特許第5654078号(P5654078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5654078新規2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5654078
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】新規2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/26 20060101AFI20141218BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20141218BHJP
【FI】
   C12P7/26ZNA
   !C12N15/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-80207(P2013-80207)
(22)【出願日】2013年4月8日
(62)【分割の表示】特願2011-505898(P2011-505898)の分割
【原出願日】2010年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-135697(P2013-135697A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2013年4月8日
(31)【優先権主張番号】特願2009-75802(P2009-75802)
(32)【優先日】2009年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-75803(P2009-75803)
(32)【優先日】2009年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-75804(P2009-75804)
(32)【優先日】2009年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-75805(P2009-75805)
(32)【優先日】2009年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-75806(P2009-75806)
(32)【優先日】2009年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-78713(P2009-78713)
(32)【優先日】2009年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小西 一誠
(72)【発明者】
【氏名】今津 晋一
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/109479(WO,A1)
【文献】 J. Antibiot.,1999年,Vol.52,No.6,pp.559-571
【文献】 J. Antibiot.,2006年,Vol.59, No.6,pp.358-361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 9/00
C12P 7/26
CA/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化コバルト6水和物換算で0.1〜50mg/Lの範囲で、コバルトイオンを含有する培地において2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を発現可能な微生物を培養することを特徴とする、グルコース−6−リン酸から2−デオキシ−シロ−イノソースを製造する製造方法であって、2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、下記の何れかのアミノ酸配列を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素である、上記の方法
(a)配列番号2、4、6又は8の何れかに記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有し、かつ安定温度範囲が20℃以上50℃以下である高温安定性及び/又は安定pH範囲が6.0〜8.0である広範囲pH安定性を有するアミノ酸配列;
【請求項2】
グルコースを構成成分とする多糖類あるいはグルコースを含有する原料を用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素、2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素遺伝子、組み換えベクター、形質転換体、及び2−デオキシ−シロ−イノソースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、カテコールなどの芳香族化合物の多くは、石油を原料として生産されているが、石油資源の枯渇問題や二酸化炭素排出量の削減などの観点から、バイオマスを利用した環境調和型の新規製造プロセスの開発が求められている。
【0003】
一方、2−デオキシ−シロ−イノソース(以下、DOI)が、産業上有用とされる芳香族化合物(カテコール等)へと変換できることが見出され(非特許文献1)、さらには、このDOIを、バイオマスの構成要素の一つであるグルコースから合成できることが報告された(非特許文献1)。本DOI製造プロセスで重要となるのがグルコース−6−リン酸からDOIへと変換する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素(以下、DOI合成酵素)であり、DOIは上記芳香族化合物への変換のみならず各種有用化合物の中間体ともなり得ることから、DOI合成酵素は非常に大きな注目を浴びている。
【0004】
DOI合成酵素はブチロシン生産菌であるBacillus circulans に属する微生物から1997年に単離精製(非特許文献2)され、続いて、その遺伝子配列も公開されている(特許文献1)。この他にもStreptoalloteichus hindustanus JCM3268株(非特許文献3)由来のDOI合成酵素などがこれまでに発見されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−236881号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters 41,1935−1938,2000
【非特許文献2】The Journal of Antibiotics 50(5), 424−428, 1997
【非特許文献3】The Journal of Antibiotics 59(6), 358−361, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記DOI合成酵素の安定性と比活性などの各種特性は、満足のいくものではなく、また、数千トン規模の工業化製法に向けた酵素の解析や機能向上に関する研究はほとんどなされてこなかった。例えば、Bacillus circulans に属する微生物に由来するDOI合成酵素(BtrC)は、安定性等に大きな問題があり、Streptoalloteichus hindustanus JCM3268株由来のDOI合成酵素の比活性は著しく低く、工業的な利用は困難であった。本発明が解決しようとする課題は、従来の酵素に比べて、熱やpHに対する安定性などの特性が優れるDOI合成酵素の提供、及び、該酵素を用いたDOI製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、本発明者らは、従来の酵素に比べて熱及び/又はpH安定性が向上したDOI合成酵素を発見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に示すDOI合成酵素、DOI合成酵素遺伝子、組み換えベクター、形質転換体、及びDOI製造方法に関するものである。
[1] 下記(1)、(2)、(4)、(6)及び(7)の特性を有し、かつ下記(3)及び/又は(5)の特性を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素。
(1)作用:本酵素は、グルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースへと変換する機能を有する。
(2)至適pH範囲:7.0〜 7.7
(3)安定pH範囲:6.0〜 8.0
(4)至適温度範囲:55 〜 70℃
(5)安定温度範囲:20〜46℃
(6)補酵素:NAD+を利用
(7)分子量:39000〜42000
【0010】
[2] 下記(8)の特性を有する、[1]に記載の2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素。
(8)比活性:1.0μmol/min/mg以上(反応温度65℃)
【0011】
[3] 下記(9)の特性を有する、[1]又は[2]に記載の2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素。
(9)補因子:Co2+イオンの添加により活性向上
【0012】
[4] 安定温度範囲が、20〜60℃である、[1]から[3]の何れか1項に記載の2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素。
【0013】
[5] 下記の何れかのアミノ酸配列を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素。
(a)配列番号2、4、6、8、10又は12の何れかに記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号2、4、6、8、10又は12の何れかに記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有し、かつ高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を有するアミノ酸配列;又は
(c)配列番号2、4、6、8、10又は12の何れかに記載のアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸の欠失、付加、及び/又は置換を含み、かつ高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を有するアミノ酸配列
【0014】
[6] 下記の何れかのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素遺伝子。
(a)配列番号2、4、6、8、10又は12の何れかに記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号2、4、6、8、10又は12の何れかに記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有し、かつ高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を有するアミノ酸配列;又は
(c)配列番号2、4、6、8、10又は12の何れかに記載のアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸の欠失、付加、及び/又は置換を含み、かつ高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を有するアミノ酸配列
【0015】
[7] 下記の何れかの塩基配列を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素遺伝子。
(a)配列番号1、3、5、7、9又は11の何れかに記載の塩基配列;
(b)配列番号1、3、5、7、9又は11の何れかに記載の塩基配列に対して80%以上の相同性を有し、かつ高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素をコードする塩基配列;又は
(c)配列番号1、3、5、7、9又は11の何れかに記載の塩基配列に対して1個又は複数個の塩基の欠失、付加、及び/又は置換を含み、かつ高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素をコードする塩基配列:
【0016】
[8] [6]又は[7]に記載の2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素遺伝子を含む、組み換えベクター。
【0017】
[9] [6]又は[7]に記載の2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素遺伝子又は[8]に記載の組み換えベクターを宿主に導入することにより得られる形質転換体。
【0018】
[10] [9]に記載の形質転換体を培養することにより得られる2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素。
【0019】
[11] [1]から[5]又は[10]の何れか1項に記載の2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を用いることを特徴とする、2−デオキシ−シロ−イノソースの製造方法。
【0020】
[12] [6]又は[7]に記載の2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素遺伝子、又は[9]に記載の形質転換体を利用することを特徴とする、グルコース、グルコースを構成成分とする多糖類及び/又はグルコース−6−リン酸を原料とした2−デオキシ−シロ−イノソースの製造方法。
【0021】
[13] コバルトイオンを含有する培地において2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素を発現可能な微生物を培養することを特徴とする、グルコース−6−リン酸から2−デオキシ−シロ−イノソースを製造する製造方法。
【0022】
[14] グルコースを構成成分とする多糖類あるいはグルコースを含有する原料を用いることを特徴とする、[13]に記載の方法。
【0023】
[15] 2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素が、[1]から[5]の何れかに記載の2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素である、[13]又は[14]に記載の方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のDOI合成酵素を用いると、DOIの製造において、高温条件での酵素利用が可能となる。さらに、製造条件によっては、製造時の厳密な温度管理などが不要となる。また、DOIが安定なpH領域である酸性条件下でのDOI製造が可能となる。さらに、製造条件によっては、製造時の厳密なpH管理などが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の至適pH範囲を示す(実施例3)。
図2図2は、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の安定pH範囲を示す(実施例3)。
図3図3は、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の至適温度範囲を示す(実施例3)。
図4図4は、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の安定温度範囲を示す(実施例3)。
図5図5は、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の安定温度範囲を示す(実施例3)。
図6図6は、精製既知DOI合成酵素(BtrC)の安定温度範囲を示す(比較例1)。
図7図7は、精製既知DOI合成酵素(BtrC)の安定pH範囲を示す(比較例1)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について具体的に説明する。
[DOI合成酵素]
本発明を実施するための形態(以下、本実施の形態という)のDOI合成酵素は、下記の特性を有し、
(1)作用:本酵素は、グルコース−6−リン酸をDOIへと変換する機能を有する。
(2)安定性:高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を示す。
【0027】
好ましくは、本発明におけるDOI合成酵素は、下記(1)、(2)、(4)、(6)及び(7)の特性を有し、かつ下記(3)及び/又は(5)の特性を有する。
(1)作用:本酵素は、グルコース−6−リン酸を2−デオキシ−シロ−イノソースへと変換する機能を有する。
(2)至適pH範囲:7.0〜 7.7
(3)安定pH範囲:6.0〜 8.0
(4)至適温度範囲:55 〜 70 ℃
(5)安定温度範囲:20〜46℃(好ましくは、20〜60℃)
(6)補酵素:NAD+を利用
(7)分子量:39000〜42000
【0028】
さらに好ましくは、本発明におけるDOI合成酵素は、上記の特性に加えて、下記(8)及び/又は(9)の特性を有する。
(8)比活性:1.0μmol/min/mg以上(反応温度65℃)
(9)補因子:Co2+イオンの添加により活性向上
【0029】
本発明のDOI合成酵素のアミノ酸配列の具体例を、配列番号2、4、6、8、10、及び12に示す。配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列を有するDOI合成酵素は、高温安定性及び/又は広範囲pH安定性の特性を有していることが好ましい。配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列を有するDOI合成酵素は、本実施の形態において優れた高温安定性及び/又は広範囲pH安定性の特性を有することが好ましい。
【0030】
本実施の形態においてDOI合成酵素は、配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸配列と好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性を有するたんぱく質でもよい。
【0031】
また、本実施の形態においてDOI合成酵素は、配列番号2、4、6、8、10又は12に記載のアミノ酸配列からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸に欠失、置換及び/又は付加を含んでも良い。欠失、置換及び/又は付加されるアミノ酸の数は好ましくは1〜50個、さらに好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個である。
【0032】
配列番号2、4、6、8、10、12に記載のアミノ酸配列からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、優れた高温安定性及び/又は広範囲pH安定性の特性を有し、かつDOI合成酵素活性を有する酵素は、本発明に含まれる。
【0033】
配列番号2、4、6、8、10、12に記載のアミノ酸配列からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸に欠失、置換及び/又は付加を含むアミノ酸配列を有し、優れた高温安定性及び/又は広範囲pH安定性の特性を有し、かつDOI合成酵素活性を有する酵素は、本発明に含まれる。
【0034】
DOI合成酵素中のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異を生じさせる方法としては、PCR法、エラープローンPCR法、DNAシャッフリング法やキメラ酵素を作製する手法等の公知の方法が利用できる。
【0035】
DOI合成酵素中のアミノ酸配列の相同性は、例えば、UWGCG Packageが供給するBESTFITプログラム(Devereux et al(1984)Nucleic Acids Research 12, p387−395)や、PILEUPやBLASTアルゴリズム(Altschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290−300; Altschul S.F.(1990)J Mol Biol 215:403−10)などの配列分析用ツールを用いて算出し得る。
【0036】
また、上記の手法により得られたDOI合成酵素を、熱処理後に活性測定を行うことにより、高温安定性を保持する酵素を選別することが可能である。
【0037】
[DOI合成酵素遺伝子]
本実施の形態のDOI合成酵素遺伝子は、メタゲノムや微生物から単離・抽出した天然のものでも良く、また、その塩基配列に従ってPCR法、人工合成法等の公知の方法によって合成したものでも良い。また、新規DOI酵素キメラ遺伝子の作製には、既知DOI合成酵素遺伝子を組み合わせてもよく、例えば、Paenibacillus sp.NBRC13157株、Streptoalloteichus hindustanus JCM3268、Streptomyces fradiae NBRC12773株などに由来するDOI合成酵素遺伝子が挙げられる。
【0038】
本実施の形態におけるDOI合成酵素遺伝子の塩基配列の具体例を、配列番号1、3、5、7、9又はは11に示す。
【0039】
配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの遺伝子配列を有するDOI合成酵素遺伝子を含む組み換えベクターと宿主から形質転換体を得、得られた形質転換体を培養してDOI合成酵素を得ることができる。
【0040】
配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列を有するDOI合成酵素遺伝子から得られるDOI合成酵素は、高温安定性及び/又は広範囲pH安定性の特性を有していることが好ましい。
【0041】
本実施の形態においてDOI合成酵素遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列を有するDOI合成酵素遺伝子と好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性を有する塩基配列を有していてもよい。配列番号1、3、5、7、9又は11に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列を有し、優れた高温安定性及び/又は広範囲pH安定性の特性を有し、かつDOI合成酵素活性を有する酵素をコードするDOI合成酵素遺伝子は、本発明に含まれる。
【0042】
本実施の形態においてDOI合成酵素遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9又は11の何れかに記載の塩基配列に対して1個又は複数個の塩基の欠失、付加、及び/又は置換を含んでもよい。配列番号1、3、5、7、9又は11の何れかに記載の塩基配列に対して1個又は複数個の塩基の欠失、付加、及び/又は置換を含み、かつ高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を有するDOI合成酵素をコードする塩基配列を有するDOI合成酵素遺伝子は本発明に含まれる。欠失、付加及び/又は置換される塩基の数は好ましくは1〜50個、さらに好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個である。
【0043】
本実施の形態においては、下記(a)、(b)又は(c)の何れかのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDOI合成酵素遺伝子を用いてもよい。
(a)配列番号2、4、6、8、10又は12の何れかに記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号2、4、6、8、10又は12の何れかに記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有し、かつ高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を有するアミノ酸配列;又は
(c)配列番号2、4、6、8、10又は12の何れかに記載のアミノ酸配列に対して1個又は複数個のアミノ酸の欠失、付加、及び/又は置換を含み、かつ高温安定性及び/又は広範囲pH安定性を有するアミノ酸配列
【0044】
[組換えベクター及び形質転換体]
本実施の形態の組換えベクターは、プラスミド等の公知のベクターに本実施の形態の遺伝子を連結(挿入)して得ることができる。前記ベクターは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。
【0045】
前記プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば pBR322, pBR325, pUC18, pUC119, pTrcHis, pBlueBacHis 等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば pUB110, pTP5 等)、酵母由来のプラスミド(例えば YEp13, YEp24, YCp50, pYE52 等)などが、ファージ DNAとしてはλファージ等が挙げられる。
【0046】
前記ベクターへの本実施の形態の遺伝子の挿入は、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、ベクターDNAの適当な制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法が採用される。
【0047】
宿主内で外来遺伝子を発現させるためには、構造遺伝子の前に、適当なプロモーターを配置させる必要がある。前記プロモーターは特に限定されず、宿主内で機能することが知られている任意のものを用いることができる。なおプロモーターについては、後述する形質転換体において、宿主ごとに詳述する。また、必要であればエンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、ターミネーター配列等を配置させてもよい。
【0048】
本実施の形態の形質転換体は、本実施の形態の組換えベクターを、目的遺伝子が発現しうるように宿主中に導入することによって得ることができる。ここで宿主としては、本実施の形態のDNAを発現できるものであれば特に限定されず、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロテイ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌、またサッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、その他COS細胞、CHO細胞等の動物細胞、あるいはSf19、Sf21等の昆虫細胞を挙げることができる。
【0049】
また、本実施の形態の形質転換体として利用する宿主は、グルコース−6−リン酸をグルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロースなどの単糖類から合成する機能を有するものが好ましい。また、必要に応じて、二つ以上の単糖が連結した多糖類を分解する機能を有することも好ましい。
【0050】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、DOI合成酵素を効率的に発現させるという観点から、本実施の形態の組換えベクターが各細菌中で自律複製可能であるとともにプロモーター、リボゾーム結合配列、本実施の形態の遺伝子、転写終結配列により構成されていることが望ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていても良い。大腸菌としてはエッシェリヒア・コリ(E. coli)K12、DH1、DH10B(Invitrogen社)、BL21-CodonPlus(DE3)-RIL(ストラタジーン社)、TOP10F等が挙げられ、枯草菌としてはバチルス・ズブチリス(B. subtilis)MI114、207-21 等が挙げられる。
【0051】
プロモーターとしては大腸菌等の宿主で機能するものであれば特に限定されず、例えばgapAプロモーター、gadAプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の大腸菌由来のプロモーターや、T7プロモーター等のファージ由来のプロモーターを用いることができる。
【0052】
細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入できる方法であれば特に限定されないが、例えばカルシウムイオンを用いる方法(Cohen, SN et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69 : 2110 (1972))、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0053】
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セルビシエ(S. cerevisiae)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)等が用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母で発現しうるもの、例えばgal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα 1プロモーター、PHO5プロモーター、AOXプロモーター等を挙げることができる。
【0054】
酵母への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al. : Methods. Enzymol., 194 : 180 (1990))、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al. : Proc Natl. Acad. Sci. USA, 75 : 1929 (1978))、酢酸リチウム法(Itoh, H. : J. Bacteriol., 153 : 163 (1983))等を挙げることができる。
【0055】
[DOI合成酵素の生産]
本実施の形態の酵素は、本実施の形態の形質転換体を適当な培地で培養し、その培養物から該酵素活性を有するタンパク質を採取することによって得ることができる。本実施の形態の形質転換体を培養する方法は、宿主に応じて決定すればよい。例えば、大腸菌や酵母等の微生物を宿主とする形質転換体の場合は、微生物が資化しうる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体を効率的に培養しうる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いても良い。
【0056】
培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加しても良い。プロモーターとして誘導性のものを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加しても良い。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、インドールアクリル酸(IAA)等を培地に添加しても良い。
【0057】
培養後、本実施の形態の酵素タンパク質が菌体内または細胞内に生産される場合は、細胞を破砕する。一方、本実施の形態のタンパク質が菌体外または細胞外に分泌される場合は、培養液をそのまま用いるか、遠心分離等によって回収する。
【0058】
タンパク質の単離・精製には、例えば硫安沈澱、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独であるいは適宜組み合わせて用いればよい。
【0059】
また、活性とはグルコース−6−リン酸をDOIへと変換することを示す。活性値の測定方法は以下に示すとおりである。
本実施の形態のDOI合成酵素活性は、基質となり得る適当なグルコース−6−リン酸を含む反応液に該酵素を添加し、生成するDOIを検出する方法によって確認することができる。生成するDOIの確認は、非特許文献(Journal of Biotechnology 129, 502-509 (2007))に記載の方法などを用いることができる。
【0060】
DOI合成酵素活性を測定する方法としては、1000mMグルコース−6−リン酸溶液20μL、100mMNAD+溶液50μL、100mM塩化コバルト六水和物溶液50μLを含むpH7.0の150mMBis−Tris緩衝液900μLに適当な濃度のDOI合成酵素液100μLを混合し、5〜60分間程度反応させた後、酵素を失活させ、DOIを定量する方法を使用する。
【0061】
精製されたDOI合成酵素の精製度の確認や分子量の測定は、電気泳動やゲル濾過クロマトグラフィー等によって行うことができる。また、酵素の至適温度範囲あるいは至適pH範囲は、反応温度あるいは反応pHを変化させて酵素活性を測定すればよい。さらにDOI合成酵素を種々のpH条件下又は温度条件下に一定時間さらした後に酵素活性を測定することにより、安定pH範囲及び安定温度範囲を調べることができる。例えば、各pH条件におけるDOI合成酵素の評価には、Bis−Tris緩衝液(pH5.5〜8.0)およびTris緩衝液(pH7.4〜8.0)を用いることができる。
【0062】
至適pH範囲とは、pHを変化させて測定した際に最も高活性を示した活性値を100とし、活性値が70以上であるpH範囲である。
【0063】
安定pH範囲とはpHを変化させて測定した際に最も高活性を示した活性値を100とし、活性値が70以上のpH範囲である。
【0064】
至適温度範囲とは、温度を変化させて測定した際に最も高活性を示した活性値を100とし、活性値が50以上である温度範囲である。
【0065】
安定温度範囲は温度を変化させて測定した際に最も高活性を示した活性値を100とし、活性値が50以上の温度範囲である。
【0066】
本実施の形態におけるDOI合成酵素の高温安定性とは、安定温度範囲の上限が46℃、より好ましくは50℃、さらに好ましくは60℃、さらに好ましくは70℃、さらに好ましくは80℃、さらに好ましくは90℃、特に好ましくは95℃であることである。下限は特に限定しないが、通常の操作から安定な温度範囲の下限は例えば20℃、好ましくは10℃、好ましくは5℃、更に好ましくは1℃であればよい。
【0067】
本実施の形態の高温安定性を有する2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素としては、例えば、50℃で1時間インキュベートした後の残存酵素活性が50以上である酵素を選抜することができる。残存酵素活性とは、最も高活性を示した活性値を100とする相対活性を示す。
【0068】
通常、工業的な酵素反応においては、酵素が高活性を有する温度範囲内に制御する必要があるため、温度の制御が非常に重要な因子である。
DOI合成において、従来菌の活性の観点から37℃以下に温度制御する厳密な温度管理が必要であった。高温安定性を持つDOI合成酵素を用いると、高温の範囲においても高活性を保つことが可能であるため、厳密な温度管理を行うことなく、DOIの製造が可能である。
【0069】
本実施の形態における広範囲pH安定性を持つDOI合成酵素は、安定pH範囲が好ましくはpH6.0〜7.0、より好ましくはpH6.0〜7.4、より好ましくはpH6.0〜7.7、より好ましくはpH6.0〜8.0、特により好ましくはpH4.0〜9.0である特性を有する。
【0070】
DOI合成において、従来、菌の高活性の観点からpHをpH6.0〜7.0に制御する厳密なpH管理が必要であった。広範囲pH安定性を持つDOI合成酵素を用いると、広範囲のpH範囲においても高活性を保つことが可能であるため、厳密なpH管理を行うことなく、DOIの製造が可能である。
【0071】
本実施の形態の酵素は作用を阻害されないかぎり、純度が高いことを要しない。そのため、精製は必須ではなく、その他の酵素等を含んでも良い。
【0072】
[DOIの生産]
本実施の形態のDOIは、本実施の形態の形質転換体を培養して得られる培養物からDOIを採取する発酵生産法により得ることができる。
【0073】
前記培養の栄養源としては、炭素源、窒素源、無機塩類、その他有機栄養源を含む培地を使用することができる。培養温度はその菌の生育可能な温度であれば良い。培養時間には特に制限はないが、1日から7日程度でよい。その後、得られた培養菌体又は培養上清液からDOIを回収すればよい。
【0074】
培養に用いる炭素源としては、形質転換体が資化できるものであればグルコースを構成成分とする多糖類を直接用いてもよく、より好ましくは、単糖類もしくはでんぷんや米ぬかや廃糖蜜などの多糖類を含む原料に由来する単糖類が挙げられ、具体的にはD−グルコースなどが挙げられる。また、プロモーターの発現が誘導型である場合には、適時誘導物質を添加すればよい。
【0075】
炭素源としては、D−グルコース、ガラクトース、マルトース、サッカロース、トレハロース等の糖類や油脂類や脂肪酸類さらにはn−パラフィン等を用いることができる。油脂としては、例えば、ナタネ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などがあげられる。脂肪酸としてはヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸などの飽和・不飽和脂肪酸、あるいはこれら脂肪酸のエステルや塩など脂肪酸誘導体などがあげられる。
【0076】
有機栄養源としては、アミノ酸類、例えば、アデニン、ヒスチジン、ロイシン、ウラシル、トリプトファンなどが挙げられる。
【0077】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどのアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキスなどが挙げられる。無機塩類としては、例えば、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
【0078】
本発明においては、コバルトイオンを含有する培地においてDOI合成酵素を発現可能な微生物を培養することによって、グルコース−6−リン酸からDOIを製造することができる。
【0079】
本実施の形態におけるDOI生産法では、コバルトイオンは二価のコバルトイオンの塩として用いることが好ましい。具体的には、塩化コバルト、硫酸コバルト、酢酸コバルトなどが挙げられる。
【0080】
培養液中にコバルトイオンを添加すると、DOI生産性は、コバルトイオンを添加しない培養に比べて向上する。コバルトイオンが過剰に培養液に添加された場合、微生物の生育阻害を引き起こすことがある。従って、培養中のコバルト濃度は該酵素が活性を有するに十分であり、かつ微生物に生育阻害を及ぼさない範囲がよい。宿主によるが、例えば大腸菌を用いた場合、培養開始直後のコバルト濃度は、好ましくは塩化コバルト6水和物換算で0.1〜200mg/L、より好ましくは0.1〜100mg/L、さらにより好ましくは0.1〜50mg/Lの範囲内に維持することが好ましい。培養開始直後とは、本培養開始から菌液ODが5に到達するまでの範囲を示す。菌液ODとは培養液の光学密度を言い、本実施の形態においては、600nmの光に対する培養液の吸収強度を示す。
【0081】
高密度培養を適用した場合、培養液中の菌体濃度の上昇に伴い、微生物菌体中のタンパク質や核酸、脂質、ビタミン等の構成成分の原料であり、かつ、微生物の生育に必要なエネルギー源となるグルコース等の炭素源が不足する。こういった場合、炭素源を連続的に、あるいは断続的に培養液に供給する。本実施の形態では、さらに、コバルトイオンを添加し、該酵素の活性発現に必要なコバルトイオンを連続的に、あるいは断続的に適量供給することが好ましい。
【0082】
本実施の形態のDOI生産法においては、添加コバルト値を0.0003〜70に制御することが好ましく、より好ましくは0.001〜15、さらに好ましくは0.01〜5である。添加コバルト値は、以下の式により算出した。
添加コバルト値=[培養液中への塩化コバルト6水和物総添加量(mg)]/培養液量(L)/菌液OD
塩化コバルト6水和物以外のコバルト塩を用いた場合は、塩化コバルト6水和物換算で添加コバルト値を算出し、コバルトイオンの量が適切な値となるようにコバルト塩を添加してもよい。
【0083】
DOIを培養液から回収する方法としては,次のような方法が挙げられる。
【0084】
培養終了後、培養液から遠心分離器や濾過装置などで菌体を除き、培養上清液を得る。この培養上清液に対してさらに濾過処理を行い、菌体等の固形物を除き、その濾液にイオン交換樹脂を添加し、蒸留水で溶出を行う。ICP発光分析、pHなどを測定しながら不純物を含まないフラクションを分取して、その水溶液の溶媒を取り除くことでDOIを回収することができる。
得られたDOIの分析は、例えば、高速液体クロマトグラフィーや核磁気共鳴法などにより行う。
【0085】
また、前記発酵生産法以外の方法としては、グルコキナーゼなどによりグルコースから変換されるグルコース−6−リン酸を利用する方法が挙げられ、本実施の形態のDOI合成酵素あるいは形質転換体によりグルコース−6−リン酸からDOIを得ることができる。
【0086】
本実施の形態のDOI合成酵素及び/又は形質転換体を用いてDOIを製造する際の反応温度は、反応速度や酵素の安定性の点から、好ましくは10〜95℃、より好ましくは20〜70℃であり、さらに好ましくは30〜60℃である。
反応pHは広範囲で調整可能であり、酵素の安定性の点から、好ましくはpH2.0〜10.0、より好ましくはpH4.0〜8.0、さらに好ましくは6.0〜8.0である。
【0087】
反応時間は酵素の使用量によっても異なるが、工業的利用を考慮した際、好ましくは通常20分〜200時間、より好ましくは、6〜80時間である。形質転換体をDOI合成触媒として利用する際には、事前に、凍結処理や各種破砕処理を行っても良い。
しかしながら、本実施の形態は以上の反応条件や反応形態に限定されるものではなく、適宜選択することができる。
【0088】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0089】
[実施例1]
(1)染色体DNAの調製
常法に従ってPaenibacillus sp.NBRC13157株の染色体DNAを調製した。
Paenibacillus sp.NBRC13157株をNR寒天プレート(1% Bacto Tryptone、0.2% Yeast Extract、1% エルリッヒカツオエキス、1.5% Bacto Agar、pH7.0)で、30℃、1日間培養してコロニーを形成させた。その1白金耳を、NR培地(1% Bacto Tryptone、0.2% Yeast Extract、1% エルリッヒカツオエキス、pH7.0)30mLを150mL三角フラスコに分注したものに接種して、30℃、180rpmで1日間培養した。この培養液を、4℃で、12,000g、1分間遠心分離して上清を除去し、菌体を回収した。
【0090】
得られた菌体をLysisバッファー(50mM Tris−HCl(pH 8.0)、20mM EDTA、50mM グルコース)に懸濁し、よく洗浄した。遠心分離して菌体を回収した後、Lysisバッファーに再懸濁し、これにリゾチームを加え37℃で45分間インキュベートした。次いでSDSとRNaseを添加し、37℃で45分間インキュベートした。その後Proteinase Kを添加し、50℃で60分間穏やかに振盪した。ここで得られた溶液をフェノール−クロロホルム、クロロホルムで処理後、エタノール沈殿し、析出した核酸をガラスピペットに巻きつけて回収した。この核酸を70%エタノールで洗浄後、乾燥し、TEに再溶解した。この操作により、約100μgの染色体DNAを調製した。
【0091】
(2)DOI合成酵素遺伝子の単離
上記(1)において調製した染色体DNAからDOI合成酵素遺伝子を増幅するためのPCRプライマーとして、センスプライマーは配列番号15の配列を有するオリゴDNAを、アンチセンスプライマーは配列番号16の配列を有するオリゴDNAをそれぞれ合成した。
ここで得られたPCRプライマーを用い、上記(1)において調製した染色体DNAを鋳型としてPCR法によるDOI合成酵素遺伝子の増幅を行い、1107塩基対からなるPCR産物を取得した。
ここで得られたPCR産物の遺伝子配列をDNAシークエンサーで解析することで確認し、配列番号13の塩基配列を有する既知DOI合成酵素(BtrC)遺伝子を得た。本遺伝子に対応するアミノ酸配列を配列番号14(BtrC)に示した。
【0092】
(3)DOI合成酵素遺伝子の発現プラスミドベクターの構築及び形質転換
上記(2)で取得したPCR産物の平滑末端化、リン酸化を行い、pUC19に大腸菌由来のgapAプロモーター、SD配列、ターミネーターを連結したプラスミドにライゲーションした。このプラスミドベクターには大腸菌中で外来遺伝子として連結された遺伝子を効率的に転写できるgapAプロモーターが導入されており、グルコースを含む培地で組換え微生物を培養した場合においてもDOI合成酵素遺伝子を効率的に発現・製造させることができる。
ここで得られたプラスミドベクターを、塩化カルシウム法で調製した大腸菌JM109株のコンピテントセルにヒートショック法で形質転換し、組換え微生物を作製した。
【0093】
(4)新規DOI合成酵素遺伝子の取得
上記(3)で取得したプラスミドベクターに対し、常法による変異導入を行うことで、配列番号1(DOIS−1)、配列番号3(DOIS−2)、配列番号5(DOIS−3)、配列番号7(DOIS−4)、配列番号9(DOIS−5)および配列番号11(DOIS−6)に記載の塩基配列を有する耐熱性DOI合成酵素遺伝子を得ることができる。ここで取得したDOI合成酵素遺伝子についても(3)と同様に形質転換体の取得を行った。また、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9および配列番号11の塩基配列に対応するアミノ酸配列を、配列番号2(DOIS−1)、配列番号4(DOIS−2)、配列番号6(DOIS−3)、配列番号8(DOIS−4)、配列番号10(DOIS−5)および配列番号12(DOIS−6)に示した。
【0094】
新規DOI合成酵素の選抜は、常法により作成した様々なDOI合成酵素を熱処理あるいは各種pH処理後に活性測定を行うなどして実施可能である。
【0095】
[実施例2]
[精製酵素の取得]
実施例1で作製したDOI合成酵素(DOIS−1)の形質転換体を100mg/Lのアンピシリンを含むLBプレートで、37℃、一日間培養して、コロニーを形成させた。
次いで100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地30mLを150mL容の三角フラスコに入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、3〜8時間、OD(600nm)が0.5程度になるまで180rpmで回転振盪培養を行い、これを本培養の前培養液とした。
【0096】
500mL容の三角フラスコ36本に、2g/Lのグルコースと100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地を100mLずつ入れ、それぞれの三角フラスコに0.5mLの前培養液を添加し、37℃で、16時間、180rpmで回転振盪培養を行った。
次いでこの培養液を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して上清を除去し、0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で数回洗浄しながら菌体を回収した。回収した菌体は、−80℃で凍結保存した。
【0097】
この凍結保存菌体を0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で懸濁し、リゾチーム(Sigma社製 卵白由来)を180mgとデオキシリボヌクレアーゼI(WaKo社製 ウシ由来 組換え体溶液)を60μL添加して、37℃で、5時間、120rpmで振盪し、菌体破砕を行った。
菌体破砕後の溶液を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して菌体残渣を除去し、上清を回収した。
【0098】
この上清に硫酸アンモニウムを加えて30%飽和とし、4℃でしばらく攪拌した後に、生じた沈殿を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して除去し、上清を回収した。
この上清にさらに硫酸アンモニウムを加えて40.0%飽和とし、4℃でしばらく攪拌した後に、生じた沈殿を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して上清を除去し、沈殿を回収した。次いでこの沈殿を0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)に溶解させた。
【0099】
この溶解液を4℃で、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)を加え、再度、濃縮するという脱塩操作を2〜3回繰り返した。
上記で得られた酵素溶液を、50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で平衡化した「DEAE Sepharose FF」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に吸着させた後、0〜0.4Mの塩化ナトリウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)の濃度勾配法によって酵素を溶出させた。
【0100】
上記で溶出した酵素のDOI合成酵素の活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、10重量%の硫酸アンモニウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で懸濁し、10重量%の硫酸アンモニウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で平衡化した「HiTrap Phenyl FF (high sub)」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に吸着させた後、10〜0重量%の硫酸アンモニウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)の濃度勾配法によって酵素を溶出させた。
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で平衡化した「MonoQ 5/50 GL」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に吸着させた後、0〜0.2Mの塩化ナトリウムを含有する50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)の濃度勾配法によって酵素を溶出させた。
【0101】
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、0.2mg/L塩化コバルト六水和物と0.1MNaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で平衡化した「HiLoad 16/60 Superdex 200」(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に充填した後、同様の緩衝液で溶出を行った。
上記で溶出した活性画分を集め、平均分画分子量10,000の限外濾過膜を用いて濃縮し、精製DOI合成酵素(DOIS−1)を得た。
【0102】
上記、一連の精製酵素取得実験と同様にして、精製DOI合成酵素(DOIS−2)、精製DOI合成酵素(DOIS−3)、精製DOI合成酵素(DOIS−4)、精製DOI合成酵素(DOIS−5)、精製DOI合成酵素(DOIS−6)および精製既知DOI合成酵素(BtrC)を取得した。
【0103】
[実施例3]
[新規DOI合成酵素の評価]
実施例2で得られた精製DOI合成酵素を用いて、その作用に関する実験を行った。
【0104】
(1)至適pH範囲
各pHにおける活性測定では、反応液に精製DOI合成酵素(DOIS−1)を適量添加し、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mM、各種緩衝液が100mMとなるようにして反応液を調整した。緩衝液としては、Bis−Tris緩衝液(pH6.0〜7.7)およびTris緩衝液(pH7.4〜8.0) を使用した。反応温度は30℃とし、生成するDOIを定量することで活性を測定した。最も高活性を示した活性値を100とした相対活性を求め、この結果を図1に示す。本発明酵素における至適pH範囲は、pH7.0〜 7.7であった。
【0105】
(2)安定pH範囲
pH5.5〜8.0の範囲の100mMの緩衝液を用いて、精製DOI合成酵素(DOIS−1)を各pHで30℃、60分間インキュベートし、その残存酵素活性を測定した。インキュベートに用いた緩衝液としては、Bis−Tris緩衝液(pH5.5〜8.0)およびTris緩衝液(pH7.4〜8.0)を使用した。
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最も高活性を示した活性値を100とした相対活性を求め、この結果を図2に示した。本酵素の安定pH範囲は、pH6.0〜 8.0であり、精製DOI合成酵素(DOIS−2)および精製DOI合成酵素(DOIS−3)も同様の結果を示した。これらの広範囲pH安定性は、既存酵素にはない新規特性であった。
【0106】
(3)至適温度範囲
反応温度10〜70℃の各反応温度条件において、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の酵素活性測定を実施した。最も高活性を示した活性値を100とした相対活性を求め、この結果を図3に示す。至適温度範囲は55〜70℃であり、反応温度65℃における比活性は1.8μmol(DOI)/min/mg(酵素)と非常に高い値を示した。
【0107】
(4)安定温度範囲
精製DOI合成酵素(DOIS−1)を添加して且つ、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなるように調整した100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)を、温度範囲25〜60℃の各温度で1時間インキュベートした後、それぞれの残存酵素活性を測定した。
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最も高活性を示した活性値を100とした相対活性を求め、この結果を図4に示した。精製DOI合成酵素(DOIS−1)の安定温度範囲は50℃以下であり、精製DOI合成酵素(DOIS−2)および精製DOI合成酵素(DOIS−3)も同様の結果を示した。これらの高温安定性は、既知酵素にはない新規特性であった。
【0108】
また、安定化剤として作用することが知られているNAD+およびコバルトイオン非存在化でインキュベートした安定温度範囲試験を実施したところ、精製DOI合成酵素(DOIS−1)のインキュベート温度46℃における相対活性は38、インキュベート温度42℃における相対活性は89、インキュベート温度37℃における相対活性は100であった。
【0109】
(5)分子量
分離ゲル濃度が10%の「レディーゲルJ」(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量を求めたところ、精製DOI合成酵素(DOIS−1)の分子量は約40,000であり、アミノ酸配列から推定される分子量40,656とほぼ一致した。
【0110】
[実施例4]
[新規DOI合成酵素の評価]
実施例2で得られた精製DOI合成酵素(DOIS−4)を用いて、その作用に関する実験を行った。
【0111】
(温度安定性の評価)
精製DOI合成酵素(DOIS−4)を添加して且つ、塩化コバルト六水和物が5mMとなるように調整した100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)を、25℃および42℃の各温度で1時間インキュベートした後、それぞれの残存酵素活性を測定した。
【0112】
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。25℃でインキュベートした際の残存活性を100とすると、42℃インキュベートの活性値は74という非常に高い値を示した。
【0113】
(比活性の測定)
また、反応温度60℃における比活性は1.2μmol(DOI)/min/mg(酵素)と非常に高い値を示した。
[実施例5]
[新規DOI合成酵素の評価]
実施例2で得られた精製DOI合成酵素(DOIS−5)を用いて、その作用に関する実験を行った。
【0114】
(pH安定性の評価)
pH5.5〜8.0の範囲の100mMの緩衝液を用いて、精製DOI合成酵素(DOIS−5)を各pHで30℃、60分間インキュベートし、その残存酵素活性を測定した。インキュベートに用いた緩衝液としては、Bis−Tris緩衝液(pH5.5〜8.0)およびTris緩衝液(pH7.4〜8.0) を使用した。
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最大活性を100とする相対活性を求め、この結果を図5に示した。図5に示すとおり、本酵素は非常に幅広いpH領域で高い安定性を示した。この高い安定性は、既存酵素にはない新規特性であった。
【0115】
[実施例6]
[新規DOI合成酵素の評価]
実施例2で得られた精製DOI合成酵素(DOIS−6)を用いて、その作用に関する実験を行った。
【0116】
(pH安定性の評価)
pH5.5〜8.0の範囲の100mMの緩衝液を用いて、精製DOI合成酵素(DOIS−6)を各pHで30℃、60分間インキュベートし、その残存酵素活性を測定した。インキュベートに用いた緩衝液としては、Bis−Tris緩衝液(pH5.5〜8.0)を使用した。
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最大活性を示したpH8.0の残存活性を100とすると、pH6.5〜8.0の範囲では活性値は70以上であり、pH6.0の残存活性は53という非常に高い値を示した。この高いpH安定性は、既存酵素にはない新規特性であった。
【0117】
[実施例7]
「DOIの生産方法」
実施例1で作製したDOI合成酵素(DOIS−1)の形質転換体を100mg/Lのアンピシリンを含むLBプレートで、37℃、一日間培養して、コロニーを形成させた。
次いで100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地30mLを150mL容の三角フラスコに入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、3〜8時間、OD(600nm)が0.5程度になるまで180rpmで回転振盪培養を行い、これを本培養の前培養液とした。
【0118】
500mL容の三角フラスコ36本に、2g/Lのグルコースと100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地を100mLずつ入れ、それぞれの三角フラスコに0.5mLの前培養液を添加し、37℃で、16時間、180rpmで回転振盪培養を行った。
次いでこの培養液を、4℃で、10,000g×30分間遠心分離して上清を除去し、0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で数回洗浄しながら菌体を回収した。回収した菌体は、−80℃で凍結保存した。
【0119】
DOIの合成には、DOI合成触媒として、上記の凍結菌体を0.2mg/L塩化コバルト六水和物を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.7)で懸濁した液を使用した。DOI合成反応の反応液組成は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が85mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が0.1mM、塩化コバルト六水和物が1mM、菌体ODが30として、DOIの合成反応を開始した。反応開始時のpHは7.7に調整し、反応温度46℃で2.5時間合成反応を行うことで、1重量%のDOIが生成した。反応終了後は、塩酸を添加し、pHを6以下まで低下させた。次いでこの反応溶液を4℃で、10,000g×30分間遠心分離して上清を回収し、フィルターろ過をして菌体残渣を除去した。
【0120】
上記で合成したDOI溶液は、アンバーライトIR120BNa(オルガノ社製)をH+型に再生した陽イオン交換樹脂およびアンバーライトIRA96SB(オルガノ社製)をOH-型に再生した陰イオン交換樹脂を用いて精製処理を行った。本精製処理においては、カラム処理およびバッチ処理を併用し、ICP発光分析法によりP、Co、Naが未検出で且つDOI溶液を含んだ画分を回収した。
【0121】
次いで、上記で得られたDOI溶液に、溶液中のDOI1gに対して0.5gの活性炭カルボラフィン(日本エンバイロケミカルズ社製)を添加し、1時間室温で攪拌して微量不純物を活性炭に吸着させた。1時間後、ろ過操作により活性炭を除去し、DOI溶液を回収した。本DOI溶液を減圧濃縮することで、DOIを濃縮し、凍結乾燥によりDOIの粉末を得た。
【0122】
[実施例8]
実施例1で作製したDOI合成酵素(DOIS−1)の形質転換体を100mg/Lのアンピシリンを含むLBプレートで、37℃、一日間培養して、コロニーを形成させた。
次いで100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地30mLを150mL容の三角フラスコに入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、3〜8時間、ODが0.5程度になるまで180rpmで回転振盪培養を行い、これを本培養の前培養液とした。
【0123】
表1に示す異なる濃度の塩化コバルト6水和物を含んだ培地A100mLを500mL容の三角フラスコにそれぞれ入れ、さらに0.5mLの前培養液を添加し、37℃で、18時間、180rpmで回転振盪培養を行った。培養18時間後の各培地条件の菌液OD、添加コバルト値およびコバルトイオン無添加培地の上清DOI濃度を100としたときの相対値(DOI生産性)を表2に示した。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
比較例1
[既知DOI合成酵素の評価]
配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する精製既知DOI合成酵素(BtrC)に関して、実施例3−(4)安定温度範囲と同様にして以下実験を行った。
精製既知DOI合成酵素(BtrC)を添加して且つ、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなるように調整した100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)を、温度範囲25〜60℃の各温度で1時間インキュベートした後、それぞれの残存酵素活性を測定した。
【0127】
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最大活性を100とする相対活性を求め、この結果を図6に示した。精製既知DOI合成酵素(BtrC)の安定温度範囲は42℃以下であり、46℃での相対活性は23、50℃での相対活性は0と著しく低い熱安定性を示した。
【0128】
また、安定化剤として作用することが知られているNAD+およびコバルトイオン非存在化でインキュベートした安定温度範囲試験を実施したところ、精製既知DOI合成酵素(BtrC)のインキュベート温度42℃および46℃における相対活性は0、インキュベート温度37℃における相対活性は14であった。本実験からも既存酵素が著しく低い熱安定性を有することが示された。
【0129】
配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する精製既知DOI合成酵素(BtrC)に関して、実施例3−(2)安定pH範囲と同様にして以下実験を行った。
精製既知DOI合成酵素(BtrC)を各pHで30℃、60分間インキュベートし、その残存酵素活性を測定した。インキュベートに用いた緩衝液としては、Bis−Tris緩衝液(pH5.5〜7.0)およびTris緩衝液(pH7.4〜8.0) を使用した。
【0130】
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。最大活性を100とする相対活性を求め、この結果を図5に示した。図7に示すとおり、pH6における相対活性は27と非常に低い値であり、pH5.5ではほぼ完全に失活していた。
【0131】
[比較例2]
[既知DOI合成酵素の評価]
配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する精製既知DOI合成酵素(BtrC)に関して、実施例3と同様にして以下実験を行った。
精製既知DOI合成酵素(BtrC)を添加して且つ、塩化コバルト六水和物が5mMとなるように調整した100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)を、25℃および42℃の各温度で1時間インキュベートした後、それぞれの残存酵素活性を測定した。
【0132】
残存酵素活性測定は、グルコース−6−リン酸二ナトリウム塩(オリエンタル酵母製)が20mM、NAD+(オリエンタル酵母製)が5mM、塩化コバルト六水和物が5mMとなる100mMBis−Tris緩衝液(pH7.0)中で、反応温度30℃で実施した。25℃でインキュベートした際の残存活性を100として、42℃インキュベートの活性値は0となり、著しく低い熱安定性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明により、産業上有用とされる芳香族化合物(カテコール等)の前駆体として利用価値の高いDOIを効率的な製造プロセスで生産することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]