルの有する全画素へ、順バイアス電圧を一斉に印加させる。このとき、同時に、全画素を、CCDカメラなどで撮像する。
【0079】
そして、上記順バイアス電圧印加期間における撮像画像から各画素の発光輝度を算出し、当該発光輝度が所定の閾値以下である画素を、滅点画素として検出する(S42)。
【0080】
次に、検出された滅点画素を拡大観測する(S43)。具体的には、例えば、カメラ顕微鏡を用いて滅点画素を観測する。
【0081】
このとき、拡大観測された滅点画素の領域において、異物20を特定する(S44)。
【0082】
次に、ステップS42で検出された滅点画素に、逆バイアス電圧を印加してリーク発光する発光点を特定する(S45)。正常画素では、上記逆バイアス電圧により有機EL素子に電流は流れないが、短絡箇所を有する発光領域では、リーク電流によるリーク発光が短絡箇所で観測される。このリーク発光状態を撮像して得られた画像により、発光領域中のリーク発光点を特定する。
【0083】
具体的には、有機ELパネルが備える駆動回路により、または、外部接続されたソースメータにより、検査対象の画素に所定の逆バイアス電圧を印加させる。そして、上記逆バイアス電圧が印加されている期間に閾値強度以上のリーク発光をした発光点を特定する。なお、逆バイアス電圧印加によるリーク発光は微弱であるため、CCDカメラ等による撮像は、完全遮光環境にて実行されることが好ましい。そして、各撮像点の発光強度を所定の閾値と比較することで、リーク発光の有無を判断する。このようにしてリーク発光点を特定する。
【0084】
なお、CCDカメラは、冷却型CCDカメラが好ましい。これにより、微弱な有機EL素子のリーク発光の撮像においても、所定のS/N比を確保することができる。よって、検査時におけるノイズを排除し、リーク発光点の検出精度が向上する。
【0085】
次に、ステップS44で拡大観測された順バイアス電圧印加における滅点画素の画像と、ステップS45で観測された逆バイアス電圧印加におけるリーク発光点の画像とを合成することにより、当該滅点画素における短絡箇所の位置を確定させる(S46)。
【0086】
なお、上述のステップS46における短絡箇所の位置の確定プロセスでは、ステップS44で特定された異物の位置と、ステップS45で特定されたリーク発光点の位置とが一致することで短絡箇所の位置を確定させてもよく、異物の位置またはリーク発光点の位置のみを用いて短絡箇所を確定させてもよい。
【0087】
また、短絡箇所を有する発光領域の検出は、上述した方法に限らず、例えば、有機EL素子の陽極11および陰極16の間に流れる電流値を測定し、電流値の大きさに基づいて検出してもよい。この場合、順バイアス電圧を印加すると正常画素と同等の電流値が得られ、逆バイアス電圧を印加するとリーク発光が観測される画素を、滅点画素と判断してもよい。
【0088】
次に、有機EL素子の欠陥部に起因する不良をレーザー照射によりリペアする工程(S50)について説明する。本工程には、レーザー照射後の有機EL素子を評価するための、本発明の特徴的な回復評価工程が含まれる。
【0089】
図6は、本発明の実施の形態に係るステップS50を説明するための動作フローチャートである。また、
図7は、本発明の実施の形態に係るレーザーリペアを実施するためのシステム構成図である。
図7に記載されたシステムは、レーザー発振器101と、CCDカメラ103と、照明104と、ステージ105とを備える。また、製造仕掛品である、有機EL素子1Aを有する有機ELパネルが、ステージ105の上に固定配置されている。
【0090】
レーザー発振器101は、例えば、波長が750nm〜1600nm、出力エネルギーが1〜30μJ、パルス幅が数フェムト秒から数ピコ秒オーダーである超短パルスレーザーを発振することが可能である。かかる超短パルスレーザーには、例えばフェムト秒レーザーが含まれ、好適なパルス幅の範囲は、100fs〜20psである。超短パルスレーザーの照射により、特に、アモルファス(非晶質)状態の陽極または陰極の構成材料を容易に高抵抗化することができる。さらに、他のレーザーでは加工が容易ではない透明導電性材料について、高抵抗化することができる。
【0091】
本実施の形態においては、陰極16にレーザー焦点を合わせて、陰極16の一部を高抵抗化させている。このとき、陰極16の一部を高抵抗化させることが可能な出力エネルギーの範囲は、照射するレーザーの波長に依存する。過大な出力エネルギーを有するレーザーを陰極16に照射すると、レーザーが陰極16の下方に設けられた有機層30にまで到達し、有機層30が損傷を受けることとなる。また、過小な出力エネルギーを有するレーザーを陰極16に照射すると、陰極16は高抵抗化されない。また、パルス幅が20psec以上のパルス幅のレーザーを照射すると、有機層30は損傷を受けることとなる。これらを総合して、上記レーザー波長の範囲で、かつ上記パルス幅範囲のパルス幅のレーザーを有機EL素子に照射することにより、容易に陰極16の一部を高抵抗化することができる。
【0092】
CCDカメラ103は、ステージ105上の有機ELパネルを撮影する。
【0093】
照明104は、有機ELパネルの撮影に必要な補助光を発光する。
【0094】
ステージ105は、有機ELパネルを載置して、高さ方向Z、ならびに平面方向X及びYに可動であり、有機EL素子のレーザー照射箇所を位置決めする。
【0095】
以下、
図6のフローチャートに従って、リペア工程(S50)を詳細に説明する。
【0096】
まず、有機EL素子のレーザー照射箇所(被照射部)の高さを設定する(S51)。具体的には、ステージ105のZ位置を、レーザー光の焦点が、例えば有機EL素子1Aの陰極16に合う位置に設定する。
【0097】
次に、レーザー光の照射ラインの設定を行う(S52)。具体的には、
図2で説明したように、陰極16の異物20による短絡箇所を包囲する閉じた線状(例えば、陰極16の異物から10μm程度離れた周囲に定められる20μm×20μmの正方形の輪郭線上)にレーザー光にてトレースされる平面方向の照射ラインを設定する。照射ラインで包囲される領域の面積は、発光領域2の面積の1/3以下であることが望ましい。また、照射痕が確実に閉じた線状になるように、照射ラインの始点近傍部分と終点近傍部分とを交差させてもよい。
【0098】
次に、ステップS51で決定したステージ105の高さにおいて、ステップS52で設定した照射ラインをトレースするように、レーザー光を照射する第1のレーザー照射工程を実行する(S53)。
【0099】
次に、上述したレーザー照射により、滅点画素の発光機能が回復したかを評価する(S54)。
【0100】
ステップS54の回復評価工程では、まず、ステップS53でレーザー照射を受けた有機EL素子に、前記有機EL素子が正常であれば基準階調未満の第1階調に対応する輝度で発光すると期待される第1量の電流を供給しつつ前記有機EL素子の発光輝度を測定する、低階調発光確認工程を実行し(S55)、測定された輝度が判定しきい値未満であれば(S56でNO)、ステップS53に戻り、有機EL素子に再びレーザー光を照射する第2のレーザー照射工程を実行する。
【0101】
ステップS55において測定された輝度が判定しきい値以上であれば(S56でYES)、前記有機EL素子に、前記有機EL素子が正常であれば前記基準階調以上の第2階調に対応する輝度で発光することが期待される第2量の電流を供給しつつ前記有機EL素子の発光輝度を測定する、高階調発光確認工程を行う(S57)。高階調発光確認工程は、従来の典型的な回復確認検査と同様にして行われる。
【0102】
上述した回復評価工程の効果、並びに、第1階調、第2階調、および判定しきい値の好適な一例について、
図8(a)、(b)、
図9(a)、(b)を参照して説明する。
【0103】
課題の項で述べたように、本願発明者らは、従来の高階調の発光検査において許容できる最大発光輝度が回復したことが確認されたにもかかわらず、より低い階調の輝度信号を与えた場合に、全く発光しないか、極端に低い輝度でしか発光しない有機EL素子があることに気づいた。
【0104】
このような現象への対策を検討するため、本願発明者らは、レーザー照射によって最大発光輝度が許容できる程度に回復した複数の有機EL素子の発光特性を測定する実験を行った。この実験では、有機EL素子に、0(消灯)から255(最大輝度)までの256階調のうちの1つの階調に対応する量の電流を順次供給しつつ、各階調に対応する発光輝度を測定した。
【0105】
図8(a)は、正常、リペア成功、リペア失敗の各状態の有機EL素子の発光特性の一例を示すグラフであり、
図8(b)は、
図8(a)の低階調部分を拡大したグラフである。
【0106】
これらのグラフのうち、正常と示されたグラフは、有機EL素子が正常な場合に、各階調に対応する量の電流が供給されることによって発光する輝度の設計値を示している。短絡に起因する発光不良がない正常な有機EL素子は、ほぼこのような発光特性に従って発光する。
【0107】
また、リペア成功およびリペア失敗と示されたグラフは、最大発光輝度が許容できる程度に回復した複数の有機EL素子のうち、それぞれ、低階調輝度が回復した有機EL素子について測定された発光特性および低階調輝度が回復しなかった有機EL素子について測定された発光特性を示している。
【0108】
図8(a)に示されるように、140階調以上では、リペア成功およびリペア失敗のいずれの有機EL素子も同等の発光特性を示す。200cd/m
2以上の発光特性の図示は省略しているが、これらのいずれの有機EL素子も、最大階調に対応する量の電流供給にて、正常な有機EL素子の半分以上の輝度で発光することが確かめられている。そのため、いずれの有機EL素子も、例えば判定しきい値を正常な輝度の50%とした高階調の発光検査をパスする。しかしながら、
図8(b)に示されるように、50階調以下では、リペア失敗の有機EL素子の発光輝度は正常な有機EL素子の半分未満にとどまる。
【0109】
本願発明者らは、発光特性に生じるこのような差の要因が、レーザー照射による短絡箇所の高抵抗化の程度の差にあることを疑い、次のような考察を行った。
【0110】
図9(a)は、異物による短絡箇所を有する有機EL素子の等価回路図であり、
図9(b)は、異物による短絡箇所を有する有機EL素子の電流−電圧特性の一例を示すグラフである。
【0111】
図9(a)、(b)において、太線は有機層30に流れる電流を示している。有機層30はダイオードとしての非線形の電流−電圧特性を有する。また、細線は異物20による短絡箇所に流れる電流を示している。短絡箇所はレーザー照射後の照射痕16aの抵抗値に依存した抵抗値を有する。ここで、細破線のグラフおよび細実線のグラフは、それぞれ、レーザー照射による短絡箇所の高抵抗化が不十分な場合(リペア失敗)および十分な場合(リペア成功)をモデル化している。
【0112】
図9(b)から分かるように、有機EL素子を大電流で駆動する場合、つまり有機EL素子を高階調で発光させる場合は、有機層30に流れる電流が支配的となり、短絡箇所の高抵抗化の不足は顕在化しない。他方、有機EL素子を小電流で駆動する場合、つまり有機EL素子を低階調で発光させる場合は、短絡箇所に流れる電流が支配的となり、短絡箇所の高抵抗化が十分でない有機EL素子は、全く発光しないか、極端に低い輝度でしか発光しない。このことは、発明者らが見出した前述の現象とよく一致する。
【0113】
このような考察に基づき、発明者らは、
図6のフローチャートで説明したリペア方法、すなわち、レーザー照射後の有機EL素子に対して、まず低階調の発光確認を行い、低階調の発光確認において所望の輝度が得られない場合には、レーザー再照射にて照射痕の抵抗値をさらに高めた後に、従来の典型的な回復確認検査である高階調の発光確認を行う方法を考案した。
【0114】
図6に示されるように、ステップS53のレーザー照射において、レーザー光による照射ラインのトレースが完了して照射痕が閉じた線状になるまでは、滅点画素は、順バイアス電圧を印加しても発光しない。
【0115】
その後、照射ラインのトレースが完了すると、順バイアス電圧の印加により、照射痕で囲まれた領域は発光しないが、その他の領域は発光することが確認される。これを有機EL発光パネル全体として確認した場合には、20μm×20μmの正方形である領域が非発光であっても、当該非発光部分は視認されず、短絡による発光不良が解消される。
【0116】
その後、ステップS54の回復評価工程において、高階調の発光輝度を測定する従来の高階調発光確認(S57)に先立って、低階調の発光輝度を測定する低階調発光確認を行い(S55)、測定された輝度が判定しきい値未満であれば(S56でNO)、ステップS53に戻り、かかる素子にレーザー光を再照射することで十分な高抵抗化を試みるので、従来と比べて低階調の発光不良を見逃す可能性が減り、より高い精度で有機EL素子をリペアできるようになる。
【0117】
ここで、上述のステップS56で用いる判定しきい値は、前記有機EL素子が正常な場合に前記第1階調に対応する輝度の50%であってもよい。低階調の発光輝度が正常な有機EL素子の半分に満たない有機EL素子は、利用者に特に認識されやすいので、そのような有機EL素子を選択して、レーザー再照射による再リペアを試みることは有効である。
【0118】
また、前記第1階調は、前記有機EL素子が正常な場合に発光輝度1cd/m
2に対応する階調(例えば、26階調)であってもよい。発光輝度1cd/m
2は、利用者によって実質的に黒色と認識される輝度の上限値の一例であり、利用者は1cd/m
2以下の輝度を一律に黒色と認識する。
【0119】
そのため、有機EL素子が正常であれば輝度1cd/m
2で発光する階調において、リペア後の有機EL素子の発光輝度を、正常な輝度の50%の0.5cd/m
2まで回復することができれば、利用者には一律に黒色と認識されるもっと低い階調においてリペア後の有機EL素子の発光輝度が不足することは妥協できると考えられる。
【0120】
なお、利用者によって実質的に黒色と認識される輝度の上限値は、有機ELパネルが適用されるディスプレイ装置の性能、用途、利用環境によって大きく異なるため、前記第1階調の具体的な値はディスプレイ装置の性能、用途、利用環境に応じて適宜選択されるべきである。
【0121】
また、前記第2階調は、前記有機EL素子の最高階調付近の階調であってもよい。最高階調付近で行われる高階調の発光検査は、レーザー照射後の有機EL素子において、許容できるしきい値以上の最大発光輝度が回復しているかを確認すると同時に、レーザー照射によって有機EL素子の耐性が劣化していないことを確認する耐性検査を兼ねることができるので、リペア工程の簡素化および効率化に大いに役立つ。
【0122】
なお、本発明は、上記した実施の形態及びその変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態及びその変形例における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0123】
例えば、上述した実施の形態では、下部電極を陽極、上部電極を陰極とする構成について示したが、下部電極を陰極、上部電極を陽極とする構成であってもよい。また、有機EL素子の構成である平坦化膜、陽極、正孔注入層、発光層、隔壁、電子注入層、陰極、薄膜封止層、封止用樹脂層及び透明ガラスは、上記した実施の形態に示した構成に限らず、材料や構成、形成方法を変更してもよい。例えば、正孔注入層と発光層との間に正孔輸送層があってもよいし、電子注入層と発光層との間に電子輸送層があってもよい。また、隔壁で分離された各発光領域を覆うように、透明ガラスの下面に、赤、緑および青の色調整を行うカラーフィルタを備える構成であってもよい。上述したフェムト秒レーザーは、カラーフィルタを透過することができるため、当該カラーフィルタを介して短絡を解消することができる。
【0124】
また、レーザーの照射位置は、上述した実施の形態に限定されず、異物や短絡箇所を含む所定の範囲に設定されてもよいし、異物や短絡箇所のみに設定されてもよい。また、異物や短絡箇所の周囲を囲むように設定されてもよい。また、レーザーの照射は、陰極に限らず陽極に対して行われてもよい。
【0125】
また、本発明は、例えば、
図10に示すような、有機EL素子を備えた薄型フラットテレビシステムの製造に好適である。